第29話


例年より早い梅雨入りが発表された6月頭。


倫くんから、久しぶりに食事に誘われた。


指定された店が、私の大好きな銀座の某和食料理店で。

個室に通され待っていると、カナちゃんが入ってきた時点で。



『しまった、断れない・・・』と、まんまと来てしまったことを後悔した。








ここの和食屋さん、倫くん、溺愛のシャンパンが揃えば。

私は倫くんの頼みを100%断れない。


そのうえ、新妻の可愛い可愛いカナちゃんがついてくれば、もう最強。


久しぶりに私が断れない状況を作り出している倫くんに、緊張と不安を感じた。










「だよねー、やっぱりそういう顔になるよねぇ。笑」



腰を下ろし、おしぼりで手を拭いていたカナちゃんは、申し訳なさそうに笑った。



『内容、聞いてる?』


「分かんないんだよね~・・・彼の仕事のことだろうなとは思うんだけど。」



倫くんがここで私を四面楚歌状態に陥れ。

幾度も私を降参させてきたことはカナちゃんにも周知の事実。





仕事のこと?

それはまた、新たなジャンル。


なんだろ?大事な接待でうちのお店を使うとか?貸し切り?


けど、それくらいだったら今までにもあったしな・・・








「けど久しぶりに理沙子ちゃんに会えて嬉しい!倫介さんが来る前に、じゃんじゃん好きなもの頼んじゃお♡」



女子会だ~♡と無邪気にメニューを開くカナちゃんに、胸があったかくなった。









こんなに素敵なお嫁さんを紹介してくれたとき、私の中で倫くんの男レベルは神の域に達した。



『やばいな、倫くんはもう神だわ。』



倫くんがカナちゃんを紹介してくれたあの日。

夫妻が帰ったあと、3人で飲み直していた席で私が呟くと。



「なんだよ、神って。笑」と、航大とチョコが笑った。



『もう凡人には追いつけない男レベルになったってことだよ。サタンだな!』


「なるほど、めちゃくちゃ強いみたいな!」



意思疎通できた私と航大が盛り上がると、チョコが。




「ゼウスじゃなくて?サタンって悪魔だけど。」と発言し。



一瞬空気が止まった後、3人でその日一番の大爆笑をした。








倫くんは、世界で一番優しい悪魔。


どんなゼウスよりも優しいサタンが







今宵は、きっと悪魔になる。

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