第17話


待ち合わせをした、鰻の某名店で。

個室の席に通されて間も無く、航大が入ってきた。



相変わらずのスタイルで。

サンローランのジャケットを身に纏う。


嫌味なほど、隙がない。






「よ。」


『ごちになりまーす♡』


「第一声、それ?笑」



シャネルのサングラスを外して、こちらを見ずに笑いながらおしぼりに手を伸ばす。





『ねぇねぇ、一番高くておっきいの頼んでいい?♡』


「いーよ、俺今日食えるから。」



あまり食べられない体質なのに、食い意地のはった私。いつも、多めに頼んでは残してしまう、悪い癖。


航大は慣れた手つきで、そんな私を甘やかす。


残ってしまっても、今日は自分が食べられるから好きなものを頼めと笑う。







私たちは大好物の鰻を突きながら、他愛もない話を続けた。

天然な航大に笑わせられたし、口の悪い私に航大もよく吹き出した。



「おまえ、小悪魔通り越して悪魔だな。」


航大が苦笑すると、なぜか嬉しかった。




98%のリアルと、2%の緊張。

ここにあるのは、いつも同じ割合。

















お店に向かうため、久しぶりに乗った航大の車。

後部座席で、あくびが止まらない。




「寝とけ。店着いたら起こすから。」


『すぐ着くじゃん・・・。』


「20分は寝れるだろ。」



車の中で流れていた音楽のボリュームが、小さくなる。






「・・・昨日、遅かったのか?」


『うーん・・・昨日は、先輩のお客さんについたから・・・』




飲むのも仕事。

アフターに付き合うのも仕事。

何とも思ってないし、これが私の仕事だから仕方ない。




柔らかい革のシートの感覚と。静かに流れるように進む車の走行。

低く、耳に降る、航大の声。







次に止まった信号で、航大が脱いだジャケットをかけてくれたときには。



私はいつよりもずっと。

静かで心地良すぎる眠りにおちていた。

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