第24話 オカルト系ブイチューバー⑤
「そんなことは思わないだろうな。確かにリスクはあると思うし、上手く日常を切り取っていかないとそこからリアルがバレてしまうことだってあるだろう。ブイチューバーというのは、どうやらリアルの姿は一切出したことがないらしいからね」
というか、世界観的に出したら終わりだと思う。高浜にあれから色々とブイチューバーのことを聞いたのだけれど、要するに彼らは夢を売る仕事なのだという。ただ毎日のように配信しているブイチューバーも当然居る訳で、そういうのはやはり界隈の中でも特殊なのだとか。大抵は幾ら仕事だからといって休みなしでやることは到底有り得なかったそうだが、やはり需要と供給ってもんがある。それを鑑みるに、鉄は熱いうちに打てという諺もあるように人気なうちに稼げるだけ稼いだ方が良い、ということなのかもしれない。
「だったら数年ごとに歳を重ねるようなモデルチェンジでもしたらどうなんだ? 当然、人間のそれとは圧倒的に緩やかに老化していくとして」
「それは不可能だと思うよ。……見てもらえる理由のかなり大きなウエイトを占めているのって、当然容姿に関することだろうし」
「うーん、そういうものかね? ところでそのブイチューバーに聞く質問状というのは考えたのかな?」
そうだった。
そのためにぼくは色々文章を考えていたんだっけ……、文章を書くのは得意じゃないし、どちらかというとマルチタスクにすら向いていないぐらいCPUが脆弱ではあるけれど、何とか時間をかけずに文章を完成させねばなるまい。
「いつまでちんたらちんたら書いているつもりなんだよ? タイムリミット、ってもんがあるだろう? それは一体何時までなんだ」
「あと一時間もないかな……」
送信時のタイムラグを考慮したらもう少し早く終わらせないといけないのだけれど。
「それじゃあ、文章は何処まで?」
「何処までも何も……、未だ素案の一部しか出来ていないよ。ぼくには文豪になれるセンスはないみたいだ」
「口は回るようだが、今の状況じゃ負け惜しみにしか感じられないね。……まあ、いいさ。それじゃあ少しその文章を見せてみろよ」
見せてみろ、ったってスマートフォンに打ち込んだだけですが、まさかそれを見せろと?
「時間がねーんだからしゃーねーだろ。安心しろ、別に銀行のアプリにログインして勝手に金を移動させようとかしやしねーから。そもそもあれは生体認証がないとログイン出来ねーけれど」
「生体認証は登録しているからセーフだな……」
「じゃあ虹彩切り取るか」
何で無理矢理解除する方向に働こうとしているんですかね? というかそもそも生体認証って今顔認証じゃなかった?
「でも流石に写真じゃ出来ねーだろ。それで解除出来たらザルだもんなー……。あれって、どういうメカニズムで動いているのか分かったりするのか?」
「いや、分かってしまったら困るだろ……。それを悪用されちまう訳だし。ただ、指紋認証の方が良いかな、と思うときはあるよね。だってマスクしたり眼鏡を外したりしたら顔認証が通らなくなるんだろ? だったら、指紋の方が良いよ。指紋なら消えることはない訳だからね……」
「指紋をコピーする技術って、未だ成立していないんだっけ? スティックのりとか指に塗ったら、綺麗に剥がせば指紋が残っていたりするよね。あれを活用したら指紋認証ぐらいクリア出来そうじゃないか?」
「多分、指紋だけじゃクリア出来ないと思うがね……。静脈認証だってあるだろ、つまり血液の流れと体温がないと感知しないようになっているのかもしれない」
長々とくだらない話をしながら、レディ・ジャックはペンを紙に走らせていた。何というか、文才は有るんだろうか? 何かの記事で見たけれど、凶悪犯が描くイラストというのは独特な感性を持っているらしくて、ファンもそれなりに居ると聞いたことがある。
ただ、それを聞いて毎回思うのは、それをもっと早く認知してあげるべきだったんだろうな――ということ。そうであれば凶悪犯が一人消失するだけでなく、過去と現在と未来に被害に遭う人間が全て救われることになる。時間は残酷だ――決して時間は巻き戻ることはないのだから。良いことがあろうが悪いことが起きようが、幾ら金を積もうが幾ら犠牲を払おうが、時間は巻き戻らない。ただ、前に進むだけだ。その不可逆な存在だからこそ、時は金なりという諺だって生まれているのだろうけれど。
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