第3話 名前

次の列車を待つ中

守は隣に立つ女に質問を投げかける。


「懲らしめるって具体的に何をするんですか?」


「教えません。黙ってついてきてください」


女は守の顔を見ずにそう返す。


「はい、わかりました」

守も女と同じ方向を向いてそう返すと隣に立つ女は守の顔を覗き込んで問う。


「平気で嘘をつくような悪人に気を使うのは癪なんですが、本当に良いんですか?」


「・・・何がです?」


守は何が良いのか分からず女に聞き直す。


「何か予定があったんじゃないですか?」


「あぁ・・・暇で散歩してただけなんで大丈夫ですよ」


守がそう答えると「プゴッ・・・」と女の鼻が鳴った。


「今、嘘をつきましたね」


「・・・えっ?」


女は守を睨んだ。

女はまるで守が嘘をついた事を確信したようだった。そんな女を見て守は誤魔化す事は出来ないと感じた。


「はぁ、俺ってやっぱり嘘が下手ですかね」


「下手ですね。散歩なのに電車に乗るってのは違和感があります」


「あぁなるほど、確かにその通りですね・・・ん? ですが散歩の途中で疲れたら電車に乗ることもあるじゃないですか? どうしてそんなに自信を持って俺が嘘をついたと思ったのです?」



「私、人が嘘をつくときの匂いが分かるんです」


「匂いですか?」


「人が嘘をつくときって汗の匂いが普段と違うんです。私は嗅覚が鋭いので気づくんですよ」


「へーすごいですね」


守は素直な言葉が出た。


「それを聞いて気持ち悪くはないんですか?」


「気持ち悪くはないですね。すごいと思います」


「プゴッ・・・これは嘘てはないんですね」

女は気まずそうに言ったが、守は気づかない。


「あっ! えーと、俺は大柴守と言います。大学生です。お名前よろしいですか?」


「平気で嘘をつくような守さんに名前を教えたくありません」


女はプイッと顔を横に向ける。


「あはは、そうですか。じゃあ、ハナさんって呼びますね」


「えっ!?」

「えっ!?」

守がハナと呼ぶと女は目を大きく開けて驚いていた。守は女の驚きように驚いた。


「単純に花柄のワンピースだったんで、ハナさんって呼んだのでしたけど、嫌でしたか?」


「嫌っていうか・・・」


女が驚いたのは、彼女の実際の名前もハナだからだ。

守はハナの名前をピッタリ当てた。

守はこんなミラクルをよく起こす。


「本当に嫌なら変えますよ。何だか様子が変ですし」


「きっ気のせいです!」


ハナは咄嗟に誤魔化す。


「良かったぁ。ならハナさんって呼ばせてもらいますね」


嘘が下手なやつは察しも悪い。


「はい。どうぞ」


次の列車のアナウンスがハナの声を遮る。

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