第40話 スキースキー(前編)
スキー場に向かう、明日夏、ミサ、尚美、亜美がパラダイス興行にそろった。
「レンタルしたバスはあと5分で来るって。来たら蔵王に出発!」
尚美がミサの2つのスーツケースを見て尋ねる。
「美香先輩、かなりの大荷物ですね。」
「2日も休んでしまうから、申し訳ないんだけど、明日の夜にアメリカのレストランでのショーの練習をしようと思って。」
「美香先輩のディナーショーですか。」
「ううん。私はアメリカでそんな知名度はないから、単にレストランで歌うの。夜に歌えばディナーショーだけど、私のディナーショーじゃないかな。ナンシーやアメリカでのスタッフが考えてくれているんだ。」
「大丈夫なんですか。」
「ちゃんとしたレストランということだよ。事務所でも確認してくれている。」
「それなら大丈夫ですね。でも、美香先輩が普通のレストランで歌わないといけないというのは、アメリカでの競争は本当に厳しいんでしょうね。」
「初めからそのつもりだから大丈夫。ショーの時間は1回1時間で、1日3回ぐらいはするみたい。」
「分かりました。喜んで協力します。明日夏先輩も、亜美先輩もいいですよね。」
「もちろん。」
「練習でもミサさんのショー、すごく楽しみです。」
「みんな大丈夫みたいです。」
「有難う。それで、尚、お客さんの役は多い方がいいので、同じスキー場に行くって言ってた誠とその友達の方々を呼ぼうと思うんだけど。」
「えーと。どうしましょうか。」
「演者とお客さんの敷居はちゃんと守るようにするから。」
「リーダー、私は全員知り合いだから大丈夫です。リーダーから二尉にお客として来るように伝えれば大丈夫じゃないんでしょうか。それを破るような人たちではないですよ。」
「それはそうですか。」
「私もパスカルさん、コッコさんとアキさんとやらは知っているからいいけど。」
「明日夏先輩と亜美先輩は大丈夫ということのようですね。」
「尚、夕食もこっちで用意するから。それも誠に伝えて。」
「分かりました。」
久美が尋ねる。
「それにしてもその大荷物、Tシャツ、Gパンだけじゃないということ。」
「はい。イブニングドレスや袴なんかを持っていきます。途中で着替えて反応をみようと思って。」
「美香の成長、師匠として嬉しいぞ。」
「でも、ミサちゃん、イブニングドレスって背中が大きく開いているやつ。」
「うん、そうだよ。アメリカで活動するなら、そのぐらいは覚悟しないと。」
「袴の着付けは?」
「別荘の管理人の人ができるみたい。母が確認してくれた。」
「そうなんだ。ミサちゃんのお母さんもアメリカでの活動を応援しているんだ。」
「お母さんはね。お父さんは心配しているみたいだけど。」
「社長はどう思いますか?」
「明日夏ちゃん、誠君たちなら全然大丈夫だと思うよ。テーブルを分ければ、明日夏ちゃんの方に来たりはしないよ。練習のためのお客さんとしては、最適なんじゃないかな。」
「それはそうでしょうけど。」
「分かりました。社長がそうおっしゃるなら、兄たちに連絡してみます。」
待合室で夜行バスを待っている誠の尚美専用のスマフォの呼び出し音が鳴った。誠が電話を取ると、いの一番に尚美の状況を確認した。
「尚?大丈夫?」
「うん、大丈夫。今から出発するところ。」
「そうか良かった。とすると、何か用事?」
「その通り。明日の夕方に、ミサさんがアメリカでのレストランのショーの練習をする予定なんだけど。」
「2日休むから、時間を無駄にしたくないんだろうね。」
「その通りなんだけど、練習の時にお客さんがいた方がいいということで、お兄ちゃんたちにお客の役をお願いしたいんだけど。」
「もちろん僕はいいけど、パスカルさんたちもだよね。」
「その通り。」
「何をすればいいの?」
「レストランのお客さんとしてふるまってくれればいいから。特典は食事が無料で食べられることぐらい。」
「あとは、美香さんの歌が無料で聴けるということ。」
「練習だからどうなるかわからないけど、聴けると思う。」
「それもみんなに伝える。」
「でも、絶対、美香先輩や明日夏先輩に馴れ馴れしくしちゃダメだよ。」
「それは分かっている。このメンバーなら絶対に大丈夫。秘密は絶対守ると思う。」
「私もそうだとは思う。」
「それより、今の話だと明日夏さんもいるの?」
「うん、明日夏先輩も別のテーブルでお客さんの役をすると思うけど。それが何か?」
「問題が起きるとすれば、コッコさんがスケッチをすることと、明日夏さんがわざと美香さんを笑わせようとする厄介な客になることぐらいかな。」
「席からスケッチすることは大丈夫みたい。そういうお客さんもいるかもしれないし。明日夏先輩がわざと厄介な客になることは盲点だった。明日夏先輩には注意しておく。それじゃあ、詳しいことは連絡するけど、18時ぐらいからになると思う。」
「了解。こちらも皆に確認してみる。」
「有難う。」
アキが尋ねる。
「妹子から?」
「その通りです。申し訳ありませんが、皆さんちょっと集まって下さい。」
「何だ、湘南。」
「妹が、明日夏さん、大河内さん、亜美さんといっしょに、今日から蔵王にスキーやスノボをしに行くのですが。」
「そういえば、ミサちゃんが今晩からスキーと言っていたが、湘南、同じスキー場か?」
「はい、その通りです。」
「湘南君、それはすごいことだよ。ミサちゃんたちと、同じスキー場なんだ。」
「それで、湘南が言いたいことは、もしスキー場で見つけても気付かないふりをするということだな。」
「はい、それはもちろんお願いしたいのですが、それとは別に、大河内さんがアメリカのレストランでのショーの練習をしたいので、そのお客さんの役をしてくれないかとのことです。デビューまで日がないので、スキー場でも練習するみたいです。」
「ミサちゃんの歌が聴けるということか?」
「練習ということですので、途中で中断することもあるかもしれませんが、聴けます。あと、夕食もごちそうしていただけるそうです。」
「それは絶対に行くけど、世の中にそんなおいしい話があるのか。」
「パスカル君、それは湘南君のおかげだとは思う。」
「そうだよな。湘南、感謝する。」
「それはいいですが、あくまでもお客さんの役で、演者のみなさんとは一線を画すようにして下さい。」
「それは分かっている。」
「スケッチぐらいはいいか。」
「席から大人しくスケッチするならば構わないそうです。ただ、日時、場所、状況は秘密にするようにお願いします。」
「了解。」
明日夏たちはミサがチャーターしたバスに乗り込んでいた。
「おー、肩こりに効きそうなバスだねー。」
「明日夏、後ろの方が広いから?」
「美香先輩、そうじゃなくて、明日夏先輩はサロンパスと言いたかっただけだと思います。」
「なるほど、サロンバスじゃなくてサロンパスね。さすが明日夏。」
「明日夏先輩は、サロンパスなんて使うんですか?」
「ミサちゃんと遊んだ後には。今日も持ってきた。」
「明日夏さん、さすがです。そういえば、春の山と夏の海から帰ってから筋肉痛が酷かったでした。秋の鍋パーティーは大丈夫でしたけど。」
「でしょう。スキーも大変そうだから、亜美ちゃんにも分けてあげるよ。」
「有難うございます。」
「ミサちゃんは筋肉痛にならないの?」
「えーと、もちろんなるよ。脚をぶつけたときとか。」
「なるほど。」
その時、尚のスマフォに誠から連絡があった。
「レストランでのショーのお客の件、5人全員大丈夫だそうです。」
「本当に!良かった。」
「それで、一番厄介なお客さんになりそうなのは明日夏先輩だろうということで、美香先輩を笑わせることは自重して欲しいとのことです。」
「何それ。マー君から?」
「はい。」
「まあ、今、ミサちゃんをどうやって笑わすか考えていたから、外れてはいないけど。」
「・・・・・。」
「だって、厄介なお客さんがいたときに連れ出されるシミュレーションもしていた方がいいかなと思って。」
「誰が連れ出すんですか。」
「そういう時は、尚ちゃんとマー君じゃないかな。」
「そうかもしれませんが。今回は不要です。明日夏先輩のファンもいるのですから、変なところを見せないで下さい。」
「そう言えばそうだね。笑わすのは次の機会にするよ。」
「次の機会でも不要です。お願いします。」
ミサが次の話題に変える。
「話がまとまったところで、明日夏の誕生パーティーをしよう。」
「有難う。嬉しい。でも何でみんな私の誕生日を知っていたの?」
「私が社長に聞いていたからです。」
「そうなんだ。でも、由香ちゃんと亜美ちゃんの誕生パーティーはどうしたの?トリプレットの3人だけでやったの?呼んでくれれば行ったのに。」
「尚、それは私も。」
「由香先輩と亜美先輩の誕生日は、邪魔するといけませんので、こちらでは開催しませんでした。」
「そうか。でも、由香ちゃんは分かるけど、亜美ちゃんも?」
「明日夏さん、私は輝三と直人に祝ってもらいました。」
亜美がそのときの写真を見せる。写真には、デスプレイに『プラズマイレブン』の輝三と『タイピング』の直人が映っている様子と、3つに切り分けた小さなケーキが置いてある様子が写っていた。
「なるほど。」
「明日夏さんは、直人たちに祝ってもらわないんですか?」
「去年は姉の部屋で、二人でショートケーキを食べた。」
「明日夏先輩、思ったより普通の祝い方ですね。」
「でも、明日夏さん、そんなことでいいんですか。」
「亜美ちゃんこそ、家族の方は大丈夫なの?」
「はい、中学の時から、そうしていますし。」
「なるほど。」
「そう言えば、明日夏さんのお姉さんが明日夏さんのワンマンライブにいらしたとき、関係者席までご案内しました。」
「うん、それは姉から聞いている。亜美ちゃん、有難う。うちの姉、ミサちゃんのワンマンライブにも来ていたんだよ。」
「そうなんだ。私のワンマンライブに来たのは明日夏を見るためだろうけど、お礼を言いたいから、一度明日夏のお姉さんに会ってみたい。」
「うちの姉、あんまりちゃんとした人じゃないんだけど、それで良ければ。」
「明日夏さんが言うちゃんとしていない人というのは、どんな人なんでしょう。」
「亜美先輩、すごくちゃんとした人かもしれませんよ。」
「それはそうですね。」
「尚ちゃん、それはないよ。下手をすると人体改造ぐらいしかねない人だし。」
「なるほど。ショッカーの首領のような人なんですね。」
「亜美ちゃんの言う通り。」
「とすると、明日夏先輩はショッカーの戦闘員ですか。」
「キーーー・・・・じゃない。」
ミサがバスの冷蔵庫からホールケーキを取り出しながら話す。
「明日夏のお姉さんの話はともかく、誕生パーティーを始めよう。」
「おー、すごい。ホールケーキだ。ミサちゃんありがとう。」
「これも美香先輩の手作りですか。」
「そうだけど。」
「尚ちゃんの誕生日に焼いたケーキと同じ?」
「基本的には同じだよ。明日夏用だから少し甘くした。」
「それは美味しそうだ。」
「それでは、ケーキにろうそくを立てて火を付けます。太いロウソク2本だと寂しいので、太いロウソク1本と細いロウソク10本にしました。」
「リーダー、細いロウソク20本の方が明日夏さんらしいかも。」
「亜美先輩、それは私も考えたのですが、ケーキを食べることを考えると20本は多すぎるかなと思いました。」
「そうですね。食べることを考えると、リーダーの言う通りです。」
尚美がケーキの中心に太いロウソクを立て、その周りに10本のロウソクを立てて、火をつけた。亜美が感心して尚美に話しかける。
「本当です。さすがリーダー、いい感じです。」
「有難うございます。」
全員が携帯で写真を撮影する。
「それでは、お誕生日の歌を歌いましょう。」
3人で『ハッピーバースデー』を歌う。歌い終わると、明日夏がロウソクを吹き消す。1回では消えなかったため、2回で消すことができた。
「明日夏、お誕生日おめでとう。」
「明日夏さん、お誕生日おめでとうございます。」
「明日夏先輩、お誕生日おめでとうございます。」
「みんな、ありがとう。」
「明日夏、はい、誕生プレゼント。」
「これはCD?」
「そう、1980年代の歌謡曲のCDセット。明日夏には合っている気がして。」
「有難う。ミサちゃん、こういう曲も聴くんだ。」
「うん、勉強のためにいろいろ聴いている。」
「さすが。」
「明日夏さん、誕生プレゼントです。」
「これは、『プラズマイレブン』の高円寺のフィギュア。」
「そうです。」
「『プラズマイレブン』なのは布教?」
「その通りです。続編制作のためにはファンを増やす必要があるからです。『プラズマイレブン』の中では高円寺君が一番人気があります。」
「そうじゃなくて、高円寺にしたのは、輝三を私に取られたくないからでしょう。」
「そういうことも、ないことはないです。」
「まあ、いいや。有難う。フィギュアを置く棚の上に置いておくよ。」
「棚の上ですか。まあ、いいです。」
「明日夏先輩、誕生プレゼントです。」
「目覚まし時計?」
「はい、クイズを解かないと鳴りやまない目覚まし時計です。」
「うー。なんか、尚ちゃんのお兄ちゃんが考えそうなプレゼントだな。でも、兄弟良く似ているからか。」
「何をプレゼントして良いか分からなかったので、兄に相談しました。心配しなくても、明日夏先輩の誕生日は話していません。」
「曲を作ってもらっているし、そのぐらい言っても構わないけどね。」
「それで、時計表示が24時間ではないので、アラームのセットで午前と午後を間違わないようにして下さいと言っていました。」
「尚ちゃん、それは今日聞いたの?」
「いえ、一か月ぐらい前ですが。」
「そういうことは、2年ぐらい前に聞きたかった。」
「明日夏先輩、2年ぐらい前に、午前と午後を間違えて失敗したことがあるんですね。」
「明日夏らしいと言えば明日夏らしいけど。これからは気を付けないと。」
「えっ、明日夏さん泣いているんですか。」
「ごめん。嬉しくて。」
「明日夏さんが泣くのを初めて見ました。」
「明日夏先輩でも、嬉しいものなんですね。」
「尚ちゃん。」
「はい。」
「あの、去年の冬に最初に会った時に怒って、本当にごめんなさい。」
「えっ、あのことですか。もういいですよ。最初に怒ったのは私ですし。」
「ううん。120パーセント私が悪かった。」
「分かりました。謝罪を受け入れますから、これからも楽しくやって行きましょう。」
「うん。」
「今は『ハートリンクス』の曲の作詞をお願いします。」
「分かった。」
ミサが話を変える。
「それじゃあ、みんなトランプでもする?」
「うーーん、トランプはミサちゃんが強すぎるから他のにしよう。」
「この前は弱かったよ。あの、道玄坂の・」
ミサの言葉を明日夏が遮る。
「ミサちゃん!」
「あっ・・・・。」
「道玄坂のライブハウスでライブを見た後のトランプね。あれはミサちゃんがハイになっていたから。」
「明日夏さん、何でミサさんの話を止めたんですか。」
「亜美ちゃん、子供向きのライブじゃなかったからだよ。」
「なるほど。でも、そんなライブに二人で行っているんですね。」
「勉強だから。」
尚美は「何のライブだろう。」と考えながらも、明日夏とミサの二人のことなのであまり気にしていなかった。
「今はアニメを見ようか。ミサちゃんの勉強のために。」
「明日夏、分かった。でも、何を見る。」
「勉強なら男性向きのアニメがいいんじゃないでしょうか。」
「亜美ちゃんの言う通りだけど、今は男子は小学生以下、女子は高校生以上を対象にしたアニメは止めよう。」
「えー、すごく面白いのに。うーん、勉強ということなら、二尉の好みの千反田さんが出てくる高校生謎解きアニメはどうですか。千反田さんは今でもたくさんの男性に人気があるキャラですし?」
「うん、それがいい。明日夏と尚もいい?」
「一度は見たことがあるけど、いいよ。」
「私も、何でも構いません。」
「それじゃあ、そのアニメを見よう。でも亜美、バスの中で見れるの?」
「はい、このバス、人工衛星の高速ネットワークに繋がっていますから、アニメストアの私のアカウントを使えば大丈夫です。」
「そう。それじゃあ、お願い。」
一方、誠たちもバスセンターにバスが到着すると、パスカルと誠、その後ろにアキとコッコが、通路を挟んで誠の隣にラッキーが座った。アキが嬉しそうに前の席に話しかける。
「夜行バスなんて、乗るの初めて。」
「後で説明があると思いますが、サービスエリアに2回と最後の時間調整のために道の駅に1回立ち寄ると思いますので、お手洗いはそこで行ってきて下さい。」
「分かっている。」
「決められた時間を過ぎるとバスは出発してしまうので、絶対にそれまでに戻るようにして下さい。」
「それも大丈夫。」
「湘南君、このバスにはお手洗いが付いていないんだね。」
「はい、バス自体は夜行便のためのバスというより、普通の観光バスです。」
「へー、湘南、夜行便のバスって、また違うの?」
「はい。お手洗いが付いていたり、シートが横4列でなくて、3列しかないものもあります。」
「僕も地方のライブに行くときには時々夜行便のバスを使うけど,確かにこれは普通の観光バスだね。」
「そうなんだ。でも、バスの中だと騒げないわね。」
「しばらくは隣の人と静かに話すことは大丈夫だと思いますが、皆さんが寝始めたら寝た方がいいと思います。」
「分かった。明日からスキーだし、体力は残さないと。」
「はい。」
「湘南、飲むか?」
「僕は宿題をやってから寝ます。」
「そうか、ラッキーさんとコッコちゃんは?いつもの缶チューハイですが。」
「パスカルちゃん、ごちになります。」
「パスカル君、有難う。でも、僕はハイボールを買ってあるから大丈夫だよ。」
「もう、3人ともお酒なの。」
「アキちゃん、この方が早く眠れる。」
「皆さん、飲みすぎると、トイレが近くなりますから気を付けて下さい。」
「大丈夫。夜行バスはスキーに行くときに何回も乗っているから。」
「パスカル、何回ぐらい乗ったことがあるの?」
「20回ぐらいかな。」
「すごい。」
「スノボで分からないことがあったら、俺に聞くといい。」
「なにパスカルが偉そうに。でも経験は重要か。」
「その通り。」
アキは窓の外を眺めていたが、高速道路に入ると寝付いてしまった。他の3人もお酒を飲み終わると、すぐに寝付いた。誠も最初のサービスエリアでの休憩まで起きていたが、サービスエリアを出発すると寝付いた。次のサービスエリアでは全員寝たままで、明け方の道の駅に停車すると全員が起きた。
「まだ暗いけど、ここが道の駅?」
「はい、その通りです。しばらく停まっていると思いますが、お手洗いに行っておくといいと思います。」
「何で停まっているの?」
「スキー場に早く着きすぎないように時間調整をしているんです。早く着きすぎると、ゲレンデもお店も開いていません。」
「なるほど。コッコ、お手洗いに行かない?」
「分かった行く。」
「パスカル、女が連れション、なんて言うんじゃないわよ。」
「あのね、そんなことは言わないよ。今日の・・・、もう昨日か。昨日の午前中にアキちゃんのご両親に会って、アキちゃんも大切なお嬢さんなんだなと分かったし。最近、仲間と思ってアキちゃんに馴れ馴れしくしすぎたかもしれないと反省している。」
「そうなんだ。でも、本当に仲間だから、少しぐらいなら馴れ馴れしくしてもいいわよ。」
「難しいな。」
「それで、パスカルちゃんと湘南ちゃんは連れションに行かないの?」
「行くかもしれませんが、コッコさんは付いてこないで下さいね。コッコさんは、アキさんが迷子にならないように見ていて下さい。」
「湘南、こんな見渡せるところで迷子はない。」
「すみません。」
「そうだ。仲間だし、5人で連れションというのは。それなら迷子にならない。」
「コッコさん、また警察のご厄介になりますよ。」
「こんな夜明け前に警察はいないよ。」
「警察官は24時間勤務ですから。」
「そうなの?いつ休むの?」
「基本的には1日働いて、2日が非番で休むみたいですが、非番の時でも呼び出される場合もあるそうです。」
「それは大変だ。」
「はい。ですから、警察官に面倒をかけないで下さい。」
「分かったよ。仕方がないから、湘南ちゃん、会話を録音して後で送って。」
「何でですか?」
「よく漫画に男子の連れションのシーンがあるだろう。本当はそのときにどんな会話をするか知りたいんだよ。」
「うーん、分かりました。ラッキーさん、パスカルさん、いいですか。」
「まあ、僕は別に構わないけど。」
「でも、何か面白いことを言えと言われているみたいで、プレッシャーがかかる。」
「パスカル、別に自然にしていればいいよ。」
「それでいいならいいけど。」
2人と3人がそれぞれお手洗いに向かった。パスカルがラッキーに話しかける。
「しかし、何を話せばいいんだ。」
「そうだね、アニメのモブキャラなら、あの席に座っていた女の子が可愛かったとか、天使みたいだったとかかな。それが、ヒロインかヒロインの敵役になる。」
「そういう話は、アキちゃんの機嫌が悪くなるから止めておこう。」
「パスカルさん、食べ物の話が無難なんじゃないですか。」
「それはそうだな。今日の昼ごはんに何を食べるか考えるか。」
「でもパスカル君、僕のスキー場の昼食はカレーとかラーメンだよ。やっぱり、時間がもったいないから。」
「俺もそうですね。」
「僕もです。とすると、おすすめのスイーツとかはないんですか?」
「お汁粉とか、甘酒とかかな。」
「それは体があったまりそうですね。でも、それなら熱燗がいいか。」
「それは宿に帰ってからにして下さい。」
「湘南、今回は5人同じ部屋だぞ。いいのか。」
「そう言えばそうでした。どうしても飲みたかったら、昼飲んで夜飲まない方がいいかもしれません。でも、飲んでスキーをするのは危険ですよ。」
「そうだな。昼に一杯ぐらいにしておくよ。」
「アキさんにスノボを教えるのはどうしますか?」
「湘南君、パスカル君、申し訳ないけど、僕はスノボができないから。」
「最初は湘南に頼む。その後は俺がやる。」
「パスカルさんの方が上手ですからそれで構いませんが、やっぱりコッコさんもいた方が良くないですか?」
「コッコはそんなこと絶対にしないと思う。」
「うーん、僕もそんな気がします。スノボ自体、あまりしなさそうです。」
「ほとんどの時間は観察に使っている。」
「その通りですね。分かりました。午前中は僕が担当します。」
「アキちゃんの変なところを触るんじゃないぞ。」
「パスカルさんには言われたくないです。」
「湘南君の場合は、アキちゃんに触れられないので教えるのに苦労しそうだね。まあ、パスカル君も同じだけど。」
「やっぱり、転ばないように支えるのはコッコさんに任せたいです。」
「そうだが、絶対に無理だ。」
「そうですね。」
そのような話をしているうちに、お手洗いを済ませバスに戻ろうとしていた。
「時間はまだかなりありますが、バスに戻りましょうか。」
「寒いしな。」
バスに戻る途中、誠のスマフォが鳴った。スマフォを取り出して確認すると秋山充年(明日夏の作詞家としての名前)からだった。
秋山:後ろ
誠が後ろを振り返ると、マスクをした明日夏が手を振っていた。そして、売店の裏の方に向かって行った。誠がパスカルとラッキーに話しかける。
「喉が乾いたので売店で缶コーヒーを買ってきます。」
「おう。」
誠は録音を止めて、自動販売機で缶コーヒーを二つ買ったあと、売店の裏に向かった。到着すると明日夏が待っていた。
「明日夏さん、おはようございます。」
「マー君、おはよう。急に呼び出してすまん。尚ちゃんが急いでいるようだったから。」
「とすると、『ハートリングス』さんの曲の話ですね。」
「その通りだ。可愛い女子高校生に校舎裏に呼び出された男子高校生の気分でいたら申し訳ないが。」
「そういう気分ではないですので大丈夫です。缶コーヒーですが飲みますか?今、買ったばかりです。」
「有難う。頂こう。」
二人で缶コーヒーを口に含んで、そばに置いた。
「もしかして、女性と二人で夜明けのモーニングコーヒーを飲みたかったのか?」
「いえ、寒いので、温まるかなと思ってです。」
「そういうのを飲んだことはあるのか?」
「あるわけないですよね。」
「そうか。まあ、『二人ぼっちのモーニングコーヒー』になってしまった。」
「歌の世界観を壊してしまって申し訳ありません。」
「いつもミサちゃんが先に寝てしまって、『一人ぼっちのモーニングコーヒー』は何回も飲んでいるので、二人ぼっちもたまにはいい。」
「えっ、いつも!」
誠に年末のラブホテルで明日夏とミサが一緒に寝てる様子が浮かんだ。
「変な想像をするな。みんなで遊びに出かけたときも、いつもミサちゃんと同じ部屋になるからだ。」
「遊びに!・・・・いえ、冗談です。」
「それで用件だが、尚ちゃんが『ハートリングス』のプロデューサーになったんだ。」
「尚からは聞いていないですが。」
「今日の番組の後でそうなったそうだ。うそだと思うなら、尚ちゃんに聞いてみるといい。」
「分かりました。それは信じます。」
「有難う。」
「『ハートリングス』のイメージを変えるために、この間、尚に渡した曲を使うということですか。」
「その通り。4日の会議しだいだが、イメージチェンジのために『ハートリングス』を改名して『ハートリンクス』にするそうだ。うまくいったら、イメージチェンジのための曲ができるだけ早く必要ということで、私が作詞をしている。」
「僕は嬉しいですが、あの曲でいいんですか。」
「繋ぎのための曲ということだ。」
「分かりました。それで、曲の手直しをして欲しいところがあるんですね。」
「話が早い。歌詞は後で送るけど、時間がないのでちょっと歌ってみる。タイトルは『ハートリンクス』」
明日夏が歌い始め、小さな声ではあるがアイドルっぽく1コーラスを歌い終わる。
「何、笑っている。」
「いえ、明日夏さんに元気な歌は似合わないなと思って。」
「失礼な奴だな。まあ、私もそう思うが。それで、どう?」
「5人で歌うサビの部分をもう少し盛り上がるようにですか?。」
「そう。それで、その後のセンターのハートレッドさんが歌う、ハートをリンクしたい、のところをもう少し色っぽく。」
「色っぽくですか。」
「マー君が不得意なのは分かっている。私も歌うのが難しい。」
「それは分かります。」
「いや、そこは否定するところだ。」
「はい。申し訳ありませんが、もう一度歌ってもらえないでしょうか。絶対に公開しませんので、スマフォ用のマイクを持っていますので、録音したいのですが。」
「分かった。秋山充年として歌おう。」
「お願いします。サビの後は色っぽく。」
「それは、秋山充年でも無理だ。」
「分かりました。そこは想像でカバーします。」
「誰を想像する。」
「そういう知り合いはいませんので,昔のアイドルの聖子さんでしょうか。」
「それなら、まあいい。」
明日夏がスマフォのマイクに向かって歌い終わる。
「パラダイスの聖子ちゃんですね。」
「からかうな。」
誠が録音を確認する。
「はい、無事に録音できています。有難うございます。平田社長と相談しながら手直しをしてみます。」
「うちの社長とか。」
「はい。昨日、明日も会社にいらっしゃるとおっしゃっていましたので、ネットで連絡しながら手直しします。」
「社長も正月からすることがないからか。それじゃあ頼んだ。」
「他の皆さんは寝ているんですか。」
「尚ちゃんとミサちゃんは良く寝ている。亜美ちゃんはずうっとアニメを見ていてさっき寝たばかりだな。それじゃあ、私はバスに戻る。」
「有難うございました。それではお気をつけて。」
「マー君も気を付けて。スキーで絶対頭を打ったりしないように・・・・ごめん。変な意味じゃないんだ。」
「分かっています。気を付けます。手直しをしたらできるだけ急いで送ります。」
「有難う。」
明日夏が缶コーヒーを持って自分のバスの方に戻った。運転手さんに会釈してバスの席に戻ると3人ともぐっすりと寝ていた。「もうすぐ明るくなるな。」と外を見ながら缶コーヒーを飲んでると時間調整の必要がないため、バスはほどなく出発し、あまり寝ていなかったため明日夏もすぐに眠りについた。
誠は明日夏が見えなくなってから、残った缶コーヒーを持って出発した。
「缶コーヒー、明日夏さんはちゃんと自分のものを持って行ったのかな。」
バスに戻ると運転手さんに会釈してバスの席の方に進んだ。録音したものをコッコに渡そうとしたが、4人とも寝付いていた。誠は、「静かにしていよう。」と考え席に着いた。そして、明日夏が歌った歌を聴きながら、曲の手直しを考えていた。バスは時間調整のためしばらく停車したが、やがて出発した。
「もう明るいな。朝か。平田社長さんと相談しながら明日夏さんの歌詞に合わせて曲の手直をして、アキさんにスノボを教えて、夜からは美香さんのショーのお客さん役になる、忙しい一日になりそうだ。頑張ろう。」
明日夏たちを載せたバスが別荘の前に到着すると、ミサと尚美はすぐに目を覚ました。
「明日夏先輩、亜美先輩、美香先輩の別荘に着きましたよ。起きて下さい。」
「尚ちゃーん。眠いよー。」
「先輩は遅くまでアニメを見ていたんですか?」
「それは亜美ちゃん。私は作詞。」
「そうですか。申し訳ありません。作詞をお願いしたんでした。でも、徹夜で作詞していたんですか?」
「そうだよ。できた分はさっきマー君に渡した。」
「えっ、明日夏、誠に会ったの?」
「美香先輩、現在はネットワークがあるんですから、電子ファイルをメールか何かで送ったんですよ。」
「誠もそういうこと得意だし、そうか。」
「だから午前中は寝る。」
「了解しました。でも,バスではなくて部屋で寝て下さい。昼まで寝ているようでしたら起こします。」
「リーダー、眠いです。」
「亜美先輩も、歯を磨いて、部屋で寝ましょう。」
「分かりました。」
明日夏と亜美は歯を磨いた後、別荘に入ると2階の部屋のベットに直行して寝てしまった。
「明日夏と亜美、良く寝ている。」
「しかし、明日夏先輩も亜美先輩も何しに来たんでしょうか。」
「明日夏は、自分を変えないということじゃないかな。」
「明日夏先輩は分かりますけど。亜美先輩は明日夏先輩に影響されたのかな。」
「そうだと思うよ。でも、尚も私も影響されていると思う。」
「そうですね。気を付けないと。」
「それより朝食を食べてゲレンデに行きましょう。」
「了解です。」
二人が1階に戻ると、管理人が朝食を用意して待っていた。
「お早うございます。ミサお嬢様、いらっしゃいませ。」
「ごめんなさい、ここに入るときに挨拶もできなくて。おはようございます。明日夏と亜美の二人がバスで寝ていなくて、2階のベッドで寝てしまっています。」
「承知しました。お二人の面倒は私が見ますので、ご安心を。」
「明日夏も亜美も大切な友達ですので、よろしくお願いします。」
「かしこまりました。」
「二日間お世話になります。私は芸名を星野なおみ、本名を岩田直美といいまして、美香先輩と同じレコード会社に所属しています。」
「ご丁寧に、有難うございます。お嬢様、申し訳ないのですが、明日夏さんといわれるお友達の名前は、北崎明日夏さんとおしゃるのでしょうか。」
尚美が説明する。
「北崎は明日夏さんのお父さんの名前で、両親が離婚したため、今は神田明日夏と名乗っていますが、小学2年生までの名前は北崎明日夏だったという話ですが。」
「うん、明日夏がそう言っていた。」
「美香お嬢様が小さい時、明日夏お嬢様と伊豆で遊ばれたことがありました。それは元気なお嬢様で、朝早くから美香お嬢様を連れまわしていました。」
尚美が微笑みながら言う。
「美香先輩、昔から明日夏先輩に振り回されて大変だったんですね。」
「よく覚えていないんだけど、その時も楽しかったんじゃないかと思う。」
「はい、普段と違って楽しそうにしていたのは覚えています。」
「今とあまり変わらないということか。」
「でも、美香お嬢様より大変そうだったのは誠さんという偶然知り合ったお坊ちゃんで、迷子になったお二人を見つけたり、明日夏お嬢様の無茶を実現できるようにがんばったり、しようかどうか迷っている美香お嬢様の背中を押したり、それは大変そうでした。」
「もしかして、誠というのは岩田誠という名前でしたか?」
「はい、たぶん苗字は岩田だったと思います。」
尚美がスマフォで写真を見せる。
「もしかして、この時のことでしょうか。」
「その通りでございます。このお嬢様、懐かしいです。でも、なぜこの写真を?そう言えば、岩田尚美さんとおっしゃいましたが、岩田誠さんとご関係があるのでしょうか。」
「はい、岩田誠は私の兄です。」
「そうでございますか。それはそれは。それで、皆様はどういうことでまたお嬢様とお知り合いになられたのですか?・・・・申し訳ありません。余計な詮索でした。」
「いいえ、構いません。うちの兄が明日夏先輩のファンになり、私がイベントについて行った時に私がスカウトされました。」
「そして、同じレコード会社の美香お嬢様と知り合いになったのですか。」
「その通りです。偶然のようですが、兄が明日夏先輩のファンになった理由にその時の記憶がかすかに残っていたのではないかと思います。明日夏先輩が好きというより、何とかしないとという感じでしたので。」
「そうなんですね。面白い話を有難うございました。」
「それで里子さん、今日の夜に誠が来るんですが、誠は事故で過去の記憶があやふやなところがありますので、昔の話はあまりしないで下さい。」
「そんなことがあったのですか。私も誠君は将来苦労するんじゃないかと思って心配していたのですが。それで、健康には問題ないのでしょうか。」
「はい。何度か精密検査を受けましたが、大丈夫だそうです。記憶も何かのきっかけで思い出すことがあるという話でした。」
「それは良かったでした。それでは、朝食の準備ができていますので、お召し上がり下さい。残りのお二人の朝食は起きたときにお出しします。」
「有難うございます。」
一方、誠たちはバスが到着すると、まずコンビニに寄って朝食を買うことにした。
「私はサンドイッチと牛乳かな。」
「俺もかな。」
「僕もです。」
「僕はそれだけじゃあ足りないから、おにぎり追加かな。」
「俺もそうしよう。」
「僕もです。」
「おい、パスカルに湘南、自分はないのか。」
「俺たちは和を重んじる日本人だから。」
「その通りです。」
「全く。コッコは?」
「私はおにぎりとコーヒーかな。」
「4人ともコーヒーはブラックなんだよね。」
「僕はそう。」「俺も。」「僕もです。」「私は砂糖とミルクを入れる。」
「さすがコッコ。私もと言わないところが。」
「その代わり、変わり者と呼ばれる。」
「それはコーヒーの選択とは違う部分に理由があると思います。」
「そうかもしれないけどね。でもアキちゃん、必要と思えば湘南ちゃんははっきり言う子だから心配しなくても大丈夫だよ。」
「それもそうね。」
「それじゃあ、みんな、レンタルスキーで借りる人は借りて、民宿に行くよ。」
「ラッキー、民宿はまだ部屋に行けないんだよね。」
「その通り。でも、男女別で更衣室はあるし、荷物も預かってくれる。」
「コッコさん。」
「湘南ちゃん、分かっているよ。アキちゃんも連れていけばいいんでしょう。」
「ダメです。お約束じゃないんですよ。分かって下さい。」
「分かったよ。そう言えば、さっきの録音。」
「データボックスにアップロードして、そのURLを送りました。」
「サンキュー。」
レンタルしたスノボを持ったアキが言う。
「どう、カッコいい?」
「いまの段階では判断するのが難しいです。」
「もう湘南は。そういうときは嘘でもカッコいいと言うものだよ。」
「アキちゃん、優しいね。」
「アキさん、カッコいいです。」
「そうそう。」
「アキちゃんはカッコいいというより可愛いだけど。」
「パスカル、まあ合格。」
「それは僕も本当にそう思いました。」
「有難う。」
「それで、アキさんとコッコさんは日焼け止めを塗るか、日焼け止めマスクをした方が良いと思います。曇っていてもゲレンデは紫外線が多いです。」
「その通りね。湘南はそういうところは気が利くから助かる。」
「有難うございます。アキさんは、一応アイドルですので注意しましょう。」
「一応は余計。そういうところは気が利かない。でも、妹子と比べれば一応か。」
「そんなことはないです。」
「それじゃあ、みんなで写真を撮ってから、民宿へ行くぞ。」
「パスカル、了解。」
民宿で着替えて、外の休憩のための場所で、朝食をとった。
「ゲレンデまで歩いてすぐだから。」
「了解。それじゃあ、出発!」
5人がゲレンデに向かって出発した。コッコが誠に尋ねる。
「湘南ちゃん、さっきの録音、何で途中で止めたの?」
「えーと、パスカルさんたちと分かれるので不要と思ったからです。」
「急いで止めているから、止めた後、誰かと電話をしたか会ったの。」
「そういう・・・。」
「まあ、いいけど。」
「コッコ、このスキーで湘南の秘密を暴き出そう。」
「いいですよ、暴き出さなくても。」
「ということは湘南には誰にも言えない秘密があるということか。」
「それは誰にもあるんじゃないですか。」
「私はあんまりないよ。」
「アキちゃん、スリーサイズは秘密じゃないの?」
「パスカルさん、捕まりますよ。」
「そうだった。反省したばっかりだった。」
「でも、スリーサイズならホームページに書いてもいいわよ。」
「アキさんが高校を卒業するまではダメです。」
「妹子も高校を卒業したらいいの?」
「いや、えーと、・・・・本人次第でしょうか。」
「そうか。裸の写真集を出すと言ったら。」
「それは誰でも止めます。」
「そうよね。」
「私もか?」
「いや、それは・・・。コッコさんの事情次第です。」
「パスカルちゃんが出すと言ったら?」
「絶対にやめた方がいいと思いますが、止めません。」
「コッコちゃん、俺がそんなの出すわけがないよ。売れないし。アキちゃんは俺でも止める。コッコちゃんは、・・・・うーん、やっぱり事情次第かな。」
「へへへへへ。」
「何でコッコちゃんが喜んでいるの?」
「パスカルと湘南が同じ考えだったからでしょう。」
「しまった、そうか。」
5人がゲレンデに到着すると、パスカルが話しかける。
「それじゃあ、湘南、午前中はアキちゃんをお願いする。」
「分かりました。とりあえずは安全に転ぶところから始めます。」
「サンキュー。」
パスカル、ラッキー、コッコがスノボやスキーを履いてリフト乗り場に向かって行った。
「それでは、アキさん、まずは初心者用コースの練習できそうなところに歩いて向かいましょう。スノボのひもを腕に付けて、落とさないようにして下さい。」
「分かった。有難う。」
ミサと尚美は朝食を終えた後、着替えてゲレンデに向けて靴のまま出発した。
「尚、誠の私に親切にしてくれるのも、その時の記憶があるからなのかな。」
「そうかもしれませんが、そうでなくても親切にすると思います。それは、ミサさんが美人とかでなくて、頑張っているからだと思います。」
「うん、誠はそうだよね。それで尚はどこを滑るの?」
「テレマークスキーですので、とりあえず平らなところをスキーで歩いて、慣れてきたところで、ゲレンデの脇を登っていようと思います。」
「えーと、尚はゲレンデを登るの?」
「はい。」
「分かった。それじゃあ、私はスノボで適当に滑っているから、昼食の時に別荘で集合しようか。」
「はい、そうしましょう。それで、午後からは4人いっしょに滑りましょう。」
「うん、そうしよう。」
ゲレンデに到着すると、二人はそれぞれの場所に向かった。ミサはリフトやロープウエイに乗り、いろいろなゲレンデを超高速で滑って回っていた。中級者用コースを滑り終わり、初心者用のゲレンデの上に到着すると、レストランや売店が入っている建物があり、その横の木の陰に、知っている人を見かけた。
「あっ、濃い色のゴーグルで女の子を見ているのは、パスカルさんだ。ということは、誠はこの近くにいるかもしれない。」
そう思ったミサは、周りを見回しながら普段は使わない初心者用のゲレンデを滑り降りた。すると、誠らしき男性を発見した。
「あっ、あれ、たぶん誠だ。」
アキは緩い斜面で座っている状態から立つ練習をしていた。
「うん、スムーズに立てるようになった。」
「アキさん、体が柔らかいから思ったより簡単でした。」
「湘南より才能あるかも。」
「その通りです。」
そのとき、上から降りてくる女性のスノーボーダーがアキの目に入った。
「見て見て、あの女の人、すごくカッコいい。」
「本当ですね。ここは斜面の角度はないですが、安定していてカッコよく見えます。」
「あんな風に滑れれば楽しいでしょうね。」
「そうだと思います。」
「あれ、こっち来るわよ?」
「そうですね。」
そのスノーボーダーが誠の前で止まった。
「やっぱり、誠だ。」
「えっ、あっ、こんにちは、えーと。鈴木さん。」
「こんにちは。」
ミサがアキに自己紹介する。
「ごめんなさい。日焼けしたくないから、マスクは取れないんだけど、誠の幼馴染の鈴木と言います。もしかすると、『ユナイテッドアローズ』のアキさんですか?」
「えっ、はい、そうです。湘南から聞いたんですか。」
「誠の部屋でポスターを拝見しました。あと、ライブに行ったことも。」
「鈴木さんは、湘南の部屋に出入りするんですね。どうでした私の歌?」
誠が話に割り込む。
「それは今度聞いておきますから、それより今は、スノーボードの練習のコツとか聞いた方がいいと思います。」
「湘南、鈴木さんというと、もしかして、車の運転が好きと言っていた幼馴染か?」
ミサが答える。
「はい。誠から聴いたんですか?でも誠から注意されて、最近は安全運転を心がけています。」
「安全運転は大切だと思います。それにしても、鈴木さんは運動神経が良い方なんですね。ここから見ていても、スノーボード、安定していてプロかと思うほどお上手でした。」
「えっ、はい。スノーボードは、子供のころからやっています。」
「それじゃあ、湘南の言う通りスノボの話を聞いた方がいいかな。」
「僕たちは5人で来たのですが、他の3人はどこかに行ってしまって。僕もそれほど上手ではないんですが、初心者のアキさんにスノーボードの基礎を教えていたところです。」
「湘南は、手をつなぐのも恥ずかしがっているんですよ。」
「アキさんは高校2年生の女子ですので。」
「誠、分かった。午前中は自由行動だから、初歩は私が教える。」
「あの、それはさすがに申し訳ないというか。」
「大丈夫。今日は遊びに来ているだけだし。」
アキがお礼を言う。
「有難うございます。」
ミサがアキの手を取って、スノボの初歩を教え始めた。誠は二人のうちどちらかが転んだ場合を想定して、ボードを外して二人の谷側にいた。途中で山側にいるアキが何度か尻もちをついた。アキが尻もちをついて座っている時にミサが誠に聞く。
「誠、でも、なんで私の後ろにいるの?」
「転んだ時に、頭を打たないようにです。」
「アキさんの後ろにいた方が良くない?」
「転んだ時は、谷側の方がずうっと危ないんです。アキさんが谷側にいるときは、アキさんの後ろにいます。それに、アキさんは最初に尻もちをつく練習をかなりしましたので、今は谷側にいる人をカバーするべきだと思います。」
ミサが振り向いて誠を見ながら言った。
「でも、私は絶対に転ばないけど。」
ミサが前を向き直そうとしたとき、誠がそれに答えようとした。
「99.9%そうでも・・・」
その瞬間、ミサがバランスを崩して、倒れそうになるところを誠が抱きかかえた。二人が顔を見合わせた。ミサがバツが悪そうに感謝する。
「あっ、ありがとう。」
「いいえ。」
誠がゆっくりとミサの体制を立て直す。
「やっぱり誠の言うことは正しい。さっきはごめんなさい。」
「それは構いませんが、スノボは両足が固定されているので、倒れそうになったら、アキさんみたいに絶対におしりから着くようにして下さい。」
「そのことは最初に教わったから知っているんだけど、最近は転んだことがなくて・・・でも、もう一度肝に命じる。」
アキが少し冷やかす。
「鈴木さん、あんなにスノーボードが上手なのに。今のは本当はわざと転んだんじゃないんですか。」
「ちっ、ちっ、違います。」
「幼馴染というのはいつからの知り合いなんですか?」
「3歳の時からです。学校は違うけど学年は同じです。」
「あー、雰囲気が誰かに似ていると思ったら、もしかすると、この間の『ユナイテッドアローズ』の初ライブに、湘南の隣にいた方ですよね。」
「えっ、はい。誠が曲をアレンジをしたと聞いて、どんな感じかと思って。」
「ふーーん。」
「アキさん、鈴木さんはと僕はアキさんが想像するような関係ではないです。鈴木さんは、僕からすれば、夜空の星の高さにいる方なんですから。」
「そんなことはないよ、絶対。誠は私じゃどうにもならないことも解決しちゃうし、誠は私よりすごい人だと思うよ。もっと自分に自信を持ってよ。」
「有難うございます。」
「なんか、お二人さん怪しいなー。でも鈴木さん、もし私と湘南の関係を心配されているなら、男女関係のようなものは全くありませんから大丈夫です。何ならここで二人で抱き合ってみたらいかがですか。私は、おめでとうと言って拍手します。ほら、あの木の陰にもそういう感じのカップルがいますよ。はい、どうぞ。」
赤くなったミサだったが、マスクのために外からは分らなかった。
「アキさん、鈴木さんは純真な人なので、からかうのは止めて、練習を続けましょう。」
「わかった。誠にはすごくすごく仲がいい同学年の幼馴染の女の子がいるってこと、みんなに報告しておく。」
「そういうことを、いちいち報告しなくても大丈夫です。練習を再開しましょう。」
「分かった。それでは、鈴木さん、よろしくお願いします。」
「はい。」
ミサの指導でアキが2時間ぐらい練習して、アキは初心者用コースならばなんとか滑れるようになってきた。
「誠、アキさん、申し訳ないけど、お昼ご飯をいっしょに食べる約束があって。」
「はい、わかりました。アキさんへのご指導有難うございました。皆さんのところに向かって下さい。本当に助かりました。男女1対1だと気恥ずかしくて、どうしようかと思っていました。」
「また私ができることがあったら、連絡して。力になるから。」
「はい、僕もできることならば何でもしますので、連絡して下さい。」
「有難う。」
「鈴木さん、今日は本当に有難うございました。もし、湘南にご興味があるようでしたら、いつでも私に連絡して下さい。今日のお礼というわけではありませんが、私、鈴木さんに協力します。」
「あっ、有難う。それじゃあ、誠、アキさん、また。」
ミサは、スノーボードでさっそうと滑り降りて行った。
「湘南、女の勘だけど、鈴木さん、単なる幼馴染じゃなくて、湘南のことが男性として好きなのかもしれない。」
「それはないです。単に性格が純粋なだけです。」
「湘南は気づいていないだけだよ。スポーツはすごくできるのかもしれないけど、自分にないものを持っている湘南を求めているのかもよ。湘南が少しがんばれば鈴木さんを彼女にできると思うよ。」
「だから、ないですって。」
「もう、そういうことだから、湘南はいない歴が伸びるんだよ。少しでもチャンスがありそうだったら、突撃しないと。」
「アキさんは、そんな感じですよね。」
「ううん、それはユミちゃん。積極的な方がイケメンの男を手に入れる可能性が高くなるって言っていた。」
「さすがユミさんです。」
「もしかして、今朝は鈴木さんに電話していたの?」
「はい?」
「録音を切ったってコッコが言ってたやつ。」
「いいえ違います。」
「まあいいか。えーと、集合時間まであと30分だから、もう1回滑ってから集合場所に行こうか。」
「はい。」
リフトで初心者用コースの上に行くと、パスカルから声がかかった。
「アキちゃん、湘南、調子はどう?」
「初心者用コースならば滑れるようになったよ。もう一人でも大丈夫。」
「それはすごい。」
「まだ時間が少しあるから、もう1回滑ってくる。」
「あまり飛ばさないで下さいね。」
「湘南、分かっている。パスカルも行こう。」
「分かった。」
アキたちが滑った後、リフトで上に上がると、ラッキーとコッコが話をしていた。
「さすがスキー場、まあまあのカップルがいる。」
「男性同士だから、単にスキーをしているだけだと思うけどね。」
「私にはカップルに見えるんだよ。」
「あっ、アキちゃんたちが来た。」
「本当だ。パスカルちゃんと湘南ちゃんの間を邪魔するアキちゃんか。」
「そうは見えないけどね。オタサーの姫とかならわかるけど。」
「まあね。」
5人がそろったところでレストランに向かった。
「やっぱり、メニューは普通で、値段は高めかな。」
「ラッキーさん、観光地だから仕方がない。」
「私は温まりたいからラーメンかな。」
「俺もラーメンだな。」
「僕もです。」
「僕はカレーライスにしよう。ここのカレーはまあまあ美味しい。」
「それじゃあ、明日はカレーにするかな。」
「そうですね。」
「私も麺がいいな。かき揚げそばかな。」
「さすがコッコさんです。」
5人が昼食を買って席に着いた。5人が声をそろえる。
「いただきます。」
「それにしてもアキちゃん、本当に初心者?午前中に練習しただけにしては上手すぎると思うんだけど。」
「でしょう。湘南の彼女の鈴木さんに教えてもらった。」
「湘南の彼女って。」
「アキさん、違います。」
「まあ、幼馴染という話だけど。」
「女なの?」
「そうだよ。湘南が私といるのが気になっていたみたい。」
「そんなことはないと思います。単に親切なだけで。」
「湘南、どういうことだ。」
「3歳の時から知っていますが、スポーツがとても得意な方です。」
「それは、そう。スノボの教え方もすごく上手だった。本当に教わって良かったと思っている。でも、今日会ったのは偶然なの?」
「蔵王に来ることは多いようですが、日程が合ったのは偶然です。」
「それで、鈴木さんは湘南の部屋に入ったことがあるんだって。湘南は鈴木さんの部屋に入ったことはあるの?」
「この間,盗聴器が仕掛けられていないか調査するために妹と一緒に入りました。」
「湘南、今度、紹介しなさい。」
「勝手に紹介するわけにはいかないです。」
「まあ、パスカル君、落ち着こう。コッコちゃんがニヤニヤしている。」
「えっ、あっ、そうですね。コッコちゃん、別に痴話げんかじゃないからね。」
「ふふふふふ。ヒロインの幼馴染の出現でアタフタしている。」
「まあ、パスカル、今のところは、湘南と鈴木さん、何もなさそうよ。」
「だから違いますって。ところで、ラッキーさん、民宿は何時から入れるんでしたっけ?」
「湘南が話を変えた。」
「3時からだと思うけど。」
「それでは、僕はそのころに宿に行きます。」
「何、湘南、もう疲れたの?」
「はい。」
「湘南、体力がないと鈴木さんに嫌われるよ。」
「もし僕が鈴木さんと付き合ったら、僕が早死にするという人もいました。」
アキが大笑いしながら言う。
「確かにそうかも。」
「はい。」
「それじゃあ、ゆっくり休んで。」
「有難うございます。それで皆さん、夕方5時、17時には戻ってきて下さい。」
「おう、そうだったな。ミサちゃんのディナーショーの練習か。」
「なるほど、だから湘南は体力温存か。」
「そう言うわけではないですが、明日夏さんと亜美さんもいらっしゃるので、あまり疲れた格好を見せるわけにも。」
「それもそうね。私も早めに切り上げるかな。」
「ところで、湘南君、ということはミサちゃんは、今はこのあたりのゲレンデにいるということ?」
「おっ、そうか。」
「妹は隣のゲレンデにいるそうですが、それ以上のことは。」
「そうだね。ごめん、もう聞かない。」
「そうか、妹子が来ているんだね。」
「はい。妹とは時々連絡を取っています。全員無事ということは分かっています。」
「ならいいかな。」
「それじゃあ、みんな、出発しようか?」
「了解。」
「それではパスカルさん、午後はアキさんをお願いします。」
「コッコちゃんも、午後はいっしょに滑ろうよ。」
「まあ、今日の午後ぐらい滑るか。」
「サンキュー、これで安心。」
「しかし、パスカルちゃんも、相変わらずの根性なしだね。」
「やっぱり18歳になるまでは無理。」
「まあ、そうだろうね。」
「それじゃあ、アキちゃん、初心者用コースを何回か滑った後、一つ上の中級者用コースに行ってみようか。」
「うん、そうしよう。」
「湘南ちゃんはどうするの?」
「時間まではパスカルさんたちと一緒に滑ります。」
「分かった。ラッキーちゃんは。」
「それなら、僕も一緒に滑るよ。」
「やったー!5人一緒だ。」
「それじゃあ、ラッキーさん、俺が一番後ろに着きますので、先頭をお願いします。」
「パスカル君、分かったよ。」
ミサと尚美は昼食のために一度民宿に戻った。
「里子さん、ただいま。」
「ただいま。」
「ミサお嬢様、尚美様、おかえりなさいませ。明日夏お嬢様と亜美様はまだ寝ていらっしゃるようです。」
「尚、仕方がないから、二人を起こしてくるか。」
「そうですね。それでは、私は亜美先輩を起こしてきますので、美香先輩は明日夏先輩をお願いします。」
「分かった。」
4人が1階に降りてきた。
「ミサちゃん、まだ眠いよ。」
「明日夏先輩、昼にたくさん寝ると、夜寝れなくなってしまいますよ。」
「そうだけど。ミサちゃん、ゲレンデどうだった?」
「誠が初心者のアキさんを教えるのがやりにくそうだったから手伝ってきた。」
「それって大丈夫なの?」
「うん、ゴーグルと日焼け止めマスクをして、誠の幼馴染としてしか紹介しなかったし。」
「それでも声とかでわかりそうだけど。」
「分からなかったみたい。そのことより、ここの管理人さん、前は伊豆の別荘の管理人さんだったみたいで、3歳のときの明日夏と誠を覚えているみたい。」
「へー、そうなんだ。」
「誠は、明日夏の無理を実現させようとして、苦労していたって。」
「マー君、尚ちゃんの面倒もよく見ていたし、ありうるか。」
「明日夏先輩、そのときは、また私が生まれる3年前です。」
「そうだね。尚ちゃんの面倒を見ていた気がするのは錯覚か。」
「今もそんな感じだからですね。」
「亜美ちゃんのいう通りだね。」
管理人の里子がやってみた。
「皆さん、おはようございます。それにしても明日夏様も大きくなられて。」
「有難うございます。昔、ご面倒をおかけしたようで、申し訳ありません。」
「いえ。でもあの時一番大変だったのは誠お坊ちゃんで、走るのは得意でなさそうなのに走り回っていました。今日の夕方に会えるとのことで楽しみにしています。」
「はい。あと、大変申し訳ないのですが、尚ちゃんのお兄さんは小学生の時に事故にあって、昔の記憶があやふやとのことですし、事情を知らないお客さんも来ますので、この件は他の方には秘密にしておいて頂けますでしょうか。」
「明日夏様、それは伺っています。元気な姿を見るだけで十分です。」
「有難うございます。」
「それに明日夏様も私のことは覚えてはいませんでしょう。」
「はい、大変申し訳ありません。」
「まあ、3歳の時に会っただけですので、構いません。それで、明日夏様と亜美様は朝食と昼食とどちらに致しますか。」
「今は朝ですので、朝食でお願いします。」
「明日夏先輩、もう午前は終わっていますけど。」
「うー、大丈夫、午前と午後は絶対に間違わない。朝が午後にあるだけ。」
「分かったような分からないような。」
「私も朝食でお願いします。余ってしまってももったいないですので。」
「かしこまりました。」
それぞれの昼食/朝食を食べながら話す。
「明日夏さんがちゃんとした言葉使いができるので驚きました。」
「いや、亜美ちゃん。私をどんな人間だと思っているんだ。」
「天真爛漫の能天気キャラ。」
「先輩に言う言葉とは思えない。まあ、それでも構わないけど。」
「ところで、明日夏も午後からは滑るんだよね。」
「そうだね。滑ろうかな。」
「亜美も?」
「ミサさんについていく自信はないですが、そのときは明日夏さんと滑ります。」
「尚は?」
「午前中にトレーニングが終わりましたので、午後は普通に滑ります。」
「それじゃあ、4人でいっしょに滑ろう。」
「ミサちゃん、飛ばしちゃだめだよ。みんながついていけないから。」
「わかってるって。」
雑談をしながら明日夏たちの食事が終わって、ミサが声をかける。
「もうそろしろ行こうか?」
「そうですね。美香先輩には夕方の準備もありますし。」
「それじゃあ、出発!」
「ウィ、マドマゼル。」
ゲレンデでは最初のうちはミサもゆっくり滑っていたが、だんだんと速度が上がっていって、亜美が遅れがちになってきた。
「ミサちゃん、速い。速いよ。」
「ご婦人のお尻につくのが趣味じゃないからかもしれませんね。」
「尚ちゃんが、何でそんなことを知っているの?」
「兄が、スレッガー・ロウのファンだからです。」
「なるほど。ミサちゃん、速すぎて亜美ちゃんがついてこれない。」
「ごめん。分かった。もっとゆっくり滑るよ。」
「それにしても、明日夏先輩はスキーが上手なんですね。」
「父がスキーが好きで、幼い時に良く連れていかれたからだけど。個人的には、それほど好きというわけではないよ。」
「なるほど。」
少し遅れて亜美が到着した。
「申し訳ありません。途中で2回ほど転びました。」
「亜美、ごめん。ゆっくり行くよ。」
「いえ、3人とは実力の差がありすぎるようですので、私は一人で滑ります。」
「分かりました。それでは、私が亜美先輩についていきます。」
「尚ちゃん、大丈夫。私がついていく。」
「明日夏先輩、リーダー、スマフォもありますし、危険なところには行きませんので、大丈夫です。二人はミサさんについていて下さい。」
「うーん、そっちの方がいいか。」
「分かりました。それでは5時にはミサさんの別荘に戻ってきて下さい。無理そうでしたら、早めに連絡を下さい。」
「はい。それでは先に行って下さい。」
「亜美先輩、行ってきます。」
「亜美ちゃん、ミサちゃんはまかせて。」
「亜美、それじゃあ夕方。」
3人が滑り始め、高速にゲレンデを降りて行った。亜美は初心者用コースに向かい、そこで滑り始めた。
「私には初心者用コースの方が楽しいや。」
亜美が初心者用コースを降り切ってリフトの方に行くと、5人組が目に入った。
「やっぱり、ラッキーが一番上手そうね。」
「僕は大回転だったから、整備された斜面を高速に曲がるのは得意なんだけど、コブがある斜面は不得意だからあまり威張れないよ。」
「ラッキーさん、大丈夫です。ここにはコブがあるところを滑れる人はいません。」
「でも、練習すればアキちゃんが一番うまくなりそうだな。」
「へへへへへ。」
「はい、若いですし体が柔らかそうです。」
「まあ、柔らかいと言えば、亜美ちゃんの方が柔らかそうだけど。」
「パスカル、それ違う意味で言っていない?三佐に失礼よ。」
「パスカル一尉、それは私の方が太っているということか。」
「太っては・・・・えっ。」
「あっ、ミーア三佐、いらっしゃったのですか。」
「ああ、5人でいっしょに滑っていると目立つからな。曹長たちかなと思って来てみたらそうだった。」
「パスカル一尉の今の発言、非常にけしからんですので、三佐が一尉を修正して構わないと思います。」
「ミーア三佐、アキさんが誤解しているだけだと思います。ここにいる人で、ミーア三佐が太っていると思っている人はいません。」
「湘南の言う通り。ミーアちゃんが太っているということは、絶対にありませんであります。アキちゃんが最近やせすぎなのではないかと思います。」
「そうか。私、春から5キロぐらい落ちているから、痩せて見えるのかな。」
「何、5キロだと!曹長、何か秘訣があるのか。秘訣があったら教えてくれ。」
「三佐、やっぱり、人に見られていると思うからだと思います。」
「ううっ。私だって人に見られているのに。1キロぐらいしか変わっていない。」
「ミーア三佐は歌手志望ですから、痩せている必要は全くありません。」
「湘南、それはあまり慰めにならないから。それより、三佐、お一人ですか?」
「ああ。私のためにゆっくり滑ってもらっても、あの3人とはレベルが違いすぎる。ついて行って、何回転んだことか。」
「3人というのは、妹子、ミサちゃん、明日夏ちゃんですか。」
「その通り。」
「そうでしたら、いっしょに滑りませんか。私は初心者ですが。」
「曹長、迷惑でなければ、お願したい。」
「迷惑ということは絶対にありません。そうよね、みんな。」
「もちろんですが、三佐の方は大丈夫ですか?」
「男女二人でなければ何とでも言い訳はつく。」
「それじゃあ、三佐、いっしょに滑りましょう。その前にパスカルを修正して下さい。」
「どうやればいい。」
「三佐、雪合戦のように、雪をぶつけるというのは。」
「うむ、二尉のアイディアがいいな。曹長もお願いする。」
「分かりました。」
亜美とアキでパスカルに握った雪をぶつける。ラッキーが感想をもらす。
「パスカル君には、ご褒美にしかなっていないようだけれど。」
「それでは、僕たちも雪をぶつけましょう。」
「そうだな。」
誠とラッキーでパスカルに雪を多数ぶつける。
「パスカル、感想は。」
「ラッキーさんと湘南の分を差し引いてもご褒美だった。」
「もう、パスカルは。でも本当にそういう話をしちゃだめよ。」
「分かった。でも本当に悪い意味じゃなかったんだって。俺はミーアちゃんのためなら命をかけられる。」
「じゃあ、ここで死んでもらおう。」
「アキちゃん・・・。」
「パスカル、本当に気にしている人は気にしているから。」
「分かったよ。」
「それじゃあ、また滑ろうか。」
「はいよ。」
「ラッキーさん、また先頭をお願いね。やっぱり一番余裕があるし。」
「アキちゃん、了解。初心者用コースとその上の中級者用コースを繰り返して滑ろう。」
「うん、そうしよう。」
リフトに向かう間、亜美が誠に耳打ちする。
「曹長と一尉はいつもあんな感じなのか?」
「はい、その通りであります。」
「なるほど。なかなか興味深い関係だ。」
「ミーア三佐のおっしゃる通りだと思います。」
リフトに乗り、中級者用コースの上に到着すると、ラッキーが後ろを見ながら滑り始める。滑る順番は、ラッキー、アキ、亜美、誠、パスカル、コッコの順番である。
「ラッキーちゃんが、スキー教室の指導員みたいな感じだね。」
「こうやってみんなでゆっくり滑るのも、面白い。」
「まだ、私には結構大変だけど。」
「コッコさん、アキさんが転んだら、起こしてあげて下さい。」
「今はミーアちゃんが起こしそうだけど。アキちゃんとミーアちゃん二人で滑っているところはなかなか売れそうな絵になる。」
「二人とも高校2年生ですから、そうですね。」
2時間ほど滑って、誠は曲の修正のために宿に戻ることにした。
「すみません。僕は宿に戻ることにします。」
「湘南は疲れたんだったな。了解。」
「有難うございます。」
「私も疲れたから、ゲレンデで休んでいるよ。」
「コッコちゃんの目的は違いそうだけど分かったよ。ミーアさんとアキちゃんは?」
「私は午後から始めたので、このペースならまだ滑りたい。」
「私も。」
「やっぱり、若いな。」
「おれもちょっと休んでいるよ。中級者用コースと初心者用コースの中間のお店辺りにはいるから、何かあったらSNSで呼んでくれ。」
「了解。それじゃあラッキーも私たちより全然上手なんだから、一人で滑っても大丈夫だよ。」
「付いているのは構わないんだけど、二人で滑る方がいいかな。僕もスマフォをチェックするようにするから、何かあったら呼んで。」
「うん。有難う。」
「それじゃあ、三佐、行きましょう。」
「了解だ。」
二人は二人乗りリフトに乗るとアキが話しかける。
「三佐はスノボ、何回目なんですか。」
「家族で2回ほど行ったことがあるが、私は寒くてホテルでアニメを見ていることが多かった。二尉から曹長の家庭は豊と聞いたが、スキーに行ったことがないとは意外だな。」
「姉と妹は両親とよく行っていますが、私は家でアニメを見ていました。」
「なるほど。曹長のオタクは私より濃そうだな。」
「それは分かりませんが、今が一番楽しいです。」
「それは私もだ。ところで、二尉はそちらのグループではどんな感じか。」
「チラシ作りや手焼きCDの制作とかはパスカルでもできるようになってきましたので、最近は主に音楽のことをやってもらっています。あとは、Webでもパスカルが不得意なシステムの設定とかをお願いしているみたい。」
「なるほど。こっちでも、社長と仲良く曲を作っているから似たような感じか。」
「社長というと、平田社長さんですか?」
「その通りだ。できた曲に明日夏さんが歌詞をつけている。」
「そうなんですね。でも、三佐、平田社長さんをパスカルと比べるのは社長さんに失礼だと思います。」
「得意分野は違うが、そうでもあるまい。」
「そうですか。うちのプロデューサーをおほめ頂き有難うございます。パスカルが聞いたら飛び上がって喜ぶと思います。」
「それで、二尉には彼女とかはいないのか?」
「今は彼女はいないみたいです。努力すれば作れないことはないと思いますが。」
「曹長から見てどんな人?」
「うーん、すごくいい人だけど、今はそういう気持ちはないです。マリさんはユミちゃんに湘南を結婚相手に推しているみたいだけど。」
「そうだったな。ということは、私が徹君と、二尉がユミちゃんと結婚すれば、二尉は私の兄ということか。」
「徹君ですか!そっそれは・・・。」
「徹君が18歳まで待つから大丈夫だ。」
アキが「プロになるのはこのぐらい濃くなくてはいけないのか。」と思いながら誠の幼馴染の話をする。
「そういえば、湘南には、鈴木さんという車の運転が好きでスポーツが得意な幼馴染の女性がいるんですよ。」
「二尉の幼馴染か。それは新しい情報だな。二人はどんななんだ。」
「鈴木さんの方は湘南に気がありそうだけど、湘南の方はそれに気づかないで、親切にしている感じです。」
「なるほど。曹長が二尉を落とすとすると。」
「湘南を落とすんですか。うーん、結婚してくれないと死んじゃうと言うか、普段はきちんとしていて、時々セクシーな格好と態度で女性と印象付けて、気を見て告白するかだと思います。」
「先制攻撃をかけることが有効ということか。」
「はい。」
「うむ。さすがだな。徹君ならどうだ。」
「徹君は、さすがに。」
「10年かけてだ。」
「うーん、今は徹君が好きなことをいっしょにすることでしょうけれど、もう少し大きくならないとよくわかりません。」
「それもそうだな。曹長、もう少し大きくなったら、また教えてくれ。どうやら、そういうことは曹長の方が得意そうだ。」
「得意というわけでもないですが、分かる範囲でなら。」
「有難う。それで曹長自身はどうなんだ。」
「昔はイケメンタレントが好きでしたが、今は特にいません。ちゃんとしたアイドルになるのが第一です。」
「さすがだな。お礼と言ってはなんだが、私には力はないが、オーディションの情報が入ったらなるべく早く伝えよう。」
「本当ですか!有難うございます。」
アキと亜美は女性二人で滑っているため声をかけてくる男性もいたが、待ち合わせがあると言ってかわしながら、4時ごろまで二人で滑り、宿に戻っていった。
亜美が別荘に戻ると、3人は既に戻っていて、ミサと尚美と別荘の管理人の里子はショーの練習の準備をしていた。
「明日夏さん、ただいま。ミサさんたちは準備を始めているみたいですね。」
「その通りだよ。でも、亜美ちゃん、少し落ち込んでいるみたいだけど、どうしたの?一人で滑って楽しくなかった?」
「いえ、スノボはアキ曹長たちと滑ってとても楽しかったんですが。」
「アキ曹長たちというと、あの5人。」
「そうです。ラッキーさんが先導して6人で滑った後、アキ曹長と二人で滑りました。」
「それは楽しそうだけど、それなら何で落ち込んでいるの?」
「それは、アキ曹長が春から5キロやせたと言うからです。確かに、ゴールデンウイークに見たときと印象がだいぶ違いました。」
「亜美ちゃんは?」
「1キロぐらいです。」
「うーん、亜美ちゃんの場合、大きくなっている分を考えれば他の部分は5キロぐらいやせているんだよ。」
「橘さんやミサさんとは違いますから、そんなに重くはありません。」
「それなら、マー君が言ってた洗面器を使う方法で計ってみようか。」
「さすがにそれは止めておきます。明日夏さんはどうなんですか。プロの歌手になって。」
「ふふふふふ。実は・・・」
「明日夏さん、体重の方です。」
「何だ体重か。体重は高校のころから変わらない。」
「さすが、不動の明日夏さんです。」
「へへへへへ。」
亜美はミサのショーの準備を手伝うために、準備をしている部屋に向かった。
「ただいま。私も手伝います。」
「亜美、お帰り。有難う。」
「亜美先輩、おかえりなさい。有難うございます。」
「おかえりなさいまし。」
「それでリーダー。あの後、曹長と二人でスノボで滑って、二尉についていろいろ話を聞いてきました。」
「そうですか。」
「二尉は音楽の面倒とパスカルさんの手伝いをしているが、パスカルさんが自分でできるようになってきたので今は音楽が中心。二尉に彼女はいない。曹長もアイドルになることが一番でそういう気持ちはない。ただ、二尉には鈴木さんという幼馴染がいて二尉に気がありそう。二尉はそれに気づいていない。二尉と恋人になりたいなら、結婚してくれないと死んじゃうと言うか、普段はきちんとしていて、時々セクシーな格好と態度で女性と印象付けて、気を見て告白するのがいい、とのことです。」
尚美は「確かに両方法ともお兄ちゃんには有効だな。やっぱりアキはお兄ちゃんから引き離した方がいい。」と考えながら答える。
「亜美先輩、有難うございます。」
「亜美、幼馴染の鈴木さんというのは、たぶん私。」
「えっ。」
「昼にも言ったけど、誠といっしょにアキさんにスノボを教えるときに、幼馴染の鈴木と名乗ったから。顔はマスクをしていたから、私とは分からなかったと思う。」
「そうなんですね。」
「それで亜美、アキさんの言う方法は有効だと思う?」
「はい、私から見ても有効だと思います。それで、参考のために徹君と10年後に恋人になる方法も、アキさんに聞いてみました。」
「徹君を!?それはどんな。」
「アキさんにも先のことは分からないようですが、今は徹君の好きなことでいっしょに遊ぶのがいいということだそうです。」
「あの、亜美先輩。」
「リーダー、大丈夫です。法律は守ります。その代わりにアイドルに関して情報が曹長に入ったら連絡すると約束しましたので、もし何か情報が入ったら教えて下さい。」
「分かりました。オーディションの試験に関してはアドバイスしますので、何でも聞いて下さいと、アキさんに伝えて下さい。」
「本当ですか。それは曹長が絶対に喜ぶと思います。」
ミサは亜美の話を聞いて「ステージでは、TシャツとGパンをやめて、あの服にしようか。」と考えていた。
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