第50話 新曲『おたくロック』

 その週の土曜日、誠は明日夏のイベントと『トリプレット』のイベントの時間が重なっていたため、『トリプレット』のイベントに行った後、パラダイス興行に向かった。明日夏は既に事務所に戻っていて、練習室の中で歌詞のチェックをしていた。誠に気付いた明日夏が,誠を手招きしたので,誠が練習室に入った。

「マー君、今日は尚ちゃんのイベントに行っていたの?」

「はい、申し訳ありませんが、その通りです。」

「尚ちゃんはマー君の実の妹だからね。それなら気にすることはないよ。それ以外だったら、尚ちゃんに言いつけちゃうかもしれないけど。」

「『ユナイテッドアローズ』でスタッフが足りなくてパスカルさんに呼ばれたら、行かなくてはいけないかもしれませんが、それ以外はありません。」

「そっちはスタッフだからしょうがないか。それで、歌詞は3番まで書いてきたよ。タイトルも決めてきた。曲はロック調だから、ズバリ『おたくロック』。」

「『おたくロック』ですか。はい,分かりやすくて良いタイトルだと思います。」

「橘さんには内緒で。」

「ロック調ではあってもロックというわけではありませんので,ロックをなめるんじゃないとか怒られてしまうかもしれませんね。」

「ミサちゃんにも内緒で。」

「ロックは遊びじゃないとか言われそうです。」

明日夏は「ミサちゃんの方はそうじゃなくて、曲も歌詞もミサちゃんのイメージに合わないのに,ミサちゃんのライブで歌ってしまいそうだから。」と思いながら答える。

「ミサちゃんの曲、お金もかかっているけど良曲が多くて,橘さんのオーディションで使うって社長が言っているぐらいだからね。」

「著名な方が作ったとっておきの曲という感じがします。美香さんの誕生日に曲をプレゼントする約束をしたのですが、なかなか良い曲ができなくて困っています。」

「ミサちゃんに?」

「はい。家がお金持ちなので、物では絶対に喜ばないでしょうし。」

明日夏は「マー君からなら百均のものでもすごく喜びそうだけど。」と思いながら答える。

「でも、マー君もキザなことをするね。もしそれをうちの社長がやったら、相手の女性が社長をすぐに好きになってしまいそうだよ。」

「男の容姿の違いが、戦力の決定的差であることを教えてやる、って感じですか。」

「ふふふふふ、そうだな。」

「美香さんには歌のことで妹がお世話になっていて,その感謝を示したいだけなんです。」

明日夏は「曲をプレゼントするという話を私に言うということは、本当にそれだけなのかもしれない。」と思いながら答える。

「まあ、頑張れ。」

「はい。」

「それで、これが歌詞だ。少し曲の手直しが必要だが,大丈夫か。」

誠がパソコンの画面を見ながら答える。

「はい。このあたりと、このあたりですね。」

「そうだ。」

「コードは変えないで,メロディーを少し変えてみます。」

誠がパソコンで曲を変える。その様子を見ながら、明日夏が感想を述べる。

「パソコンに入力して曲を変えていくというのは面白いね。初めて見た。」

「ボーカロイドの曲を作っている人には多いと思います。あれだと,ボーカルまでパソコンで制作してしまいますが。」

「なるほど。でも,その場で演奏しながら作曲する社長やアイシャちゃんとは逆だが、マー君の作曲方法らしいね。」

「鍵盤をコンピューターに繋いで作曲する方もいます。でも,僕はパソコンのキーボードとタッチパッドを使う方が,操作が楽です。」

「そんな感じだね。」


 その後しばらく明日夏は黙って誠の作業を見ていた。

「できました。」

「さすがだね。聴かせてみせて。」

「了解です。」

誠が再生すると、明日夏が鼻歌で歌う。

「もう少し,こちらを細くして,こっちをゆっくりとした方が良くないか?」

「分かりました。これを,バージョン11.1.1として,バージョン11.1.2を作成します。」

「バージョンなんて言うと,ゲームのプログラムみたいだな。」

「そうですね。」


 誠と明日夏が協力して、メロディーを少しずつ変えながら,バージョン11.1.7まで作成した。

「どれがいいかな。」

「明日夏さんの印象では。」

「何だか分からなくなった。ワンコーラスでいいので,今作ったのを全部聴かせてくれ。」

「分かりました。」

誠がバージョンを言いながら,ワンコーラスずつ流す。

「うん,バージョン11.1.1がいいね。マー君が最初に作ったやつか。ごめん。」

「いえ,色々変えてみて勉強になりました。」

「お詫びに、仮歌は私が入れよう。」

「とても嬉しいですが、大丈夫ですか。」

「門外不出にすれば全く大丈夫。最悪でもそれで私がお金を取らなければ大丈夫。」

「有難うございます。」


 誠は楽譜を印刷してから,練習室のマイクを借りて,持ってきたレコーダーに接続する。明日夏は発声練習をしてから,ヘッドフォンを被る。誠もイヤフォンで聴く準備をする。

「それじゃあ曲を流して。4回目ぐらいから本気と思って。」

「はい。」

誠が曲を流すと明日夏が歌い始める。明日夏が6回目を歌っていると練習室のドアが急に開いた。入ってきた人を見て,驚きながら誠と明日夏が顔を見合わせる。

「明日夏,それはロックか?」

「橘さん違います。『おたくロック』というタイトルで,ロック調ですがアイドル向けの歌で,ロックと言えるかどうかは微妙です。」

「ちょっと聴かせてくれ。」

久美が明日夏からヘッドフォンを奪い取る。

「これが楽譜だな?」

「はい。」

「それじゃあ,少年,明日夏が最後に歌ったものを聴かせてくれ。」

「分かりました。」

誠が5回目に歌った録音を流す。聴き終わった久美が言う。

「うーーーーん。」

「どうですか?」

「歌自体はうまくなっている。去年の明日夏とは聞き違えるほどだ。」

「有難うございます。」

「しかし,歌に魂が入っていない。」

「橘さん,そういう曲ではないですので。」

「何だ明日夏,お前にとってオタクはそういうものなのか。直人とはそんないい加減な関係なのか。」

「そんなことはないですが。」

「それじゃあ,もっと魂を込めて歌わないと。」

「でも,これは仮歌ですし。」

「それでもだ。仮歌とはいえ,プロなのにアマチュアに歌の魂で負けたら悔しくないのか?私は明日夏が負けたら悔しいぞ。」

明日夏がアキを思い出しながら言う。

「それは,やっぱり、負けたら悔しいです。」

「よし,明日夏、その意気だ。まずは私が歌うから聴いていろ。」

「分かりました。」

「少年,カラオケを頼む。」

「分かりました。」

「マー君、イヤフォンの片方を貸してくれ。」

「イヤフォンをもう一つ繋ぎましょうか?」

「いや、歌は直接聴けるから構わない。」

「分かりました。」

誠が明日夏にイヤフォンの片方を渡す。そのとき明日夏は,春の筑波山のホテルのレストランで,誠とアキが1つのイヤフォンの片方ずつで曲を聞いていたことを思い出した。もう聞いても大丈夫だろうと思って,そのときの状況を聞こうとした。

「そう言えば、筑波山のホテルで・・・。」

「明日夏、おしゃべりするな。少年をホテルに誘うのは後にしろ。」

「そっ,そういうわけではありません。」

「橘さん,カラオケを流します。」

「頼んだ。」

久美がうなずく。誠がカラオケを流すと、歌いだした。誠は「橘さんが歌うと、この曲でもロックだな。」と思いながら聴いていた。歌い終わった久美が誠に話しかける。

「うーん、もう1回だな。」

「分かりました。」

誠がカラオケを流す。歌い終わったところで久美が明日夏に話しかける。

「こんな感じだ。歌ってみろ。」

「橘さん、私もロック歌手にしたいんですか?」

「明日夏がロック歌手にならなくても、ロックを歌えるようになって欲しい。」

「分かりました。マー君、カラオケをお願い。」

「了解です。」

「心から叫ぶんだぞ!」

「分かりました。」

明日夏が歌いだす。

「アニオタ全開!ドルオタ全開!オタク全開!・・・・。」

明日夏が歌い終わる。

「まだまだだな。ちょうど少年がそこにいるから,歌で少年の気持ちを揺り動かして惚れさせるように,自分の感情をぶつけるんだ。」

「えっ。マー君を!?」

「そうだ。」

「橘さん,僕は最初に明日夏さんの歌を聴いた瞬間に,一聴き惚れでしたので,十分揺り動かされています。」

「少年の場合は惚れたというより,僕が明日夏を何とかしなくちゃという感じだろう。」

「そう言われるとそうかもしれませんが。」

「ほら,明日夏,それでいいのか。」

「良くはないですが,この歌詞ですよ。その気持ちをぶつけたところで,人が惚れたりするんですか?」

「魂が見えれば、惚れるもんだ。私が保証する。」

「橘さんの魂が見えたら、逃げたくなる人の方が多いんじゃないかと。」

「あのな少年。魂を見せなければ通り過ぎる人でも、魂を見せれば99人は逃げる。しかし、1人は惚れるもんなんだよ。」

「99%は逃げる。それなら分かります。」

「おい、少年。」

明日夏が答える。

「橘さん、自分で言ったことですよ。」

「でも、たくさんの人に聴いてもらえれば、その1%が橘さんの大ファンになれば、プロとしてやっていけますね。」

「100万人が聴いたら1万人が大ファンか。武道館でライブができるな。」

「明日夏、その通りだ。」

「明日夏さんの場合、アニメ主題歌のタイアップが取れれば、100万人の人が聴くことは可能です。」

「そうだな。」

「橘さんの場合は、最初に聴いてもらうことが肝心と言うわけですね。」

「まあ、そうだな。」

「そのためには、やはり美香さんとの写真集をうまく利用するのでしょうか。」

「悟もそう言っているな。」

「さすが社長さん。」

「こっちは、憂鬱だがな。」

「まあ、マー君、やってみるよ。感情をぶつけるから,こっちを見てて。」

「分かりました。」


 明日夏が魂をこめて歌おうとする。歌い終わると誠と久美がニヤニヤしていた。

「何で、二人ともニヤニヤしているの?」

「すみません。一生懸命歌っているのが、何というか子供みたいに見えまして。」

「えーーー、子供みたいなの?」

「明日夏、子供のように見えるというのは、もう一歩まで来ているということだ。」

「本当かな。」

「それだけ、純真な心で歌っているということだ。これからこの曲で練習しよう。」

「ロックですか?」

「そうだ。リリースもひと段落して,今なら明日夏にも余裕があるだろう。」

「それはそうですが。」

「この曲で魂を引き出すことができれば、他の曲でも、もっと魂を引き出すことができる。」

「そうかもしれませんが。」

「そうすれば、少年に歌で心配されることはなくなるぞ。」

「でも、マー君はミサちゃんのことも心配しているでしょう?」

「美香さんの場合は、歌については全く心配していないのですが、もっと普通の生活面で心配してしまいます。」

「私の生活面は大丈夫なのか?」

「たぶん、パラダイス興行の中では一番しっかりしていると思います。」

「社長よりも?」

「社長は、橘さんのことでは無理をしそうで。」

「なるほど。それはそうかもしれないね。」

「もう悟には無理はさせないよ。私も大人になったからな。」

「でも力を入れなさ過ぎて、後でもっと力を入れれば良かったと後悔するのもいやでしょうから、会社の経営は難しいと思います。」

「そうだな。まあ、最悪は私が何とかするよ。」

「橘さん、ギャンブルはだめですよ。」

「ギャンブルはしないが、CDを出すって半分はギャンブルだよ。」

「それはそうですが、社長が橘さんを止めるようなことはしないで下さい。」

「私もマー君の意見に賛成。」

「やって、Gカップロックシンガーとして、上半身水着のような歌で歌うぐらいだよ。二人とも心配性だな。」

「有難うございます。」

「それで、マー君、仮歌をどうする。」

「そうですね。橘さんの歌はロックになっていますが、アキさんとユミさんが橘さんのように歌うのは無理ですので,参考にならないかもしれません。」

「明日夏が歌った最初のでいいんじゃないか。」

「橘さんが最初に聴いたやつですね。」

「そうだ。あれは十分上手だった。」

「橘さん、人騒がせです。」

「でも、明日夏のロックの実力が分かって良かったよ。」

「それはそうですが。」


 久美は練習室から出て、悟と話し始めていた。練習室の中で誠が明日夏に話かける。

「明日夏さん、有難うございました。歌って喉が渇いているようでしたら、お茶をいれてきましょうか?」

「いや、気にしないでいい。それよりレッドちゃんの家庭教師はどうだった?」

「レッドさん,最初は数学の勉強には気が乗らなさそうでしたが、真面目な方なので、最後はきちんと勉強したとは思います。」

「やっぱり、レッドちゃんも勉強を好きではないんだな。」

誠が時計を見る。

「数学に関しては、そんな感じでした。今、ちょうど英語のリスニングの時間ですね。」

「へー、共通テストでリスニングなんてするんだ。」

「はい。巻き戻しができない使い捨てのMP3プレーヤーを用意して、イヤフォンで聞いて解答します。」

「MP3プレーヤーは受験者数分用意するのか?」

「はい。リスニングは48万人ぐらい受けますので、それ以上の台数を用意していると思います。」

「地球環境に悪いから廃止すべきだね。」

「そういう考え方もありますが,無駄が多くても受験生に平等な環境を与えるためにそうしているみたいです。TOEFLはパソコンを使って受験しますが、年に1回の試験では、かえって無駄になりますから。」

「それは,そうだな。」

「レッドさん、落ち着いて試験を受けていれば、それなりの点は取れるとは思いますが、ちゃんとやっていますでしょうか。」

「レッドちゃんが心配か?」

「一応,家庭教師をしましたので。」

「それだけ?」

「たぶん。」

「そうか。正直だな。」

「明日はユミさんの子役のオーディションがありますので,そっちも心配です。」

「心配しすぎで死ぬなよ。」

「死亡フラグを立てないでください。ただでさえ、占いでは首を絞められて死ぬか、殴られて死ぬか、高いところから落とされて死ぬか、麻酔もかけずに脚を切られて気がおかしくなって車いすの上で暮らすかと言われていますので。」

「なんだそれ。」

「ちょっと占ってもらったときに、そう言われました。」

明日夏は、「殴るのはミサちゃん、落とすのはアイシャちゃん、脚を切るのは尚ちゃんかな。でも、首を絞めるのはだれだろう?」と考えながら答える。

「マー君、もし本当に危なくなったら相談してね。フランスのPMC(民間軍事会社)に知り合いがいるから、身辺警護を依頼できる。日本の私立探偵よりは全然強い。」

「フランスのPMCに知り合いですか。それはすごいです。」

「うん、いつもはアフリカにいてテロリストを掃討している。」

「えっ、反対に心配になります。」

「大丈夫、信用はできる。」

「分かりました。その節にはお願いするかもしれません。」

「必要なら言って。」


 誠と明日夏が雑談をしているうちに、17時半ぐらいになって、尚美がリリースイベントから戻ってきた。尚美が来たことが分かった誠と明日夏は練習室から出た。

「お兄ちゃん、ごめん。打合せが少し伸びて遅くなった。」

「まだ大丈夫だけど、今から行ける?」

「大丈夫。行ける。」

「化粧は?」

「大丈夫。このままマスクをして行く。」

「分かった。それじゃあ、行こうか。明日夏さん、有難うございました。」

「ああ。また、作詞ならいくらでも引き受けるから,曲ができたら遠慮なく言ってくれ。」

「有難うございます。」


 二人は、面接の練習会場に向かった。

「お兄ちゃん、明日夏さんと何をしていたの?」

「『おたくロック』という曲を作っていた。」

「それは『ユナイテッドアローズ』の大会参加のための新曲?」

「その通り。作詞が明日夏さんで,作曲と編曲が僕。タイトルは明日夏さんの案で今日決まったところ。」

「作曲に社長さんたちは加わらなかったの?」

「うん。亜美さんの配信用の曲を仕上げるので忙しかったみたい。」

「申し訳ないけど、そっちも重要だから。」

「それは分かっているから大丈夫。作詞は明日夏さんに頼るしかなかったけど。」

「リリースから2週間経って落ち着いてきたから大丈夫だと思う。本当はお兄ちゃんに『トリプレット』のためにも作曲してほしかったんだけど・・・。」

「うん,何曲か作ってみたけど,尚たちはドームを一杯にするぐらい人気が出て,僕の曲じゃ無理なことは分かっているから大丈夫。」

「私からお願いしたのに、ごめんなさい。」

「『トリプレット』と美香さんの曲は社長さんでも無理と言っていたから。」

「うん。」

「でも、『おたくロック』はロック調で,仮歌を明日夏さんが歌っていたら,橘さんが乱入してきて大騒ぎになった。」

「まだまだ,歌に魂が入っていない!って感じ?」

「その通り。でも,『おたくロック』を明日夏さんのロックの練習曲にすると言っていたから,明日夏さんの役に立てたみたいで,僕としても嬉しい。」

「やっぱり、橘さんは明日夏さんにもロックを歌って欲しいのかな。」

「口では言わないけど、そういう気がする。」

「へーー。」


 誠と尚美が練習のためにパスカルが借りたレンタル会議室に到着した。 

「こんばんは。」

「こんばんは。兄がいつもお世話になっています。」

アキが挨拶をする。

「こんばんは。いつも大変お世話になっているのはこっち。」

「皆さんとこうして会うのは1年ぶりぐらいでしょうか。」

「私は夏の伊豆でも会ったけど、他の人はそうなると思う。」

「こんばんは。お久しぶり、万が一誰かに聞かれたときのことを考えて、ここでは妹子ちゃんと呼ぶね。」

「さすがです。その方がいいと思います。」

「でも、今日は妹子ちゃんに変身しないで来たんだ。」

「イベントの後に打合せがあって、時間がなかったもので直接来てしまいました。」

「忙しいところを本当に有難う。」

「今日は私の面接の練習のために来て頂いて、大変ありがとうございます。」

「兄がユミちゃんが受かることを真剣に望んでいますから応援するので、頑張ってね。」

「なおみさん、今日は娘のために有難うね。」

「いえ、マリさんには、うちの事務所の明日夏がお世話になっていますので、少しでもお返しができれば嬉しいです。それで、パスカルさん、段取りはどうなっていますか?」

「おっ、おう。えーと、こんな感じだ。」

パスカルが段取りを書いた書類を渡す。尚美がそれを一通り見てから答える。

「分かりやすく良くまとまっています。さすがです。」

「おう、議員さんに説明するため,段取りを説明する書類づくりには慣れている。」

「そうなんですね。でも,それはそれで大変そうですね。」

「その通り。分かってもらえると嬉しい。」

「兄からユミさんが練習したビデオを見せてもらいましたので、最初は,お手本と言うわけではありませんが、こんな感じでやればいいんじゃないかというのを、私が全く同じセリフでやってみようと思いますが、よろしいでしょうか。」

「それは本当に有難い。」

「お兄ちゃんは、ラッキーさんの役をお願い。」

「分かった。」


 尚美が一度部屋の外に出てから、面接の見本を始めた。質問に対する尚美の回答は、先週のユミの回答と一言一句同じだった。面接が終わると尚美はドアの外に出て、一礼して扉を閉めた。面接をしたパスカルとアキが話す。

「完璧だ。」

「回答の内容は同じなのに圧倒的よね。」

「そうだな。妹子ちゃんが見せた演技をまた見てみたいと思ったよ。」

「私もそう。」

「これがアマチュアとプロの差ということなのか。」

「そうね。」


 尚美が再び部屋に入ってきて説明する。

「ユミさん,ビデオを見た限り総合力があって良くまとまっているのですが,小学生らしく少し初々しさみたいな感じが出せればいいんじゃないかと思って,やってみました。」

「確かに,ユミちゃんより小学生らしかった。」

「そうだな。」

誠が話しかける。

「参考のために今の妹の応答をビデオに撮りましたが,門外不出でお願いします。」

「俺と湘南の画像より,桁外れに絶対に門外不出なことぐらい分かっている。」

「パスカル,何,俺と湘南の画像って?」

「あっ、それは秘密だ。」

「二人のBLの写真?コッコか誰かに頼まれたの?」

「えーと,自分たちで撮ったんじゃないけど,誰が撮影したかは秘密だ。」

「なるほど。」

「時間がもったいないですので、ユミさん,妹がやったような感じを出す面接の練習をやってみませんか。」

「湘南がごまかした。」

「アキちゃん、妹子ちゃんの時間がもったいないから始めよう。」

「ごまかされた感じだけど,ユミちゃん、始めようか。」

「分かりました。なおみさんの手本の感じを出すようにやってみます。」


 尚美はそのBL写真の方も気になっていたが、ユミの練習に参加することにした。今回はラッキーがいないので、ラッキーの代わりをパスカルが、パスカルの代わりを誠が務めることにした。そして、内容を少しだけ変えてユミが面接の練習を行った。練習は順調に進行した。最後に尚美が予定にない質問をする。

「堀田さん、堀田さんがもし合格して、トレーニングを積んだ後、芽があると判断したら、当社は堀田さんのプロモーションのために、3億円ぐらいを投資する予定です。3億円ってどのぐらいのお金かわかりますか。」

「3億円ですか?・・・・・えーと、家を買うお金でしょうか。」

「東京都心のマンションだと,そのぐらいの値段でしょうか。ユミさんには投資したお金の10倍ぐらいは稼いでもらう必要がありますが、それにはどうすれば良いと思いますか?」

「30億円ですか。プロデューサーの指示に従って,全力で頑張るということしか約束できません。」

「有難うございます。」


 ユミが合計3回ほど練習した後、マリの保護者としての面接をすることにした。

「それじゃあ、最終面接でのマリちゃんの練習をしてみましょうか。」

「パスカルさん、了解。」

マリが一度部屋から出て扉を閉めると、誠が呼びに行く。そして,マリが着席してから,面接の練習を始める。

「ご自分の名前と、オーディション受験者の名前、受験番号、関係を教えてください。」

「堀田真理子といいます。受験者は堀田美咲、受験番号は8番、私は美咲の母親です。」

「このオーディションを受けようと言ったのは、どなたでしょうか。」

「美咲はプロのタレントになりたいという強い意志を持っています。溝口エイジェンシーのナンシー・レノンさんが,美咲が所属する地下アイドルの会計担当者と知り合いだったため、このオーディションの話を聞いて、美咲が決断して受験することにしました。私と父親の正志は基本的には見守る役です。」

「美咲さんが地下アイドルをしていることに関してどうお考えでしょうか。」

「地下アイドルと言っても,メンバーをプロの芸能人にするためのアマチュアのユニットです。そのユニットに入ってから,生き生きと生活するようになって,このままプロの芸能人になれるように親として応援していきたいと思っています。」

「美咲さんは家庭ではどのようなお子さんでしょうか?」

「弟の面倒もよく見ますし、夕食後の洗い物の手伝いもしてくれて、とっても良くできた子だと思います。」

「美咲さんの学校での様子を聞いていますでしょうか。」

「はい。ただ、学校ではあまり目立たないようにしているということです。」

「美咲さんの長所を教えて下さい。」

「自分のやりたいことには、本当に熱心に取り組むことだと思います。地下アイドル活動で必要な歌やダンス、トークは毎日一生懸命練習しています。」

「美咲さんの直した方が良いと思うところを教えて下さい。」

「アイドル活動の練習は熱心にするのですが、学校の勉強があまり好きでないようで、もう少し勉強してもらえると良いと思います。」

「最後に美咲さんがタレントになることに対して、ご両親の思いをお聞かせください。」

「はい。美咲が生き生きと生活できる芸能人になるために全力で応援したいと思っています。そのためなら,私は一肌でも二肌でも脱ぐつもりです。なんなら、全裸にもなる覚悟です。ですので、美咲をこのオーディションに合格できるよう,切にお願い申し上げます。」

「お母さんの意気込みのほど、大変良く分かりました。」

尚美も答える。

「はい、それでは堀田さんここで脱いでみて下さい。」

「尚、何を言ってるの!?」

「お兄ちゃん,そういうことじゃなくて。そんなことを言うと冗談で済まなくなって、本当にそう言われるかもしれないということだよ。」

「・・・・・。」

「そう言えば、溝口エイジェンシーにはヌード写真集を出しているような芸能人もいっぱいいるわよね。」

「はい。溝口エイジェンシーから出版するなら、1冊で1000万円ぐらいの売り上げは必要ですが。」

「1000万円というと,3000円で3300冊か。」

「3300冊か。パスカルさん,さすがに難しいわよね。」

「難しいわよねって,マリちゃん,本当にやる気なんですか。」

「私にはどれだけ売れるか分かりません。ただ,面接にグラビア部門の人がいるかもしれませんし。その方が採算合うと思えば,誘いがかかるかもしれません。」

「それじゃあ,パパに相談しておかなくちゃか。」

「ママ,絶対にダメ。私は全然構わないけど,徹が可哀そう。」

「俺もマリさんの写真集なら,喪服姿の方がいいと思う。」

「また,パスカルはバカなことを。」

「湘南はそう思わないか?」

「思わないこともないです。確かに似合いそうです。」

「湘南もなの?男って分からない。」

「湘南,喪服アイドルユニットなんてどうだ。」

「葬送のフリーレンズ?」

「なるほど、メガネをかけた喪服女性のユニットか。湘南,なかなかいいね。」

「パスカル,私はやらないわよ。」

「大丈夫,アキちゃんには喪服は似合わない。」

「はい。アキさんとユミさんは普通のアイドルの格好が一番似合うと思います。」

「分かっていればいいけど。」

「でも,喪服ぐらいなら,正志さんも全然大丈夫じゃないかな。」

「申し訳ないですが,溝口エイジェンシーには,そういうマニアックな写真集を出す部門はないです。」

「それは残念ね。」

「でもパスカルさん,喪服のアイディアを私たちが使ってもいいですか。」

「それはもちろん。妹子ちゃんにはお世話になっているし,俺たちには実現できないし。何に使うかなんとなく分かるけど,聞かないから大丈夫。」

「有難うございます。」


 マリの練習が終わった後、パスカルが誠に向かって話しかける。

「それじゃあ,後片付けはこちらでやるから,湘南と妹子ちゃんは先に帰っていいよ。」

「でも。」

「妹子ちゃんは明日も仕事があるから。」

「そうそう,湘南,パスカルの言う通り。」

「分かりました。有難うございます。それじゃあ,尚,お言葉に甘えて帰ろうか。」

「うん,分かった。今日は楽しかったです。」


 帰り際にユミが尚美に挨拶をする。

「今日は私の練習のために来て頂いて、大変有難うございました。」

「兄がユミさんがオーディションに受かるために頑張っていますので、それを助けるのは妹としての務めですから気にしないで下さい。」

「そのことで、以前、身の程知らずなことを言ってしまってごめんなさい。」

「えっ、ああ。」

「湘南兄さんは大切にしますので、亜美さんに徹にちょっかいを出さないように、尚美さんから言って頂けないでしょうか。」

尚美は「自分の弟は可愛いということか。でも、亜美先輩は徹君が18歳になるまで待つと言っているし。」と思いながら答える。

「亜美先輩は分別がありますし、そのことで問題を起こせば、亜美先輩の芸能人としての将来がなくなるといつも言っていますので、大丈夫だと思います。」

「そうですか。有難うございます。」

「何かあったら、兄に相談して下さい。私からまた注意します。」

「よろしくお願いします。」

「それではまた。」


 誠と尚美が帰った後,残ったメンバーで後片付けをしながら雑談をする。

「それにしても,なおみさん,すごかったわね。場の全部を持って行ってしまって、プロの芸能人という感じだった。ママも負けてはいられないわ。」

「ママは負けてもいいでしょう。でも、私も全然勝てそうもないけど。」

「ユミちゃん,何を言っているの。初めから負けた気になっちゃだめよ。」

「ユミちゃんがそう言うのは,はっきりした実力の差が分かったということですから仕方がないんじゃないでしょうか。」

「アキちゃんも弱気なことを言ったらダメ。プロのアイドルになりたいんでしょう。」

「もちろん,私もプロのアイドルになりたいですけど,センターじゃなくても仕方がないと思います。メンバーとしてユニットを支える役で。やっぱりトップアイドルのセンターは私とは違うと思います。」

「アキちゃん、話は変るけど。」

「何?パスカル。」

「湘南から聞いたんだけど,溝口エイジェンシーがオタク男性向けのアイドルユニットを作るためのオーディションを4月から始めるということだよ。」

「それは,『ハートリングス』が王道アイドルユニットの『ハートリンクス』にイメージチェンジしたから?」

「そうみたい。まだ詳しい情報はないみたいだけど,美人じゃなくてもいいので,オタクで個性的な女の子を集めるということ。詳しい情報が入ったら教えてくれるって。」

「本当に?」

「本当に。」

「それは嬉しい。」

「でも,パスカルさん,美人じゃないなんて言うのはアキちゃんに失礼よ。」

「マリちゃん、美人じゃだめということではなくて,個性的な子を集めるという話。」

「それじゃあ,美人でもいいわけね。」

「それはそうだと思いますけど。」

「でも、プロデューサー,クラスで4番目ぐらいの可愛いい子を集めるというトップアイドルユニットもありましたけど。」

「そうか。残念だけど、それならアキちゃんはだめね。」

「私はクラスで2番目ぐらいですからね。ははははは。」

「私なんて,学校で1番だから全然ダメよね。」

「ママ!恥ずかしいから,そう言うの止めてよ。」

「ううん,ユミちゃんもアキちゃんも,そのぐらい言えなくちゃダメということ。」

「ユミちゃん、マリちゃんの場合は本当だったかもしれない。」

「あら、パスカルさんが私を誘惑する。」

「だから、ママ、そう言うことを言わないで。」

「高校3年の時は久美子と1、2を争っていたかもしれないけど。」

「久美って、橘さんですね。タイプが違うから派閥ができそうですね。」

「パスカルさんは、久美派、私派?」

「うーーーん、アキちゃん派ということで。」

アキがパスカルを叩く。

「パスカル!まっ、まあ、プロデューサーだから当然よね。」

「結局、男は若い女がいいということね。ふん。」

「マリちゃん。湘南なら、私や橘さんよりマリちゃんがいいと言うと思う。」

「さすが、湘南さん。」

「俺は湘南が高校の時に好きだった同級生を卒アルで見せてもらったことがあるけど、外見的には橘さんよりマリちゃんに近かった。」

「おー,さすが湘南さん。」

「パスカル,湘南が高校の時に好きだった子って!私も見たい。」

「うーん,アルバムの写真は撮らせてもらえなかったから,見たければ湘南に言ってみて。どちらかというと体育会系の子みたいだけど。」

「パスカルさん,私も体育はまあまあ得意だったわよ。」

「ママ,本人がいないのにアピールしても仕方がないでしょう。」

「でも,私も体育は得意な方。」

「アキ姉さんは,ダンスも上手ですから分かります。ママよりずっうーと。」

「我が子ながら酷いわね。」

「でもユミちゃん,まだまだプロとは違う。」

「そうですけど。」

「ユミちゃんが溝口エイジェンシーに受かれば,3億円ぐらい投資してもらえるという話だから、大変さも違いそう。」

「アキ姉さん,3億円って,よく分からないです。」

「私もよく分からない。」

「パパが朝から晩まで働いて,一生かけて稼げるお金かな。」

「へー,すごい。でも,プロデューサーは公務員だからもっと稼げそう。」

「あの,ユミちゃん,残念だけど公務員はそんなにたくさんは貰えない。皆様からの税金が給料になるから。」

「そうなんだ。」

「その代わり,会社と違ってつぶれることがないのがいいことかも。」

「なるほど。」

「アキちゃんがアイドルで稼いで,パスカルさんに儲けさせてあげればいいんじゃない。」

「一応,そのつもりではいますけど。」

「ママ,そんなことを言うなら,ママがアイドルになってパパ・・・。ごめんなさい。何もしなくていい。」

「ユミちゃんがそこまで言うなら,ママ,頑張るわ。」

「頑張らなくていいから。『ユナイテッドアローズ』には迷惑をかけないで。」

「分かったわよ。新ユニットを立ち上げればいいのね。」

「新ユニット!?プロデューサーに迷惑をかけないでね。」

「パスカルさんをお金持ちにしてあげる。」

「気を付けよう,甘い言葉と暗い道。」

「俺は公務員だからいくら儲けても俺の収入にはできないので,みんな俺のことは気にしないでいい。大きな赤字にはならないで欲しいけど。」

「大丈夫。大船に乗った気持ちでいて。」

「分かりました。それじゃあ、ユミちゃんも明日面接試験だから、帰ろうか。」

アキが同意する。

「そうね。ユミちゃん、がんばってね。」

「はい、全力を尽くします。」

「それじゃあ、明日、試験が終わったらみんなで反省会をしよう。」

「了解。」


 帰りの電車の中で誠と尚美が話す。

「尚。えーと、溝口エイジェンシーにはいろんな人がいるのかもしれないけど、あまり流されないようにね。」

「マリさんのときの話?でも、お兄ちゃんも、美香先輩や明日夏先輩は、お兄ちゃんがいい加減な気持ちで付き合っていい人じゃないということを忘れちゃだめだよ。」

「分かっている。気を付ける。でも、尚はパラダイス興業の平田社長や橘さんの言うことを聞くといいと思う。」

「私もそう思う。でも、溝口エイジェンシーと比べるとうちの事務所、明日夏先輩がデビューするまで良くやってこれたと本当に思う。」

「カツカツだったみたいだけど、バイトの紹介とかで繋いできたんだと思うよ。バンドの皆さん、バイトはちゃんとやっているようだし。」

「そうだろうね。」


 そのとき、尚美のスマフォにSNSのメッセージがきた。

ハートレッド:1日目の試験、まあまあできました。いま、自己採点しましたが、国語と英語は80%ぐらいできていそうです

なおみ:それなら第一志望に合格できそうですね

ハートレッド:有難うございます。ただ明日の方が苦手科目です

なおみ:明日も全力を尽くしましょう

ハートレッド:はい。それで、お兄さんと監督のアドレスを知らないので、二人にも伝えておいてもらえますか。

なおみ:男性のアドレスは知らない方が良いと思って、兄もパスカルさんも伝えなかったんだと思います。今は帰りの電車で兄が隣にいますので伝えます


 尚美が誠にスマフォの画面を見せる。

「ハートレッドさんから。」

「・・・・良かった。第一志望、受かりそうな感じだね。」

「うん。レッドさんに何かメッセージがある?」

「自分で打っていい?内容は見てもいいから。」

「了解。」


なおみ:誠です。熱くないお風呂にゆっくり浸かってリラックスしてから早く寝て下さい。

ハートレッド:お兄さん、有難うございます。それで私がお風呂に入っているところを想像するんですか?

なおみ:しません。もし試験中うまくいかないことがあっても、慌てずに一度目を閉じて落ち着いてから、もう一度取り組んで下さい。

ハートレッド:お兄さんは監督といっしょにお風呂に入ったりするんですか?

なおみ:筑波山と夏の海とアキの芋煮会と冬のスキーで4回ぐらいあります

ハートレッド:そんなに。一緒に入っているところを見てみたい

なおみ:それは無理だと思います

ハートレッド:プロデューサーと私、お兄さんと監督がいっしょに混浴の温泉に入って,兄妹が入ったのに付き合ったということにすれば大丈夫じゃない

なおみ:妹がお風呂に入っているところをパスカルさんに見せるわけにはいきません

ハートレッド:そうか。うーん、ブラックなら混浴に付き合ってくれるかもしれない

なおみ: 結心さん、今は試験に集中して下さい

ハートレッド:分かったわよ。その話はまたいずれ

なおみ:分かりました。明日の試験頑張って下さい。

ハートレッド:有難う

なおみ:妹に代わります

なおみ:なおみです。明日の試験頑張って下さい

ハートレッド:了解です


 尚美が「何,この会話」と思いながら,誠に話しかける。

「お兄ちゃん,ハートレッドさんもお兄ちゃんがいい加減な気持ちで付き合っていい人じゃないからね。」

「僕もパスカルさんも,ハートレッドさんに変なことは一言も言っていないよ。」

「うーん,そう言われればそんな感じにも見えるけど。もしかするとレッドさんはBLが好きなのかな。」

「そういうところが少しあると思う。」

「そうなんだ。今まで全然気が付かなかった。」

「でも,レッドさんは分別があるから大丈夫だと思うよ。」

「コッコさんと比べて?」

「そうかな。レッドさんは,芸術のために人間性を捨てることはないと思う。」

「芸術ねえ。私には分からないけど。」

「分かる必要はないと思う。」

「まあね。そう言えば,お兄ちゃんと明日夏先輩が作った『おたくロック』って曲,今聴くことができる?」

「大丈夫。ちょっと待って。」

誠が尚美にイヤフォンを貸して,明日夏が録音した仮歌を流す。


 日曜日の朝、ハートレッドはマスクをして共通テストの会場に向かった。

「今日は理科の基礎と,最大の苦手科目の数I。頑張らないと。テストは午前中で終わるけど,午後から新曲の練習とテレビ出演か。」

テスト会場に着いたハートレッドは,化学基礎と生物基礎の復習をするために教科書を取り出そうとしたが,目の隅に入ったコッコの漫画を取り出した。

「リラックスも重要よね。」

ハートレッドは漫画を読みながら時々「平塚,それはだめだ。」と呟きながら,声を出して笑っていたため,周りの注目を集めていた。

「おい,あの女,試験会場で漫画を見て大笑いしているぜ。」

「ゲッ,あの薄い本。BLの同人だぜ。」

「本当だ。それもR18だ。腐っていやがるぜ。」

「見た目は美人そうだけどな。」

「本当の美人がR18のBLの同人漫画なんて読むか。マスク美人というやつだろう。」

「マスクをしていると美人に見えて,マスクを取ったら不細工というやつか。」

「その通りだな。」

ハートレッドも白い目で見られていると気付いてから,「スマイル。スマイル。」とつぶやいて,ニコニコしながら静かに薄い本を読んでいた。


 ユミは午後からのオーディションのため,お昼ご飯を食べるとすぐにマリといっしょに家を出た。

「ユミちゃん,大丈夫?」

「うん。想定外の質問が出るのが心配だけど,何とかする。」

「ママのためにも頑張ってね。」

「分かっている。受かったらアキ姉さんには申し訳ないけど。」

「そのことは,アキちゃんは構わないと言っているし,ママもいるから。」

「それが一番心配なんだけど,このオーディションには全力をつくす。」

「その意気よ。」


 ユミは到着後,受験者だけの控室に入り受験番号の順番に座った。受験日が男女分かれていたため、部屋には女の子しかいなかった。

「これがライバルか。みんな着飾っているな。私より若い子も多いかな。」

受験番号が1つ前で隣のマスクをしている女の子が不平を言っていた。

「何で私が子役のオーディションなんて受けなくちゃいけないんだろう。そんなに芸能人がいいなら,お母さんが自分で受験すればいいのに。」

ユミが尋ねる。

「こんにちは。」

「えっ、こんにちは。」

「芸能人になるのがそんなにいやだったら、わざと落ちればいいんじゃない?」

「あっ、不満が声に出ていたのか。うん、落ちるつもりだけど、落ちると2時間ぐらい怒って晩飯抜きとかになるから、いい方法はないかなと思って。オーディションが中止になってくれればいいのに。」

「それは私が困る。お父さんに言ったら?」

「私のことだと、お父さんはお母さんに逆らえない感じ。」

「でも、芸能人になるのがそんなにいやなの?」

「うちの母だと、奴隷とか、もっとひどいことでもこき使っていいから、私を有名にしてくれと言いそう。」

「私はこき使われる覚悟はあるけど。」

「そうなんだ。でも、芸能人はそういう人が向いているよね。」

「でも、それならアマチュアで活動してみない?うちのプロデューサーに相談してみてもいいけど?」

「プロデューサーって?」

「私の地下アイドルユニットのプロデューサー。イケメンじゃないけど、良い人だよ。」

「本当に?」

「完全にアマチュアのユニットで、プロデューサーは公務員だから趣味でメンバーをプロの芸能人にするために活動しているみたい。」

「そうなんだ。それじゃあ地下アイドルと言っても変なことはしていないんだ。」

「うん。いっしょにチェキ写真を撮るぐらい。学校の勉強をさぼると湘南兄さんがうるさいのが欠点かな。」

「へー、ちょっと楽しそう。」

「うん、旅行に行ったり、すごく楽しいよ。クラブ活動と思って参加できる。」

「そうなんだ。」

「それじゃあ、私がオーディションに受かったら私の代わりに入ってよ。そうすれば、あなたのお母さんも我慢してくれるんじゃないかな。」

「そうね。積極的とは思ってくれるかも。」

「ユニットは『ユナイテッドアローズ』で検索すれば出てくるから連絡して。プロデューサーには伝えておく。」

「有難う。」

「名前は?私は堀田美咲。」

「名前は恥ずかしいんだけど、谷口地球。地球と書いて、てらと読むの。」

「谷口ちきゅうさんと書くのね。分かった。もしかして、小学5年生?」

「そうだよ。」

「私もそうだから、ちょうどいい。」

その後、オーディションの一次面接は普通に行われ、練習の成果もあり、ユミはきちんと答えることができた。


 ハートレッドは試験が終わると、テレビ局に行き歌番組に出演した。そして、『トリプレット』と『ハートリンクス』のテレビ出演が終わって、尚美、由佳、亜美とハートレッドがパラダイス興行にやってきた。

「ただいま帰りました。」「ただいまだぜ。」「ただいま。」

「こんばんは。」

「お帰りなさい。ハートレッドさん,いらっしゃい。」

「尚ちゃん,由香ちゃん,亜美ちゃん,レッドちゃん,お帰り。」

「明日夏先輩は残っていたんですね。」

「うん、亜美ちゃんの曲をみんなで作っていて、だいたいできたんだけど、歌詞の中でもう少し良い言葉がないか探している。」

「さすがです。でも、みんなと言うと、兄も来ていたんですか?」

「ううん、マー君はいろいろ忙しいみたいだから,今日は来ていないよ。亜美ちゃんの曲は社長とアイシャちゃんでまとめた。」

「兄は『おたくロック』を作曲していたからですね。」

「たぶん今ごろは,マリさんの家でユミさんとやらの面接試験の反省会と『おたくロック』のプレプロ制作をしていると思う。」

「有難うございます。アイシャさんもそっちですか?」

「アイシャちゃんは、作曲の後は溝口社長のところに行ったよ。溝口社長とヴァイオリンのパート練習をするって。」

「亜美さんのチャンネルの伴奏ですね。大丈夫でしょうか?」

「ミサちゃんほどじゃないけど、アイシャちゃんは溝口社長よりは力がありそうだから大丈夫じゃないかな。」

「あの、そう言う意味ではなくて。」

「尚ちゃん、たぶん大丈夫だと思うよ。アイシャちゃん、物おじしなくて押しが強いけど、空気が読めないわけではないし。」

「社長、有難うございます。明日夏先輩とは違うというわけですね。」

「尚ちゃん、酷い。」

「久美は少し二人を見習ってくれるといいんだけど。」

「悟、酷い。」

「社長、亜美さんの曲の出来はどうですか。」

「悪くはない。なかなかユニークな曲になったと思うよ。」

「有難うございます。社長が言うなら確かだと思います。」

「少年が作った『おたくロック』も、軽めで明日夏が歌うロックにちょうど良かった。」

「私も昨日聴いてそう思いました。あちらの大会の邪魔にならなくなったころに、明日夏先輩がセルフカバーするといいかもしれませんね。」

「それもいいかなと思っているけど、ロックだと橘さんのしごきが一段と酷い。」

「酷いだと?」

「一段と有難い。」

「その通り。だが,ロックを歌うにはまだ腹筋が足りない。」

「筋肉がついて、腹筋が割れたらどうしよう。」

亜美が答える。

「明日夏さん,三段腹になるよりはいいんじゃないですか?」

「それは亜美ちゃんこそ気を付けないと。」

「ダイエット,頑張っているから大丈夫です。でも,由香がダイエットをしていないのに,その心配がないのが羨ましい。」

「うーん,褒められている気がしないのはどうしてだ。」

「褒めているよ。由香の切れ切れのダンスは私じゃ絶対にまねできない。」

「でもさ、男子にはレッドぐらいが一番いいんじゃないか。」

「由香ちゃん,ミサちゃんをディスっているの?」

「そんなことはありません。でも,社長,ミサさんみたいなスタイルをしていると、一緒にいる時に気を使っちゃわないですか?」

「それはあるけど,それはスタイルじゃなくて,ミサちゃんの性格の方じゃないかな。」

「まあ,社長、橘さんには気を使っているようには見えねーしな。」

「やっぱり,スタイルより性格が重要と言うことだよ。」

「社長,その通り。いいこと言うね。」

「私は由香みたいに切れ切れのダンスが踊りたいと本当に思っているんだけど,監督にもお兄さんにも,絶対に優美に踊った方が受けると言われて,そんなものかなと思っている。」

「普通の男性はそうだろうな。リーダーも最近はわざとスピードを落としているよな。」

「そうなんですか?」

「はい,そういうところもあります。」

「なるほど。」


 ちょうどその時,扉が開いてミサがやって来た。

「こんばんは。」

「ミサちゃん,いらっしゃい。」

「明日はオフだし,羽田から来てしまいました。」

「いつでも大歓迎だから。」

「でも,噂をすると影だね。」

「明日夏、私の噂をしていたの?どんな。」

「スタイルについてだよ。」

「また。」

「スタイルが良すぎると男性が気を使いすぎないか,社長に確かめていた。」

「そんなの気にしなくてもいいのに。ところで誠は?」

「今日は来てない。マリさんの家で,ユミさんとやらの面接の反省会と『おたくロック』のプレプロ制作をするって言ってた。」

「そうなんだ。でも,『おたくロック』って?」

「マー君と私で作った地下アイドル向けの曲。ロック調だけど,ロックというほどのものではない。」

「二人で作ったの?」

「この曲はそうかな。」

「社長は亜美ちゃんの曲の方で忙しかったし。」

「昨日,3時ごろから明日夏と少年が練習室に籠って曲を仕上げて,明日夏が仮歌を入れた。最初はあんなものかな。」

「二人で練習室に籠ったの?」

「美香、少年が明日夏に変なことをするわけはないし,ここからでも見えるから心配はいらないよ。」

「そうだけど。二人で籠ったんだ。」

「その曲,本格的なロックというよりロック調って感じだけど,明日夏のロックの練習のためにはピッタリで,これから明日夏をこれで鍛える予定だ。」

「そうなんですね。ちょっと聴かせてみてくれる。」

「あんまり自信ないけど。」

「いいから。」

「それじゃあ,仮歌バージョンならファイルを持っているけど,ミサちゃん、イヤフォン持っている?」

「うん,持っている。」


 ミサが明日夏のスマフォに自分のイヤフォンを繋ぎ,『おたくロック』の仮歌を聴く。聴き終わったところで感想を述べる。

「明日夏,だめだよ。誠が作曲したんだから,もっとちゃんと歌わないと。」

「これは仮歌だから。」

「それでもだよ。でも明日夏はロックを歌ってこなかったから,仕方がないか。それじゃあ分かった。私が歌う。」

「マー君,ミサちゃんのためのロックの曲も作っているみたいだけど,なかなかいい曲ができないって悩んでいた。」

「本当に!」

「この曲もミサちゃんには合わないと思っているみたいだよ。」

「そうかな,これはこれでいい曲だと思うよ。」

「でも,ミサちゃん,アニオタでも,ドルオタでもないから歌詞が合わないよ。歌うにしても内輪だけにした方がいいと思う。」

「そうか。残念。」


 明日夏が話題を変える。

「それで、レッドちゃん、試験はどうだった?」

「車の中でプロデューサーにも採点してもらったんですが、思ったよりできていました。」

「それは良かったね。」

「プロデューサーのお兄さんと監督のおかげです。」

「へー。マー君の家庭教師?どうだった?」

「結局、金曜日まで毎日見てもらったんですが,すごい勉強をさせられました。あんなに勉強したのは生まれて初めてです。」

「えっ,レッド,誠と金曜日まで毎日会っていたということ?」

「そうですが,火曜日からは監督もいっしょです。」

「監督?」

「パスカルさんのことよ。」

「そうか。」

「でも,勉強させられたって,あまりマー君らしくないけど、それはレッドちゃんのためと思ったからだと思うよ。」

「私も明日夏先輩の言う通りだと思います。」

「はい、お兄さんの場合は,私とあとはプロデューサーのためだと思います。」

「うん,レッドちゃんの言う通りだね。でも,マー君がそんな厳しかったの?」

「厳しいというのとは違うと思います。1日目のお兄さんだけのときは、それほどでもなかったんです。でも,2日目から監督に古文・漢文も見てもらったのですが,二人のコンビは最強という感じでした。」

「パスカルさんとやらは古文・漢文が得意なのか?」

「はい。それで,気が付くと勉強させられている感じです。」

「なるほど。話によると,あの二人は、利用しようと二人に近づいた性悪女子を、性格の良い女子に変えてしまうらしいからね。」

「ははははは,その感じ分かります。私も、古文は好きじゃなかったんですが、少し好きになりました。」

「勉強嫌いを勉強好きにする。それもすごいね。」

「でも,あの二人,彼女ができないんじゃないでしょうか。女の子が二人の間を割って入るのは,並大抵じゃない気がします。」

「ハートレッドちゃんでも。」

「はい。私の場合は、あの二人が話しているのを見ていると、いわゆる腐女子になってしまいそうです。」

「腐った女子の方?」

「はい。」

「ノーマルな女子を腐らせる。それは困ったものだね。」

「二人を題材にしたBL漫画があるそうで、それをもらって見ていました。」

「もしかして、コッコさんとやらが描いたやつ?」

「明日夏さんも知っているんですか?はい、はい、作者はコッコと書いてありました。」

「コミケで売っていた。でも、よくマー君がくれたね。」

「溝口エイジェンシーのオーディションの情報と交換ということで。」

「溝口エイジェンシーのオーディション?」

「監督がプロデュースしているアイドルユニットの小学生が、溝口エイジェンシーの子役のオーディションを受けているそうです。」

「あっ,ユミちゃんとやらね。その通り。今日受けたはずだ。」

「私はBL漫才のコンビで、漫才コンビのオーディションを受けたらと言ったのですが、却下されてしまいました。」

「BL漫才コンビ!それは面白い発想だね。」

「有難うございます。それで、試験前日の金曜日に私がリラックスするために、二人にその漫画のポーズをしてもらったのですが、見てみますか。」

「レッドちゃんは、そういうことをするわけね。」

「はい、これです。」

ハートレッドがスマフォの写真を明日夏に見せる。

「これは、ミサちゃんには刺激が強いから,見ない方がいいね。」

「明日夏,誠の写真なら私も見たい。」

横から写真を見ていた尚美,亜美,由香,ハートレッドが答える。

「美香先輩が見るのは,あと5年してからの方がいいと思います。」

「あと5年か。まあそうかな。」

「ミサさんは本当に純真ですが、さすがに,あと3年すれば大丈夫じゃないんでしょうか。」

ミサが答える。

「みんながそう思うの?」

「そうみたいです。写真は保存しておきますので,3年後にお見せします。」

「レッド,約束だよ。」

「分かりました。」


 尚美がハートレッドに話しかける。

「あの、ハートレッドさん。」

「プロデューサー、何でしょう。」

「こういう写真を撮るのも、ほどほどにお願いします。」

「もしお兄さんたちのことが心配でしたら,お兄さんたちも楽しそうでしたので大丈夫だったと思います。」

明日夏が尋ねる。

「もしかして、レッドちゃんはすごく喜んだ?」

「はい、ベッドの上を笑い転げていました。母がいったい何事かと思って様子を見に来たぐらいです。」

「それなら、試験前のレッドちゃんをリラックスさせられて、マー君も嬉しかっただろうね。」

「兄が喜んでやったというのは明日夏さんの言う通りだと思います。ですので、兄のことでなく、ハートレッドさんのイメージのためにです。これから、知的美人のイメージで売っていこうと思っていますので。」

「分かりました。今日も試験の休み時間にその本を読みながら、笑いながらバール、平塚とつぶやいていたら、周りの人から白い目で見られましたので、BLはたしなむ程度にします。」

「どこかで聞いたことがある話だね。」

「レッド、バールと平塚って?」

「監督とお兄さんがモデルになった登場人物のあだ名です。」

「やっぱり、その漫画見たいな。」

「ミサさん、あれはR18の漫画なので5年後でしょうか。5年後にお見せします。」

「そう。」

「私は元々はオタク男性向けに売り出すということで,前のプロデューサーの指示でイラストを勉強していたんですが、BLイラストを描いてみようかなと思っています。」

「そこまでするの。さすがの私も、レッドちゃんはあまり腐らない方がいいと思うけど。」

「明日夏さんがそう言うのでしたら、本当に気を付けます。」

「でも、描いたら見せてね。」

「分かりました。いずれは漫画も描きたいのですが,やっぱり面白いストーリーを考えるのが難しいです。」

「確かに面白い設定やストーリーを考えるのは難しいよ。長編漫画は設定だけで分厚い本になるというし。」

「設定は目の前にありますので、あとはそれでどうストーリーを作るかです。」

「なるほど。レッドちゃんがパラダイス興行になじんでいる理由が分かった気がしたよ。」

「有難うございます。」

尚美は「恋愛感情と言うわけではなさそうだし、お兄ちゃんも楽しそうだからいいか。」と思いながら、注意を促す。

「二人ともほどほどにお願いしますね。」

「ダコール。」

「プロデューサー、大丈夫です」


 ハートレッドが話題を変える。

「水曜日に事務所に行ったときに聞いたんですが,私たちのイメージチェンジもあって、うちの事務所、オタク男性向けのアイドルのオーディションを始めるそうですね。」

「今井プロデューサーは,来月には募集公告を出して,4月からオーディションを始めると言っていました。」

「レッドちゃんをオタク男性向けにするのは、やっぱりもったいなかったよね。」

「でも明日夏さん、今ならオタク男性向けでももっとうまくやれる気がします。」

「そうなの?」

「はい。昨年は,オタク男性を少し見下していたのがいけなかったんです。」

「まあ,普通の女の子はそうだからね。」

「でも,今なら,オタクの人にもっと寄り添うように接することができると思います。というか,私自身もオタクの楽しさがすごく分かりましたし。」

「それは,兄とパスカルさんを見てですか?」

「はい。見て,話してです。」

「そうですか。ただレッドさん,申し訳ありませんが,今年から『ハートリンクス』に路線変更したばかりですので,再度変更することはしばらくはできないと思います。」

「それは分かっています。それに残りの4人のメンバーにオタク路線は無理だと思いますので,基本は『ハートリンクス』の路線で進めるのがいいと思っています。」

「分かっているのでしたら大丈夫です。溝口エイジェンシーも『ハートリンクス』は正統派アイドルで強力に推すみだいですから。」

「そうなんですよね。何故か私はそっちの方が受けますよね。」

「レッドちゃんの性格がそうじゃないのは分かったけど、外見がそっちだから、今はそっちに合わせた方がいいと思う。」

「オタクの明日夏さんがそう言うなら、そうなんでしょうね。」

「私だけじゃないと思うよ。そう思う人は手を上げて・・・・ほら、全員だよ。」

「分かりました。プロデューサーの方針に従って,私は人前では全力で皆さんが言うイイ女を演じてみせます。」

「レッドさんにその気持ちがあれば,大丈夫だと思います。」

「まあ,無理に演じなくても,オタクを少し隠して普通にしてさえいればイイ女だからね。レッドちゃんは。」

「有難うございます。その代わり,パラダイス興行に来たら,BL好きを隠さず行こうと思っています。」

尚美は「レッドちゃんが、パラダイス興行のコッコさんみたいになるのか。予想外の展開だな。」と思いながら言う。

「大丈夫だと思いますが,何かあったら早めに相談して下さい。」

「分かりました。あとプロデューサー,お兄さんと監督が本当のBLじゃないということは分かっていますから、お兄さんの心配もする必要はないです。お兄さんが高校生の時に好きだったという同級生は女性でしたし。」

ミサと明日夏が反応する。尚美も初耳だったが黙って推移を見守っていた。

「えっ、・・・・・。」

「えっ、・・・・・レッドちゃん、マー君とそんな話もしたの?」

「はい。写真を見せないと勉強しないと言ったら、お兄さんが卒業アルバムを持ってきて,その子の写真も見せてもらいました。」

「・・・・・。」

「へー。どんな子なの?」

「明日夏さん,興味あるんですか?」

「一応。」

「スラっとした体型で,顔は普通だと思います。」

「なるほど。」

「その子が,高い鉄棒でもスッと自然に蹴上がりをする姿が綺麗で良かったみたいです。」

「マー君,高校でも逆上がりができなかったのかな。」

「はい,そう言っていました。」

ミサと明日夏が答える。

「私、蹴上がりぐらいなら簡単にできるけど。」

「私は小学生の時に低い鉄棒で逆上がりはできたけど,高い鉄棒で蹴上がりができるかどうかは分からないな。」

「明日夏先輩は,小学生の時にバレエをやっていたなら,蹴上がりも練習すればできたのではないでしょうか。」

「一応、小学生の時は逆上がりが上手とは言われていた。でも、尚ちゃんとミサちゃんは,大車輪からギンガーとかして,周りから引かれていそう。」

「まあ,否定はしないです。」

「できないことはないけど、やるとやっぱり引かれちゃう?」

「人によると思います。兄ならば引くことはないとは思います。」

「それなら良かった。」


 亜美がアイシャが言いそうなことを想像する。

「由佳、今アイシャがいたら,蹴上がりの綺麗さで勝負!審判は誠君でとか言いそう。」

「ははははは。そうかもな。」

「亜美ちゃん、蹴上がりで勝負する?」

「私も二尉と同じで逆上がりもできないので、無理です。」

「蹴上がりの勝負なら,俺は参加できるな。」

「私も誠が審判なら何でもいいよ。」

「二尉が審判なら、優勝するのは由香だと思う。」

「・・・・・・・。」

「そうなのか。でも俺には豊がいるからいくら兄ちゃんが気に入ってもだめだぞ。」

「そうじゃなくて。」

「分かっているよ。こういう時ぐらいじゃないと俺を優勝させられないものな。」

明日夏が答える。

「それは由香ちゃんと亜美ちゃんの言う通りかもしれないね。」

「いや,由香。その子,写真を見る限りAカップだから,やっぱり由香が有利だ。」

「おい,レッド!」

「だから,教徒もたくさんいるから心配はいらないということだよ。」

「何だ,教徒って。」

「明日夏さんは知っていますよね?」

「貧乳教徒。」

「明日夏さん,さすがです。由香,反対はおっぱい星人,略して星人と言うんだよ。」

「レッドちゃん、勉強したね。」

「はい。」

「レッド,どうでもいいわ,そんなこと。それより,それを外で言うなよ。レッドのイメージが壊れるから。」

「分かっている。」

「・・・・・・・。」

「心配しなくても,ミサちゃんは、ロックを歌えば若い子の中では圧勝だから。」

「そっ、そう。有難う。」

「でも、兄ちゃんもいろいろ大変そうだな。ストレスで早死にしなければいけどね。」

「二尉はリーダーが守るから大丈夫だよ。」

「私も誠を守るよ。」

「ミサさん、亜美、その守ろうとするところが、逆に兄ちゃんのストレスになるかもしれないんですよ。」

「でもそうなら、どうすればいいんだろう。」

「ミサさん、意外とレッドみたいに、BLの真似をしてるところを大笑いしているのが正解なんじゃないかと思います。」

「由佳、さすが彼氏持ちは違う。」

「おう、亜美、大人の男の相談なら俺にしろ。」

「大人限定?」

「それはそうだな。」

「それじゃあ、役に立たないよ。」

「悪いな。俺は捕まりたくないんで。」


 尚美は「由香さんが言うことが正解かもしれない。」と思いながらも黙っていた。ハートレッドが話を変える。

「蹴上がりと言えば,その話を聞いた監督が,もしプロモーションビデオを撮るなら、私が蹴上がりをするシーンを入れるといいかもと言っていました。」

「ビデオで蹴上がりのシーンですか。悪くはないと思いますが、スカートじゃなくてスラックスを履いてくる必要がありますね。」

「いや,尚ちゃん,赤か紺の短パンに白いソックスと白い靴じゃないかな。」

「明日夏さん、私が履くなら、短パンの色は紺か赤のどちらでしょう?」

「レッドちゃん,雰囲気的には紺だけど,名前がレッドだからね。」

「とすると『ハートリンクス』で5色そろえるのかな。」

「そのぐらいの用意はできます。というか,それは用意しておくべきですね。調達しておきます。」

「有難うございます。体操着ならパフォーマンスの練習風景のビデオでも使えますしね。」

「そうですね。」

「でも,イエローとブラックは蹴上がりができると思いますが、グリーンは逆上がりもできないかもしれないです。」

「グリーンちゃんは前回りでいいんじゃない。」

「明日夏さん,前回りはオタク向けになりますか?」

「なる!」

「レッドさん、鉄棒は皆が学校の体育で経験しますので,オタクばかりでなく,全視聴者向けになると思います。」

「本気でオタク受けを狙うなら、GL(ガールズラブ)だろうけどね。」

「明日夏先輩は余計なことを言わないで大丈夫です。」

「GLですか?うーん、組み合わせるなら,ブルーとイエロー,グリーンとブラックでしょうけれど。」

「レッドさん、明日夏先輩の言うことを本気にしなくても大丈夫だと思います。」

「それに,レッドちゃんが余る。」

「私の相手は明日夏さんかな。」

「何故に私?レッドちゃんとはレベルが違いすぎるけど。」

「オタク仲間ですし,ミサさんと橘さんのGGカップスに対抗して,明日夏さんと私でCCカップスなんてどうですか。」

「明日夏、私,GGカップスなの?」

「マー君の前で、ミサちゃんが自分でばらしたんじゃない。」

「それはそうだけど。」

「でも,レッドちゃん,CCじゃあGGに比べて弱くない?」

「それなら,プロデューサーも入れて,CCCカップス。」

「尚ちゃんでその手の話はうちの社長が許可しない。」

「もう中学生なのに?」

「まだ中学生だから。」

「やっぱり基準が違うんですね。元々が音楽事務所だからか。」

「というか,レッドさん、そういうの止めましょう。」

「そうでしたね。」


 明日夏が話題を変える。

「CCカップスはともかく,ハートレッドちゃん,今度,時間があったらウチに遊びにおいでよ。すごく汚くてびっくりするかもしれないけど。オタクグッズなら足の踏み場もないぐらいあるよ。」

尚美は「自分は明日夏先輩の家に誘われたことは無かったな。ハートレッドさんは,オタク仲間ということか」と思いながら聞いていた。

「はい,是非,伺わせて下さい。」

ミサが尋ねる。

「私も行っていい?」

「いいけど、ミサちゃんには単なるごみ屋敷だからね。」

「本当に足の踏み場もないの?」

「ない。最初はレッドちゃんといっしょに来たら?」

「分かった。レッド、スケジュールを合わせて行こう。」

「了解です。明日夏さんは、直人さんの抱き枕カバーとか持っているんですか?」

「いや,ハートレッドちゃん,そういう時はいくつ持っているんですかと聞かないとだめだよ。」

「分かりました。直人の抱き枕カバーはいくつ持っているんですか?」

「うーん,抱き枕にしているのは1個だけど、抱き枕カバーは5枚はあると思う。」

「さすがです。私は二人の抱き枕を作って,二つを組み合わせられるようにしようかなと思っています。」

「二人って,マー君とパスカルさんとやら?」

「はい。本当は人間の形をした枕があればいいんですが,知りませんか?」

「いや,抱き枕を組み合わせて使うというのは初めて聞いた。自分は抱きつかないで見るだけということ?」

「はい,ベッドに置いて,隣で見ながら寝る感じです。」

「それだと、等身大のぬいぐるみの感じか。」

「なるほど、等身大ぬいか。中に何を詰めればいいのかな?」

「ごめん。私にも分からない。姉は知っているかもしれないから聞いてみる。知らなかったら、ネットで探しておくね。でも、最初はイラストから入るのがいいと思うよ。」

「はい、手軽だからですね。完成したらコミケで売りたいな。」

尚美が止める。

「ハートレッドさん、それはだめです。」

「プロデューサー、直接売るのは無理だと分かっています。明日夏さん、販売を委託できそうなサークルを知りませんか?」

「姉がBLのサークルに入っているから、聞いてみるよ。」

「そうなんですね。有難うございます。プロデューサー、ユニットには絶対に迷惑は掛けません。」

「兄もレッドさんは分別があると言っていましたから、大丈夫だと思っていますが。」

「レッドちゃん、万が一バレたときのために、全年齢対象にしようね。」

「はい、面白くするハードルが上がりますが、日常系みたいに二人の生活を描いてみます。」

「さすがだね。でも,レッドちゃんは今までオタクを隠していたの?」

「そんなことはありません。1週間前までは全然違います。溝口エイジェンシーと契約してからオタク全般について勉強をしていたんですが,監督とお兄さんを見てBLが爆発した感じです。」

「なるほど。」

「でも、明日夏さんも二人が揃っているところを見たことがあるんですよね。」

「そうね。よく私のイベントで二人並んで座っているけど、仲が良さそうと思うだけだった。私にはBLの素質が少ないのかもしれない。」

「夢女子ですか。すぐ近くにあんな理想的なカップルがいるのにもったいない。」

「そうかもしれないね。ミサちゃんは?」

「パスカルさん?誠と仲が良さそうだけど、女の子が割って入れないほどなの?」

「女の子が近づくと、ますます二人が近寄る感じでしょうか。」

「なるほど。レッドちゃんの言いたいこと分かるよ。」

「明日夏、そうなんだ?」

「そう。」

「ですから、由香じゃないですけど,BLカップルとして愛でるのが一番いいんです。」

「レッドちゃん,卓見だね。」


 尚美のスマフォに通知が来て,尚美が連絡を取っていた。明日夏が尋ねる。

「マー君から?」

「はい,帰りの待ち合わせ時間についてです。」

「こちらもおしゃべりしているうちに,いい時間になってしまったね。でもマー君,この時間でも渋谷まで来るんだ。」

「もうマリさんの家を出たみたいで,この時間なら乗り換えなしで座って来られるみたいですから。」

「なるほど。あれ,写真?」

「はい,反省会でパスカルさんが撮ったそうです。」

「見ていい?」

「問題があるような写真ではないので構いませんが。」


 全員が尚美のスマフォを見る。

「徹君,可愛い!でも,アイシャが両手に肉を持ってガッツいているのが許せない。」

「アイシャちゃんは溝口エイジェンシーから帰ったところで,おなかが空いているんじゃないの。でも,許せないっていうのは?」

「徹君の前なのに,女として。」

「アイシャちゃんにとって徹君は男じゃないから,仕方がないよ。」

「それはそれでいいことですが・・・。」

「でも,マー君,リラックスしているように見えるね。」

「男性5名,女性4名だからじゃないでしょうか。ラッキーさんもいるし。」

「それは,亜美ちゃんの言う通りかな。」

「でも,なんでナンシーがいるの?」

「ナンシーちゃん、今日はミサちゃんと一緒じゃなかったの?」

「うん,昨日と今日はアメリカでの準備が忙しいということで、同行したのは溝口マネージャーだった。」

「たぶん、ユミさんとやらを溝口エイジェンシーに推薦したのが,ナンシーちゃんだったからじゃないかな。」

「そうか。それなら私から推薦すれば良かった。」

「でもミサちゃんは,ユミちゃんとやらのことをよく知らないでしょう。」

「ワンマンライブでバックバンドをしたよ。明日夏もいたじゃん。あと,温泉にも入ったことがあったよ。ユミさんは、徹君を追いかける亜美を追いかけていたけど。」

「そう言えば,バックバンドしたね。」

「あの温泉は生まれてから今までの中で一番楽しかったでした。でも,アイシャは二日に1度できるんだから,羨ましいな。」

「亜美ちゃん,その話は10年間止めよう。」

「明日夏さん,分かっています。」

「でも,亜美さん,温泉とは違う。家庭用のお風呂だから,浴槽の中では二人は密着しているんだよ。」

「うっ。」

「ハートレッドちゃんも,イメージに合わないから,そう言うこと言わないの。マー君が言う通り,私が一番しっかりしているよ。」

「明日夏が一番しっかりしているの?」

「そう言えば,マー君はミサちゃんの生活面ですごく心配しているみたいだけど,マー君の前で変なことをしていないよね?」

「そっ,そんな,普通の時は変なことをしないよ。」

「ミサちゃん,普通じゃない時って?」

「自分がよく分からなくなったとき。」

「あー,『ユナイテッドアローズ』のワンマンライブの前はそうだったね。」

「まあね。」

「まあねって,それだけじゃないんだ?」

「へへへへへ。」

「笑ってごまかしている。」

「あの、美香先輩はアメリカデビューを控えて大切な時なんですから,兄に構っている場合じゃないと思います。」

「尚,大丈夫,スキャンダルには負けない。」

「ミサちゃん,そうじゃなくて,ミサちゃんのスキャンダルに巻き込まれたら,一般人のマー君はすごく大変なんだよ。」

「誠は私が守りたいけど、それがストレスになるのか。」

「それに、それが火に油を注ぐことになりそうだよ。」

「そうか。気を付けないと。」

「でも、明日夏さん。私は、そういうことがあっても、二尉にはパスカルさんがついているから大丈夫だと思います。」

「へへへへへ。」

「レッドちゃん、変な笑いをしない。」

「私も亜美さんと同じで、お兄さんは監督と協力して、ミサさんを守りつつ、そのスキャンダルを利用して、二人がプロデュースしているユニットを宣伝すると思います。」

「『ユナイテッドアローズ』ね。確かに、レッドちゃんと亜美ちゃんのいう通りかもしれない。それにしても、レッドちゃん、マー君のことが良くわかるね。」

「5日間、毎日会っていましたから。あっ、変な意味じゃないですよ。」

「レッドちゃん、それは分かっているから大丈夫。」

「お兄さん、ミサさんを守るために、監督と道玄坂のラブホテルに行ってわざと写真を撮らせたりして。ふふふふふ。でも、それなら私も同じ部屋に入って、部屋の隅の方で見ていたいです。」

「・・・・・。」

「・・・・・。」

「どうしたんですか?ミサさんは分かりますが、明日夏さんまで。」

「レッドさん。トップアイドルになろうとしている人が言う単語ではないと思います。」

「プロデューサー、外では絶対に口にしないですから大丈夫です。」

「分かりました。申し訳ありませんが、私はもう帰らないといけません。皆さんも今日は早く帰った方がいいと思います。」


 ミサが尚美に話しかける。

「尚、今日は遅いから渋谷駅までうちの車で送って行くよ。」

「有難うございます。」

「明日はオフだし,何なら辻堂まで送って行くけど?」

「それは,さすがに兄が気を使うと思いますので。」

「気を使わなくてもいいんだけどね。それじゃあ,渋谷で挨拶してから帰るよ。」

「有難うございます。」


 尚美とミサがリムジンで渋谷駅に向かい、待ち合わせをしていた誠と対面した。

「お兄ちゃん,遅いからということで、美香先輩に駅まで送ってもらった。」

「美香さんは、今日は福岡からのお帰りですよね。お疲れのところを大変有難うございます。」

「ううん。本当は辻堂まで送ってもいいんだけど。」

「今の時間でも往復すると2時間を超えますので,さすがに恐縮すぎます。お疲れと思いますので、早く帰って休んでください。」

「遠慮しなくてもいいのに。それじゃあ、また時間があるときにね。来週の月曜日の写真集の記者会見には来てくれる?」

「はい、僕にも責任がありますから行きます。」

「有難う。」

「予約が10万部を超えているそうで、良かったですね。」

「でも、アルバムの売り上げより多いというのは、ちょっと考えちゃう。」

「写真集にも美香さんが歌ったDVDも付属していますから。そのために買う人も多いと思います。」

「そう思うことにする。」

「そう言えば,ナンシーさんから聞いたのですが,アメリカに到着して次の土曜日にアメリカでの初ライブがあるそうですね。」

「そうだよ。到着して3日後、大きなホールじゃないけど,それが最初のライブになる予定。」

「さっき、ネットでチケットが無事買えましたので,みんなで行くことにしました。」

「誠がアメリカまで来てくれるんだ。嬉しい。でも,みんなというのは?」

「高校はまだ授業がありますので,パスカルさん,ラッキーさん,僕の3人です。」

「いつもの3人か。誠とアメリカで会えるかな?」

「パスカルさんとラッキーさんがいるので,難しいと思います。」

「誠、レッドとは毎日会っていたんでしょう。明日夏とは二人で籠っていたというし,何とか抜け出してきてよ。」

「考えては見ますが、約束はできないと言うしかないです。」

「そう。」

「申し訳ありません。」

「それじゃあ、3月終わりには日本に戻ってくるので、その時には作りかけでもいいので1曲お願いね。」

「もう5曲ぐらいは作っていますが、美香さんが歌っている曲と比べると全然ダメです。」

「5曲も作ってくれているんだ。嬉しい。誠は作曲を始めたばかりだし、その時に一番いいと思うものでいいから、お願いね。」

「分かりました。」

「それじゃあまた。」

「はい,またお願いします。」

「美香先輩、またお願いします。」


 ミサが駅から車に戻り、尚美たちは電車に乗った。

「美香さん,アメリカで活動するのは、やっぱり不安なのかな?」

「そうかもしれない。・・・私も行こうかな、アメリカ。」

「期末試験は?」

「帰ってから1週間ある。金曜日は休まないといけないけど、土曜日の深夜にニューヨークを出れば、月曜日の早朝に到着できるから学校に行くことができる。」

「生放送のテレビは?」

「ビデオで何とかする。それに美香先輩の様子もビデオで撮って放送すれば時間は十分繋げると思う。」

「4人で一緒に行くことになるけど、大丈夫?」

「大丈夫。ツインルームが2つで、お兄ちゃんと私が同じ部屋だね。」

「そうなるけど、大丈夫?」

「兄妹だから大丈夫に決まっているよ?ところで、ユミちゃんの面接はどうだったの?」

「練習通りにちゃんとできたって。」

「それなら1次面接は受かると思うよ。」

「それで、待合室でユミさんが合格した時に代わりになる人を『ユナイテッドアローズ』にスカウトしたって。」

「へー、しっかりしている。小学生?」

「同じ歳だって。」

「でも、マリさんはがっかりするかもしれないね。」

「マリさんは自分でユニットを作るつもりみたいだし、大丈夫じゃないかな。」

「そう言えばそう言ってたけど、二人ともやる気が行動に繋がっている。」

「うん、すごいと思う。」

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