第45話 冬休みの終わり
『ハートリンクス』への改名が発表される日曜日、誠と尚美が朝早いうちはいっしょに学校の勉強をしてから、二人で湘南新宿ラインを使って東京に向かった。
「今日は『トリプレット』と『ハートリンクス』がいっしょに練習するの?」
「うん。その後にいっしょにテレビ局に行く予定。」
「せっかく一緒に練習するなら、何かコラボできると面白いかもしれないね。」
「『ハートリンクス』のメンバーを8人に増やした感じにするということ?」
「『トリプレット』も『ハートリンクス』もまとまっているから今のままがいいと思うよ。そうじゃなくて、二つのユニットで役を分ける感じ。」
「お兄ちゃんは、『ハートリンクス』は5人のままがいいと思う?」
「そう思うよ。」
「アキとか入れたら?」
「尚、そういう恣意的な考えでプロデュースをしない方がいいと思う。」
「お兄ちゃんが、アキを手放したくないから?」
「そうじゃなくて、アキさんはまだ『ハートリンクス』のメンバーのレベルに達していないし、性格的にもユニットの中で浮きそうだから、尚のためにならないと思う。」
「本当に?」
「本当だよ。アキさんは性格的にアキさんがリーダーのユニットがいいと思う。」
「それは分かるけど・・・・。」
「それに、たくさんの人の生活や人生がかかっているユニットなんだから、ユニットのためにならなそうなことをしちゃだめだよ。」
「うん、分かった。アキを入れれば、お兄ちゃんが喜ぶかと思った。」
「それが『ハートリンクス』のためになると思えるなら喜ぶけど。」
「そうだね。それでお兄ちゃんの今日の予定は?」
「今から神社に行って、アキさんとユミさんの写真撮影でパスカルさんを手伝ってくる。そして、午後から久しぶりにライブを手伝ってくる予定。今日は、正志さんとラッキーさんの友達が手伝いに来るので、大変ではないと思う。」
「良かった。それでアキたちの調子はどう?」
「パスカルさんの話では、ワンマンライブで新しいお客さんも来るようになったけど、他のユニットに移るお客さんもいるからあまり変わらないということみたい。でも、赤字ということはないから、アマチュアとしては続けられると思う。」
「何かプロモーションする計画はあるの?」
「今年はアイドルのコンテストに応募する。あとは、平田社長のつてで、歌を配信サイトとサブスクリプションに載せてもらう予定。」
「コンテストにでるなら、予選はSNSの登録者数と動画配信の再生数で審査されるから、動画撮影を頑張らないとだよ。」
「パスカルさんは、そのためにアキさんとユミさんの年齢差をうまく利用して、姉妹の関係を歌った歌でMVを作りたいみたい。」
「アキとユミで姉妹の歌か。そのコンセプトは分からなくはないか。お兄ちゃんが作曲するとして、作詞は誰がするか決まっているの?」
「パスカルさんが考えているようだけど、進んでいないみたい。」
「明日夏先輩にお願いしてみようか?」
「それは新曲で忙しいのに申し訳ない気がして。」
「まあ、作詞家になりたいというぐらいだから、聞いてみるよ。」
「有難う。」
「そう言えば、お兄ちゃんたちが『ハートリンクス』を撮ったビデオ、溝口エイジェンシーの中でも、技術はともかく、新鮮でメンバーが魅力的に見えてコンセプトはいいって話だったって。」
「本当に!パスカルさんの自信にもつながるし、嬉しい。」
「そうだね。」
誠は渋谷まで行ったあと、パスカルとの待ち合わせ場所の神社に向かった。
誠が神社に到着すると、アキ、ユミ、パスカル、コッコが揃っていた。
「みなさん、こんにちは。」
「おお、湘南、よく来た。」
「湘南、いらっしゃい。」
「湘南ちゃん、いらっしゃい。」
「湘南兄さん、いらっしゃい。」
「イノルも駅に着いたって連絡があったから、もう少し待っていてくれ。」
「分かりました。」
「湘南兄さん、アイシャ姉さんにぶたれたほっぺたはもう大丈夫ですか。」
「大丈夫ですが、あの、その話は・・・」
「ユミちゃん、アイシャ姉さんって?」
「私の従妹で、この正月に北海道から出てきました。」
「湘南、何でぶたれたの?湘南の事は信じているけど。」
「えーと。」
「アイシャ姉さんが、湘南兄さんのことを、私に地下アイドルをやらせて、オヤジと並んで写真を撮らせて儲けている悪い人だと思ったからです。」
「その通りです。正義感がかなり強い人のようです。」
「ママが帰ってきたから誤解が解けたけど、それまでに、ケダモノと言われながら4回ぶたれていました。」
「ケダモノ・・・・。ユミちゃんの従妹って過激なんだね。」
「ユミちゃん、それは湘南ちゃんにとってはご褒美だから心配しなくていいよ。」
「コッコさん、ご褒美ではありません。でも、ユミさん、腫れはすぐにひきましたし、心配しなくても大丈夫です。」
「笑っちゃいけないけど、湘南もとんだ災難だったわね。」
「はい。そのことは構わないのですが、やっぱり、地下アイドルを見る世間の目は忘れてはいけないと思いました。」
「それはそうね。親には許してもらったけど気を付けないと。その従妹って、何歳?」
「歳は知りませんが、学年はアキさんと同じです。」
アキがメガネをかけた真面目そうな女子高生を思い浮かべながら言う。
「高校2年生か。でも、地下アイドルはやらなさそうね。」
「はい、そうだと思います。」
パスカルが慰める。
「湘南、女子高校生にぶたれるって、そうそうできない経験だぞ。まあ、アキちゃんとユミちゃんの可愛い振袖姿でも見て癒されなよ。」
「そう、そう。どう?」
「パスカルさんの言う通りです。とても可愛いと思います。」
「僕の妹には及ばないけど、みたいな感じがなんだけど、湘南、有難う。」
「いえ、そんなことは考えていません。それよりコッコさんは、コミケで姉妹好きにイラストが売れると思っていると思います?」
「さすが湘南ちゃん、分かっている。」
「スケッチが進みますか?」
「もちろんだよ。もう3枚ほどスケッチした。」
「パスカルさんの写真と絵を組み合わせて、コミケで売るというのはどうですか?」
「実写との組み合わせか。」
「はい。」
「それは面白そうだね。まあ、湘南ちゃんは、そうすれば私が過激な絵を出せなくなると考えたんだろうけど。」
「その通りです。」
「まあ、考えてみるよ。」
「有難うございます。ユミさん、振袖を着てパフォーマンスの方は大丈夫ですか?」
「歌うのは大丈夫そうですが、やっぱりダンスの方は動きづらそうです。」
「湘南、一応撮影の後で、カラオケでユミちゃんと練習する予定なんだけど。」
「はい、その方がいいと思います。テンポが速い曲もありますので、無理して転ばないようにして下さい。」
「分かっている。転んだら、みっともないし。」
「腕を動かすのと、回るだけというのでもいいかもしれませんね。」
「湘南兄さん、アレー、とか言いながら回って、悪者に振袖を脱がされるやつですか。」
「コントではありませんので、違います。」
「湘南兄さん、コントでなくて、時代劇です。プロデューサーが悪代官でアキ姉さんの帯を引っ張って、湘南兄さんが三河屋さんで私の帯を引っ張る。」
アキとユミが決まり文句を言う。
「三河屋、おぬしも悪よのう。」
「いえいえ、お代官様には敵いません。」
「・・・・。」
「お客さんに受けると思いますけど。」
「えーと、男性用の着物の準備がありません。」
「ユミちゃん、冗談で男性陣を困らせない。パスカルと湘南が着物の帯を引っ張って脱がすなんて無理よ。」
「まあ、そうですね。分かりました。」
神社の写真を撮っていたユミの父親の正志がやってきた。
「湘南さん、こんにちは。」
「正志さん、こんにちはです。」
「撮影中、私は横で撮影風景の写真を撮っていますが、もし手伝いが必要だったらいつでも言ってください。」
「はい、そのときにはよろしくお願いします。」
「今日はママがいないから、パパ、ライブで羽が伸ばせるね。」
「美咲、そんなことはしないよ。」
「パパ、ここではユミと呼んで!」
「そうだったね。ユミちゃん。」
「あと、パパが何をしてもママには黙っているから心配しないでいいよ。」
「ははははは。」
「でも、ユミさん、マリさんは正志さんのシャツに付いた匂いから、いろいろなことが分かってしまうみたいですよ。」
「うーん、それはそうかもね。」
「あと、正志さんの匂いが女性に付いて、その女性とすれ違うことがあると、正志さんと一緒にいたことが分かったりします。」
「まさか、湘南さん。真理子は犬じゃないんだから。でも、その話、本当なの?」
「はい、嗅覚の鋭い女性の場合、そういうことがあるみたいです。」
「そうなのか・・・・。」
アキが意見を言う。
「二人とも心配しすぎだよ。チェキ写真ぐらいならバレても大丈夫だよ。」
「アキさん、大丈夫かどうかはマリさん次第ですので、僕たちよりユミさんや正志さんの方が分かるとは思います。」
「僕もチェキ写真までなら大丈夫だと思う。」
「私はパパの味方だから安心して。」
「えっ、ああ。美咲、有難う。」
「だから、ユミだって。」
「ユミちゃん、有難う。」
少ししてイノルがやってきて、撮影を開始した。イノルがレフ版を持ち、パスカルが三脚の上のカメラを操作し、カメラに接続したパソコンにカメラからのデータをリアルタイムに伝送し、誠がパソコン上で画像を拡大してピントを確認していた。
「イノル、次はアップを撮るからもっと近づいて。」
「了解。」
「もう少し下からかな。」
「了解。」
「湘南、ピントは?」
「大丈夫です。」
「パソコンにつなぐと、すぐに拡大して見れるからいいな。」
「はい、ホワイトバランスの調整もできますし。」
「アキちゃんも、去年よりモデルらしくなった。」
「本当に!」
「痩せたということですか?」
「それもあるけど、表情が明るくなった。」
「そう言われればそうですね。自信が付いたのかもしれません。」
「本当に!モデル業も悪くはないわね。」
写真撮影はアキだけ、ユミだけ、二人一緒の順で撮影し無事に終了し、パスカルが撮影した画像を確認した。
「湘南、大丈夫だよね。」
「はい。立っている写真はアクスタにも使えそうですね。」
「そうだな。二人の写真はCDのジャケットにも使えそうだ。」
「僕もそう思います。」
「それじゃあ、次はビデオをとるからパソコン側の準備をお願い。」
「了解です。」
「ねえ、パスカル、せっかくいいカメラと三脚を持って来たんだから、ビデオ撮影の前に全員で記念写真を撮らない?」
「おう、分かったぜ。」
全員が並んで記念写真を撮影した。アキが写真を見ながら嬉しそうに言う。
「いい記念になりそう。」
「何で。」
「パスカル、湘南、コッコと出会ってからもうすぐ1年になるからでしょう。」
「それはそうだな。」
「明日夏さんの冬のリリースイベントの初日でしたから、次の土曜日が1年という感じでしょうか。」
「湘南は次の土曜日の明日夏ちゃんのリリースイベントには行くの?」
「そのつもりです。」
「それじゃあ、みんなで一緒に行こう。」
「分かった。湘南、久しぶりに始発で行くか?」
「パスカルさんは始発じゃなくて、飲んだ後の徹夜明けだったような。」
「最近はそんなことはしていないよ。だから始発。」
「僕もそうしたいのですが、妹を送って行かないといけないので、少し遅くなると思います。」
「妹子じゃあ仕方がないわね。パスカル、私が始発で行ってあげるよ。」
「大丈夫か?」
「私も前の席を取るために、始発を使っていたよ。」
「さすが、オタクだな。」
「まあね。」
写真撮影の後に、アキとユミのビデオ撮影を始めた。
「明けましておめでとう。『ユナイテッドアローズ』のアキだよ。」
「明けましておめでとうございます。『ユナイテッドアローズ』のユミです。」
「昨年の春に、私がアキとしてアイドル活動を初めて。」
「秋からユミが加わって。」
「12月にはワンマンライブを開催できたんだよ。」
「そのワンマンライブでは、途中でユミのママがマリという名前で乱入してきましたが、大成功に終わったと思います。」
「それもこれも、私たちを応援してくれるみんなのおかげだよ。」
「イベントに私たちを見に来てくれるみんなのおかげです。」
「本当に有難う。」「本当に有難うございます。」
「今年も頑張っていくよ。春にはまたワンマンライブを開催する予定なんだ。」
「ママも乱入する気満々です。」
「そうなの?」
「ダンスの練習を続けています。」
「まあ、それも面白いよね。」
「そう言うことにしておきましょう。」
「春のワンマンライブで、是非、私たちの歌を、」
「ダンスを、」
「聴きに来て!」
「見に来て下さい。」
「絶対だよ。」
「絶対です。」
「それじゃあ、今年もよろしくね。」
「今年もよろしくお願いします。」
「またね。」「またです。」
パスカルがビデオを止める。
「湘南、どう?」
「大丈夫です。ちゃんと撮れています。」
「でも、引き付ける感じが足りないな。」
「そうですけど、比べても・・・。」
「パスカルと湘南は、何を話しているの?」
「いや。二人とも可愛いんだけど、何かもう少し見ている人を引き付けるものが欲しいという感じなんだよ。」
「何が欲しいの?」
「セクシーさというか女性的な魅力というか。」
「プロデューサー、やっぱり、アレーって回るしか。」
「ユミちゃん、そうじゃなくて。」
「パスカルがそんな人間だとは思わなかったわ。」
「アキちゃん、何を怒っているの?」
「女性的な魅力って、どうせ胸の話でしょう。」
「違う、違う。表情とか、しぐさとかだよ。だよな、湘南。」
「はい、その通りですが、その話はまだ。」
「そうだった。それじゃあ、テークツーと行こう。」
「パスカル、ごまかした。」
「アキ姉さん、プロデューサーの言うことも分かりますので、テークツーはセクシーに。」
「分かった。やってみる。」
「ユミさんはそのままで。ビデオが使えなくなってしまいます。」
「湘南兄さん、分かりました。」
テークツーを撮り終わる。
「どう、パスカル?」
「ギャグにしかなっていないな。」
「最初の方が良かったと思います。」
「二人とも酷い。」
「アキ姉さん、プロデューサーが言うことも分かります。」
「次はテークワンより元気な感じで撮りましょう。」
「そうだな。それじゃあ、テークスリー、元気な感じで。」
テークツーを撮り終わり、3つのビデオを見てみる。アキが感想を述べる。
「確かにテークツーは変だわ。ははははは。」
「テークスリーが一番いいでしょうか。」
「そうだな。堅さが抜けているし。アキちゃん、ユミちゃんもいい?」
「私もテークスリーが一番いいと思う。」
「はい、私もそう思います。」
「それじゃあ、湘南、編集が終わったら、データボックスに入れておいてくれ。俺がウェブにアップしておく。」
「了解です。」
尚美がパラダイス興行の事務所に到着すると、明日夏が久美と練習をしていた。
「社長、お早うございます。」
「尚ちゃん、いらっしゃい。」
「明日夏先輩、今日、何かあるのですか?」
「今日は何もないけれど、来週からリリースイベントも始まるからじゃないかな。」
「そう言えば、そうでしたね。」
「あと、年下のアイシャちゃんの練習時間を聴いて、やる気が出たんじゃないかな。」
「アイシャさんは同じ事務所の後輩になったわけですから、負けたくないのかもしれないですね。明日夏先輩も実はクラッシックを良く知っていそうですし。」
「子供のころクラッシックバレーをやっていたというから、そうだろうね。」
「一時は美香先輩とアイシャ先輩、どうなるか心配しましたが、明日夏さんのいい刺激になったみたいで良かったです。」
「そうだね。いい方向で考えることにしよう。」
パラダイス興行の事務所に『トリプレット』と『ハートリンクス』のメンバーが全員集まったところで、明日夏が練習室から出てきた。
「それじゃあ、皆さん、どうぞ。」
「明日夏先輩、練習室が朝しか空いていないから朝から練習していたんですか。」
「尚ちゃん、そうだよ。バンドの部屋は『ジュエリーガールズ』が使う予定だし。」
尚美が外の空を見る。
「尚ちゃん、もう雪は降らないよ。天気予報は晴れだし。」
「そうですね。それでは『ハートリンクス』の皆さん、ストレッチと発声練習を始めていて下さい。由香先輩はストレッチを、亜美先輩は発声練習を見てあげて下さい。」
「了解。」「了解です。」
「リーダーは他に何かあるんかい?」
「明日夏先輩にお願いしたいことがありまして。」
「了解。先に進めている。」
7人が練習室に入り、『ハートリングス』が練習を始めた。
「尚ちゃん、お願いって何?マー君とアイシャちゃんのこと?」
「一つは兄に関することですが、アイシャ先輩は関係ありません。」
「尚ちゃんが言いにくいなら、私からマー君に言ってあげようか?」
「有難うございます。その節にはお願いするかもしれませんが、今は違います。」
「それなら、何なの?」
「一つは、兄たちが『ユナイテッドアローズ』の曲を作ろうとしているみたいなのですが、作詞がうまくいかないみたいで、明日夏さんにお願いできればと思いまして。」
「そんなことなら、マー君も私に直接頼めばいいじゃない。」
「今は新曲で忙しそうだから無理しちゃいけないと言っていました。」
「無理じゃないよ。私の最終目標は作詞家になることだから、やるよ。『私といっしょにイイことしよう』の作詞の手直しも終わって、社長と橘さんに最終チェックをお願いしているところだし。」
「有難うございます。」
「もう一つは?」
「『ハートリンクス』と『トリプレット』でアニメ風のセリフを考えて欲しいんです。今日の夜の番組で使うので、できれば大至急で。」
「アニメ風のセリフね。もしかして、レッドちゃんたちが正義の味方で、尚ちゃんたちが悪の結社という感じとか。」
「その通りです。」
「この後は予定がないから、急いで考える。その後、作詞もする。」
「有難うございます。」
尚美が明日夏とセリフの状況や歌詞に関して相談した後、尚美も練習室に入り、交代でそれぞれの新曲の練習を始めた。
誠たちは、昼過ぎに撮影を終え、ファーストフードで昼食をとった後、誠と正志がアキとユミのスーツケースを引きながら、ライブ会場の近くのカラオケに向かった。カラオケ店でパスカルが手続きをした後、アキとユミに予定を話す。
「今日は3時からの回の2番目で、3時20分からの出演になる。」
「今日の衣装はこのままでいいし、お化粧と髪を直すだけだから簡単。」
「アキ姉さん、やっぱり動きづらいので練習もしないとです。」
「分かっている。1時間は練習できる。」
「それじゃあ、俺たちは先に会場に行っている。10分前には呼び出すけど、リハーサルが始まる2時40分には会場に到着していて。」
「分かっている。」
リハーサルの時間になって、アキとユミが舞台裏のパスカルのところに到着した。
「振袖でパフォーマンスは大丈夫そう?」
「脚の動きはだいぶ省略して、湘南の言う通り回転する方向でまとめてみたけど、やっぱり難しいかな。」
「でも、プロデューサー、3曲ですし、何とかなると思います。」
「おう、二人ともさすがだな。」
「そう言えば、スキー場のミサちゃんは袴だったから、動けていたわね。」
「確かにミサちゃんの衣装は3つもすごかった。袴も華やかだから、3月のワンマンライブで使ってみようか。卒業式シーズンだし。」
「女子大生じゃないから、卒業式で袴は着ないけど、余裕があるならやってみよう。」
「おう、調べておく。」
『ユナイテッドアローズ』の前のユニットが舞台袖に下がり、『ユナイテッドアローズ』の名前が呼ばれると、二人がゆっくりとステージに出て行った。大きな歓声が上がるなか、二人が『急に呼び出さないで』を歌いだす。歌い終わったところで挨拶を始める。
「皆さん、明けましておめでとう。」
「明けましておめでとうございます。」
「『ユナイテッドアローズ』のアキだよ。」
「同じく『ユナイテッドアローズ』のユミです。」
「今歌った曲は、私たちのオリジナル曲」
「『急に呼び出さないで』です。」
「私たちの歌を聴いてくれて有難う。」
「有難うございます。」
「それで、みんなどう?私たちの振袖姿。」
「どうですか?」
客席から「可愛い」という答えが返ってくる。
「有難う。」
「有難うございます。」
「ユミちゃんとお揃いなんだよね。」
「お揃いです。」
「みんなが振袖を良く見えるように回ってみるね。」
「はい。」
アキとユミがその場で同じ速さで一周回る。
「向こうのお客さんにも良く見えるように、向こうでも回ってみようか。」
「はい。」
舞台の右端に行き、二人で一周回る。
「あっちでも回ってみよう。」
「はい。」
今度は舞台の左端に行き、二人で一周回った後、中央に戻ってきた。
「みんなが喜んでくれて良かった。」
「はい、高いレンタル代を払ったかいがありました。」
「ユミちゃん、そういう話はしない。」
「分かりました。」
「それでは次の曲に行きます。」
「アイドルオタの私が一番好きな曲の一つです。」
「『アイドルライン』の」
「『ネクストサンデー』!」
二人が『ネクストサンデー』を歌い終わる。2階の関係者席で見ていた誠は「安定して綺麗に歌えている。マリさんの練習の成果が出ている。」と思いながら見ていた。
「みんな有難う。」
「有難うございます。」
「ユミちゃんにとっては、『アイドルライン』が一番好きなユニットなの?」
「小さい時からあこがれていたユニットで、アキ姉さんと出会う前は、今はアキ姉さんといっしょに練習しているパパのAVルームで、一人で振りを付けて歌っていました。」
「あの、みなさん、AVはオーディオビジュアルの略です。」
「アキ姉さん、他に何の略があるの?」
「ない!大きなテレビとスピーカーが置いてある部屋で、そこの机とソファーを片付けて練習しています。」
「ママが私たちの歌の先生です。あれでも、プロの歌手の方にも歌を教えているんです。」
「自分のお母さんを、あれで呼ばわり!?でも、マリさんのおかけで、私たちの歌もうまくなったよね?」
「なりましたよね。」
会場から「なった」という声が上がる。
「有難う。」
「有難うございます。」
「それでは、次が最後の曲なんだけど。」
会場から「えー。」という声が上がる。
「是非聴いて、盛り上がって下さい。」
「私たちのオリジナル曲」
「『手をつなごう』」
二人が『手をつなごう』を歌い終わり、最後のMCを始める。
「今日は私たちの歌を聴いてくれて有難う。」
「私たちを見てくれて有難うございます。」
「初めての人は是非私たちを覚えて帰ってね。」
「私たちを忘れないで下さい。」
「アニメオタクの女子高校生のアキと」
「アイドルオタクの女子小学生のユミのユニット」
「『ユナイテッドアローズ』」
「です。」
「この後の特典会では、振袖を着た私たちといっしょにチェキ写真が撮れるよ。」
「絶対に、特典会では『ユナイテッドアローズ』のテーブルに来て下さい。」
「みんながくるのを待っているよ。」
「お兄さんたちがくるのを、ユミ、待っているから。」
「よろしくお願いね。」「よろしくお願いします。」
「それじゃあ、またねー。」「またお願いします。」
アキとユミがステージから舞台袖に下がると、パスカルが声をかける。
「お疲れ様。二人とも振袖に合ったパフォーマンスができていたと思うよ。」
「有難う。」「有難うございます。」
「ユミちゃん、疲れていない?」
「大丈夫です。」
「それじゃあ、カラオケルームで何か水分を補給して休んでいて。特典会が始まる10分前にスマフォで呼ぶから。」
「了解。」「分かりました。」
特典会の会場に行くと、4人が待っていた。
「パスカルさん、まだ前の回の特典会で、あと30分後に開始です。」
「分かっている。まあ、ここで待っているか。」
「はい。でも、本当に落ち着いて歌えるようになりました。」
「ワンマンライブを経験したからかな。」
「そうかもしれませんね。これなら、ユミさんの面接も落ち着いてできそうです。」
「そうだな。」
「受かるといいですね。」
「まあ、そうだな。」
「イノルはどう思った?」
「もう一人前のアイドルって感じでした。」
「そうだな。若い奴は成長するのが速いな。」
「そうですね。」
「どうしたんだ、パスカルちゃん?まだ黄昏る歳でもないだろう。」
「いや、何でもない。今年も頑張るぞ。」
「そうだな。」
誠が手持ち無沙汰にしていると、アイシャからSNSで連絡が入った。
アイシャ:今、パラダイス興行
誠:契約ですね
アイシャ:ちょうど今、契約が終わったところ
誠:おめでとうございます
アイシャ:有難う
誠:またアイシャさんのヴァイオリンが聴けるのが楽しみです
アイシャ:とりあえず3月のヘルツレコードのライブで明日夏さんのバックバンドに入ることになった
誠:さいたまスーパーアリーナのですか
アイシャ:その通り
誠:3万人のお客さんが来ますが大丈夫ですか?
アイシャ:大丈夫って何で?自分の演奏をすればいいだけでしょう
誠:そうですね。アイシャならば緊張することはなさそうです
アイシャ:緊張はするよ
誠:そうですか
アイシャ:でも緊張には負けない
誠:アイシャさんの気持ちは何となくわかります
アイシャ:それでヴァイオリンのパートを社長といっしょに作る予定だけど、できたら聴いてみてくれる
誠:もちろんです
アイシャ:有難う。今からスカイツリーと浅草に両親を連れて行ってくる
誠:気に入ってもらえたんですね
アイシャ:他にあまり知らないということもあるけど良かったよ
誠:有難うございます
アイシャ:お母さんが呼んでいるので、また
誠:はい、またお願いします
誠は受験の邪魔にならなければいいなと思いながら、ヴァイオリンが加わった明日夏の曲の伴奏を想像していた。
時間が過ぎて、特典会が始まる10分前にパスカルがスマフォでアキに連絡をした。特典会の準備をしていると、アキとユミがやってきた。
「アキちゃん、ユミちゃん、机の後ろに並んで。」
「了解。」「了解です。」
「コッコちゃんはチェキの撮影と商品をお客さんに渡す役をお願い。」
「了解。」
「湘南は会計、イノルは列の整理を頼む。俺は二人の後ろで控えている。」
「了解です。」「了解です。」
「正志さんは、周りで様子を見ていてください。」
「了解です。」
特典会が始まるとアニメオタクやアイドルオタクの常連さんがやってきた。
「アキちゃん、振袖、すごく似合うよ。」
「有難う。」
「振袖のアクスタとかはないの?」
「今日撮影したから、急いで作るね。」
「この前の機動戦士アニメどうだった。」
「学園物?という感じだったけど、最後に機動戦士らしくなった。」
「そうだね。春からの再開が楽しみだよ。」
「私も。チェキだよね。」
「うんお願い。」
コッコが二人のチェキ写真を撮影する。
「ユミちゃんは七五三みたいだね。」
「もう7+3で10歳になりました。もう歳です。」
「いや、まだまだ若いけどね。」
「有難うございます。」
「ユミちゃんは、『ハートリングス』は好き?」
「うーん、男の子じゃないので、戦隊系の良さが分からないです。おじさんは?」
「レッドちゃんが美人だから。でも、二人で戦隊はやらないの?」
「計画はないですが、考えてみます。」
「考えてみて。それじゃあチェキをお願い。」
常連のお客さんが着た後に、振袖だったこともあって、いつもより並ぶ列が長くなっていた。
次の回のライブが始まってもしばらくは特典会が続いていたが、お客さんがあまり来なくなってきて、アキとユミで話をしていた。
「ユミちゃん、今日はお客さんが多かったね。」
「はい、振袖の効果だと思います。また来てくれるといいです。」
「ユミちゃんのパパが他のアイドルグループの特典会に参加していたけど、大丈夫?」
「最近、私のためと言って、地下アイドルにやたら詳しくなっています。」
「そうなんだ。でも、変な遊びよりはいいとは思うけど。」
「私もそう思います。」
特典会は無事に終了した。今日の『ユナイテッドアローズ』の出演は早い時間だったため、アキとユミがカラオケルームで着替えた後、全員で他のユニットのパフォーマンスを見学することにした。待ち合わせ時間を決めて、正志とイノルはフロアで、残りのメンバーは関係者用の2階席で見ることになった。
「ユミさん、正志さんは分かりますか?」
「うん、分かる。パパはイノルさんといっしょにいる。」
「さすがです。でしたらユミさんも安心ですね。」
「湘南兄さん、もうそろそろ私を子供扱いするのはやめてください。」
「はい。分かりました。」
「ユミちゃん。」
「湘南兄さん、ごめんなさい。私がアイドルとして活動できるのはプロデューサーと湘南兄さんのおかげです。本当に有難うございます。」
「いいえ、僕もユミさんがプロのアイドルになってくれると本当に嬉しいです。ただ、活動の悪影響の方も気になっていて。」
「自分からやっていることですから、問題があっても自己責任で大丈夫です。湘南兄さんを恨んだりは絶対にしません。」
「湘南、私もそれでいいわよ。」
「僕は占いは信じない方なのですが、以前、良く当たると評判の占い師に、二人を占ってもらったことがあるんです。」
「へー、湘南らしくないけど、それで結果はどうだったの?」
「アキさんは結婚して幸せになる。ユミさんはイケメンバンドマンに騙されて身を崩すという結果で。」
「酷い占い師ですね。」
「占いというより、普段の振舞いから判断しているのかもしれません。」
「湘南兄さんが私のことをオーバーに話したんじゃないですか。」
「ユミちゃん、私のことは分からないけど、確かにユミちゃんは当たっているかも。」
「アキ姉さんまで。」
「占い師によると、ユミさんは身を崩しても強く生きていけるから心配する必要はないということでしたが、できるなら身を崩さない方がいいかなと思いまして。」
「それはそうかもね。ユミちゃん、気をつけましょう。」
「分かりました。でも、二人とも心配しすぎです。」
「まあ、ユミちゃん、アキちゃん。人気があるプロのアイドルでも、男性関係ですごい借金をさせられることもあるから、湘南がいう通り、二人とも気を付けた方がいい。」
「パスカル、私はアイドル一本だから大丈夫。」
「どちらかと言うと、プロデューサーの方が悪い女に騙されそうですけど。」
「それはユミちゃんの言う通りね。」
「プロデューサーは悪い女に大金を貸して、自動車の中で自殺に見せかけて殺されたりしないで下さいね。」
「ユミちゃん、怖いことを言わないで。」
「パスカル。そういう時は私に相談しなさい。」
「分かった。そうする。」
休憩時間が終わり、辺りが暗くなった。パスカルが説明する。
「次は宇田川企画の『ビーチハウス』。メンバーはみなみ、はるか、なるみ、ちよ、ななの5人。スタイルが一番の売りかな。」
「パスカルさん、詳しいですね。」
「プロデューサーとして研究しないと。」
「さすがです。」
「湘南、パスカルは単に女の子を見に来ているだけだから、感心しなくていい。」
「アキちゃん!」
「プロデューサー、ビーチハウスってどういう意味ですか?」
「海の家だ。」
「それなら、水着がこのユニットの一番の売りですか?」
「まあそうだね。水着姿のグッズが多い。」
「パスカル、もしかして、さっきスタイルがいいと言ったのは、胸が大きいということ?」
「そうかも。」
「胸しか見ていないのか、パスカルは。いやらしい。」
「アキちゃん、それは誤解。パフォーマンスも研究しているよ。」
「どうだか。」
「プロデューサー、アキ姉さん、仲がいいのはそこまでにして下さい。もう始まります。」
「ユミちゃん、そういうのじゃないわよ。」
「分かりました。」
5人が振袖姿で舞台袖から出てきた。アキとパスカルが感想を漏らす。
「やっぱり、振袖は多いか。」
「今日は仕方がないと思う。」
カラオケが流れ始め、5人が歌い始める。
「おっ、お正月の童謡か。考えたな。」
「そうね。歌は知っているけど、何て曲だっけ?」
「『一月一日』(「年の始めの ためしとて」で始まる有名な曲。)です。うちも一曲はお正月の歌を取り入れれば良かったです。」
「まあ仕方がない。次は考えよう。」
「そうね。お正月じゃなくても。」
「5月に鯉の恰好で鯉のぼりの歌でも歌うか。」
「パスカル、バカなの?鯉の恰好じゃ可愛くないわよ。」
「まあ、そうか。」
「そうよ。」
メンバーが観客に歌うように催促して、観客が一体になって歌いだす。
「さすが、地下アイドルと言ってもプロだな。」
「そうね。お客さんがすごく盛り上がっている。」
「ホールがかなり温まりました。パスカルさん、次も何か考えてあるのでしょうか?」
「宇田川企画のお手並み拝見と行こう。」
「楽しみね。」
ステージには羽子板が用意されていた。リーダーのみなみが声をかける。
「はるか と なるみ、ちよ と ななで勝負。負けたら罰だから。」
ちよが尋ねる。
「みなみ、罰って何?」
「秘密。時間がないんだから早くやる。」
「分かった。」
羽根つきを初めて、勝負が決まる。
「勝負は付いたわね。なるみ と ちよの負け。それじゃあ、はるか と なな は、なるみ と ちよの帯を引っ張って。」
「アレー。」
なるみ と ちよの帯が解け、振袖が落ちると、二人が水着姿になった。みなみが二人のステージの上の振袖を片付ける中、なるみが会場に話しかける。
「髪型が振袖用だけどどう?」
会場から「似合う!」「綺麗!」という声がかかる。
「有難う!」
ちよが会場に声をかける。
「私は?」
会場から「可愛い!」「エロい!」という声がかかる。
「エロい!?酷いなー。そんなことを言うと帰っちゃうよ。」
会場から「帰らないでー」という声がかかる。
「まあ、エロいというのも誉め言葉よね。帰らないから安心して。」
みなみがはるか と ななに話しかける。
「次は、はるか と ななで勝負。」
「分かった。」
「負けないぞ。」
その様子を見ていたユミが感想を漏らす。
「振袖の下に水着を着ていたんですね。」
「宇田川企画はお金儲け優先だから、売れるためならかなり過激なことをする。」
「プロデューサー、宇田川企画って、以前、アキ姉さんと私を100万円で買うといったところですね。」
「その通りだよ。」
「アキ姉さんには、できなさそうですね。」
「ユミちゃん、私にはできなさそうって。ユミちゃんはできるの?」
「はい、それで人気が出るならばやります。アキ姉さん、ミスコンだって水着審査があるのに。そんなことではプロのアイドルになれませんよ。」
「ユミさん、それとプロとは関係ないかもしれません。」
「湘南兄さん、トップアイドルでも水着になるテレビ番組はありますよ。」
「プールとか海で撮影するならいいかもしれませんが・・・」
誠は蔵王の別荘で、ミサがアメリカで少しでも売れるために、バニーガールの衣装を着て歌ったことを思い出していた。誠が考え直して提案する。
「例えば、振袖の下が半袖短パンの体操着とかなら・・・・。」
「それならアキ姉さんでもできそうです。さすが、湘南兄さん。」
「確かに、半袖短パンの体操着ならできるけど。」
「どちらかというと、セリフを工夫して、笑いを取りに行くかんじでしょうか。」
「湘南、やっぱりコントにするのか。」
「アキさん、トップアイドルもコントはします。」
「それもそうね。お客さんが楽しめればいいと思う。」
「でも、体操着なら、へそ出しぐらいした方がいいかな。」
「ユミさん、そんなことを言っていると、マリさんに言いますよ。」
「湘南兄さん、ママに言っても、ママは自分が体操着を着てへそ出しをやる気になって、ダイエットが大変だと言い出すだけだと思いますけど。」
「・・・・それは、ユミさんの言うことが正しいかもしれません。」
「湘南、私もへそ出し体操着ぐらいなら大丈夫よ。心配そうな顔をしているけど、またユミちゃんが身を崩すんじゃないかと考えているの?」
「はい、少し。」
「湘南兄さん、考えすぎ。」
「まあそうね。でもユミちゃん、それが湘南のいいところだから。」
「そうかもしれませんけど。」
パスカルがまとめる。
「二人とも、来年にはプロのアイドルで活動しているかもしれないし、来年の衣装のことは、12月にでも考えよう。」
「まあ、パスカルの言うとおりね。」
「そうか。私は1月の溝口エイジェンシーの最初の面接を頑張らないとか。」
「その通りよ。」
「プロデューサー、了解です。でもパパがフロアですごく嬉しそうにはしゃいでいますね。」
「ユミちゃん、マリさんに言っちゃだめよ。」
「はい、もちろん言いません。」
はるか と ななの勝負ははるかが勝ち、ななが水着姿になった。次に、リーダーのみなみとはるかの勝負になり、みなみが勝ち、はるかが水着姿になった。
みなみがMCを続ける。
「それでは、次の曲に行きます。」
なながみなみに話しかける。
「リーダー一人が脱がないなんて、いいんですか。」
なるみが応じる。
「そうだよね。みんな、みなみの水着姿も見たいよね!」
会場から「見たい!」との返事が返ってきた。
「みんなが言うなら、『ビーチハウス』のリーダーだから脱ぐよ。」
みなみがわざと恥ずかしそうにしながら振袖をゆっくりと脱ぐ。はるかが感想を漏らす。
「なんか、一番エロい。」
なるみが会場に話しかける。
「みんな、誰が一番エロいと思う?」
会場から答えが返り、「みなみ!」という返事が一番多かった。
「やっぱり、みなみか。」
はるかが答える。
「みなみは、日本で一番エロいアイドルユニット『ビーチハウス』のリーダーをやっているぐらいだから、並大抵のエロさじゃないわよ。」
「はるか、変なことを言わない。それじゃあ、次は誰が一番エロく服を脱いで水着になれるかで競争してみようか。」
「でもハンディなしじゃ、みなみしか勝たないから。」
なるみが答える。
「はるか、みなみは手本で、残りの4人で競争だったらできるんじゃないか?」
「確かに、それなら勝負になりそう。」
「それじゃあみんな、来週やるから最初に着る服を準備しておいて。」
「分かった。」
『ビーチハウス』は水着のままパフォーマンスを続け、無事に終了し、全員で感謝の言葉を述べる。
「有難うございました。」
そして、みなみ がキャッチフレーズを加える。
「これからも、日本で一番エロいアイドルユニット『ビーチハウス』をよろしくね。」
その言葉で会場が湧き、手を振りながら『ビーチハウス』が退場していった。パスカルが次のユニットを説明する。
「次の『トーピードガールズ』も宇田川企画かな。」
「プロデューサー、トーピードってなんですか?」
「湘南、知っているか?」
「魚雷です。」
「なるほど。だからか。」
「パスカル、何がだからなの?」
「見ていれば分かる。いや、ユミちゃんは見ない方がいいかな。」
「プロデューサー、このグループも脱ぐんですか?」
「そういうわけじゃないけど。」
「私の心配はいりませんが、パパがそういうアイドルばかりを喜んで見ていたのがバレると、ママに怒られるかもしれないと思って。」
「正志さんのことは置いといて、湘南はどう思う?」
「何をするんですか?」
「ダイブウォークをする。」
「ダイブウォークですか。うーーーん、難しいですね。アキさん、ユミさんが見てもいいと思いますか?」
「まあ、見るだけなら大丈夫じゃないかな。やれと言われたら私でも自信ないけど。」
「有難うございます。」
「ユミさん、パスカルさんは絶対にやれとは言わないですので、見てみて下さい。」
「分かりました。」
『トーピードガールズ』のライブが始まり、オールスタンディングの会場が盛り上がって来たところで、メンバー3人が歌い続ける中、2人が観客席に飛び込み、観客の手で支えられ観客の上を歩きながら会場を移動した。
「プロデューサー、あれがダイブウォークですか?」
「その通り。」
「一人が、パパとイノルさんのところに来ました。」
「一緒に仲良く支えていますね。」
「パパ大丈夫かな。」
「もしかして、匂いとかですか?」
「そう。香水とか付けていそうだから。」
「手を洗えば。でも、逆に石鹸の匂いで怪しまれるかな。」
「分かりました。私が何とかごまかします。でも、ママが居なくて良かった。」
「やっぱり、アイドル活動を止められてしまいますか。」
ユミが首を横に振る。
「ううん。こんなのを見たら、ママ、次のワンマンでいきなり観客席に飛び込みそう。」
「マリさん、元気ですからね。」
「はい。」
ライブパートが終わりホールから出ると、すでに『ビーチハウス』の特典会が始まっていて、多数のお客さんが列を作って並んでいた。アキが驚く。
「『ビーチハウス』のメンバー、水着のままなのね。」
「話によると、昨日はライブも特典会も振袖だけだったみたい。」
「そうね。昨日も着ていたなら、二日続けてはないか。」
「『ビーチハウス』の衣装はいつも水着みたいな感じだけど、今日はお正月で特別に本当に水着にしたんだろうね。」
「まあ、パスカルの言う通りだわね。」
「そんなことより、メンバーの皆さん、風邪をひかないでしょうか。」
「湘南、そういう心配は余計なお世話と言うものよ。」
「そうかもしれませんが、パネル式のヒーターで囲むとかすればいいのでしょうけど。」
「湘南兄さん、パネル式のヒーターって何ですか?」
湘南がタブレットを使ってユミに製品の画像を見せる。
「電気で平面状のパネルの温度を上げて、そこからの赤外線で人を温める物です。それで囲むと暖かいという話です。」
「これなら、暖かそうですね。」
「ユミさん、パスカルさんは、そういうことはしないので心配は無用です。」
「おう、うちは二人をプロのアイドルにするために活動しているんだから、後で問題になるようなことはしない。」
「さすが、パスカルさんです。」
「二人とも、コッコがニヤニヤしているわよ。」
「もう、慣れたから大丈夫。」
「はい。」
「でも、やっぱり『ビーチハウス』のお客さんの数は圧倒的ね。列が全然短くならない。」
「これが、中堅どころの地下アイドルユニットの実力というところかな。」
「パスカル、あれだけお客がいて中堅なんだ。」
「『ビーチハウス』はワンマンライブに2000ぐらいの箱を使っている。」
「あっ、パパとイノルさんも並んでいる。」
「ユミちゃん、知らないふり、知らないふりね。」
「アキちゃんの言う通り。」
「分かっています。それで、プロデューサー、一番すごい地下アイドルのワンマンライブには、どのぐらいのお客さんが来るんですか。」
「うーん、一番は武道館でやったやつかな。正確には分からないけど1万2千ぐらいじゃないか。」
「パスカル、あのユニットのメンバーは、テレビに出ることもあるし、地下アイドルという感じではないでしょう。」
「でも、CDは事務所が持っているインディーズのレーベルで、ユニットにメジャーのレコード会社がついているわけではないし。」
「それはそうだけど。」
「事務所のレーベルだと中抜きがありませんし、インディーズでオリコン1位になったこともありますから、事務所はかなり儲けたでしょうね。」
「湘南兄さん、レコード会社が付いていない地下アイドルで、オリコン1位になったことがあるんですか。」
「はい。」
「アキ姉さん、すごいですね。」
「そうね。」
「プロデューサー、『ビーチハウス』もそういうのを狙っているんでしょうか。」
「宇田川企画の社長はそうだとは思うよ。」
「あの、ユミさんは小学生ですから、無理をすることはないですよ。」
「湘南兄さんが言いたいことは、分かっています。」
その後、イノルはライブに留まり、他の全員が喫茶店で反省会を開くことになった。
「それでは反省会を始める。特典会の売り上げは7万2千円。」
「えっ、すごい。」
「うん、いつもの2倍という感じなんだけど。」
「なんだけど?」
「いつもは会場に2~3万円払っているけど、今回のライブは無料でいいから来てということだったから、その分も不要なのでかなりの黒字。」
「何だ、いいことじゃない。悪いことかと思った。でも、パスカル、参加料がいらないのは私たちでライブにお客が呼べるからということ?」
「その通りだと思うよ。」
「やった!」
「でも、振袖のレンタルを考えれば全然赤字だけど。」
「それはそうね。これからのライブで振袖のアクスタを売って取り返していかないと。」
「アキちゃん、ユミちゃん、それでライブの感想はどうだった?」
「振袖で出てきたときは盛り上がったよ。」
「それはアキ姉さんの言う通りです。特典会でも皆さん褒めてくれました。」
「私も褒めてもらえた。」
「それでも『ビーチハウス』にはインパクトで負けた気がします。」
「ユミちゃん、それはやっぱり仕方がないよ。」
誠も同意するが。
「はい、インパクトということでは、同じことをやっても勝てなかったと思います。」
「湘南、それはどういう意味よ!」
「えっ、宇田川企画と違って、こちらには経験がないので、羽根つきのような演出が難しかったのではないでしょうか。」
「アキちゃん、湘南ちゃんなら、そう言う意味だよ。」
「そうね。コッコの言う通りね。」
「まあ、二人が宇田川企画に入ったとしても、宇田川企画の社長は二人を『ビーチハウス』には入れないと思うよ。」
パスカルが同意する。
「そうだろうけど、コッコちゃん、厳しいね。」
「ほんと。」
「コッコさんは、あまり他のユニットを気にしすぎることなく、自分達の良さで勝負していこうと言っているのだと思います。」
「湘南、違うよ。胸の大きさが足りないって言っているんだよ。」
「コッコ、それは分かっているけど、せっかく湘南が綺麗にまとめようとしているのに、それを無駄にする?同じ大学にいるのに。」
「現実には向き合わないと。」
「現実!まあそうだけど。」
パスカルが話に加わる。
「だけど、スキーのときに見たミサちゃんの方が『ビーチハウス』のメンバーよりも一回り以上大きかった。」
「肩こりそうね。」
「アキちゃん、言ってて悲しくならない?」
「パスカル、うるさい。」
「あの、この話はやめましょう。」
「湘南の言う通りね。あとは『トーピードガールズ』か。でも、そっちも無理かな。」
「ダイブ自体は、ロックのライブでやることもあります。聴いている人と一体になるということで、場合によっては観客席に飛び込んで演奏を続けることもあります。でも、やっぱり無理はしない方がいいと思います。」
誠はそう言って、ミサが無理をしてダイブをしないか心配になった。
「湘南は心配そうな顔をしているけど、大丈夫よ。パスカルが宇田川企画に私たちを売ることはないから。」
「えっ、はい。それは、そうだと思います。」
ユミが話を変える。
「ところで、プロデューサー、『ユナイテッドアローズ』も印象に残るキャッチフレーズがあると良いと思いました。」
「『ビーチハウス』の日本で一番エロいアイドルユニットみたいなやつか。」
「はい、そうです。」
「パスカルさん、それを小学生の前で言ってはだめです。」
「すまん。一応、あなたのハートを貫く二本の矢というのがあるけど。」
「もう少し、具体的なものの方が良くないですか。」
「それもそうか。ロボットアニメオタクの女子高校生とアイドルオタクの女子小学生、とか?」
「パスカル、機動戦士はロボットじゃないわよ。」
「普通の人は分からないけど、オタク相手だからダメか。それに少し長いな。」
「小さくても沼が深いアイドルユニット。」
「パスカル、小さくてもというのが気になる。」
「大きくないだろう。」
「何が?」
「背が。」
「まあそうだけど。」
「アキさんもユミさんも歌が上手になってきましたので、そのことを活かせるといいと思います。」
「湘南、本当に?歌がうまくなったと思う?」
「今日聴いていて、そう思いました。」
「マリさんのおかげね。」
「はい、そうだと思います。」
「まあ、独創的でいいキャッチフレーズはすぐに見つかるもんじゃないから、今後考えることでいいか。」
「まあね。」
誠が話を変える。
「そう言えば、アキさんとユミさん、家に帰った後、もし時間があるようでしたら『ミュージックキス』を見てみて下さい。」
「『トリプレット』が出るから見るつもりだったけど、何かあるの?」
「あまり詳しく話すことができないのですが、アイドルユニット関係で少し変わったことがあると思いますので、後で感想を聞かせて下さい。」
「分かった。」
「分かりました。」
反省会は1時間ほどで解散となった。
音楽番組『ミュージックキス』が始まり順調に進行していった。『トリプレット』が出演しアニメ『ピュアキュート』の主題歌『一直線』を歌い終わって、スタジオから下がって行った。戸部美幸アナウンサーが出演者に関するお詫びのアナウンスを始めた。
「ここで視聴者の皆様にお詫びしなくてはいけないことがあります。」
「戸部さん、何かあったんですか?」
「次は若い人に大人気のアイドルユニット『ハートリングス』の皆さんが出演する予定だったのですが、都合により出演できないことになりました。」
「それは残念です。先週のお正月の特別番組でお会いしたばかりだったのに。」
「逆井さん、『ハートリングス』の代わりとは言ってはなんですが、アイドルユニット『ハートリンクス』の皆さんに出演頂けることになりました。」
「『ハートリングス』と『ハートリンクス』、一字違いというより、濁点しか違いませんね。」
「はい、ユニット名は少ししか違いませんが、メンバーの皆さんの雰囲気は全くと言っていいほど違います。」
「なるほど、それは楽しみですね。それでは、『ハートリンクス』の皆さんをお呼びしましょう。」
「『ハートリンクス』の皆さん、どうぞこちらに。」
『ハートリンクス』のメンバーがスタジオに入ってきた。
「『ハートリンクス』のセンター、みんなを引っ張るハートレッドです。これからも、よろしくお願いします。」
「『ハートリンクス』の副委員長、レッドを補佐して上から視線でみんなをまとめるハートブルーだ。ほらテレビの前の君、スマフォをいじっていない。」
「『ハートリンクス』のムードメーカー、ハートイエローだぜ。みんなよろしくな。」
「『ハートリンクス』のマスコット、ハートグリーンです。これからも頑張りますので、みんな応援してね。」
「ハートブラック。」
「みなさん艶やかないでたちで、まさにアイドルユニットという感じです。でも、『ハートリングス』の皆さんが着替えただけという気がするのですが。」
「着替えたんじゃなくて、変身を解除したんだぜ。」
「ハートイエローさん、説明有難うございます。なるほど、これがみなさんの元の姿というわけですね。」
「はい、地球を守るアイドル戦隊『ハートリングス』は、地球を侵略するためにやって来た『ギャラクシーインベーダーズ』との長くて辛い戦闘に勝ち抜いて勝利したんです。」
「『ギャラクシーインベーダーズ』の地球侵略は失敗したんですね。それは良かったです。」
「それで、私たちは元のアイドル『ハートリンクス』に戻ることができました。」
「でも、『ハートリンクス』になって本当に良かったと思います。特に、ハートレッドさん。お正月の番組の後に普段着の写真をいっしょに撮ってSNSにアップしたときに、すごく綺麗な方と思ったのですが、今日はそれ以上です。」
「有難うございます。」
「逆井さん、レッドさんだけひいきしてはいけません。」
「戸部さん、その通りですね。みなさん魅力的だと思います。」
メンバーが声をそろえて返事をする。
「有難うございます。」
ハートブルーとハートイエローがハートレッドに話しかける。
「しかし、レッド、『ギャラクシーインベーダーズ』の奴らはまだ死んでいない。」
「そうだぞ。油断しちゃだめだぞ。」
「ブルー、イエロー、大丈夫、レッドは油断していないよ。何かあったら、知覚能力が高いブラックがすぐに察知して教えてくれるよ。ブラック、そうだよね。」
「うん。」
「『ギャラクシーインベーダーズ』がまた来たら、また『ハートリングス』もどるだけ。でも、今はみんなで楽しもう。」
「そうだな。」
「その通りだ。」
「レッドの言う通りです。」
「うん。」
番組ディレクターからの指示を見た戸部アナウンサーがハートレッドに尋ねる。
「今日、歌って頂ける曲はユニット名と同じで『ハートリンクス』なんですね。」
「はい、お正月に『ハートリンクス』になることが決まって、1月4日に曲が完成して、冬休みだったのでみんなで本当に一生懸命練習して、みなさんに何とかお見せできるようになったと思います。」
「本当に急だったんですね。」
「はい。練習風景の様子やプロモーションビデオが溝口エイジェンシーのチャンネルで今日21時に公開されますので、そちらも是非ご覧ください。」
「はい、楽しみにしたいと思います。」
「それでは、皆さん、歌の準備はできていますか?」
ハートレッドがメンバーを見回して答える。
「はい、大丈夫です。」
「それでは、歌って頂きます。『ハートリンクス』で『ハートリンクス』。」
『ハートリンクス』が『ハートリンクス』を歌い始め、無事に歌い終わった。司会者の逆井とアシスタントの戸部が感想を述べる。
「いやー、可愛くて本当に良かったと思います。」
「私も華やかで良かったと思います。」
「有難うございます。これからは『ハートリンクス』として、こんな感じの曲を歌っていきますので、よろしくお願いします。」
「分かりました。」
そのときスタジオに不気味な声が響いた。
「はははははははは、私は地球を征服するためにはるばる10万光年の彼方からやってきた『ギャラクシーインベーダーズ』のギャオミだ。ハートレッド、勝ったと思うなよ。我々は決して敗北したわけではない。」
ハートレッドが答える。
「ギャオミ、何を負け惜しみを。」
「我々の母星から伸びる10万光年にも及ぶ補給線がうまく機能しなかったため、少しの間戦略的撤退をするだけだ。」
「『ギャラクシーインベーダーズ』のジュカだぜ。リーダーのいう通りだ。途中の星々を侵略し、補給線を再構築して4月15日には再び地球侵攻を開始する予定だ。」
「ジュカ、分かった。4月15日ね。返り討ちにしてあげるわ。」
「『ギャラクシーインベーダーズ』のザミです。ジュカ、私たちの再侵攻の日にちを言っちゃダメじゃない。」
「ジュカはザミより年上なのに、ぷっ、ね。」
「レッド、うるせー。」
「ザミ先輩、心配することはありません。次に来るときには圧倒的戦力で『ハートリングス』を完膚なきまでに叩きのめすことができます。」
「そうですね。4月15日が楽しみです。」
「『ハートリングス』のやつら、4月15日を覚悟しておけ。」
「『ハートリングス』よ、我々が戻る4月15日まで、せいぜい楽しんでおくことだな。それではまた会おう。さらばだ。」
「さらばだ。」
「さらばです。」
ハートレッドたちが返答する。
「ギャオミ、ジュカ、ザミ、こっちだってその日まで『ハートリンクス』として力を蓄える。そして、全力で戦い、地球は絶対に守る。」
「10万光年の距離があるかぎり、戦力の再構築でもこっちが有利だよ。」
「そっちこそ覚悟しておけ。また勝負だ。」
「次は負けません。」
「グリーンは僕が守る。」
逆井が話を再開した。
「『ギャラクシーインベーダーズ』の皆さん、先に出演を終えた『トリプレット』のメンバーのような声でしたが。」
「はい、3人はギャラクシーインベーダー星人ですが、『トリプレット』の皆さんと姿も声も似ているんです。面白い偶然だと思います。」
「なるほど。」
「レッドさん、『ギャラクシーインベーダーズ』は、4月15日に再度侵攻して来るということですが、4月15日に何かあるのですか。」
「4月15日は『ハートリンクス』と『ハートリングス』のワンマンライブを所沢ドームで開催する日です。」
「なるほど、『ギャラクシーインベーダーズ』は、その時を狙って、また地球を襲ってくるわけですね。」
「そうだと思います。『ギャラクシーインベーダーズ』のたくらみを阻止するために、是非、4月15日には所沢ドームに応援に来てください。レッドのお・ね・が・い。」
「レッドさんにそう言われると従いたくなります。テレビの前の皆さんも4月15日は所沢ドームに『ハートリングス』の活躍を見に行って下さい。それでは『ハートリンクス』の皆さん、有難うございました。」
「有難うございました。」
『ハートリンクス』のメンバーがステージから下がって行った。
「『ギャラクシーインベーダーズ』の皆さんも有難うございました。」
「有難うございました。」
「『ハートリンクス』と『ハートリングス』、あと『ギャラクシーインベーダーズ』さん、これからの展開が楽しみですね。」
「逆井さん、地球が侵略されそうなのに、楽しみとは不謹慎です。」
「その通りですね。それでは次の出演者をご紹介しましょう。」
番組が終わって『トリプレット』と『ハートリンクス』がそろって司会者の逆井のところに挨拶に行った。
「放送局には4日に連絡があったそうですが、僕は今日のリハーサルで『ハートリンクス』のことを初めて聞いて、驚きました。」
ハートレッドが答える。
「申し訳ありません。溝口社長が元旦の『ミュージックキス』の特別番組を見て急に決めたもので、連絡が十分ではなかったでした。」
「まあ、溝口社長が決めたなら逆らいようもないから気にすることもないけど、皆さんはこれからは『ハートリンクス』でやっていくの?」
「はい、メインは『ハートリンクス』で、機会を見て『ハートリングス』に変身するということになると思います。」
「そうだね。僕もその方が人気が出るんじゃないかと思う。それで、なおみちゃん。」
「はい。」
「『ハートリンクス』のワンマンライブで、『トリプレット』が敵役として『ギャラクシーインベーダーズ』を演じるという話も、その時に決まったの?」
「いえ、実は『ギャラクシーインベーダーズ』と決まったのが今日の午前中で、さきのセリフも午前中に考えてもらって、午後から練習しました。」
「それも急だね。」
「はい。今のところ『ギャラクシーインベーダーズ』に関しては、曲も衣装も全くの白紙なのですが、『ハートリンクス』のワンマンライブまでには用意したいと思います。」
「僕も溝口社長の方針は間違っていないと思うから、頑張ってね。でも、本当に喧嘩することはないように。」
「今日もいっしょに練習したぐらいですから、それはありません。」
「方向性も違うしそうかもしれないね。二つのグループとも来週も来るんだったよね。」
「はい、来週もお邪魔します。」
「『トリプレット』はいよいよ新曲の披露です。」
「それなら、来週の視聴率も行けそうだ。」
「有難うございます。大変申し訳ありませんが、また写真をいっしょにお願いできますでしょうか。」
「もちろん。」
『トリプレット』と『ハートリンクス』は、それぞれ、SNSにアップするための写真を逆井や戸部と撮影したあと帰宅した。尚美とハートレッドはパラダイス興行に行き、今後のスケジュールに関して検討することにした。
夜9時になって、アキがアキPG宛にメッセージを送った。
アキ:今の『ミュージックキス』見た?
ユミ:はい湘南兄さんが見てと言っていましたので見ました
アキ:『トリプレット』のことかと思ったら違っていた
ユミ:『ハートリングス』が『ハートリンクス』になったのには驚きました
コッコ:急にイメージチェンジしたんだね
アキ:変身解除って言っていた
ラッキー:僕はアイドルはそれほど詳しくないけどあれが本筋なんだろうね
アキ:みんな可愛かった
ユミ:男性から見るとレッドちゃんに人気が集まりそうですか
ラッキー:グリーンちゃんもそれなりに人気が出ると思う
ユミ:ラッキーさんの好みは?
ラッキー:ブラックちゃんかな。レッドちゃんはもちろんいいけど
コッコ:ブルーとイエロー、グリーンとブラックでGLも狙っている
コッコ:オタクの需要を戦隊系じゃない方向から取り込もうとしている
アキ:そうなの
コッコ:そう
ユミ:番組で声だけ出てきた敵役の『ギャラクシーインベーダーズ』って『トリプレット』ですよね
ユミ:ギャオミがなおみちゃん
アキ:ジュカが由香ちゃんでザミが亜美ちゃん
ユミ:今日は声だけですが4月には姿を表すみたいですね
ラッキー:『ハートリングス』はドームのチケットが全然売れていなかったみたいだから、事務所がテコ入れをしたんじゃないかと思う
コッコ:まあそうだろうね
ユミ:やっぱりメジャーのアイドルユニットはすごいと思いました
コッコ:すぐにテレビに出れるもんね
アキ:でも私はこのイメージチェンジは成功すると思う
ラッキー:歌もイメージに合っていた
コッコ:衣装はつまらなかったけど一般の男性には受けるんじゃないか
アキ:私はすごい可愛いと思ったよ
コッコ:まあ過激な服を着た二次元イラストがたくさん出てくるとは思うけど
アキ:メジャーなアイドルの宿命ね
アキ:それにしてもパスカルと湘南が静かね
ラッキー:番組が終わって風呂にでも入っているんじゃないかな
コッコ:二人一緒にか
ユミ:たぶん違うと思います
アキ:大学生なのに小学生に突っ込まれている
ユミ:湘南兄さんはなおみちゃんといっしょに帰るところかな
アキ:なるほどそうね
アキ:でもパスカルはどうしたんだろう?一番騒ぎそうなのに
少ししてパスカルからアキPG宛にメッセージが来た
パスカル:今終わった『ミュージックキス』で『ハートリングス』が『ハートリンクス』に変わったの見た?
アキ:とっくに見たわよ
ユミ:さっきまでそれについて話していたところです
湘南:溝口エイジェンシーのチャンネルに『ハートリンクス』のPVと練習風景が上がっていますので見てみて下さい
ラッキー:レッドちゃんがそう言っていたね
アキ:それを見ていたから静かだったのか
パスカル:その通りだ
湘南:一応確認していました
ユミ:湘南兄さんはなおみちゃんと帰っているところですか
湘南:妹はまだ事務所で打合せをしているみたいで待っているところです
ユミ:やっぱり大変なんですね
湘南:今後のスケジュールの相談と言っていました
アキ:妹子はユニットのリーダーで責任重大だから仕方がないんじゃない
ユミ:そうですね
アキ:とりあえず動画を見てみようか
ユミ:そうしましょう
10分ぐらいして二つの動画を見た4人がSNSに戻ってきた。
ラッキー:やっぱりレッドちゃんが一番人気でそう
アキ:そうね
ユミ:数万人からトップで選ばれたぐらいですからね
コッコ:PVはともかく練習風景とコメントの動画が素人くさくて良かった
パスカル:素人くさいか
アキ:溝口エイジェンシーのアイドルユニットなのに素人くさいって
ユミ:わざとそうしているのかもしれませんよ
湘南:練習風景とコメントのビデオはあまり良くなかったですか
アキ:そんなことはないよ。全員が魅力的に映っていたと思うよ
ユミ:まあ元がいいですから
アキ:ユミちゃん、それを言っちゃおしまいよ
ユミ:そうですね
湘南:練習風景のビデオのエンドロールを見てみて下さい
コッコ:了解
コッコ:製作はパラダイス興行
コッコ:総監督と撮影がヒラっち、監督がパスカル、録音と編集が湘南って
アキ:このビデオ、パスカルが監督なの?
パスカル:そうだよ
アキ:ヒラっちって平田社長?
湘南:その通りです。
ラッキー:ということはこのビデオは平田社長とパスカル君と湘南君で作ったの?
パスカル:そういうことです
ラッキー:すごい
ラッキー:オタクの鏡だ
パスカル:俺はアイドルオタというわけではないです
ラッキー:僕もそうだね。声優とアニソン歌手オタかな
アキ:そうか!
ユミ:アキ姉さん何ですか
アキ:この前言っていた日曜の9時以降なら話せる5人組アイドルユニットの撮影ってこれか
湘南:その通りです
アキ:でも何で
湘南:このイメージチェンジは溝口社長の独断で急に決まって手が足りなくてパラダイス興行に応援を求めたからです
アキ:それで平田社長から二人に応援要請があったの?
湘南:妹からですがそうなります
アキ:すごい
湘南:でもまだ素人くさいです
コッコ:ごめん。照明とか背景との位置関係かな
湘南:今度大学で詳しく教えてください
コッコ:分かった
アキ:もしかしてパスカルが言っていた女性らしい表情とかしぐさとかって、私と『ハートリンクス』のメンバーを比べていたの?
パスカル:特にレッドちゃんと
アキ:そうか
アキ:それでパスカルはレッドちゃんと話すことができたの?
湘南:パスカルさんはレッドさんやメンバーの皆さんにいろいろ指示していました
アキ:へーすごい。でもパスカル、レッドちゃんに変なことを言わなかったわよね
パスカル:俺は撮影以外のことは言わなかった
アキ:本当に?
パスカル:本当だ
湘南:本当です
パスカル:最初に明日夏ちゃんにいつも濃いサングラスをかけて女の子を見ている人とバラされたからだけど
アキ:ははははは。自業自得
パスカル:湘南はレッドちゃんのことをいい女と言ったら明日夏ちゃんと由香ちゃんに怒られていた
アキ:あー
湘南:レッドさんをどう思うかと尋ねられたので、いわゆるいい女という感じです、と言ったのですが
アキ:あー
アキ:ユミちゃん、どう思う?
ユミ:あーーーー
アキ:あーーーー
湘南:以後気を付けます
アキ:でも湘南がそう言うぐらいだから本当にそうなんだ
湘南:そうだと思います
パスカル:そのとき平田社長が湘南に同意したので湘南よりもっとひどく明日夏ちゃんに怒られていた
アキ:平田社長さんもなんだ
アキ:それが溝口エイジェンシーのトップアイドルということなのね
ユミ:そうかもしれません
湘南:レッドさんはパスカルさんにいつも女の子を見なくてはいけなくて地下アイドルのプロデューサーは大変ですねと言っていました
アキ:普通は軽蔑するところだけど
ユミ:それがイイ女の対応なのかもしれないですね
アキ:心では軽蔑していてもということ
ユミ:はい
湘南:軽蔑している感じはありませんでしたけど
ユミ:たぶんレッドさんは完璧に隠せるんです
アキ:心の奥底では軽蔑しているということか
ユミ:はい
パスカル:二人で怖い話をしないで
アキ:そう思うならもうやめることね
パスカル:分かった
パスカル:でもミサちゃんとレッドちゃんを近くで見れたのはいい経験になったと思う
アキ:私もミサちゃんの真剣さをすごく感じた
湘南:僕もです。でも今はユミさんの面接です
ユミ:はい頑張ります
パスカル:みんなが応援しているから
アキ:パスカルの応援は面接に役立たないかもしれないけど
パスカル:アキちゃん酷い
アキ:役立たないかもしれないけど精神的な力にはなる
パスカル:アキちゃん有難う
ユミ:女子高校生におもちゃにされる社会人
パスカル:ユミちゃん酷い
アキ:それがパスカルのいいところ
ユミ:そうですね
アキ:年末の明日夏ちゃんのワンマンライブ、スキー、ミサちゃんディナーショー、ユミちゃんとの練習、振袖を着ての撮影とライブ、盛りだくさんな冬休みだったな
パスカル:そうだな
湘南:はい
誠は思うことは沢山あったがそう短く答えた。
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