第28話 これからのやり方①
さて。
長々と話してしまっていたけれど、結局のところブイチューバーの配信を見ただけでは、あまり有益な情報を得ることは出来なかった――という訳だ。意気揚々と持ってきたくせに流石に酷いな。
「まあ、それぐらいは致し方ないことだろーよ」
レディ・ジャックは冷蔵庫から取り出したのか、コーヒー牛乳の紙パックを開けていた。
何か好き勝手にぼくの冷蔵庫の中身飲んでいるけれど、費用請求して良いんだよな? ぼくの冷蔵庫はホテルでたまにあるような自由に飲んで良いドリンクを置いている訳ではないからね。
「そういうドリンクを置いているホテルすら、最近は減っているような気がするがね……。かろうじて冷蔵庫は残っているけれど、それも風前の灯火ってところかね。それについてはホテルを責めるところではないだろーしな」
それとこれとは話が別ではないだろうか――などと考えているのだけれど。
だってそれはホテルだから成り立つことであって――ホテルだってきちんとお金は請求しているのだからな――ぼくだって費用を三割増しぐらいで請求させてもらうよ。
「三割増しって酷いもんだなー……、こっちだって色々と頑張っているんだよ。それぐらいは心得て欲しいものだね。いや、しかし、そこについては致し方ないと言うしかないだろうね。出世払いで何とかしてくれないかな?」
出世払いって。
殺人鬼が出世したら何になるんだ? シリアルキラー? それ以外には思いつかないけれど。
「殺人をすることで売上を出すんだよ。……どれぐらい出すかは企業秘密とさせてもらおうかな。でも贅沢は出来ないかもしれないがね」
殺人鬼で生計を立てることが出来るって、有り得ないようで有り得る事実なのかもしれないな。需要がなければ供給も出来ないのだし。
「でも、どうやって依頼とか……仕事を受けるんだ?」
「ダークウェブってご存知かな?」
「聞いたことがあるような、ないような……。確かインターネットの奥底にあるところだったか。そこには法律を無視した取引が行われているとか……。ただ、噂に過ぎないと思っていたけれど、ほんとうに存在するのか?」
「詳細を説明すると、色々と面倒臭いことになるがね。ただ、あるかないかと言われると答えはイエスだ。そうでなければあたしみたいな存在は仕事をもらえねーよ」
「それじゃあ、そこで殺人の依頼を?」
「受けているよ。ぶっちゃけSNSでそういう依頼をしているケースも見受けられるけれどよ。あたしからすればそれはナンセンス。というか証拠が残るじゃんね。二流だよ、あんな場所で仕事を依頼する方もされる方もね。……一流はあんな場所じゃあ依頼出来ねーよ。足がついちまうからな、あんなSNSじゃ」
「言いたいことは分かるけれど、そこについては妥協しておいた方が良いんじゃないか……。ダークウェブなんてそう簡単に入ることも出来やしないんだからさ。でも、お金はどうしているんだよ。結局、そういうやりとりは発生するだろ?」
「少なくとも、日本の銀行では厳しいだろうねえ。昔は海外の銀行口座なら然程厳しくないこともあったから、そこを指定してもらうケースもあったけれどよ、今はもっぱら仮想通貨でやりとりしているよ。それを現金にしちまうか、或いはスマートフォンで支払い出来るようにしまえば良いんだからよ、便利な時代だよ、全くもって」
というか殺人鬼がそこまでデジタル対応しているのも、時代を感じるな……とぼくは思った。きっとそれを聞いたら警察だってびっくりするだろうな。足をつくのが困る――それが犯罪者の特徴だった訳で、だから電子マネーなんて金銭の移動経歴が残るものは使いたくない、などと思うのが当たり前だと思っていた。
しかしレディ・ジャックはそれを逆手にとって――インターネットをフル活用している訳だ。それによってどれぐらい効率が良くなっているのかは分からないけれど、そこまで堂々としていると逆に怪しまれないのかもしれないな。もっと捜査を何とかしろよ、と言いたいところはあるけれど、警察だって人間だし別に責める筋合いはない。
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