第30話


意外にも、この後仕事が入っているというカナちゃんは。


「少し遅れる」と連絡をしてきた倫くんを待つことができず。

『気にしないで。』と笑う私に、散々謝りながらお店を出て行った。










「もっと早く彼と出会えてたらよかったのになって思う。それくらい、今が楽しくって。」



少し拗ねたように。だけど、幸せそうに、ふんわり笑ったカナちゃん。





出会う時期は、そんなに大切じゃないよ。


どんなに出会えるのが遅くなっても。その後結ばれたなら、十分だよ。





この世界には。

どんなに早く出会えていても。どんなに、2人にしか知らない顔があっても。


いつまでも近づけない、2人もいるから。



降り出した雨に濡れる中庭の紫陽花を見ながら、一人ぼんやりとそんな事を思っていた。
















倫くんが現れたのは、カナちゃんが出て行ってから30分ほど後のことだった。




『はろー、サタンさん。』


「すみません、いろんな意味で。笑」



苦笑しながら、仲居さんに自分用のノンアルコールビールと。

私用に、一番高いシャンパンをグラスで注文した。







『今日まで勝率100%だったかもしれないけど。

私だって、無理なものは無理だからね。』



絶対にひるむものかと決めていたのに。

甘い泡が口の中に広がれば、つい心がほどけてしまいそうになる。


そんな自分を鼓舞する気持ちで、倫くんを睨んだ。





「分かってるよ。今日は、お願い事をしに呼んだわけじゃない。」


『いやいやいや、カナちゃんまで手配して何事ですか。』


「仕事の依頼をさせてほしいんだよ。」




倫くんが、運ばれてくる料理にも手をつけないまま。

睨みつける私を真っ直ぐに見つめ返して告げたのは。







予想を遥かに超えた。


超、難題だった。










サタンが、本性を見せる。




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