第45話 出来過ぎた話①

 見知った人間が殺人鬼の真似事をしているかもしれないっていう事実は、正直大学のサーバをハッキングする段階で薄々気付いていた。しょうがないと言えばしょうがないのだけれど、いざ事実を告げられると少しだけ厳しいところもある。


「……それってほんとうに?」

「何であたしが嘘を吐かなきゃなんねーんだよ。それぐらい分かりきった話だろーが。……ともあれ、あたしとしては別に良いんだぜ。ここであんたに何も言わなくてもな」

「どういうことだ?」


 レディ・ジャックは深々と溜息を吐いた。


「……あのなー、いちいち何でも説明しねーといけねーのかよ? それは流石にどうかと思うぜ。ちょっとばかりは自分の頭で考えて、どうするか決断すりゃ良いじゃねーか。な?」

「まさか殺人鬼に諭されるとは思わなかったけれど……、そこは全面的に同意かな……。確かに優柔不断だって言われることは多いし、否定しないけれど」

「否定しないのに改善するつもりはねーのかよ。お笑い種だな」

「笑ってくれて構わないよ。別に、それで砕けるようなプライドでもない」

「自分を高く見ているのは良いことだが、そうもはっきり言われるとちょっと鼻につくな」


 そうかな?

 別にこれぐらいだったら、誰しも持ち合わせていそうなものだけれど。


「鼻につくよ、ほんとうにね。……ま、別に誰に言われても気にしねーあんたなら、言ったって何も変わりゃしないと思うけれどね」


 はいはい、どうせぼくは優柔不断の分からず屋ですよ。


「そこまでは言ってねーだろ、そこまでは。自分を卑下するのも良いかもしれねーけれどな、ちょっとは考えた方が良いと思うぜ? ほら、やっぱり致し方ないところもあるけれどさ……」

「何か気に障ることでも言ったかな?」

「……そういう考え方だと、あんたに振り回される人間も大変だね。大方、あんたをお世話している人間も居るのかもしれねーが」

「居たよ……今は居ないけれど」


 瑞希のことを過去形で言わなければならないのは、少々どころじゃないぐらい悲しい話ではある。

 この事件を解決したって、ファンタジーが存在する世界でもないのだから、彼女が蘇ることは有り得ない。それはどのような出来事でも言えることだけれど。


「あー……何か地雷踏んじゃった感じか? だとしたら、ちょっとは罪悪感が生まれるかねー……」

「どれぐらい?」

「嘘を吐いた時ぐらい?」


 大して罪悪感がないってことじゃないか。


「まあまあ、別に良いじゃねーか。そこまで間違ったことも言ってねーだろ。それに、これから話すのはほんとうにショックを受けるかもしれねーぜ。慎重に言っているのも理由があるっつーことだよ」


 そんなこと言われてもな。


「……勿体ぶらずに早く教えろ、と言いたそうにしているな。分かった! ならば教えてやろう、ハッキングをした結果、ある人間のメールアドレスがあっさりと浮かび上がってきた。それがこれ」


 ポケットから紙切れ一枚を丁寧に四等分に折り畳んだそれを出してきた時は、ちょっと笑いそうになった。何故インターネットで情報収集していたはずなのに、最終的な報告書はアナログなのか?

 まあ、もしかしたら情報屋のポリシーとかそういうものがあるのかもしれない。……だったら、それもまた致し方なし。

 ぼくは紙を開いて中を見た。書かれている内容は至ってシンプルで、あのアカウントの管理画面を印刷したようだった。

 だったらスマフォの画面とかで良かったじゃないか――などと思っていたが、しかしそんな余裕も一瞬で崩れ去った。

 この大学のメールアドレスは名字と名前のイニシャルをハイフンで繋げたものがアットマークの前に来る。つまりメールアドレスさえ見えてしまえば誰のメールアドレスかも分かってしまうし、逆に名前が特定出来ていれば勝手にメールを送ることも出来てしまう。多分、何処でもあることなんだろうけれど……、そこに書かれていたのは、


「……高徳……」

「前にあんたが話してくれたよな? あたしのことを知った理由は、良き友人が話してくれたからだ……って。そしてその友人から幼馴染が殺されたことを聞いたんだろ? ……冷静に考えると、あまりにも出来過ぎてやしないかね?」



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