第23話 オカルト系ブイチューバー④
さて。
道筋は決まった。
家に帰りながら、マシュマロの内容を考えることとする。放送時間は十九時から。現在の時刻は十七時半なので、未だ一時間以上も余裕がある。
ともあれ、読まれなければ元も子もないので、一先ずギリギリではあるけれど、マシュマロの内容を書き連ねておこうと思った訳だ。
高浜曰く、マシュマロはそこまで推敲を重ねて出すようなものでもないそうだが、一応相手は初対面だ。少しぐらいは丁寧にしておかないと、後々が面倒になる。
「……ええと、『お世話になっております」――いいや、これじゃ完全にビジネスメールだ。もっと砕けた文章にしないと読んでもらえねーよ……」
独りごちりながら、文章を考えていく。スマートフォンのメモ帳アプリにポチポチと打ち込んでいくだけだが、なかなかこれが難しい。文章を書くのは得意じゃないし、言葉を熟々と並べるだけならそう難しくないのかもしれないが、一つの道筋を立てながらだと一気に難易度が跳ね上がる。
「取り敢えず、言いたいことを端的に……」
アイディアはある。
後は道筋を立てるだけ。
立てるだけなのに、どうしてこうも長々と書き続けなければ終わらないのだろうか。
いや、書かなければ終わらないのは誰にだって分かることだ。けれども、それをあまり文章を書くのが得意ではない人間に延々とやらせて、果たしてパフォーマンスが上がるだろうか? 答えは火を見るよりも明らかで、そんなことをさせるならばさっさと外注しちゃえば良いのだ。外注出来るほどの金とコネがないけれど。
「……うーん、やっぱり難しいな。なかなか言葉を文章にすることが出来ない、というか」
思えば、論文を書くのも苦手だった。小論文のレベルかもしれないけれど、たまに課題やテストで出されることがある四百文字以内に書け、という問題が出るとぼくはテンションが下がる。ドラクエ3の地下世界ぐらい下がる。永遠に朝の来ない世界にやって来たぐらいに、ぼくのテンションはだだ下がりだ。
下がってしまったテンションを上げる方法というのはなかなか思いつかないもので、この状況においても家に帰ったところで何か対策を練ろうだとかそんなことを考えることはしなかった。出来なかった、と言った方が正しかったかもしれない。実際、書いてマシュマロを投稿しないと先に進まないのだから、致し方ないとはいえ。
玄関で靴を脱いで、時計を見る。時刻は午後六時。取り敢えず夕食はコンビニで買った弁当とサラダになることは決定事項なので、後は頑張ってマシュマロを投稿するしかない。
「アイディアよ……、出ろ、出てくれ……」
或いは文章力とでも言えば良いか。
文豪の誰かが、今この場で降霊してくれやしないだろうか。芥川龍之介でも太宰治でも良い、何なら川端康成はどうだ。雪国を今なら書ける気がするぞ。
「――さっきから話を聞いていればよ、文豪をあんまり馬鹿にしない方が良いと思うけれど?」
声がしたのでぼくは思わず心臓が止まりそうになってしまった。……当然これは比喩で、実際に止まってしまったらぼくの人生はここで修了、ゲームオーバーになるのだけれど。
「何だ、レディ・ジャックか……。家に居るなら言ってくれよ」
というかぼく、鍵渡したっけ? 合鍵を作った記憶ないんだけれどな。
「殺人鬼にもなればオートロックだろうが何だろうが、鍵を開けるのは簡単なんだよ。……というのは冗談で、実際はもっと楽な方法があるんだけれどな。そこについてはあんまり触れないでおくことにするよ。悪用されかねないし」
悪用って何だよ。既にお前が悪用しているだろうが。
「そうだったっけ? まあ、それは置いておくとして……。さっきからぶつぶつと大きな独り言を口に出していたので嫌でも耳に入ったが……、今はそういうユーチューバーも居るんだな? 再生数稼ぎとはいえ、結構大変なことをしていると思うけれど。ある日突然、自分の命が狙われると思ったことはないのかな?」
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