第48話 面接対策

 日曜日の朝、明日夏が来る前に、悟と久美が昨日のミサのリリースイベントについて話をしていた。

「間奏からの入りをミスして固まったのか。美香のやつ、まだまだだな。」

「久美がミスをしたら、もっと大変なことになりそうだけど。」

「私は本番の歌で、そういうミスをしたことは一度もない。」

「そう言えば、そうだった。」

「私がそんなところでミスをしたら、その場で切腹していたわよ。」

「ははははは、でも、それはミサちゃんに言わないでね。」

「分かっている。」

「それで、ミサちゃんのイベントに森口事業本部長がいらしたので、なんとなく久美の再デビューの話もしておいた。」

「どうだった?」

「さすがにヘルツレコードから出すのは難しいけれど、ヘルツレコード直下のロックを扱っているインディーズレーベルを紹介してくれるって。」

「それはいいことなの?」

「うん。インディーズと言っても、僕が知っているところよりはちゃんとプロモーションしてくれるし、注目度も高い。」

「それはそうか。」

「久美の実力なら、経費はこちらと半々と言えば、受けてくれるんじゃないかって。」

「半々にすれば受けてくれるのは予算が半分になるから?」

「それもあるけど、こっちが本気と思ってもらえるからみたい。」

「でも、森口事業本部長、私の歌を覚えていたんだ。ヘルツレコードのオーディションで落とされたことはあるけど。」

「歌自体の評価は高かったという話だよ。」

「面接がだめだったのね。」

「まあ、そうかな。プロの歌手としてやっていけるか不安だったんじゃないかな。」

「オーディションを受けるとして、曲はどうするの?」

「レコード会社の面接には、ミサちゃんの曲を使おうと思う。」

「私のオリジナル曲より、みんな知っているし、このところ歌いこんでいるから、それがいいわね。曲もいいし。」

「ミサちゃんの曲には、お金がかかっているからね。」

「やっぱり、そうなるのか。」

「もし、受かってCDを出すときは、曲はレコード会社との相談になるから、受かってから考えようと思う。」

「そうね。分かった。とりあえず、オーディションを頑張る。」

「あと、再来週の写真集の記者会見のイベントは、ミサちゃんが主役だけど、久美も自分をアピールしてね。ミサちゃんも協力してくれると思う。」

「うーん。」

「少なくとも、黙ることはないように。」

「頑張ってはみるけど。苦手なんだよね、記者会見とか面接みたいなの。」

「久美も、明日夏ちゃんみたいに面接でも何でも、堂々としていればいいんだよ。それで、失敗しても笑ってごまかせば。」

「社長、私が失敗を笑ってごまかしているとは、酷いことを言います。」

二人が入口の方を見ると、明日夏が立っていた。

「あれ、明日夏ちゃん、来ていたの?」

「はい、少し前から。二人が話し込んでいて気が付かなかったみたいです。」

「そうか。ごめん。久美も明日夏ちゃんの堂々としたところを見習うといいんだけど。」

「私は橘さんのためなら何でも協力しますけど、どうすればいいでしょうか。」

「それが、具体的に何をすればいいか分からないから困っている。」

「それが分かればやっていますよね。尚ちゃんに聞いてみましょうか?」

「明日夏、余計なことはしなくていい。」

「いえ、橘さん、オーディションでの面接は大切ですから。」


 明日夏は久美のことを無視して、尚美にSNSのチャットで連絡する。悟が話を変える。

「そうだ。堂々としていると言えば、今度、溝口社長がいらっしゃるかもしれない。」

「うちの事務所に?」

「そうだよ。」

「何をしに?尚たちを見に?それとも、うちの新しい事務所を見に?」

「そんなにいやな顔をしなくても。」

「嫌がっているわけじゃないけど、何でまた?」

「それが、亜美ちゃんのチャンネルでバックバンドとして、ヴァイオリンを演奏するためなんだけど。」

「亜美の伴奏。何でそんなことを?」

「アイシャちゃんが誘ったから。」

「溝口社長に直接?」

「そう。ミサちゃんがミスをして、アイシャちゃんが客席から大声で励ましたとき、それがすごく大きな声だったから溝口社長が興味を持って、溝口社長がアイシャちゃんを呼んで会ったんだけど、そのときに。」

「確かに、真理子先輩の姪ならば声は大きいかも。」

「そう、僕も知らなかったんだけど、溝口社長もヴァイオリンを演奏するみたいで、二人がその場で演奏して、アイシャちゃんがヴァイオリンが2台あれば、音が豊かになるということで、溝口社長を誘ったんだ。」

「溝口社長はOKしたの?」

「最初はためらっていたけど。アイシャちゃんが押し切った。」

「溝口社長を?大丈夫なの?」

「うん。いやそうではなかったよ。たぶん、溝口社長は偉くなりすぎたので、本当は演奏したいのに、ヴァイオリンを人前で演奏することができなくなっていたのかも。」

「そうなんだ。」

「それで、アイシャちゃん、ソロヴァイオリニストとしてうまく行かなかったら、芸能界の女王様としてプロモーションするから連絡してと、溝口社長に言われていた。」

「さすが真理子さんの姪ね。」

「そうかもしれない。さすがに僕もあの態度には驚いた。堀田さんは高校生の時も誰にでも堂々としていた方なの?」

「部長だからね。先生の前でも、外部審査員の前でも堂々としていたと思う。」

「そうだろうね。」

「悟、何ニヤニヤしているの。」

「いや、高校の時の二人の戦いを見てみたかったなと思って。」

「悟、趣味が悪い。」


 悟が明日夏が自分の方を見ているのに気が付いて、明日夏に話しかける。

「尚ちゃん?何か良いアイディアがあったって?」

「今日のイベントで、橘さんに10の質問を受け付けてみたらって。」

「明日夏じゃなくて、私に?」

「はい。橘さんは、イベントではいつも私と一緒にいますし、私が橘さんは歌のトレーナーと言っていますので、ファンも興味を持っているはずで、私のファンからの質問を受け付けても不自然とは思われないということです。」

「それはきっと誠君のアイディアだね。」

「はい。私もそう思います。今、電車の中で尚ちゃんといっしょにいるみたいですから。」

「面白そうだから、個人的な質問は避けるように明日夏ちゃんに言ってもらって、今日のイベントでやってみようか。」

「はい、そうしましょう。それで、イキったり、おじおじしないで、良く考えて微笑みながら答えましょう、とのことです。」

「少年め、ろくなことを考えない。」

「誠君も久美のことを考えてくれたんだと思うよ。」

「私もそう思います。」

「二人とも少年の味方か。でも、分かったわよ。やるわよ。」


 今日の明日夏のイベント会場は、CDの前払いでの予約の時から先着順でイベント参加券を配布していて、誠は既に9番の参加券を持っていたため、安い喫茶店で時間をつぶした後、集合時間の30分ぐらい前にイベント会場に到着した。そこにはセローがいた。

「失敗したよー。予約のときにCDを買っておけば良かったよー。」

「僕は9番でしたが、何番でした?」

「朝一で買って73番だったよー。」

「良かったです。少なくとも73枚以上は売れたということですね。セローさんはTOとして前にいるべきですから、券は僕のと交換しましょう。」

「いいの?」

「はい、セローさんのTOは僕がお願いしたんですから。」

「有難うー。次からは調べて、予約開始日には朝から行くよー。」

「でも、予約開始日は平日でしたから朝から行くのは難しかったかもしれません。」

「そうかー。休みが取れなかったら、仕事が終わってからかー。」

「それでも仕方がないと思います。僕も開始日の夕方でしたが9番でした。」

「仕方がないなー。湘南君は講義を休んだりはしないんだねー。」

「はい。」

「湘南君は真面目だからねー。じゃあ今日も明日夏ちゃんの応援、よろしくねー。」

「分かりました。全力で頑張ります。」


 誠がラッキーを見つけたので話しかける。

「ラッキーさん、お早うございます。」

「湘南君、お早う。」

「セローさんが、応援の方法についてラッキーさんの意見を聴きたいと言っていました。」

「分かった。今日の様子を見たら伝えるよ。」

「有難うございます。今日は僕は行けないのですが、アキさんのイベントの手伝いにも行かれる予定ですか?」

「湘南君は妹子ちゃんのことがあるから仕方がないよ。アキちゃんのイベントでは、特典会までに着けばいいので、会場が近い声優さんのイベントに参加してから行く予定だよ。」

「さすがですね。僕は『トリプレット』のイベントの後も、妹から頼まれた仕事があるので、それをする予定です。」

「頑張ってね。僕は『ユナイテッドアローズ』のイベントの後に、ユミちゃんの模擬面接試験をパスカル君とする予定だよ。」

「そうなんですか。僕も行きたいんですが、今日は無理かもしれません。」

「大丈夫。パスカル君は、湘南君には来週の土曜日にお願いすると言っていたよ。僕は来週の土曜日は大阪で行けないから。」

「そうですか。良かったです。もしできたら、面接の様子をスマフォでも構いませんので、ビデオを撮って送ってもらえますか。何か気が付くことがあったらユミさんに伝えようと思います。」

「了解。」


 明日夏のリリースイベントが始まった。MCとともに2曲を歌い終わった。

「有難うございます。ただ今お聴きいただいた歌は、アニメ『タイピング ページ2』の主題歌『恋もDX』でした。さっき言った通り、今日は私がデビューしてから1年と1日目です。ということで、特別企画を考えました。私の歌の師匠で、マネージャーとしていつも私の横にいる橘さんに、みんなも興味ありますよね。私も歌い終わると、橘さんの顔が気になってしょうがないです。あまり上手に歌えないと後で絞られます。それに、橘さんは、大河内ミサちゃんの歌の師匠でもあるんです。でも、歌に関しては、ミサちゃんは絞られたことがないですから、私がいけないだけなんですけど。あと、再来週、ミサちゃんは橘さんといっしょに写真集を出します。なぜ二人で写真集かというと、ミサちゃんが一人だと恥ずかしいと言ったからです。詳しいことは、再来週記者会見がありますので、そこで聞いて下さい。その記者会見には橘さんも一緒に出るんですが、橘さん、歌うのはすごく得意なんですが、たくさんの人前で話すのが苦手で、今日はその特訓のためにも皆さんの質問を受け付けるという企画を考えました。司会は、この神田明日夏が務めます。」

会場から歓声が上がった。悟が久美に耳打ちをする。久美がうなずいた。

「それでは、質問を考える時間を3分間取ります。その後に質問を受け付けたいと思います。みなさん記者になったつもりで橘さんへの質問を考えて下さい。みなさんいい子だから、分かっていると思いますが、あまり個人的な質問は避けて下さいね。例えば、恋人はいますか?というようなものです。」

久美が明日夏の方を見ながら話す。

「いや、明日夏、そのくらいはいいぞ。今はいないが、過去なら、1、2、3、4、5、6、・・・うーん、それより昔のことは覚えていないが、6人以上はいた。」

「橘さん、今後のこともありますので、そう言うことは秘密にしておきましょう。」

「明日夏は、小学生の時に好きだった人はいるみたいだが、それ以来、アニメの登場人物の直人とか、分けの分からないことばっかり言っている。大河内さんのプライベートな話をしては絶対にいけないそうなので、何を聞かれても答えられないから、来週の記者会見を期待してくれ。」

「さすが社長、その話をしていたんですね。そうですね、私たちがミサちゃんのプライベートの話を勝手にしては絶対にいけませんね。」

「そうだな。写真集の撮影でも面白い話があったが、本人に聞かないとだめだな。」

また、悟が久美に耳打ちする中、明日夏が話を続ける。

「その通りです。逆に、私と直人の関係なら自重していますし話しても大丈夫ですよ。」

久美が客席を見てゆっくり話そうとする。

「えーと、あーと。」

「今の社長の指示は、お客さんの方を見てと言うことですか?」

明日夏の方を見て答える。

「そうだよ。それで丁寧語でだって。」

「それでしたら、橘さん、私にでなく、私と直人の関係をみなさんに説明して下さい。」

「分かったよ。えーと、明日夏様と直人様のなれそめは・・」

「あの、橘さん、直人と私の結婚式じゃないんですから。私が直人と勝手に結婚なんてすると、私が池袋で直人ファンの女の子に後ろからナイフで刺されるかもしれないですし。」

橘が明日夏の方を見て言う。

「明日夏は後ろからナイフで刺されるのかもしれないのか?」

「はい。嫉妬は怖いです。」

「嫉妬か。私はそういうのはないな。相手が結婚したら、自分の見る目がなかったと思って、さっさと次の男に行く方がいい。」

「そうですね。橘さん、また私を見ています。」

「そっ、そうか。明日夏と直人の関係は、よく分かりません。」

「橘さん、面倒くさがらないで下さい。」

「明日夏と人間の男との関係なら少しは興味があるが、2次元男性との関係なんて全く興味がないからな。」

「そういうことを言わないで。」

「明日夏は『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』のオーディションで、面接員に直人の役に立つために命をかけてがんばって歌うと宣言して、その熱意が認められて、この曲の担当が決まりました。その後、本当に頑張って、デビューの時には人に聴かせられる歌が歌えるようになりました。」

「はい、私の歌が上手になったのはひとえに橘さんのおかげだと思っています。」

「それにしては、今は厳しいな。」

「社長の指示だからです。」

「悟め、後でとっちめてやる。」

「社長が言うことは間違っていませんので、とっちめてはダメです。」

「そうなのか?」

「そうです。えーと、みんなに質問を考えてもらう時間だったのですが、みなさん質問を考えてくれたでしょうか。」

会場から「はーい。」「ちょっと待って。」のような声が響いた。

「ちょっと待っての人もいるようですが、質問ができた人もいるようですので、ゆっくり聞いていこうと思います。それでは、橘さんに質問がある人は手を上げて下さい。」

何人かが手を上げる。誠は手を上げる人がいなければ挙げようと思っていたが、手を挙げた人がいたので、挙げないことにした。

「それでは、1番目は君!」

明日夏が指した男性が立ち上がって質問する。

「写真集の発表会では水着になるんですか?」

「うん、プライベートな質問じゃないですね。でも、橘さんと二人でいるときにそんな質問をすると、無事じゃすまないので気を付けて下さいね。それで、橘さん、どうなんですか?」

「集合時間と場所は知っているが、詳細は何も聞いていない。」

「やり直し!」

「集合時間と場所は知っていますが、詳細についての連絡は今のところありません。」

「確かに、写真集の記者会見ではパネルの前に水着で立った写真撮影というのはありそうですが。社長、どうなんですか?」

悟も首をかしげる。

「社長も分からないようですが、ミサちゃんはそういうことは絶対にしないと思います。」

「それはそうね。」

「でも、ミサちゃんは普通の格好で、橘さんだけ水着ということはあるのかな?あっ、橘さん、念のためですが、大河内さんの名前には気を付けて下さいね。」

「分かっている。でも、明日夏はできるの?大河内さんは普通の格好で、明日夏だけ水着と言われたら。」

「ですから、私じゃなく、一応、みなさんに向かって丁寧語でお願いします。」

「大河内さんは普通の格好で、明日夏だけ水着でいるということはできますか?」

「私は、社長と橘さんがやれと言うならば、記者会見で私だけ水着となってもやりぬいてみせます。」

会場から「おー。」という歓声が沸く。

「ミサちゃんと違って、お見せできるほどのものを持っていませんが。」

会場から笑い声が響く。

「いや、みんな、笑わないで。私を励まして。」

会場からまた笑い声が響く。

「また笑われた。でも、笑うだけならいいか。そう言えば、前に私が水着写真集を出すときにミサちゃんの写真のブックレットを付録で付ければ販促になると言ったら、ブックレットだけ取っておいて本体は捨てられると言ったひどいやつもいました。」

会場から「酷い!」という声が聞こえ、また笑い声が響く。

「ごめんなさい。今は私が話をしちゃだめです。それでは次の質問を受け付けます。質問がある人は手を上げて下さい。・・・それでは、2番目の質問は君。」

明日夏が指さす。

「橘さんの体で一番自信があるところはどこですか?」

「写真集の記者会見の練習だからこれも大丈夫かな。橘さん、自分の体で一番自信があるところはどこですか?」

「ないよ。」

「そんなことはないと思います。」

また、悟が出て来て耳打ちする。久美が質問者の目を見て話す。

「自分の体で自信があるところはありませんが、撮影監督には・・・・・。」

「橘さん、社長さんに目を見て話せと言われたんですね。それで、撮影監督にどこがいいと言われたんですか?私には想像がつきますけど。」

「・・・・一人で写真集を出すとすればGカップロックシンガーとしてならば売れるから、話に乗る出版社は絶対にあると言っていました。」

「Gカップ!橘さんとはいっしょに温泉に行ったこともあるのですが、Gカップですか。その点は橘さんに一生かなわなそうです。社長、私のサイズを話してもいいですか?」

悟が手で×印を作る。

「だめだそうですので、私のサイズは、みなさんのご想像に任せます。」

社長が来て明日夏に耳打ちする。

「私が調子に乗りすぎたようです。不愉快になられる方がいらっしゃるかもしれないので、こういう話題は早めに打ち切れとのことです。さすが社長。それでは、3番目の質問に移ります。」


「3番目の質問は君かな。」

「現在、Gカップロックシンガーとして一人で水着写真集を出版する話を進めていますか?」

「進めていない。じゃなかった。・・・・今のところ進めていません。うちは音楽事務所ですから、そういうつてもあまりないです。」

「たぶん出版後の反響によるんじゃないかと思います。反響があれば、監督さんが出版社を探してくるかもしれません。・・・・それじゃあ、4番目は君。」

「監督さんから具体的な話が来たら、水着写真集を出版しますか?」

「そんなことを言って、本当に需要があるの?出したら君は買ってくれる?」

「はい、買います。Gカップは伊達じゃない。」

「どうします?橘さん。」

「話が来たらその時考えるよ。違った。具体的なお話が来たら考えます。」

「前向きに?」

「明日夏、うるさいな。前向きに考えるよ。」

「前向きに考えるそうですので、出版されたら是非買ってください。」

「その時は、明日夏も一緒だぞ。」

会場から「おー」という声が上がる。

「ミサちゃんならともかく、私じゃ橘さんと戦力差がありすぎますので無理です。やっぱり、次は一人でお願いします。」

「分かったよ。」


「それでは、5番目の質問は、・・・・君。」

「写真集の制作で一番苦労したところは?」

「それは簡単だ。違った、それは簡単です。ダイエットです。4キロぐらい落としました。」

会場から「さすが」、「良く頑張った」という声が上がった。


「それでは、6番目の質問は、・・・・君。」

「好きな食べ物は?」

「うん、定番だね。」

「好きな食べ物?あまりないな。酒のつまみなら、ホタテを干したものかな。」

「なんか渋いですね。」

「美味しいわよ。今度分けてあげる。」

「有難うございます。」


「それでは、7番目の質問は、・・・・君。」

「好きなお酒は何ですか?」

「何でも飲むけどね。ごめん、何でも飲みますが、特に好きなお酒ですか?・・・・大河内さんのお父さんのブランデーは美味しかったです。」

「次の日は、酷い二日酔いになりましたけどね。」

「それはー。・・・・大河内さんが私が大昔に歌った曲を知っていて、好きと言ってくれたからです。」

「橘さんは、昔、アンナという名前のロック歌手だったんです。ミサちゃんがそのCDを持っていて大切に聴いていたから嬉しかったようです。その縁で、橘さんがミサちゃんの師匠になったんです。」

「そうだったわね。」


「次に、8番目の質問は、君!」

「覚えている6人の恋人のうちで一番良かったのは誰ですか?」

「それは・・・・。」

「一番最後の人かな。」

「皆さん、申し訳ないですが、あまり個人的なことは聞かないで下さい。」

「明日夏、やっぱりそういうことが一番興味があるから、私ならいいわよ。明日夏みたいな清純派じゃないし。」

「私は清純派なんですか?」

「小学2年生から人間の恋人がいないんだから、そうだろう。」

「橘さん、勝手にそんな細かいところまで話さないで下さい。」

「小学2年生なら構わないだろう。小学2年生の時に結婚の約束をしたけど、その後すぐに明日夏が引っ越して、話はそれっきりになってしまったそうだ。甘酸っぱいねー。」

「橘さん、黙っていて下さい。」

「確かに、少し赤くなっているな。ごめん。」

「はい、すごく悲しかったです。」

「それで、二次元男性ばかりになったと言っていたな。」


「それでは、橘さんに関する9番目の質問です。・・・・君!」

「最後の恋人はどこが良かったんですか?」

「ギターを弾いている姿がカッコよかった。でも、全部カッコよかったかな。」

「社長がベースを弾く姿もカッコいいですからね。ウクレレだとちょっとですが。」

「まあね。」


「それでは、最後の質問。次もこの話題になると思いますが、橘さん、大丈夫ですか?」

「構わない。」

「それでは、君!」

「その人と、別れた理由はなんですか?」

「やっぱり、そうなりますよね。橘さん、大丈夫ですか?」

「みんなに伝えたいことがあるから大丈夫。私は別れたつもりはないけど、今はバイクの事故で天国でギターを弾いている。みんなも、バイクや車の運転には気を付けてくれ。言いたかったことはそれだけだ。」

「分かりました。みなさんも、交通事故の被害者や加害者にならないように、十分気を付けて運転して下さい。私も姉に車を借りて運転することがあるから気をつけます。」

「言いたいことがもう一つあった。みんな、愛し合えよ!明日夏もな!」

久美が舞台袖に下り、明日夏は久美が見えなくなるまで横を向いて見送っていた。明日夏が久美が言ったことを繰り返す。

「はい、橘さんの思いを無にしないように、皆さんも本当に交通事故には十分注意してください。あと、愛し合ってください。私は直人のために精一杯頑張っているけど、直人は私のことを愛してくれているのかな。それは分からないけど、これからも頑張っていきます。それでは、このリリースイベントの最後の曲になります。皆さんの前で歌うのは初めてです。」

この時ばかりは「えー」という声が起きなかった。


 この後、明日夏が『恋もDX』のカップリング曲『何もかもうまくいかないけど』を歌ったあと、特典会になった。今日はアー写(アーティスト写真)のサイン会、いつものように参加者が並び、順番に明日夏がアー写にサインをしながら短く会話していく。セローの順番になり、明日夏の前に進んだ。

「僕、バイクに乗るから、運転、気を付けるねー。」

「これは冗談じゃなくて、ホントだよ。」

「昨日は徹夜で明日夏ちゃんのイベントに来たから、帰りの運転はフラフラだったよー。」

「今度そんなことをしたら私のイベントに出禁だから。そうですよね、橘さん。」

隣にいた久美がうなずく。

「分かった、気を付けるよー。」

「今日は有難う。」

「有難うー。」

かなり遅くなって、誠の順番になった。

「デビュー1年と1日、おめでとうございます。」

「今日も辻堂からありがとう。」

「ついでですから。」

「ついでか!・・・・ごめんなさい。」

「また来ます。」

「有難う。」

ついでというのは、誠は明日夏に精神的な負担をかけたくない気持ちから出た言葉だったが、明日夏にはその意図が伝わらないようだった。


 明日夏たちがタクシーで事務所に到着し、少ししてから悟たちが乗ったバンが到着した。

「明日夏ちゃん、久美、お疲れ様。」

「社長もお疲れさまでした。あと、橘さんへのアドバイス、ナイスでした。でも、後ろから見ていてよく橘さんの様子が分かりましたね?」

「前を向いてとか、目を見て話すというアドバイスは誠君からSNSで連絡がきたんだ。」

「少年め。余計なことを。今日来るんだよね。後でとっちめてやるか。」

「誠君も久美のことを思って言っているんだから。」

明日夏が少し不貞腐れて言う。

「まあ、ついでかもしれませんけど。」

「明日夏、明日夏の応援のついでなことぐらいは分かっているよ。」

「橘さん、そういう意味ではないです。」

「あっ、そうか。」

「そうです。」

「でも、久美、明日夏ちゃんのフォロー、上手だったでしょう。」

「お客さんは喜んでいたのは分かった。やっぱり、私は歌手より、ボイストレーナーの方が向いているのかもと思った。」

「久美、そういう弱気なことは言わない。」

「写真集の監督さんが言った通り、『Gカップのロックシンガー』で売り出せば、敵う人はそうそういないんでしょうけど。」

「明日夏、まだ言うか!さっきは、お客さんの前だから自重していたけど。」

「痛い!痛い!橘さん、痛いです。」

久しぶりに久美の頭ぐりぐりがさく裂した。


 明日夏が事務所に戻った後、由佳、亜美も『トリプレット』のイベントが終わって事務所に戻ってきて、明日夏と話をしていた。

「由香ちゃん、亜美ちゃん、お疲れ様。でも、今日は『トリプレット』はテレビはないの?」

由佳が答える。

「『ハートリンクス』の出演時間を伸ばすために、今日はなしってことみたいだ。」

「尚ちゃんが?それで大丈夫?」

亜美が答える。

「その代わりではないですが、来週の平日はハートレッドさんが共通テスト前で休みを取るので、その枠に私たちが出る予定だそうです。」

「そうか。あそこはレッドちゃんがいないと話にならないからね。」

「今は明日夏さんの言う通りだと思います。ただ、リーダーはレッドさんがいなくても何とかなるようにしていく方針みたいですが。」

「さすが尚ちゃんはプロデューサーだね。」

「プロデューサーというより、もう経営者みたいです。」

「なるほど。」


 そして、もう暗くなった夕方の午後5時になると、アイシャと誠が亜美のチャンネルのための曲を作るために相次いでやってきた。

「明日夏さん、『私といっしょにイイことしよう』の方は終わりましたか。」

「うん。メンバーに歌ってもらって、社長がキーを合わせて完成した。レッドちゃんを除いて明日から歌とダンスの練習に入って、レッドちゃんだけ次の週から始める予定。」

「ハートレッドさんが共通テストの受験だからですね。」

「でも、ハートレッドさんは高校3年の3学期は授業がないから、次の週で追いつくって。」

「そうですね。亜美さんの曲の歌詞の方はどうですか?」

「ワンコーラス分を作ってアイシャちゃんに送った。でも、急に橘さんがGカップロックシンガーとしてDVD付の水着写真集を出すとしたら、どんな曲が良いか考えなくてはいけなくなった。」

「明日夏!また頭ぐりぐりされたいの?」

「でも、橘さん、せっかくハワイで監督さんに言われたんだから。Gカップロックシンガーとしてなら写真集を出せるって。」

「それは、そうだけど。」

「やっぱりチャンスですよ。再デビューするなら、知名度を上げるために、写真集を出した方がいいです。」

「橘さんの曲、僕もできる協力ならばしますので、何でも言ってください。」

「さすがマー君。それじゃあ、まずはタイトルから考えよう。」

「それでしたら、『Gカップ上のアンナ』はどうでしょうか?」

「マー君!」「少年!」

明日夏が誠の頭をはたく。

「申し訳ないです。」

「マー君は、いつも一緒にいるお友達の影響を受けているんじゃないの?」

「パスカルさんですか?それはそうかもしれません。」

「『G線上のアリア』にかけて言ったのは分かっているんだけど。」

亜美が明日夏に注意する。

「でも、Gカップは明日夏さんが言い出したんですよ。二尉をぶたないで下さい。」

「そうだったね。でも、亜美ちゃん、マー君に乗り換えるの?」

「違います。二尉はリーダーの大切なお兄さんだからです。」

「本当に?前はマー君はキープするのにちょうどいいって言ってたじゃん。『Eカップ上の亜美』ちゃん。」

「明日夏さん、人の情報を勝手にばらさないで下さい。」

「あの、みなさん、この話はもう止めましょう。」

「亜美ちゃんは歌手として成功しなかったら、溝口エイジェンシーからグラビアモデルとしてデビューできることになっている。」

「うるさいです。『Cカップ上の明日夏』さん。」

「うっ。自分の方が勝っているからといって。」

「でも、良かったじゃないですか。去年から今年にかけて、BカップからCカップに成長したんでしょう。」

「そうだけど。」

「私はもう人をキープするとかそういう不純なことは考えません。」

「でも、誠君をキープって、堅実な亜美らしい考え方だとは思う。」

「アイシャちゃん、それって堅実な考え方なの?」

「明日夏さんが高校生の時にはいませんでしたか?本命が他にいるのに付き合っている人って?」

「いたかもしれないけど、あまり興味がなかった。」

「しかし、アイシャ、そういうのは女としても許しがたい。」

「橘さんはそうですよね。」

亜美が意見を言う。

「アイシャ、それは本当の本命がいないからなんだよ。本当の本命ができれば変わる。」

「亜美、いいこと言うね。」

「亜美にはいるの?その本当の本命って。」

「言えない。」

「まあ、誠君がいたら言えないよね。」

亜美は「そうじゃなくて、アイシャの前じゃ言えない。」と思いながら答える。

「そういうことは、あまり人に言うものじゃない。」

誠が話を打ち切ろうとして冗談を言う。

「大本命発表は、本当じゃないことも多かったみたいですし。」

「マー君、パスカルさんの影響受けすぎ。」

「申し訳ないです。」

「ところで、亜美ってそんなに小柄なのに本当にEカップなの?」

「そうだけど。」

悟が意見する。

「あの、明日夏ちゃん、亜美ちゃん、アイシャちゃん、もうそろそろ、この話はおしまいにしよう。」

「社長、申し訳ありません。僕が変な話題を振ってしまって。」

「まあ、これぐらいで終わりにするなら大丈夫だけど。」

「それじゃあ最後に、私は『Dカップ上のアイシャ』です。」

「アイシャちゃんも、自分で言わなくていいから。」

「社長、自分だけ秘密にするのも変ですし、誠君には生で見られてしまったから、もう構わないです。」

「えっ、あっ、いえ、布団の陰で良く見えませんでした!」

「アイシャちゃん、その話も封印しないと。」

「そうでした。社長、申し訳ありません。」

「橘さんと亜美ちゃんの情報を合わせると『Fカップ上のミサ』ちゃんということになるのかな。うん。これで全員の優劣がはっきりしたので、この話は本当におしまいにしよう。」

「明日夏ちゃんの言う通り。これでおしまいね。」

ホッとする悟だった。

「でも、明日夏さん、俺は問題外ということですか。」

亜美が諭す。

「由香、みんな武士の情けで黙っていたんだから。」

「そうか・・・・。」

「でも、胸の大きさの違いが、歌唱力の決定的差ではない、とも言いますし、全然気にする必要はないと思います。」

「それがマー君、うちの歌唱力は胸の大きさの順番なんだよ。」

「えっ、そうなんですか?・・・あっ、そうか。」

「でも、ということはアイシャちゃんは私より歌が上手と言うことなの?」

「明日夏、さすがにそんなことはないと思います。音痴ではないと思いますが。」

「そう言えば、アイシャ、歌ってみてよ。真理子先輩の姪ならそれなりに歌えるんじゃないか。ヴァイオリンとピアノの演奏は聴いたことがあるけど、歌は聴いたことがない。」

「橘さんが言うなら、歌ってもいいですが、あまり面白味のある声ではありませんので、歌うにしても、バックコーラスの方が向いていると思います。」

「それでもいいよ。歌ってみて。」

「分かりました。それでは、『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』を歌います。」

「アカペラで大丈夫?」

「はい。少しだけ発声練習をします。」

アイシャが少し発声練習をした後、『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』を歌う。歌い終わると、悟と久美が間奏を言う。

「声量もあって、しっかりと歌えているけど、やっぱり、声的にはクラッシックの方が向いているかな。」

「それはそうね。あとは、子供向きの童謡とか歌うといいかも。」

「それは言えるね。」

「やっぱり、法則は破られなかったということか。」

「明日夏はプロなんだから、それを言っちゃダメ。」

「でも、橘さん、歌のうまさの違いが、販売の決定的差ではないということもありますので、橘さんも歌以外のことも身に着けないと。」

「そうだ。そう言えば、少年は今日のイベント中に、悟にいろいろ連絡していたそうね。」

「はい、どう見ても、トークはユミさんの方がしっかりしていましたので。」

「ユミって、小学5年生の?」

「はい、歌はともかく。受け答えは、良く考えて、笑顔で相手の目を見てしっかりと話すことができます。」

「そういえば、ワンマンの時はそうだったな。でも、それは真理子先輩の娘なんだから、仕方がないわよ。」

「いえ、仕方がないということはありません。ユミさんは、今日もパスカルさんたちと、面接の練習をしています。」

「溝口エイジェンシーの子役の話か?」

「はい、その通りです。MCや受け答えも毎日練習して努力しているので、ワンマンで見せたように堂々と話せるようになったんだと思います。」

「やっぱり、トークも練習か。」

「そうだと思います。」

「私もデビューの前日は、お風呂でMCを練習していたよ。」

「なるほど、その時なら、Bカップの明日夏さんも頑張っていたんですね。」

「亜美ちゃんはどうなの?」

「えーと、そのころはDカップです。」

「そうじゃなくて、MCの話!」

「あっ、そうか。リーダーから、歌手として独り立ちしたいなら、トークももっと練習して、一人でMCができなくならないといけないと言われています。」

「尚ちゃんに甘えてばかりいてはいけないということだね。」

「それは、分かっているんですが。」


 悟が誠に話しかける。

「そうだね。誠君、うちは小さな音楽事務所だったから音楽のことしか考えていなかったけど、それ以外のことも効果的に練習するにはどうしたらいいか考えることにするよ。」

「賛成です。最初は橘さんのために。」

「明日夏ちゃんと尚ちゃんは今でもMCが上手だから、とりあえずはそうだね。」

「橘さんの最後の、愛し合えよ!と言うのは、橘さんらしくて良かったと思います。橘さんの場合、売れるためにはそういう雰囲気のMCでまとめると良いと思いました。」

「少年、私は売れるために言ったんじゃないよ。」

「はい、それは分かっています。観客の方に本当に伝えたかったんですよね。僕の場合、安全運転の方は、妹を乗せることも多いですので、十分気を付けています。」

「それはいい心がけだ。大切な妹だもんな。愛し合う方は?」

「そっちは、相手がいないので全然です。」

「でも、夏にミサちゃんが尚ちゃんを乗せて乱暴な運転をしたときに、マー君がミサちゃんを叱ったから、あまり叱られたことがないミサちゃんが、・・・・何でもない。」

「美香さんは、本当は僕をいやな奴だと思っているんですか?話しかけてくれるのは、妹の兄だからでしょうか。でも、安全運転をしてくれればそれだけいいです。」

「少年、そんなことはないから心配するな。普通に話してやれ。」

「橘さんがそう言うならば、これまで通り、音楽仲間として話します。」

「それで、少年は好きな子はいないのか?」

「特にはいません。本当です。」

「まあ、マー君はシスコンだからな。」

「妹は大切ですが、シスコンではないと思います。いつかは誰かと幸せになって欲しいと思いますし。」

「そうなの?一応謝っておこう。ごめん。」

「コッコさんは、パスカルさんと愛し合えと言いますが、パスカルさんとは同じ目的の戦友という感じです。」

「マー君、そんなことを言うと、コッコさんは戦場での二人のBL漫画を書くぞ。」

「明日夏さんの言う通りでした。気を付けます。」

「そうだ、あとは、アキとやらの地下アイドルは?」

「アキさんは、プロのアイドルになれるように頑張っていますので、パスカルさんと応援していますが、本当にアイドルと運営という関係です。」

「私と社長みたいなものか?」

「僕たちは平田社長ほどの力はありませんが、そんな感じです。」

「なるほど。」

「アキさんは、女性問題で困ったことがあったら、何でもいつでも相談して、絶対に悪いようにはしないからとは言われていますが。」

「少年、高校2年の女子にか?」

「はい。」

「社長、女性問題で困ったことがあったら、私に何でもいつでも相談して下さい。絶対に悪いようにしないですから。」

「明日夏ちゃん、僕には困るような女性問題はないよ。」

「マー君も?」

「今のところないです。」

「そう言えば、少年。今日、明日夏のイベントで、明日夏に、ついでで来たと言っていたが、あれはダメだぞ。言いたいことはわからないでもないが。」

「そうだった。あれは少しムッとした。」

「明日夏ちゃん、それは、誠君が明日夏ちゃんの負担にならないように言ったんだよ。」

「社長、負担って何ですか?」

「いつも来てもらって大変だなと、自分のことで心配させないようにかな。」

「なるほど。男心は難しいな。」

「だが、悟、それは間違っている。そんな遠慮はしてはだめだ。わざわざ来たんだから、君のために来たと言わなくちゃ。その方が相手も喜ぶ。明日夏、そうだろう。」

「それはそうです。」

「そんな遠慮をするから、少年は恋愛経験ゼロなんだ。悟もだぞ。」

「橘さんが言っていることには一理あります。」

「でも、明日夏ちゃんは作詞家になりたいなら、そういう気持ちも分からないと。」

「社長の言っていることにも一理あります。」

「明日夏、どっちなんだ。」

「うーーーーーん。こういう時は、ツンデレ風に、ついでに来たと言えばいいんじゃないかな。はい、マー君、やってみる。」

「僕がツンデレでですか?」

「その通り。」

「えーと、今日は近くまで来たから、ついでに来ただけなんだからね。わざわざ来たわけじゃないんだからね。」

「気持ち悪い。」

「・・・・・・。」

「それじゃあ、明日夏さん、二尉に手本を見せあげてください。」

「亜美ちゃん了解・・・。今日は近くまで来たから、ついでに来ただけなんだからね。わざわざ来たわけじゃないんだからね。」

「おー。」

「全く同じセリフでも全然違いますね。さすが、明日夏さんです。」

「へへへへへ。」

「明日夏ちゃんも、他の人だったら大丈夫なんだろうけど、誠君が言ったから少し腹が立っただけだよね。」

「そっ、そんなことは、なっ、ないです。」

「明日夏さん、今のはツンデレ?それとも素?」

「えっ、・・・ツンデレかな?」


 アイシャが話を変える。

「社長、おしゃべりをしているときりがないみたいですので、もうそろそろ、亜美の曲作りを始めてもよろしいでしょうか。」

「そうだね。始めよう。」

明日夏が報告する。

「歌詞はワンコーラス分作って、昨晩アイシャちゃんに送った。」

「それで、今日の昼に、曲の原案を作ってきた。」

「もうワンコーラス分を作ったんですか。明日夏さんもアイシャさんもすごいです。」

「えへん。」「有難う。」

「それでは、明日夏さん、歌詞から説明してください。」

「えーと、歌詞は小学生の男の子が聴くために作った。」

明日夏が歌詞を印刷した紙を配る。

「タイトルは『年下過ぎる男の子』。」

「却下です。」

「マー君、何で。」

「何でって、当たり前です。」

「『年下の男の子』(キャンディーズの曲)と被るから?」

「そうではなくて、歌詞が小学生の弟の友達を恋人にしたい高校生の姉の気持ちですから、いろいろ問題が多すぎです。」

「私には、この姉の気持ちは分かる。」

「さすが亜美ちゃん。」

「でも、二尉がいう通り無理だと思います。」

「亜美ちゃんも硬いね。」

「いえ、普通だと思います。」

アイシャが感想を言う。

「まあ、亜美の言う通り、現実にはそんなこと、ありえないもんね。」

「それは、何とも。」

「そうなの?世の中には変な女の人もいるかもしれないということか。」

「変な女の人・・・。」

「でも、誠君、一応曲を付けてきたから、聴いてくれる?」

「はい、歌詞を変えても曲を使うことはできるかもしれませんので、聴いてみましょう。」


 悟と久美以外が練習室に移動する。その時、アイシャの歌声が子供には受けそうと分かった亜美がアイシャに話しかける。

「アイシャ姉は、徹君の前で歌ったりする?」

「演奏はするけど、歌ったことはないよ。」

「それじゃあ、歌うのは止めておいて。」

「何で?」

「何でも。」

「そうか。歌は亜美の方がうまいものね。分かった。その代わりに、亜美が徹君に歌って聴かせて上げて。」

「えっ、いいの?」

「私に歌うなと言った以上、責任は取ってよ。」

「もちろん、喜んで責任を取ります。」

「有難う。」

「こちらこそ。」


 練習室に入ると、まず、アイシャが作曲してきた曲をピアノで演奏する。それを聴いた誠が意見を言う。

「曲は活かす方向で行きましょう。歌詞も少し変えて、時々公園で会う男の子が好きな同学年の女の子の話にすれば大丈夫だと思います。」

「お前はそれをわざと言っているのか?」

「はい?この歌詞では、時々しか会えないとか、弟を連れて行った公園で会えるという設定ですので、そのあたりの歌詞やメロディーは少し変えれば使えるかと思って。」

「そっ、そうだね。いや、何でもない。公園で会って嬉しいというのは私の設定だった。」

「はい。さすがと思います。」

アイシャが提案する。

「それじゃあ、誠君のコンセプトで歌詞を変えるところから考えようか。」

「はい、女性の方は小学生の時を思い出して、歌詞を考えると良いと思います。」

「うーん、その男の子の妹がこっちをゴミ虫を見るような目で見ながら、話すのを全力で邪魔をするとか。」

アイシャが答える。

「明日夏さんは、小学生の時もそんな目で見られていたんですか?」

「アイシャちゃん、小学生の時も、って。」

「深い意味はないです。時々、尚美さんがそんな目で明日夏さんを見ているぐらいです。」

「そうなのか。気が付かなかった。」

亜美が答える。

「明日夏さんが二尉に酷いことを言うからじゃないでしょうか。」

「亜美ちゃんの言う通りかもしれない。マー君は尚ちゃんにとって大切なお兄さんだからね。気を付けないと。」

「そうですよ。明日夏さん。ちゃんとした相手だったら、普通、妹は兄を応援すると思います。」

「アイシャちゃんは、自分のお兄ちゃんにそんな感じなんだ。」

「はい、私には兄と弟がいますが、兄にはそんな感じです。未だに一人ですから、早く彼女を作らないと行き遅れちゃいそうです。」

「お兄さんは何歳なの?」

「28歳です。」

「アイシャ、その話を社長にしちゃだめだよ。」

「亜美、平田社長は何歳か知っている?」

「30歳。」

「へー。社長、もてそうなのに不思議ですね。要求が厳しいのかな。橘さんとかとお似合いなのに。」

「その話も言っちゃだめ。」

「亜美、分かった。大人だから大丈夫。」

「でも、アイシャ、弟の方は姉としてどう思うもの?」

「弟の場合は、相手の女性が心配なので私がチェックするかな。」

「なるほど。」

「亜美、そんなことより、歌詞を考えないと。」

「そうだね。」


 夜から仕事が片付いた悟と、東京に戻ってきたミサも加わり、曲作りをしようとしたが、結局おしゃべりばかりしてから帰る時間になった。

「それでは、明日夏さん、いま話し合ったコンセプトで、歌詞を考えてきてください。」

「アイシャちゃん、話し合いと言うより、単なるおしゃべりだったような。」

「ははははは、そうでしたね。」

ミサが感想を言う。

「でも、楽しかった。」

「そう言えば、ミサちゃんは『Fカップ上のミサ』ちゃんでいいの?」

「誠がいるのに、明日夏は何を言っているの!」

「大丈夫。橘さんの新曲のタイトルを考えるときに、マー君が『Gカップ上のアンナ』と言い出したから。」

「えっ!」

誠は何かを言うと美香さんにもっと嫌われると思って黙っていた。亜美が説明する。

「ミサさん、それは明日夏さんが橘さんのことを「Gカップロックシンガー」と言い出したからです。」

「亜美ちゃん。それは橘さんが監督さんに、橘さんだけの写真集なら「Gカップロックシンガー」として売り出すことができそうと言われたと言ったからだよ。」

「橘さんの写真集か。私はどんなものでも絶対に買うけど。」

「それで、『Cカップ上の明日夏』、『Dカップ上のアイシャ』、『Eカップ上の亜美』という序列がついたんだけど、ミサちゃんは?という話になっていた。」

「明日夏さん、別になっていなかったと思います。」

「亜美ちゃんは黙っててね。」

「何か複雑で良くわからないけど、誠が言う前にそういう話の流れがあって、誠は悪くないのね。」

「まあ、『G線上のアリア』にかけた冗談が滑っただけかな。」

「良かった。でも、みんな、誠の前でそんな話をできるの?」

「まあ、マー君だから。」

ミサが誠の方をチラッと見る。

「でも、それなら私もジ・・・・『Gカップ上のミサ』だよ!」

「ミサちゃん、とうとう橘さんに並んだんだ。」

「うん。橘さんといっしょなら、嬉しい。」

「でも、ミサ、さりげなく誠君に自己アピールしてない?」

「そっ、そんなことはしてないよ。アイシャ。私が一番胸が大きいなんて。ははははは。」

「笑うところが怪しいけど。それじゃあ、次は形で勝負ということで、誠君に生で見て順番を付けてもらおう。」

亜美がアイシャに意見する。

「アイシャはまたバカなことを。」

「私がもう見られちゃったから構わないだけ?」

「ですから、見えていませんでした。」

「それは、真理子さんに、たとえ見えても、見えなかったと言わなくてはいけないと言われたから、そう言ってるだけでしょう。」

「・・・・・・。」

「私は、誠だけならいいけど・・・。」

「いやいや、ミサちゃん、アイシャちゃんの言葉に乗っちゃだめだよ。」

「だって、アイシャのは見たって。絶対、誠の目に焼きついている。」

「マー君、そうなの?」

「えっ、あっ、いや。」

「ほら。」

明日夏が「ミサちゃんは自分のGカップで上書きしたいということか。」と思いながら答える。

「マー君はウソが下手だね。」

「あの・・・」

「マー君、マー君が悪くないのは分かっているから大丈夫。でも、アイシャちゃんって、実は露出狂なの?」

「私がうかつだったからですが、もう仕方がないので。」

「明日夏さん、アイシャは露出狂と言うより、二尉が困っているところを楽しむサディストという感じだと思います。」

「まあ、否定はしませんが。」

「なるほど、亜美ちゃんの言うのが正しそうだね。」

「でも、明日夏さんにも、そういうところありますよ。」

「そうなの?」

「さっきも、二尉の頭をはたいていたし。」

「それは、マー君がGカップ・・・」

ミサが立ち上がって大きな声で叫ぶ。

「明日夏!」

「えっ、何、ミサちゃん、急に。」

「頭はダメだよ。」

「えっ、あっ、そうだった。」

明日夏の顔が青くなって、机に手をついて誠に向けて頭を下げる。

「マー君、ごめんなさい。忘れていた。」

「明日夏さん、大丈夫です。精密検査をしましたが、脳に外傷などは全くなくて、記憶障害は脳が揺さぶられたショックによるものだそうですから。」

「誠君、何かあったの?」

「はい、昔ちょっとした事故にあいまして。」

「そうなんだ。脳の中で出血とかはないんだよね。」

「はい、全くありません。NMRで見てもらいましたが、脳の血管は綺麗だそうです。」

「それなら、今の誠君、頭はいいから大丈夫よね。でも、私も誠君をぶつのは本当に絶対にやめる。万が一、悪くなったらいやだし。」

「言葉ではいじめるということですか。」

「非接触方式で。」

「アイシャちゃん、非接触方式って?」

「まだ、具体的には考えていないです。」

「マー君、セクシーなアイシャちゃんが見れるかもしれないよ。」

「・・・・・・。」

「それなら、私も。」

「美香さんも、アイシャさんも、僕のことはともかく、バレて自分が問題になるようなことはやめましょうね。」

「分かった。」

「アイシャしだいだよ。」

「それじゃあ、美香、そういう時は二人でいっしょに。」

「それならいい。」

誠はアイシャに4回ほっぺたを叩かれたときの痛さを思い出しながら、少しホッとしていた。明日夏もアイシャに同意する。

「私も絶対に止める。自分に言い聞かせなくちゃ。絶対にマー君をぶたない、ぶたない、ぶたない・・・」

「有難うございます。明日夏さんも、僕のことより暴力は表ざたになると大変なことになるので、正当防衛以外は暴力は絶対にやめましょう。」

「分かった。ごめんなさい。」

「ということなら、明日夏さんが誠君に体でお詫びするということで、この件は終わりにしましょう。」

明日夏が誠を見た後、自分を見る。誠はどう言おうか考えていた。

「えっ、私・・・・。でも、・・・・。」

「明日夏、大丈夫。誠になら私が代わりにお詫びするから。」

「明日夏さん、ミサさん、本気にしなくて大丈夫です。今のもアイシャが二尉を困らせようとしただけです。」

「そっ、そうか。そうだね。焦った。レベル高いな。」

「明日夏さんなら、それじゃあ今からウチ来る?とか言ってくれるかと思ったんですが、明日夏さんが本気にするぐらいバッチリなタイミングになってしまいました。」

「マー君が本当に事故で頭をうって、それでも頑張っていることを知っているから、自分が人間として最低なことをしたと思ったから。」


 ミサが明日夏に尋ねる。

「明日夏、大丈夫なの?」

「うん、全部アイシャちゃんの冗談だった。」

「よく分からないけど、そうなんだ。」

「でも、場が和んだでしょう。」

「アイシャちゃん、和んだと言うの、これ?私はまだ心臓がドキドキしている。」

誠は「確かに場は和んだけど。美香さんは意味が分かっていないんだろうな」と考えていた。アイシャが話を続ける。

「でも、明日夏さんと一夜を過ごすと、そのショックで誠君の記憶が戻るとしたら、明日夏さんはどうします?」

「マー君、どうする?ウチ来る?」

「行きません!」

「本当に記憶が戻るとしても?」

「はい。記憶が全部飛んでしまうと思います。」

「それは困ったね。」

「はい。ですので行きません。」

「まあ、マー君はそう言うと思った。」


 ミサがアイシャに話しかける。

「アイシャ、二人ならといいと言えば、誠をお風呂で洗う勝負の話はどうする?」

「えっ、あっ、忘れていた。でも、私、徹君を二日に1回お風呂に入れているから強いよ。実家では、弟も入れていたし。」

「そうか。私、そういうの未経験だから勝てないか。」

「たぶん。」

亜美がアイシャに話しかける。

「アイシャ、だから、大変だったら代わるって。洗い物も。」

「それが、美咲ちゃんがダメって。自分の仕事をさぼるなってうるさい。」

「美咲ちゃんって、ユミちゃんか。」

「うん。小姑(夫の姉)じゃないんだからって感じ。」

「小姑!そうか、ユミちゃんは小姑ということになるか。」

「そう。美咲ちゃんは徹君のことだと小姑みたいになっちゃうんだよ。堀田の家にはお世話になっているけど、別に徹君と結婚しているわけじゃないのにという感じ。」

「徹君とけっ、結婚。そうか、従妹は結婚できるのか?」

「亜美は何をバカなことを言っているの。それで、美咲ちゃんは特に亜美と代わるのはダメと言っているんだけど。亜美、何かしたの?」

「別に。嫁、小姑戦争みたいなものだよ。」

「うーん、やっぱり分からない。」


 アイシャと亜美が話しているときに、悟が誠に話しかける。

「誠君、大丈夫?誠君が来る前は僕がいじめられていたんだけど、大変でしょう。」

「はい、社長も大変だったと思います。」

「私は社長をいじめていたのか。からかってはいたつもりだけど。」

亜美が明日夏に注意する。

「明日夏さん、それは同じことです。でも、社長より二尉の方が程度がひどい気がします。」

「やっぱり年齢が近いからかもしれない。でも、あんまりやりすぎると誠君が女性不信になるので気を付けて。」

ミサが本当の疑問として悟に尋ねる。

「もしかして、ヒラっちはパラダイスのみんなに、女性不信にされてしまったんですか?」

悟は話の中心が自分に移ったことを「しまった」と思いながら答える。

「いや、僕は女性不信ということはない。」

「だから、彼女がいない歴30年ということか。」

「ミサちゃん、違うから。久美の言うことを信じないで。」

「でも、ミサちゃん、社長が彼女を作るためにはどうしたらいいと思う?」

「明日夏ちゃんも、僕のことはいいから。」

「社長、みんな、心配しているんですよ。」

誠が助け舟を出そうとする。

「みなさん、僕には心配していると言いながら楽しんでいるようにしか見えないです。」

「マー君は心配じゃないの?」

「心配ですけど、僕にはどうしようもありませんから。」

「ほら、社長!マー君にも心配されていますよ。」

「いや。」

「橘さんのトークと同じで、やっぱり練習しかないか。」

「明日夏、練習ってどうするの?」

「やっぱり、橘さんに一番似ているミサちゃんを相手に練習する。」

「・・・・・。」

「明日夏ちゃん、冗談でもそんなことをしたら、溝口社長にこの会社をつぶされるから。他の人も、レコード会社から契約を打ち切られる可能性があるから、絶対にダメ。」

「だとすると、練習相手はマー君しかいないか。」

「そんなことをしたら、パスカルさんに怒られる。」

笑い声が起きる。


 二人で話していた亜美とアイシャが笑い声に気づき、亜美が尋ねる。

「何かあったんですか?」

明日夏が答える。

「マー君を中心にした、社長とパスカルさんの三角関係の話をしていたんだよ。」

「なるほど。」

亜美とアイシャは理解したが、ミサは理解できていなかった。

「亜美、男性3人で三角関係って、何を言っているかわからない。」

「ミサちゃんは分からなくてもいい。」

「美香さん、SOGIに関することですから、冗談でも公で言えば社会的な批判を受けることになりますので、今はその話題は避けるということでも大丈夫だと思います。」

「でも、私は分かりたい。」

「私も知りたいんだけど、マー君、SOGIって何?LGBTQ(レスビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クレッショニング)の親戚?」

「はい。セクシャル・オリエンテッド・アンド・ジェンダー・アイデンティティの略で、LGBTQが特定のマイノリティの性的なあり方とか、そのような集団を指す概念なのに対して、SOGIは異性愛者を含めたすべての人にかかわる包括的な概念を意味しています。」

「やっぱり、よく分からない。」

「でも、マー君、BL漫画はどうなるの?」

「社長、パスカルさん、僕を登場人物として、BL漫画を描くこと自体は大丈夫だと思います。ただ、面白おかしく、パスカルさんに怒られるとか、三角関係だとかを公の場所で言うのは止めた方がいいです。」

「誠君の言う通り。それは僕も注意しなくてはいけなかった。ごめんなさい。本当に炎上してみんなに迷惑をかけることになるから、みんなも気を付けて。」

「気を付けなくてはいけないことは分かったけど。」

「美香さんの場合、人気があるだけ大炎上する可能性もありますが、MCの内容は事前にチェックしてもらっているんですよね。」

「うん。ライターに手直ししてもらっているよ。」

「でしたら、原稿に載っていない人に関することは絶対に口にしないということで、大丈夫だと思います。」

「分かった。そうする。」

「それじゃあ、誠君が美香の大炎上を防いだということで、美香が誠君に・・・・」

「アイシャ、何?」

「えーと、お礼を言わなくちゃですね。」

「うん。誠、本当に有難う。」

「どういたしまして。」

ミサ以外の女性陣は、アイシャが「体で感謝しないと」という冗談を言おうとしたが、ミサだと本当にどうなるか分からないので、言うのを途中で止めたことは分かっていた。明日夏が感想を漏らす。

「アイシャちゃんも、相手を考えて言っているんだね。」

「それは、もちろんです。それで、もう帰る時間をだいぶ過ぎてしまいましたが、明日夏さん、歌詞の手直しは大丈夫ですか?」

「うん、今までの話をまとめるのは難しいけど、何とか考えて来るよ。一応、私は作詞家志望だからね。」

「有難うございます。」

その日はこれで解散となった。誠は尚美が戻ってくるまで待つことにした。


 時間を巻き戻して、『ユナイテッドアローズ』のライブと特典会が終わった後、パスカルたちはユミの面接の練習のためにレンタルした会議室に向かった。

「今日も、お客さんの反応はまあまあだったわね。」

「特典会の売り上げも安定してきている。」

「やっぱり、ユミちゃんの成長が大きいかな。」

「それは、そうね。MCも小学生とは思えないぐらい上手だし。」

「アキ姉さん、プロデューサ、有難うございます。でも、もし私がオーディションに受かっても大丈夫ですか?」

「ユミ、その心配は無用。ユミの穴はママが埋めるから。」

「ママ、それが心配なの。」

「私たちはもう大人だから何とかする。ユミちゃんが心配する必要は全然ないから。」

「でも、アキちゃん、本当にマリさんに入ってもらう?」

「パスカルさん、本当にって酷くない?」

「ごめんなさい。そういう意味ではないです。」

「うん、入ってもらおう。もう一人でやるのはさびしいから。」

「そうだな。」

「おっ、さすが!二人ともカッコいい。」

「だから、ユミちゃんは後のことを気にすることなく、面接に全力でね。」

「それでも心配ですが、面接を頑張ります。」

「その通り!」

「ママ、うるさい。」


 レンタル会議室に到着すると、初めに机を並べ替えた。その後で、パスカルの着替えのために、アキたちに部屋から出て廊下で待ってもらう。

「ユミちゃん、アキちゃん、マリちゃん、俺は背広に着替えるので廊下で待って下さい。」

「はい。」

「パスカルの背広姿、久しぶりね。」

「私は背広に着替えるぐらいなら気にしないけど、パスカルさんが恥ずかしいわよね。」

「マリさん、正志さんに怒られますので、お願いします。」

3人が出て行ったところで、パスカルが会議室の中で背広に着替える。ラッキーが尋ねる。

「僕は背広を持ってきていないけど。」

「芸能事務所ですから、背広を着ていない人もいると思いますので大丈夫です。」

「そうだね。事務側は着ていても、制作側の人は着ていないか。」

「はい、その通りだと思います。」


着替え終わった後でアキを呼ぶ。

「それじゃあ、アキちゃん、入ってきて。」

「了解。」

アキが会議室に入ってきた。

「おー、ちゃんと着ている。」

「俺は変態じゃないんだから、変なことはしない。」

「馬子にも衣装?サラリーマンみたい。」

「サラリーマンは馬子みたいなものだけど・・・」

「アキちゃん、社会人みたいと言えばいいんじゃないか。」

「ラッキーは会社で背広を着ないんだったね。」

「うん、営業の人は着ているけど、技術系は着ていない。」

「なるほど。パスカル、ネクタイが曲がっている。」

「ここには、鏡がないからな。」

「男は鏡を持ち歩かないもんね。私が直してあげるよ。」

「おっ、おう。」

アキがパスカルのネクタイを直す。

「あっ、有難う。」

「アキちゃんはネクタイを直すとかするの?」

「ないよ。バイトの衣装で自分でネクタイをしたことはあるけど、人のネクタイを直したのは始めて。」

「新婚さんみたいだね。」

「はいはい、ラッキー、もう一回言ったら蹴るわよ。」

「もう、円熟夫婦かな。」

「マリさんも冷やかさないでください。マリさんは正志さんのネクタイを直したりするんですか?」

「昔から、ネクタイをするのは、私より旦那の方が上手だから、したことはない。」

「正志さんは、俺と違ってちゃんとしていますからね。夏に、ユミちゃんのことで抗議に来たのは正志さんでしたし。」

「でも、水着の女子高生に、タジタジになっていたけどね。」

「水着の女子高生って、アキちゃん?腹立ちました?」

「何、鼻の下伸ばしているのよ!と思ったけど、みんなが仲良さそうで、青春しているという感じが羨ましかっただけかもしれない。」

「マリさん、今からできることを頑張りましょう。」

「パスカル、湘南みたいよ。」

「そうね。ここにコッコさんがいれば、ニヤニヤした笑顔が見れたわね。」

「それは見たくないです。さて始めましょう。」

「了解。」

「パスカル君、席はどうする?」

「ラッキーさんは面接とかはしますよね。」

「会社の採用の面接なら毎年しているよ。」

「アキちゃんは、何回か受けているよね。」

「うん、バイトや、去年、パラダイス興行で。」

「おれも、採用面接を今年初めてやったけど、やっぱりラッキーさんが主任面接員で、僕が事務でアキちゃんが一般の面接員でいこう。」

「分かった。」「分かった。」

「私は何をすればいい?」

「遠くから面接の様子を見ていて、コメントがあったら後で言ってください。」

「了解。」

「ラッキーさん、アキちゃん、これが面接でユミちゃんに聞く内容。先週、湘南といっしょに考えた。」

パスカルが二人にA4の紙を渡す。

「有難う。」「有難う。」

3人が面接の手順を確認する。

「それじゃあ、ユミちゃん、廊下に出て部屋に入るところから始めよう。何回か通して練習するから、あまり緊張しなくて大丈夫。」

「分かりました。」


 パスカルが席を立ち、部屋のドアを開ける。

「受験番号8番、堀田美咲さん。」

「はい。」

「面接室にお入りください。」

「有難うございます。」

パスカルが席に座るとユミが座る。ラッキーが話し始める。

「まず、受験番号と名前を言ってください。」

「はい。受験番号8番、堀田美咲です。」

「有難うございます。それでは、堀田さんがこのオーディションに受ける理由を教えて下さい。」

「私は小さい時から、みんなに元気をくれるアイドルにあこがれていました。特に、王道アイドルの『アイドルライン』が好きでしたが、解散してからは『トリプレット』のレベルが高いパフォーマンスが大好きで、そういう世界に飛び込みたいとずうっと思っていました。昨年の夏から『ユナイテッドアローズ』という地下アイドルユニットに加入することができて、テレビで活躍できるアイドルになるためにステージでの振舞などを勉強してきました。今回、『アイドルライン』をプロデュースした溝口エイジェンシーが子役のオーディションにすることを聞き、またとないチャンスと思い応募しました。」

「このオーディションのことはどうやって知りましたか。」

「ナンシー・レノンさんから伺い、その後、自分でインターネットで調べました。」

「そうですね。ナンシーさんの紹介になっていますね。やらなくてはいけないことに、真面目に、一生懸命取り組むとのことですね。」

「ナンシーさんにそう評価してもらえると嬉しいです。」

「将来、どんな芸能人になりたいか教えて下さい。」

「星野なおみさんのように、メンバーのことを考えて、ユニット全体のレベルを上げていくことができるリーダーのような芸能人になりたいと思います。ただ、私はまだ子供ですし、事務所の方で私が向いていると思うことがあれば、その方向に全力を取り組みます。お芝居をするのも大好きです。」

「自分をアピールできる点を教えて下さい。」

「一つはナンシーさんが言われた通り、目標に向かって真面目にコツコツと一生懸命取り組むことができることです。今は歌とダンスのレベルアップに取り組んでいます。」

「自分の直した方が良いと思う所を教えて下さい。」

「はい、一生懸命に取り組むとそればかり考えて周りが見えなくなる時があると言われますので、そういうときは早めに注意して頂ければと思います。」

「分かりました。課題曲を歌う準備はしてきましたか?」

「はい、準備してきました。」

「それでは、課題曲を歌ってもらいます。」

「はい。」

パスカルが携帯スピーカーからカラオケを流し、ユミが無事に歌い終わる。

「有難うございます。次は演技の試験です。一度、立ってください。」

「はい。」

「お父さんとお母さんが、友達と旅行を行くことを許してくれません、渡した紙に書いてあるセリフで演技してみて下さい。」

「お父さんとお母さん、何でいけないの?香織ちゃんのお兄さんとお姉さんもいっしょに行くから大丈夫だよ。知ちゃんも行くのに、私だけ仲間外れになっちゃう。・・・・・・家族で行く旅行とは違うの!パパとママのバカ!」

「次は、大切にしていた子犬が目の前の交通事故で死にました。渡した紙に書いてあるセリフを泣きながらセリフを言ってみて下さい。」

「キャシー、キャシー、お願い、目を開けて。何か言って。いくら吠えても絶対文句を言わないから。お願い。・・・・・私が目を外したばっかりに。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。キャシー、キャシー。キャシー、何か言って。」

「有難うございます。それでは着席してください。」

「はい。」

「他の審査員の方、何か質問がありますか?・・・・それでは、アキ審査員。」

「『ユナイテッドアローズ』はどんなユニットなんですか?」

「メンバーをプロのアイドルにするためにボランティアで活動している完全にアマチュアのユニットです。ワンマンライブには100人ぐらいのお客さんが集まりました。経営状態に関しては人件費を出す必要がないので、ちょうど利益も損失もない状態ということです。」

「ボランティアということはみなさん、本業をお持ちなんですか?」

「プロデューサーは地方公務員、経理担当は自動車会社に勤めていまして、音楽に関しては私の母と大学生が担当しています。」

「なるほど。有難うございました。」

「他にありますか。・・・・それでは、パスカル審査員」

「好きな食べ物は何ですか?」

「パスカルゥ、お見合いじゃないんだからそんなことを聞くと思う?」

「そうか?」

「でも、アキちゃん、一次面接では聞かないと思うけど、二次面接では意外なことを聞いて反応を見るかも。」

「スポンサーの人に聞かれたときに、ちゃんと対応できないといけないし。」

「なるほど。ラッキーが言うことにも一理あるわね。分かったわ、続けよう。」

「それでは、もう一度。好きな食べ物はなんですか?」

「母が作ってくれたものは何でも好きですか、一番好きなものは中にチーズが入ったハンバーグが好きです。」

「嫌いな食べ物は?」

「ピーマンです。」

「分かりました。」

「審査員の方、他に何か質問はありますか?・・・・・ないようですね。それでは、堀田さんの方から、私たちに質問などはありますか?」

「もし運よく合格したら、いつから仕事が始まりますか?」

「4月から簡単な仕事を始めてもらうと思います。」

「有難うございます。他に質問はありません。」

「それでは、今日の面接はこれで終わります。控室で待っていてください。」

「はい。今日は有難うございました。」


 ユミが一度部屋から出て行ってから戻ってくる。

「どうでしたか?」

全員が面接の感想を言う。

「つっかえずに言えたのはすごいと思うけど、もう少し自然に言えるといいと思う。」

「練習してきましたが、ラッキーさんの言う通りだと思います。」

「ユミちゃん、表情が硬いから、もっと笑顔で話した方がいいわよ。」

「やっぱり緊張してしまいました。」

「えーと、部屋から出ていくとき、一礼してから扉を閉めるといいと思った。」

「プロデューサー、有難うございます。そう言えば忘れていました。」

「それと、ビデオを撮っているから、休憩時間に見てみよう。」

「有難うございます。」

「マリさんはどうでした?」

「我が子が成長したって感じで、感動した。」

「それはマリちゃんに同意です。ユミちゃんみたいにちゃんと答えられる小学生はあまりいないですよ。」

「いえ、プロデューサー、溝口エイジェンシーの最終面接にはそういう小学生ばかりになると思います。」

「それは、ユミちゃんの言う通りかもしれないわね。」

「最終面接のときはママとパパの面接もあるから、ママもちゃんとしてね。」

「ママも面接の練習しておいた方がいいかな。」

「当たり前。」

「ユミちゃん、厳しい。」

「マリさんの面接があるのは最終面接のときですから、まだ先ですが、来週、1回練習してみましょう。」

「そうね。パスカルさん、有難う。」

「あと、ピーマンが嫌いと言うと、後の方の面接でピーマンを美味しそうに食べてくださいとかあるかな?」

「それじゃあ、ハンバーグを嫌いと言っておこうかな。」

「ユミちゃん、ウソはバレると絶対に良くないので、やめた方がいいと思う。」

「ラッキーさん、分かりました。ピーマンを美味しそうに食べる練習もしておきます。」

「でも、それでピーマンが好きになっちゃったらどうしよう。」

「ママ、食べることはできても、好きにはならないよ。」

「まあ、ママなんか、セロリは好きじゃないから絶対食べないし、家で出したことも一度もないわね。」

「はいはい、ママも大人になってね。」

「大人になったから、ユミちゃんがいるんでしょうが。」

「ママ、恥ずかしいから、ここでそんな話をするのはやめてね。」

「おっ、俺たちは、だっ、大丈夫ですけど、ユミちゃんのためにやめましょう。ですよね、ラッキーさん。」

「そっ、そうだね。パスカル君の言う通り。」

「二人とも、大丈夫そうに見えない。」

「アキちゃんは大丈夫なの?」

「女優なら高校生でもそういうセリフはありそうだし。」

「それはそうか。」

「まあ、売り言葉に買い言葉で言っちゃったけど、いまのはなしということで。」

「この話、パパには言えないよね。」

「まあ、そうかな。」

「今離婚されても困るから、黙っているけど。」

「さすが、ユミちゃん。」

「ママに大人の分別がないだけ。」

「ママが大人じゃなかったら、ユミちゃんはいないの。」

「ママ、私は大人の分別と言ったの。話を戻さないで。それに、私がいるのは、ママが20歳のときに分別がなかったから。」

「それじゃあ、ママに大人の分別がなくて良かったじゃない。」

「はい!二人とも話はそこまで。とりあえず今のビデオを見てみよう。その後にまた面接の練習をします。」

「プロデューサー、分かりました。」

結局、面接を計3回練習して、その日はお開きとなった。パスカルがスマフォで撮影した動画を誠に送った。誠からパラダイス興行にいるので、パラダイス興行の人に見てもらって良いかの返信があったため、マリとユミに確認してOKを出した。


 尚美は『ハートリンクス』のテレビ出演の様子を見た後、事務所に戻ってきた。

「社長、お兄ちゃん、ただいま。」

「尚ちゃん、お帰り。お疲れ様。」

「尚、お帰りなさい。」

「橘さんは練習室で練習しているんですね。でもなんか様子が違いますね。」

「うん、トークの練習をしているみたいだ。」

「そうなんですね。橘さん、歌は私たちより全然上手ですから、トークの練習をするのはいいことだと思います。」

「僕もそう思う。今、何かいい教材はないかと探しているところ。」

「それなら、溝口エイジェンシーの方にも聞いたりして私も探しておきますが、橘さんが急にトークの練習を始めたということは、今日、明日夏さんのイベントで橘さんへの10の質問をやったということですか?」

「うん。それで、明日夏ちゃんのトークの方が、現場の雰囲気に素早く対応して全然上手だと久美も分かったみたいだった。」

「確かに、明日夏さんは会場の雰囲気を掴むのが上手です。」

「それと、誠君に見せてもらった『ユナイテッドアローズ』のワンマンのユミちゃんのトークや、面接の練習を見て、思うところがあったみたい。」

「ユミということは、小学5年生か。」

「その通り。」

「まあ、あの子、しっかりしていますからね。」

誠が答える。

「小学5年生の時の尚には及ばないかもしれない。」

「お兄ちゃん。それじゃあ、褒められているんだか、どうか分からないよ。」

「褒めているつもりだよ。」

「そう言えば、誠君、バックバンドの時は歌を細かいところまで聴けてなかったけど、さっき見たワンマンライブのDVD、アキさんの歌も春先よりはだいぶ良くなっていた。」

尚美が尋ねる。

「社長、アキはアイドルとしてならプロでもいけると思いますか?」

「歌に関しては、アキさんより上手でないプロのアイドルはたくさんいると思う。それ以外の魅力に関しては僕にはわからないけど。」

「有難うございます。社長にそう言ってもらえると僕も嬉しいです。本人の努力とマリさんの指導のおかげだとは思いますが。」

「さて、もう遅いからその話はここまでにして、二人は帰った方がいい。」

「分かりました。それでは帰宅します。今日の曲の打ち合わせで、話を混乱させてしまって大変申し訳ありませんでした。」

「いや。誠君は悪くないし。前も言ったけど、誠君がいると、話題の対象が分散するから助かっている。」

「そうだと嬉しいのですが。」

「それじゃあ、また。尚ちゃんをお願いね。」

「はい。それでは失礼します。」

「失礼します。」

誠と尚美が家路についた。


 帰りの電車の中で尚美が誠に話しかける。

「アキの歌が上手になったという話、社長が言うから間違いないと思うけど、お兄ちゃんもそう思う?」

「うん、思うよ。」

「それじゃあ、春から溝口エイジェンシーでアニメオタク向けのアイドルのオーディションをするからって、アキに伝えておいて。」

「『ハートリングス』がアイドルの王道路線にイメージチェンジしたので、その代わりと言うこと?」

「それもあるけど、溝口エイジェンシーは、毎年ユニットをデビューさせている。今回は、ルックスも美人と言うより個性的で魅力的な人を選ぶみたい。」

「分かった。でも、公開前の情報を伝えても大丈夫なの?」

「溝口エイジェンシーは公的機関と言うわけじゃないし、スカウト部門も有力と思う子にはもう伝えているから、大丈夫。」

「それは良かった。」

「でも、オタク男性相手だから、異性関係は普通のアイドルよりも厳しいという話。最終面接まで行くと、興信所を使った身辺調査があるかもしれない。」

「興信所か。尚のことで僕にもついたぐらいだからね。大丈夫だと思うけど、それも伝えておく。有難う。」

「それで、お兄ちゃん、社長さんに謝っていたけど、今日何かあったの?」

「うーーん。ごめん、中学生には話してはいけないと思う。」

「ああ、そう言うことね。みんなお兄ちゃんを男性とは思っていないみたいだから。」

「それは分かる気がするけど。」

「社長も助かっているようだから、あまり気にせずに。」

「無害なおもちゃとして振舞えばいいということ?」

「もしいやなら、私から何か言うけど。」

「尚は言わなくてもいいよ。みんなとの関係を悪くしても良くないし。僕のことは社長と相談するよ。」

「この件に関しては、社長はかなり頼りないけど。」

「でも、みなさん、行き過ぎないようにはしているみたいだから大丈夫だと思うよ。」

「私もそう思う。明日はハートレッドさんの家庭教師でパラダイス興行だよね。」

「その通り。明日のパラダイス興行は社長と橘さんしかいないから大丈夫だと思う。」

「レッドさんは溝口エイジェンシーのタレントとして教育を受けていて、パラダイスの人と違ってちゃんとしているから、大丈夫だと思う。」

「パラダイスの人たちも最終的には大丈夫だと思うけど、レッドさんの方が大企業の人という感じだよね。」

「まあね。でも、お兄ちゃん、大変?」

「大丈夫。自分の大学入試のころに比べれば、全然まだ余裕がある。それに、尚は僕の心配する必要はないよ。」

「分かった。お兄ちゃんに任せる。」

「有難う。」

全くそう考えていない尚美がそう答えた。

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