第33話 『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ(演者編)

 レコーディングした音源とMIDI音源をミックスしてCDのマスターを制作する誠の作業は、12月10日に完了した。そして、ワンマンライブ『みんなでユナイト』の前日12月17日の午前中には、手焼きCDのアルバム210枚を作成する作業がパスカル、誠、ラッキーの手で完了した。その日の昼にSNSグループアキPGで連絡を取り合った。

湘南:今日、夕方にパラダイス興行に行って、バンドやホールの音と照明に関する打ち合わせをしてきます

パスカル:頼む。こっちはマリちゃんの家でパフォーマンスの最終調整だ

湘南:ラストスパート頑張りましょう

パスカル:おう

アキ:バックバンドの『ジュエリーガールズ』とのことを思い出しながら練習している

ユミ:あれは本当に感激しました

アキ:いつも冷静なユミちゃんでも感激したんだ

ユミ:私たちのために4人の方々が演奏してくれているというのが良かったです。あと、いつも冷静というわけではないです

アキ:ごめんなさい

パスカル:おれも感激した

湘南:マリさんはオーケストラをバックに歌ったこともあるんですよね

マリ:あるけど。演奏はともかくバンドだと気持ちが内側から熱くなるわよ

アキ:二人的にはどうだったの『ジュエリーガールズ』の演奏

湘南:さすが平田社長さんが推すだけあって、しっかりと演奏できていたと思います。ただ、キーボードが子供っぽかったのと、ドラムのリズムがいまひとつでした

マリ:湘南さんの言う通りかな。でもギターとベースはまあまあだったわよね

湘南:キーボードやドラムに比べれば、ギターもベースもきちんとしていましたが、ギターはもう少しオリジナリティーみたいなものが欲しいですし、ベースはもう少し軽やかだといいと思いました

マリ:そう言われればそうかも

パスカル:二人とも厳しい

湘南:ただバックバンドとして問題はなかったと思います

マリ:そうね。あれだけ演奏できれば十分だと思う

ユミ:へた同士だからあれで十分という感じですか?

湘南:ユミさん、ごめんなさい、言い方が良くなかったでした。バンドの方々は下手ではないです。より良くしようとするとです

アキ:ユミちゃん、湘南は悪気なく、こういうふうに言う人だから。あまり気にせず、参考になるところがあれば取り入れるということでいいと思うよ

ユミ:分かりました。アキ姉さんの言う通りにします

コッコ:アキちゃんが湘南ちゃんみたいなことを言っている

アキ:うん、自分でも言ったときにそう思った。私の脳がどんどん湘南に浸食されている気がする

マリ:パスカルさんにも浸食されているし。よく似たもの夫婦って言うけど、それはずうっといっしょにいると似てくるということで、人間はそういうものなのよ

アキ:まあそういうものかもね。パスカルと夫婦にはなりたくないけど

マリ:アキちゃん、酷い


 その日の夜に、誠からSNSグループのアキPGあてに至急の連絡があった。

湘南:緊急事態が発生しました

パスカル:どうした

湘南:バックバンドをお願いした、『ジュエリーガールズ』のメンバーのうち3名がインフルエンザにかかって、明日のバンドが担当できないことになりました

パスカル:もう対策は考えてあるんだよな

湘南:はい。初めはアルバム用に制作したMIDI音源を使おうと思いました

パスカル:それが無難な線だと思うが

湘南:ただ平田社長さんと相談した結果、社長さんが知っているアマチュアバンドにバックバンドをお願いすることになりました

パスカル:時間がないが大丈夫そうか

湘南:少し前からパラダイス興行で練習を始めましたが、みなさん楽譜が読める方ですので何とかなりそうです

パスカル:そうか分かった。社長と湘南がいいと思うならばそれでいこう

湘南:有難うございます

パスカル:こっちもマリちゃんの家で最終練習を終えたところだ。みんなかなりレベルアップしているよ

湘南:歌はマリさんのおかげですね

マリ:湘南さん、おほめに預かりまして有難う

湘南:こちらは各自のパート練習をだいたい終えていますが、バンドとしての練習は夜中までかかりそうです

パスカル:湘南、あまり無理はするなよ

コッコ:湘南の体を気遣うパスカル

湘南:了解です。アマチュアバンドの方は出演料がいらないそうで、『ジュエリーガールズ』の出演料を使って、入場者に『ジュエリーガールズ』のアクスタをプレゼントする予定です

パスカル:そうだな。『ジュエリーガールズ』が目当てでくるお客さんがいるかもしれないからな。了解だ

湘南:有難うございます

パスカル:新しいバンドの名前は何て言うんだ

湘南:『ジオン公国に栄光あれ』

アキ:なにそれ、すごい名前。メンバーは?

湘南:ギターがシャー・アズナブル、キーボードがキシリア・ザビ、ドラムがララァ・スン、ベース&バンマスがガルマ・ザビです

アキ:ジークジオン!そのメンバーはコスプレしてくるの

湘南:はい、その予定です。

アキ:おー、ちょっと楽しみ

ラッキー:僕もちょっと楽しみ

湘南:チケット購入者に、次のような通知を出そうと思いますが問題ないですか

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『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ『みんなでユナイト』

バックバンド交代のお知らせ


 平素より『ユナイテッドアローズ』を応援して頂きまして大変有難うございます。明日、

12月18日開催予定のワンマンライブ『みんなでユナイト』のバックバンド交代に関してお知らせします。

 12月17日現在、バックバンドとして参加を予定していた『ジュエリーガールズ』のメンバー4名のうち3名が、体調不良を訴えており、明日のライブへの参加が不可能となりました。主催者で検討した結果、シャー・アズナブル(ギター)、キシリア・ザビ(キーボード)、ララー・スン(ドラム)、ガルマ・ザビ(ベース&バンマス)からなるバンド『ジオン公国に栄光あれ』が『ジュエリーガールズ』に代って明日のバックバンドを務めることになりました。


 『ジュエリーガールズ』の出演を楽しみにしていたお客様には大変申し訳ありません。せめてものお詫びのしるしに、入場者には『ジュエリーガールズ』のアクリルスタンドをプレゼント致しますので、入場の際にお受け取り下さい。


 なお、この件に関してチケットのキャンセル、およびチケット料金の払い戻しは行いませんので、ご理解のほどお願い申し上げます。


 主催者一同、『ジュエリーガールズ』のメンバーの体調不良からの回復を心よりお祈り申し上げます。

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パスカル:おう、これで行こう

湘南:それでは、ホームページに掲載して、メールアドレスが分かる参加予定者にメールで連絡します

パスカル:頼んだ。さっきまで会っていたけど、アキちゃん、ユミちゃん、マリちゃん、体調は大丈夫?

アキ:うん、すごい元気。バンド名を聞いてもっと元気になった

ラッキー:アキちゃんはそうだね

ユミ:プロデューサー、はい私も元気です。今日は早く寝ようと思います

パスカル:おう、それがいい

マリ:私は超元気。今からでも練習したいぐらい

パスカル:夜更かしはしないでね

マリ:はーい

湘南:明日、11時半からリハーサルを開始する予定です。バンドの方は、その時間までに演奏できるようにしますので、マリさんたちの方もその時間にリハーサルができる準備をしてステージに来てください

マリ:了解。11時に会場が開いたら、物販をする上の階のフロアで発声練習をして、11時半までにはステージに到着する

湘南:ステージでも準備がありますので、11時半ジャストにリハーサルができる恰好でステージに来てください

マリ:分かった。11時半ジャストにステージで

ラッキー:あとナンシーちゃんから、明日ミサちゃんに付き添わなくてはいけないので、来るのが遅くなるという連絡があった

パスカル:それは仕方がないな。ナンシーちゃんに仕事を頑張ってと伝えてくれる

ラッキー:了解。あとはオタク仲間のヘキサちゃんとビリー君が手伝いに来る予定

パスカル:ヘキサちゃんって女性なの?

ラッキー:二人でリア充カップルだ

パスカル:マジ?そんなカップルがこの業界に実在するのか

ラッキー:マジだよ

パスカル:貴重な戦力だから爆発しろなんて言っていられないな。こちらも声優オタのイノルが来る予定。

ラッキー:あいつか。うるさそうだ

アキ:さすがパスカルの友達

湘南:物販は2列ですので、スタッフはそれで大丈夫そうですね

パスカル:大丈夫だと思う

パスカル:ミーア三佐はいらっしゃいますでしょうか

湘南:ちょっと待っててください。呼んできます

ミーア:一尉、どうした

パスカル:お忙しいところ大変申し訳ありません。確認だけです

ミーア:大丈夫だ。キーボードが少し遅れているが、いい感じでまとまってきている。みんなさすがだ

アキ:三佐も二尉といっしょに事務所でありますか

ミーア:その通りだ。二尉は楽譜の準備から完璧にバンドをサポートしている

アキ:湘南、有難う

湘南:ミーア三佐もバンドのために仮ボーカルをするなど頑張っています

アキ:それはどっちが仮か分からないです

ミーア:こちらも勉強になるから構わない

パスカル:有難うございます

ミーア:明日は私が写真撮影を担当するが、ビデオを担当するものはいるのか。初めは二尉が担当すれば良いと思っていたが、バンドの世話をしなくてはいけないので無理そうだ

パスカル:ユミちゃんのお父さんの正志さんが担当しますので、心配は無用であります

ミーア:了解した。機材は大丈夫か?

パスカル:今回のためにPXW-Z90を購入したとのことです

ミーア:PXW、プロ用の機材だな

パスカル:そうであります。プロ用では一番安いものではありますが

ミーア:しかし、そちらの映像画像機材はうちの事務所のよりいいものばかりだな

パスカル:平田社長さんは、音楽が中心なんじゃないでしょうか

ミーア:ビデオクリップの撮影ならば今あるデジタル一眼でも良いが、ライブやイベントを長時間連続撮影するとなると、やっぱりプロ用のビデオ機器が欲しいところだな

パスカル:それはミーア三佐のおっしゃる通りだと思います

ミーア:機会があったら、一尉からうちの社長に説明してはくれないか

パスカル:承知しましたであります。いつでもご説明に上がるであります

ミーア:感謝する

パスカル:他に今話しておきたい人は?

湘南:大丈夫です

マリ:大丈夫

パスカル:それでは湘南以外は、明日、朝11時5分前に会場の入口に集合で。再確認だけど、アキちゃん、ユミちゃん、マリちゃんは早く寝るように

アキ:了解

ユミ:了解

マリ:了解

ミーア:了解

コッコ:了解

ラッキー:了解

湘南:了解


 翌朝、10時50分ごろから、メンバーが続々と集まり始めた。

「パスカル、おはよう。」

「アキちゃん、おはよう。」

「パスカルは、何時からいるの?」

「6時ごろかな。」

「相変わらず始発なの。」

「久しぶりだよ。これだけ気合を入れているのは。」

「あんまり無理しないでね。」

「おう。ミーアさんも30分ぐらい前に来て、時間になったらまた来るって。」

「プロはやっぱり朝早いのが平気なのかな。でもパスカルと二人でいるのはなんだろうから、ミーアさんが一度離れるのは分かる。」

「それはそうだろうな。」

「自覚があるだけ立派よ。」

「有難う。」

ラッキーがやって来た。

「アキちゃん、パスカル君、おはよう。」

「ラッキー、おはよう。いろいろ有難うね。」

「ラッキー社長、今日もよろしくお願いします。」

「パスカル、ラッキーを社長って呼ぶの?」

「しっかりした組織に聞こえるから、社長と呼ぶのがいいかなと思って。」

「そうね。ラッキー社長、よろしくね。」

「アキちゃんまで社長と呼ぶの。やっぱり、ちょっと嬉しいけど。」

「しかし、緊張しますね。」

「本当に。自分がワンマンライブを開催する方になるってドキドキだな。」

「さっき湘南から来た連絡では、前売りが157枚売れたみたいで、赤字にはならないから、それはホッとしたところですが。」

「半分か。とりあえず、カッコはつくかな。あとは私たちがお客さんを満足させられるかね。でもパスカル、120入ったら大きな顔してもいいんだよね。」

「おう。多少なら。」

「私に、跪いて、拝みたたえよ。」

「いいけど、スカートの中が見えるぞ。」

「じゃあ、跪かなくていい。」

「了解。」


 パスカルの友達のイノルがやって来た。

「おーい、パスカル、相変わらず、何、女の子を拝んでいるの。あっ、ラッキーさん、お早うございます。みなさん、お早うございます。」

「イノル、今日はサンキューな。」

「加瀬祈里ちゃん、来季は主役があって楽しみだよね。」

「主題歌も担当しますから忙しくなりそうです。」

「イベントで会ったら、よろしく。」

「はい、よろしくお願いします。」

堀田一家がやって来た。

「プロデューサさん、アキ姉さん、お早うございます。」

「プロデューサさん、アキちゃん、お早う。」

「パスカルさん、アキさん、お早うございます。娘と嫁がお世話になります。」

「ユミちゃん、徹君、えーと、ここでは何とお呼びしたら。」

「マリちゃんで大丈夫。」

「ユミちゃん、徹君、マリちゃん、お父さん、お早うございます。」

「お早うございます。」

ユミがパスカルに小声で話しかける。

「あの、プロデューサー、ミーアさんがうちの徹に近づき過ぎるようだったら、注意してくれますか。」

「この前の旅行のこと?小さい子と遊んであげているだけじゃないかな。向こうはメジャーの芸能人だし、それほど心配しなくても大丈夫だと思うよ。」

「それは分かっていますけど、徹を見る目が何となく信用できなくて。」

「分かった。お父さんもいると思うけど、俺も注意しておく。」

「有難うございます。」

コッコがやって来た。

「おー、みんなおはよう。」

「コッコ、おはよう。」

ヘキサとビリーがやって来た。

「ラッキーさん、みなさん、おはよう。」

「ラッキーさん、みなさん、おはようございます。」

「ヘキサちゃんとビリー君、久しぶり。」

「プロデューサーをやっているパスカルと言います。ヘキサさん、ビリーさん、今日は有難うございます。」

「『ユナイテッドアローズ』リーダーのアキです。今日はお手伝い下さるそうで、大変有難うございます。」

「地下アイドル活動の中身が分かるということで、楽しみにしています。・・・何、美由紀。」

ヘキサがビリーの袖を引っ張って、二人でこそこそ話した後に尋ねる。

「お二人とも、神田明日夏さんの最初のリリースイベントに来ていませんでしたか?最前しか勝てないと言っていた方。アキさんも傍にいませんでしたか。」

「あー、はい、いました。俺も思い出しました。」

「はい、いました。あと私のことはアキちゃんと呼んで下さい。」

「アキちゃん。」

「はい。それにしても仲がいいのが続いて良かったです。」

「有難う。僕たち一生仲がいいんだよねー。」

「当たり前よね。」

パスカルは「リア充爆発しろって言っちゃいけないな。」と思い、笑いながら答えた。

「羨ましいです。」

「そう言えば、あのとき、もう一人お仲間さんがいたように思いますが。」

「湘南なら、今はバックバンドの世話をしています。」

「ちょっと前に、こっちに向かっていて、バンドの到着は予定通りとの連絡がありました。」

「そうですか。アキちゃんがすごい可愛いので念のために聞きますけど、アキちゃんが利用されていうということはないんですよね。」

「はい、よく聞かれますが、それは全くありません。どちらかというと逆だと思います。ユミちゃんもそう思うよね。」

「プロデューサと湘南兄さんは優秀で、そのおかげでアイドル活動ができるんですが、チョロすぎて、騙す気にもならないです。それにもう少しイケメンがいい。」

「ユミちゃんが言いたいのは、私とユミちゃんがパスカルや湘南を騙しているということはない、だと思います。でも、パスカル、小学生にチョロいと言われているよ。」

「まあ、ユミちゃんから見たらそうかもしれない。」

「安心しました。失礼なことを聞いてパスカルさん、ごめんなさい。」

「いえ、この業界には悪い人もそれなりにいますので、疑ってくれる人は大切にした方がいいと思います。まあ、これは湘南の受け売りですが。」

「有難うございます。それにしても、アキちゃん、一年前より可愛くなったと思うよ。」

「有難うございます。たぶん、ステージに立っているせいだと思います。」

「なるほど。真治、私もステージに立とうかな。」

「可愛さはともかく、美由紀の歌じゃ、アイドルは難しいんじゃないか。」

肘鉄を食らわされるビリーだった。亜美が戻って来た。

「皆さん、おはようございます。・・・・おー、徹君、元気だった?」

「うん。」

「相変わらず可愛いね。今日はお姉ちゃんとお母さんの応援?」

「そう。」

「ミーア三佐、お忙しいところ、有難うございます。」

「アキ曹長、有難う。社長の話では、バンドメンバーは夜中の3時ぐらいまで練習をしていて、二尉はそれに付き合っていたそうだ。社長からもバンドは何とかなったと聞いている。」

「有難うございます。ミーア三佐、上の階に上がりましたら、カメラの使い方をご説明します。」

「一尉、よろしく頼む。」


 それから間もなくホールがある建物の扉が開いた。

「それでは皆さん、上のフロアに移動しましょう。」

正志がパスカルに話しかける。

「パスカルさん、私は駐車場で湘南さんを待っていることにします。荷物運びがあって、その手伝いが必要かもしれないから。」

「分かりました。お願いします。湘南には連絡しておきます。」

正志以外の一行は物販を行う上の階に向かった。そのフロアに到着すると、ホールのスタッフから説明があった。

「こちら側は、夕方からのライブの大学生のバンドサークルの楽屋のために、布で仕切った小部屋をいくつか作ります。バックバンドの方はその1番をお使いください。」

「了解です。バックバンドの世話係に連絡しておきます。」

「アイドルのお二人は、ステージと同じフロアに楽屋がありますので、そこをお使いください。」

「了解です。アキちゃん、ユミちゃん、マリちゃん、リハーサルが終わったら、楽屋に移動しよう。」

「プロデューサー、リハーサルは普段着でいいですか?」

「大丈夫だけど、念のため靴だけ履き替えて。」

「分かりました。」

「湘南の連絡では、ちょっと前に、バンドの皆さんといっしょに到着したとのことだ。ステージで準備して待っているので、11時半に来てくれとのこと。」

「それじゃあ、私たちは発声練習をしてからステージに向かいましょう。」

「はい、マリちゃん、アキちゃんとユミちゃんはお任せします。」

「それじゃあ、アキちゃん、ユミちゃん、発声練習ね。」

「はい。」

「はい。」

「それで、小沢さん、この部屋のこちらのサイドで物販をお願いします。」

「了解です。ご説明、有難うございます。」

係員がホールの階に戻って行った。

「物販の準備はもう少し後で開始しますので、みなさんはそれまで休んでいてください。ミーア三佐、カメラの使い方をお伝えします。」

「有難うございます。フルサイズのカメラが2台、レンズがF2.8の24ー70ミリと70-200ミリのズームですか。すごいです。」

「1台は自分のですが、カメラと70-200のセットはレンタルです。」

「なるほど、2台目はレンタルということもできるんですね。参考になります。」

「はい、1台は持っていた方が使い慣れるためにもいいですが、2台目は同じものをレンタルすれば、戸惑うことなく活用することができます。」

「さすがです。」

「有難うございます。フラッシュが1台あるのですが、必要な時に24-70の方に取り付けて使ってください。フラッシュは、ホール内では演者やお客さんの邪魔になるので使わないほうがいいと思います。」

「了解です。」

「これが電源スイッチ、これがシャッターボタン、これが再生ボタンにメニューボタンです。フォーカスポイントを変えるためにはこのセレクタを使います。」

「だいたい分かります。」

「それでは、撮影して見て下さい。分からないことがあったら聞いて下さい。」

「はい。では徹君から撮ろうかな。・・・・徹君、今日も可愛いねー。写真撮るよ。」

「ミーアお姉ちゃん、有難う。」

 亜美がオートフォーカスや露出の機能を確認しながらいろいろな角度と距離で徹の写真を撮り始める。発声練習をしていたユミが気を散らせて、マリに叱られる。

「ユミちゃん、ちゃんと集中しなさい。音程がかなりずれていたわよ。」

「ごめんなさい。でも。」

「ステージのこと以外はパスカルさんたちに任せて、今はステージのことに集中する。」

「はい。」

それを見たパスカルが、徹に話しかける。

「徹君、これから物販、いろいろなグッズを売る準備をするんだけど、手伝ってくれる?」

「うん、いいよ。」

「怪我しないように徹君には俺が付いている。それでは、ラッキーさん、ビリーさん、イノル、物販の設営を始めます。」

「了解。」「ラジャー。」「まかせろ。」

 パスカルが徹に付いて5人が物販ブースの設営を始める。亜美は徹を中心に、写真を撮影していた。途中、パスカルが亜美が撮った写真を確認する。

「亜美さん、今まで撮った写真を確認していいですか。」

「はい、お願いします。」

パスカルは「8割が徹君の写真だな」と思いながらも、写真を拡大し確認する。

「亜美さんが撮影した写真、ピントも露出も大丈夫です。それでは、どんどん撮って行きましょう。」

「了解です。それじゃあ、徹君、笑って。」

「うん。」

亜美が徹の写真を再び撮りだした。ラッキーが亜美と徹の様子をスケッチをしているコッコに話しかける。

「ミーアちゃんって、本当に子供好きなんだね。」

「ちょっと危ない子供好きかもしれないけれど。でも、これは単なるオタクとしての勘だけど、ミーアちゃん、一線は超えないとは思うよ。」

「そりゃあ、そうだろう。」

「コミケで亜美ちゃんと由香ちゃんのGLもののイラストは多いけれど、亜美ちゃんのオネショタ物のイラストは見たことないから、コミケでいけるかもしれない。」

「オネショタなの?」

「当たり前だろう。」

「まあ、ほどほどにね。」

「分かっている。さすがに全年齢対象で二次元化する。」


 11時20分を過ぎたころ、アキたちがステージに向かう時間となった。

「徹君、今はここで待っていて。お姉ちゃんとママは後でいっぱい見れるから。」

「お姉ちゃん、分かった。」

ユミが亜美に聞こえないように、コッコに話しかける。

「あの、コッコさん、徹をよろしくお願いします。」

「分かっているって。一線を超えそうだったら、ストップをかけるから。」

「有難うございます。」

亜美、徹、コッコを残してをアキ、ユミ、マリ、パスカル、ラッキー、イノル、ヘキサ、ビリーがステージに向かった。

「ユミちゃん、次のリハーサルが、本番前の最後の練習よ。」

「分かっています。今日はあがらないことを第一に考えます。」

「二人とも、練習してきたから大丈夫よ。」

「マリちゃんのいう通り。赤字になることはなさそうだから適当に頑張ればいい。」

「次のためにも、そういうわけにはいかない。」

「私も。絶対頑張る。」

「おっおう、さすがだな。」


 アキたちが、ステージに到着すると誠と準備が終わりスタンバイしているバンドの姿があった。久美が、一番後の段の上で様子を見ていたが、マリは気づいていなかった。パスカル、イノル、ヘキサ、ビリーがフロアに降りステージを見上げる。ラッキーはユミ側の舞台袖に向かった。パスカルが、誠の隣にやって来て話しかける。

「湘南、お疲様。大丈夫か?」

「昨日夜中の3時ごろまで練習していました。それでバンドの皆さんは睡眠不足気味ですが、今、少し演奏してみた感じでは、演奏の方は大丈夫だと思います。」

それを聞いて、パスカルはライブ中の定位置であるアキ側の舞台袖に向かった。アキがバンドを見て感想を漏らす。

「すごい、シャーさん、カッコいいけど女性なんですね。」

シャーは一礼で返した。

「キシリアさん、やっぱり怖い。」

「アキさんもお甘いようで。」

「有難うございます。みんな、すごい。」

湘南がリハーサルの開始を告げる。

「時間があまりありませんので、リハーサルに入りたいと思います。アキさん、ユミさん、バンドの位置が、ダンスパフォーマンスの邪魔にならないか確認してみてください。」

アキとユミが動きの大きなダンスをして確認してみる。

「湘南、OK。問題なし。」

「湘南兄さん、大丈夫です。」

「次は、マリさんも加わって、ステージで3人のパフォーマンスで確認してみて下さい。」

「湘南さん、有難う。」

マリが加わって、3人のパフォーマンスで確認してみる。

「湘南さん、大丈夫。」

「有難うございます。ガルマさん、何かありますか?」

「事前にリハーサルができなかったので、できればこのリハーサルで、ワンフレーズずつは合わせてみようと思うけど。」

「みなさん、大丈夫ですか?」

「はい。」「了解。」「お願いします。」

「それでは、マリさんは出番までフロアに降りて、アキさんとユミさんは一度舞台袖に下がって下さい。」

「はい。」「了解。」「分かりました。」

誠とマリがフロアに降りる。

「それでは、パスカルさん、ここからはお願いします。」

「OK。」


 PA席の二人が、誠と悟が作成した音響や照明などの計画書を確認しながらおしゃべりをしていた。

「あのガルマというベース、パラダイス興行の悟さんに似ていないか?」

「似ていると言えば似ているけど、雰囲気は違うな。悟さんより覇気がある。」

「そう言われればそうだな。」


 パスカルとラッキーがアキとユミの準備を確認して、パスカルがガルマにOKのサインを出す。ガルマが目くばせで演奏の開始を指示すると、ララァがドラムで開始の拍子を取る。序奏が始まると、アキとユミがステージの左と右から走り出て、パフォーマンスを開始する。ワンコーラスのパフォーマンスが終わったところでガルマが尋ねる。

「アキさん、ユミさん、問題ない?」

「素敵な演奏有難うございます。」「問題はありませんでした。」

「ここで、MCですね。」

「はい。私たちの場合はMCも重要ですので、ここでやってみてもいいですか。」

「もちろん。」

 アキとユミが練習してきたMCを試す。


 フロアにいるマリが湘南に話しかける。

「『ジオン公国に栄光あれ』、アマチュアだけど『ジュエリーガールズ』より良いところもかなりあるわね。特にベースとドラムはかなりいい。ギターとキーボードも良さそうなんだけど、少し余裕がない感じかな。」

「はい、マリさんの言う通りです。」

「でも、これならバックバンドとして問題になることはないわね。」

「昨晩から練習したばかりですので、油断は禁物ですが、バンドの方々には誰かがミスをしても、そのまま演奏を続けるようにお願いしています。」

「うん、それでいいと思う。」

 途中から、マリもアイドルとして加わり、リハーサルは順調に推移して無事に終了した。

「シャーさん、キシリアさん、ララァさん、ガルマさん、有難うございました。すごい素敵な演奏でした。」

「私もそう思います。」

「アキさん、ユミさん、あと、マリさん、演奏の機会を設けてくれて有難うございました。」

4人が頭を下げる。

「それでは、『ジオン公国に栄光あれ』の皆さん、上の階に控室が用意してあります。お弁当とお茶も用意してありますので、そこでお休みください。申し訳ありませんが、13時20分には控室を出なくてはいけませんので、休憩時間が50分位しか時間がありませんのが、よろしくお願いします。」

「了解。有難う。」

「パスカルさん、僕はバンドの皆さんに付き添っています。」

「おう、よろしく頼んだ。」

「では、『ジオン公国に栄光あれ』の皆さん、行きましょう。」

誠がバンドに付き添って、上の階のバンドの控室に引率して上がって行った。


「本当のことを言うと、バンドの人と話してみたいけれど。」

「やっぱり、ガンダムの話か?」

「そう。でもバンドの人たちもかなり緊張してるみたいね。」

「湘南の話では、アマチュアバンドで、バンマスのガルマさん以外は、こういうホールで演奏する経験があまりなかったらしいよ。」

「それだとリハーサルは良かったけど、本番は少し心配ね。」

「そういうことだから、バンドの誰かがミスをしても演奏はそのまま続けて、ミスした人はバンマスのベースに合わせてまた入るとのことだ。だからアキちゃんたちもミスがあってもパフォーマンスを続けて欲しいということだった。」

「こっちもアマチュアなんだけど、分かった。中断しないで続ける。」

「はい、湘南兄さんの言うことに従った方がいいと思います。」

「ということで、パスカルさん、こっちは大丈夫。」

「それじゃあ楽屋で休んでいて。弁当とお茶は用意してある。時間は50分と少しあるけど、5分前のアナウンスがあったら、慌てないで控室から出て、アキちゃんとユミちゃんは舞台袖でスタンバイして。」

「了解。」「了解です。」


 誠はバンドメンバーを上の階に案内すると、ラッキーが驚く。

「すごい、シャーアズナブル、カッコいい。」

シャーがラッキーに黙って一礼をして答える。部屋には他に亜美、コッコ、徹がいたが、亜美が徹を抱っこして、コッコがそれをスケッチしていたため、3人は誠の到着に気が付かなかった。誠が「ミーアさん、ギリギリ大丈夫か。」と思いながら、メンバーを控室に案内する。キシリアも亜美を見ながら控室に入った。バンドメンバーが控室に入ると、誠はバンドメンバーとの連絡が楽なように、控室の前に椅子を持ってきて座った。ラッキーが誠に声をかけた。

「リハーサルはどうだった?」

「はい、バンマスのベース以外のメンバーは少し緊張されているみたいですが、バンマスがうまく誘導していましたので、公演には全く問題がないと思います。」

「夜中まで練習した甲斐があって良かったね。アキちゃんとユミちゃんの調子は?」

「ミスはほとんどありませんでした。この2週間でだいぶ良くなったと思います。さすがです。今日の調子も良いみたいで、いま可能な最高のパフォーマンスができると思います。」

「それは良かった。湘南君も寝ていないようだけど大丈夫かい。」

「少し眠いですが、3時間は寝たので大丈夫です。」

「今日は飲んだらすぐに寝てしまいそうだな。」

「そうですね。公演時はみなさんもホールに見に行くんですよね。」

「もちろん行くつもり。ここの部屋のカギを預かっているから、お釣りのための現金だけ身に着けて下に行く。」

「ラッキーさんは右の舞台袖担当でしたね。それ以外の方は、ホールの一番後ろの段を関係者用の場所としましたので、そこを使うように言って下さい。」

「了解。普段は前で騒いでいるんだけど、今日は主催者側だから、おとなしく横から見ているよ。単なる観客で参加するのと違って、心が少し重い。」

「はい。でも、上手くいけば、その分気分がいいと思います。」

「そうだろうね。昔の高校の学園祭を思い出す。」

「学園祭では何をやったんですか?」

「携帯電話のゲームプログラムを作って、配布した。」

「さすがです。あのすみません、バンドの方が僕を呼んでいるようですので。」

「分かった。湘南君はバンドの方を優先させて。」

「有難うございます。」


 開演30分前の開場時間になると、ホールにお客が入り始めた。欠席する客がいたが、当日券で入る客もいて150人と少しの観客がホールに入場した。舞台袖から見ていたパスカルが控室のアキたちに伝える。アキたちはお弁当を半分ぐらい食べた後、アキは自分で、ユミはマリがお化粧をしているところだった。

「お客さん、本当に半分ぐらいは入っている。うちらのためだけに、すごいな。」

「良かった。」

「アキ姉さん、まだまだ。次は一杯にしないと。」

「うん、私はその意気だけど、ユミちゃんは溝口エイジェンシーのオーディションに受かったら、次はないかもしれない。」

「そのときは、アキちゃん、私といっしょに一杯にしよう。」

「来年はママは32歳で、年齢がアキ姉さんのちょうど2倍じゃないの。」

「アキちゃんは17歳になるからギリギリセーフ。」

「そう言えば、アキ姉さんの誕生日はいつなんですか?」

「2月14日。」

「本当にですか。」

「本当。バレンタインデーなんだよ。」

「セイントアキって感じなんですね。」

「アキちゃん、バレンタインデーのプレゼントは一つ大人になった私、っていうやつね。」

「あのマリちゃん、お子さんがいるんですから。」

「プロデューサーまで、湘南さんみたいなことを言っている。」

「これは湘南じゃなくても、普通です。」

「そう思えるのが湘南さんの影響よ。」

「そうですかね。」

「それで、ユミちゃんの誕生日は?」

「12月25日です。」

「ホーリーユミという感じか。」

「ホーリーユミ、なんかカッコいいですね。」

「マリちゃんは?」

「1月15日よ。」

「それじゃあママ、1月15日から2月14日までは、年齢がアキ姉さんの2倍。」

「うるさいわね。そんな計算が速い子に育てた覚えはないわ。」

「これも湘南兄さんの影響かな。」

「そうかもね。」

「湘南、バンドの方は上手くやっているかな。」

「パスカル、湘南からの連絡がないから大丈夫よ。」

「アキちゃんの言う通りだな。」


 10分前になって、誠が控室のバンドメンバーに声をかける。

「時間ですが、準備はできていますか?」

「誠君、こっちは大丈夫、いつでも行ける。」

「それでは、出発しましょう。」

「誠、人前で演奏するのは初めてだからやっぱり緊張する。」

「観客の皆さんが騒ぐことができるよう、思いっきり演奏してください。ここなら、少しぐらい失敗してもノリでカバーできます。つまづいたら、社長さんのベースに合わせられるところから続けて下さい。」

「分かった。バンマス、頼りにしている。」

「責任重大だな。」

「マー君、私は番号の入力を間違えたらどうしよう。」

「僕が観客席の後ろからタブレットで曲の番号を示しますので、それを見て確認して下さい。」

「マー君、有難う。」

「それじゃあ、行くですねー。ドラムの演奏、楽しみですねー。」

 バンドメンバーが下に降りると、物販を担当するラッキーたちも上の階のフロアーを後にして、ホールに向かった。


 開始5分前のアナウンスがされるころ、バンドメンバーが暗いステージの上に出てきて、演奏の準備を始めた。そして、アキとユミが控室を出て、左右の舞台袖に別れて待機した。パスカルとラッキーも左右の舞台袖に待機していた。マリも衣装を着替え自分の化粧を直した後、右の舞台袖にやってきた。誠はPA席の隣で、タブレットで曲の番号を示せるように準備をしていた。他のスタッフも一番後ろの段の関係者のスペースで開演を待っていた。

「もうすぐ、ユミお姉ちゃんが出てくるよ。おとなしく待っててね。」

「うん。」


 ライブの開演がアナウンスされると、ガルマが他の3人のメンバーの準備を確認するために順番に見ていった。目が合ったメンバーはうなずいて準備完了をガルマに告げた。3人の準備が確認できたガルマがパスカルにOKのサインを出した。ラッキーがユミの準備を確認して、OKサインをパスカルに送った。パスカルがアキを見ると、アキがうなずいた。全員の準備完了を確認したパスカルが、ガルマにライブ開始のOKサインを出した。ガルマがララァに合図を送り、ララァが拍子を取って、バンドの演奏が始まり、照明でステージが明るく照らされると、左右からアキとユミが出て来た。

「こんにちはー、アキです。」

「こんにちはー、ユミです。」

二人で『ジャンプイン』のパフォーマンスを始め、無事終了する。

「改めまして、こんにちは。みんな『ユナイテッドアローズ』のアキだよー。」

「みんなー、今日は『ユナイテッドアローズ』のワンマンライブに来てくれて本当に有難う。みんなに会えて、ユミ、嬉しい。」

「今、歌った曲は、今年春に惜しまれながらも解散した『アイドルライン』のヒット曲『ジャンプイン』のカバーだよー!」

「ユミも一生懸命歌ったけど、どうだった?」

会場から「まあまあ」という返事が返ってきた。

「まあまあ?有難う!まあまあと言ったお客さんは、たぶん、『アイドルライン』のファンだったんだよね!」

会場から「その通り」という返事が返ってきた。

「アキ姉さん、『アイドルライン』のファンの方にまあまあと言ってもらえれば、十分だよね。」

「今はね。」

「アキ姉さん、いつかは『ユナイテッドアローズ』の『ジャンプイン』の方が良かったと言わせるつもりですか。」

「もちろん。私は欲張りだからね。」

「強欲アイドルですね。」

「その通り。」

「そう言えば、アキ姉さんは声優にもなりたいんだよね。」

「うん、いろいろな可能性を探っているところ。」

「さすが、強欲アイドル。せっかくだから、みなさんにアキ姉さんの声優力を披露するのは。」

「みっ、みんなのことなんて、何とも思っていないんだから。」

会場から拍手が起きる。

「さすが、アキ姉さん。本当はみんなのことを深く愛しているというのがよく分かる。」

「私が強欲アイドルとすると、ユミちゃんは?」

「清純アイドル!」

「多分違う。」

「じゃあ、何ですか。」

「暴食アイドル。」

「よく食べて、大きくなろう。って、違います。こう見えてもダイエットしてるんですから。」

「アイドルになりたいから?」

「それもありますが、学校のクラスの女子の半分ぐらいがダイエットをしています。」

「最近の小学生は大変だね。それじゃあ、傲慢アイドルかな。」

「ふん、私なら『アイドルライン』なんてすぐに超えてみせますよ。」

「実際に超えるのは大変だけど、頑張ろう。」

「そのためには、もっと歌わないと。」

「ユミちゃん、いいこと言うねー。その通りだ。それじゃあ、次は『アイドルライン』の『先輩マガジン』と『ネクストサンデー』をカバーするよ。」

「それじゃあ、行くよー!みんな応援してねー!」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に2曲のパフォーマンスを終えた。

「みんな有難う!『アイドルライン』の『先輩マガジン』と、」

「『ネクストサンデー』を歌ったよー!みんな応援してくれて有難う。」

「昨日、ウェブサイトやメールでみんなに伝えたけど、最初予定していた『ジュエリーガールズ』の皆さんが体調不良で出演できなくなったの。ごめんなさい。その代わりと言うと何だけど、『ジオン公国に栄光あれ』の皆さんが演奏してくれることになったよー。」

「アキ姉さんとしては、こっちの方が嬉しそうだった。」

「私のファンの中にも宇宙世紀が好きな人は多いから、喜んでいる人がいるかも。バンドが予定と変わったので、先にメンバー紹介をするね。まずはギター!すごいカッコいい女性のシャーアズナブルだよ。」

「見せてもらおうか、『ユナイテッドアローズ』のメンバーの実力とやらを。」

「はい、ユミ、全力で頑張るので、シャー姉さん、是非見てて下さい。」

「『ユナイテッドアローズ』のメンバーは化け物かと言いたくなるぐらい頑張る。」

シャーが短くギターを演奏する。

「次は、キーボード、キシリア閣下。」

「しかし、フロア後方のお客さんの動きが目立たないのはどういう訳だ?アキ曹長」

「はっ、学徒動員のお客が多いようですから。」

「学生か。」

「しかし、養成は万全でありました!」

「ふむ・・・話は信じるが、戦果だけが問題なのでな。元気がなさすぎるようだ。」

「申し訳ありません。しかし、彼らの『ユナイテッドアローズ』を応援する志は・・・みんなー、今の応援ではキシリア閣下が不満足なようだから、もっと応援して!お願い。」

会場から、

「キシリア閣下、頑張ります。」

という返事が返ってくる。キシリアが短くピアノの音で演奏する。

「ドラム、ララァ・スン」

「ラッラァ、ラッラァ、ラッラァ」

と言いながら、短くドラムを演奏する。

「すごい、たくさんのビットを操るような見事なドラム裁き。最後がベースアンドバンマス、いつも可愛いガルマ・ザビさん!」

「『ユナイテッドアローズ』に栄光あれ!」

「ガルマさん、それでは散っちゃいますよ。」

「散る覚悟で頑張ります。」

ガルマがベースを短く演奏する。

「有難うございます。実は『ジュエリーガールズ』が演奏できないことが分かったのが、昨日の夕方で、『ジオン公国に栄光あれ』の皆さんは昨日の夕方から、今日の夜中の3時まで練習してこのライブに間に合わせてくれたんだよ。」

「午前中にバンドの皆さんといっしょにリハーサルをしたけど、バッチリだったから期待してね。」

「今日はこのバンドと一緒にパフォーマンスをお届けするよ。みんな、バンドの皆さんにも声援をお願いね。」

会場から拍手が起きた。

「それでは、次は私とユミちゃんが一曲ずつソロで歌うよ。私が春奈るなさんの『君色シグナル』を、」

「ユミがKOTOKOさんの『さくらんぼキッス 〜爆発だも〜ん〜』 を、」

二人同時に言う。

「カバーするよ。」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、一人が歌っている間、もう一人は横で見ている形で、無事に2曲のパフォーマンスを終えた。

「みんな、聴いてくれて有難う。」「有難う。」

「私が『君色シグナル』を歌って、」

「ユミが『さくらんぼキッス 〜爆発だも〜ん〜』 を歌ったよ。」

「私の『君色シグナル』は聴いたことがある人も多いと思うけど、ユミちゃんの『さくらんぼキッス 〜爆発だも〜ん〜』 はどうだった?」

会場から「可愛かった。」という返事が返ってきた。

「さて、これからもまたカバー曲を歌っていくよ。」

「みんな聴いてね。」


 アキとユミが『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』、『恋愛サーキュレーション』、『アイヲウタエ』を続けて歌う。

「みんな有難う。」

「有難う。アキ姉さんとユミで『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』、『恋愛サーキュレーション』、『アイヲウタエ』を歌ったよ。」

「すごい、ユミちゃん、完璧に覚えていて。」

「一応これでもアイドルを真剣に目指していますから。」

「そうか、さすがだ。」

「まあ、女優でもいいです。」

「女優でもいい。さすが大物ユミちゃん。」

「ふふふふふ。」

「それじゃあ、ユミちゃんもツンデレやってみて。」

「アキ姉さん、了解、やってみる。・・・・みんなのことなんて、何とも・・・何とも・・何とも大好きだよ。うるせーな。仕方がないだろう。大好きなんだから。」

会場から歓声が起きる。

「おー、さすが女優志望。ツンからデレに変わる瞬間まで演技している。」

「みんなも応援ありがとう。」

「いつの日か、ユミちゃんをテレビドラマで見る日を楽しみにしている。」

「ユミ、頑張る。」

「みんなも、応援してあげてね。」

会場から「分かった」という声が上がった。

「さて、次はもともとは私のオリジナル曲だったものを『ユナイテッドアローズ』バージョンにした曲を歌うよ。」

「ユミもいっぱい練習したよ。」

「それでは聴いてね。」


 アキとユミが『急に呼び出さないで』、『手をつなごう』、『君を思うと』を続けて歌う。『手をつなごう』では、二人が手をつないで、歓声を浴びていた。

「みんな有難う。」

「有難う。アキ姉さんとユミで『急に呼び出さないで』、『手をつなごう』、『君を思うと』を歌ったよ。どうだった?」

会場から「良かった。」という歓声が上がった。

「私には、リアルに妹がいるんだけど、あまり仲が良くなくて。手をつなぐなんて考えなれないけど、ユミちゃんとなら自然にできる。」

「アキ姉さん、そういうことは、ここでは言わないほうが。」

「やっぱり、ユミちゃんと目指す方向が近いのがいいんだと思う。」

「それは私もそうです。アキ姉さんと練習したりステージに立つのが一番楽しいです。」

「有難う。このワンマンライブもたいぶ終盤になってきたけれど、」

客席から「えー」という歓声があがる。

「次はワンマンライブスペシャル、『トリプレット』の歌をカバーするよ。」

「アキ姉さん、『トリプレット』のメンバーは3人で『ユナイテッドアローズ』は二人だよね。一人足りないけど、どうしよう。」

「どちらかが、分身の術を使って一人で二人分を演じるしかないか。」

「高速移動で、一人を二人に見せるんですね。やってみるね。」

ユミが反復横跳びをする。

「どう、アキ姉さん、二人に見えました?」

「ユミちゃんの反復横跳びが可愛かった。皆さんもそう思いますよね。・・・・ほら、みんな、思うって。」

「でも、今はそうじゃなくて、二人に見えたかどうか。」

「うーん、ユミちゃんが可愛く反復横跳びをしているようにしか見えなかった。」

「それじゃあ、アキ姉さんやってみて下さい。」

「分かった。」

アキが反復横跳びをしてみせる。

「なんか、私、ユミちゃんより遅かったかも。」

「でも、アキ姉さん、ユミより可愛かったかも。」

「さすがに、それはないわよ。」

「いえ、無駄な動きが多くて、可愛かった。」

「ユミちゃん、酷い。それじゃあ、どっちが可愛かったか、拍手で聞いてみようか。」

「怖いけど、やってみよう。」

「ユミちゃんの方が可愛いと思う人は拍手を。」

「アキ姉さんの方が可愛いと思う人は拍手を。」

同じぐらいの拍手が返ってきた。

「同じぐらいかな。」

「小学生と同じぐらい可愛いというのは、さすがアキ姉さん。」

「それだと、誉められている気がしないな。事前打ち合わせはしていないけど、ガルマさん、反復横跳び、やってみますか?」

「僕よりは、女性陣にお願いした方がいいと思う。」

キシリアとララァがシャーを指さす。

「シャー大佐、やってみません?」

「分かりました。やってみます。」

シャーがギターを置いて前に出る。

「それでは、スタート。」

シャーが反復横跳びを始める。

「すごい、シャー大佐だけあって、通常の3倍の速さかも。」

「3人いるように見えそうです。」

シャーが反復横跳びを終えて答える。

「でも、これだと歌えない。」

「それは大佐の言う通り。」

「そうですね。」

「それでは、戦艦6隻を本当に撃沈できそうな素晴らしい動きを披露してくれた、シャー大佐に大きな拍手をお願いします。」

会場から大きな拍手が起きた。シャーは後ろに戻ってギターを演奏する準備をした。

「うーん、速く動けるように練習しても、歌うのは無理だから別の方法を考えないと。」

「やっぱり、メンバーを追加するしかないかな。」

「ユミちゃん、心当たりはあるの?」

「一応。」

「どんな人。」

「私のアイドル活動に憧れている、31歳の人妻で二児の母。」

「それはもしかして、ユミちゃんのお母さん。」

「はい、その通り私のママです。でも歌は上手なんです。」

「私たちの歌の先生だもんね。」

「はい。」

「ダンスは?」

「特訓していました。」

「それじゃあ、ユミちゃんと会場のみんな、『ママー』って大きな声で呼んでくれる。」

「アキ姉さん、了解。会場のみんな、1、2、3でママーって呼んでね。」

会場から、「ユミちゃん、はーい。」という返事がある。

「それでは、いくよ。1、2、3、ママー!」

ユミと会場からの声でマリがステージに出てくる。

「はーい。」

会場がすこしどよめく。

「こんにちは、ユミの母で、マリといいます。よろしくね。」

「31歳の人妻で二児の母なのに、よくこの衣装で出てこれると思うかもしれないけど、うちのママはこういうママなんだよね。」

「どう、この衣装、似合う?」

会場から「似合う!」との返事が返ってくる。

「有難う。似合うって。『ユナイテッドアローズ』に加わって3人を標準にしようと企んでいるところ。」

「プロデューサーは人気しだいと言っている。」

「厳しい。そういう世界だからしかたない。全力で頑張るのみ。」

「でも、ママは誰のパートを担当するの?」

「もちろん、リーダーのなおみちゃん。」

「ママ、それはさすがに無理があるような。」

「アイドルになるのに、歳の差なんて関係ないわ。」

「ママの場合、引き算というより、割り算という感じなんだけど。」

「アイドルになるのに、歳の倍数なんて関係ないわ。」

「強気だな。うちのママ。」

「ユミちゃん、とりあえずパフォーマンスをお客さんに見てもらおうよ。」

「そうしようか。では、トリプレットの『一直線』をカバーするよ。」

「ママ、準備はいい?」

「OK。」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に『一直線』のパフォーマンスを終える。

会場から「ママー」という声が多数かかる。

「ママさんの歌、上手だった。」

「うちのママ、一応音楽大学の声楽科出身だから。」

「でも、アキちゃん、ママさんはやめて。」

「ごめんなさい。マリちゃん、さすがです。」

「みんなも私のこと、マリ、またはマリちゃんって呼んでね。」

会場から「ママさん!」という返事が返ってくる。

「違う、マリちゃんよ、マリちゃん!いいわね。」

会場から「ママちゃん」という返事がある。

「ママ、マリちゃんじゃなくて、ママちゃんに変えたほうがいいんじゃない。」

「いや、あきらめない。いつかマリちゃんと呼ばれるように頑張る。」

「まあ、諦めが悪いママです。」

「マリちゃんの戦いは続く。それでは次の曲に行くね。次の曲も『トリプレット』から、『ずうっと好き』を歌うよ。」

「アキちゃんがメインの歌、頑張ってね。」

「はい、マリちゃんから受けた特訓を無駄にしません。」

「それでは、聞いてね!」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に『ずうっと好き』のパフォーマンスを終える。会場から「アキちゃーん」という声がかかる。

「有難う!『ずうっと好き』を歌ったよ!」

「ちゃんと歌えていたよ。」

「ママのダンスもなかなかだった。」

「ユミちゃん、有難う。これも特訓の成果ね。」

「その分、夕食が手抜きになった気もするけど。」

「ユミちゃん、そういうのは気のせいと言うんだよ。勉強になった?」

「ならない。」

「それでは、次が最後の曲になります。」

会場から『えー』という声がかかる。

「有難う。次の曲も『トリプレット』の『時間はいじわる』をカバーします。」

「ママの場合は、時間は残酷と言った方がいいかもしれない。」

「うちの場合、子供はいじわると言った方がいいかもしれない。」

「それにしても、本当に仲のいい親子だよね。うらやましい。」

会場から「うらやましい」という声がかかる。

「それじゃあ、心をこめて歌うから、みんな聴いてね。」

「今日、最後の歌。」

「『時間は残酷』」

「ママ、最後の曲なんだからボケないで。」

「ごめんなさい。『時間はいじわる』。」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に『時間はいじわる』のパフォーマンスを終える。会場から「アキちゃん」、「ユミちゃーん」、「マリちゃーん」という声がかかる。「有難う。有難う。」

「有難う。」

「有難うございます。」

三人が手を振りながら舞台袖に下がると、ステージが暗くなった。会場から「アンコール」の声が巻き起こった。少しして、ステージが明るくなり、3人が物販で売るものを持ってステージに現れた。

「アンコール、有難う!」

「また呼ばれて、ユミ、すごく嬉しい!」

「私もまた出てきちゃった。」

「どうぞ、どうぞ、みんなも大歓迎だよね。」

会場から拍手が起きる。

「有難うございます。」

「それじゃあ、物販で販売するものを紹介するね。」

「まずはアクリルスタンド。今の衣装を着たユミちゃん、マリちゃん、私の3人のアクリルスタンド、『みんなでユナイト』スペシャルバージョンだよ。3人のうち一人のサインをその場で書くから、是非、手に入れてね。」

「ユミちゃん、可愛い。」

「アキ姉さんも可愛いです。」

「私には何も言ってくれないの?」

「マリちゃん、美人!」

「可愛いと言ってもらった方が嬉しい。」

「ママ、可愛い。」

「うーん、自分の子供に言われると微妙だわね。」

「それじゃあ、会場のみんな、このアクリルスタンドのマリちゃんはどう!」

会場から「可愛い」という声が返ってくる。

「有難うございます。」

「次に、缶バッチセット。ユミちゃんだけ、マリちゃんだけ、私だけ、3人全員の4個セットだよ。これも、どれか一つに一人がサインするよ。」

「一人で写っている缶バッジは顔がアップになっているのがいいところ。」

「あとは、チェキ撮影会もやっているから、是非、物販会場に遊びに来てね。」

「ライブが終わったら、なるべく急いで開店する。」

「ユミちゃん、4階までダッシュね。」

「私はいいけど、ママが。」

「大丈夫。大人を甘く見ないで。」

「マリちゃんは、物販、どこに立つの?」

「ユミちゃんの所にいて、呼ばれたら出てくるよ。」

「それじゃあ、ママ、どれだけ呼ばれるかで、次も出演できるかどうか決まるね。」

「厳しい子供だわね。だから私にまた出演してほしい人は、ユミちゃんの列に来て、私、マリを呼んでね。」

会場から「分かった。」という声がかかる。アキがアンコールの曲について話し始める。

「さて、アンコールで歌う歌だけど。」

「私たちのオリジナル曲『あんなに約束したのに』を歌うよ。」

「それが、ユミちゃん、私たちのオリジナル曲じゃなくなっちゃったの。」

「アキ姉さん、なんでですか。」

「作曲家と作詞家が裏切ったの。」

「それは、またどういうこと。」

「まだ、詳しいことは言えないんだけど、メジャーのレコード会社に所属している歌手のアルバム曲に採用されたんだって。」

「それでは、勝負になりませんね。」

「まあ、こっちはタダで作ってもらったし、メジャーのCDに採用されるなら、秋山さんと辻さん、二人ともアマチュアの作詞家と作曲家だから、お祝いしないと。」

「幸せならばOKだぜ、ってやつですね。」

「そう。でも、『あんなに約束したのに』はメジャーの歌手のCDに採用されるぐらい、いい歌詞とメロディーということ。」

「その通り。でも、私たちが歌っていいんのかな?」

「もちろん、それは大丈夫。他のカバー曲と同じ。」

「それは良かった。すごくいい曲だから、まずは手本としてママに歌ってもらおう。」

「ユミちゃんに賛成。マリちゃん、お願い。」

「喜んで。」

「マリちゃんが歌うよ。『あんなに約束したのに』」


 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に『あんなに約束したのに』のパフォーマンスを終える。会場から、「ママー!」「マリちゃん!」「マジすごい!」「最高!」という声が飛んだ。

「有難うございました。」

「やっぱり、マリちゃんが歌うと芸術的になる。」

「うちのママ、歌だけが取り柄ですから。」

「こら。それじゃあ、次はアキちゃんとユミちゃんの番。準備はいい?」

「はい。」「はい。」

マリが最後の曲の案内をする。

「今日は私たちのワンマンライブに来てくれて有難うございました。本当に今日最後の曲『あんなに約束したのに』を、アキちゃんとユミちゃんが歌います。」

「みんな!全力で聴くんだよ!」

「ユミの歌を聴いてね!」

 ララァが拍子を取り、演奏が始まり、無事に『あんなに約束したのに』のパフォーマンスを終える。会場から、「アキちゃん!」「ユミちゃん!」「可愛い!」という声が飛んだ。

「二人ともすごく上達していた。ママ、感激しちゃった。」

「ママ、自分でママと言っちゃだめでしょう。」

「ごめん。今は娘の歌の発表会を見ている親の気分だったかな。改めて、アキちゃんとユミちゃん、すごく良く歌えていて、マリちゃん、感激しちゃった。」

「ママ、有難う。」

「マリちゃん、有難う。みなさん、今日は『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ『みんなでユナイト』に来てくれて、本当に有難う!」

「有難うね。」

「有難うございます。」

「また絶対ワンマンライブを開くから、そのときも絶対に来てね。」

「お願い。」

「お願いします。」

「それで、ライブが終わったらなるべく急いで物販を開始するから、そっちもよろしくね。それでは、最後の挨拶をしたいと思います。バンドの皆さんも、良かったら前にいらしてください。」

その声でバンドメンバー前にやってきて、シャー、ララァ、アキ、マリ、ユミ、キシリア、ガルマが舞台前に一列に並んだ。そして手をつないだ後、全員が手を挙げて、

「今日は本当に有難うございました。」

と言いながら深く一礼した。会場は大きな拍手に包まれた。バンドメンバーは後ろに下がり、各自の位置に戻った。3人は観客に向かって手を振り、「有難う、有難う、またね。」を繰り返しながら、左の舞台袖に下がった。3人がいなくなるとステージが暗くなった。舞台袖で待っていたパスカルが、3人に声をかける。

「3人とも、お客さんの反応も良いし、大成功だったよ。」

「有難う。本当嬉しい。」

「生まれてから一番楽しかったです。一生分の運を使い果たしちゃったみたい。」

「私はそうかもしれないけど、アキちゃんとユミちゃんには、まだまだ楽しいことがいっぱいあるわよ。」

「そうだといいです。」

「でも、ママの方が、楽しいことがいっぱいありそう。」


 ライブ終了のアナウンスが流れ、客は上の物販会場に行く客と帰る客がいたが、全員ホールから出て行った。ホールにお客がいなくなったところで、反対側の舞台袖にいたラッキーとマリ、関係者の場所で見ていた、亜美たちがアキとユミのところに集まって来た。誠だけがガルマのところに行き、集まっていたバンドメンバーと話をしていた。

「アキちゃん、ユミちゃん、感激した。すごく良かったよ。」

「ラッキー、有難う。」

「社長、有難うございます。」

「そうか、ラッキー社長、有難う。」

「それで、アキちゃん、ユミちゃん、申し訳ないんだが。」

「パスカル、分かっている。お化粧を直したら、すぐに行く。」

「パスカル君、とりあえず僕、コッコちゃん、ヘキサちゃん、ビリー君は上に行って、扉の鍵を開けて、列を整理しているよ。」

「社長を使って申し訳ないですが、お願いします。」

「それじゃ、コッコちゃん、ヘキサちゃん、ビリー君、行こう。ついてきて。」

「了解。」「はい。」「了解。」


 パスカルがステージでバンドメンバーといっしょにいた誠に声をかける。

「湘南、これからどうする?」

「僕はバンドメンバーの皆さんを送ってから、打ち上げごろに戻って来ます。」

「そうか。頼む。それじゃあ湘南、打ち上げでまた。」

「はい、打ち上げで。」


 物販が始まった。販売するものは、アルバムCD、アキとユミまたは3人のアクリルスタンド、その場で撮影するアキ、ユミ、ユミとマリとのチェキ写真撮影である。それぞれ3人のうち一人のサインを記入する。アキの列の会計がコッコ、世話係がラッキー、ユミとマリの列の会計がヘキサ、世話係がビリーの予定だったが、ユミとマリの列が長くなったため、担当を反対にして、慣れているコッコたちがユミとマリを担当することになった。パスカルとイノルは列の整理に当たっていた。正志は徹と一緒に控室にいることにした。亜美は物販や徹の様子の写真を撮影していた。ユミとマリの列では次のような会話で物販が行われていた。

「あの、チェキをお願いします。マリさんもいっしょにお願いします。」

「有難う。大学生?」

「はい、今日の『トリプレット』のパフォーマンス、感激しました。」

「どの曲が良かったの?」

「全部です。」

「有難う。それじゃあ、ユミちゃん、いっしょに撮ろう。」

「ママ、了解。」

ラッキーが3人でチェキ写真を撮影する。

「有難うございます。理想の母親と妹という感じです。」

「恋人じゃなくて母親?」

「はっはい。でも、恋人みたいな親子関係もいいかもしれません。」

「そうね。今日は来てくれてありがとう。」

「お兄さん、有難うございます。」

「有難う。また来ます。」


 客がだいぶ減ってきたころ、イベントでよくいっしょになる宇田川企画のプロデューサーが様子を見に来ていて、パスカルと会話していた。それが終わったところで、イノルがパスカルに話しかける。

「マリさん、毎回呼ばれているみたいですね。」

「そうだな。ユミちゃんかマリちゃんか、どっちが目当てかわからないぐらいだ。若いお客さんの方が多いぐらいだけど、イノルから見てどう?やっぱり珍しいからか。」

「珍しいだけじゃないとは思います。どちらかというと、明るくて理解がある理想のお母さんみたいな感じなんじゃないでしょうか。」

「それは分かる気がする。でも、マリちゃんにはそういうことを言わないように。」

「はい、分かりました。でも、お客さんに言われているかもしれません。」

「それはありそうだな。逆にアキちゃんのところは、やっぱりオタクが多いな。」

「今日のバンドがジオン軍のコスプレでしたから、話題は尽きないと思います。」

「そうだよね。機動戦士の話はアキちゃんの十八番だからね。両方とも並びなおすお客も結構いるし、良かったよ。」


 ナンシーが物販会場にやってきた。

「みなさん、こんにちはですねー。」

「おー、ナンシーちゃん、こんにちは。仕事だったんだって。」

「実はライブは全部見たですねー。会場がすごい盛り上がっていたですねー。みなさん、上の段にいたけど、私は前の方で騒いでいたですねー。」

「やっぱり、その方が楽しいよね。」

「ナンシーちゃん、ちょうど良かった。会計、手伝ってくれない?」

「了解ですねー。」


 また少しして物販会場に悟がやってきた。

「パスカル君、ライブも物販も大盛り上がりだね。」

「平田社長、有難うございます。また、ご紹介頂いたアマチュアバンドも最高でした。」

「ギターとキーボードがこういうステージで演奏するのが初めてだったから心配したけど、なんてことはなかった。二人ともすごくよくやってくれた。」

「ギターの方は振りもノリノリでしたし、キーボードの方もアキちゃんたちといっしょに騒いでる感じが出ていて良かったです。」

「人を魅せるパフォーマンスができるのは素質なのかもしれない。いずれにしても、病欠を十分カバーできて良かったよ。」

「はい、アキちゃんはバンドメンバーのコスプレを喜んでいました。」

「それでは、僕は夜の部の大学生バンドとの打ち合わせがあるから。」

「はい、有難うございます。」

悟がカーテンで仕切られた控室をまわって、学生バンドのPAや照明、演奏スケジュールに関しての確認を始めた。


 物販は当初予定の1時間は超えたが、無事に終了した。テーブルなどの後片付けをした後、パスカルとアキとマリが悟と久美に挨拶に行った。

「今日は大変有難うございました。おかげ様でワンマンライブ、私たちのレベルとしては大成功でした。」

「平田社長、おかげ様で素敵なライブができました。本当に有難うございます。」

「お客さんがすごく盛り上がって良かったと思うよ。でも、これから人気を伸ばしていくのが大変かもしれないから、頑張って。」

「有難うございます。これからも頑張ります。」

「また、何かあったら相談してね。今日はウィンウィンだったし、そうじゃなくてもライブ開催とかなら力になるから。」

「有難うございます。」「有難うございます。」

一方、マリは久美と話していた。

「久美、久しぶり。噂は湘南さんから聞いていたけど、落ち着いたというか、変わったわね。」

「変わったって、アイドルとして出演する真理子先輩には敵いません。リハーサルと公演を後ろから見せて頂きましたけど、さすがに驚きました。でも、アイドルの歌でも上手に歌えるのはさすが部長と思いました。」

「変わったのは、お互い様ね。」

「うーん、少し違うと思います。私の変化は普通の変化で、真理子先輩の変化は普通と反対に変化しています。」

「そうか。そうね。へへへへへ。」

「でも、二人のお子さんがいて、幸せそうです。お顔で分かります。」

「有難う。ここまで来るのは大変だったけどね。久美は、この後ライブの世話で忙しんだよね。」

「申し訳ありませんが、その通りです。」

「それじゃあ、久美の話も聞きたいから、またどこかでゆっくり話しましょうよ。」

「はい。でも、可能ならば、うちの歌手たちのために事務所に歌いにきてくれませんか?あまり高くはありませんがバイト料は出せます。今日の『あんなに約束したのに』、すごく良かったです。私ではあんな風に歌えません。」

「もちろん、喜んで。まあ、久美はパワーと迫力で歌うタイプだったからね。でも、それはそれですごかったわよ。また久美の歌も聴かせてよ。」

「はい、今またかなり練習していますから、お聴かせできると思います。」

「それじゃあ、久美の事務所でまた。」

「はい、また。」


 パスカルたちは、ホールのスタッフへの挨拶に向かった。悟が久美に話しかける。

「久美が仕事以外で敬語を使うのを初めて聞いたよ。」

「新入生にとって、3年生の部長なんて神様みたいなものだからね。実際、歌の実力もすごかったし。」

「なるほど。僕も今日生で聴いて誠君の言うことが分かったよ。歌の細かい表現が上手ですごく丁寧だった。」

「それに性格も明るいし。そう言えば、今度、明日夏たちのために、真理子先輩を事務所に呼んだけどいいよね。」

「もちろん。」


 この後、誠を除いたアキ、ユミ、マリ、パスカル、ラッキー、コッコ、亜美、徹、正志、イノル、ヘキサ、ビリーはホールがある建物の入口近くで集合して、反省会が開かれる渋谷のレストランに向かった。到着すると、ソフトドリンクで乾杯をする準備を始めた。

「湘南はまだ戻ってこれないって?」

「いま、パラダイス興行の事務所からこっちに向かっているって。あと15分位で到着するんじゃないかな。」

「良く分からなかったけれど、湘南は裏で大活躍だったんだよね。」

「湘南は自分のことをあまり言わないから、俺にも詳しいことは分からないけど、あんまり寝ていないみたいだし、たぶんそうだろうな。でも湘南が打ち上げを先に始めていてということだから、先に初めていよう。」

「分かった。そうしよう。」

「それじゃあ、飲み物の準備はいいかな。」

「みんな、大丈夫!」

「それでは、アキちゃん、まず一言お願いできる。」

「はい、ラッキー社長。みなさん、今日は私たちのワンマンライブ『みんなでユナイト』の開催に力をお貸しいただき有難うございました。おかげ様でワンマンライブはとても盛り上り、大成功を収めました。『ユナイテッドアローズ』は、プロとして活躍できることを目標に前に進んでいきますので、これからもお力添えをお願いします。」

みんなが拍手をする。

「アキちゃん、有難う。途中でユミちゃん、最後にマリさんから一言もらいます。」

「ラッキーさん、了解よ。・・・・ユミちゃんは。」

ユミ、徹、亜美と並んで座っていて、ユミは徹と亜美の会話の方が気になって、パスカルの話をあまり聞いていなかった。

「あっ、はい。分かりました。」

「それでは、『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ『みんなとユナイト』の大成功を祝して、乾杯!」

全員が声を揃えて「乾杯!」と唱えて、打ち上げが始まった。

「ラッキーさん、赤字になることはなかったんだよね。」

「マリちゃん、心配はいらない。まだ物販分の集計ができていないけど、大丈夫。黒字であることは確か。少なくとも、打ち上げと二次会分は出るんじゃないかな。」

「良かった。少し安心した。」

「これでパスカルのお嫁さんにならなくて済む。」

「アキちゃん、残念?」

アキが真剣な目をしてマリに向かって言う。

「マリさん、それはないです。」

コッコが茶化す。

「パスカルちゃんには湘南ちゃんがいるから、アキちゃん、勝つのは大変だぞ。」

「喜んで勝ちを譲ります。」

「アキちゃん、ステージでツンデレをやっていたけど、お嫁さんになりたくないというのを、ツンデレっぽく言ってみて。」

「そっ、そんな訳ないじゃない。パスカルのおよ、お嫁さんになりたいなんて。」

「おー、なかなか上手だ。」

「コッコ、有難う。まともなプロになれるなら、アイドルじゃなくて、声優でも何でも構わないから、何でも頑張る。」

「アキちゃん、グラビアアイドルでもか。」

「パスカル、嫌味か。それはさすがに無理だわ。」

「アキちゃんの写真集なら、俺は10部ぐらい買うけどな。」

「プロになって写真集を出したときは、よろしくね。」

「湘南さんによると、最低1000部ぐらい売れる見込みがあれば出せるそうだけど。」

「1000部か。悔しいけれど、ちょっと無理かな。」

そのとき誠がやってきた。

「皆さん、お疲れ様です。会場は大盛り上がりで、ワンマンライブは大成功でした。」

「おー、湘南、良く来た。とりあえずジュースだが乾杯しよう。」

「湘南、バンドの皆さんのお世話、有難うね。」

「はい、バンドの方々も、お客さんが大盛り上がりのステージになって、大変喜んでいました。」

「できたらお話もしてみたいし、次もお願いしたいところだけど。」

「聞いてはみますが、みなさん本業の方も忙しいようですので。」

「そうか。だからアマチュアなのか。」

「はい、その通りです。」

「湘南君、バンドメンバーの方に一人1万円ぐらいなら、謝金を払えるけど。」

「副業禁止の方もいらっしゃいますので、みなさん受け取らないと思います。バンドのグッズもありませんし。」

「いろいろあるだろうから、了解。」

「副業禁止と言うと、おれの同業者か。」

「ギターとキーボードの方は、どちらかというともっとブラックな業界にいます。」

「だから顔を隠しているのかな。」

「はい、そういうこともあると思います。」

「でも、ギターの人、カッコよかったしノリノリだったわね。」

「マリさんの言う通りだと思います。普段の仕事が大変みたいで、ストレス発散になったと言っていました。」

「それは良かったわ。」


 同じころ、亜美、ユミ、徹は3人の世界を作っていた。

「徹君、美味しそうなハンバーグだね。」

「うん、ミーアお姉ちゃん、美味しそう。」

「お姉ちゃんが、食べさせてあげるね。」

「有難う。」

「はい、あーん。」

亜美がスプーンでハンバーグの一片を徹の口の中に運び、徹がハンバーグを食べる。

「美味しかった。」

「うん、美味しかった。」

「次は、お姉ちゃんにハンバーグを食べさせてくれる。」

「分かった。・・・・・はい。」

徹がスプーンで亜美の口に一片のハンバーグを運ぶ。

「美味しい。徹君が食べさせてくれると、もっと美味しくなる。」

ユミが割り込む。

「それじゃあ、お姉ちゃんにも。」

「お姉ちゃん、子供みたい。」

「でも、お願い。」

「分かった。」

徹がスプーンでユミの口に一片のハンバーグを運ぶ。

「徹に食べさせてもらったのは初めて。すごく美味しくなった。」

「それじゃあ、徹君、次は何を食べたい。」

「うーん、自分で食べたい。」

「徹君、そんなこと言わないの。」


 パスカルが全員に呼びかける。

「それじゃあ、湘南も来たことだし、ユミちゃん、みんなに一言お願いできる?」

「えっ、みんなに一口ですか?」

「えーと、挨拶をお願いできる。」

「あー、一言ですね。分かりました。みなさん、こんにちは、木下裕美です。本名は堀田美咲と言うのですが、家でもママがユミと呼ぶので、学校で裕美と呼ばれると、間違って返事をするぐらいにユミに馴染んできました。今は『ユナイテッドアローズ』の活動と溝口エイジェンシーのオーディションに全力を出して、あっ、もちろん学校の勉強もです、頑張っていきたいと思っています。今日はワンマンライブの実現を手伝ってくれて有難うございました。これからも、ずうっと、よろしくお願いします。」

みんなが拍手をする。

「すごい、ビリー、小学5年生とは思えない言葉。」

「本当、そうだね。」


 食事をしながら、パスカルがアキたちに話しかける。

「そう言えば、今日、宇田川企画、地下アイドルのプロデュースをメインの仕事にしている会社だけど、そこの社長さんが来ていて、アキちゃん、ユミちゃんをプロデュースする権利を100万円で売らない?と聞かれたよ。」

「パスカル、私たちを100万円で売ろうとしていたの。」

「プロデューサー、酷い。」

「いやいや、俺とアキちゃんやユミちゃんの間には元から契約があるわけじゃないし、初めから俺が100万円をもらう権利なんてないよ。」

「そうか。ごめん。」

「プロデューサー、ごめんなさい。」

「でも、パスカルさんがプロデュースしないと言ったら、アキさんとユミさんが地下アイドルを続けたい場合、宇田川企画に行くしかなくなります。」

「出たー、腹黒湘南。」

「さすが、湘南兄さん、すごくあくどいことも思いつきます。」

「安心してください。パスカルさんは、二人がいやがる移籍をさせるようなことは絶対にしないと思います。」

「湘南ちゃんはパスカルちゃんを信用しているから、そう言っただけだよ。二人とも、どうするかは、アキちゃんとユミちゃんに考えて欲しんじゃないか。」

「まあ、宇田川企画ならば、地下アイドルと言ってもプロの地下アイドルだしな。」

「どうする、ユミちゃん。」

「えっ、アキ姉さん、迷うんですか?」

「ううん、迷っていないよ。聞いただけ。宇田川企画だと出演回数も多すぎるし、地下アイドルで使い捨てられるだけだから、メジャーを目指すなら、ここがいい。」

「私もそうです。」

「それじゃあ、決まり。パスカル、宇田川企画は断って。」

「了解。」

「でも、プロって言葉には少しだけ憧れるかな。」

「それじゃあ、僕と契約してプロの地下アイドルになってよ。」

「何、ラッキー、ちょっと怖い。でも、社長だからか。」

「まあ、契約書を作って交わすだけだけど。」

「契約には、保護者の承認が必要ですから、ユミさんはともかく、アキさんは大丈夫ですか?」

「そうか、それじゃあ今は無理かも。18歳になるまでは。」

「その時までに実力を付けておきましょう。」

「それは湘南の言う通り。」

「きれいな湘南兄さんに戻った。」

「でも、ユミちゃん、私たち100万円の価値はあるということね。」

「少し自信になります。」

「そうね。次は200万の女を目指そう。」

「はい、アキ姉さん。」

「うちの社長は、星野さんの権利を1億円で買うと言っているですねー。でも平田社長は、星野さんはしばらくはパラダイス興行にいた方が人間として成長するからということで、当面は売らないつもりみたいですねー。」

「さすが、俺が見込んだプロデューサーだけのことはある。」

「だから、パスカルに見込まれても迷惑なだけよ。でも、妹子一人で1億円ということ?」

「そうですねー。」

「アキ姉さん、私たちの100倍ですね。」

「まあ実際そんなもんかな。」

「仕方がないですね。」

「でもユミちゃん、一人じゃ無理でも、二人で1億円の女を目指そうか。」

「そうですね。目指しましょう。」

「目指すのは自由だからな。」

「パスカル、俺が二人を1億円の女にしてみせるとか言えないの?」

「分かった。二人で1000万円の女にしてみせる。」

「その方が現実的か。」

「プロデューサー、期待しています。」

「よし頑張ろう。マリちゃん、湘南、頼んだぞ。」

「はい、プロデューサー。」

「はい。」

「何だパスカル、マリちゃんと湘南にお任せか。」

「アキちゃん、ユミちゃん、やはり実力が第一だからな。」

「そうね。練習、頑張る。」

「はい、頑張りましょう。」

「でもですねー、生まれ持ったものもあったりするですねー。ミサは体だけでも10億円以上の価値があると言われているですねー。」

「体って?」

「写真集とかですねー。」

「写真集と言うとあれ?」

「あれって何ですねー?」

「それはちょっと口に出せないあれのことなんだけど。」

「アキさんが言いたいのは、裸の写真集のことだと思います。」

「湘南、有難う。」

「ヌード写真集じゃなくても、水着写真集を2年おきに3回ぐらい出したり、カレンダーを毎年出せばそのぐらいの利益は出せるですねー。」

「そうなんだ。水着で10億円とか、もう比較するのをあきらめる。」

「でもナンシーさん、体の価値と言うよりは、大河内さんに歌の実力があるから写真集も売れるんじゃないですか。」

「そうとも言えないですねー。ミサの場合、歌をほどほどにして、ビジュアル中心に売り出した方が、利益がもっと大きくなる可能性があるですねー。」

「それは大河内さんが望むところではなさそうですが。」

「その通りですねー。そんなことを言ったら、ミサは事務所をやめてしまうですねー。」

「そうだと思います。」

「それに、うちの社長とヘルツレコードの事業部長が世界で売れる日本人歌手を育てる夢みたいなものを持っているんですねー。担当部署は困ったものだと思っていても、簡単には動けないんですねー。でも、私はミサにとっては今の方向に進んでいくのが一番いいと思うですねー。」

「もしかすると、ナンシーさんは事務所の中で板挟みになっていて、かなり大変だったりするんですか。」

「その通りですねー。だから湘南さんにも手伝って欲しいですねー。」

「できることはとても限られると思いますが、大河内さんのためになるならば、ナンシーさんのお役に立とうと思います。」

「お願いするですねー。」

「でも、ナンシーは湘南に何をお願いするの?」

「大河内さんは妹のことをすごく信頼していますから、僕から妹にお願いすることで、何かすることはできるとは思います。」

「なるほど。妹子か。」

「まあ、そういうことにしておくですねー。」

「でも私、このまえの温泉で、ユミや徹といっしょに、その10億円の体を見たわよ。」

「ママのいう通り、大河内さん、温泉にいらっしゃいました。私は徹やミーアさんといっしょで良く見てなかったですが、ママは大河内さんとお話ししていたような。」

「そう、音楽の話をしていた。」

「ミサも、マリさんと音楽の話をして、音楽の深さがまた少し理解できたと言っていましたですねー。」

「本当に?それは嬉しい。」

「しかし、マリちゃん、ユミちゃん、ミーアちゃんはいいとして、徹君、ミサちゃんの体を見たのか?」

「ミサちゃんって誰。知らない?」

「しらばっくれるんじゃない?」

「この前のお風呂、ママとミーアちゃんとお姉ちゃんしか知らない。」

「パスカル、小学2年の子供に大人げない。」

「でも。」

「でも、じゃない。」

「でも、徹君、中学生になれば、一生に一回しかないような幸運を逃したことが理解できると思うぞ。」

「ミーア姉さんとお姉ちゃんと遊べて楽しかったから大丈夫だよ。」

「ミーアさんとユミちゃんとお風呂で遊べればか。確かに、徹君の言うことにも一理ある気がする。」

「何、パスカル、小学2年生に諭されているの。それに、お風呂でなんて言っていない。」

「すまん。」

「徹君みたいに言う方が、ミーアさんも、ユミさんも喜びます。」

「イノルの言う通りだな。なるほど、それが俺がもてない理由か。徹君、有難う。勉強になったよ。」

「パスカル、小学2年生に女性との接し方を教わってどうする。」

「すまん。」

「あと、うちの事務所で、亜美さんも、ダイエットすれば1億円ぐらいの体になる可能性があると計算したみたいですねー。」

「ナンシーさん、マジですか?」

「星野さんがうちに移籍するとして、おまけで亜美さんや由香さんがうちに移籍した場合、」

「リーダーのおまけですか。理解できるのでいいですけど。」

「溝口エイジェンシーで二人の価値を計算したんですねー。」

「怖い会社ですね、溝口エイジェンシー。」

「パラダイス興行の方が変わった事務所なんですねー。タレントの価値は普通お金で換算するんですねー。」

「そうか。宇田川企画は、私とユミちゃんの価値は100万円という計算をしたわけか。」

「300万円ぐらいの価値があると計算したと思うですねー。それで、リスク分を差し引いて移籍料を100万円としたと思うですねー。」

「なるほど、勉強になる。」

「アキ姉さん、私たちの価値は300万円なんですね。」

「なかなかよね。パスカルのボーナスとどっちが多い。」

「地方公務員がそんなにもらえるわけがないよ。」

「それじゃあ、パスカルに威張っちゃおうかな。でも、その価値が付いたのはパスカルと湘南のおかげか。」

「その通り。」

「でも、私もダイエットすれば体で1億円なんですか。歌じゃなくて。」

「亜美さんが一人で歌ったときの売れ行きは未知数なんですねー。うちでCDを出すとすると、プロモーションに数千万円はかけるですねー。そのときの利潤は数億かもしれないし、数千万円の赤字かもしれないですねー。」

「私の歌の固定ファンはまだそんなにいませんので、言っていることは分かります。でも、写真集は売れるんですか。」

「小さい体と合っている小動物みたいな顔をしていて、胸が大きいからですねー。」

「それだけでですか。」

「そうですねー。今の知名度と、うちのグラビアアイドル部門のプロモーションを合わせればそのぐらいの利益はあるということだったですねー。だから、もし亜美さんがうちに移ったら、メインがグラビアアイドル部門で、その仕事をしながら歌を歌うことになると思うですねー。」

「現実を教えてくれて有難うございます。」

「由香さんは、うちの会社の規模で稼げそうなものはなかったですねー。」

「そうなんだ。」

「もし、今うちに来るとすると、うちのアイドルにダンスを教える講師をしながら、一人で活動することになると思うですねー。」

「由香、ダンスを教えるのは上手です。」

「私は由香さんの場合、小さくてもダンス専門の事務所に行った方がいいようにも思うですねー。」

「私もそう思います。でも、私はグラビアアイドルをしながらか。そうなったら、どうしようかなー。」

「三佐、グラビアアイドル出身でも、歌手としてすごく有名な方もいっぱいいます。」

「それは、曹長の言う通りだな。ダイエットが鬼門だが。」

「そうなったら、頑張りましょう。」

「曹長の言う通りかもな。」

「アキちゃんも、亜美さんぐらい胸があれば、半分ぐらいの価値はあると思うですねー。」

「胸だけで。でもそれが現実か。プロの世界は厳しい。」

「外見ばかりでなく、声や雰囲気、話す内容の魅力で人気が出ることは多いですねー。でも、それを予測するのは難しいんですねー。プロモーションに大きなお金をかける事務所は、どうしても最初は外見を重視してしまうことが多いんですねー。」

「分かる。」

「明日夏さんは、溝口社長がものすごく勘のいい子と高く評価しているですねー。でも、事務所の他の人はあまり高く評価していないですねー。」

「勘のいい子なんですか。うーん、リーダーもミサさんと仲良くできるのは、明日夏さんのおかげと言っていますが・・・・」

「今は違うかもしれないですねー。」

「最初はということですね。明日夏さんが恐れを知らないからと思っていました。」

「そういう話ではなくてですねー。」

「どういう話なんですか。」

「それはですねー。ちょっと言えないですねー。明日夏さんは分かっていると思うですねー。」

「それが勘がいいということですか。」

「そうですねー。」

マリが話を変える。

「でも、ナンシーさんの話を聞くと、本当にプロの芸能人の道は大変そうね。アキちゃんは、今の活動を続けているのが幸せなんじゃないかと思うけど。」

「マリさんの言いたいことは分かります。それでも、プロの道はあきらめないです。」

「そうか、そうよね。分かった、アキちゃん、応援するわよ。」

「マリちゃん、有難う。」

「でも、私も大河内さんと音楽の話ばかりして、すごい美人というのは分かったけど、10億円の体なら、もっと良く見ておけば良かったわ。」

「いえ、マリさん、いくら女性同士とはいえ、あまりジロジロと見ないほうがいいと思います。」

「湘南さんは、そんな細かいことを心配しなくていいから、今は大河内さんのためにできることを積極的に頑張りなさい。」

「はい。がっ頑張ります。」

「よろしい。積極的にね。」

「積極的にですねー。」


 ビリーがパスカルに尋ねる。

「あの、パスカルさん、ナンシーさんがさっきからミーアさんのことを亜美さんと呼んでいるのは?」

「秘密は守れるか?」

「はい、もちろんです。」

「あの、私、『トリプレット』というアイドルグループで、柴田亜美という名前で活動しています。よろしくお願いします。」

「えっ、はい。よろしくお願いします。もちろん良く知っていますし、さっき、マスクを外したとき、すごく似ていると思っていました。でも、また何でこんなところに?」

「私の趣味が写真やビデオの撮影で、パスカルさんが私の師匠なんです。」

「そういうことだ。怪しい関係では全然ないから、誤解しないように。」

「はい、そういう誤解は全くこれっぽっちも全然しません。」

「おい。」

「今日もライブの写真を撮るために参加しました。すごく楽しかったです。」

「そうなんですね。分かりました。秘密は絶対に守りますし、もし危険なことがあったら命をかけてお守りします。」

「そんなことを言っていると、祈里ちゃんにイベントで会ったら、イノルといやつが、私を命がけで守ると言ってたと言っちゃうよ。」

「もちろん祈里ちゃんも命をかけて守ります。あっ、アキさん、ユミさん、マリさんもです。」

「私たちは、ついでみたいね。」

「そんなことは。」

「まあ、仕方がないけど。」

テーブルが笑いに包まれた。


 食事が進み、アキ、パスカル、ラッキーが年末のライブの計画について話しているとき、コッコが誠とナンシーに静かに尋ねる。

「『ジオン公国に栄光あれ』って、みんな分かっていなかったみたいだけど、どう見てもドラムがナンシーちゃん、ベースが平田社長、ギターがミサちゃん、キーボードが明日夏ちゃんだよね。」

「さすが、コッコさんですねー。分かっちゃったですねー。」

「その通りなのですが内密に願います。」

「もちろん誰にも言わないけど、どうしてそうなったの?」

「ちょうど、皆さんがボイストレーニングのためにパラダイス興行に来ていたんですが、『ジュエリーガールズ』が出れないというのを聞いて、面白そうだからバックバンドをやってみようという話になりました。」

「私はミサから呼ばれたですねー。バンドをやってみたかったからすぐにOKしたですねー。ミサもそんな感じでしたねー。」

「なるほど、ミサちゃんと明日夏ちゃんにとっては遊びみたいなものか。」

「大河内さんは、ゆくゆくはギターを弾きながら歌うことにも挑戦したいそうで、橘さんがギターを人前で演奏するいい経験になるからと言ったこともあるみたいです。」

「でも、二人とも楽器がセミプロのバンドよりできるんだな。やっぱりプロだからか。まあ、プロのイラストレーターもすごいからな。」

「そうだと思います。」

「私はアマチュアだけど、どうでしたねー。」

「ノリノリで良かったよ。」

「ナンシーさん、ドラムのちょっとした間の取り方が個性的で新鮮でした。」

「有難うですねー。」

「ミーアちゃんが仮歌を歌って練習したと言っていたけど。」

「はい、ミーアさんがアキさんのパート、妹がユミさんのパートを歌って練習しました。」

「それはすごいな。」

「大きなホールで鑑賞するなら、ミーアさんと妹のパフォーマンスの方が良いかもしれませんが、ここのホールならお客さんと一体になって一緒に盛り上がって、アキさんとユミさんもなかなかだと思います。」

「ミサもお客さんの近くで一体になって盛り上がる感じに驚いていたですねー。自分が歌っているときよりもノリノリでギターを弾いていたと思うですねー。」

「へー、それは嬉しいね。」


 3人が話しているところに、パスカルが割り込む。

「大岡山工業大学の二人とナンシーちゃんは、何こそこそ話しているんだ。」

「パスカルちゃん、湘南を取ってすまんな。初代ガンダムの話だよ。」

「なるほど。3人ともオタクだからな。」

「いや、ここでオタクじゃないのは、パスカル、マリさん、ユミちゃんぐらいだから。」

「アキちゃん、ユミちゃんは女の子のアニメなら詳しいし、私も最近ネットでいろいろ見ているわよ。」

「じゃあ、パスカルだけか、オタクじゃないの。」

「それじゃあ、俺も湘南に聞いて何か見てみるか。」

「それがいいわね。でも、コッコ、初代ガンダムって、何の話をしていたの?バンドのコスプレから考えてジオン公国の方よね。ザビ家の話?」

「ジオン公国は合っているけど、ザクレロのデザインの先進性についてだよ。」

「それはまた、濃い話ね。」

「濃い話で、濃いバナか。」

「パスカルにしては面白い。」

「アキちゃんに初めて褒められた。」

「今日のパフォーマンス、ほぼパーフェクトだったから、かなり機嫌がいい。」

「それじゃあ、パフェ食うとね。」

「パスカルはどこの人になっちゃったんだ。」

「分からん。」

「たぶん、博多の方の方言だと思います。」

「さすが湘南。で、パスカル、パフェをおごってくれるの。全員分。」

「そのぐらいの黒字はあるんじゃないか。なかったらおごるよ。」

「おっ、パスカル、太っ腹。みんなー、パスカルが今日のパフォーマンスがパーフェクトだったから、パフェ食うとねで、パフェをおごってくれるって。何にする?」

「アキちゃん、僕はチョコレートパフェで。ここのチョコレートパフェはお勧め。」

「そうなんだ。」

「それじゃあ、俺はチョコレートパフェで。」

「僕もです。」

「何かいつものパターンね。でもまあ、私もチョコレートパフェかな。」

「私は、フルーツパフェ。」

「さすがマリちゃん、人に流されない、永遠の14歳。」

「人に流されないというのもいいわね。プロデューサー、プラス1点」


 全員がデザートを食べながら、次へ向けた話をする。

「アキちゃん、次の目標は何にする。」

「ユミちゃんが言った通り、ワンマンライブであのホールをいっぱいにする。たとえ一人になったとしても。」

「アキちゃん、一人にはならないから大丈夫。」

「二人目は徹君?」

「プロデューサーさん、マイナス1点。」

「そうなったら、会場が女性ファンでいっぱいになったりとか。」

「パスカル、マイナス10点。」

「徹君は出演しないと思いますが、出演したら意外とそうなるかもしれません。」

「湘南までそういうこと言う。・・・でも、ありうるか。」

「ねえ、アキちゃん、その時はオネショタで売るのがいいかも。」

「コッコちゃん、それは却下。うちは健全路線で行く。」

「パスカルさんの言う通りです。」

「私は三佐と違ってそういう趣味はない。」

「まあ、そう言うと思ったよ。」

「でもそうなったら、ミーアちゃんはライブを見に来るかい?」

「はい?」

「えーと、『ユナイテッドアローズ』に徹君を入れて、アキちゃんとのオネショタで売り出したら、見に来たりする?」

「見に来るというより、そうなったら、そのポジションを私に変わってほしい。」

「ミーアちゃん『トリプレット』を辞めるということ?」

「はい。その代わりに曹長が『トリプレット』に入ってください。」

「おい、大丈夫か『トリプレット』。」

「大丈夫です。私とアキさんが代わっても、『トリプレット』はリーダーが何とかしてくれます。」

「なるほど。ある意味、すごい信頼だ。」

「でも、分かる気はする。」


 食事やデザートを食べ終わったころ、ラッキーがスキーの話をする。

「そう言えば、夏に話していた、正月、蔵王にスキーをしに行くという話はどうしよう。明日夏ちゃんのライブが31日に入ったから、可能なのは1日夜に出て、3日に帰る予定かな。車は湘南君の運転が大変なんでバスを使おうと思うけど。」

「俺は行く。」

「行く。行く。ハワイに行けない分、絶対に行く。」

「僕も行きます。」

「パスカルちゃんと湘南ちゃんが行くなら、もちろん行くよ。」

「ごめんなさい、うちは正月は両方の実家に行かないと。」

「了解です。また誘います。」

「ラッキー社長、有難う。」

「それじゃあ、スキーに行くのは、アキちゃん、コッコちゃん、パスカル君、湘南君と僕か。」

「パスカルちゃん、民宿なんだろう。5人なら一部屋で十分だな。その方が安くつくよ。」

「あの、コッコさんは良くても・・・・・」

「民宿なら、お風呂やお手洗いは別なんだろう。」

「それは、そうだけど。」

「それなら、いいわ。一部屋で。一泊だし安くなるなら。」

「えーと。」

ラッキー、パスカル、誠が相談を始める。そこに、アキが割り込む。

「何、3人でひそひそ話しているの?」

「聞いていないけど、アキちゃんに悪いことをする相談じゃないことだけは確かだよ。」

「まあね。」

「とりあえず民宿に連絡してみようか。」

「はい、ラッキーさんお願いします。」

ラッキーが民宿に電話する。

「8畳の部屋が1つあいているだけだそうで、とりあえず予約した。」

「それじゃあ、一部屋に泊まるということで行こう。まあ、私はスキーもスノボもできないんだけどね。」

「アキちゃん、みんなで行けば楽しめるよ。」

「コッコの言う通り。蔵王にレッツゴー!」


 打ち上げも終わりの時間になり、ラッキーが会の終わりを告げる。

「それでは、みなさん、ユミちゃんには溝口エイジェンシーのオーディションを頑張ってもらうとして、『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ『みんなでユナイト』の打ち上げはこれで中締めにしようと思います。最後にマリちゃん、一言お願いします。」

「分かりマリた。」

「マリちゃん、幽霊小学生みたいな噛み方で、可愛い。」

「ララララッキーさん、有難う。」

「ラが3つ多い。マリちゃん、永遠の10歳かな。」

「有難う。では挨拶を始めます。みなさん、『ユナイテッドアローズ』ワンマンライブ『みんなでユナイト』の大成功に力を貸して頂いて大変有難うございます。みなさんの力がなければ、間違いなくこの成功はなかったです。本当に有難うございます。私は二十歳で結婚して子供を育ててきて、やりたくてもできないことも多くて、だから今日は3曲でしたがステージに立ててとても楽しかったです。これからも、色々なことに挑戦していこうと思っています。『ユナイテッドアローズ』についても何でもしますので、ライブの後のこんなに楽しい打ち上げに呼んでもらえれば嬉しいです。プロデューサー、アキちゃん、ラッキーさん、湘南さん、コッコちゃん、そのときは、よろしくね。でも、アキちゃんとユミちゃんはもっと上のプロを目指して頑張って。成功したら、みんなで祝勝会を開くからね。」

「はい。」「はい、ママ。」

「あと、プロデューサーさんと湘南さん、こんなに素敵な二人には、絶対に思いを寄せている女の子もいるはずです。」

「マリちゃん、有難う。」

「有難うございます。」

「いないと思うけど。」

「アキちゃん、そんなことはないから。」

「まあ、悪い人たちじゃないし、蓼食う虫も好き好きってやつね。」

「その通り。」

「俺たち、蓼だって。」

「それほど外れていないんじゃないですか。」

「まあ、そうか。」

「ほら、二人はそれがダメなの。しっかりしなさい。」

「分かりました。」

「気を付けます。」

「人生、これからも思いかけずいろんなことがあると思うけど、思い返すと良いことだったりします。今はそれぞれの目標に向かいながらも、いっしょに歩いて行きましょう。」

全員が拍手をして会はお開きになった。アキ、ユミ、マリ、徹、正志、亜美、ヘキサ、ビリー、イノルは挨拶をして家路についた。

「来週はライブ出演がないから、冬休みに。あと、湘南にあまり飲ませすぎないように。」

「今日は有難うございました。」

「みんな、有難う。いい思い出ができたわ。」

「みんな、またね。」

「家族がみんなお世話になり、大変有難うございました。」

「それじゃあ、みなさん、また。徹君、また会ってね。」

「アキちゃん、ユミちゃん、ライブ楽しそうで本当に良かった。私も気持ちが若返ったわ。有難うね。」

「じゃあ、ラッキーさん、またイベントで。」

「今日は楽しかったです。パスカルさん、機会があったらまた呼んで下さい。お手伝いします。」


 残った誠、パスカル、ラッキー、コッコ、ナンシーが、ラッキーお勧めの居酒屋に向かうことになった。

「湘南君、今日は飲みに行けるんだよね。」

「はい、お供します。」

「みんな、今日こそは湘南の本性を暴いてやりましょう。」

「そうだね。僕もそれが今日の二次会の一番の楽しみだよ。」

「湘南ちゃんの本性か、面白そうだね。」

「湘南、心配しなくても介抱は俺がする。大学のころから結構慣れているし。」

「おーー、私もそれに付き合うよ。」

「付き合うといっても、コッコちゃんは、スケッチをしているだけだよね。」

「そうだけど、多少は手伝うよ。うーん、お湯を沸かすとか。」

「何だそれ、湘南が子供でも産むんかい。」


 居酒屋に到着して、みんながメニューを見始める。

「やっぱり湘南は、ナンシーちゃんの勧めに弱そうな気がする。だからナンシーちゃんも湘南の本性を暴くの手伝ってね。」

「ラッキーさん、パスカルさん、本当は私も湘南さんにお酒を飲ませて、その本性を暴きたいんですねー。」

「そうだよな。」

「でも、湘南さんがあまりお酒を飲まないようにして、その結果を報告するように言われているんですねー。だから無理なんですねー。」

「誰に?妹子かな。」

「正確に言うと、星野さんにお願いされたミサからなんですねー。」

「ミサちゃんに?」

「ミサちゃんと妹子が仲がいいからか。」

「多分、友達のお兄さんに何かあったら大変ということだね。」

「ミサから、これを預かっているですねー。あと、これを見るといいですね。」

ナンシーが2Lサイズの写真をパスカルとラッキーに渡し、スマフォのビデオを再生する。

「パスカルさん、ラッキーさん、こんばんは、大河内ミサです。ご存じのことと思いますが、そちらで湘南さんと呼ばれている方は、私の大切な親友のお兄さんです。あまりお酒を飲んだことがないようですので、健康のことを考えて、ライブの打ち上げであまり飲ませすぎないようにしてくれると嬉しいです。勝手なお願いと思うかもしれませんが、よろしくお願いします。ナンシーの勧めで、つまらないものですが、サイン入りフォトを用意しましたので、受け取ってもらえると嬉しいです。」

パスカルとラッキーは途中から椅子の上に土下座していた。誠は「背景がパラダイス興行みたいだけど、僕が明日夏さんの家にコスプレ道具を取りに行っている間に撮ったのかな。」と思いながら見ていた。

「ミサちゃんが、ラッキーさんだって。」

「パスカルさんだって。」

「だから湘南さんに何かあったら、私がミサに怒られちゃうですねー。」

「まあ、そうだよな。マネージャーのナンシーちゃんは、逆らえないよな。」

「いや、パスカル君。ナンシーちゃんからラッキーという人が湘南にお酒を飲ませすぎたと伝わって、ミサちゃんに恨まれたら僕は生きていけなくなる。僕はミサちゃんに逆らうつもりは全くない。」

「ラッキーさん、それは俺も同じです。」

「でも、僕たちは、ミサちゃんの親友のお兄さんのお友達ということになるのか。」

「おー、そういうことになるわけですね。湘南、今日は乾杯の一杯だけだな。あとはソフトドリンクだぞ。」

「もう少しは大丈夫だと思いますけど。」

「だめだ。」

「申し訳ないが、僕も許可できない。」

「今日一杯で大丈夫だったら、次は二杯でもいいよ。」

「パスカル君の言う通りだね。」

「分かりました。そうします。」

「でも、ミサちゃん、写真のこのあたりを持っていたよね。」

「俺の写真はこのあたりだった。」

二人で、そのあたりの匂いをかいでみる。

「これが、ミサちゃんの匂いかな?」

「なるほど。」

「いえ、単にインクの匂いだと思います。」

「湘南、うるさいぞ。」

「いや、湘南君のおかげで、宛名まで入ったサイン入りの写真が手に入ったんだから。感謝しないと。」

「そうですね。湘南、有難う。」

「あと、この話はあまり広めないんでほしいですねー。」

「それは、さすがに分かっているよ。」

「了解。」

「それにしても、今のビデオのミサちゃん、マジ天使だなー。」

「はい、ラッキーさんの言う通りです。」

「しかし、これをBL漫画にするとすれば、どういうネタにすればいいんだ。複雑すぎで難しいぞ。」

「コッコさん、そもそもBL漫画にするのは無理では。」

「いや、それを何とかするのが、私の役目なんだよ。たぶん、ミサちゃんを男性にすればいいんじゃないかな。」

「さすが、コッコさんです。」

「ナンシーちゃん、今のビデオ、また見せてくれる?」

「分かりましたねー。でも、この店を出たら消すですねー。」

「それは理解できるから構わない。」

「分かったですねー。それではまた再生するですねー。」


 3人がビデオを見ているとき、コッコが誠に話しかける。

「さっきのビデオ、ミサちゃんが湘南のことを本当に心配しているというか、ある意味、恋愛感情を抱いているようにも見えるのだが、さすがにそういうことはないよな。」

誠は「自分が成人したら僕をお酒でつぶすと言っているぐらいだから、僕の健康を考えているわけないよな。」と思いながら答える。

「あると思います?」

「ないと思う。」

「そうですよね。遊びか、そういう演技の練習じゃないでしょうか。」

「やっぱり、ミサちゃん、演技も上手なのかな。アニメの声優さんの演技も信じられないぐらい上手だし、ミサちゃんもドラマとか映画とかに出演する計画があるのかな?」

「妹が2月の短編ドラマに出る計画があることは妹から聞いていますが、大河内さんのことは何も聞いていません。でも言っていないだけで、あるかもしれません。」

「妹子がドラマに出るのか。それは楽しみだな。」

「僕には心配の方が多いですが。」

「まあ、湘南はそうだろうな。」

 全員が生ビールで乾杯して、おつまみを食べながら、今日会ったことや、過去のライブ・イベントに関する雑談が続いた。

「おーい、湘南。・・・・・寝てしまったか。」

「湘南君、昨晩はバックバンドの練習に付き合って約3時間しか寝ていないと言っていたから、仕方がないかな。」

「このまま寝かしておくか。」

「そうだな。」

「湘南を気遣うパスカル。」

「まあそうだな。あれ、ナンシーちゃんも寝ちゃっている。」

「こっちは、アニメの見すぎだろうね。」


 3人がだいぶ飲んだ後、二次会がお開きとなり、ラッキーとコッコがパスカルと湘南の話をしている中、パスカルが二人を起こす。

「おー-い、湘南、ナンシーちゃん、帰るぞ。」

「あっ、寝てしまったんですね。申し訳ありません。」

「まあ、昨日遅かったんだから仕方がないさ。」

「有難うございます。」

「あのー、私はこのまま寝ていたいですねー。湘南さん、また道玄坂のホテルに行っていっしょに寝ないですかねー。」

「ナンシーちゃん、どっ、道玄坂のホテルって!」

「湘南さんは何もしないから、ゆっくり寝れるですねー。」

「それはそうだろうけど。おー-い、湘南、なんか言われているぞ。」

「パスカルさん、ナンシーさんの冗談だと思います。」

「バレたらミサに怒られるので、やめておくですねー。仕方がないから、帰って寝るですねー。」

「はい、それがいいと思います。」


 誠が話を変えると、コッコとラッキーも話に加わる。

「ナンシーさんはクリスマスにハワイに行く予定ですか?」

「もちろんですねー。英語得意ですねー。」

「ナンシーちゃんのハワイは、ミサちゃんのマネージャーかな。」

「ラッキーさんの言う通りですねー。」

「ラッキーさんと俺も、ハワイのライブに行くから、もし会ったらよろしく。」

「よろしくですねー。でもハワイでのミサのスケジュールがほとんど詰まっていて、結構忙しくなりそうなんですねー。」

「ミサちゃん、全米デビューを控えているからか。もちろん仕事優先で頑張って。」

「頑張るですねー。」

「湘南ちゃんは、ハワイに行くんだよね?」

「行きますが、大学には有給休暇がないのでパスカルさんたちと日程が違っていて。」

「まあ、そうなるな。」

「コッコさんの年末は、コミケの準備で大忙しですよね。」

「あちこちのサークルを手伝うからね。だから、みんなと次に会うのは、大晦日の明日夏ちゃんのワンマンライブかな。」

「そうなりますね。」

「それでは、みなさん、またですねー。」

「パスカルちゃんと湘南ちゃん、ハワイのネタ、楽しみにしているよ。」

「それじゃあ、みんな、またライブかイベントで。」

「今日はみんな有難う。本当にライブは大成功だった。それじゃあ、また会おう。」

「それでは、みなさんまたお願いします。」

パスカルとラッキーは3次会に向かい、誠、コッコ、ナンシーは家路についた。

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