第39話 次の一手③
「……何だい? もしかしてぼくがノートパソコンを使うのが珍しいと思っているのかな? だとしたら心外だね、ぼくとしてもきちんと情報を整理して処理して精査していく上では、スマートフォンだけでは心許ない。それに、ノートパソコンがないときちんとメールを送れないんだよね。分かる? フリック入力でもメールは作成出来るけれどさ、フリック入力だと何か間違ってしまいそうな、そんな可能性を孕んでいないか?」
そうだろうか。
実際、スマートフォンだけでも十二分に行きそうな気はするけれど、そうもいかないのだろうか。
「難しいんだろ、良く分からないけれどさ。……実際問題、どれぐらい影響を及ぼすのかは知らないだろうし」
レディ・ジャックは呟く。
もう彼女はこの会話に飽きつつあるのかもしれない。
であるならば、これからのことについても、少し結論を見出す必要があるだろう。
「……アイディアが出てこないのなら、これで終わりということになるのか?」
「はあ……、話を聞いていなかったのか? ぼくはずっとアイディア、或いはインフォメーションを出そうとしているって言ったよね。それとも本当にその情報を必要としないのか? だったらそれはそれで問題ないけれど? ぼくはあくまでもサービスで出してあげようとしているんだ。それが要らないってんなら、それは別に気にしていないし。それを誰かに売り払える程の情報でもないから一緒に在庫セールで出してあげようとしているんだ」
「在庫セール――ね。実際は何処まで考えているか分かったものじゃないけれど、本当にきちんとした情報なんだろうな」
ぼくのツッコミを無視したまま、情報屋はノートパソコンを操作し始める。
打鍵音が定期的に響き渡っているのを聞くと、まともに会話を聞いていないんじゃないか――そう勘繰ってしまう。
そうなのかどうかは、本人じゃないと分からないのだろうけれど。
「……これだよ、これ」
ノートパソコンをこちらに見せてきた。画面はSNSのプロフィールページを表示していた。
「これって……」
確かうちの大学にあるSNSだったような。独自のSNSで、本名こそ登録出来ないようにしていたはずだけれど、うちの大学の関係者しか登録出来なかった気がする。
「大学関係者しか登録出来ないはずのSNS、そこのアカウントの一つにこんなものがある。……アカウント名は『ドッペルゲンガー』。さて、ドッペルゲンガーがどういう単語であるかは大学生ならば分かるよね?」
ドッペルゲンガー。
つまり、同一人物のようで同一人物ではない――そういった存在を、つい最近確認したことはないだろうか?
答えは火を見るより明らか。
つまり、レディ・ジャックの偽物。
それが、大学関係者しか登録出来ないSNSに登録されている?
「……じゃあ、それのメールアドレスを調べれば」
「どうやって調べるつもりだい?」
情報屋は不敵な笑みを浮かべる。
畜生、最初から分かっていやがったんじゃないのか。
「……どういうことだ? あたしだってきっとそうするべきだと思うぞ?」
「メールアドレスを調べるというのは、難しいんだ。例えばツイッターはどうやってメールアドレスを確認するかというと、アカウント名を入力したりとかしてパスワードを忘れた処理をしてしまえば良い。とはいえ、メールアドレスの全てが分かってしまっては情報漏洩になってしまうから、僅かなデータしか分からないけれど、足がかりにはなるだろうね。……ただ、大学のSNSではそうはいかない。管理者はあくまでも大学の学生課。学生課は学生のことを第一に考えて運営しているはず。そんな学生課が、不確定要素だけでメールアドレスを公開してくれるかね? 答えはノーだ、紛れもなくね」
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