第2話 面接

 哲也は高校を卒業した後に、都内にある広告代理店に勤務していたが激務の為に一月で逃げ出し、日雇い派遣や職業訓練校に通い、コンビニのバイトを続けながら暮らしている。


 職歴的には一ヶ月程の正社員経験しかなく、書類選考の段階で撃沈していた為、一念発起してホームヘルパーの免許を取ったのはいいものの自分に向かないと直ぐに分かり、仕方なくその日暮らしのフリーターをする身分であった。


「こんなんで、いいか……」


 哲也は、18歳の時に就活で安く購入したスーツに身を包み、普段ボサボサの髪を1000円カットの床屋で短く切ってもらい、ネットに載っている履歴書と職務経歴書をダウンロードして印刷したものをバッグに入れて、U町行きの電車に乗る。


 ジャンクショップで安く購入したスマホを開き、早速『ナイト』についてググると、ホームページには施設長に綿貫龍司と載っており、先日居酒屋で会った、少し気が強そうな細身のイケメンであるのを確認する。


(あーあ、俺今まで何やってたんだろうなあ。どうせ落ちるだろうなこれ、確実に……)


 哲也は、どうせ経歴書を見せたら、今までの面接官のように鼻で笑われに行くだけなんだなと半ば諦め、窓の外を見やる。


 ****

 U町の最寄り駅の前はビルが立ち並び、その中の一角に就労移行支援事業所『ナイト』はあった。


(こんな一等地に店を構えるだなんて、相当なやり手なんだな、この綿貫って奴は……)


この建物は、真新しくできたばかりなのか、内装は綺麗であり、他にも会社が一つか二つ入っているのを横目で哲也は見、『ナイト』のインターホンを押す。


「はい、就労移行支援センター『ナイト』ですが……」


「あのう、先日綿貫さんに連絡させていただいた者なのですが……」


「はい、少々お待ちください」


(俺不審者に思われるのかなあ、やはり。警察に呼ばれないといいなあ……)


 哲也は内心ビクビクしながら待っていると、数分後に扉が開き、ホームページで見た男が出迎えてくれる。


「やぁ、本当に来てくれたんだね」


「は、はぁ……」


「そんな緊張しないでリラックスしていいからさ。これから『ナイト』について説明しますね」


「は、はい」


 龍司のフレンドリーな対応に拍子抜けし、誘われるがまま、哲也は中に入る。


 ****


 就労移行支援事業所『ナイト』は、元々は別の仕事をしていた龍司が、「世の中の役に立つ仕事がしたい」と裸一貫で32歳の時に興した会社である。


(この人スゲー立派なんだなー)


 哲也は淡々と『ナイト』の説明を行う龍司を見て、この人自分と同じ歳なのにこんな立派な事をしてるんだな、それと比べて俺は全然ダメだなと心の中でため息をつく。


「……ふうん、ホームヘルパーはお持ちなんですね、福祉の経験がないだけで」


「ええ……」


 どうせ無理だろうなと、哲也は半ば諦めており、隣のビルに入っている一回3000円のピンサロに行くかどうか軽く悩んでいる。


 哲也は25歳の時にこのままではダメだと職業訓練校に通いホームヘルパー二級の免許を取得したが、あまりもの現実の過酷さに根を上げてしまい、一応資格は取ったものの介護では無理だと諦めたのである。


「うちの会社は、福祉経験のない人間でも採用してます。とりあえずは二週間、給料は出ませんが、こちらで実習をしていただき、実務を行えるかチェックさせていただきますが宜しいでしょうか?」


「は、はい。分かりました」


 二週間、暇つぶしだなと哲也は心の中で呟き、奥のテーブルでパソコンを扱った訓練をしている利用者をチラリと見やる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る