第27話 マシュマロ読み配信③

 怖いな、そうさらりと言いのけることが出来るのって……。難しくて出来ない、なんてことはないのか?


「出来るものは出来る。出来ないものは出来ない。簡単なことではあるけれど、言い切ってしまうことも大事なことだよ。……まあ、流石にインターネットを使ってどうこうするのは、難しいことかもしれないがね。成功するのは二割か三割ぐらいが関の山だろうよ」

「それでも十二分に凄いと思うんだけれどな……」


 無関心な分野でやって来ても二割は成功出来る自信がある――そう言っているのだから、自信は大きいと言って差し支えない。


「インターネットを使って犯罪をしたところで、やっぱり難しいところがあると思うんだけれど……」


 デジタルタトゥーというものがある。とどのつまりが、インターネットで一度発言したことは例え何があっても取り消しすることは出来ないということだ。一度発言してしまえばその記録をコピー出来てしまう――魚拓と言われているものが出来てしまう。そうなると、こちらから関与することは非常に厳しい。

 デジタルだからこそ記録を残すのは容易であり、そこはアナログとの明確な違い――或いはデメリットと言えるかもしれないな。


「誤魔化しがきかねーのが、デジタルのデメリットかもしれないしメリットかもしれねーな。正しい記録を残して欲しくねー人間からすりゃ面倒臭いことかもしれねーけれどよ。あたしはどちらかというと記録を残して欲しくねー立場だから、監視カメラがない場所を狙ったりする訳だけれど」

「それはやはり、姿を見られたくないから?」

「それもあるけれど、一番は犯行現場とその方法を見られたくないからだな。ノウハウを盗まれたくねーっての? ともかくあたしはそういう場面を見られたくねーの。ドゥーユーアンダースタン?」


 何で最後が英語で締めくくったのかは分からないけれど、レディ・ジャックの発言については概ね同意する。

 というか、同意する点しか見当たらないと言って差し支えないかもしれない……。ぼくは殺人鬼の心理を分からないし分かろうともしないし今後分かり合えるはずもないと思っているのだけれど、殺人鬼というのは大半がプロとしての自覚を持っているらしい。

 それは殺人鬼のみならず犯罪者ならそう思うようになるらしく、犯罪者のプロファイリングを長年行ってきた警察関係者によれば、犯罪者は自らが崇高な存在であり他の人間とは違うところがありそれが秀でているということを見せつけたい――そんなことがあるそうだ。

 見せつける――ならばどうすれば良いかと言われると、派手な犯罪に走りたがる。そして犯罪をどう行ったかを推理して欲しいから、あれこれアイディアを出して小難しい犯罪に走るようになるそうだ。

 犯罪心理学ではそのようなスタイルが一般的らしい――これは本を読んだ訳ではなく、そのプロファイリングの専門家が言っていただけに過ぎないけれど、見せつけることによって自らを高く見せる。それによりアドレナリンの分泌がさらに高まり興奮状態になる。興奮した状態でさらに犯罪をし続ける――そんな悪循環が成り立ってしまうのだとか。


「……くっだらねー、ほんとーにくらだねーよ。そんなこと、有り得るとでも思っているのか? 犯罪者の精神が理解出来ないから、犯罪者とは違う存在だと思い込みたいからか、分からないけれどさ。そうやって他人と違うことを当たり前だと思うのは構わねーよ。けれど、だからといって犯罪者は全員歪んだ精神を持ち合わせていたかと言えば、そうじゃねーだろ? 最初から犯罪者になりたくて生まれた人間は居ねーって言われているしな」


 それじゃあ、どうやって犯罪者は育成されていくのか。


「やっぱり、環境の問題だろーよ。さっきの話に戻っちまうけれど、それも含めての『修正』だったんじゃねーのかな。一つは本人、もう一つは家庭。社会については流石に変更しようがねーけれど……、少なくともこの二つが変わりゃー何とかなるんじゃねーの?」


 何とかなる――と簡単に言われてもそれをそうと頷くことは出来ないな。

 だって、ぼくは殺人鬼じゃないんだし。

 そういう普通の感性を持ち合わせていることこそが、ぼくの数少ないメリットでもあるのだし。

 

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