第25話 マシュマロ読み配信①
そして、十九時になった。
「……やっほー。今日も来てくれてありがと。四谷カレンだよ。よろしくね」
四谷カレン――それがオカルト系ブイチューバーの名前だった。四谷怪談から取っているらしいが、まあオカルトでは定石なのかもしれないな、四谷怪談というのは。
金髪のツインテール、それだけではなくロール状にしている感じは髪型だけ見ればギャルと言って差し支えないかもしれない。
そして格好はダボっとしたサイズが一個上と思われるセーターに、少し屈んだら見えてはいけないものが見えてしまいそうなぐらいのミニスカートだった。寒いんだか暑いんだか分からない。どっちかに統一して欲しいものだけれど、そういうデザインがファンの心を惹きつけるのかもしれない。
声は少し低めで落ち着いた感じだ。ダウナー――一言で言うならばそう表現することが出来る。しかして、ダウナーだからやる気がなさそうに見えるのかと言われたらそんな感じはあまり見えない。公式のプロフィールでは口下手とも書かれていたが、口下手ならば二時間もマシュマロだけで繋ぐことが出来るのだろうか? あまり聞いたことはない。
「今日は……マシュマロを読むよ。マシュマロは毎週のお楽しみ、って奴だね。少しは落ち着いてくるとばかり思っていたけれど、今週はいつもより三割ぐらい多いよ。やっぱりレディ・ジャックに対する関心が強いのかな? 皆がそう思ってくれるのなら、あたしも嬉しいな……」
ぽつぽつと、しかし切れ目なく繰り出される言葉。これだけでかなりの視聴者が見ているようで、しかもスパチャもしていた。
このために少しは勉強してきたのだけれど、ユーチューブの生放送というものの場合、視聴者というのはイコール生放送を見てくれている人であり、再生数ということではない。つまりブラウザを更新し続けない限りは一人一回しかカウントされないということだ。多分アカウントを変えて同時にログインすれば出来るだろうが、それをしてまで得られるものは何があるんだろうな。
そしてもう一つ挙げられるのはスパチャ――スーパーチャットなるものだ。要するに投げ銭のこを言うそうで、高いものになると一回で五万円を投げる人が居るらしい。生活どうなっているんだろうな、きっと自分の考えつかないぐらいブルジョワな生活を送っているのかもしれない。インターネットではスパチャを投げる側が投げられる側より年収が低いみたいな、馬鹿にしたような発言がたまに見受けられるけれど、実際どうなんだろうね?
「こうちょくちょく流れているのは……これがスパチャって奴なんだろう? しかし、これもまたエンターテイメントって奴なんだから致し方ないとしても……、もう少しお金の使い方を考えた方が良いと思うけれどな。あたしからしてみれば、もっときちんとしたお金の使い方ってもんがあるんじゃないか――なんて思うけれど、どうなんだいそこんとこ?」
「いやいや、お金の使い方なんて別に指図されるもんでもないと思うけれど……」
「さあ、それじゃあ今日もやってきたマシュマロを読んでいくけれど、やっぱり皆レディ・ジャックについてのマシュマロが多いよね。気を付けてよね、異常者っていつ誰を襲うか解りやしないし。殺人鬼……或いはシリアルキラーは必ず何か目的があってやるというよりかは、自分が気持ち良くなれるかどうかを念頭に置いているって、犯罪のファイリング? をしている人も言っていたし」
「間違ってねーけれど、それを言うならプロファイリングだよな。ファイリングじゃただファイルに綴じるだけで終わっちまうぜ」
「たまに言い間違いをすることで親近感を持たせているのか、或いは本当に間違えたのか分からないけれど……、殺人鬼ってそういうもんなのか?」
「そういうもんだぜ。渇きを癒すために、喉を潤すために飲み物を飲むだろう? それと同じで……カッコよく言えば魂が渇いているっつーの? 何だか言語化出来ねーんだよな、だからそこについては感じてもらうしかねーのよ。プロファイリングで何とか解析出来たら苦労しねーぜ、それってつまり殺人鬼になるメカニズムの解明に近付いているって訳だろ? もしそれが完全に解明したらそれっぽい人間を子供のうちに選別しておいて『修正』しちまえば良いんだよ。どういう風に『修正』するかは言いたかねーがな」
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