第20話


やばい、挨拶が遅れたと思い口を開こうとした時。


相手が私を驚いた顔でジッッと見ていることに気づいた。






航大とは違う、都会的な野生っぽさ。

ストレート感の残る無造作ヘアに短めのヒゲ。


色黒なのに清潔感があるのは、ヒゲが綺麗に整えられているのと、全体的にキリッとした顔のパーツのせいかな。


だけど、目を思いっきり丸くして、ひどく驚いた顔で私を見てる。





やばいなぁ、どこかで会ったことあるのかな?

仕事柄、そういうのには人一倍気をつけてるんだけど。


なんと声をかけるか・・・

よし、ここは無難に。







『こんばんは♡』


出来るだけ優しく、親しげに声を出した。

秘儀、どっちでも大丈夫挨拶。二度めでもお初でも、いい感じに対応できる。


けど、彼は一瞬ビクっと小さく動いただけで、何も返してこなかった。





「いやいやいや。笑

緊張しすぎだから。理沙ちゃんごめんね~。」



直生さんに肩を叩かれて、やっと彼が発した言葉は。



「・・・あ、すいません、初めまして・・・」



驚いた表情のまま、棒読みでロボットのように呟いた彼に、ついに我慢できなくなって。



『・・ぷっ、あはっ、あははははっ・・・』

吹き出してしまった。


可愛い!おもしろい、なにこの人!



そんな私に、はっと我に返ったように「すいません、すいません」と言いながら左手で赤くなった顔を隠し、背中を丸めた。




「もう~動揺しすぎでしょ。笑」



心底楽しそうに笑う直生さん。仲良しなんだなぁ、この二人。




「こんばんは」今さらながら挨拶を返してくれた彼は。

私のほうを見ずに、下を向いたままグラスを掲げたけれど。




その声は、ひどくひどく甘かった。

身体の中で唯一、鼓膜が震えたのを感じた。






これが、“要 陽斗(かなめ あきと)”さんとの初対面だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る