第37話 年末
久美と悟がハワイから日本に帰ってきた翌日、火曜日の昼前、『デスデーモンズ』の大樹と治が事務所にやってきた。
「社長、姉御、お早うございますっす。お帰りっす。」
「お帰りっす。」
「大輝、治、ただいま。」
「大輝、治、元気だったか?」
「元気っす。」「俺もっす。」
「それで、明日夏のワンマンライブのバックバンドの方は仕上がってきたか?明後日がスタジオを借りての最終リハーサルになるけど。」
「へい、姉さんと社長さんがハワイに行っている間に、だいぶ練習しておいたっす。明日夏さんの足を引っ張る分けにはいかないっす。」
「それじゃあ、全員揃ったところで聴いてみせて。」
「へい、お願いしますっす。」
「うちが主催で開催するワンマンライブとしては過去最大だから、僕も聴かせてもらおうかな。」
「責任重大っすね。」
「それは、その通り。」
「逆に、社長、ハワイの方はどうだったですっか?」
「何と言っても、暖かくて過ごしやすかった。東京はやっぱり寒い。あと、ライブで明日夏ちゃんとミサちゃんが二人で歌った『あんなに約束したのに』がすごく良かった。」
「それはそうでしょうけど、社長、橘さんの撮影の方は?」
「それは僕からは感想が言いにくい。」
「それじゃあ、悟、美香の水着姿は?」
「最初は天使のように可愛いと思ったけど。」
「社長もミサさんの水着姿を見たんすっか?」
「まあ、一応見たよ。写真撮影の時に久美のパラソル持ちのついでと、翌日のビーチバレーとで。でも、ビーチバレーでミサちゃんのスパイクを受けて、今でも腕が腫れているよ。」
「それは羨ましっす。」
「写真集のサンプルが何冊かは来るだろうから、その時に見せてあげるよ。」
「写真集は自分で買うからいいっすけど、姉御の水着姿も載っているんですよね。」
「その通り。久美の水着姿もなかなかすごいぞ。」
「悟、何だ、すごいって。」
「誠君風に言えば、迫力美人。」
「社長、分かります。姉御の写真はいい魔除けになりそうっす。」
「こら、治、後でとっちめてやるからな。」
「姉御、今とっちめられると、明日夏さんのワンマンで演奏ができないっすよ。」
「それじゃあ、その打ち上げでだな。」
「えー、打ち上げに出られないっす。」
「治、心配しないで大丈夫だよ。大みそかの打ち上げだったら、久美はお酒を飲むので忙しいはず。」
「なるほどっす。さすが社長、安心したっす。」
その後、『デスデーモンズ』の他のメンバーが事務所に到着し、練習室で練習を始めた。
練習が終わって練習室を出ると、事務所に来ていた明日夏が挨拶をした。
「『デスデーモンズ』の皆さん、有難うございます。31日はよろしくお願いします。」
「明日夏さん、違うっすよ。明日夏さんのバックバンドの間は『すっカーズ』すよ。」
「あの時は、あまり考えもなく失礼なことを言ったと思うのですが、『すっカーズ』で大丈夫ですか?」
「演奏する曲調も着ている服も全然違うので大丈夫っす。それより、明日夏さんと社長の女々しいロックの曲を演奏するとき、どうしようか考えているところっす。」
「治、作曲は僕も協力したけど、元は誠君ね。尚ちゃんのお兄さんで、作曲家としての名前は、えーと。」
「辻 道歌。私が名前を考えたんです。」
「そうそう。スタイルは『デスデーモンズ』のパンクロックのままでいい。ギャップがあって受けると思う。」
「悟、ギャップはないよ。『デスデーモンズ』のあの恰好は、カッコいいというより、可愛いと思っている女性ファンの方が多いし。」
「なるほど、それは奥深いな。久美の意見を聞いても、パンクロックのスタイルでいった方がよさそうだ。」
「社長、姉後、分かったっす。パンクロックスタイルでいくっす。」
「そうか、タイヤがパンクして凹んだパンクロックですね。」
「明日夏さんは、相変わらず酷いっす。」
事務所の中が笑いに包まれた。この後、『デスデーモンズ』が夕方のパンクロックライブで演奏する曲の調整をした後、そのライブ会場に向かって行った。
その日の夕方、練習を終えた、明日夏、ミサとナンシー、尚美、由香、亜美がヘルツレコードの新年会について話をしていた。
「ヘルツレコードの新年会、明日夏はどうするつもり?」
「若手は何かやらなくてはいけないんだっけ。私は去年はデビュー前で呼ばれていなかったけど、ミサちゃんは何をやったの?」
「『FLY!FLY!FLY!』を歌ったけど、ロック担当の人を除いて重役の人たちはあまり興味がなさそうだった。」
「重役の方々は本社から来ている人も多いから仕方がないですねー。」
「ナンシーちゃん、やっぱり、重役の人に受けることが重要なの?」
「溝口マネージャーもそう言っていた。」
「最終的決定権は重役の人たちにあるですねー。」
「それほど音楽に興味がないのに?」
「そうですねー。一番は数字に興味があるですねー。だから、いい印象を持ってもらえなくても、悪い印象を持たないようにすることが大切ですねー。」
「なるほど。尚ちゃんはどうするの?」
「兄と相談して『キャンディーズ』の『ハートのエースが出てこない』を歌うことにしました。」
「『キャンディーズ』?あのコメディアンのコンビ、歌なんか出していたっけ?」
「美香先輩、『南海キャンディーズ』ではなくて、昭和の3人組のアイドルグループです。亜美さんには音程が少し高いので、亜美さんはコーラスでハモるようにします。」
「そのアレンジはマー君?」
「カラオケ自体はあるので、歌い方だけですか。」
「ねえ、明日夏、私たちも誠に相談してみようよ。」
「別にいいけど。」
「スケジュールは空いているようだから、湘南さんに電話してみるですねー。」
「ナンシー、誠の電話番号を知っているの?」
「それより、ナンシーちゃん、何でスケジュールが空いているってわかるの?」
「そうか。」
「二人とも、私と湘南さんとは怪しい関係じゃないので心配はいらないですねー。アルバイトをお願いするときがあるから、カレンダーを共有しているですねー。」
「逆に誠もナンシーのスケジュールを知っているの?」
「一応共有しているですねー。だから、ミサの仕事のスケジュールは分かってしまうですねー。でも、ミサのプライベートは分からないから大丈夫ですねー。」
「誠なら、私のプライベートが分かっても別に構わないけど。ナンシーは誠のプライベートのスケジュールも分かるの?」
「カレンダーを仕事とプライベートで分けていなそうだから、分かるですねー。」
「ナンシーちゃんがデートをするときは?」
「私用とだけ書いてあるですねー。湘南さんは詳しく書いていないものがないので、デートはしていないと思うですねー。こんな感じですねー。」
「へー、今日まで大学の授業なんだ。」
「明日から1月4日までが冬休みか。学校の冬休みにしては短いね。」
「その代わり、春休みが2月中旬から1か月半以上ぐらいあるですねー。」
「本当だ。嫌いだったけど、試験期間とか懐かしいや。」
「ねえ、明日夏、私たちが今やっていること覗きじゃない。」
「そっ、そうだね。もうやめておこう。」
「そうしよう。」
「大丈夫ですねー。二人ともお願いしたいことがあるからスケジュールを共有してほしいと言えば、教えてくれると思うですねー。」
「でも、私、スマフォのカレンダー、使っていないし。」
「私も明日夏と同じ。」
「私はカレンダーを使っているので、兄と共有をお願いしてみます。」
「尚ちゃんも共有していなかったの?」
「はい。兄との専用スマフォはありますが、スケジュールの共有はしていませんでした。」
「湘南さん、私の他はパスカルさんともカレンダーを共有していますねー。だから大丈夫と思うですねー。」
「分かった。私もスマフォのカレンダーを使うようにする。」
「私も使ってみるか。便利そうだし。使い始めたら、ミサちゃん、共有する?」
「分かった。共有しよう。」
「とりあえず、湘南さんに電話するですねー。」
「うん、お願い。」
ナンシーが誠に電話する。
「湘南さん?ナンシーですねー。」
「ナンシーさん、こんにちは。何か御用ですか?」
「ヘルツレコードの新年会で『トリプレット』が何を歌うかは、湘南さんが決めたですねー?」
「はい。古い歌の方がいいということで、妹の相談には乗りました。」
「ミサと明日夏さんも、新年会で何をするか悩んでるですねー。それで、湘南さんに相談に乗ってほしいみたいですねー。」
「僕で良ければ喜んで相談に乗ります。ヘルツレコードの新年会の様子は妹からだいたいは聞いています。」
「有難うですねー。今からパラダイス興行に来れますかねー。」
「大丈夫ですが、いま大学ですので40分ぐらい待てますか?」
「大丈夫ですねー。駅からはタクシーを使うですねー。タクシー代は出すですねー。」
「駅から歩ける距離ですからもったいなくないですか?」
「ミサの出演料は1秒1000円ぐらいだから気にすることはないですねー。」
「1時間360万円ということですか。分かりました。美香さんに無駄な時間を使わせないために、駅からタクシーを使わせてもらいます。」
「では、待っているですねー。」
「はい、パラダイス興行で。」
電話を切ったナンシーが明日夏とミサに話しかける。
「湘南さんは、40分以内に来るですねー。」
「ナンシー、有難う。でも、誠と会えるならもうちょっと可愛い服を着てくればよかった。」
「兄も今日は大学に行く普段着でしたから、気にすることはないと思います。」
「そうだけど。明日夏、どこ行くの?」
「洗面所。さっきの練習でふざけて髪が乱れたから直そうと思って。一応、プロの芸能人だし。」
「そうか、私も行く。」
「分かった、一緒に行こう。」
「了解。」
明日夏とミサがパラダイス興行の部屋を出て、廊下にある洗面所に向かった。
「リーダーの兄ちゃん、来るんか?」
「はい、明日夏先輩と美香先輩のヘルツレコードの新年会の件だそうです。」
「それで、明日夏さんとミサさんがおめかしをしにいったのか?」
「それは分かりません。」
「二人とも、憧れの先輩と会う女子高校生みたいだな。」
「由香、そうなんだよ。ミサさんは前からそんなところがあったから分かるけど、明日夏さんまでというのが意外で。」
「亜美、ハワイで何かあったのか?」
「ナンシーさんが床に置いたバナナの皮で、明日夏さんが脚を滑らせて、二尉の方に倒れかかって、二尉が倒れないように明日夏さんを支えるときに手が明日夏さんの胸に触ったということはあったけど。」
「なんじゃ、それは。」
「湘南さんのラッキースケベですねー。でも、もうしないですねー。転ぶのは危ないですねー。」
「でも、亜美、そんなことで気持ちが変わったりしねえだろう。」
「亜美先輩、良く分からないのですが、明日夏先輩が兄に気があるということですか?少し前までの様子からは考えにくいのですが。」
「リーダー、昔なら明日夏さんが私と席を代って、二尉のそばに座るというのも考えられないんじゃないですか。」
「そう言われると、亜美さんの言う通りですか・・・・。『デスデーモンズ』の曲作りのために明日夏さん、兄の隣に座っていましたし。」
「なるほど、明日夏さんが変わり始めたのは、二尉と明日夏さんが二人で曲を作り始めたころからかもしれないです。」
「うーん、それで気持ちが通じたりしたのか。俺も豊とはダンスの意気が合って、自分の相手はこの人かもって思ったもんな。」
「へー、豊さんとはそうだったんだ。顔だけじゃなく。」
「当たり前だ。」
「それじゃあ、取られるのがいやというわけでなくて、曲作りで意気があって気持ちが変わってきているのか。」
「そうかもしれないけど、由香も亜美も余計な詮索はしないの。本人たちに任せればいいだけよ。」
「まあ、橘さんの言う通りだな。」
「橘さん、私たちは単に面白がっているだけで済みますが、リーダーはそんなに簡単じゃないかもしれませんよ。」
「尚も、少年に任せればいいから。」
「橘さん、でも、二尉がミサさんと明日夏さんから迫られたら、二尉は精神的に大変だと思います。」
「少年の性格からすれば大変なのはわかるけど、きっと良い思い出になるわよ。それに明日夏と美香に迫られて悩むなんて、贅沢な話だわよ。」
「ははははは、そりゃあそうだ。」
「リーダー、何か心配なことがあったら言ってください。マリさんから二尉に言ってもらうこともできますし。」
「亜美先輩、有難うございます。必要な時にはお願いします。でも、明日夏先輩も、だからか・・・・」
「明日夏さんがどうかしましたか。」
「いえ、大したことではないです。」
尚美は自分が誠とミサとの関係を先延ばしするかもしれないと言ったとき、明日夏が「いいんじゃない」と答えたことを考えていた。そのとき、明日夏とミサが戻って来た。
「どうしたの、みんな私たちのことを見て?」
「いや、元がいいミサちゃんも明日夏ちゃんも、髪をちゃんとした方が、プロの芸能人らしいなと思って。」
「ヒラっち、やっぱり口がうまいです。でも、私も明日夏を見てそう思いました。」
「やっぱり、プロはいつもきちんとしなくちゃいけないのか。」
「明日夏ちゃん、それはたくさんの人の前に出る仕事だから仕方がないことだよ。4日後には1000人以上のお客さんを前にして、明日夏ちゃんが主役で歌うんだから。」
「そうでしたね。でも、チケットの方は大丈夫なんですか?」
「1200枚ぐらい売れた。関係者席を除いて売れ残りは100枚ぐらいまでになった。」
「それじゃあ、社長、ちゃんとやらなくちゃですね。マー君が来るまで練習しています。」
「明日夏、私も付き合うよ。」
「ミサちゃん、有難う。」
明日夏とミサが練習室に入って練習を始めた。
「今のところ、明日夏さんとミサさん、仲が良さそうだな。」
「由香、何かこっちがドキドキするよね。」
「俺もした。」
「私はハワイでお世話になったし、二尉に挨拶してから帰るけど、由香はどうする?」
「俺もそうする。二人の様子も見てみたいし。」
「大丈夫だとは思うけど。そうだね。」
「それまで何をしていようか。」
「英語の宿題かな。リーダーもいるし。」
「おい、高校生。でも、俺もダンス雑誌の記事を書いて、リーダーに直してもらおう。」
「由香もじゃないか。あの、リーダー、英語の宿題を見てください。お願いします。」
「リーダー、記事が書き終わったら見て下さい。お願いするぜ。」
「分かりました。はい、やらなくてはいけないことを先に片付けてしまいましょう。」
少しして誠が事務所に到着した。
「皆さん、こんばんは。」
「誠君、わざわざ有難う。」
「少年、こんばんは。よく来たな。」
「湘南さん、こんばんはですねー。」
「お兄ちゃん、いらっしゃい。」
「二尉、こんばんは。今、リーダーに英語の宿題を見てもらっているところだ。」
「リーダーの兄ちゃん、こんばんは。俺もリーダーに雑誌記事の原稿を見てもらっているところだぜ。」
「お兄ちゃん、ナンシーさんから聞いたんだけど、お兄ちゃんとナンシーさん、カレンダーを共有しているみたいだけど、私もいい?」
「僕は構わないけど、由香さんや亜美さんの行動が分かってしまいそうだけど?」
「俺は構わないぜ。」
「私も構いません。」
「有難うございます。それじゃあ、お兄ちゃん、帰りの電車で。」
「了解。」
「ところで、兄ちゃん、ハワイはどうだったか?」
「美香さんのスパイクをブロックした腕がまだ痛いです。社長さんは大丈夫ですか。」
「僕もだよ。まだ、腕が赤く腫れている。」
「でも、ミサさんとリーダーから20点を取るって、さすが社長とリーダーのお兄ちゃんだぜ。」
「それは、二人のフォームから球筋を予測した誠君のおかげだよ。」
「社長に背の高さがあったからだと思います。でも美香さんは、もう少し練習すればスパイクの打点をもっと高くできそうでした。そうすれば、もっとブロックしにくくできそうです。まだジャンプ力を完全に活かしきっていない感じです。」
「なるほど。兄ちゃん、そうかもしれないが、ミサさんもバレーボールの選手になりたいわけじゃないだろうからな。」
「はい、そうだと思います。明日夏さんと美香さんは練習中みたいですね。」
「その通り、大晦日の明日夏さんのワンマンライブに向けて練習中だ。」
「分かりました。それでは練習が終わるまで待たせてもらおうと思います。」
「あー、兄ちゃん、それは逆だ。帰るときに新年会の話になって、兄ちゃんを待つために練習しているだけだよ。だから、きりの良さそうなところで呼んだ方がいい。」
「はい、了解です。」
その時、練習室の明日夏が事務所で話している誠に気づいた。
「どうしたの明日夏、急に歌うのやめて。」
「ごめんなさい。でもマー君がいる。」
「えっ、あっ、本当だ。」
「新年会のこと、相談しに行こう。」
「分かった。」
明日夏とミサが練習室から出てきた。
「マー君、わざわざ有難う。」
「誠、有難う。」
「いえ、こちらこそ相談してもらえて光栄です。話は妹から聞いてだいたい分かっていますが、昭和の歌がいいんですよね。歌ってみたいジャンルとかありますか。」
「うーん、マー君に任せる。」
「私は、歌うよりバックバンドとしてギターを演奏したいかな。」
「バックバンド?まあ私も構わないけど。」
「美香さんはアコースティックギターも弾けますか?」
「うん、大丈夫。」
「ナンシーさんは新年会に出られるんですか?」
「出るですねー。」
「それでは『カーペンターズ』の曲をナンシーさんが歌って、美香さんがギター、明日夏さんがシンセサイザーを演奏するというのはどうですか?」
「カーペンターズ、木こりの曲?」
悟とナンシーが笑う。
「ミサちゃん、『カーペンターズ』はボーカルの妹と、ピアノと作曲を担当した兄の二人からなるユニットで、昔は日本でも有名だったんだよ。」
一瞬、妹と兄と聞いて尚美の目が輝いたが静かに話を聞いていた。
「でも、私に歌えますかねー。」
「今のナンシーさんならば大丈夫だと思います。」
「有難うですねー。」
「何曲かかけてみますね。」
「うん、お願い。」
誠が『カーペンターズ』の曲を3曲かけた。
「本当に綺麗なメロディーだわね。」
「久美も聴くのは初めて?」
「店で流れているのを聴いたことはあるけど。」
「でも、ゆっくりした曲が多いから、演奏できないことはなさそう。明日夏も大丈夫だよね。」
「大丈夫だと思う。」
「カラオケもあるので、ナンシーさん、試しに歌ってみてもらえますか?」
「分かったですねー。『クローズ・ツー・ユー』(英語題「(They Long To Be) Close To You」日本語題『遥かなる影』)をお願いするですねー。」
「了解ですね。なるべく落ち着いて丁寧に歌ってください。」
「分かったですねー。」
練習室に行って、ナンシーが歌った。
「なんとかなりそうな気がします。」
「僕もなかなか良かったと思うよ。」
「ナンシーがアメリカ人って、実感した。」
「湘南さん、社長さん、久美さん、有難うですねー。もう少し練習してみるですねー。」
「お願いします。明日夏さん、美香さんもこの曲で良いでしょうか。」
「いい曲だと思う。これでやってみよう。」
「私もいいけど、ギターとシンセサイザーのアレンジ用の編曲は、マー君がやってくれる?」
「はい、急いでやります。完成したら社長に見てもらえればと思います。」
「了解。」
「一曲は決定。誠、二人分だから、もう一曲ぐらいできるけど。」
「次は美香さんと明日夏さんで歌いますか?」
「うん、そうする。」
「ミサちゃん、せっかくだから、もう一曲もナンシーちゃんに歌ってもらおうか。」
「もしかしたら、それはナンシーのため。」
「何かのチャンスになるかもしれないし。」
「そうね。分かった。誠、ナンシーの2曲目、どんな曲がいいと思う?」
「それでは、曲調をガラっと変えて『夏色のナンシー』とかはどうでしょうか?」
悟が笑う中、ナンシーが尋ねる。
「何ですねー、その曲。」
悟が答える。
「ナンシーさん、昭和の歌謡曲だけど、確かに曲調がガラっと変わって面白いかもしれないね。」
「聴かせてもらえますかねー。」
「はい。了解です。」
誠が『夏色のナンシー』をかける。
「面白いですねー。これが夏色のナンシーですね。」
「これも速くないからなんとかなりそう。」
「私もそう思う。これで行こうか。ナンシーもいい?」
「了解ですねー。でも、本当に私が2曲も歌って大丈夫ですかねー?」
「ナンシーちゃん、上手だから大丈夫だよ。」
「うん、みんなびっくりすると思う。」
「こちらも、アレンジの案を作って社長にお送りします。前奏、間奏、終奏を少し長めにする予定です。」
「本当の主役はミサちゃんと明日夏ちゃんだから、そっちの方がいいね。でも、誠君、思ったより簡単に決まったけど、準備してあったの?」
「はい、一応考えてありました。もし、明日夏さんと美香さんが二人で歌うならば、サイモン&ガーファンクルとピンクレディーにするつもりでした。」
「ナンシーさんの2曲と全然違うけど、新年会だったら面白そうだね。」
「ピンクレディーは、歌より振付がメインになるとは思いますが。」
「でも、ピンクレディーか。」
「明日夏は知っているの?」
「セクシーな感じで売っていた女性二人組のユニット。アニメでもネタで出てくる。」
「セクシーな感じなんだ。」
「今から見るとそれほどでもないかもしれません。こんな感じです。」
誠がビデオを見せる。
「それほどでもないか。」
「私も何とかなりそう。」
「美香、アメリカのロック歌手の方がもっとセクシーな格好しているよ。」
「それは、そうなんだよね。私もあまり売れなかったら、そういう格好で歌えと言われそうで、それが一番憂鬱。」
「ミサちゃんは、アメリカではどういう格好で歌うの?」
「とりあえずは、ジーンズと白いTシャツのつもりだけど。」
「なるほど。ミサちゃんの場合は、それでも十分セクシーかもしれない。」
「でも、ミサさんの場合、日本的な面を出した方が売れるんじゃないでしょうか。」
「亜美ちゃんの言うことは分かるけど、具体的には?」
「和服をアレンジするとかはどうでしょう。」
「それだとセクシーさはなくなっちゃう。」
「セクシーさがなくなるのは構わないけど。和服のままだと動きにくくなりそう。」
「動きやすくするならば、袴にすれば大丈夫だとは思います。」
「なるほど、誠君の言う通り、日本風にするなら袴の方が良さそうだね。」
「でも、誠自身は私がどんな服で歌うといいと思う?」
「美香さんは歌がとても上手ですから、何を着ても同じだとは思いますが。」
「誠、酷い。」
「歌だけではなくて、美香さんは中身が美人でスタイルも良いですので、何でも大丈夫です。」
「マー君、女の子にとって服は自分の一部みたいなものだから、ちゃんと答えないと。」
「えーと、僕のようなアニメファンの受けを狙いつつも、あまりセクシーじゃない方がいいならば、高校の制服みたいな感じじゃないでしょうか。」
「えっ、明日夏と同じだ。」
「うん。実はミサちゃんは私のワンマンで高校の制服を着てくる予定なんだよ。マー君、楽しみができて良かったね。」
「はっ、はい。もちろん秘密は守りますが、美香さん出演されるんですか。ギャラの問題は解決したんですか?」
「溝口社長が通常の10分の1にしてくれたんですねー。星野さんで稼がせてもらっているからですねー。それでミサはシークレットゲストですねー。」
「なるほど。でも美香さん、良かったですね。」
「うん、明日夏のワンマンに出演できるのは本当に嬉しい。」
「でも、美香先輩、明日夏さんにいろいろ変なことをさせられそうですけど、大丈夫ですか?」
「明日夏のワンマンだから覚悟をしている。」
「マー君、ミサちゃんがどんなことをするか分かる?」
「正解は言わなくていいですが、制服を着るなら美香さんが食パンをくわえて走るとかですか?」
「やっぱり分かるか。」
「セオリーですから。」
「私は何をすると思う?」
「ツンデレ。」
「うーん、何でそう思った?」
「明日夏さんのファンがいっぱいいるところでは、やはりセオリーだと思います。」
「まあそうだね。後はお楽しみに。」
「はい、そうさせてもらいます。」
「それでは二尉、ミサさんが日本的なセクシーな格好をするとすれば、どのようなものがいい?」
「三佐、お答えしなくてはいけないでしょうか。」
「いや、二尉ならばミサさんがアメリカでセクシーな格好をするときの参考になることが言えると思ったが、答えにくければ答えなくて構わない。」
「亜美、それは全裸に決まっているだろう。」
「橘さんは、話をややこしくするので静かにしていて下さい。」
「明日夏も、二十歳を過ぎれは分かるよ。」
「でも橘さん、ホールでそんなことをすると、日本に強制送還になると思います。」
「それは少年の言う通りだな。分かった、全裸は美香と二人でいるときにしてもらえ。」
「・・・・・・・・。」
「少年も美香は中身が良いって言っているんだから。」
「本当に・・・」
ミサが話そうとしているところに、誠と明日夏が割り込む。
「橘さん、セクハラです。」
「マー君の言う通り。それで、マー君、ミサちゃんが少しセクシーな格好をするなら、どんな衣装がいいと思う?マー君が言わないと収集がつかなくなる。」
「分かりました。えーと、はい、強いて言えばバニーガールでしょうか。」
「おー、さすがマー君、そっちで来るか。」
「そのアニメは私も知っている。『God knows』、いい曲だしライブで歌う時がある。でも、お客さんの前でバニーガールの格好はちょっと無理かな。」
「えー、今、次の私のワンマンはバニーガールをお願いしようと思ったのに。」
「明日夏、それはやっぱり無理かもしれない。」
「溝口エイジェンシーとしても検討が必要ですねー。」
「ナンシーちゃんが言うんじゃ難しいか。」
「少年、バニーガールで歌うのは二人の時にしてもらえ。美香もそれならいいだろう。」
「はい、バニーガールなら大丈夫です。」
「良かったな、少年。」
「えーと、でもTシャツとジーンズは美香さんらしいですし、美香さんの魅力を十分に引き出せると思います。」
「分かった。誠の言う通りにする。」
「少年、私の話を無視しやがって。」
「ですから、そういう冗談は、同性でもセクハラになります。」
「まあいい。それじゃあ、少年、明日夏がセクシーな格好をするとすると?」
「あまり、似合わないんじゃないでしょうか。可愛い格好の方が良いと思います。」
「少年、それが一番いけない答えだな。明日夏じゃなければ傷つく。」
「橘さん、私でも傷つきます。」
「それでは、片方の肩と反対側のわき腹を出した白い女神さまのような服でしょうか。」
「なるほど、少年にとって、明日夏は女神で、美香はバニーガールなのか。それで、女神とバニーガール、どっちがいい。」
「橘さん、女神とバニーガールなら、普通、女神じゃないでしょうか。」
「亜美、恋愛はそんなに簡単なもんじゃないから。」
「亜美、俺にも分かる。憧れと恋愛は違うようだ。」
「なるほど、そうなのか。」
「でも、アニメのバニーガールの人も宇宙を創造したり、物理法則を書き換えることができる神のような人ですし、僕にとっては二人とも神様のような人です。」
「では、どっちの神が欲しい。」
「えーと、ラッキーさんとパスカルさんは、髪が欲しいと言っていました。もう少しすると、僕も神より髪の方を心配しなくてはいけないかもしれません。」
話を聞いていた悟が助け舟を出す。
「へー、二人ともそうなんだね。実は僕も心配しているところなんだよ。」
「はい、ホルモンの関係で、男性の方が髪がなくなりやすいみだいです。」
「悟、大事な話の邪魔をしない。」
「久美、髪の話は重要なんだよ。でも、今はそんな話より、今は明日夏のワンマンについて考えなくちゃいけない時だよ。それで、誠君、できればワンマンの前に明日夏の歌を真理子さんという方に聴いてもらえると嬉しいんだが、聞いてみてもらえる?」
「真理子先輩を呼ぶのね。悟、それはいい考えだと思うわ。」
「分かりました。今すぐ聞いてみます。」
誠がマリに連絡して、その結果を報告する。
「明日の午後、徹君をこっちに連れてきていいならば大丈夫という話ですが。」
「徹君は私が面倒をみますから大丈夫です。明日の午後は予定が入っていませんし。」
「亜美ちゃん、本当に大丈夫?マリさんにはレッスン講師代として1時間3000円ぐらい払えるけど,亜美ちゃんには芸能活動じゃないからバイト料で1時間1000円ぐらいになるけど。」
「社長、無料で構いません。その方がまたマリさんを呼びやすくなるでしょうし。」
「亜美ちゃん、そういうわけにも。」
「社長、亜美ちゃんは子供好きですが、場所が事務所で母親の目も届くころですので、無料ということで良いと思います。」
「『子供好きですが』?明日夏ちゃんの言っていることが良くわからないんだけど、亜美ちゃん、本当にいいのね?」
「はい、喜んで。」
「それじゃあ、お願いするね。」
「責任をもって預かります。」
誠がマリにOKの旨を連絡する。
「はい、明日14時にここへ来るそうです。駅から事務所までは僕が案内します。」
「二尉、徹君を迎えるために私も行こう。」
「それでは、13時40分に改札前に。時間が変わる可能性がありますので、アキPGを見るようにして下さい。」
「了解。」
「誠、明日もここに来るんだ?ナンシー、私の午後の予定は?」
タブレットを出していた誠が答える。
「たぶん、雑誌の取材だと思います。」
「そうですねー。雑誌の取材ですねー。写真も撮るですねー。」
「そうか、誠、私のスケジュールが分かるんだっけ。」
「ナンシーさんとスケジュールを共有していて、美香さんの仕事のスケジュールが分かってしまいます。申し訳ありません。良く考えるとまずいですね。」
「私は別に構わないけど。それより、誠、カレンダーを私とも共有してくれる。」
「僕の方は構わないですが。」
「明日夏はどうする?」
「私も曲作りで便利だから、できれば。でも二人ともスマフォのカレンダーを使っていなかったので、その方法から教えてもらえると。」
「うん、明日夏の言う通り。私も普通の手帳を使っている。」
「分かりました。このカレンダーはウェブアプリケーションなので、スマフォ、タブレット、パソコンのどれでも同じカレンダーを編集することができます。このサービスのアカウントはもっていますか?」
「良くわからん。」
「分かりました。それでは、そのアカウントを作るところから始めましょう。」
「メルシー、ボク。」「有難う。」
誠は明日夏とミサのアカウントを作成して、カレンダーの使い方を伝えて、お互いに共有できるように設定する作業を二人に説明しながら始めた。それを見ていた久美が悟に話しかける。
「こういうときの少年は元気だな。」
「やっぱり、音楽の話だと、ボーカルはどうしても一段高いところにいる感じがして、誠君も委縮するのかもしれないね。」
「そうか?作曲家も高いところにいるだろう。」
「まあ、アマチュア作曲家とプロのボーカルだからね。それも、ミサちゃんは武道館でワンマンを歌うぐらいだから、神様のように見えても仕方がないと思うよ。」
「そんなものか。でも、そうすると『キャラバン』のみんなは私のことを高いところにいると思っていたのか。」
「ジュンも含めて、そう思っていたと思うよ。だから久美があんなに勝手なことをしても、みんな笑って認めていた。」
「なるほど、そうだったのか。」
亜美も三人の様子を見ながら由香に話しかけていた。
「由香解説員。」
「何だ、解説員って。」
「いや、私より詳しいから解説してもらえると思って。二尉とミサさん、明日夏さんの距離をどう思う?」
「ミサさんは兄ちゃんにピッタリ、明日夏さんは少しだけ離れていることか。」
「その通り。」
「うーん、ミサさんはあまり何も考えないで説明を聞いている。兄ちゃんは教えることに集中している。明日夏さんの微妙な距離は、兄ちゃんを少し意識している感じはする。」
「なるほど。」
「でも、明日夏さんと兄ちゃんの距離がだんだん縮まっている気がする。」
「さすが、由香解説員、細かいところまで良く見ている。」
「あー、ミサさんと同じぐらいの距離になってきた。」
「由香解説員は、この先どうなると予想する?」
「この距離を保つんじゃないかな。」
「そうじゃなくて、もっと先。」
「それは兄ちゃん次第だからな。俺には分からない。」
「二尉、ミサさんの手が触れて恐縮している。」
「ラブコメみたいだな。」
「今度は明日夏さんの手が触れて二尉が恐縮している。由香解説員、今のは明日夏さんがわざとやったのでしょうか?」
「ちょっと分からないな。俺や亜美と違って、明日夏さんがわざとやったとすると、それはかなり大変なことというのは確かだけど。」
「なるほど。由香の意見には賛成できる。」
「でも、亜美、4月には3人とも二十歳だし、こっちは静かに見ていればいいんじゃないか。」
「そうだよね。ところで、私たちもカレンダーの共有をする?」
「いやだよ。豊以外とはしないよ。あたり前だろう。」
「なるほど、そうか。」
3人のカレンダーの設定や共有の作業が終わった。
「しかし、面白いね。自分のカレンダーに予定を書くと、すぐにミサちゃんの画面にその予定が現れるんだから。」
「本当。」
「でも、これでお互い予定がわかっちゃうのか。悪いことはできないな。」
「明日夏、悪いことなんてしなければいいだけのことだから。」
「ミサちゃんとマー君の予定が不自然に重なっていたら、ミサちゃんがバニーガールの格好をして歌っていると思っておくよ。」
「えっ、あっ、そうか。」
「一人で何個でもカレンダーを作ることができますから、もし予定を知られたくないならば、秘密のカレンダーを作っておいて、そのカレンダーを自分だけに共有すれば、自分は秘密のカレンダーと公開のカレンダーを同時に見れますが、他の人は公開のカレンダーしか見ることができないようにできます。」
「なるほど。さすが腹黒マー君だ。」
「僕は一つしか使っていませんが、僕と違って皆さんの場合はいろいろありますよね。」
「そんなにはないんだけど、一応、誠、その設定もお願いできる?」
「はい、喜んで。明日夏さんはどうします?」
「じゃあ、一応、お願い。」
誠がそれぞれもう一つのカレンダーを設定する。
「こちらに入力すると、自分のカレンダーには表示されますが、僕や明日夏さんのカレンダーには表示されません。」
「本当だ。・・・・でも、誠に秘密の予定があるわけじゃないからね。」
「はい、大丈夫です。」
「マー君は秘密のカレンダーを作らないの?」
「今のところは。先のことは分からないですが。」
「なるほど。」
「あと、このアカウントでメッセージやトークができます。僕から送ることは絶対にしませんが、もし何か用事がありましたら呼んでください。」
「マー君、それ、どうやってやるの?」
「メッセージがこれで、トークはこれです。あとメールも使えます。メールはこれです。」
「誠、有難う。この前みたいなときには呼ぶかもしれない。」
「はい、そういう時は遠慮なく使ってください。」
「お腹が空いた時にもいいか。」
「はい、食パンを持っていきます。」
「食パンか。くわえて来ちゃだめだぞ。」
「分かっています。僕は女子高生じゃないですから似合いません。」
「それは、そうだな。」
「新年会の編曲の方は明日夏さんにワンマンがあるのでその後でも大丈夫とは思いますが、早めに社長にお渡しします。あと何か質問とかありますか?」
「特にないかな。」「私も大丈夫。」
「有難うございました。尚はもう帰れる?」
「うん、もうこっちじゃないとできない仕事はないから帰れる。」
「それじゃあ、」
ミサが誠の話を中断させる。
「誠、ハワイで撮った写真を見せてくれる。私のも見せるから。」
「あっ、はい。分かりました。」
「尚も誠がいるから、時間は大丈夫だよね。」
「はい、まだ大丈夫です。」
「それじゃあ、みんなで写真を見せあおう。」
「分かりました。画像を一度パソコンに転送しましょう。その方が大きなディスプレイで見ることができます。ファイルは見終わったら消します。」
「分かった。」
「じゃあ、マー君、転送の作業をやってて。私は近くのケーキ屋さんでケーキを買ってくる。ライブの前祝いで私のおごりでいいよ。」
「明日夏、誠は新年会の相談にも乗ってくれたし、私が出すから立て替えておいて。」
「ミサちゃん、私でもケーキぐらいは大丈夫。」
「明日夏ちゃん、事務所で出すから領収書を会社名で取っておいて。そのぐらいの活躍はしてくれているから。」
「えへん、さすが私。でも社長、有難うございます。」
「えっ、活躍したのは明日夏ちゃんじゃなくて誠君だよ。」
「えー、社長がマー君に浸食されている。でも、有難うございます。とりあえず行ってきます。」
「行ってらっしゃい。気を付けて。」
誠がスマフォから画像の転送を終えるころ、明日夏が帰ってきた。
「明日夏、お帰り。・・・ケーキ、ホールで買ってきたの?」
「みんなで同じものを食べるのもいいかなと思って。」
「尚たちが紅茶を入れているから、私がケーキを切り分けるね。明日夏の分を一番大きくするから。」
「いや、子供じゃないから大丈夫。尚ちゃんと亜美ちゃんの分を大きくしてあげた方が。」
「明日夏らしくないけど、分かった。」
「明日夏さんもスマフォをお借りできますか。」
「違う写真を転送しちゃだめだよ。」
「日付で確認しますから、ご心配なく。」
「明日夏、何か秘密の写真があるの?」
「それは秘密です。」
「明日夏さん、写真の転送が終わりました。スマフォをお返しします。」
「早いねー。」
「やはり有線で繋ぐと速いです。あと、全員の写真をマージして、撮影時間順にソートしてあります。」
「さすがマー君。一家に一人欲しいところだね。」
「アレクサの代わりですか。」
「そうそう。マー君、今日の予定は?」
共有したカレンダーを見ていう。
「午後11時からアニメ鑑賞です。」
「マー君、有難う。」
「明日夏、誠をアレクサ扱いは酷いんじゃない。」
「まあそうだね。ごめんなさい。」
「美香さん、単なる冗談ですから。それに本当に行ったら、掃除しろ、片付けろでアレクサよりかなり酷い扱いを受けると思います。」
「ははははは、そうかもね。私の家だったら家政婦さんや執事さんに何でもやってもらえるから楽だよ。」
「その代わりに美香さんの運動に付き合うのが大変そうです。」
「誠、酷い。」
「しかし、マー君は難攻不落だな。とりあえず、みんなでハワイの写真を見ようか。」
「そうしようか。」
「はい、了解です。」
「俺はハワイに行かなかったら楽しみだぜ。」
お茶とケーキを食べながら、ハワイで撮影した写真の鑑賞が始まった。誠がハイビスカスの花をヘルメットに付けている写真が映し出された。
「誠が一番可愛い。」
「本当だ。マー君が一番ハイビスカスの花が似合っているね。」
「何だ、兄ちゃん、みんなのおもちゃになっていたのか。」
「はい、そんな感じでした。」
「でもやっぱ、兄ちゃんよりミサさん、すごい奇麗だな。」
「由香、有難う。」
「僕は比較対象ですらないと思うのですが。」
「でも、最初に目が行くのは兄ちゃんだぜ。」
「それで、すぐに目をそらすんですね。」
「マー君、そんなことはないよ。心がほがらかになるよ。」
「笑えるということですね。それなら良かったです。でも、他のみなさんも、奇麗でやっぱり一般の方と違うという感じがします。」
「一番一般の人と違う感じがするのは兄ちゃんだって。この恰好でハイビスカスは、やっぱりふた味は違うぜ。」
「なるほど。」
「橘さんは強そうな奇麗さだな。」
「由香、私は全然強くないわよ。だからキックボクシングをやっているのよ。」
「久美、キックボクシングやろうとするだけ強いよ。」
「はい、橘さんと明日夏さんは、気がすごく強いと思います。逆に力が強いのは美香さんですが。」
「誠、明日夏の気が強いのはわかるけど、私はそんなに力が強くないわよ。」
「ミサさん、筑波山での勝負に全く勝てなかったから、間違いないですよ。」
「はい、美香さん、自信を持って大丈夫だと思います。」
「マー君、そんな自信が必要?」
「何かがあったときに萎縮する必要はないということです。」
「それはそうだね。」
誠が表示する写真を進める。
「ライブ前か。やっぱり、明日夏さんは可愛く、ミサさんはカッコいいな。」
「私も本当は可愛い方がいいんだけどな。」
「でも、服の好みはカッコいい系ですよね。」
「憧れるのはカッコいいロックシンガーだけど、自分自身は可愛い方がいい。」
「ミサちゃん、わがまま。」
「うん、明日夏の言う通りかも。誠はバニーガールだったけ。」
「あっ、いえ。それは、セクシーな格好だったらということで、カッコいいと可愛い以外でしたら、清楚という感じもいいと思います。」
「おお、高校の制服ね。」
「はい。ただ、制服は高校は卒業してしまいましたので、普通のところで着るのは難しいですが。」
「誠、分かった。清楚ね。研究してみる。」
「二尉、明日夏さんについてはどういうのがいいと思うか?」
「明日夏さんは、主が可愛いで、時々奇麗でしょうか。」
「なるほど。最初は天然で可愛い系の主人公の作画が最終回で変わって、奇麗な美人に描くアニメがあるが、二尉、そういう感じか。」
「はい、三佐の言う通りであります。」
「マー君、私はどうしたら奇麗になれると思う。」
「真剣な目をして、真面目なことを考えるといいと思います。」
「いつもは、不真面目なことを考えているように見えるということか。」
「はい。」
「うー。それじゃあ、こんな感じか。」
「はい、そんな感じです。」
「うん、明日夏、奇麗。」
「明日夏ちゃん、こんなに美人だったんだ。」
「あの、みんなで私をおもちゃにしているでしょう。」
「明日夏ちゃん、そうでもないよ。本当のことだよ。」
「ちなみに明日夏さん、今は何を考えていたんですか?」
「SDGsのことだよ。」
「SDGsの17の目標のうち、どれですか?」
「いや、この前のイベントで司会者が言っていたSDGsって何だろうって考えた。」
「なるほど。分かりました。SDGsはこのページを見ると分かりやすいです。」
「分かりやすくはないが、よく話題になるし読んではみるよ。」
「有難うございます。」
「僕もそれはいいことだと思う。その時間は明日夏ちゃんが奇麗になれるから。」
「社長、マー君の浸食が進行しすぎです。」
「そうか。ごめん。」
誠が表示する写真を進める。
「亜美、難しい顔をしているけど、なんでおもちゃ屋さんにいるんだ?」
「由香さん、それはあまり聞かないほうが・・・・」
「由香、明日夏さんがおもちゃ屋さんに行けば、いろんな可愛い男の子がいるからということで行ったんだけど、結局、徹君に並ぶ可愛い子がいなかったからだよ。」
「兄ちゃんのいう通り、聞くんじゃなかった。でも、この日はミサさんの海岸での写真撮影の日だよな。」
「はい、その通りですが、それだけに僕はこの日は写真を撮影していません。」
「私もそれどころじゃなかった。ナンシーは?」
「私も撮らなかったですねー。本当は、あの瞬間を撮りたかったですねー。」
「ナンシー、その件は秘密で。」
「分かりましたですねー。」
「由香には後で教える。」
「亜美、サンキューな。」
「由香ならいいけど、絶対広めちゃだめだよ。」
「ミサさん、了解です。豊かにも言いません。」
「有難う。」
「あの日は、僕がナンシーさんの写真を撮ったけど。」
「おー、ナンシーさん、カッコいい。太ももに付けているのは拳銃?」
「由香さん、ハワイはアメリカ人でも住んでいないと拳銃を持つのは難しいですねー。だからテザーガンですねー。」
「そうなんだ。でもカッコいい。」
「次は、明日夏さんが撮った打ち上げの時の写真です。」
「酔っ払い二人と天使一人か。」
「由香、誰だ酔っ払いって。」
「でも、橘さん、タダで美味しいお酒が飲めたからいいですねー。」
「それはそうね。タダだともっと美味しくなる。」
「そうですねー。どんどん、飲めるですねー。」
「だめだこれは。」
誠が表示する写真を進める。
「これが最終日の写真です。」
「みんな楽しそうだなー。」
「うん、楽しかった。生まれてから一番楽しかったと思う。」
「ミサちゃん、大げさな。」
「明日夏が一番楽しかったのは?」
「うーん、小学2年生の夏とかかな。でも、同じぐらい楽しかったかも。」
「なるほど。亜美は?」
「この前の鍋パーティで、徹君と再会できたときです。」
「亜美、それ温泉での話だろ。やばいから外で言うなよ。」
「由香と違って、奇麗な関係だから大丈夫。」
「亜美、いいか、恋人関係より美しいものはないんだよ。」
「由香、いいことを言うな。亜美、その通りだよ。でも、亜美の場合はあと10年はだめだな。」
「橘さん、分かっています。忍耐力はある方だと思います。」
「マリさんも、亜美さんは大丈夫と言っているので大丈夫だと思います。最後は、社長と僕の写真です。」
「いつもは写真を撮られる方だから、撮るのは面白かった。」
「ミサちゃんの言う通り。」
「社長と兄ちゃん、ここでもおもちゃか。」
「はい、そんな感じです。」
「でも兄ちゃん、このメンバーのおもちゃになるなら、男子として本望だろう。」
「はい、とても楽しかったです。ただ、その分、警備が少しおろそかになってしまったことが反省点です。」
「誠、本当に楽しかった?」
「はい、僕も本当に生まれてから一番楽しかったと思います。」
「アキさんたちと居るときよりも?」
「えーと、少なくとも歌を聞いているときは絶対的に楽しいです。」
「ミサちゃん、そういうことは聞くもんじゃないよ。」
「そうか、それは明日夏の言う通りかも。誠、ごめんなさい。それじゃあ、その件はいいから、また海で遊ぼう。約束したの覚えてる?」
「はい、覚えています。もう少しすると、皆さんはすごいイケメンの方々と行くようになると思います。でも、その時が来るまでは喜んでご一緒します。」
「誠よりイケメンの男性なんて、この世にいないから、自信を持って。」
誠は「お世辞?それとも、自信を持つように言ってくれているのか?」と思いながら答える。
「有難うございます。でも、今は来年の夏の海より全米デビューの方を頑張ってください。」
「うん、誠の言う通り。ちょっと浮かれていたかもしれない。絶対頑張る。」
「はい、その方が美香さんらしいです。」
「でも、その先の楽しみがあった方がいいから、約束は忘れないでね。」
「はい、約束は守ります。」
「有難う。」
「私も、年末のワンマン、頑張らないと。」
「はい、楽しみにしています。明日はマリさんをここまで案内しますので、意見を聞いてみて下さい。」
「ダコール。」
その後、ミサの全米デビューや明日夏のワンマンの話などをしてから解散となった。帰りの電車の中、誠と尚がカレンダーを共有した。
「ねえ、お兄ちゃんも、キーボードとかやってみたら?キーボードは楽器の方ね。」
「カーペンターズの影響?」
「そう。」
「うーん、僕がやるとすると、マニュピレーターとかかな。」
「それでもいいから、今度、いっしょにやってみようよ。」
「分かった、いっしょにやってみようか。でも、美香さんが僕のことをイケメンみたいに言っていたけど、あれはお世辞なの?お世辞はあまり言わない人だと思っていたけど。」
「ハワイでお世話になったお礼じゃないかな?」
「尚への感謝もあるかもしれないね。生まれてからイケメンなんて言われたことがないから、意味が分からなかった。もしかすると、周りがすごいイケメンばかりで、イケメンに飽きているのかな。」
「ははははは、それはあるかもしれないね。イケメンは3日で飽きるか。あっ、その先は思っていないからね。」
「分かっている。美香さんの全米デビュー、上手くいくといいけど。明日夏さんのワンマンも。」
「うん、私もそう思う。」
「それで、尚のワンマンの方はどうなの?」
「これからも頑張るけど、チケットは3分の1ぐらい売れている。半分売れれば、最低限の責任は果たせる。」
「もう少しだね。」
「でも『トリプレット』より、翌日の『ハートリングス』が本当に全然売れていないみたい。溝口エイジェンシーの力を持ってもアイドルユニットを売り出すのは結構大変みたい。」
「『ハートリングス』?5人組のユニットだっけ。最近、ときどき名前は聞くけど。レンジャーものみたいな雰囲気は合っていなさそうだった。」
「ドームライブも急に解散した『アイドルライン』の穴埋めといっても、もう少し売れないと困るから、『トリプレット』がそっちをサポートすることになりそう。」
「そうなんだ。でも、そっちの細かいことは溝口エイジェンシーの人にまかせて、尚は気楽にやればいいんじゃないかな。」
「ううん、溝口エイジェンシーの人にお世話になっているから頑張るよ。だから帰ったら『ハートリングス』の資料を見ないと。」
「さすが、尚。」
「有難う。お兄ちゃん。それでお願いなんだけど、お兄ちゃんが『トリプレット』のために作った曲を、5人用に変えてくれないかな。」
「いいけど、『ハートリングス』用ということ。」
「うん。やっぱり、『トリプレット』で採用してもらうのが難しそうだから。」
「尚たち、だいぶ有名になっているから仕方がない。でも、いくら売れていないとは言え、『ハートリングス』に採用してもらうのも難しそうだけど。」
「普通のアイドルの曲の方が似合うんじゃないかと思って、溝口マネージャーに話して試してみるつもりなんだけど。」
「テストということだね。分かった。その変更ならそんなに手間はかからない。」
「お兄ちゃん,有難う。」
尚は「『ハートリングス』を成功させて、プロデュースに口を出せるように頑張ろう。うまく行けば、アキとユミを『ハートリングス』に放り込んで、二人をお兄ちゃんから引き離すことができる。」と思案を巡らせていた。
翌日、誠が渋谷で待っていると、亜美といっしょに明日夏がやってきた。
「二尉、こんにちは。」
「マー君、こんにちは。」
「明日夏さん、三佐、こんにちは。明日夏さんも、駅まで迎えにいらっしゃったんですね。」
「時間もあるし、亜美ちゃんが男性と二人でいるところを見られると、恋人と誤解されるかもしれないし。3人ならばマー君はスタッフさんに見えると思って。」
「三佐となら、二人でも恋人には見えないと思いますが、有難うございます。」
明日夏が少し不安そうに呼びかける。
「マー君。」
「はい、何でしょうか。」
「うーん、何でもない。」
「そうですか。大丈夫です。ワンマンは絶対成功すると思います。次は腐女子の第二の街、中野でワンマンをお願いします。」
「中野でワンマンか。それはいい。」
「マリさんたち、今、駅に到着したみたいですから、すぐにいらっしゃると思います。」
「二尉、緊張するな。」
「三佐、徹君の反応が心配ですか?でも、どうやって遊ぶつもりですか?」
「とりあえず、最初は歌とダンスをしようと思う。」
「自分の得意な方に引き込む作戦ですね。」
「その通りだ。それがだめならボードゲームをする予定。」
「三佐、バックアッププランまで考えていて、さすがです。あっ、マリさんと徹君がいらっしゃいました。アキさんとユミさんもいっしょみたいです。」
12月28、29、30日は平日であったが、パスカルが冬休みに入ったこともあって、『ユナイテッドアローズ』はライブに毎日出演していた。マリたちが到着して、誠がお互いを紹介する。
「こんにちは。えーと、こちらが、今回指導をお願いするアニソン歌手の神田明日夏さんです。こちらが、マリさん、アイドルユニット『ユナイテッドアローズ』のアキさん、ユミさんとマリさんのお子さんの徹君です。」
「ヘルツレコード所属、パラダイス興行の神田明日夏と申します。今日は、私のボイストレーニングを担当している橘久美さんをご指導頂いた、真理子先生にご指導いただけるということで、大変うれしく思っています。」
「こんにちは。でも、先生はやめて。」
「それでは、真理子さん。」
「うん、それでお願い。神田さんの噂は、湘南さん、アキさん、パスカルさん、ラッキーさんから伺っています。お力になれれば嬉しいです。」
「明日夏さん、ミーアさん、湘南、こんにちは。」
「神田さん、始めまして。ミーアさん、湘南兄さん、こんにちは。」
「アキさんとユミさんはこれからライブですね。頑張ってきてください。」
「うん、その通り。いまもマリさんの家で練習してきたところ。これからいつものカラオケ店で待ち合わせ。湘南も頑張ってきてね。」
「湘南兄さん、私も頑張るから、何と言うか徹を見張っていてね。」
「分かりました。こちらが終わりましたら、お母さんと徹君をそちらに連れて行きますので、待ってて下さい。」
「徹のこと、どうぞよろしくお願いします。湘南兄さんだけが頼りです。」
「ユミさん、事務所にはパラダイス興行の良心とも言える平田社長さんがいらっしゃるから安心して大丈夫です。」
「平田社長さん、パスカルさんが尊敬している方ですね。分かりました。」
「それじゃあ、湘南、パスカルが待っているから行くね。明日夏さん、湘南をよろしくお願いします。」
「分かった。」
「アキさん、ユミさん、行ってらっしゃい。」
アキとユミがパスカルとの待ち合わせ場所のカラオケ店に、誠たちがパラダイス興行の事務所に向かった。亜美が徹の手を引いて二人で話す中、明日夏が誠に話しかける。
「マー君とアキさんとやらに雰囲気は何か夫婦みたいだったな。」
「そんなことはなく、僕は単に利用されているだけで、それでもアキさんが本当に一生懸命やっているので、応援したくなる、そんな感じです。」
「なるほど。その答えはマー君らしいと言えばマー君らしいな。それでマー君が作曲の経験が積めるのはいいことだけど、ほどほどにな。」
「神田さんは、湘南さんが心配なんですか?」
「一応、作曲家と作詞家の関係ですから。」
「それだけですか?」
明日夏は「うっ、橘さんより鋭い。」と思いながら答える。
「今のところは。」
「今のところはですね。分かりました。そんなに心配しなくても本当に大丈夫です。」
「有難うございます。真理子さんは高校生のころ橘さんに歌を教えたそうですが、橘さんは真理子さんの言うことを聞いてちゃんと練習したんでしょうか?」
「久美はムラがすごかったかな。練習するときはすごくするし、うーん、恋に落ちたり、失恋したりとかすると、全然しなくなったり。でも、いい声をしているし、声量もあったから鍛えがいはあったわよ。」
「何となくですが、想像していた通りです。」
「結局、クラッシックの声楽でなく、ロック歌手を目指すことになっちゃったけど、今思うとそれはそれで良かったと思う。」
「橘さんがシックな衣装を着て、オーケストラを背にクラシックを歌っているというのは想像できないですしね。」
「酷いお弟子さんです。」
「すみません。」
「そういえばマー君、二人はカラオケルームに行くと言っていたが、カラオケで歌ってからステージに上がるのか?」
「地下アイドルのライブは20分ぐらいで、多いときには1日に20組近くが出場します。そうすると、控室のやりくりができないので、すぐそばのカラオケルームを控室代わりに使って着替えをしたりします。あと、発声練習などがそこでできるという利点もあります。」
「なるほど。やっぱり大変そうだな。」
「この前のパラダイス興行の大学バンドのライブでは、上の階のフロアを布で仕切って控室に使っていました。」
「そうだった。私たちは1番の・・・。」
「この話はしない方がいいですね。」
「いや、マー君、それは終わったことだから、気にすることはない。それより亜美ちゃんと徹君の方が心配だ。」
「二人とも楽しそうですけれど。明日夏さんの言う通りです。」
「湘南さんのいう通り、徹、本当に楽しそうね。」
その後、明日夏と久美が出会ってから明日夏がデビューするまでの話をしているうちに、事務所に到着した。
「真理子先輩、少年、いらっしゃい。明日夏、亜美、お帰り。」
「久美、平田社長さん、こんにちは。今日はお招きに預かり大変有難うございます。メジャーのプロの歌手の神田さんとご一緒できるのは、大変楽しみです。」
「堀田さん、今日はお忙しいところ、大変有難うございます。明日夏をよろしくお願いします。」
「はい、全力で頑張ります。」
「誠君もいらっしゃい。」
「はい、お役に立てると嬉しいです。」
「へー、ここが久美がいる事務所なんだ。練習室があって、いい男がいて、いい感じね。」
「真理子先輩、いい男って、悟のこと?」
「他にいないじゃないの。あっ、湘南さんは、何と言うか、男というより・・・ごめんなさい。」
「いえ、大丈夫です。」
「まあね。悟も私にとってはバンド仲間という感じだけど、大学の時は幅広く持てるタイプだったわよ。今はどうなのかちょっと分からないけど。」
「そうそう、私も湘南さんは仲間という感じなのよ。でも、そうなんだ。久美子と二人でやっている事務所と言うから、私はてっきり久美の彼氏かと思ったわ。」
「先輩、それは悟に失礼だわよ。悟には可愛くて素敵な女性がお似合いだと思う。」
「うーん、なるほど。難しいな。」
「あの、お二人とも、僕の話はいいですから、明日夏の指導をお願いできますか。」
「ごめんなさい。ワンマンライブの前だから忙しいわよね。あの練習室でいいのね。」
「はい、その通りです。誠君、マリさんと久美で話す時間も必要そうだから、機器の操作とか手伝いをお願いできるかな。いつものバイト代になるけど。」
「バイト代はなくても構いませんが、徹君の様子を見ていないと。」
「それは僕がやるから大丈夫。」
「分かりました。」
明日夏、久美、マリ、誠が練習室に入り、誠が機器を操作しながら練習が始まった。
「それじゃあ、デビュー曲の『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』を歌ってみて。今日はこの曲と湘南さんが作曲した『君が元気なら』を集中的にみるから。」
「有難うございます。」
「湘南さん、音楽をお願い。あと録音も。」
「分かりました。」
「それじゃあ、力を抜いて、自分の声の一番魅力的なところを出すように心がけて歌ってみて。」
「分かりました。」
こうして、明日夏の発声の助言をしたり、細かい表現を自分で歌ったりしながらの指導が2時間ほど続いた。
練習が終わり、明日夏と久美がお礼をする。
「真理子さん、今日は本当に有難うございました。」
「真理子先輩、今日は本当に有難うございます。私じゃ行き届かないところが、まだたくさんあることが分かりました。」
「まあ、久美は声量があるから、それを活かすのがいいとは思うけど、久美もだんだんと変えていく方がいいかも。明日夏さんは、個性的な心に染み入る声をしているし、感がいいというか頭がいいのか分からないけど、呑み込みが早くて楽しかった。さすが、プロの歌手という感じだったわ。すごい。本当に。」
「有難うございます。真理子さんのご指導を参考に、これからも精進していきます。でも、褒められすぎです。特に、頭がいいということはないと思います。」
明日夏が誠をチラッと見たので、マリが答える。
「明日夏さん、普通に頭がいいと思うから、練習では良く考えながら歌ってね。まあ、湘南さんとは比べられないかもしれないけど。」
「・・・・あっ、有難うございます。」
4人が練習室から出てきた。悟が尋ねる。
「明日夏ちゃん、どうだった。」
「声の出し方とか細かい表現の方法とか、とても勉強になりました。」
「うん、私も勉強になった。」
「そうですか。有難うございます。また、時間があるときに、明日夏のご指導をお願いできればと思います。」
「はい、呼んでもらえれば、時間を見つけて来たいと思います。さすがメジャーのプロの歌手だけあって、声ばかりでなく、とても頭がいい子で、歌手の道を続けていけば、これからも間違いなく成長して、うまくいけば時代を代表する歌手になるんじゃないかと思います。」
「有難うございます。そうですか。そこまで言ってもらえると僕も嬉しいです。」
「あの、社長、関係者用の席はまだ余っていますか?」
「明日夏ちゃん、気が付いてくれて有難う。堀田さん、お時間がありましたらチケットは用意しますので、是非、明日夏のワンマンライブにご参加下さい。家族は4人でしたでしょうか。」
「有難うございます。ユミはパスカルさん、私は湘南さんのチケットで行く予定でしたので、主人と徹の分を頂ければ、家族でライブの話ができます。」
「分かりました。2席ほどご用意します。当日、受付で分かるようにします。」
「有難うございます。」
「ライブに来て下さるのはとても嬉しいです。でも、もともとは、二人で若い男性とライブに参加する予定だったわけで、ご主人の方は心配したりはしないのですか?」
「ははははは、私が湘南さんと駆け落ちしないか心配なの?子供がいなかったら分からないけど、二人とも可愛いし、できないわよ。」
「すっ、すみません、変なことを聞いて。」
「ううん、大丈夫。それじゃあ、湘南さん、私たちもアキさんやユミさんのところに行きましょうか。」
「はい、今なら反省会には参加できると思います。」
「そうね。それでは、今日はどうも有難うございました。徹もお礼をいいなさい。」
「おじちゃん、ミーアお姉ちゃん、有難う。」
「有難うございました。マリさんのことで何かご用があれば、僕に何でも言ってください。」
「そういうことを言うと、また明日夏さんが不安になるわよ。」
「はい?」
「大丈夫です。今日は大変有難うございました。ワンマンライブまであまり時間がないですが、真理子さんのご指導を思い出して、練習、頑張ります。」
「明日夏のご指導、有難うございました。またお願いします。」
「徹君、また遊ぼうね。」
「それじゃあ、真理子先輩、少年、また。」
誠、マリ、徹が『ユナイテッドアローズ』の反省会の会場に向かった。部屋で悟が明日夏に尋ねる。
「明日夏ちゃん、どうだった?」
「考えることが増えました。」
「それはいいことだと思う。」
「音楽的なことはともかく、頭が良さそうな方でした。あと人の気持ちが分かるっていう感じでした。もちろん橘さんは橘さんでいいとは思います。」
「明日夏、微妙なものいいだけど、私も、明日夏のトレーナーには真理子先輩の方が合っているとは思った。悟も聞いてみて、明日夏の歌。」
「了解。明日夏ちゃん、いいかな?」
「はい、嬉しいです。社長にちゃんと歌を聞いてもらうのは、アニソンコンテストの後のカラオケぶりです。」
「懐かしいね。ずうっと、久美に任せっきりだったから。」
「ですので、私が歌った後は、社長の番ですから。」
「明日夏は、今じゃ赤坂ブリッツでワンマンライブを開催するプロの歌手だよ。誠君も歌うなら別だけど、その前で歌うというのは・・・・」
「悟、少年は一人で美香の前で歌ったんだから、観念しなさい。」
「橘さん、そんなことがあったんですか。」
「うん、美香をリラックスさせるために。」
「なるほど。社長、だそうです。」
「分かったよ。」
誠と、徹と手を繋いだマリが、反省会をやっている喫茶店に向かった。その道中、誠が徹に尋ねる。
「徹君、今行った事務所はどうでした?」
「おじさんがギターを弾いてくれて、ミーアお姉ちゃんと一緒に歌を歌えて、楽しかった。」
「徹君は、歌うのが好きなんですか?」
「大好き。」
「それを聞くと、ミーアさんも社長のおじさんも喜んでくれると思います。マリさんは、パラダイス興行はどうでした?」
「平田社長さんがすごくいい男だったわ。この前のワンマンでコスプレをしていた時も、いい男と思ったけど、普通の恰好をしても本当にいい男だわ。」
「やっぱり、ワンマンのバンドのこと、分かっていたんですね。」
「大河内さんとナンシーさんの声で分かったわよ。」
「秘密にしておいてくれて有難うございます。」
「秘密にして欲しいから、コスプレをしていたんだろうし。でも、大河内さんのギター、経験は浅そうだけど、いいセンスを感じたし、いつかは歌いながらギターも弾くの?」
「はい、ゆくゆくはそうしたいみたいで、今、一生懸命練習しているみたいです。」
「そんな感じね。ところで、社長さんに、もしまた事務所の仕事があるようなら、何でもするって言ったのは本当のことだからと伝えておいてくれる?」
「はい、喜んで。でも、その一番の理由は平田社長がイケメンだからなんですか。」
「さすが湘南さん、その通り。音楽とか美術とかをやっている芸術系の女子は、イケメンが好きなものなのよ。」
「そうなんですね。分かりました。理由は言いませんが伝えておきます。」
「有難う。湘南さんの方も、大河内さんの面倒をちゃんと見ている?」
「面倒を見るという感じではないですが、僕にできるお手伝いはしているつもりです。」
「そう、良かった。でも・・・・」
「何ですか?」
「うーん、何でもない。ところで、湘南さんは大河内さんと神田さん、付き合うならどっちがいいの?」
「橘さんみたいなことを聞きますが、二人とも素晴らしいプロ歌手と思いますし、僕が付き合うとかいうレベルではないと思います。」
「そうでもないかも。」
「あの、芸術系の女子はイケメンが好きなんじゃなかったでしょうか。」
「普通はそうなのよ。だから少し不思議で。でも、湘南さん、少なくとも二人に頼られているようだから頑張ってあげてね。あー、でも、二股で付き合うと久美が絶対に切れるから、それだけは気を付けてね。」
「二股ではないですが、僕のできることで二人のお役に立てることがあれば、何でもしようとは思います。」
「まあね。湘南さんがその気なら、今はそれでいいと思う。」
喫茶店では反省会が始まっていた。
「おー、湘南良く来た。今、始まったばかりだ。マリさん、徹君、こんにちは。」
「みなさん、こんにちは。」「こんにちは。」「こんにちは。」
「パスカルさん、今日のライブはいかがでした?」
「すごく盛り上がったよ。」
「でも、やっぱり、ワンマンをやった後だと物足りない。」
「アキ姉さんのいう通りです。もっと歌っていたいです。」
「そういう気持ちを持てるのはいいことです。物販の方は?」
「いつもの通りかな。特に売り上げが増えたということはなかった。」
「お客さんがワンマンライブでお金を使ってしまって、減るかなと心配しましたが安心しました。」
「相変わらずの心配性だな?」
「新規のお客さんはいましたか。」
「見たことがない顔のお客さんが数名いたけど、定着してくれるかは分からないな。」
「分かりました。次の目標はアイドルコンテスト参加ですね。」
「うん、その通り。何としても予選を突破したい。」
「一次予選はビデオになりますから、内容を考えないとですね。」
「機材は正志さんから借りるとして、今、ビデオのコンセプトを考えているところ。」
「アキさんは何がいいんですか?」
「お姫様、お嬢様、メイドはありきたりだし。学校の同級生は小学校と高校だから無理かな。」
「高校への飛び級小学生というのはありますが。」
「湘南君、それ懐かしいね。」
「でも、今の若い人には受けないかもしれませんね。」
「湘南、もう少し時間があるから考えてみるよ。いくつか案を作ってSNSで相談する。それで、マリさん、マリさんの方はどうでした?」
「やっぱり、プロだから上手と言うのもあるけど、神田さんの特徴ある声を活かす方向で考えていくことが重要だと思う。あと、社長さんがすごいイケメンだった。」
「平田社長さんですね。俺もそう思います。」
「ママ、徹もいるんだから、そういうのはいい加減にしないと。」
「分かっているわよ。」
「ママはともかく、徹、徹はどうだった?」
「ミーアお姉ちゃんとお歌を歌って面白かった。おじさんの小さなギターが面白かった。」
「社長さんがウクレレを弾いてくれたんです。」
「楽しかった?」
「うん、お姉ちゃん、楽しかったよ。お姉ちゃんは?」
「アキ姉さんと歌えて、とっても楽しかった。」
「ユミさん、事務所ですから心配するようなことはなかったです。」
「湘南兄さん、徹のトイレはだれがいっしょでした?」
誠は「亜美さん、全く信用されていない。でも、僕も大河内さんのことでは尚に信用されていないから気を付けないと。」と思いながらも答える。
「あの建物は雑居ビルで同じ階に他の事務所も入っていて、トイレは廊下で男性用と女性用が分かれています。ですので、社長さんが連れて行ったようです。」
「そうですか。湘南兄さん、有難うございます。少し安心しました。」
「ユミちゃん、ママもいたけど、そんなに心配しなくても大丈夫よ。」
「ちょっとミーア姉さんの目が気になって。」
「そういえば、明日夏さんと社長さんがパパと徹を招待してくれたから、場所は別になっちゃうけど、4人でライブに行ける。」
「それじゃあ、夕方の忘年会にも参加して下さい。正志さんには申し訳ないですが、お酒はありません。」
「プロデューサー、有難う。パパのお酒の件は心配しないで大丈夫。どうせ正月は親戚の家に行って飲んでばかりだから。」
「了解です。俺とラッキーさんは、31日の夜中にミサちゃんが出演するテレビ番組あって、俺の部屋でそれを見ながら飲むつもりなので、夕方の忘年会は飲みません。」
「湘南さんは見るの,その番組?」
「はい、30日がコミケの手伝い、31日が明日夏さんのワンマンライブ、元旦は早朝に用事があって、その後スキーですので、明日と31日の夜で宿題を片づけるつもりですから見れないかもしれません。」
「そうなんだ。まあ、学生だから仕方がないか。」
「はい。」
12月29日、明日夏はバンドを含めた合同リハーサルを行い、12月30日は予備日でマリが言ったことを思い出しながら一人で練習していた。ミサは29日は明日夏のワンマンライブのリハーサル、30日はテレビの音楽番組に出演していた。尚美は29日はリハーサルの後にテレビ出演、30日もテレビ出演だった。由香と亜美は、リハーサル以外は、それぞれ、ダンスイベントに出演したり、動画配信サイトの生放送に挑戦したりして、忙しい毎日を送っていた。
誠の29日は尚美の勉強をみたり、作曲を考える他は、大学の課題を片づけていた。30日は大学のサークル『BLONG』が冬コミに出店し、その売り子や使い走りとして参加した。そして、30日の夜、アキPGのメンバーがSNSで連絡を取っていた。
パスカル:湘南、今日はコッコちゃんの手伝いか
湘南:はい、その通りです。あまり嬉しくないですがバールと平塚の漫画は完売しました
パスカル:それは嬉しくない完売だな
コッコ:パスカルちゃんと湘南ちゃんにはネタを提供してくれて感謝している
パスカル:ネタを提供した覚えはないのだが
コッコ:自然にしているだけでネタが出てくる
アキ:でも、すごいわよ。こっちは完売なんてしたことないのに
湘南:こちらはコミケでの販売と違って、次のイベントで売ることができますので数に余裕を持たせています。その方が製造単価が安くなります
アキ:そうだけど
湘南:今日のライブと物販はどんな感じでした
アキ:ライブはみんな盛り上がってくれた
湘南:ユミさんはどうでした
アキ:もう全然大丈夫。私よりしっかりしているかも
湘南:それは良かったです
ユミ:まだまだです。もう少し気の利いたトークをしたいです
湘南:小学生としてはすごいと思います
ユミ:湘南兄さん有難う
アキ:そういえばワンマンに来た人も多くいたのか、マリさんコールが起きた
湘南:それは嬉しいです
パスカル:湘南みたいな熟女好きはそれなりにいそうだな
湘南:マリさんに熟女は失礼です
マリ:その通り
パスカル:申し訳ありません。そういうわけで、マリさん、また出演をお願いしてもいいですか?
マリ:もちろん。私はいつでもOK
パスカル:それでは年明け早々のライブでお願いします。ワンマンライブと違って出演時間が短いので初めから出演する形になります
マリ:望むところ。でも、お正月にお餅が食べられなくなるわね
ユミ:ママ、お餅が食べたかったら出演をあきらめること
マリ:ユミちゃん厳しい。分かった、あきらめる。
パスカル:どっちをですか?
マリ:もちろんお餅を食べることを
湘南:日付が決まったらマリさん出演の告知をホームページに出します
パスカル:おう頼む。マリさんのグッズも考えるか。マリさんは何がいいですか
マリ:アクリルスタンド
パスカル:分かりました。こんどスタジオを借りて写真を撮影します
マリ:スタジオ!パスカルさん、それじゃあマリちゃん一枚脱いでみようか、なんて言わないわよね
ユミ:ママ、はしたないからやめて
マリ:ごめんなさい
アキ:私も言われたことはないですから大丈夫だと思います
マリ:有難う
湘南:それで物販の方も順調ですか
パスカル:消費税を払ってもこの3日間出演で、明日の忘年会の費用は出るんじゃないかな
アキ:男性陣は全員スルー
湘南:それは良かったです
アキ:まあ、ユミちゃんと合わせて300万円の女だから
パスカル:ユミちゃんが200万円でアキちゃんが100万円かな
アキ:そんなことを言って、覚えていなさいよ
パスカル:宇田川企画の社長に移籍料100万円の内訳を聞いてみようか
アキ:そんなの聞かなくていいわよ
マリ:私を含めると3人でいくらになるかな
ユミ:250万円
マリ:ユミちゃん、私は?
ユミ:マイナス50万円
マリ:そんな酷いことを言う子に育てた覚えはありません
湘南:ユミさん、マイナスの計算ができるんですね
ユミ:塾で習いました。湘南兄さんのおかげで算数が分かってきて面白いです
湘南:そう言ってもらえると本当にうれしいです
アキ:やっぱりユミちゃん魔性の女の素質がある
マリ:本当ね。でもユミ、湘南さんには強力なライバルがいるから難しいわよ
ユミ:ママ、そんなつもりはないから大丈夫
アキ:でもマリさん、強力なライバルって誰ですか?
マリ:えっ、えーと、私
ユミ:ママ、何言っているの
アキ:ユミちゃん、マリさんは勝手に誰か言えないからごまかしただけ
ユミ:そうか
パスカル:湘南、それで誰なんだ
湘南:僕には全く心当たりがありません
マリ:湘南さんが気づいていないのは知っている
パスカル:なるほど。マリさんのお友達?湘南好みの熟女か。そうすると強力だな
マリ:私の友達に熟女はいないわよ
パスカル:失礼しました
湘南:たぶんマリさんの勘違いなんじゃないかと思います
パスカル:その線もあるか。コッコか?
コッコ:な分けないだろう。BLONGの中にも、バールと平塚のファンはいるけど、パスカルや湘南と付き合いたいと思っている人はいないと思う
パスカル:現実は厳しいな
湘南:そうですね
マリ:そのうち分かるかもしれないということで
湘南:分かりました。楽しみにしておきます
アキ:うん、余計なことをして関係が壊れても可哀そうだから、様子見かな
パスカル:いや壊そう
アキ:そんなことを言っていると一生彼女ができないわよ
パスカル:俺より若いのに順番は守らないと
アキ:そんな馬鹿な話より
パスカル:馬鹿な話!
アキ:明日は明日夏ちゃんの初めてのワンマンライブよね
パスカル:そうだ。そして、その後は忘年会だ
アキ:楽しみ
パスカル:明日夏ちゃんのライブを観て聴いて勉強しなくちゃね
アキ:その通りだけど私もライブを楽しみたい
コッコ:パスカルちゃんが湘南ちゃんに浸食されている
パスカル:逆に湘南は俺に影響されたか
湘南:影響ではないですが、ハワイの海岸でサングラスをかけていたら、明日夏さんにそれで水着の女の子を見ているんじゃないかと疑われました
パスカル:それは自業自得だ
湘南:警備で視線を読まれないためと説明しましたが、まだ怪しんでいるかもしれません
パスカル:苦しい言い訳と思われそうだな
湘南:そう言えば、ミーアさんが事務所でビデオ機器を買うので、できれば教えに来てほしいと言っていました
パスカル:俺にか
湘南:はい。ビデオ機器は正志さんが買ったのと同じものを勧めておきました。パスカルさんもユミさんのパフォーマンスを撮るために正志さんから借りて使っていますから、使い方は詳しいですよね
パスカル:おう
湘南:お願いできますか
パスカル:餅論、お正月だから。
アキ:パスカルゥ、つまんない
湘南:パスカルさん、有難うございます
アキ:パスカル、良かったわね。ミーアちゃんには信用されていて
パスカル:おう
ミーア:パスカルさん、有難うございます。機材は正月明けに納入されるので、1月第2週のどこかでお願いできますか
パスカル:あっ、ミーアさん。はい、全力でOKです
ミーア:機器の段ボール箱は開けないで置いておきます
パスカル:了解です。湘南、ビデオカメラと事務所の音響機器との接続は頼む
湘南:はい、喜んで
ミーア:あとパスカルさん。もし事務所に明日夏さんがいても、笑われる以上のことはないですから、心配しなくても大丈夫です
湘南:そうですね。「今日、サングラスは?」と言われるかもしれませんが
ミーア:確かに明日夏さんが言いそうなセリフだな。ミサさんなら何も言わないで、後で私たちに「パスカルさん、今日はサングラスして来なかった。」だな
湘南:そうだと思います
パスカル:明日夏さんとミサさんにそういう男として記憶されているということですか
ミーア:もう完全に記憶されている
ラッキー:それは本当に羨ましい
パスカル:代ってもらいたいです
ラッキー:できるなら代ってあげたいけど、それはパスカル君の個性と結びついているから無理だと思う
パスカル:残念です
ラッキー:そうは言っても、本当は譲る気はないよね
パスカル:そうかもしれません
ラッキー:その話はともかく、明日は会場が13時半、開演が14時だから、物販でグッズを買った後、13時15分に会場前に集合ということでいいかな
パスカル:了解です
ラッキー:セローの他にもヘキサちゃんとビリー君も来る
アキ:ワンマンで手伝ってくれた方ね
ユミ:ビリーさんはこの間のライブにも来て、私の物販の方も来てくれました
アキ:そうなんだ
パスカル:アキちゃん、落ち込まない
ユミ:次はアキさんのほうに行くと言っていました
アキ:いい人ね。来たらサービスしてあげよう
パスカル:余計なサービスは要らないけど、来たことをヘキサちゃんには勝手に話さないように
アキ:浮気というほどじゃないけれど、こちらから言い出すことじゃないわよね。ユミちゃんもいい
ユミ:ビリーさんはヘキサさんに、たまたま見かけたからと説明すると思いますが、私から言い出すつもりは全くありません。
マリ:でも、余計なサービスは要らないって、パスカルさん、珍しく焼きもち?
パスカル:違います。ファンと演者は一線を隔すべきということです
マリ:そういうことにしておきましょう
湘南:僕もパスカルさんのいう通りだと思います。良かれと思って言っても、パスカルさんの件みたいにファンの方に迷惑がかかる時もあります
ラッキー:注意喚起なら一線を越えたうちに入らないんじゃないか
アキ:そうそう、パスカルがいけないだけ
湘南:直接言ったのがいけないので、平田社長さんかナンシーさんを通じて伝えれば良かったと思っています
アキ:そうか。あまり知らない人なら、私もパスカルを通した方が安心できるかもね
湘南:有難うございます
アキ:あっ、でも、すごいイケメンの場合は別。どんどん直接来て
ユミ:私も
マリ:ユミ、そんなはしたないことを言っちゃダメよ
ユミ:でもママもそうでしょう
マリ:それはそうだけど
パスカル:結局、一線を越えていいのはすごいイケメンだけということか
アキ:その通り
パスカル:現実は厳しいな
湘南:パスカルさん、僕たちはその現実を子供のころから理解していると思います
パスカル:そうだな
ラッキー:そうだな
マリ:三人さん、イケメンの数は限られているからチャンスは残るわよ
コッコ:確かに私の友達にイケメンはいない
マリ:コッコさんもイケメン狙い?
コッコ:そうじゃなくてBL漫画のモデルに欲しい。一般の女性に受ける
湘南:BLが一般の女性に受けるんですか?
コッコ:普通の一般より一般ではないかもしれないが、かなり一般的になってきている
湘南:難しいですね
アキ:イケメン有利は間違いないけど、同情から愛になることもあるし
マリ:真のやさしさに飢えているというのもあるかも。湘南さんの場合はそうかもしれない
アキ:確かにそれは湘南の唯一の取柄かもしれない
湘南:有難うございます
ユミ:私はイケメンを諦めない
コッコ:ユミちゃん、その言葉いい。私はイケメンを諦めない
アキ:まあ、現実は厳しいけど頑張って。応援する
ユミ:有難うございます
マリ:三人のために話をまとめると、チャンスは来るかもしれないから、その時に備えて男を磨いておきなさいということかな
パスカル:分かりました
ラッキー:分かりました
湘南:頑張ります
ミーア:あの、31日の話に戻していいですか
パスカル:ミーアさんは恋愛の話はできないですね。了解です
ミーア:徹君と正志さんは、開場に到着する5分前ぐらいに連絡してくれ
湘南:それはできますが
ミーア:関係者受付から座席までの二人の案内は私がするから安心してくれ
湘南:あの出演の方は大丈夫ですか
ミーア:詳しくは話せないが、私の出演はかなり後の方だから心配はいらない
ユミ:1400人のお客さんがいらっしゃるんですから、出演に集中された方が
ミーア:ユミちゃん、主役は明日夏さんだから心配いらない
湘南:三佐、席まで案内したら楽屋に戻られますでしょうか
ミーア:うむ、始まる前までには戻らないといけない
湘南:承知しました
ラッキー:今回は会場右側に女性専用のスペースがあるから、女性陣はそのスペースに入った方がいい。
アキ:そうするつもり。ユミちゃんとマリさんは案内します
パスカル:俺と湘南は女性スペースのそばにいるから、何かあったら呼んで
アキ:パスカル、サングラスを持ってきちゃだめだよ
ミーア:パスカルさんが女性スペースのそばでサングラスをかけていたら、明日夏さんが笑い出すかもしれないのでお願いします
パスカル:冗談はほどほどに
ミーア:冗談とは言い切れないところがあって
パスカル:分かりました。サングラスは持って行きません
アキ:持って行くつもりだったんかい
パスカル:念のために
湘南:女性陣を探すときに便利ですが
パスカル:そうそう、そのため
湘南:でも、やめましょう
パスカル:分かった
ラッキー:それで他に話しておきたいことはある?
ラッキー:ないようだね。それでは明日遅れないように
全員が「了解」を返してSNSでのチャットが終了した。
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