第25話
大雨の5月の終わり。
梅雨入りはまだなのに、叩きつけるような雨音に夏の気配を感じた。
お店の前でタクシーを降りて、ボーイくんが開けて待つドアへ駆け込んだ。
それだけで、びしょ濡れになるほどひどい雨の日。
「理沙子!大変!来たわよ!」
『おはよー、葵ちゃん。何が来たの?』
傘を畳んで、ボーイくんの持ってきてくれたタオルを受け取っていると。葵ちゃんが大興奮で駆け寄ってきた。
「要くんよ!さっき来たのよ!」
名前の響きに。
ことん。と、胸で何か動いた気がした。
『来たって、お店に?早くねー?』
時計を見ると、まだ18:00。
開店は19:00からだから、まだ入れないはず。
すると、葵ちゃんは1筒の茶封筒を私の前に差し出した。
これ持ってきてすぐ帰っちゃったのよ!と鼻息荒くしながら。
なんだろう?封筒を受け取り、葵ちゃんの視線をビシビシ感じながら中を覗くと。
コンサート?のチケット2枚と、小さなメモ書きが入っていた。
「あ、ライブのチケットじゃない?!え、すごい、関係者席って書いてあるわよ!」
キャーキャー騒ぎ立てる葵ちゃんとは別に、メモ書きを読んでいた。
“先日はありがとう
よかったら、連絡ください
○○-○○…
要 陽斗”
「ぎゃ、何よその手紙!」
わ、もう見つかった。汗
キャーキャーを通り越してキーキー言い始めた葵ちゃんに、ボーイくんたちが苦笑してる。
「この雨の中、それだけ持って来たのよ。
グレーのパーカーでフードまでかぶって、濡れネズミのようでほんとに可愛かったわ・・・」
うっとり目をつぶる葵ちゃん。
私は、葵ちゃんの声を聞きながら。すっぴんで会わなくてよかったなと、ぼんやり思っていた。
チケットが入っていたっていうことは、招待いただいたってことだよね。
開店後、取り急ぎお礼の電話をしようと。カウンター横で、客席の合間に携帯を取った。
呼び出し音のみで、繋がらない。
仕事中かもしれないし、あんまりしつこくかけるのはよくないな。
留守電は主義じゃないし。お店終わったら、またコールしてみよう。
「理沙さん、5番卓お願いします。」
ボーイくんの呼ぶ声で、そう決めてお店に戻った。
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