第33話 情報屋は性別不明①

 長い長い廊下を歩き続け、ぼくとレディ・ジャックはある一室、その襖の前に辿り着いた。


「……ここに情報屋が?」

「アイツはいつもここに居るんだよな、特等席とでも言えば良いか……。或いはここを根城にしているというか」


 襖を開けると、そこには一人の少女が座っていた。

 少女、といってもセーラー服に身を包んでいて黒い長髪をしているから背格好でそのように見えているだけなのだけれど。

 いや、それは間違いか――何故なら少女は胡座をかいていて、スカートの中身などお構いなしの状態になっているのだし。


「や、久しぶりだね、レディ・ジャック。それとも本名で言った方が良いのかな? えと、君の名は――」

「――辞めとけ。言わなくても良い。別に本名で呼び合う仲でもねーだろうよ、情報屋」


 情報屋は立ち上がることもなく、こちらに挨拶する。

 レディ・ジャックとぼくはテーブルを挟んで向こう側に座ることとした。情報屋は未だ胡座をかいたままお茶を飲んでいる。にしても、その見た目でその格好はどうなんだよ……。流石にちょっと気にした方が良いと思うぞ。


「……んー? 隣の君はただの人間ってことかな? ぼくの見た目を見ても普通はあまり気にしていない人が多いのだけれど、やはり一見さんはねえ、ちらちら見てくるんだよねえ。……ま、気にしないけれどさ」

「いや、そういう問題じゃないような……」


 というか、真面目に少女じゃなくて少年な訳? 脳の認識がバグっているような気がする。


「何だよ、気になるのか?」


 すっくと立ち上がり、情報屋は仁王立ちする。

 そうして、スカートを思い切り捲り上げた。


「…………、」

「………………いや、ノーコメントが一番困るんだけれどね?」

「別に。まさかいきなりスカートを捲ってくるとは思いもしなかったからね……。それに、君の性別は分かったよ、安心しろ」


 最早パンツの柄など語っている場合でもない。というかどんな柄だったか覚えてもいない……流石に履いていたのは覚えているけれど。


「さて、ここにやって来たってことは……やっぱり情報を求めに来たってことで良いんだよね?」


 情報屋はまた腰掛けると、テーブルに置かれていたお茶を一気に呷った。喉が渇いていたのだろうか。それにしてもお茶だけというのも何だか寂しい感じがする。お茶菓子でも一緒に頼んでおけば良かったのに。

 襖が開いて女性が部屋に入ってきたのは、ちょうどその時だった。


「お待たせしました、抹茶とお茶菓子ですよ。……おかわりする?」


 一度でテーブルの状況を把握したのか、女性は情報屋にそう言った。

 情報屋はにししと笑みを浮かべて、


「それじゃもらっちゃおっかな。多分話も長くなるだろうからね」

「はいはい、分かりましたよ。……それでは、ごゆっくり」


 襖がぴしゃりと閉められる。


「……欲しい情報はどんな情報かな?」


 いきなり、本題を話し始めた。


「最近、あたしの偽物が出回っているのは知っているだろう?」

「……そうだっけ? 最近殺人が多いなーとは思っていたけれどね。もしかしてストレスでも溜まっているのかな、などと思ったけれど、そうではなくて?」

「ストレスという不確定要素だけで、あたしは人殺しなんてしねーよ。それはあたしの偽物も一緒に殺しているからだと思うんだよなー、だから殺しのペースも二倍になっちまってんだよ。模倣犯っつーの? 困るよなー、レディ・ジャックのブランドに傷が付くっつーか」


 そんなブランドあってたまるか。


「ま、確かに低俗な行為が自分の名前で行われているのなら、それは気分の良いものではないからねー……。確かにぼくだってぼくの名前を勝手に使って安っぽいソースの情報を売り捌いていたらこっちの名前に悪影響を及ぼしてしまうしね。そこについては同意でしかないよ、うん」


 ポケットからスマートフォンを取り出して、何か操作し始めた。話をしているんだからそっちに集中してほしいものだけれど、もしかして何か情報でも収集しているんだろうか? 情報屋だから常にアンテナを張っていないといけないんだろうな。

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