第32話 やはり勇者様は(フリップ視点)

 それは予想通りというか何というか。今我々の前には、勇者様方と、話を終えられた陛下とボルドー様が。そして勇者様方についてのお話しをされている。

 部屋には関係者が集まっているが、魔人の襲撃のため、先程集まっていた全員は揃っていなかったが、その者達には後程伝えると、すぐに話は始まった。魔人の対処と片付けなど、関係する仕事がすぐに終わるはずがないからな。だが、これで良かったかもしれない。今、この話しを聞いた後では。


「では、ユウヤ殿は召喚に巻き込まれたと」

 

「そうだ。鑑定結果も確認したからな、間違いはない」


 部屋の中がどよめく。それもそうだろう。いや、皆薄々は分かっていたがそれでもな。


 あの魔人との戦いを見たものならば、違和感を覚えただろう。勇者様であるはずのユウヤ殿が倒れており、異世界から来た生き物が、大きくなり戦っている。そしていつの間にやたら、私達と話ができるようになっていたのだ。そしてその生き物、ポチといえば。かなりの攻撃力だった。


 セイヤ君が兵士達から離れてしまって、ポチ達だけで一緒にいたため、すぐにセイヤ君の元へ駆けつけたが。その時には既にポチは話せるようになっていた。そしてタマ先生と呼ばれている生き物も、プロテクトバードまでもがだ。


 そしてポチの姿と皆が話せることに違和感を覚えたのだが、それだけではなかった。私が魔人に攻撃されてしまったあと、プロテクトバードは見事な結界を張り、セイヤ君を守り、その後はタマ先生がポチ達に指示を出す。その指示の言葉に、一瞬止まってしまったが。それはまさかという言葉で。


 『絵本の勇者様と同じ』 一体どういうことだ。勇者様はユウヤ殿ではないのか? それを聞き少々慌てた私は、それですぐに動くことができず、セイヤ君の所へ魔人が行ってしまったのだが。

 

 魔人が吹っ飛び壁にめり込む。それが私が初めて見た、ポチの攻撃だった。ポチのしっぽがクリーンヒットして、思い切り飛ばされたのだ。

 なんだあの威力は。しっぽ一振りであそこまで飛ばされるのか? まぁ、体がかなり大きくなっているから、当たり前といえば当たり前だが。


 そんなポチの攻撃は、その後も続くことに。セイヤ君が喜ぶ攻撃もしていたな。あれは私も思わず笑ってしまったが。まさかあそこまでしっかり、ポチの肉球の跡が魔人の顔に残るとは。

 そして結局、私達はほとんど何も出来ないまま、ポチのおかげで魔人を倒すことができ。我々は何とかこの場を切り抜くことができたのだが。


 その後にも驚く光景が待っていた。ここまでくると、おそらくという感覚だったが、セイヤ君のあの聖魔法の威力は。あれだけの力がある聖魔法を、あんなに小さいセイヤ君が使うなんて。


 国に仕えている聖魔法を使える者達の、誰よりも強い魔法だった。いや、いくらか時間をかければ治療できるのだが、一瞬で治してしまうなど。今遠征に同行していて城にいない、神官のアルベルトくらいか? アルベルトは俺の幼馴染で、この国1番の聖魔法の使い手だ。まさか彼よりも強いなんてことは? それはもう、セイヤ君が勇者様の関係者ということだ。


 何とかその場を後にし、ユウヤ殿を別の部屋に案内して、私は別の部屋で呼ばれるのを待つことに。部屋の中はそれぞれが誰かと話しをしたり、1人で過ごしたりとしていたが、皆考えていることは一緒だっただろう。『今までにない出来事が起きている』と。

 2時間が経過しようとした時、陛下とボルドー様に呼ばれ、我々待機していた面々は部屋を移動した。


 そしてやはり、我々の考えは正しかった。勇者様はユウヤ殿ではなく、ポチが勇者様だったのだ。また勇者様の仲間として、タマ先生が賢者、セイヤ君が神官。そしてプロテクトバードまでが、いつの間にか勇者様の仲間になっており、ナイトの称号を受けていた。


 部屋の中が一気にざわめく。どういう事だと、魔獣、いやユウヤ殿は動物と言ったか? まさかその生き物が勇者だなんてと。また勇者様以外のセイヤ君達についても、騒ぎが止まらない。こんな生き物達が仲間だと、こんな小さな子供が神官だなんてと。


「静まれ!! お主達は、フーディークレイズ様の召喚に、疑問があると?」


 陛下のお声で、一気に部屋の中が静まり返った。そう、この召喚はフーディークレイズ様による、私達への召喚なのだ。


「お主達には、後程勇者様方に関する、詳しい情報を届ける。今は…」


 そこからは簡単にこれからの事を話し合うことに。予定通り優也殿、いや、勇者様方のことは私が面倒を見ることになった。

 これについてだが、もうすぐ召喚が行われる、それが分かった時から、陛下と関係者が集まり、長い話し合いのすえ、私が勇者様の面倒を見るということで決まったのだが。


 私が1番陛下に近いということもあったのだろう。だが、今ではそれが良かったとしか言いようがない。今は魔人の対処でこの部屋にいないあの男。優也殿と言い争いをした、魔法師部隊を率いるタクツールが、勇者様方の面倒を見ることになっていたら。セイヤ君がどうなっていたか。

 奴には色々とあるからな。奴の所へセイヤ君が行くとなったら、おそらくセイヤ君は…。勇者様の仲間ということで、死ぬようなことまではされないだろうが、それでも。本当に良かった。


 これから魔人のこと、勇者様のことは、色々な事を民に発表することになるが。勇者様に関することは、最低限の発表をすることに。お披露目も少しの間延期することになった。それが良いだろう。まずは彼らに、この国に慣れてもらわなければ。魔人との戦いもあったからな。そしてまずはセイヤ君の事を考えてあげなければ。


 話が終わると、私は陛下とボルドー様と共に、ユウヤ殿達が待つ部屋へと向かった。

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