第46話 出来過ぎた話②

 出来過ぎている……そう言われると、確かにその通りだ。

 レディ・ジャックの存在を知ったのは、高徳が話してくれたからだ。あいつが、瑞希がコロされたことを話してくれたから――。


「おかしいとは、思わなかったのか?」


 おかしい?


「おかしいとは、思わなかったのか?」


 おかしい?


「おかしいと――思わなかったのか?」


 オカシイ?


「……ああ、そうだ。そうだよ。おかしいと思わなかったのか? 何故そいつがあたしのことをぺらぺらと喋る必要がある? アンタのことを分かっていたのならば、きっとあたしに会いに行くことなんて分かりきっていたはずだ。でも、それでもそいつはアンタにあたしのことを話した。……まるでそれが確定事実であるかのように。妙だとは思わないか?」

「それは……」

「分かりきっているはずだろう?」


 追い詰めて、何がしたい。レディ・ジャック。

 ぼくを追い詰めて、いったい何がしたいんだ。

 結局の所、ぼくがどう理屈を並べたって結論は変わらないし、これで変わったらぼくは運命を変えることが出来るということで動画サイトに引っ張りだこだと思うのだけれど、それはそれ、これはこれ。ぼくは今、現実を直視して話を進めている。あくまでも運命を変えることが出来るなんてことは、有り得ない。有り得るはずがない。もし出来るのならば――今、実現しているに違いないのだから。


「……レディ・ジャック」

「恨むなら、あたしじゃなくて偽物を恨むんだな。とはいえ、これからどうする?」


 偽物を見つけたら――やることは一つだよ。

 何でだろう。意外と、今は頭がすっきりしている。

 最初はどうやって偽物と対峙して、どうやって殺そうかなどと思っていたけれど――何でかな、やっぱり知り合いだからかな。気を楽にして動けるというのかな、ちょっとは不安なところもあるといえばあるけれど、少なからず緊張もしているのだけれど、とはいえ、それを表に出しちゃいけないところもある。

 だって、相手はずっとぼくの動きを見てほくそ笑んでいたのだろう?

 滑稽だ、と笑っていたのだろう?

 苦虫を噛み潰したような、とはこのことを言うのだろうね。

 或いは、苦々しいとでも言えば良いだろうか?


「……もう、分かっていることなんだろうけれど」

「うん?」

「何でだろうな。少し、安心している自分が居るんだよ」


 全くの他人だったら、どうして瑞希を殺したのかなどと問う時間があったと思う。

 あまりにも余計な時間だ。その時間を費やすぐらいならさっさと殺してしまえば良いのだけれど、しかしそれでは死んでしまった瑞希が浮かばれない。

 だから、せめて理由ぐらいは聞いておきたかった。

 でも、高徳がレディ・ジャックの偽物で、瑞希を殺したというのであれば――。


「……そいつには、彼女を殺す理由があるというのかい?」

「……高徳はね、瑞希のことが好きだったんだよ」


 独占したかった、とでも言えば良いだろうか。

 独占欲の強い人間だったから、ぼくはやんわりとお断りしておくべきだと瑞希にはアドバイスしていたのだけれど……、今考えるとそれは失敗だったらしい。

 ぼくは、そんなアドバイスをしなければ良かったのだろうか?

 いや、きっと高徳が瑞希を殺したのは――。


「……じゃあ、どうする?」


 レディ・ジャックは柔和な笑みを浮かべて、言った。

 天使のようだった。

 やっていることは悪魔そのものだけれど。

 或いは、新しいオモチャを手に入れた子供のような感じか。

 後者だったら、最悪だけれど。


「……最終決戦は近いね」


 ぼくは急ぎ電話を入れる。

 相手は誰か――そんなの分かりきっている。

 数コールの呼び出しの後、寝起きなのか少し低いトーンの高徳の声が聞こえた。


「もしもし。……何だ、お前か。どうした、こんな時間に。もう遅いから明日にしてくれ――」

「――お前が、レディ・ジャックの偽物だな?」


 ぼくは単刀直入、そう言い放った。

 数瞬の沈黙の後、ケタケタと笑い声が聞こえた。

 喜んでいるのだろうか? ――一頻り笑い終えて、高徳は息を落ち着かせて――ゆっくりと、言った。






「……正解」

 

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