第44話 東京見物
土曜日の朝、前日の夜から降った雪が道に少し積もっていた。誠と尚美はその上を歩き、辻堂駅から湘南新宿ラインの電車に乗り、横浜駅から東急東横線で自由が丘に向かっていた。そこから、尚美は渋谷へ誠はマリの家がある宮前平駅へ向かう予定である。
「お兄ちゃんは、マリさんの家に行くんだよね。今日は朝から『ユナイテッドアローズ』の集まりがあるの?」
「今日はそうじゃないよ。マリさんの親戚の人が、マリさんの家のそばに引っ越してきたんだけど、その人をヴァイオリンの先生のところに案内する予定。」
「5日の引越しの手伝いもそれだったの?」
「その通りだよ。僕のやったことはインターネットと家電の設定だけで、引越しの手伝いはすぐに終わったけど。」
「ヴァイオリンの先生のところに案内するということは、子供?」
「高校2年生。来年ヴァイオリンで芸大か東邦を受験するので、その準備のために北海道からこっちにきたみたい。」
「学年は亜美先輩、イエローさんと同じか。」
「ということは、藤崎さんはアキさんとも同じ学年か。背が高いから分からなかった。」
「藤崎さん、下の名前は?」
「えーと、アイシャさん。」
「アイシャ!?本名?」
「そうみたい。」
「女子高生ということ?」
「そうだけど、ヴァイオリンの演奏を聴いたら驚くよ。さすが、1日5~6時間練習していることはあると思う。」
「マリさんの親戚なら、クラッシック一筋ということか。」
「そんな感じだよ。」
「美人なの?」
「マリさんに似ていて、一般的には、高潔で怒ると怖そうな美人だと思う。」
「ふーん。今日、ヴァイオリンの先生の所に行った後どうするの?」
「一応、東京を案内することになっているけど、夜に尚の迎えには絶対に行く。」
「分かった。その時にまた話を聞かせてくれる。」
「了解。」
尚美は「またお兄ちゃんが利用されているのかな。でもクラッシック一筋そうだから、お兄ちゃんには興味を持たなさそうだけれど。」と考えていた。
誠は駅で降りて、アイシャのワンルームマンションの前に10分前に到着した。SNSで連絡をする。
岩田:ちょうど待ち合わせ時間にはマンションの前に到着すると思います
藤崎:有難う。ちゃんと起きたから時間までに行ける
岩田:有難うございます。時間になったらマンションの前まで出てきてください
藤崎:分かった
待ち合わせ時間を3分過ぎてもアイシャは降りてこなかった。アイシャから通話で連絡があった。会話の他にガサガサ音がしていた。
「アイシャさん、大丈夫ですか?」
「ごめん、探し物をしているの。寒いから中に入っていて。」
「大丈夫です。下で待っています。」
「心配しなくてももう服は着ているから大丈夫だよ。」
「ここで遅れた場合の経路を探しておきます。」
「有難う。ごめんなさい。」
通話が切れると、誠は電車の時間を検索し直していた。
「まあ、余裕をとったから20分遅れまでならぎりぎり大丈夫だけど。10分遅れならこの電車で、15分遅れならこの電車か。」
10分弱遅れてアイシャがヴァイオリンのケースを背負って降りてきた。
「ごめんなさい。先生にお渡しする紹介状が出てこなくて。」
「はい、まだ十分間に合いますが急ぎましょう。」
「誠君、下が凍って・・・。」
誠が急いで大股で進もうとして足を滑らせて転びそうになった。その誠を、横にいたアイシャが抱きとめる。
「誠君、下が凍っているときは、大股で歩くと滑って転びやすいよ。」
「申し訳ありません。」
「東京の人だから慣れていないんだろうから仕方がないけど、こういう時は、歩幅を狭くして歩かないと。」
「アイシャさんの言う通りです。」
「でも、頭のいい誠君のことだから、実はわざと?」
「決してそんなことはありません。今は殴られても文句は言いません。」
「えっ、もしかして誠君の趣味はそっちだったの?」
「そういうわけではないです。」
「まあ、そうよね。」
「あの、もう大丈夫ですので放してもらえると。」
「それじゃあ、放すけど転ばないでね。」
誠を抱きかかえていたアイシャが誠をゆっくりと放す。
「有難うございます。それでは行きましょう。電車が2本ほど後になりますが、それでも10分前には先生の家の前に到着する予定です。」
「有難う。それじゃあ行こう。でも氷で滑って転ぶ誠君、可愛い。」
「申し訳ありません。」
二人は宮前平駅まで歩き、東急田園都市線に乗り、三軒茶屋駅で降り、ヴァイオリンの先生の家の前までいっしょに行った。その途中、誠はアイシャのスマフォに電車などの経路を探すアプリを入れたり、東京の主な街の話をしていた。レッスン開始の10分前に到着して、レッスン後のことを相談した。
「40分のレッスンだから、50分後にここに来てくれる。」
「分かりました。」
「私がいない時に転ばないでね。」
「分かりました。」
アイシャがヴァイオリンの先生の家に入り、誠は近くの喫茶店でパソコンを使って時間をつぶした。
1月初めのミサは、冬アニメ『MN34分隊』の主題歌『Because』の広報のために、雑誌取材や写真撮影が続き忙しくしていた。この日は午前中の雑誌取材の後、午後は写真撮影と夕方からパラダイス興行での練習の予定だった。
「ミサ、午後の写真撮影はキャンセルになったですねー。」
「何かあったの?」
「カメラマンや助手がインフルエンザで休みとのことですねー。」
「それじゃあ仕方がないわね。でも、雑誌取材や写真撮影が多かったから助かった。」
「1月は『Because』のリリースイベントが続くけど大丈夫ですかねー?」
「歌うのは大丈夫だから心配しないで。」
「月末に写真集のイベントがあるですねー。」
「そうだった。気が重いけど、それが終わったら、いよいよアメリカか。」
「そうですねー。でも、3月下旬から4月中旬までヘルツレコードのライブとリリースイベントで日本に戻って来るですねー。しばらくは、アメリカと日本を往復する生活が続くですねー。」
「日本に戻ってこれるのは、誠に忘れられないためにちょうどいいかな。でも、誠、今日の午後は何しているんだろう。この前に会ったときは、ほとんどすれ違いだった。」
「えーと、AFさんの東京案内をしているみたいですねー。」
「AFさん?東京案内?」
「尚美さんに聞いてみるですねー。」
「本当に。有難う。」
「了解ですねー。」
SNSのチャットでナンシーが尚美に連絡する。
ナンシー:尚美さん、こんにちはですねー
尚美:ナンシーさん、こんにちは
ナンシー:AFって何か知っているですかねー?
尚美:AF?ミッドウエイ島ですか(著者注:ミッドウエイ海戦時に日本帝国海軍がミッドウエイ島に付けた記号)
ナンシー:ミッドウエイ島って何ですかねー?
尚美:申し訳ありません。ナンシーさんがアメリカの方だからそうかなと思ってしまいました
尚美:オートフォーカス?
ナンシー:そうじゃないですねー。今日、湘南さんが東京を案内している人のイニシャルですねー
尚美:それなら藤崎アイシャさんだと思います
ナンシー:誰ですねー?
尚美:この正月に北海道からヴァイオリンで受験する準備のために来たマリさんの親戚で高校2年生という話です
ナンシー:女子高生ですねー?
尚美:その通りです
ナンシー:有難うですねー
尚美:どういたしまして
ナンシーがミサに結果を伝える
「AFは藤崎アイシャさんという女子高校生という話ですねー。」
「女子高校生!?そっ、それは、どぅ、どういう。」
「マリさんの親戚だそうですねー。ヴァイオリンで大学を受験する準備のために東京に住むそうですねー。」
「ヴァイオリンで受験ということはクラッシックか。さすがマリさんの親戚という感じだけど、綺麗な人?」
「湘南さんに直接聞いてみるといいですねー。連絡先は分かっているですねー?」
「尚と3人のグループになら入っているけど。そんなことは聞けないよ。」
「意気地なしですねー。今度ラッキーさんたちと会ったときに聞いておくですねー。」
「有難う。」
「それで午後はどうするですねー。」
「うーん、夕方まで結構時間があるから、銀座の楽器と音楽の本のお店に行ってから、昼ご飯を食べてから、カラオケでも行く?」
「カラオケですねー?」
「いろいろな歌を歌っておこうと思って。」
「それはいいことですねー。レッツシングですねー。」
誠は近くの喫茶店で『私といっしょにイイことしよう』の作曲をした後、アイシャのレッスンが終わる少し前に、ヴァイオリン教師の家の前に到着した。
「高級住宅街だからお金持ちそうだけど。ヴァイオリンで稼いだのか、お金持ちだったからヴァイオリンができたのか。」
などと考えながらアイシャが出てくるのを待っていた。10分ぐらい遅れてアイシャがヴァイオリンの先生の家から出てきた。
「ごめんなさい。先生との話が長引いて遅れちゃった。」
「初回ですから仕方がないです。それじゃあ行きましょう。」
誠とアイシャが歩き出した。
「誠君が転んでもいいように身構えていたけど、今度は転ばなかった。」
「はい、転ばないように、かなり注意しています。」
「それじゃあ、誠君がどこまで耐えられるか引っ張ってみよう。」
「危ないですから止めて下さっ・・・・・。」
アイシャが転びそうになるのを誠が抱きかかえて防ぐ。
「ですから、そういうことをすると危ないです。」
「ごめんなさい。自分が転ぶとは思わなかった。でも良かった。ヴァイオリンを壊したら目も当てられなかった。」
「いくらするんですか?」
「お父さんが300万円ぐらいって。」
「そっ、それは。慎重に扱ってください。」
「分かっている。ちょっと油断したわ。それで、今日はどこを案内してくれるの?」
「ヴァイオリンを一度部屋に置いてからの方が良くはありませんか?」
「大丈夫。ヴァイオリンはいつでも持ち歩ける楽器だから良いって言われているし。」
「そうですか。初めに銀座に行って、スカイツリーの上で昼食をとり、浅草に行きます。」
「銀座に行くなら、大きな楽器店に行ってみたい。」
「分かりました。浅草の後は、秋葉原か渋谷に行ってから帰ろうと思いますが、どちらがいいですか?」
「秋葉原は電気街?」
「最近はオタクの街でしょうか。」
「それなら渋谷かな。」
「了解です。アイシャさんはオタクとは縁がなさそうですし。」
「誠君はオタクとは縁があるの?」
「オタクに縁があるというより、オタクそのものです。」
「普通の人そうに見えるけど、そうなんだ。」
「オタクも普段は普通の人です。」
「やっぱり誠君は私にいじめられるのが好きとか?」
「それはオタクでなくて変態です。」
「違いがよく分からない。」
「まあ、普通の人からは難しいかもしれません。普通のオタクは人畜無害の変わった趣味の人だと思います。」
「そうなんだ。それじゃあ、秋葉原にしようかな。そっちの方が詳しいんでしょう。」
「『ユナイテッドアローズ』のライブを渋谷で開催することが多いので、最近は渋谷の地理も分かってきました。ただ、女子高生が好きそうなお店はよく分かりません。」
「分かった。渋谷はまたでいいかな。それじゃあ秋葉原で。」
「分かりました。」
二人が銀座に到着した後、銀座の街並みを歩いていた。
「へー、これが銀座なの。」
「はい、高級なお店がたくさんあるそうですが、あまり詳しくはないです。」
「あれが銀座のデパートね。」
「高級なファッションとかに興味があると面白いかもしれません。」
「あんまりないけど、ちょっとだけ見てみていい?」
「はい、まだ時間はありますのでどうぞ。」
二人はデパートを少し見た後、楽器店に入り、フロアーの案内を見た。
「この建物が全部、音楽関係のお店なのね。」
「はい、その通りです。」
誠とアイシャは一度上の階に上がり、階を下りながら見ることにした。楽譜売り場でアイシャが誠に語りかける。
「もう少し楽譜売り場を見ていきたいから、誠君は他のところを見てきてもいいよ。」
「それでは、僕は地下のDTM売り場のところにいます。昼食の予約がありますので、30分後にはここを出ないといけません。」
「分かった。それじゃあ、25分後までには地下に行く。」
「了解です。時間を過ぎても来ない場合は連絡しますので、スマフォの着信に注意していて下さい。」
「了解。」
誠は地下の売り場に向かった。
誠の約束の時間になって、アイシャが階段を降りていくと、マスクをした目が人形のように大きい女性と、20歳台中ごろの外国の女性が階段を登ってきた。アイシャとその二人が階段の踊り場のところですれ違った。すれ違いざまに、マスクをした女性がつぶやいた。
「誠の匂い。」
アイシャが「えっ、今の誠君のこと?」と思いながら数段下って踊り場で進むのを止めて、振り返り階段の上の方を見た。その女性も階段を数段上がってから止まっていて、アイシャの方を見ていた。そして言い放った。
「あなた、藤崎アイシャね。」
隣の外国の女性は驚いてその女性を見ていたが、アイシャにも思い当たる筋があったので、うなずいてその女性に返事をした。
「あなた、鈴木美香ね。」
その女性、すなわち、ミサがうなずいて問う。
「ヴァイオリンをやっている?」
アイシャがまたうなずいて問う。
「ロックのボーカルとギターをやっている?」
ミサもうなずいた。そして、少しの沈黙の後、ミサが発声する。
「あー、あー、あー。」
それを聴いたアイシャが
「G(ゲー)A(アー)C(ツェー)。音程が16分の1もずれないで発声できている。」
と思いながら、背負ったケースからヴァイオリン取り出し、同じ音程でその3音を弾く。ミサも思う。
「G(ゲー)A(アー)C(ツェー)。ヴァイオリンの音程は正確。」
そして、二人が同時に思う。
「この女できる。」「この女できる。」
一方のナンシーは「この二人、何ですねー。」と思いながら二人の様子を見ていた。
約束の時間になってもアイシャは現れず、スマフォにも応答しないため、誠は「集中してスマフォの呼び出しに気が付かないのかな。そうだとすると、館内放送をお願いしても気が付かない可能性があるな。」と考えながら階段を上がって行った。誠が階段を上がっていくと、アイシャが階段でヴァイオリンを持って上を見て止まっているのが分かった。誠からはミサたちはよく見えていなかった。
「何だろう?」
ナンシーが階段を上がってくる人の気配に気付き、それを確認するために階段の手すりから顔を出した。
「あっ、湘南さんですねー。」
その声でミサも誠の方に顔を向けたので、誠にもミサとアイシャが見合っていたことが分かった。
「あのナンシーさん、お二人は何をしているのでしょうか?」
「それはこっちが聞きたいですねー。この方は本当に藤崎アイシャさんでいいですねー?」
「はい、その通りです。」
「さっきから二人がにらみ合っているですねー。」
「ナンシー、別ににらんでいるわけじゃないよ。アイシャさんから誠のにおいがしたから、何でだろうと思って。」
「それは道が凍っていて、誠君が私の方に転んで受け止めたのと、私が誠君の方に転んで受け止めてもらったときに匂いが付いたのかもしれないけど。」
「湘南さんが転ぶって、わざとですねー?」
「絶対に違います。時間に遅れていまして少し急いでしまったからです。」
「私の出発が遅れたからだけど、私はわざとでも気にしない。」
「誠がわざと転ぶわけない。あなたが誠の方に転んだのはわざとかもしれないけど。」
「わざとじゃないわよ。誠君を転ばそうとして引っ張ったら自分が転んだだけ。」
「本当かしら。」
「本当よ。でも、それで付いた匂いだけで分かるんだ。幼馴染だから?」
「その通りね。誠の匂いならほんの少しでも分かる。」
誠が話を中断する。
「あの美香さん、事情はまたご説明します。昼食を予約していまして、アイシャさんをお連れしないと予定の電車に乗れなくなってしまいそうな時間なんです。」
「でも何で誠がそんなことをしているの?」
「マリさんにお願いされたのと、アイシャさんが東京に来てから間もないからです。」
「いつ東京に来たの?」
アイシャが答える。
「1月4日。」
「僕がアイシャさんと会うのは5日の引越しの時と今日とで2回です。」
「そうなんだ。それじゃあ私もいっしょに行く。車があるから移動が楽よ。」
「えーと。」
「誠君、私はいいわよ。」
「分かりました。レストランに4人入れるか聞いてみます。時間がありませんので、とりあえず外に出ましょう。」
「誠、もしレストランが満席だったら私の方で何とかするから、言ってね。」
「分かりました。」
「何か面白いことになってきたですねー。」
誠が歩きながら東京スカイツリーのレストランに連絡すると、キャンセルがあったため4名になっても大丈夫との返事だった。
「4名でも大丈夫とのことです。」
「そう。それじゃあ行きましょう。」
ミサのリムジンがやってきた。アイシャが驚く。
「リムジン!」
ミサが少し勝ち誇ったように言う。
「乗って。」
4人がリムジンに乗り、誠が運転手に行き先を告げると、リムジンが出発した。
「ナンシーさんにお会いするのは今年初めてでしたね。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
「明けましておめでとうですねー。今年もよろしくお願いするですねー。」
「ナンシーさん、こんにちは。私は藤崎アイシャで、今は高校2年生です。」
「こんにちはですねー。でも、何であの時ミサの名前が分かったんですねー。」
「誠君のスマフォを借りたときに、連絡先リストの怪しい女性の名前が鈴木美香だけで、匂いだけで誠君と分かったみたいだったから。」
ミサが尋ねる。
「そうなの?明日夏の名前はなかったの?」
誠が答える。
「明日夏さんは作詞家の方の名前で入っています。」
ミサが何故か嬉しそうに答える。
「そうなんだ。誠の怪しい女は私だけってことね。」
「別に美香さんが怪しいということはないです。」
「湘南さん、その怪しさは男性には分からないですねー。女の勘ですねー。」
「そうなんですか。」
「そうなんですねー。ところで、湘南さん、これからどこに行くですねー。」
「今日の予定は、東京スカイツリーで昼食をとって、浅草と秋葉原を見てから帰る予定です。夜に妹を迎えに行かなくてはいけないので。」
「秋葉原ですねー?」
「渋谷か秋葉原のどちらかにしようと思っていたのですが、僕は秋葉原が一番詳しいということで、秋葉原になりました。」
「確かに、女子高生なら渋谷は一人でもまわれるですねー。秋葉原はどこを回るつもりですねー。」
「候補としては、電気関係で、ヨドバシカメラ、秋月電子、ラジオセンター、ラジオデパートでしょうか。」
「ヨドバシカメラだけは分かるですねー。」
「ヨドバシカメラ以外はパーツ屋です。小学生のころからお世話になっていました。」
「なるほどですねー。」
「オタクショップの候補はアニメイトとラジオ会館です。」
「それはいつも行っているですねー。とっても楽しいですねー。」
「ナンシー、その店の名前は聞いたことはあるけど、良く分からない。」
「私は全然わからない。」
「ミサはそれでよくアニソンを歌っているですねー。ポスターにサインするためにアニメイトには行ったこともあるですねー。」
「でもナンシー、自分が担当する主題歌のアニメは見ているよ。」
「グッズまで知らないとだめですねー。」
「分かった。今日見てみる。」
「それがいいですねー。」
東京スカイツリーに到着して、エレベーターでレストランがある階まで上がり、レストランに入った。あたりの景色を見てアイシャとミサが驚く。
「すごい、ビルがたくさんある。」
「うちのホテルの最上階のレストランより全然良く見える。」
「はい、ここのフロアの高さは345メートルぐらいありますので、東京のどのビルよりも高いです。とりあえず、席に着きましょう。」
4人がテーブルに着く。ナンシーが誠に尋ねる。
「でも、湘南さんはここにアイシャさんと二人で来るつもりだったんですねー。」
「晴れれば東京が良く見えると思ってここを選びました。」
「怪しいですねー。」
「ニューヨークで、エンパイヤステートビルに登るのと同じです。」
「まあ、そういうことにしておくですねー。」
「でも、ここの景色、私でもすごく感激するのに、田舎から出てきた人はもっと感激するんじゃないかな。」
アイシャは「田舎から出てきた人」という言葉に少し機嫌を悪くしたが黙っていた。
「もしかすると、ミサさんはアイシャさんが心配なのかもしれませんが、アイシャさんは未成年ですし、僕はミサさんが心配するようなことはしません。」
「誠のこと信じているけど・・・。」
「昼の方が東京の様子が良く分かりますが、綺麗な景色を見たいなら、夕方に来たほうが良いそうです。夕日や夜景が綺麗ということです。」
「そうなんだ。江の島の夕日より綺麗かな?」
「江の島から見た夕日も綺麗でしたが、近くの海岸から江の島に落ちる夕日が綺麗とは聞いたことがあります。」
「それじゃあ、今度は海岸側から江の島を見てみようか。」
「はい、分かりました。」
「湘南さん、江の島の夕日って何ですねー。」
「去年の夏に美香さんと妹と行ったんです。」
「なおみさんもいたですねー。」
「はい、その通りです。写真をお見せします。」
全員でその写真を見る。
「懐かしい。」
「なおみさんが写っているですねー。面白くないですねー。」
「そういう問題ではありません。」
「これが誠君の妹さん?」
「その通りです。中学2年生で尚美と言います。」
「驚いた。妹さん、すごく可愛い。」
「僕と兄弟というのが意外ですよね。でも、有難うございます。とても嬉しいです。」
「誠君の可愛さには敵わないと思うけど。」
「えっ、いえ。・・・有難うございます。」
「その照れ方が可愛いんだな。」
「誠は、可愛いんじゃなくて、カッコいい。」
「うーん、私には可愛いかな。」
「あの、二人でからかわないでください。」
「湘南さん、モテモテですねー。」
誠は「アイシャさんは面白がっているだけで、ミサさんは単に負けたくないからか。」と思いながら答える。
「そうではないと思います。」
食事が来てそれを食べながら会話が続く。
「食事もすごく豪勢な感じなんだけど、もしかして、誠君の家もお金持ちなの?」
「いえ、そんなことはありません。うちの親は普通のサラリーマンです。学費と生活費は親が出してくれていますので、貧乏ではありませんが、遊ぶお金はバイトで稼いでいます。」
「うちも貧乏じゃないから、自分の分は自分で出すね。」
「このぐらいは大丈夫です。マリさんにはいつもお世話になっていますし。」
「それじゃあ、お返しに大学に入ったらバイトして誠君に奢ってあげるよ。」
「さすがに3つ年下のアイシャさんに、奢ってもらうわけにはいかないです。」
ミサが誠とアイシャの話に割り込む。
「ここは全部私が出すから大丈夫。アイシャは誠にお返しをする必要はない。」
「でも・・・・。」
「大丈夫。」
ナンシーがアイシャに尋ねる。
「アイシャさんは大河内ミサって知っているですねー?」
「知らないですけど。・・・・もしかして、鈴木さんのこと?」
「そうですねー。ロック歌手としての名前ですねー。」
「申し訳ないですが、ロックは聴かないので知らないです。」
「ロックはいいですねー。アニメは見るですかねー?」
「見ないです。テレビはニュースかクラッシックの音楽番組ぐらい。」
「なるほどですねー。時々アニメを見るといいですねー。」
「『銀河英雄伝説』というアニメなら、有名なクラシック音楽をバックグラウンドミュージックに使っています。」
「そうなんだ。それじゃあ、そのアニメ、見てみるね。」
「誠、私も見てみる。」
「『銀河英雄伝説』には新しいものもあるので、クラッシックを使っているのは1980年台に始まった古い方のアニメです。」
「分かった。やっぱりクラシックはいいわよ。心が落ち着いて、優しい気持ちになれる。」
誠はアイシャの怒った顔を思い出しながら答える。
「えーと、そうですね。」
「ロックは、優しさも激しさも人間の深い心に直接に訴えかけるわ。」
「ミサのいう通りですねー。」
「それはクラシックも同じ。私は激しい曲より、優しい曲の方が好きだけど、3百年以上続いた音が心にしみわたる。ロックなんてクラシックに比べればまだまだ浅いわ。」
「新しくてもいいものはいい。今着ている服のデザインだって新しいじゃない。」
「服はそうだけど、3百年以上前に作られたヴァイオリンは今でも最高のヴァイオリンとして使われているわよ。」
「それじゃあ、アイシャさんはバロック調の服を着るといいですねー。」
「でもナンシーさん、アイシャさんがバロック調の男性の服、美香さんがバロック調の女性の服を着て、アイシャさんが美香さんをエスコートすると似合いそうな気はします。」
ナンシーが二人を見た後、誠に答える。
「確かに、その筋の女の子には需要がありそうですねー。」
「誠君、私は男なわけ?」
「そう言うわけでなくて、宝塚ではないですが、男装すればカッコよくなるという意味です。ヴァイオリンを持っている姿が綺麗だと思いました。」
「あっ、有難う。」
「美香さんは歌っている姿が一番美しいです。」
「あっ、有難う。」
「僕としては、クラシックとロックで若手の最高峰に位置する二人が手を取り合って音楽をさらに発展させていってもらえると嬉しいです。」
誠としては綺麗にまとめたつもりだった。
「美香と私が若手の最高峰!?それじゃあ、美香の歌と私のヴァイオリンで勝負しない?」
誠は心の中で「えっ?」と思った。
「いいけど、どうやって勝負するの?」
「誠君がいいと思った方が勝ち。」
「分かった。それでいい。」
誠は心の中で「二人は何を言っているんだろう。」と思いながら話しかける。
「アイシャさんも美香さんも待って下さい。」
「誠君、協力するにしてもどっちが上か下かはっきりさせる必要がある。」
ミサがうなずく。
「でも、ロックとクラシックで比較するというのに無理があります。」
「音楽だから同じ。」
「アイシャのいう通り。誠がどちらをもっと聴きたいかで決めていい。」
「美香の言う通り。」
ナンシーが誠に言う。
「湘南さんが、はっきりしないからいけないんですねー。」
誠が少し考えて話す。
「分かりました。でも、やっぱり僕だけでは心配ですので、平田社長と相談して決めるというのでいいですか?」
「ヒラっち?まあ、いいけど。」
「平田社長?ヒラっち?」
「平田悟と言って、誠が一番信用している音楽事務所の社長。」
「はい、パラダイス興行の社長で、音楽全般に造詣があります。」
「美香が所属している会社?」
「私が所属しているのは溝口エイジェンシーという芸能事務所。」
「そうなの。誠君がそんなに信用している人なら構わないけど。」
「ちょうど今日の夕方にパラダイス興行に歌のレッスンを受けに行くですねー。ちょうどいいですねー。」
誠は「二人は自分のジャンルが最高と強く思っているのかな。でも、平田社長ならこういう難しい状況を何とかしてくれるはず。」と思いながら3人に話しかける。
「それは良かったです。ちょうど出発の時間になりましたので、浅草に向かいましょう。」
「分かった」「分かった。」「どんどん面白くなっていくですねー。」
浅草では、どら焼きを食べながら雷門を見たり、仲見世通りを散歩したりした後、浅草寺でお参りをした。お祈りをする前にミサが誠に尋ねた。
「誠は何をお祈りするの?」
「私も興味がある。」
「私もあるですねー。」
「望みは、ミサさんがアメリカで成功すること、アイシャさんの受験の準備が順調にいくこと、尚が進みたい方向に進んでいけること、明日夏さんが今年も歌手を続けられること、橘さんの再デビューが成功すること、パスカルさん、アキさん、ユミさんのアイドル活動に問題が生じないことですが、多すぎますので、今年もみなさんが元気でいることにしようと思います。」
「やっぱり、元気が一番か。」
「まあ、元気がないとね。」
「私もそうしよう。」
「私も。」
「湘南さん、つまらないですねー。彼女が5人欲しいとかないですねー?」
「ないです。どんなに多くても一人で十分です。ナンシーさんは彼氏が5人欲しんですか。」
「うーん、5人は多すぎですねー。フルタイムが1人とパートタイムが2人ぐらいがいいですねー。」
「1+0.5×2で二人分ぐらいですか。」
「そうですねー。湘南さんは0.5×2ぐらいですねー?」
「違います。1×1です。今のところは0ですので、威張れないですが。」
「それは湘南さんに勇気がないだけですねー。だから、やっぱり威張れないですねー。」
「ナンシーさん、厳しい。」
浅草寺でお参りをした後、4人は秋葉原に向かった。
「時間がなくなって来ましたので、ヨドバシカメラ、アニメイト、秋月電子の順に回ろうと思います。」
リムジンがヨドバシカメラの前に到着し、全員がリムジンを降りた。リムジンは一度その場を離れ、時間を決めて万世橋でピックアップしてもらうことにした。ヨドバシカメラの建物を見たアイシャが驚く。
「ヨドバシカメラは、札幌にもあるけど、全然大きい。さすが東京。」
店のフロアでミサが驚いた。
「テレビがいっぱい。」
「電化製品はいつもネットで買うんですか?」
「うーん、お店の人が家に来るかな。」
「そうですね。百貨店の外商ですね。」
「誠君、外商って。」
「お金持ちの家は、百貨店の人を呼んで、家で買うことができます。」
「なるほど。」
「僕は重い家電以外は、ネットで値段を調べて安い店で買うことが多いです。」
「私は親が買うから、良く分からないかな。」
「何かありましたら言ってください。探すのをお手伝いします。」
「有難う。」
「私もアメリカのアパートで買う家電を頼んでいい?」
「構いませんが、ナンシーさんは?」
「私も電気はよくわからないですねー。」
「分かりました。調べておきます。」
「有難う。」
次にアニメイトに向かった。アイシャがアニメのポスターを見て驚く。
「すごい、誠君が好きそうな絵がいっぱいね。」
「全部好きというわけではないです。」
「誠君の好みは?」
「これとかこれです。」
「フーン。」
「フーン。」
「フーンですねー。」
「ナンシーさんは知っているじゃないですか。」
「言ってみただけですねー。」
「これが明日夏さんと亜美さんが好きな直人で、これが亜美さんが好きな照美君です。」
「直人は明日夏から見せてもらったことがあるから知っている。これが亜美が好きな照美なんだ。はじめて見た。」
「照美君って、うちのいとこの徹君に少し似ている。」
誠は「しまった。」と思いながらフロアを変えることを進言する。
「それでは上に行ってみましょうか。」
CDやDVDなどを売っているフロアーに到着した。
「あの写真は美香?」
「アイシャさん、あまり大きな声で名前を呼ばないでください。」
「ごめん、分かった。」
「4月に売り出されるワンマンライブのブルーレイの宣伝ですねー。」
「へー、やっぱり美人だから売れるのかな。」
「美香さんの場合、外見より歌で売れているんだと思います。」
「外見7割、歌3割というところですねー。まだまだですねー。」
「ナンシー、厳しい。でも、分かっている。もっと上手にならないと。」
「二人ともさすがです。」
秋月電子に向かう途中、メイドの恰好をした女の子が多数立っていた。
「これは?」
「メイド喫茶の呼び込みです。」
「メイド喫茶!」
「誠君もああいう服が好きなの?」
「好きということはないですが、嫌いということはないです。」
「なるほど、ああいう服を着た女の子が好きということか。」
「そういうわけではありません。」
「湘南さんは、メイド喫茶に入りびたっているですねー。」
「誠君、本当に!?」
「そんなことはないです。アキさんがメイド喫茶でバイトをしていた時に、アイドル活動の相談をするために、パスカルさんと何回か行きましたが、アキさんは夏にメイド喫茶を辞めていますので、それ以降は行っていません。」
「アキさんって、地下アイドルをしている子か。うーん、誠君、大丈夫?」
「大丈夫です。」
「真理子さんも美咲ちゃんもいっしょだから大丈夫だとは思うけど。」
「はい、ナンシーさんも時々手伝いに来ていますし。」
「ふーん。」
「誠、アメリカのステージで私がメイド服を着る案があるんだけどどう思う?」
「メイド服ですか?ロックを歌うには合っていないと思います。明日夏さんのワンマンライブに美香さんが出演するならばいいとは思います。」
「そうだった。この間は高校の制服を着せられたんだった。」
「湘南さんは、誰が一番メイド服が似合うと思うですねー。」
「僕が知っている人の中では、順番にハートレッドさん、亜美さん、アキさんだとは思います。」
「湘南さんは、相変わらず空気が読めないですねー。」
「もし、美香さんとアイシャさんのことを言っているのなら、二人はメイドを従える王女様とか女王様ではないでしょうか。」
「湘南さん、それは正しいようで正しくないですねー。」
「なんか難しそうですね。」
「難しいですねー。」
「それよりナンシー、ハートレッドって誰か知っているの?」
「ミサは知らないですかねー?うちの事務所のアイドルグループのリーダーですねー。」
「えーと、ハーフリングスだっけ?」
「『ハートリングス』ですねー。でも、なんで湘南さんが知っているですねー。」
「それが、プロデューサーが妹に代わることになって、パラダイス興行がプロデュースの手伝いをしているからです。」
「なるほど、溝口社長が考えそうなことですねー。」
ハートレッドを検索したアイシャがスマフォを見せる。
「ハートレッドってこの人?なんとか戦隊のような服が似合っていないかもしれない。」
「はい、その通りですので、詳しくは言えないのですが、妹はいろいろなことを考えているみたいです。」
「秘密の作戦があるですねー?」
「はい。ですが、申し訳ありませんが、僕から言うわけにはいきません。」
「分かったですねー。」
「それで、ここが秋月電子です。」
「ふーん、誠君はこういう店に来るの?」
「小学生のころから来ていました。」
「誠は、電子部品はこういうところで買うのね。」
「最近はネットで買うことも多いですが、実際に見た方が想像が湧きます。小さい時には組み立てキットを買って組み立てていました。」
「へー、男の子ってそうなんだね。」
「こういうところに来るのは、電気オタクの男の子だけだとは思います。」
「うちの兄は来ないな。」
「うちの兄も弟もあまり縁がなさそう。」
「それは残念ですが、そろそろパラダイス興行に向かいましょう?」
「分かった。」「分かった。」
リムジンに万世橋でピックアップしてもらい、秋葉原を出発し、ほどなくパラダイス興行に到着した。事務所にいたのは悟と久美の二人だけだった。
「ヒラっち、こんにちは。」
「ミサちゃん、ナンシーちゃん、こんにちは。」
「美香、今日のエネルギーは十分か?」
「はい、有り余っています。」
「だんだん私の弟子らしくなってきた。」
「有難うございます。」
続いて誠とアイシャが入ってきた。
「あれ、誠君、いらっしゃい。今日は『ハートリンクス』のビデオを修正しに来たの?」
「平田社長、こんにちはです。それがいろいろありまして。」
「誠は私といっしょに来たんだけどいいですか?」
「もちろん。いつでも大歓迎だよ。それで、誠君の隣の方は?」
「マリさんの姪の藤崎アイシャさんです。」
「ホントだ。真理子先輩の若い時にそっくり。」
「うん、僕も若い時はしらないけど、似ていると思うよ。」
「アイシャさん、いらっしゃい。マリさんにはうちの明日夏がボイストレーニングでお世話になっています。」
「藤崎アイシャです。よろしくお願いします。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
「それでですねー、今からここで湘南さんをかけて、ミサのロックのヴォーカルとアイシャさんのヴァイオリンで勝負をすることになったんですねー。」
「僕をかけてというのはナンシーさんの作り話ですが、ロックとクラッシックで勝負というのは本当です。」
「でも、誠君、ロックとクラッシックでどうやって勝負をつけるの?」
「平田社長さんと湘南さんに歌とヴァイオリン演奏を聴いてもらって、審判をやってもらうですねー。」
「ナンシーちゃん、ロックのヴォーカルとクラッシックのヴァイオリン演奏で勝負って、とっても無茶な気がするけど。」
「まあ、社長さんと湘南さんがいれば大丈夫ですねー。」
久美がミサに話しかける。
「美香、勝負の話は後にして、とりあえずレッスンの方を先にやっちゃおうか。」
「橘さん、分かりました。」
久美とミサが広い練習室に入り、レッスンを始めた。アイシャが誠に尋ねた。
「誠君、もう一つの練習室、借りれるかな?」
「社長に伺ってみます。」
誠が悟に話しかける。
「平田社長、もう一つの練習室を今だけお借りしてもよろしいでしょうか?」
「うん、今日はしばらく空いているからいいよ。」
「有難うございます。」
アイシャが練習室に入り、方耳にイヤフォンをはめてヴァイオリンを弾き始めた。悟が誠とナンシーに尋ねた。
「誠君、ナンシーちゃん、何があったの?」
「僕は二人が出会う瞬間は見ていなかったですので、その様子はナンシーさんから説明してもらえますか。」
「ミサが階段でアイシャさんとすれ違う時、アイシャさんに付いている湘南さんの匂いで分かったみたいなんですねー。」
「それは、また。」
「アイシャさんは4日に北海道から東京に引っ越してきて、今日はヴァイオリンの先生のところに案内した後、東京観光をしていたのですが。」
「ミサも仕事のキャンセルがあって午後が空いたんですねー。それで、一緒に観光することになったんですねー。」
「初めから、あまり友好的な雰囲気ではなかったのですが、観光をしているうちになぜか勝負をすることになったんです。」
悟が誠を同情するような目で見る。
「そうなんだね。」
「まあ、暴力を使った喧嘩じゃないからいいんですねー。」
「そうだね。うん、久美なら取っ組み合いの喧嘩になりそうな雰囲気だった。」
「そうなんですか。」
「あまり心配しても仕方がないから、誠君、とりあえず今は『デスデーモンズ』の曲の話でもしようか。」
「はい、でもその前に『私といっしょにイイことしよう』のサビの部分だけ作ってきましたので、チェックして頂けますか。」
「もちろん喜んで。」
「何ですねー、そのタイトル?」
「明日夏ちゃんがアイドルユニットのために作詞して、誠君が作曲しているところ。」
「社長と一緒に作曲しています。」
「作詞は明日夏さんですねー?見てもいいですかねー?」
「どうぞ。」
ナンシーが歌詞を見る。
「全然、イイことじゃないですねー。これが明日夏さんの限界ですねー。」
後ろから声がかかる。
「ナンシーちゃん、限界とは酷いですねー。」
「あっ、明日夏さんですねー。こんにちはですねー。」
「アイドルにあまり変な歌詞を歌わすわけにはいかないですねー。」
「それでは、橘さんとか私のために書いてみるといいですねー。」
「・・・・・・・。」
「直人さんとは妄想の中でどこまで行っているんですかねー。」
明日夏が誠の方を少し見る。
「そんなの言えるわけが・・・。」
「まだまだですねー。そんなことでは、ミサに負けるですねー。」
「ミサちゃんに、まさか。」
「この後、湘南さんをかけて、ミサとアイシャさんが勝負をするんですねー。」
「アイシャさんって誰?」
「今、ドラムが置いてある練習室でヴァイオリンを練習している女性ですねー。」
「えーー、そうなの。」
「ナンシーさん、僕は関係ないですから。ロックとクラシックの争いだと思います。」
「でも、アイシャさんってどういう方?」
「マリさんの姪という話しですねー。」
「アイシャさんは、1月4日に受験の準備のために北海道から東京に来て、今日はマリさんの依頼で東京を案内していました。」
「ミサが階段ですれ違う時に、湘南さんがいないのにアイシャさんに付いていた湘南さんの匂いに気が付いたんですねー。それで、こういうことになったんですねー。」
「なるほど。マー君が会ったのは何回目?」
「引越しの手伝いと今日で2回目です。」
「うーん、たった2回でマー君が好きになるとは思えないけど。」
「それは明日夏さんの言う通りだと思います。」
「明日夏さん、まだ分かっていないですねー。一目で恋に落ちることもあるですねー。」
「あー、亜美ちゃんはそうだったね。社長、どうします?」
「こちらが煽っているわけではないので、様子を見るしか。」
「そうですね。」
「あの、明日夏さん。モーツアルトのバイオリン協奏曲第5番第1楽章でヴァイオリンの伴奏をすることはできますか?」
「楽譜はある?」
「はい。」
誠が明日夏にタブレットで楽譜を見せる。
「有名な曲だしできるけど、マー君はアイシャさんの応援をするの?」
「片方に応援するというのではなくて、ミサさんの歌にはカラオケがあるので、平等を期すためにと思いまして。」
「分かった。それじゃあ、印刷をお願い。」
「はい。」
明日夏が、アイシャが練習している練習室に入って行った。
「こんにちは。神田明日夏といいます。マー君からピアノでの伴奏を依頼されたので、合わせてみませんか。」
「マー君?あっ、誠君のことか。分かりました。よろしくお願いします。」
「はい、よろしくお願いします。曲はモーツアルトのバイオリン協奏曲第5番第1楽章でいいんですね。」
「はい。」
誠が明日夏とアイシャがいる練習室の様子を見て、二人で演奏を始めることを確認した。それで、悟に話しかける。
「これで大丈夫だと思います。」
「湘南さんは、勝負はどうなると思うですねー。」
「たぶん、お互いのすごさが分かって引き分けになると思います。」
「湘南さんは策士ですねー。二人ともものにする気ですねー。」
「そういうことではなくて、お互いに刺激になるのではないでしょうか。」
「そうなんだ。誠君がそうまで言うなら、アイシャさんのヴァイオリンを聴くのが楽しみになってきたよ。」
「はい、僕も明日夏さんの伴奏でのアイシャさんの演奏は楽しみです。それでは、社長、とりあえず作曲の作業に戻りましょうか。」
「いや、その前に、勝負の後で食べるケーキを買ってこようと思う。」
「さすがです。お手伝いします。」
「有難う。」
「なるほどですねー。この気の使い方がパラダイス興行がうまくいく秘密ですねー。私もいっしょに行くですねー。」
誠たちがケーキを買ってパラダイス興行に戻り、ミサのトレーニングが終わる直前に、由香と亜美がやってきた。
「社長、ちーす。お兄ちゃん、ナンシーさん、こんにちは。」
「社長、二尉、ナンシーさん、こんにちは。」
明日夏がいる練習室を見た由香が尋ねる。
「明日夏さんは何をやっているんですか?」
「細かいことは後で説明するけど、ミサちゃんと明日夏ちゃんの隣でヴァイオリンを弾いているアイシャさんとで、ロックのボーカルとヴァイオリンの演奏で勝負をする予定。」
「社長、あのアイシャという女性、マリさんに似てますね。」
「三佐の言われる通り、アイシャさんはマリさんの姪です。それでロックとクラシックの対決になったみたいです。」
「何だそれ?昔の橘さんとマリさんみたいなものか。」
「違うですねー。二人は湘南さんを取り合っているですねー。」
「兄ちゃんの取り合い?それはそれは、兄ちゃんも、隅に置けないねー。」
「由香、さすがにそれはないと思う。」
「はい、三佐の言われる通りです。僕の取り合いという話はナンシーさんが面白がって言っているだけです。」
「まあ、見ていれば分かるですねー。」
ボイストレーニングを始めて1時間ぐらいが過ぎて久美とミサが出てきた。
「美香、クラッシックなんかに負けるんじゃないわよ。」
「はい、全力を尽くします。」
それを見た明日夏とアイシャが部屋から出てきた。ミサが尋ねる。
「明日夏、何、アイシャの味方なの?」
「味方するとかじゃないよ。マー君が、ミサちゃんにはカラオケがあるから平等を期すためって。」
「それもそうね。分かった。」
「でも、ミサちゃん、ミサちゃんも全力を出さないと勝てないかもしれないよ。」
「うん、そのつもり。」
「誠君、電子ピアノを広い部屋に運ぼう。手伝って。」
「分かりました。」
「何だ、悟も向こうの味方か?」
「違うって。僕だってロックバンドのベースをやっていたんだから味方とかそう言うのじゃないよ。勝負なんだから、平等を期すためだって。」
「なるほど。それはそうだな。」
全員が広い方の練習室に入った。
「どっちが先?」
「美香、先にガツンと行ってやれ。」
「分かりました、久美先輩。」
悟がアイシャに尋ねる。
「アイシャさんもそれでいい?」
「はい、構いません。」
ミサが『FLY!FLY!FLY!』を全力で歌った。久美は「さすが私の弟子だ。」と思い、誠や悟も「今日は気合が入っている。」と思っていた。初めてロックの生歌を近くで聴いたアイシャも驚いていた。
「すごい迫力。これがプロのロックシンガーの歌なの。声が心にガンガン入って、気持ちが歌い手と同化してくる。」
ミサが歌い終わった。ミサも「今ので全力は出せた。」と思っていた。
次にアイシャがヴァイオリンを構え、明日夏の電子ピアノの音に合わせて調弦した後、アイコンタクトして演奏を始めた。久美は「音程が正確でミスがない。やっぱり真理子さんの姪か。」と思い、誠や悟も「すごい集中して弾いている。」と思っていた。初めてヴァイオリンの生演奏を近くで聴いたミサが驚いていた。
「すごく優しくて、音が心に染み入ってくる感じ。それなのに、だんだんと気分が高揚して気持ちよくなってくる。」
アイシャの演奏が終わったところで、悟がまとめる。
「二人ともすごい歌と演奏だった。みんなも分かったと思うけど、それぞれの分野で若手としては頂点にいるんじゃないかと思う。両方とももっと聴きたいし、優劣を付けるのは無理だと思う。誠君、引き分けでいいかな。」
「はい、僕もそう思います。」
「ミサちゃんはアイシャちゃんの、アイシャちゃんはミサちゃんのすごさが分かったんじゃないかと思うけど違うかな?」
ミサとアイシャが言う。
「違わない。」
「社長さんの言う通りです。」
「それじゃあ、引き分けでいいよね。」
ミサとアイシャが首を縦に振った。
「有難う。僕も素晴らしい歌と演奏が聴けて、今日は本当にいい日になった。」
「僕もです。」
「それじゃあ、尚ちゃんが来るのにもう少し時間がかかるみたいだし、ケーキを買ってきたからみんなで食べよう。」
明日夏が言う。
「由香ちゃん、亜美ちゃん、紅茶を入れようか。」
「了解。」「了解です。」
久美が話し出す。
「しかし、アイシャは真理子先輩の姪だけあって背が高いな。」
「身長は175センチメートルで、学校ではいつも一番後ろでした。でも、もしかすると、橘さんの名前は橘久美さんで、1年間だけ真理子さんと同じ合唱部に居た方ですか?」
「そうだけど、真理子先輩からいろいろ話を聞いているわけか。」
「えーと、二人で写った写真も持っています。・・・・・これです。」
アイシャが写真を見せる。全員が笑い出す。
「私が高校1年生の時の写真か・・・。」
「不良と、それを更正させようとしている先輩という感じだな。」
「社長、橘さんは大学ではもう少しまともだったんですか。」
「おい、少年、調子に乗るな。」
「うん、これほどは酷くない。」
「悟も調子に乗らない。」
「しかし、橘さん、俺より全然すごかったんですね。」
「由香は普通だよ。美香や明日夏がおかしい。まあ、美香は最近私の教育の成果もあってまともになってきたが。」
「ちょっと、ミサさんの将来が心配になってきたぜ。」
「ロック歌手は私ぐらい真っすぐじゃないと心配なんだよ。」
悟が話を変え、アイシャに話しかける。
「誠君の話によると、アイシャさんは、音楽大学の受験の準備をするために東京に来たということですが。」
「あの社長さん、私もアイシャちゃんでお願いします。あと丁寧語でなくても大丈夫です。はい、1年以上先になりますが、芸大か東邦を受験するつもりです。」
「そうだと思った。アイシャちゃんのヴァイオリンの音、本当に優しい中にも芯の強さがある音で聴いていて心地よかった。」
「有難うございます。ソロヴァイオリニスト志望ですので、音作りには一番気を使っているところです。今日はヴァイオリンがよく鳴って良かったです。」
「ヴァイオリンは湿度で音が変わる繊細な楽器と言うからね。」
「はい、その通りです。」
「ところで、アイシャちゃんは、真理子さんの家に住んでいるの?」
「違います。真理子さんの家から歩いて5分ぐらいのところのワンルームマンションに一人で住んでいます。」
「安全面は、大丈夫?」
「マンションの入口も部屋の扉もオートロックですし、誠君の勧めで、一人暮らし用のセキュリティーサービスにも入りましたから大丈夫だと思います。」
「オートロックって鍵を失くすと締め出されちゃうんだよね。」
「明日夏さんは締め出されたことがあるんですか。」
「マー君、鋭い。お姉ちゃんもいなくて大変だった。」
「私は真理子さんの部屋と誠君に鍵を持ってもらっていますから大丈夫だと思います。」
「そうか、マー君に鍵を預けておけば良かったのか。」
「ちょっと待って。誠はアイシャの部屋の鍵を持っているの?」
「預かっていますが、あくまでも緊急時用です。」
「私も一人で住もうかな。」
「アメリカでは一人で住む予定ですか?」
「まだ、家は決めていないけど、ナンシーと一緒に住む予定。」
「大丈夫ですねー。湘南さんが来たら出ていくですねー。」
「いえ、僕が行くとしたら緊急時ですので居てください。」
「それじゃあ、アメリカで部屋を借りたら、誠に鍵を預けておくけれど、いい?」
「分かりました。あくまでも緊急用として預かります。」
「マー君は、ミサちゃんに呼ばれたらアメリカまで行くの?」
「はい、必要があれば。」
「それじゃあ、私の緊急時も来てくれる。」
「はい、それはもちろん。」
「薄着のまま外に出たら鍵を落としたとかでも。」
「はい、風邪をひきますので行きます。」
「それなら、私もマー君に鍵を預けておこう。」
「明日夏さんの場合は、事務所に預けた方が良いのではないでしょうか。」
「さすがに社長を馬鹿なことで呼び出すのは気が引ける。」
「分かりました。僕が持っています。」
「湘南さん、すごいですねー。女性の部屋の鍵を3つも持つですねー。」
「それは警備員さんが持っているのと同じで、緊急時以外は使いません。」
「でも、誠君、もし誠君が落ち込んだりしたら来てもいいよ。私が慰めてあげる。」
「私も。誠、落ち込んだら来て。ううん、こっちから行くよ。」
「アイシャのヴァイオリンの演奏、真理子先輩と違って色気があると思ったけど、やっぱり真理子先輩とは性格が違うのか。」
「橘さん、マリさんは20歳の時に今の旦那さんに一目ぼれして、子供ができて結婚したと言うことですから、素質はあったんじゃないですか。」
「そうか。亜美の言う通りだわ。」
明日夏がアイシャのそばで鼻から息を吸う。
「しかし、ミサちゃんがマー君の匂いで分かったって、私には全然分からないな。」
「明日夏、匂いというか香りだよ。」
「私にも全然わからない。」
「アイシャちゃんもそうなのか。ミサちゃん、今でもするの?マー君の匂い。」
「ここだと誠から直接だけど。」
「僕のお風呂での洗い方が足りないのでしょうか。」
「マー君、心配する必要はないよ。たぶんミサちゃんだけの特殊能力だから。」
アイシャが提案する。
「でももし心配なら、私が徹君といっしょに誠君も洗ってあげようか。」
「・・・・・。」「ちょっと待って。」「ちょっと待ってください。」
ミサと亜美が同時に話を止める。
「誠とお風呂に一緒に入るということ?」
「アイシャさんは徹君とお風呂に一緒に入っているんですか?」
「徹君は二日に1回お風呂に入れる約束だし、誠君はもう私の全裸を見ちゃったわけだから構わないでしょう。」
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、二日に1回徹君をお風呂に入れている!」
「ぜっ、ぜっ、ぜっ、ぜっ、全裸を誠が見た。」
「あと、徹君とは一緒に食器洗いもしているかな。」
「徹君と一緒に食器洗いを!そっ、そっ、そっ、そっ、そんな新婚夫婦みたいな。」
「新婚夫婦?徹君と?」
「亜美ちゃん、落ち着いて。アイシャちゃんはそっちじゃないから。単に姉が弟をお風呂に入れたり、一緒に家事を手伝っているようなものだと思うよ。」
「姉が弟をお風呂に入れる!」
「だから亜美ちゃん、変な妄想はしない。」
「徹君のことはどうでもいいけど。誠がアイシャのぜっ、全裸を見たというのは?」
「ミサさん、徹君のことも、どうでも良いということはないです。」
「話がごっちゃになるから、亜美ちゃんはその話は後で。」
「明日夏さん、分かりました。」
「私が裸で寝ているのを忘れていて、急に起きちゃったところに誠君が居合わせていただけなんだけど。」
「そうなんです。その場にマリさんもユミちゃんも居ましたので、疑うならばマリさんに聞いてみて下さい。単なる事故です。」
「湘南さん、ラッキーアクシデントですねー。」
「ラッキーと言えばそうなのかもしれませんが、事故です。」
「誠、悪いけど、今度、私を起こしに来て。」
「えーと、緊急の場合には行きます。」
「分かった。」
久美と悟が感想を話す。
「北の人はその方が暖かいから裸で寝るというけど、本当だったんだ。」
「東京の家は北海道に比べて寒いとも言うけど大丈夫だったかな?」
「はい、問題ありませんでした。」
「あの、明日夏さん、アイシャさんの全裸の話は終わったようですので、話を戻してもいいですか?」
「戻さない方がいい気もするけど。」
「亜美さん、話を戻すって?」
「徹君の話です。」
「徹君の話?徹君、本当にいい子よね。洗ったお皿の水を布巾で拭うところなんて、とっても可愛いわよ。」
「そっ、それはそうでしょうけれど、まずはお風呂の話から。」
「えーと、夕食を真理子さんの家でごちそうになっていて、その代わりに、美咲ちゃんと交代で真理子さんの夕食を作る手伝をする、徹君をお風呂に入れる、あと、美咲ちゃんとおじさんのペア、徹君と私のペアが交代で食器洗いをする約束なんだけど、それが何か?」
「マリさんとそんな羨ましい約束を!」
「亜美ちゃん、アイシャちゃんは徹君のいとこなんだから、別におかしいことじゃないと思うよ。だから亜美ちゃん、落ち着こう。」
「明日夏さん、こっ、これが落ち着いていられますか。」
「亜美さんが徹君のことを心配しているならば大丈夫。私は実家で小さい時から弟をお風呂に入れていたから。」
「でも。」
「あの、もし亜美さんが心配ならば、どちらがお風呂に上手に入れられるか、誠君で勝負をしてみますか?」
「何で僕?」
「誠君、そんな勝負に、幼い徹君を使うわけにはいかないじゃない。」
「それは正しいとは思いますが。」
「だから誠君になる。」
「えーと。」
「私は二尉をお風呂に入れて洗うのはちょっと無理です。」
「それじゃあ、亜美、代わりに私がやる。」
「ミサちゃんも、またハイになっているよ。」
「でも、ここで負けるわけには。」
悟が止める。
「ミサちゃんは芸能人だし、アイシャちゃんもソロヴァイオリニストになりたいなら、そういうことを言うのは控えないと。噂が広がるとあまり良いことがないよ。」
「そうでした。東京に来て、ソロヴァイオリニストになるためには、我慢しなくてはいけないこともあると心に決めたところでした。」
「うん、うん、アイシャちゃん、その通りだと思う。」
「それじゃあ、美香、後で二人で話そう。」
「分かった。」
「・・・・・・。」「・・・・・・。」
音楽の話に戻そうと、悟が話を変える。
「そう言えば、アイシャちゃん、さっきミサちゃんが歌っていた曲の伴奏を弾ける?」
「耳コピの即興でいいなら、何とかなるとは思います。弾きましょうか?」
「うん、お願い。」
「分かりました。」
アイシャがヴァイオリンを弾き始める。誠は「とりあえず助かったけど、アイシャさん、一度聴いただけでここまで弾けるのはすごいな。」と思いながら聴いていた。アイシャの演奏が終わると、悟とミサが感想を述べる。
「やっぱり、アイシャちゃんすごい。即興でここまで弾けるのは。」
「まあ、そうね。さすが誠が認めるだけのことはあるとは思う。」
「アイシャちゃん、オーケストラでも弾くんだろうけど、バックバンドとしてステージの上で弾いてみようとは思わない?受験の邪魔にならないようにするけど。」
「はい、ステージ度胸を付けるのには良いとは思います。」
「ステージ度胸なら今でも社長や『すっカーズ』のメンバーよりありそうだけれど。」
「それは明日夏ちゃんの言う通りだけど、いい経験になると思う。」
「はい、もし良いお話があるようでしたら。」
「それなら、うちと専属契約をしない?仕事は僕が探してくる。専属契約だから、お金を貰う仕事はうちを通さないといけないんだけど。」
「誠君、どう思う?」
「平田社長ならば、絶対に無理を言うことはないので、ちょうどいいというか、チャンスだとは思います。」
「分かりました。両親とも相談しなくてはいけないですが、私としては是非お願いしたいと思います。」
「両親は北海道だっけ?契約書は北海道まで送る?」
「ちょうど明日、両親が東京に様子を見に来るのですが。」
「分かった。その時までに契約書は用意する。」
「分かりました。両親を連れてここへ来ます。」
「明日夏ちゃんはいい?」
「社長が決めることですし、実力的には問題ないと思います。」
「へー、明日夏がパラダイス興行に所属するのに実力の話をするようになったか。」
「橘さん、これを見て下さい。」
「おっ、合唱部の集合写真か。懐かしいな。アイシャから貰ったの?」
「はい、さっき送ってもらいました。」
「まあ、悟、私もいいと思うよ。どう組み合わせるかは考えないといけないけど。」
「由香ちゃんと亜美ちゃんは?」
「俺は社長の決定に文句を挟むつもりはない。」
「うーん、時々徹君に会わせてくれるなら。」
「徹君をお風呂に入れるとか、徹君といっしょに洗い物をするのを代わってくれるなら、大歓迎だけど。」
「望むところです。片方とは言わず両方任せて下さい。」
「アイシャちゃん、それは止めた方がいい。」
「明日夏さん、余計なことは言わないで下さい。大丈夫です。」
「亜美ちゃん、小さい時からずうっと一緒にいると、徹君から本当の親戚のように思われてしまうかもしれないよ。」
「それもそうか。うーん、細かいことは後で考えることにして、とりあえず契約に関しては大丈夫です。」
「後は、尚ちゃんか。」
「尚ちゃんは、社長とマー君がいいと言ったから大丈夫だと思います。」
「それじゃあ、話を進めようか。」
「はい。」
ナンシーが悟に話しかける。
「この間ですねー。うちの事務所のプロデューサーたちが、パラダイス興行の社長は変わった女性が好みなんじゃないかと話していたんですねー。」
「変わっている女性が好きなんじゃなくて、実力を重視しているだけだよ。」
「ナンシー、変わっている人の中に一応名誉社員の私も入っているの?」
「ミサも、溝口エイジェンシーの中ではすごく変わった人ですねー。うちの事務所の社員で社長の言うことを断るのはミサだけですねー。」
「なるほど、そうなのか。」
「まあ、普通の事務所はレッドちゃんみたいな人をスカウトするんでしょうね。」
「明日夏ちゃん、レッドちゃんはうちのような小さな事務所には来てくれないよ。」
「社長、パラダイス興行のみなさんは、能力がすごく高くても変わっていて残っていたからスカウトできたということですか。」
「誠君、そういう言い方をするとみんなが怖いよ。」
全員が誠を怖い目で見ていた。
「そうでした。えーと、みなさんは、社長さんのプロデューサーとしての能力が高いことを感じ取ることができたから、それに惹かれてこんなに素晴らしいみなさんがパラダイス興行に所属しているんですね。」
「マー君、もう遅い。」
「お兄ちゃん、遅いぜ。」
「私は二尉が最初に言った方が合っていると思うけど。」
「私もクラシック好きの変わり者と言われてきたかな。」
「私も引きこもりだったから。」
「でも、これだけのメンバーをまとめられるのは社長の人徳だと思います。」
「まあ、それはマー君の言う通りかな。」
「それは納得だな。」
「私も、社長はすごく頑張っていると思います。」
「さっきから皆さんの話を聞いていると、そんな感じですね。」
「誠の言うことが正しいと思う。」
「悟、良かったわね。若い子に褒められて。」
「でも、社長の人徳は、橘さんで鍛えられたのかもしれません。」
「おい、こら、少年。言いたいことをいいやがって。」
「でも、橘さん、マー君が正しそうですよ。」
「ですから、パラダイス興行がうまくいくのは、全て橘さんのおかげということです。」
「少年、ごまかすのがうまくなったな。」
部屋が笑い声で満たされた。
ちょうどその時、事務所の扉が開いて尚美とハートレッドが入ってきた。
「こんにちは。申し訳ありません、『ハートリンクス』のPVの撮影が伸びて遅れてしまいました。」
「こんにちは。家が青山で近いので、プロデューサーに付いてきちゃいました。」
尚美が誠がいるのに気が付いた。
「あれ、お兄ちゃん、何でここに。」
「後で説明するよ。」
「分かった。でも、皆さん何か楽しそうでしたね。」
「尚ちゃん、この写真を見て。」
明日夏が久美の高校1年生のときの写真を見せる。
「これは橘さん!」
「そう、高校1年生のときの。」
「なるほど、みなさんこの写真で笑っていたんですね。」
「尚ちゃん、その前はいろいろ大変だったんだけど、とりあえず紹介するね。パラダイス興行の一員になる予定の藤崎アイシャちゃん、ヴァイオリンが必要な時にバンドに加わる。」
「マリさんの姪の方ですね。ヴァイオリンがすごい上手なんですか?」
「それは大丈夫。太鼓判を押せる。」
「社長がそこまで言うなら、バンドのことですし私がどうこう言うことではないと思います。私の名前は岩田尚美、芸名を星野なおみと言ってアイドルユニット『トリプレット』のリーダーをしています。よろしくお願いします。」
「岩田という苗字からすると、誠君のお姉さん?」
「いえ、妹です。」
「ごめんなさい。パラダイス興行の人の中で一番話し方がしっかりしているから、外見と違ってお姉さんかなと思っちゃった。」
「今、中学2年生です。」
「うん、そう言われれば中学2年生に見える。私は高校2年生の藤崎アイシャ。来年、芸大か東邦のヴァイオリン科を受験する予定で、その準備のために1月4日に東京へ来たんだけど。あの、社長、ここでヴァイオリンを弾いたらスカウトされたと言って構いませんか。」
「うん、それで大丈夫。」
「有難うございます。尚美さん、私ができることなら何でもするから、これから、よろしくお願いね。」
「有難うございます。パラダイス興行にまともな人が増えて良かったです。」
「尚ちゃん、それは甘い。」
「明日夏さん、そうなんですか?」
「ナンシーちゃんによると、溝口エイジェンシーの中では、パラダイス興行の女性タレントが変な人ばかりなのは、パラダイス興行の社長が変な女好きだからじゃないかということになっているらしいよ。」
「そう言えば、プロデューサー、今井プロデューサーもそう言っていました。」
「ということは、私もということですね。」
「プロデューサー、うちの事務所のタレントで、いきなり溝口社長に電話をかけて直談判できる人はいないです。」
「そう言われるとレッドさんのいう通りかもしれません。」
「レッドさんって、この方がハートレッドさん?」
「美香先輩、その通りです。」
ハートレッドが「事務所では何回も会っているのに。」と思いながら返事をする。
「こんにちは、大河内さん。もうすぐユニット名が『ハートリンクス』に変わりますが、同じ事務所のハートレッドです。」
「ふーん。」
「はい!?」
「ごめんなさい。初めまして。これからはよろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
一段落したところで、悟が練習を始めるように促す。
「おしゃべりはここまで。みんな、練習を初めて!」
「はーい。」
「美香先輩、レッドさんもいっしょに練習に加わって構いませんか?」
「レッドはうちの事務所の所属だし、自主練習だから全然構わない。」
「有難うございます。レッドさん、それではいっしょに練習しましょう。」
「有難うございます。よろしくお願いします。」
誠、悟、アイシャを残して、全員が練習室に入っていった。
「それで、アイシャちゃん。尚ちゃんには誠君に関してさっきのような話はしない方がいいので注意して。」
「はい。尚美さんからすると、誠君は大事なお兄さんということは分かります。4回ひっぱたいたなんてことは絶対に秘密にします。」
「4回ひっぱたいた!それはまた何で?」
「3回は女子高生や女子小学生を騙して地下アイドルをやらせて儲けている悪い人と思ったからで、最後の1回は私の全裸を見たからです。でも、全部私の勘違いか私のミスです。」
「はい、アイシャさんは正義感が強い方だと思います。」
悟が誠に同情するような目で見た後、アイシャに注意する。
「そうなんだね。でも、プロの演奏者になりたいなら、暴力は絶対にダメだからね。それは分かる必要があると思う。」
「有難うございます。はい、そのときに、絶対に暴力はふるわないと誠君、真理子さん、美咲ちゃんの前で誓いました。」
「そうか。偉いね。」
「多少例外もありますが。」
「例外って?」
誠が答える。
「正当防衛とかの場合です。」
「そっ、そうね。」
「それは仕方がないかな。久美もキックボクシングを習っているし。」
「へー、そうなんですね。私もやろうかな、キックボクシング。」
「アイシャさんは受験が終わってからの方がいいです。」
「それは誠君の言う通り。それじゃあ、受験が終わったらやってみようかな。」
「・・・・・・。」
「とりあえず、誠君、作曲を再開しようか?」
「分かりました。」
「作曲なら、私もピアノでお手伝します。」
「アイシャちゃんは、ピアノも弾けるんだ。」
「クラシックの楽器をやっている人は、ピアノはある程度弾ける場合が多いです。」
「そう言えばそうだね。それじゃあお願い。」
明日夏やミサたちとは別の練習室に3人が入って、『わたしといっしょにイイことしよう』の作曲を始めた。
明日夏たちの練習が終わって練習室から出てくると、誠たちも練習室から出てきた。
「みんな、お疲れ様。」
「悟は何やっていたの?ベースまで持ち出して。」
「3人で『わたしといっしょにイイことしよう』の作曲をしていたところ。」
「社長とアイシャさんは即興で音楽にすることができるので、簡単にメロディーを試すことができて良かったです。」
「音の種類の豊富さじゃコンピュータに負けるけどね。でも、アイシャちゃん、音楽大学を受験するだけあって、音楽の理論の知識も豊富で、作曲への意見も適切だった。」
「平田社長のお役に立てれば嬉しいです。私も実際に作曲するところを見たことがなかったので、楽しかったです。」
「悟、パラダイス興行に有力メンバーが加入したということね。」
「そうだと思うよ。」
「でも、今年はアイシャさんは夢に向かって受験を頑張らないとです。」
「マー君らしい一言。」
「誠君、分かっている。」
「有難うございます。」
ミ
サが誠に尋ねる。
「誠、私も音楽理論を勉強しなくちゃかな?」
「時間があったら勉強したほうがいいことは間違いないですが、今は全米デビューに集中した方がいいかもしれないとも思います。社長、橘さん、ナンシーさん、どう思いますか。」
「美香、心配いらない。ロックはハートがあればいい。」
「美香の体があれば心配いらないですねー。」
悟が本を取り出しながら言う。
「とりあえずこの本を読んでみるといいと思う。でも、面白くなかったら無理に読まなくてもいいとは思うけど。」
「その本、僕も読みました。」
「誠も読んだんだ。分かった。私も読んでみる。」
ハートレッドがアイシャに話しかける。
「私はもうすぐ共通テストだから、帰ったら勉強しなくちゃ。でも、アイシャさん、音楽大学も共通テストは受けないといけないの?」
「芸大は国立だから、受けないといけない。憂鬱よね。レッドさんはどこの大学を受けるんですか?」
「第一志望は青山学院の文学部。次は法政の文学部。青山学院は家から歩いて10分ぐらいだから受かればいいんだけど。」
「芸能活動するなら便利なところですね。」
尚美がハートレッドに尋ねる。
「レッドさん、大学を受験するんですね。」
「プロデューサー、いけませんでしょうか?」
「そんなことは絶対にありません。そんなことを言ったら日本国憲法に違反します。」
「日本国憲法ですか。でも、分かってもらえて嬉しいです。」
「ただスケジュールを考えないといけないと思っただけです。」
明日夏が尚美に話しかける。
「尚ちゃん、尚ちゃんが総理大臣になったら、レッドちゃんを官房長官にしてマスコミ対策をさせようと考えているでしょう。」
「明日夏先輩、レッドさんの柔らかな雰囲気はスポークスマン向けとは思いますが、さすがにまだそこまでは。」
「分かりました。もし私で良ければお手伝いしますので、その時は言って下さい。」
「有難うございます。そうですね、まだまだ先の話ですが、その節にはお願いするかもしれません。」
「でも、レッド、それより前に大学受験で分からないことがあったらリーダーに聞くといいぜ。」
「由香さん、大学受験の問題をプロデューサーに?」
「レッドさん、それは本当です。私も高校の英語と国語をリーダーに見てもらっています。」
「数学なら兄ちゃんだ。」
「えー、由香さんも亜美もそうなの?」
「絶対に間違いないぜ。」
「レッドさん、もし私で分かることがあれば答えますので、聞いて下さい。」
「それじゃあ、いくつか聞いていいですか?」
ハートレッドが問題集を取り出す。
「問題集を持ってきているんですね。それでは始めましょう。」
初めは尚美と誠がハートレッドに説明していたが、亜美とアイシャ、続いて明日夏とミサが加わって説明を聞いていた。1時間半ぐらいでお開きになった。
「やっぱり、マー君と尚ちゃんの組み合わせは最強だねー。」
「プロデューサー、お兄さん、有難うございます。みなさんの言う通りです。家で家庭教師も付けてもらっているのですが、二人の方がよく理解しているという感じでした。」
「だろうな。」
「由香さん、『トリプレット』の秘密が分かった気がしました。」
「分かられてしまったか。」
「最初、由香は分からなかったくせに。」
「そう言えば、亜美は最初っから分かっていたよな。」
「さすがでしょう。」
「まあな。」
明日夏がミサに尋ねる。
「ミサちゃんはこの問題できそう?」
「問題は解けそうだけど、あまりよく分かっていない。」
「私は問題も解けないし、あまりよく分かっていない。」
「でも、選択式なら当たるんですよね。明日夏先輩の場合。」
「尚ちゃん、酷い。」
「久しぶりに聞いたぜ、そのセリフ。」
部屋に笑い声が響き、この日はそれで解散となった。
誠、尚美は、アイシャを送るために田園都市線を使い中央林間から小田急線に乗り藤沢を経由して帰ることにした。
「誠君、今日は有難う。すごく楽しかった。尚美さんも、お兄さんが誠君みたいな素敵な人で良かったわね。」
「有難うございます。私にはヴァイオリンのことはあまりよく分かりませんが、平田社長さんに一度の演奏で認められたということは、アイシャさんも、すごい実力の持ち主と考えて間違いありません。」
「有難う。どんな仕事が社長からくるか分からないけど頑張るね。」
「確認ですが、アイシャさんは本当にうちの兄を素敵って思うんですか。」
「お世辞のつもりはなかったけど。何、妹から見ると誠君はどんな人なの?」
「少しだけ頼りないというか。そんな酷いわけではないんですが。」
「私はそんなことはないと思うけどな。誠君はしっかりとした自分の考えを持っていて、きちんと行動していると思うよ。」
「でも、兄はハートレッドさんの押しには弱いです。」
「ハートレッドさん、確かに男性にもてそうよね。ねえ誠君、誠君はハートレッドさんみたいな人が好みなの?」
「プロのタレントの皆さんは素晴らしい方々ばかりなのですが、ハートレッドさんやアキさんの場合は何となく言い返しにくい感じでしょうか。」
「アキさんというのは、美咲ちゃんといっしょにやっている地下アイドルの子?。」
「はい、その通りです。」
「そう言えば、お兄ちゃん、明日夏先輩や美香先輩にははっきり言うからね。」
「明日夏さんや美香さんの場合は、二人のために言わないといけない気がして。でも、ハートレッドさんに言い返しにくいのは平田社長も同じでした。」
「平田社長さんも。本当に?」
尚美が答える。
「それは本当だったみたいです。」
「私も女子力がないと言われるけど、その違いかな。レッドさんはアイドルのリーダーという話だから、アイドルをやっているときはもっとすごいのかな?」
「レッドさんは、明日の20時からの『ミュージックキス』というテレビの歌番組で、『ハートリンクス』のリーダーとして私たちの後に出てきますので、そこで見ることはできます。」
「私たちというのは『トリプレット』のこと?」
「その通りです。私の他に由香先輩と亜美先輩の3人からなるユニットです。」
「亜美さんもアイドルなんだ。小さな子の面倒見るのが好きそうで、真理子さんの家の徹君に興味がありそうだった。私と違って母性本能が強めなのかも。」
誠が徹の話を無視して答える。
「亜美さんは歌がすごく上手ということでスカウトされて、歌手になるためにアイドルをやっています。亜美さんの歌は、配信サイトで『亜美の歌ってみたチャンネル』を検索すれば聴くことができます。」
「誠君、有難う。そうすると尚美さんはリーダー向きだからスカウトされたとか?」
尚美が答える。
「はい、その通りだと思います。」
「確かに大学受験を教えられる中学生というのはすごいわよね。あっ、もう宮前平駅か。電車を降りなくちゃ。それじゃあ、誠君、またね。尚美さん、これからよろしくね。」
「はい、またよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
アイシャは宮前平駅で降りて自分のワンルームマンションに向かった。尚美は、
「アイシャさん、美香先輩ほどじゃないけど、お兄ちゃんのことを本当に素敵な男性と思っているようだった。分かる人には分かるということなのかな。」
と考えながら誠に尋ねた。
「お兄ちゃん、アイシャさんのことはどう思う?」
「すごく一生懸命にヴァイオリンに取り組んでいる人だと思う。毎日5~6時間練習していると言っていたけど、演奏を聞けばそのことは分かると思う。」
「私には分からないかもしれないけど、社長も感心していたからたぶんそうだと思う。」
「反対に、クラシック以外のことはあまり知らないかもしれない。」
「美香先輩のロックみたいなものか。」
「そうだね。完全に仲良くなったというわけではないけど、お互いの実力を認めあったみたいで良かった。」
「うん、そんな感じだったね。お兄ちゃんは、美香先輩とアイシャさん、どっちがいい?」
「ロックとヴァイオリンで比較するのは難しいけど、二人ともそれぞれの道でとても高いレベルにいることは間違いないとは思う。」
「それはそうだけど。」
「僕はできる応援をするという感じかな。」
「今はそれがいいのかもね。」
「有難う。」
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