第2話


カウンターの横、絢爛な螺旋階段の手すりにもたれて携帯を見てる。


目深に被ったキャップに、華奢に見えるけど骨太な感じ。



『チョコ!』





知った顔の来訪は全く予想外で、思いのほかうれしかった。

張り詰めた神経が、少しだけリアルに引き戻される瞬間。



「おー、お疲れ。てかすげぇ忙しそうだね。」



きれいな歯並びを見せて、笑って顔をあげて。



『そうそう、火曜日なのに。疲れたよー。笑

一人?来てくれると思ってなかった!』


「うーん。今日は一人でも入れるんじゃないかと思ってたから。この密度にはビビった。笑」


『え、全然いいよ、入りなよ。今のとこ帰れば、あたし空くから。』


「いや、こんな混んでて一人客は迷惑っしょ。

また改めて来るよ、ゆっくり話したいこともあったし。」



キャップの下からチラチラ覗く目がくるんとつぶらで。

ほんと、犬みたいだなぁ。多分、すっぴん。なんとなく、痩せた気もする。



『わん。』少しかがんで、帽子の下から覗き込んだ。


「は?なに。てか、そーいうのやめて。笑」



私がちょっとでも可愛く見せると、「俺相手に商売しない!」と逐一反応してくれるチョコ。可愛いなぁ。


チョコ、もとい千代 剛(ちよ ごう)。

職業、ダンサー。某人気ダンスグループ『planet』に所属してる。

あまりテレビを見ない私は疎いのだけど、中高生から大人女子まで・・・最近は、男性層も?

とにかく、幅広い層の人たちに人気沸騰中らしい。




『チョコ痩せた?なんか頬っぺたこけてない?』


「あー、絞ってるからね。もうすぐツアーだから。」


『ふーん。初耳だ。』


「そんなことねーよ、言ったし。つーか、俺以外もたぶん言ってるはずだし。笑」


『チケットください♡』


「買ってください。笑

あ、そうだ_____これ。」





小さな紙袋を差し出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る