第29話 これからのやり方②

 で、だ。

 問題はここから――ぼくは唯一の手がかりを失ってしまったので、ここからどうすれば良いのか、少しはレディ・ジャックの知恵を借りて考えなくてはならないと思っていたのだ。

 とっくにブイチューバーの配信は終わっていて、おすすめに出ていたゲーム実況番組を流していた。ブイチューバーが司会で、ゲストもブイチューバーという番組だが、やるゲームは妙にレトロ。何故この時代にキキトリックなんだ……。


「多分中の人の年代的な問題じゃねーの? ほら、小説だってそうだろ。作者の趣味とその時ハマっていたものが良く出てくるとかさ」


 中の人って言うなよ。

 そりゃまあ、キャラクターなんだから中の人は居るだろうけれどさ……。

 しかも調べてみると、まあまあ古いタイトルと新しいタイトルを交互にやっているみたいだ。メイドインワリオの新作をやっていると思ったらドンキーコング64をやったりしているそうだ。新しいゲームタイトルばかりだと許可を取るのが難しいとかは聞いたことがあるけれど、やっぱりそういう絡みもあるのかなぁ。


「ま、ディレクターのチョイスもあるんじゃねーの? 最近はB級の方もなかなか面白いしな」


 レディ・ジャック――まあまあのブイチューバーヘビーユーザーでは? 流石にメンバーシップには加入してなかろうが……。仮に入れたとしてどうやって課金しているんだろうな?

 とまあ、そんなことはさておき。

 先ずは目先の問題を解決せねばなるまい。


「何かこれからのアイディアはあるのか?」


 レディ・ジャックに言われるが、そんなものはありはしない。ぼくは首を横に振った。

 何か良いアイディアがあるのなら、教えて欲しいぐらいだ。


「……ま、そんなこったろーと思ったよ。けれども、あたしだって良いアイディアが沢山ある訳でもねー。一つだけ、アイディアになるかどうか分からない……アイディアの出来損ないがある」


 アイディアの出来損ないか。

 今のぼく達にはそれしか望みがないっていうなら、それもまた一興。


「……それにかけてみるのもまた、人生だとは思わないか?」


 レディ・ジャックからそう言われて、ぼくはニヒルな笑みを浮かべた。

 まさか殺人鬼から人生の意味を説かれる時が来ようとはね。犯罪者に神の教えを説く宣教師やシスターだって、流石にこの事実は受け入れ難いんじゃないか?

 閑話休題。


「……ま、悪くはないよな。何せぼく達にはそれしかない。芥川龍之介の蜘蛛の糸が如く」

「それ、最終的にバッドエンドにならねーか?」


 それは多数の人間が後に続いてしまったが故に起きた結末だろ。……ところが、これに食らい付く人間はどれぐらい居る? 多分、というか確実にぼく達しか居ないよ。有益であると判断出来る人間が少ないんだからさ。


「……何で情報を聞く迄もなく、そんなことを言えるのかね。流石に呆れ果てたよ。もう少し殺人鬼を疑う余地すらあっても良いんじゃねーの?」

「ぼくとともに居るのは、殺人鬼しか居ないからねえ」


 のらりくらりと躱してみた。

 それで何かが変わる訳でもない。


「ま、良いや。とにかくそのアイディアの出来損ないについて話してやろうじゃないか……。そのアイディアはな、とある人物と会うことだよ。そいつは裏の世界の人間から、こう呼ばれている――『情報屋』とな」


 情報屋。フィクションの世界じゃ良く聞いたことのある職業だけれど、まさか現実にその名前を聞くとは思わなかったな。あれだろ、情報を売って生計を立てているんだろ?


「ま、簡単に言えばそうだけれどな。……実際、そいつの情報は正確だ。九十九パーセントが真実で、残りの一パーセントが嘘……というか正確には検証不足ってところかな」

「検証不足ってことは……実際には嘘だったけれど、それを嘘だと認識するのに時間が足りなかった……ってことなのか?」

「ほんとうかどうかは分からないがね。しかし、当の本人がそう言っているからには受け入れるほかない。そういうものなのだよ、それを受け入れてやって、信頼性のある情報を手に入れる……と」

「……兎に角、今はそいつを頼るしかないってことだな?」


 レディ・ジャックが頷いたのを見て、ぼくは深々と溜息を吐いた。

 藁をも縋る思いで、向かうしかない――その情報屋が居る場所へと。

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