第34話 情報屋は性別不明②

「……ええと、何だったかな。レディ・ジャックの偽物、だったっけ?」


 スマートフォンをずっと操作しながら言ってはいるけれど、集中して話をして欲しいものだな……。片手間に言われているような気がして、少しだけ気に食わない。人によってはそれだけで態度を変えるんじゃなかろうか。だって欲しい情報によっちゃ時間が惜しいことだってあるだろうに、そこで片手間に提供されるようなものなら豹変してしまってもおかしくはないだろう。


「レディ・ジャックの偽物って……、しかし良くその可能性に気付けるよね。あ、本人だからか。失敬失敬」

「馬鹿にしているのか?」

「いやいや、そんなことはないよ。……ええと、偽物の情報はね、僅かだけれどこちらも保有しているよ。確か完全にコピーしているんだったかな、レディ・ジャックを模倣し過ぎていて本物と見分けが付かないぐらいだ。……けれども、違和感はあるはずだ。法則性とか、可能性とか、その他諸々――要するに『これを一人でやるのは時間的に不可能ではないか?』と思わせる何かがあったはずだ。しかしマスメディアはそんなことを気にしちゃいないからな。センセーショナルな見出しと内容を出せればそれでオールオッケーなんだよ。……あいつらも物が売れれば後は良いからね、押し売りと大差ないよ」


 情報なんてどうやって正確性を担保すれば良いんだろうな――それはきっと情報を扱う人間からすればかなり頭を悩ませる課題なのだろう。

 正確性を担保するために綿密な確認を行って、それで漸く販売することが出来たとしても、利益が減ってしまうだろう。多分こういう仕事は大半が人件費になるのだろうから。


「それだけか? ……アンタにしちゃー、データがかなり少ないような気がするがね。もっと何か情報はないのか?」

「勘弁してくれよ。こっちだって頑張って収集はしているつもりだ。どんなデータでも様々ある訳でもない――データの大小はどんなものにでも存在する。それについては理解して欲しいものだけれどね」


 それについては概ね同意する――だって手に入れたくても手に入らないものは良くあるし、手に入れたくないのに手に入ってしまうものもまた良くあるからな。

 でも、データをある程度集めておかないと情報屋としての商売が成り立たないのでは?


「何か言いたいことでもあるのだろうけれど、そこについてはあまり考えないことにしておくよ。……それとも、情報屋の仕事にケチを付けるつもりかな?」

「ケチを付けるつもりはないけれどさ……、ちょっと気になっただけだよ。それとも、仕事は完璧主義なのかな?」

「どんな仕事だって矜持を持って生きているものだよ。……ああ、そうだった。一つ言っておきたいことがあるよ」


 スマートフォンの画面をスライドさせ、何かを表示させた後、こちらに画面を見せてきた。

 それは地図だった。しかしただの地図ではない――美澄地区の地図に赤い点が幾つか描かれている。


「……これは?」

「レディ・ジャック。アンタならこの意味を分かってくれるものとばかり思っていたけれど……、まあ良い。これはレディ・ジャックの偽物が実際に殺人を犯したと言われる場所のマップだよ。ところで本人から見てこれは正解で良いのかな?」

「……ああ、そうだったのかい。言われないと分からないよ、あたしは自分以外のことにはあまり興味を抱いていないからね。それはそれとして、その地図については正解だよ。あたしはこれでも何処で誰を殺したのかは覚えている。忘れることはきっと一生ないだろうね――ま、それは余計なことかもしれないが」


 殺人鬼のような異常者――これはぼく達から見てそう言っているだけで、彼らからしてみればこちらが異常者なのだろうけれど――は、何処か脳の使い方が違うところがあるらしい。絵が上手い人も居れば、プログラミングが天才的な人も居れば、数学の知識がべらぼうに凄い人も居れば、今回のように記憶力が凄まじい人も居る。レディ・ジャックもまたその法則に入っているのだろう。

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