第7話 最終話


「スイーツバイキングとは中々乙ですね」


守とハナはケーキバイキングに来ている。

だけど、スイーツバイキングは男には少し居心地が悪い。周りには女性グループしかおらず、店内にいる男は守ただ一人。



「こう見えて俺ってケーキバイキングによく一人で来るんですよ。慣れたもんです」

守は落ち着かない様子でハナに笑顔を向ける。


「プゴ・・・守さん、無理しなくていいですよ。嘘ですもんね?」


ハナは守の嘘を直ぐに見抜く。


「ははは、すみません。ケーキバイキングは初めてです。ですが、男一人では来ることもないので寧ろ有りって感じで、ありがとうって感じです」


「そうですか」


照れを隠すように席を立ち、スイーツを取りに行く。

守もハナを追いかけるように席を立つ。


それぞれ思い思いのお菓子を皿に乗せ、席に戻る。


ハナは一口サイズのチーズケーキをホークで刺す。

左手でマスクを前に引っ張り、下からケーキを口まで運ぶ。


咀嚼、飲み込む。


プリンをスプーンで掬う。


同じようにマスクを取らないで、プリンを口に運ぶ。


咀嚼、飲み込む。


紅茶が入ったティーカップを手にとり、これもマスクを取らずに口にする。


守はその様子を何も食べずに見る。

そのおかしな行動に違和感を感じて、守はハナに一つ質問をする。


「どうしてマスクを外さないのですか?」


その一言で空気が一変する。

ハナは食べるのを取りやめ、マスクを整える。

背筋を伸ばして守と目を合わせた。

そして、試すように問う。


「気になりますか?」


ただの会話の話題になればと思って聞いた質問が、ここまでハナを真剣にさせるなんて守は思いもしなかった。

だが、気になるか気にならないかを問われれば、気にはなるし、ここで嘘をつく理由はないと考え、本音を言う。


「えーと、まぁ気にはなります」


「それはですね・・・マスクを取れば、あなたは嘘をついた事に後悔するからです」


「えーとつまり、どうゆうことですか?」


マスクを外すことが守が嘘をついたことに後悔するのに繋がるなんて守は理解できない。


「守さんは少なからず私に好意を抱いていますよね?」


一見、今のは自惚れ発言ではあるが、ハナが言うのは自惚れではなく、経験則なのだ。


「私は今まで多くの人が私に好意を抱いて貰いました。その方々の発言は全く嘘がなく、私を想ってくれている事が分かります。

だけど、私がマスクを外して素顔を見せると今までの会話が嘘のように私を貶したんです。

私は全てが嫌になりました。

素顔を見せて豹変した人も、未だにマスクを外せない私も・・・嫌になりました。

だから私は私を含めて偽っている人が嫌いです。

嘘が大嫌いなんです」


ハナは静かに淡々と話す。

自分が嘘を許せない理由を守に伝える。

そんなハナの話を守はただひたすら相槌を打って聞く。


「最初は私の事を惚れさせてから、最後に素顔を見せてガッカリさせてやろうと思っていました」


「そうだったんですね」


「でも・・・私は嘘をつかれるのは嫌いなのに、守さんがつく嘘はなんだか不思議と嫌じゃないんです。バレバレで相手を気遣う守さんの嘘はとても鼻に心地いいんです」


「私は守さんに嫌われたくないんです。素顔を見せて貴方に酷いことを言わせたくないんです。今までの優しさは嘘だと思いたくないんです。だからお腹がいっぱいになったら素顔見せずにこのまま『さようなら』がしたい」


これはハナの本音で、ハナの願望である。


「ハナさんが見せたくないのなら、僕は素顔を見ないです」


守がそう断言して、ハナはホッとしたような表情をみせる。


「ただ一つ言わせて貰うとハナさんが俺を惚れさせようとしてる様には見えなかったですよ」


「えっ! でも、私が隣にいるだけで男の人って私の事を好きになるでしょ」


「ハナさんって思い上がりが激しいですね」


「なんなんですか! それっ!!」


ハナは怒ってカップケーキを頬張る。


「隣で映画を見て、一緒にスイーツを食べたりして、二人で過ごしているうちに真面目なところとか、実は女の子らしいところとか、そんなハナさんの魅力を知ったぐらいでは、好きになったりなんてしてないですよ」


「プゴッ・・・そっそっそそっ、そうですか」


それから二人はお腹いっぱいになるまで、食べ、そして沢山話した。



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