第32話 野外鍋パーティー

 11月中旬、アキPG宛にパスカルから連絡があった。

パスカル:ワンマンライブを開催することになって、扱う金額が大きくなってきたので、ラッキーさんに個人事業主になってもらうことになった

アキ:すごい。ラッキー、社長?

ラッキー:社長と名乗っても違法ではないけど、法人ではないので個人事業主と名乗るのが普通だよ

アキ:へー

湘南:良かったです。これで税金関係でとがめられる可能性はなくなりました

ラッキー:消費税を払う必要ができたけど、利益がなければ他に税金はいらない

アキ:消費税か。でも、物販のグッズも本当に商品って感じになってきた

パスカル:これから何か買ったときの領収書はラッキーさんの名前で頼む

ラッキー:宛名にラッキーでは困るけれどね

パスカル:すみません。豊田功です

湘南:了解です

パスカル:赤字は俺が補填する約束なんで赤字にならないよう頑張ってね

アキ:分かってる

湘南:あと2回のレコーディング頑張りましょう

アキ:了解

マリ:次はいよいよ私の番

湘南:マリさんのレコーディングは心配いらないと思います

マリ:なおみさんの振付もだいぶ上手くできるようになってきたんだよ

ユミ:でもママ、ステージでみっともない真似はしないでね。娘として恥ずかしいから

パスカル:ユミちゃん、まだまだ練習するから大丈夫

ユミ:そうじゃなくてアドリブで変なことをしそうで

マリ:娘に信頼されていないわね

湘南:アキさんとユミさんが場を盛り上げた後ならば大丈夫です

ユミ:湘南兄さんの言う通りです。ママの分まで頑張らないと

湘南:ユミさんはそんなに気負わなくても

アキ:湘南、私がやれって

湘南:プロを目指すなら、ある程度は

アキ:ミサちゃんの事件で、最後にみんなで歌ったときの妹子は中学生なのに凄かったわよね。私も頑張る

ユミ:プロと言えば溝口エイジェンシーに書類を提出しました。プロデューサー、湘南兄さん、書類を直してくれて有難うございました

パスカル:おう、頑張れよな

アキ:合格したら一気に追い越されちゃうな

ユミ:合格は難しいですけど

湘南:ナンシーさんの話ではユミさんなら書類選考は大丈夫だろうということです。その後はすごい激戦らしいです

ユミ:分かっています。面接の練習を一生懸命やって頑張ります

湘南:突然変なことを聞いてくるらしいので注意してください

ユミ:セクシーな表情で男性を誘惑してみて下さいとかでしょうか

湘南:小学生にそういうことを言うようだったらやめた方がいいと思います

ユミ:学校でもそういうことやっている子はいるけど

パスカル:最近は進んでいるな

マリ:昔からそういう子もいる

湘南:好きな人の前で恥ずかしがる演技とかはあるかもしれません

パスカル:確かにそれはドラマでも見るな

ユミ:そういう演技の練習をしたくても、カッコいい男性がいないのが問題

マリ:プロデューサーや湘南さんでいいじゃない

ユミ:演技だから相手は全然そうでない人の方がいいということか

マリ:ユミちゃん、酷いわね

パスカル:何でもいいので練習相手が必要なら言ってね

ユミ:プロデューサー、有難うございます

湘南:もしかすると面接の演技相手に超イケメン男性を連れてきたりするかもしれません

ユミ:そうか。溝口エイジェンシーならイケメンがいっぱいそうですね

湘南:はい、その時にあがらないで下さい

ユミ:そういう面接は何回か合格した後でしょうから、そのとき考えます

湘南:最終面接には親の面接もあるみたいです

ユミ:ママ、足を引っ張らないでよ

マリ:引っ張らないわよ。ユミがいなくなったらアキ&マリでデビューする予定なんだから

パスカル:それはすごいな

湘南:そのときはデビューしてみて、お客さんの反応を見るしかないと思います

マリ:怖いわね

パスカル:芸能人はみんなそうなんじゃないかな

マリ:そうかもね

パスカル:話を戻すけど、ワンマンライブのタイトルは『みんなでユナイト』に決定した

アキ:まあまあかな

ユミ:はい、まあまあです

湘南:今日ネットでのチケット販売を登録しました。三日後からの販売になります

ラッキー:宣伝、頑張るよ

パスカル:お願いします。アキちゃんもSNSで告知をお願いね。文章は短くていいので湘南が作ったホームページをリンクして

アキ:了解。チケット販売か。本当にワンマンライブが現実になるんだね

パスカル:チケットの販売に俺のボーナスがかかっている

アキ:お客さんが入らなかったらどうしよう

マリ:アキちゃんがプロデューサーのお嫁さん

アキ:えーー、私、パスカルのボーナス1回分の価値しかないの

パスカル:それじゃあ10回ボーナスが吹っ飛んだらということで

アキ:分かった

パスカル:えっ、いいの?

アキ:さすがに9回ワンマンをやってお客さんが入らなかったらアイドルを引退する

ラッキー:まあそうだろうね

コッコ:ところで、みんな12月4日はあいているんだよね

パスカル:レコーディングとかの予備日であけてあるけど

コッコ:もし何もなかったら日帰りでどこか行かないか

パスカル:コッコちゃんはコミケの追い込みでは

コッコ:だから行くんだよ。もう少しネタが欲しいんだよ

湘南:山登りはやめましょう

コッコ:賛成

アキ:山登りの計画は湘南が考えたんじゃん

湘南:申し訳ありません。筑波山をなめていました

アキ:私には散歩だったけど

湘南:さすがです

アキ:湘南とコッコの健康のためにアウトドアがいいわね

湘南:車を使って昼にバーベキューをしてから温泉に入るというのは

パスカル:無難だけどな

アキ:バーベキューは夏にやったけど楽しかったからまあいいか

湘南:鍋にしますか

アキ:キャンプ場で鍋?

湘南:ちゃんこ鍋

パスカル:キムチ鍋

ラッキー:寄せ鍋

アキ:やったことはないけど面白そうね

コッコ:やってみよう。温泉は混浴なのか?

湘南:違います

コッコ:無理は言わないけど、私だけ男湯に入れないかな

湘南:それは無理を言っています

アキ:でもコッコは漫画のためにそこまでできるの

コッコ:当たり前だ。会話だけでもいいのでお互いがスマフォを持ち込むというのは?

湘南:カメラが付いているからだめだと思います

コッコ:湘南ちゃん何かいい方法を考えて

湘南:スマフォは脱衣所に置いて、防水の小さなマイク付きのブルートゥースイヤフォンをつけてお風呂に入るとかでしょうか

コッコ:それやってみよう

湘南:カメラがなければ違法性はないと思いますがスタッフに止められたらやめてください

コッコ:分かりにくいのを持っていくから大丈夫

マリ:湘南さんはみんなの希望に応えるのが大変ね

湘南:それが趣味みたいなものですから気にしないで下さい

マリ:もっと自分も楽しまないと若くして剝げるわよ

パスカル:その言葉きついです

マリ:薄くなっているの?

パスカル:はい

マリ:うちの亭主もそうなんだよね

パスカル:あまり苦労をかけないように

マリ:了解

湘南:もし良ければご家族で参加されても大歓迎です

マリ:有難う。相談してみる

ユミ:でもママ、徹は同じマンションの子とデートかもしれない

パスカル:小学2年生で?

ユミ:そう

パスカル:徹君の健全な発育を考えると家族優先にしないと

ユミ:プロデューサー見苦しい

パスカル:はい


 11月から始まった『ユナイテッドアローズ』のレコーディングは、11月末の土曜日に最終日を迎えていた。夕方からアキのライブがあったが、午前中と午後を使ってレコーディングをする予定である。その午前のレコーディングに亜美が遊びに来ていた。

「アキ曹長、お早う。」

「ミーア三佐、お早うございます。今日は見に来てくれて有難うございます。」

「ミーアさん、お早うございます。」

「三佐、お早うございます。」

「パスカルさん、湘南二尉、有難う。今日はレコーディングの様子を見学に来た。」

「大歓迎です。」

「お早う、初めまして。ミーアさん、マリといいます。」

「お早うございます。マリさんのことは橘さんから聞いています。マリさんがうちのリーダーの曲を歌うということで、楽しみにしています。」

「湘南さんからも久美のことは聞いたけど、今、久美はどんな感じ。」

「パラダイス興行で、私たちのボイストレーナーをしています。はっきりとした性格で、頼りがいのある先生と言う感じです。」

「へー、久美が先生か。まだ独身と言う話だけど、付き合っている人はいないの?」

「いないみたいです。今、お酒が恋人と言う感じです。」

「うーん、健康を壊さないといいんだけど。」

「今のところは元気ですが。」

 マリが録音ブースに入ると、発声練習を始めた。亜美はレコーディングの準備をしている誠に話しかける。

「二尉、このパソコンでレコーディングをするのか。」

「はい、三佐。パソコンにこのオーディオインターフェースをつなげて、インターフェースでAD変換やDA変換を行います。パソコンの方は、レコーディング用のソフトを使ってマルチチャンネルの録音をすることや編集とエフェクトをかけることができます。」

「ちょうどヘルツレコードのレコーディングスタジオを小さくした感じだな。」

「はい、三佐のおっしゃる通りだと思います。」

 マリの準備が整い、レコーディングが開始された。

「それでは、『一直線』のレコーディング1回目行きます。」

マリが『一直線』の尚美のパートを4回歌う。

「マリさん、有難うございます。2回目から4回目は違いが全くなくて、完璧に歌ったと言う感じです。」

「有難う。湘南さん。」

「これがプロの歌唱か。」

「あの、プロはミーア三佐の方です。」

「いや、二尉、ガンダムとジムぐらいの違いはあったよ。」

「三佐、自分でそう言えるのはすごいと思います。」

「有難う。」

「そうすると、私はボールというところかな。」

「はい、だいたい、そんな感じだと思います。」

「うー、湘南、厳しい。それで言うと湘南自身は?」

「うーん、61式戦車5型、いえ、逃げまわっている一般人でしょうか。」

「61式戦車5型?」

「地球連邦軍の戦車で、砲身が二つあるやつ。」

「なるほど、さすがミーア三佐。」

「あの良く分からないけど、湘南さん、私の歌はどうだった?」

「はい、完璧でした。ぼくではコメントを付けられません。」

「私もそう思います。」

「有難う。」

「それでは、マリさんの最後の曲『時間はいじわる』をお願いできますか。」

「了解。」

マリが同じく4回歌う。

「マリさん、有難うございます。まだ早いですが、午前中予定していたレコーディングはこれで終了です。歌に関しては、本当に言うことなしでした。まるで14歳の中学生が歌っているように聞こえました。」

「私もそう思いました。マリさん、さすがです。永遠の14歳という感じです。」

「湘南さん、ミーアさん、有難う。永遠の14歳、私の二つ名にしようかな。」

「ママ、恥ずかしいことを言うのはやめてよ。」

「ユミ、恥ずかしがっていたら芸能人になれないわよ。」

「恥ずかしいのはママのこと。私は大丈夫。プロの芸能人になれるなら水着写真集だって出せるよ。」

「ユミさん、それはどんなに早くても高校生になるまではやめましょう。」

「私もそう思う。小中学生の水着写真集を出す大手の事務所はないかな。」

「湘南兄さん、ミーア姉さん、分かりました。意気込みだけです。」

「湘南さん、私は大丈夫よね。」

「マリさんの場合は、出版してくれる出版社があるかないかだけの問題だと思います。」

「そんな出版社、やっぱりないか。」

「最低1000部ぐらい売れる目算が立つかですが、僕には分かりません。」

「まあ、1000部は無理よね。ミーアちゃんはそういう写真集は出さないの?」

「話は来ているようですが、学校で問題になりそうですので、卒業するまではやめておくつもりです。リーダーと二尉が言いくるめるようなことをしなければですが。」

「僕は、そんなことは・・・・・・・」

「どうした、湘南。」

「いえ、少なくともミーア三佐が高校を卒業するまで断るように言うと思います。」

「まあ、そうだよな。」

「でも、さすが三佐、話は来るんですね。」

「アキ曹長、テレビに出るような女の子ならば話は来るということだ。だが、水着写真集は撮影前のダイエットがかなりきついとの話を聞いている。」

「なるほど。」

「三佐、最近はフォトショップで修正すれば大丈夫だとは思います。」

「二尉、それを女の子に言うと嫌われるぞ。」

「うん、それはミーアさんの言う通りだと思う。」

「そうね。湘南、考え直した方がいい。」

「ミーア三佐、マリさん、アキさん、申し訳ありませんでした。以後、気を付けます。」

「うむ。よろしい。」

「三佐、普段はダイエットはしていないのですか?」

「周りのミサさん、明日夏さん、リーダー、由香のスタイルが良いということもあって、一応している。特に今はテレビ出演のために、いつもより減らしている。」

「大変そうですね。」

「4人のスタイルが人間離れしているから、いっしょにいる一般人の私はつらい。」

「三佐が、一般人と言うことはないと思いますが。」

「曹長、4人と海に行ったりすると、自分のスタイルが一般人なことが実感できる。」

「芸能人になると大変なことも多いんですね。」

「アキさんはダイエットとかをしているのですか?」

「へへへへへ、湘南、知っての通り、それほどしていないかな。」

「とすると、ミーアさんがこっちの世界に来ることがあったとすると、人気が無くなったからではなくて、ダイエットがつらくなったからかもしれませんね。」

「曹長、二尉はいつもこんな感じなのか?」

「初めは人見知りするけど、慣れるとこんな感じかもしれません。」

「というと、私にも慣れてきたということか。」

「三佐と二尉のオタクの趣味が合うからとは思います。」

「なるほど。」

「パスカルさん、午前中1時間ぐらい余りましたが、どうしましょうか。」

「時間が余っているなら、私が歌ってみてもいいかな。」

「それは、もちろん構いませんが、契約とか大丈夫ですか。」

「パスカルさん、内輪だしお金を取らなければ大丈夫。カラオケに行ったようなものです。」

「それじゃあ、ミーアさん『あんなに約束したのに』を二人で歌いませんか?」

「はい、そうしましょう。」

「マリさん、ミーアさん、マイク1本で大丈夫ですか。」

「私は大丈夫だけど。」「私も大丈夫です。」

マリと亜美が1本のマイクを使って『あんなに約束したのに』を3回ほど歌う。

「マリさん、ミーアさん、有難うございます。ハモリが完璧で神かがっていました。」

「確かに、ユミちゃんと私が歌うより全然いいかも知れない。やっぱり、三佐の歌は一般人ではないです。」

「曹長、有難う。」

「でも、ママには歌うことぐらいしか取り柄がないんだよね。」

「ユミちゃん、酷い。」

「いま、録音した3回目のものをミックスして再生しますので、聴いてみてください。」

「湘南さん、有難うございます。」

「二尉、感謝する。」

誠がミックスしたものを、機械室のスピーカーを使って流した。

「ミーアさんは、さすがプロの歌手ね。高校生とは思えない。」

「マリさんの歌は、どっしりと安定感ある歌声の中に繊細な表現が加わっていて、さすが年季が違うという感じがします。」

「何、年季って。ミーアさん、湘南さんみたいなことを言わないで。」

「あっ、ごめんなさい。」

「この間聴いた大河内さんとミーアさんの歌もすごかったですが、マリさんとミーアさんの場合は声の相性が良いという感じがします。」

「うむ、二尉の言うこと、分かる気がする。」

「湘南さん、ミーアちゃん、有難う。みんながファンなので大河内さんの歌を聴いてみているけど、大河内さんには、やっぱりパワーがある歌が一番似合っていると思う。あのパワーは天性のものじゃないかな。せっかくだから、今のうちは悲しい歌ももっとパワーを活かせる曲にするといいと思うけど。」

「はい、あのパワーには私じゃついていけません。」

「ミーアちゃんはそういう歌手じゃないから、それでいいと思う。まあ、大河内さんは全米デビューするぐらいだから、私がとやかく言うことじゃないけど。」

「大河内さんのワンマンライブの時は、大河内さんが亜美さんに合わせて歌っていたように感じました。」

「それは二尉の言う通りかな。マリさん、良ければ私の動画配信サイトのチャンネルに一緒に出て歌ってもらえませんか。『亜美の歌うチャンネル』と言います。ギャラというよりバイト料ぐらいしか出せないんですが。」

「動画配信サイト歌手デビューか。うーん、面白そうだけど。」

「マリさん、仮面をして、誰だか分からないようにして出るというのは。」

「永遠の14歳、仮面シンガー マリか。」

「ママがだんだん壊れていく。」

「一応、ミーアさんのチャンネルに変なコメントをする人はあまりいないと思います。」

「はい。今のところは大丈夫です。」

「分かった。有難う。前向きに考えてみるね。」

「有難うございます。」

その後も、マリが『ずっと好き』の亜美のパートを歌ってみるなどして、午前中の録音が終わった。


 昼食は近くのファミレスでとることにした。アキが亜美に話しかける。

「三佐、少なめですが、ダイエットですか。」

「その通り。」

「それでは私も付き合います。18日にワンマンですから。」

「有難う。同志がいると心強い。ところでユミちゃん、話によると、リーダーに湘南兄さんは私のもの、って言ったんだって。」

「はい。」

「うちのリーダーは湘南二尉が大好きで、ある意味、鬼門だから、ミサさん、明日夏さん、由香もリーダーの前で湘南二尉の話をするときには、いろいろ気を付けているんだよ。」

「皆さんそうなんですね。それは分かります。」

「それ以外のことは、リーダーは周りのことを考えて、何でも解決してくれるけど。」

「はい、すごく頭も良さそうですし、ミーア姉さんの言う通りだと思います。」

「ユミちゃん、分かってくれて、有難う。」

「ですので、なおみちゃんとの湘南兄さんの取り合いは面白そうです。」

「うーん、ユミちゃん、リーダーの恐ろしさが分かっていない。」

「大丈夫です。なおみちゃんは湘南兄さんが大好きですから、湘南兄さんがそばにいる限り、私に手出しできないです。」

「末恐ろしい子だ。」

誠はその話を聞いて「だから、明日夏さんも鈴木さんも僕に丁寧に接してくれるんだな。」と日頃不思議に思っていたことが理解できて、安心していた。


 パスカルが湘南に尋ねる。

「レコーディングはこれで終わりということでいいんだよね。」

「はい、せっかくですので、午後にアキさんとユミさんの『あんなに約束したのに』を録り直しをしてみますが、今の状態でも大丈夫です。」

「サンキュー、分かった。」

パスカルが全員に話しかける。

「12月4日の予備日があきそうだけど、どうする?」

「パスカルちゃん、行こうよ。鍋パーティ。」

「パスカル君、申し訳ない。4日、僕はイベントの予約が3つあるから。」

「ラッキーはDDとして、そっちが本業だよね。」

「有難う。アキちゃん、18日は絶対に行くから。」

「有難う。イベント、楽しんできて。」

「マリさんたちはどうしますか。」

「私とユミと徹が参加できると嬉しいけど。」

「マリちゃん、徹君はデートでは?」

「それが徹は、パスカルさんや湘南さんと会いたいから、女の子とのデートより、こちらに来たいって。」

「徹君、なんともったいないことを。」

「まあ、徹は結構もてるから、気にしなくても大丈夫よ。」

「これも格差社会ということか。」

「でも、パスカルちゃんと湘南ちゃん、その徹君にもてるからいいじゃない。」

「コッコさん、どういう基準で考えているんですか。」

「いやいや、さすがに小学2年生と大学生のBLは成立しないんじゃないか。」

「コッコさんらしくないですが、安心しました。」

「コッコ姉さん、私からもお願いします。徹をBL漫画に登場させるのはやめて下さい。」

「分かった。ユミちゃんも、お姉ちゃんだね。」

「そうかもしれません。」

亜美がコッコに尋ねる。

「コッコさん、徹君って小学2年の男の子なんですか。」

「そうだけど。」

「マリさんのお子さんならば、可愛いんですよね。」

「まあ、ユミちゃんも可愛いけど、徹君はそれより可愛いかな。」

「うーー、ママは。でも、徹はすごく可愛いので、ママの言う通りかもしれません。」

「そうなんだ。それなら私も行きたいんですが、その日はワンマンライブ向けのプロモーションビデオの撮影があって行けないんです。」

誠は「徹君はコッコさんよりミーアさんの方が危険か。」と思いながら答える。

「ミーア三佐はお仕事ですから、そちらを優先させて下さい。」

「私も三佐が来てくれれば嬉しいけれど、それは湘南の言う通りね。」

「12月1日にワンマンライブの発表があって、その日からファンクラブでの抽選予約が始まるんですけど、来年からの一般販売のための広報ビデオの撮影で、抜けるわけにはいかなくて。」

「ミーア三佐、それは軍事機密ですから、秘密にされた方が。重要なことは分かっていますから大丈夫です。」

「そうか、二尉は知っているのか。」

「はい、知っていますが、ここではそういうことを話さなくていい約束になっています。」

「ミーアさん、みんな秘密にしたいことはあるから、詮索はしない。話せることは自分から話す感じです。」

「なるほど、パスカルさん、みんないい関係だな。」

「有難うございます。」

「それでは、これは発表されているので構わないと思うが、12月1日、リーダーがレギュラーで出ている情報番組に、私たちも出演してパフォーマンスと重大発表をする予定だ。良ければ見てくれ。」

「三佐、了解です。」

「僕からも『トリプレット』のファンのサークルにも連絡しておくよ。」

「ラッキーさん、タックですか?」

「タック君にも連絡する。でも、今はサークルの数が増えて僕も全部は把握していない。とりあえず、嬉しい重大発表があるとだけ伝えておく。」

「ラッキーさん、有難うございます。」

「話を戻すと、12月4日の参加者は、マリさん、ユミさん、徹君、アキさん、コッコさん、パスカルさんと僕の7人ですね。」

「そうだな。」

「それでは、うちの車で行きましょう。7人乗れます。」

「それなら、高速代とガソリン代は俺が出すよ。ライブが黒字だったら、事前練習と言うことで、経費から出せる。」

「それじゃあ、食べ物の材料はうちが持っていくね。」

「一応、豊田功で領収書をもらっておいて下さい。でも、マリちゃんって料理できるんですか?」

「パスカルさん、失礼ね。ある程度はできるわよ。」

「箸より重いものは持たないような、蝶よ花よのお嬢様育ちなのかと思いました。」

「そんなんじゃ、サラリーマンの奥さんは務まらないわよ。」

「料理はパパの方が上手だけど。」

「私だって、ユミちゃんよりは上手だわよ。それにパパが料理をするのはたまにだし。やたら凝った料理を作るけど。」

「旦那さんは行かないんですか?」

「行くなら車を出してもらうけど、たぶん一人でゆっくりしたいんじゃないかな。」

「分かりました。もし変更があったら連絡して下さい。」

「了解。」


 亜美とコッコがBLやアキのことについて話したり、他のメンバーが日帰旅行の話を詰める相談をしたりして、昼食が終わった。その後、亜美は仕事に、ラッキーはイベントに向かい、他の5人はレコーディングスタジオに戻り、午後のアルバムのための最後のレコーディングを終えた。

「マリさん、これで大丈夫ですね」

「そうね。今はこれが最善だと思う。」

「マリさん、有難うございます。湘南、パスカルも有難う。アルバムのレコーディング、曲数が多かったから大変だったけど、なんとか終わった。」

「おう、アキちゃんとユミちゃん、頑張った。」

「マリさんも、一応頑張りました。」

「湘南さん、一応って何よ。」

「えっ、レコーディングがすごく簡単に終わりましたから。」

「家に誰もいないときにいっぱい歌ってきたからよ。」

「そうなんですね。マリさんはなんでも簡単にこなしてしまうのかと思いました。」

「そんな人はいないわよ。」

「その通りですね。マリさんも頑張りました。」

「有難う。湘南さんもね。お疲れ様。女の人は隠れて努力しているんだから、もっと気を使って言葉を選ばないとだめよ。」

「マリさん、分かりました。気を付けます。」

「俺も気を付けよう。それじゃあ、湘南、編集とCDのマスター制作をお願いね。」

「はい、なるべく急いでやります。」

「それでは、より人気が高まるように、アキちゃん、ユミちゃん、マリちゃんは、振付のレベルアップをお願い。」

「了解。」「プロデューサー、了解です。」「確かに、それは心配だわね。」

「マリさんは、アキさん、ユミさんより人気が出ることが心配なんですか?」

「湘南さん、まあまあ。」

「有難うございます。」


 翌日の火曜日、パラダイス興行で歌の練習が終わった後、尚美が練習開始時間ぎりぎりに駆け付けた由香と亜美に説明する。

「由香先輩、亜美先輩、練習が始まる前に連絡があったのですが、12月4日のプロモーションビデオの撮影は準備が間に合わなくて、12月10日に日程を変更するとのことです。大丈夫ですか?」

「了解だぜ。まっ、仕事優先だな。」

「そうなんですか。はい、大丈夫です。」

「それで、12月4日は、明日夏先輩も美香先輩もオフということで、どこか遊びに行くことを考えています。」

「悪い。俺はちょっと別な用事があるかな。」

「はい、由香先輩はそうだと思っていましたので大丈夫です。それで全員がオフということで、さっきネットを調べて、栃木県のキャンプ場で鍋パーティーをして、温泉に入るという案を考えたのですが。」

ミサが暗い顔をする。ミサの変化に気が付いた明日夏が言う。

「ごめん、尚ちゃん、どこかに行くというのは賛成だけど、栃木県のキャンプ場はいろいろあって避けたほうがいい。」

尚美もミサの変化に気が付いていた。

「分かりました。他を探しましょう。」

「でも、8月4日がオフになるんだったら、私は湘南二尉たちと行きたかったです。」

「亜美先輩、兄たちはどこか行く予定があるんですか?」

「栃木県のキャンプ場で鍋パーティをして温泉に入る計画があるんです。」

「尚ちゃんの計画は、またお兄ちゃんと同じか。」

「すみません。話を合わせたわけではないのですが。」

「尚ちゃん、大丈夫。それは分かっているから。」

「ちょっと、兄に確認してみます。」

尚が専用スマフォで連絡をとる。久美が亜美に問いかける。

「でも、亜美も男がいた方が良くなったのか。」

「そうです。やっぱり男の子がいるほうがいいです。」

「亜美も成長したわね。」

「でも、向こうは7人乗りの車に7人で行くことになりましたから、残念ですが今からだと間に合わないと思います。」

「亜美ちゃんは、私たちを裏切るつもりだったのね。」

「はい、向こうに行けるなら、そうするつもりでした。」

「明日夏、女の友情じゃあ男女の愛に勝てないものよ。」

「そんなものなの?」

「そんなものよ。それより、明日夏も美香も亜美に負けないように。」

「はーい。・・・ミサちゃんは何を考えているの?」

「7人乗りの車ごと、大きな車に積んでいけないかなって。」

「車ごと拉致するつもり。」

「そうか、そうなっちゃうか。」

連絡が終わった尚美が様子を伝える。

「亜美先輩の言う通り、栃木県のキャンプ場で鍋パーティーをした後、温泉に入るという計画をしているみたいです。キャンプ場は同じで、兄たちはバーベキュー場を借りる予定で、私たちは少し離れたオートキャンプの施設を借りる予定でした。温泉も同じです。」

「リーダー、少し離れたってどのくらいですか?」

「200メートルぐらいです。」

「それじゃあ、尚ちゃん、行くにしても場所は変えたほうがいいか。」

「明日夏さん、大丈夫です。私からオートキャンプの施設に来ないように言えば、絶対に来るような人たちではないです。」

「それはそうだろうけど。亜美ちゃんは向こうにも行くつもりなの。」

「両方を往復します。」

「でも、栃木県のキャンプ場は・・・・。」

「明日夏、大丈夫だよ。尚が決めたところにしよう。」

「ミサちゃん、大丈夫?」

「そんなところで立ち止まっていたくないから。」

「分かった。じゃあ尚ちゃんの計画で行くことにしよう。」

「それでは詳細を詰めておきます。」

「明日夏、了解。尚、有難う」

「みなさん、有難うございます。」


 8月4日、朝早く誠が尚美を家の車に乗せて辻堂の家を出発した。

「まず、マリさんたちの家に寄ってから、パラダイス興行で尚を降ろすね。帰りは、その逆になると思う。」

「有難う。でも、たまにはお兄ちゃんと二人でどこかに行きたいな。」

「いいけど、どこに行きたい?」

「どこでもいいよ。買い物でも、ラッキーさんがおすすめのレストランで食事でも。」

「買い物なら、ハワイに行くために防弾チョッキとヘルメットを買いに行く予定はあるけれど。」

「そうか。その時に私も欲しかった防災グッズも買っておこうかな。」

「分かった。平日で尚が空いているときにいっしょに行こう。」

「そうしよう。」


 普段の生活のことを話しているうちに、車はマリの家に到着した。3人を乗せると、正志が見送る中、誠は車を出発させた。

「湘南さん、3人もお邪魔しちゃうけど、今日はよろしくお願いね。」

尚美が3人を観察して、「マリさんはまだ若々しいし、清楚な人妻というのは分かる。徹君はマリさんに似てなかなか可愛い顔をしている。まあ、ユミが一番可愛くないな。」と思いながら微笑んだ。

「いえいえ、マリさんたちこそ、来てくれて本当に有難うございます。」

「湘南兄さん、今日はよろしくお願いします。」

「はい、ユミさん、よろしくお願いします。今日は楽しくいきましょう。」

「はい。」

「お兄さん、有難うございます。」

「徹君、今日は海の時みたいにいっぱい遊ぼうね。」

「うん。」

続いて尚美があいさつした。

「湘南の妹の尚美と言います。ご存じと思いますが『トリプレット』というアイドルユニットに属しています。今日は別の用事でパラダイス興行に行くのですが、そこまでご一緒します。」

「尚美さん、お早う。さすが、湘南さんの自慢の妹さんだわ。本当に可愛らしくて、頭がよさそうなお嬢さんですね。」

「有難うございます。ユミちゃん、徹君、おはよう。ユミちゃん、この間はリリースイベントに来てくれてありがとう。」

「なおみちゃん、おはようございます。でも、本当に湘南兄さんの妹なんですね。」

「はい。自慢の兄です。」

「お姉ちゃんは、いっしょに行かないの?」

「徹君、ごめんね。今日は別のグループで行くけど、もしかするとどこかで会えるかもしれない。」

「分かった。」


 パラダイス興行に到着すると、尚美が車を降りた。

「お兄ちゃん、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。車の運転はプロの運転手さんだから大丈夫と思だうけど、キャンプ場では、火や包丁に気を付けて。」

「分かった。お兄ちゃんもね。」

「了解。」

尚美が降りると、助手席にユミが座ろうとしたので、尚美がユミに声をかける。

「ユミちゃん、助手席は事故が起きたとき危ないから、後ろに座ったほうが安全だよ。」

「湘南兄さんを信用しているから大丈夫。それに隣にいた方が、運転している湘南兄さんのお世話ができるし。」

尚美は誠が隣にいるので迂闊なことが言えなかった。

「そうだけど。」

誠が尚美に迎えのことを確認する。

「尚、それじゃあ、帰りはパラダイス興行まで迎えに来るから。また夕方に。」

「分かった。事務所で待ってるね。」

「なおみちゃん、それまで湘南兄さんの面倒は私が見るから、安心してね。」

尚美が「お前が一番安心できないんだよ。」と思いながらも、

「ユミちゃんは、まだ小学生だから、あまり無理はしなくても大丈夫だよ。」

「兄と妹だとできないことがたくさんあるでしょう。でも私にはないの。だから、私の方が湘南兄さんと相性はいいの。」

尚美は「このー」と思いながらも、誠たちのスケジュールを遅れさせるわけにはいかなかった。

「それじゃあ、夕方までだけど、お兄ちゃんをよろしく。」

「はい、任せて下さい。」

尚美は、誠に手を振りながら事務所がある建物に入っていった。誠は新宿へ向かい、新宿駅前でアキ、コッコ、パスカルを乗せて栃木県のキャンプ場に向かった。


 誠たちがキャンプ場に到着すると、バーベキュー場に向かい、マリとアキが水道のあるところで料理の下ごしらえを開始した。

「アキちゃん、申し訳ないけど、ピーラーで里芋の皮を向いてくれるかな。でも、けがをしないように気を付けてね。」

「はい。芋煮会みたいですね。」

「そうね。少し季節が違うけど。」

誠とパスカルは鍋や火の準備である。

「湘南、飯ごうを洗ってくれ。俺は、鍋を洗う。」

「了解。」

ユミと徹は両方を往復していた。

「この薪コンロなら、風が当たりにくくて火が楽に付きそうです。」

「そうだな。まず、着火剤をおいて。」

「次に、細くて乾いた枝を置きましょう。」

「次は、もう少し太い枝。徹君、このぐらいの太さの枝を上に置いてくれるか。」

「うん、分かった。」

「最後は太い枝だな。」

「はい、これで終わりになります。」

「いいね、いいね。二人の共同作業。」

「それじゃあ、薪に火を付けるから、ユミちゃんと徹君は下がっていて。」

「プロデューサー、了解です。」「分かった。」

「コッコさんは二人を見張っていてください。」

「二人って、パスカルちゃんと湘南ちゃんか。」

「違います。」

「徹は私が見ているから大丈夫です。」

「それじゃあ、火をつけるぞ。」

パスカルが100円ショップで買った着火装置で着火剤に火をつける。

「太い枝に着火したら成功だよ。」

「パスカルお兄ちゃん、火が点かなかったらどうするの?」

「おっ、徹君、いい質問だね。湘南、どうするんだ。」

「そういう場合は、この薪ばさみで細い枝を加えます。」

「だそうだ。」

「分かった。」


 誠が念のため薪ばさみを使って細い枝を加えたりしたが、火は順調に一番太い枝に燃え移った。火が大きくなったところで、マリが鍋と飯ごうをコンロに載せた。

「30分ぐらいしたらできるから、それまで火のないところで遊んできていいわよ。」

「火を使っているときに、ボールは危ないから、徹君、お姉ちゃんたちといっしょにダンスの練習をしよう。」

「分かった。」

「振付の練習ね。」

「そうですね。」

「それでは、ブルートゥーススピーカをセットしますので、待っててください。」

「湘南はどうするの?」

「少し連絡をするところがあって。」

「分かった。音楽だけお願いね。まずは、『君色シグナル』から。」

「了解です。」

 

 誠が音楽を流すと、4人がダンスを始め、コッコがそれを写真に撮ったり、スケッチしたりしていた。誠は念のためにビデオ通話で、尚美と連絡を取った。

「そっちはどう。大丈夫?」

「大丈夫だよ。薪はこんな感じで積んだけど。」

「大丈夫そうだね。ミーアさんも尚も、薪を加えるときは必ず薪ばさみを使ってね。」

「二尉、分かった。」

「分かっている。」

「調理台の方は?」

「えーと、こんな感じ。」

「明日夏さんに、台の淵に包丁を置くと落とすことがあるから、もっと奥のほうに置くように言ってくれるかな。」

「了解。・・・明日夏先輩、台の淵に包丁を置くと落としやすいので、もっと奥に置くようにとのことです。」

「誰から?マー君からか?」

「はい、ビデオ通話です。」

「なるほど。淵に置くから、いつも包丁が落ちて足に刺さるのか。」

「明日夏さんは、いつも包丁が足に刺さるのですか?」

「落とすのはいつもだか、刺さったのは一度だけだ。」

「痛そうです。」

「痛かった。」

「とりあえず、包丁は台の奥の方に置くように癖を付けて下さい。」

「ダコール。」

「それでも落とすようなら、つま先に鉄板が入った安全靴を履くといいと思います。」

「作業現場みたいだな。まあ、だめなら考えてみるよ。」

「有難うございます。」

「スマフォは、誠なの?」

「はい、そうです。薪の置き方などをチェックしてもらいました。」

「誠、こんにちは。いろいろ有難うね。」

「はい、鈴木さん、こんにちは。鈴木さんも話すときは包丁をテーブルに置きましょう。」

「うん、分かった。」

「PIYO PIYOエプロン、似合っています。」

「有難う。明日夏と亜美が絶対に似合うからということで、これにしたの。」

「やっぱり落ち着いた人が似合います。理想を言えば未亡人ですが。」

「亜美もそう言っていた。でも、まだ結婚していないし、そんな相手もいないから無理。ごめん。」

「鈴木さんは、ロックの道にまっすぐですからね。」

「そういう訳でもないんだけど。」

「でも、エプロン姿が意外性があるのに似合っていて、写真集に使えそうな気がします。」

「意外性って。」

「家庭的な面でしょうか。」

「料理だってできるし、家庭的な面も大丈夫よ。」

「はい、そうだと思います。事務所がカッコいい女性と売り出している問題ですね。」

「その通り。」

「お兄ちゃんの言う通り、エプロン姿の写真を入れることも考えておくよ。」

「尚ちゃん、裸エプロンは?」

「明日夏さん、この世界はエロゲーじゃないんですよ。」

「でも似合うし、マー君も見たいでしょう。」

「似合うとは思いますが、カッコいいというイメージへのダメージが大きすぎますから却下です。」

「明日夏、裸エプロンというのは・・・・。」

「ご想像の通りだよ。エロゲーオタク男子が好きな格好だな。」

「最近は男性キャラのもありますけれども。」

「おお、池袋でよく売っているな。コミケなら直人のも売っていた。しかし、オタクで売っている私なら裸エプロンの写真を出してもイメージにダメージはあまりないかも?」

「その前に似合わなそうですので、やっぱり止めておきましょう。」

「容赦ないな。それじゃあ、次は『デスデーモンズ』の曲の打ち合わせでな。」

「それじゃあ、誠、次はハワイで。」

「それじゃあ、お兄ちゃん、夕方に。」

「はい。みなさん、気を付けて楽しんで下さい。それではまた。」


 連絡が終わって、誠がマリのところに行く。

「鍋は僕が見ていますから、ダンスのほうに加わってきて大丈夫です。」

「さすがにここでダンスをするのは少し恥ずかしんだけど。」

「マリさん、若いですから大丈夫です。」

「精神的に?」

「お姿も永遠の14歳です。」

「ふふふふふ、分かった。ワンマンまで時間がないもんね。」

「はい。」

マリが加わり『トリプレット』のダンスが始まった。するとコッコが話しかけてきた。

「いやー、いいね。日本は平和で。」

「はい、コッコさんの言う通りだと思います。」

「湘南、うまくダンスから逃れたね。」

「分かります?」

「まあ、同じ穴のムジナだからね。」

「そうですね。」


 芋に箸が楽に通るようになり、ご飯も炊きあがったため、誠が茶をクーラーボックスから出しながら、みんなを呼ぶ。

「ご飯の準備ができました。」

「おう、サンキュー。」

マリとアキがコンロにやってきて、鍋やご飯を使い捨ての紙の食器に盛って、誠とコッコがそれをテーブルに運んだ。テーブルに座って、全員で頂きますをして、食べ始めた。

「お鍋はまだ一杯あるから欲しい人は言って。あと、フルーツを切ってきたから、デザートに食べて。」

「有難うございます。薬味もありますので、好きにとってください。僕は七味をかけます。」

「おいしい。徹、まだ熱いから気を付けて。お姉ちゃんが、フーフーしようか?」

「お姉ちゃん、大丈夫。自分でできるよ。」

「こぼさないようにね。」

「うん。」

「ユミちゃんは、徹君がいるとお姉さんになるんだね。」

「徹が生まれた時からずうっと面倒を見ているから。アキ姉さんのところは?」

「うちは三人とも女で妹もいるけど、姉が面倒見ていたし。それに、男の兄弟の感じはよくわからないかな。」

「可愛いですよ。心配事が増えますが。」

「うん、そんな感じに見える。」


 明日夏たちは、尚美とミサが鍋の様子を見て、明日夏と亜美が漫画を見ていると、鍋の具がちょうど良く煮えてきた。それで、尚美とミサが鍋の中身を食器に移す。

「蟹かな。おいしそうだね。」

「はい、3種類の蟹が入っています。御飯は最後に雑炊にします。」

「さすが、尚ちゃん。」

「それでは、いただきますをして食べよう。亜美、いつまでも漫画を見ていない。」

「はい、すぐに行きます。」

「ミサちゃん、お母さんみたいだね。」

「本当に。明日夏、有難う。」

「うーん。いやいいけど。」

明日夏たちも頂きますをして食べ始めた。

「尚ちゃん、食べ終わったら何をするの?」

「キャッチボールをしようと思って、ボールの投げ方のビデオを調べてきました。」

「キャッチボール?」

「始球式に呼ばれることも出てくるかなと思ったからです。」

「なるほど。ミサちゃんはカッコよく投げたほうがいいよね。」

「そうだと思います。」

「尚ちゃんはドームでライブだし、野球にちなんだことをするかもしれないね。」

「由香先輩はある程度野球ができるみたいですし。」

「明日夏さん、私は?」

「亜美ちゃんは、ドジをして、てへって笑う練習かな。」

「もういいです。明日夏さんはどうなんですか。」

「私は始球式に呼ばれることがないんじゃないかな。イメージが違うし。」

「まあ、呼ばれるのはカッコいいか可愛らしい子ですからね。」

「だから、ミサちゃんと尚ちゃんのキャッチボールをゆっくり見学しているよ。」

「まあ、それがいいですね。私は曹長たちの様子を見てきます。」

「亜美、曹長というのは?」

「アキ曹長、湘南二尉です。」

「大丈夫?」

「はい、この間レコーディングにもお邪魔しましたし、全然大丈夫です。」

「尚、明日夏、私たちも行く?」

「一応、私はパスカルさんアキさんもデビューする前からの知り合いですから大丈夫だと思いますが、美香先輩と明日夏先輩はやめておいた方がいいと思います。」

「それもそうか。向こうの知り合いは誠しかいないし。」

「それでは、食べ終わったら二人でキャッチボールをしましょう。」

「分かった。」

「では、とりあえず野球のボールの投げ方のビデオを流します。」

「お願い。」

 4人が食べ終わって、後片付けをした後、ミサと尚がハイレベルなキャッチボールを始めた。明日夏がキャンプ用の椅子に座りキャッチボールの様子を見ながら、漫画を読み始めた。亜美が誠たちを探しにバーベキュー場に向かった。


 誠たちも食べ終わった後、後片付けをしてボール遊びを始めていた。そこに、亜美がやってきた。まず、他の人に気づかれないうちに、アキと誠にあいさつした。

「曹長、二尉、こんにちは。」

「あれ、ミーア三佐、どうしてここに。」

「近くまで来ていて、二尉から場所を聞いた。」

「湘南、さっきの連絡はそれだったの。」

「はい、その連絡も含まれています。本当に偶然なんですか、実はミーアさんの他に、明日夏さん、大河内さん、尚もこのキャンプ場に来ています。」

亜美が説明する。

「曹長、『トリプレット』の撮影が準備が間に合わなくて急にキャンセルになり、リーダーが遊ぶ計画を決めたとき、同じキャンプ場になったのでびっくりした。私は構わないが、あとの3人はそっとしておいてくれると嬉しい。」

「三佐、分かりました。みんな、ミーア三佐が遊びに来てくれたよ。申し訳ないけど、理由は聞かないでくれると嬉しい。」

「ミーアさん、いらっしゃい。超大歓迎です。」

「ミーアさん、いらっしゃい。」

「ミーアさん、今日は来てくれて有難うございます。」

「マリさん、ユミちゃん、こんにちは。この子がユミちゃんの弟の徹君?」

「はい、その通りです。」

「徹君、こんにちは。」

「お姉ちゃん、こんにちは。」

「すごい、お姉ちゃんだって。徹君はすごく可愛い、ごめんなさい、すごくカッコいい男の子だね。お姉ちゃん、徹君のこと一目で大好きになっちゃった。」

「・・・・」

「お姉ちゃんのことはミーアちゃんって呼んで。」

「うん、分かった。」

「私の名前は?」

「ミーアちゃん。」

「よくできました。」

「ボール遊びをしていたの。」

「そう。どんな遊び?」

「鬼がボールを持って、ボールを投げて当てると、鬼が交代するの。」

「分かった。お姉ちゃんも混ぜて、いいかな。」

「いいよ。」

「それじゃあ、途中から入ったお姉ちゃんが鬼になるよ。」

「それではボールをお渡しします。」

「二尉が鬼だったの?」

「はい、体力がないのと、パスカルさんが僕だけを狙うから。」

「だって、女性に当てられないだろう。男は湘南だけだし。」

「徹君がいるじゃないですか。」

「子供も当てにくい。」

「軽く投げればいいんです。」

「そうすると当たらなくて、湘南みたいにずっと鬼になりっぱなしになる。」

「ですから、それを半分受け持ってください。」

「いやだ。お前とは真剣勝負だ。」

「パスカルちゃん、湘南ちゃん、喧嘩もなかなかいいね。私はちょっと抜けて、スケッチ描くことにするよ。」

「コッコさん、ずるいです。」

「絵を描くのが本業だし。その他、宣伝に使える絵も描くし。湘南は若いんだから頑張れ。」

「はあ。」

「それでは、始めましょう。二尉、私はあまり二尉を狙わないから、大丈夫。」

「三佐、ご配慮、有難うございます。」

「それじゃあ、いくよー。みんな逃げろー。」

ボール当てゲームが再開された。亜美は徹を追う。

「徹君、当てちゃうぞ。」

「当てられないもん。」

「待てー。」

そうやってしばらくボールで遊んだ後、誠が提案する。

「お水はありますが、入口の自動販売機でジュースを買ってきます。何がいいですか?」

「おっ、湘南、うまくさぼる気だな。でも確かにお茶とか水以外のものが飲みたいな。俺は甘いコーヒーで。」

「分かりました。」

「一人で運べるか?」

「はい。保冷バッグを持ってきたので大丈夫です。それでは、その他の人もどうぞ。」

誠が注文を聞いた後、ジュースを買いに入口の事務所のほうに向かった。


 キャッチボールを見ていた明日夏も少しキャッチボールをやりたくなったようだった。

「私もちょっと、キャッチボールをしてみようかな。でも、ミサちゃんの球は速すぎるので、尚ちゃん、お願いできる。」

「はい、分かりました。それでは私が後ろに人がいない方に行きます。」

「私がちゃんと投げられないと思っているの?」

「その通りです。」

「見せてあげよう。私の剛速球を。」

「それだと暴投になる可能性が高くなりますので、初めはゆっくり山なりに投げてください。」

「剛山なりボール。」

「剛はいりません。」

ミサが二人がキャッチボールを始めるのを見ながら話しかける。

「それじゃあ、私はその辺を散歩して来る。」

「あの、先輩。」

「大丈夫、景色を見てくるだけだから。バーベキュー場の方には行かない。」

「分かりました。」

 ミサは「誠に会うのは迷惑だろうから、遠くから見るだけにしよう。」と思って、入口の方を通って、バーベキュー場の様子が見える離れたところまで行くことにした。向かう途中、進むにしたがってどんどんと心臓が高鳴ってくるのがわかった。

「ワンマンライブのときより緊張しているかも。でも遠くから見るぐらいならできる。」

入口のそばを通った時、もしかすると誠と偶然出会うかもしれないという緊張とは違う衝撃が心に走った。

「ここ。」

ミサはあたりを見回して確認する。

「小学生の時、変な男の人に手を引かれて連れていかれた場所だ。たぶん犯人の車はあそこに止めてあった。本当にすぐそばだったんだ。あと何秒かで車に乗せられていたかもしれない。」

ミサは「ここは無理。やっぱりもどろう。」と思ったが足が動かない。ミサが周りを見ていると、忘れていた当時のことがどんどんよみがえってきた。

「キャンプ場を散歩していたら、男の人に手をつながれて、連れていかれたんだっけ。声が出なかったから周りの大人の人を見たんだけど、誰も気づいてくれなくて。そうしたら小さな男の子が『この人、お姉さんのお父さん?』と声をかけてくれたんだった。私より2~3歳ぐらい下かな。声が出ないので首を横に振ったら『知っている人?』と尋ねられたからまた横に首を振った。そうすると、男の子は男に向かって大声で『おじさんはこの人の何なんですか?』って聞いたら『ガキ、うるせーぞ。お前の知ったことじゃない。』と殴るふりをしていた。その時に手が離れたから、男の子は大人の人がいる方に私の背中を押してくれたんだっけ。でも、男の人に蹴り飛ばされて。あっちの方に転がって行って。そうしたら、男の子が携帯を出して男の写真を撮って。犯人が『写真を撮るんじゃねえ。携帯を渡せ。』と言いながら男の子のほうに向かって行った。そうしたら、男の子は携帯電話を草むらに投げ込んだ。それでまた蹴り飛ばされて。何とかしなくちゃと思って、男の子に覆いかぶさって『やめて。この子、死んじゃう。』と叫んだら、周りに人が集まってきて、男は逃げて行った。覆いかぶさったときに、男の子は気を失っていた。命に別条はないという話だったけど、今は何をしているんだろう。でも、あの男の子がいなかったら、車に乗せられて、私、どうなっていたんだろう。死んだ女の子も怖かったんだろうな。私も、あの子がいなかったら、たぶん・・・・・。」

ミサが昔のことを考えるのを止める。

「動かなきゃ。これじゃ前と同じ。」

しかし、足は動かなかった。その時、右斜め前から声がかかった。

「鈴木さん。・・・・鈴木さん。大丈夫ですか?」

入口付近の自動販売機で缶コーヒーや缶ジュースを買って戻ろうとしていた誠が固まっている女性を後ろから見て、「鈴木さんみたいだけど。」と思い前に回った。すると、マスクをしていたが、顔が蒼白で目がうつろなミサと分かったので声をかけたのである。

「あっ、誠。・・・・私。」

「もしかすると、散歩して道が分からなくなってしまったんですか?ここは広いですから。ミサさんたちのオートキャンプ施設はあっちの方なんですよ。」

「うん。」

「ここは車が通るので、とりあえず道の端の方に行きましょう。」

「えっ、そうね。分かった。・・・・・でも、足が動かない。」

キャンプ場の中の遠くの方から車がやって来るのが見えた。車はまだ遠かったが、誠が声をかける。

「足が動かないんですか。」

「ごめんなさい。」

「背中を押してもいいですか。」

「はい、お願い。」

「それでは、あそこのベンチまで行って、座りましょう。」

「はい。」

誠は両手で背中を押して、ベンチのほうに向かい、二人で腰かけた。

「鈴木さん、大丈夫ですか。気分が悪くなったんですか。」

「そうじゃなくて。なんか急に落ち込んで。」

誠は「全米デビューを控えていろいろ大変なんだろうな。水着写真集はやめておくべきだったのかもしれない。申し訳ないことをした。」と思っていた。あたりに人がいないことを確かめて話しかける。

「缶コーヒーですが、飲みますか。」

「ありがとう。」

誠が缶コーヒーを渡すと、プルトップを開けてミサが一口飲んだ。

「甘い。」

「はい、こういうときは甘いほうがいいかなと思いまして。」

「そうかも。」

そう言いながら、もう一口飲む。

「なんか、元気が出てきた。」

「よかったです。お菓子もありますけど。えーと、ピーナッツとかポッキーとか。」

「有難う。でも大丈夫になってきた。」

「歩けそうならば、皆さんがいるところにお送りしますが。」

「有難う。その前に誠もこの結構甘いコーヒーの味を確かめてみる?」

ミサが自分が飲んだ缶コーヒーを差し出す。誠は間接キスになるので躊躇したが、ここで飲まないわけにはいかないと思って飲んだ。

「かなり甘いですね。」

「ということは、この缶コーヒー、やっぱり誠のものではなかったんだ。」

「はい、パスカルさんの注文でした。」

「それじゃあ、同じものを私が買うので、その缶は下さい。」

「僕が買って帰りますので気にしないでください。」

「そういうわけにはいかないよ。」

「分かりました。」

誠が缶コーヒーを渡すと、ミサはそれを持って立ち上がった。

「自動販売機はどこかな?」

「あの建物の裏です。」

「いっしょに行ってくれる。」

「もちろんです。」

誠が道を案内すると、ミサは缶コーヒーを飲みながら歩き、自動販売機で同じ缶コーヒーを買って誠に渡す。

「ここからは、たぶん一人で帰れます。」

「ミサさんの車が見えるところまでいっしょに行って、そこから戻ります。」

「本当に。有難う。」

いっしょにオートキャンプ場に向かうと、誠がミサのリムジンを見つけた。

「あそこですね。」

「はい、有難うございます。もう大丈夫です。それじゃあ、誠、18日、『ユナイテッドアローズ』のワンマンライブで。」

「はい、そのときにまた。」

誠はミサが尚美たちがいるところに到着するのを確認して、入口を通ってバーベキュー場に戻っていった。

「しかし、間接キスになってしまったけど、美香さんは気が付いていないのか。」

ミサも同じことを考えていた。

「First indirect kissかな。誠は気づいていなかったようだけど、この缶は永久保存しなくちゃ。」

コーヒー缶をビニール袋に入れて、自分のバックにしまった。

「ポッキーを1本もらって、誠と左右から食べて、・・・本当のキスをしちゃえば良かったかな。」

ミサが自分の頭を軽くたたいた。

「私、何を考えているんだろう。左右からポッキーを食べようなんて言ったら、誠から軽蔑されちゃうよ。今は自分のことを頑張らなくちゃ。」


 誠たちのグループは、ボール遊びに飽きたころ、温泉に向かうことにした。

「それじゃあ、徹君、また会って絶対遊ぼうね。その時はサッカーをしようか。」

「うん、サッカーをする。」

「約束だよ。」

「うん、約束。」

亜美と徹が指切りをする。

「それでは、みなさん、18日のワンマンライブで。」

「有難うございます。三佐、お疲れ様でした。所沢ドームのワンマンライブ、楽しみにしています。」

亜美が明日夏たちのところに戻って行った。亜美が戻ってきたところで、明日夏たちも温泉に向かうことにした。亜美は「もしかすると温泉で一緒になるかもしれないけど、あのメンバーなら問題が起きることはないか。徹君にまた会えるな。」と思いながらリムジンに乗り込んだ。


 誠たちが日帰り温泉の施設に向かう途中、徹が車の中で寝てしまったため、施設に到着するとマリが抱きかかえて、誠とパスカルがマリの荷物を持って施設に入った。マリたちは施設の休憩室で徹をしばらく休ませることにした。

「徹、本当は男の子の遊びがしたいみたいだけど、女の子が離さないから、今日はすごく楽しくて遊びすぎてしまったみたいね。普通の女の子はミーアさんと違って、男の子の遊びをしてくれないし。申し訳ないけど、徹を少し休ませてからお風呂に入ることにするわ。」

「はい、その方がいいと思います。起きたら元気が回復して大変かもしれませんが。とりあえず時間は十分ありますので、そうしましょう。」

「しかし、女の子が離さないって贅沢な悩みだな。」

「悩みは人それぞれということです。僕たちにはない悩みですが。」

「そうだな。とりあえず先に風呂に入ろうか。」

「それじゃあ、パスカルちゃん、湘南ちゃん、ブルートゥースイヤフォンを付けて行ってよ。」

「了解。」

「分かりました。」

アキがイヤフォンを取り出すのを見てパスカルが尋ねる。

「アキちゃんもイヤフォン持っていくの。」

「だって、一人だけ仲間外れはいやじゃん。」

「そうか。」

4人は男湯と女湯に分かれて、スマフォをグループトークに設定した後、更衣室において、ブルートゥースイヤフォンを装着して、お風呂場に向かった。

「男の子の遊びがいいと言っても、徹君、女湯に入るんだな。」

「生まれて持っているものがちがうということでしょう。」

「しかし、女湯に入るというのは、男の遊びとしては最高だよな。」

「まだ、小学2年生ですよ。大人になれば、そうかもしれませんけど。でもこの会話、コッコさんも聞いているんでした。コッコさん聞こえていますか。」

「よく聞こえたよ。大人になればって、湘南ちゃんは、本当は混浴に入りたかったということだね。」

「違います。」

「湘南、違わない。」

「湘南ちゃんのむっつりスケベ。」

「湘南のエッチ。」

「二人とももういいです。とりあえず、ブルートゥースイヤフォンは、うまく機能しているみたいですね。」

「俺も3人の会話が聞こえるよ。」

「湘南の作戦は成功ということね。」

「有難うございます。」

「それじゃあ、湘南、洗い場で背中流すぜ。」

「コッコさんへのサービスですか。それじゃあ、僕もします。」

「サンキュー。」

「二人ともありがとね。」


 少しの間をおいて、明日夏たちも施設に到着した。個室の休憩室をレンタルすることにしたが、ミサに緊急な仕事のメールが入っていたため、それを処理するために明日夏と尚美が先に温泉に入ることになった。

「それじゃあ、ミサちゃん、亜美ちゃん、お先に。」

「美香先輩、亜美先輩、お先に。」

「ごめんね。行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃい。」

明日夏と尚美が温泉の浴場に行き、体を洗った後、露天風呂に向かうと、そこにはアキとコッコの二人だけが入っているのが分かった。

「おっ。」

「あっ。」

「尚ちゃんから近くに来ているとは聞いてたが、まさか露天風呂で会うとは。」

「ミーア三佐、えーと、亜美さんがさっきこちらのバーベキュー場に来て、ボールで遊んでいました。」

「それは亜美ちゃんから聞いたけど。」

「コッコさん、アキさん、こんにちは。」

「妹子、こんにちは。」

「妹子ちゃん、こんにちは。」

「尚ちゃん、妹子というのは?」

「最初に兄と一緒に会ったときに、湘南妹子と名乗ったんです。」

「なるほど。イヤフォンをしているけど、お風呂場でも音楽を聴いているの?」

「今は音楽ではなくて、SNSのグループトークでパスカル、湘南、コッコ、私がつながっていて、会話できるようになっています。会話だけなら違法ではないだろうと。」

「4人は、お風呂場で会話するほど仲良しなのか?」

「もともとは、コッコが男湯に入れないから、BL漫画のネタのために、せめて会話だけでも聞きたいということで、湘南が方法を考えたんです。」

「なるほど。さすがは尚ちゃんのお兄ちゃん。」

「向こうはパスカルと湘南で背中の流しっこしているみたいです。」

「いくら友達でも、それは仲が良すぎるのでは。大丈夫か?」

「たぶん、コッコの要望に答えようとしているだけだと思います。でも、パスカルたちは、こちらの会話の内容を不思議がっているようです。」

「申し訳ないが、イヤフォンを一つ貸してくれるか?」

「えっ、はい、どうぞ。」

アキが明日夏に、コッコが尚美にイヤフォンを貸す。

「よう、マー、尚ちゃんのお兄ちゃん。元気か?」

「明日夏さんですか。はい元気です。」

「それにしても、面白いことを考えるな。」

「コッコさんが、漫画のネタのために男湯での会話を聞きたいということで、考えました。」

「なるほど。しかし、コッコさんがこちらをまじまじと見ているのが気になる。」

「あの、コッコさんも、女性同士と言っても節度を持ってください。」

「こんな一生に一度しかない状況を逃がせるわけないだろう。」

「明日夏さんも、コッコさんは芸術のためなら人間性を捨てる人ですから、いやな時はお風呂を上がった方が。」

「二次元絵の題材だろうから、まあいいけど。それじゃあ、私も作詞家の卵としてコッコさんの全裸を言葉で描写しようか。」

「コッコさんは、二十歳を超えていますので、ある程度は違法ではないかもしれませんが。」

「私を描写するのは全然構わないですけど、それも明日夏さん自身の方がいいんじゃないですか。鎖骨とか骨盤と大腿骨の関係とか膝の関節とか。すごくいい感じですよ。」

「二次元絵でも、骨の構造まで考えて描くのか。」

「もちろんです。奇麗な鎖骨をしています。」

「なるほど。やっぱり、歌詞でも、そうしないとだめか?」

「文章でも、肌、脂肪、筋肉、骨の感じを奇麗に表現している作者はいますが、やりすぎるとポルノ小説になってしまいます。」

「なるほど、ポルノ作詞家か。考えてみるか。」

「いえ、明日夏さん、考えないで下さい。」

「うちのバンド用の曲では。」

「『デスデーモンズ』には無理だと思いますが。」

「それは尚ちゃんのお兄ちゃんの言う通りだ。うちにはビジュアル系でもう少しセクシーな顔をした男性バンドもあるから、そういうバンド用だ。」

「明日夏さん、そのためには、ポルノ小説をある程度、読んだほうがいいと思いますよ。」

「コッコさんは読むの?」

「漫画のストーリーの参考のために。」

「なるほど。勉強熱心なんだな。」

「本当はBL漫画で男性の裸を描くために、私一人でもいいから男湯に入りたいんですが、みんなが止めるので、なかなか入れなくて。」

「それはそうだろうけど。私を見ているのは?」

「女の子の絵は商売用。自分が描きたいのはBLの方。」

「偉い。現実の需要も考えているわけか。」

「パスカルちゃんや湘南ちゃんに1000円払うから裸を見せろと言っても、見せてくれないし。見せたって減るもんじゃないだろうに。」

「なんて言ったらいいか分からないが、創作は大変だな、周りの人も。」

「でも、気に入ったものができるとすごい楽しいですよ。」

「それはそうだろうな。私も作詞を頑張らなくては。」

「湘南、明日夏さんとコッコちゃん、大丈夫なのかな。」

「なんか、二人で変に共鳴しあっている感じがします。」

「お兄ちゃんのいう通りだけど、明日夏さんも捕まるようなことはしないと思うけど。」

「それはコッコもそうだと思う。」

「うーん、一人一人は大丈夫でも、二人の共鳴効果で一線を越える可能性もありますので、注意した方がいいかもしれません。」

「うん、それは湘南ちゃんのいう通りかもしれない。」

「チキンレースみたいになって、一線を越えて転落するかもな。」

「本人たちが言わないでください。申し訳ないけど、尚、明日夏さんを時々チェックしてもらえるかな。」

「お兄ちゃん、了解。」

「それじゃあ、私がコッコを見るよ。」

「お願いします。」

「でも明日夏さんと湘南の会話、何か幼馴染みたいな自然な感じだけど、湘南は明日夏さんの曲を作っているんだっけ。」

「アキさんとやら。その通りだ。尚ちゃんのお兄ちゃんが作曲した曲は、1月に出るアルバムに『あんなに約束したのに』を明日夏バージョンでカバーするのと、一昨日レコーディングしたもう1曲が入ることが決定している。」

「すごい。湘南、おめでとう。」

「平田社長さんのおかげだと思います。僕には詳細は聞かされていませんが、まだ秘密ですよね。」

「そうだったね。まあ、尚ちゃんの友達だし、このぐらいはいいだろう。」

「とりあえず、みなさん秘密でお願いします。」

「了解。」「了解。」「おう、秘密は絶対に守るよ。」

「でも、私たちの曲がカバーされるって、普通と逆ですね。」

「秘密ついでに言うと、秋山充年というのは私のことだ。」

「えー、そうなんですね。あの曲、明日夏さんの作詞だったんですか。」

「もともとは、私の作詞の練習用に作曲を依頼したんだ。と言っても、今の私の全力を注いだが。」

「素敵な歌詞だと思います。有難うございます。」

「そう言えば、亜美ちゃんの話によると、手焼きでアルバムを出すんだって?」

「はい、18日のワンマンライブで販売開始です。」

「ワンマンライブはうちの社長が面倒見ているから少し知っている。行けるかどうか分からないが。」

「はい、23日のハワイでのライブ、31日のワンマンライブの準備でお忙しいことは分かっていますので、気にしないでください。それにこっちのライブには女性のお客さんは知り合いしか来ませんし。」

「すまんな。」

「でも、良かったです。音楽に関しては湘南にお世話になりっぱなしで。でも、もしかすると、それが明日夏さんのアルバムに曲が採用されるのに役立ったかもしれないと思うと。」

「はい、アキさんの曲をプロデュースしていなければ、明日夏さんに曲を提供できた可能性は全くなかったです。」

「湘南にそう言ってもらえると嬉しい。」

「なるほど、アキさんとやらは私のための練習台ということだな。」

「はい、その通りです。」

「いや、少しぐらい怒ってもいいところだが。」

「パスカルはともかく、湘南はそのうち私たちから離れて、遠くに行ってしまうことがあるかもしれないと思っています。そうなってもいいように、最近、自分でMIDI音源を作る勉強をしています。」

「楽器ではなくて?」

「はい、いろいろな音が使えて、一人でもインスツルメンタルができますので。」

「遠くに行くことはないと思いますが、今度、MIDIの制作をいっしょにやってみましょう。」

「湘南、有難うね。明日夏さん、湘南がそちらの世界に行ったときは、湘南をよろしくお願いします。練習台になった女からのお願いです。」

「分かったが、パスカルとやらは、遠くに行かないのか?」

「明日夏さん、俺の場合は行かないというより、湘南と違って、能力的にそちらに行く力はないということだと思います。」

「おー、バールもいたのか。」

「はっ、はい。」

「でも、私たちが知り合ったきっかけは、1月の明日夏さんのイベントだったんです。そういう意味で、明日夏さんが私たちの縁結びの神様です。」

「他人の縁を結ぶより、自分の縁を結びたいかな。まあ、しばらくは無理そうだが。」

「そう言えば、私がパラダイス興行に入れたのも、明日夏先輩のイベントがきっかけでしたから、やはり縁結び役ですね。」

「尚ちゃんの場合はちょっと違ったが、私のイベントがきっかけであることは違いないか。アキちゃんとやらは、プロの世界に来ないのか。」

「その世界を目指して頑張るとしか言えないです。」

「こちらのオタク仲間を増やしたいので、是非、頑張ってくれ。」

「分かりました。頑張ります。」

その後は、アニメの話をした後、お風呂から出ることになった。

「今日は有難うございました。私はハワイはいけませんが、31日のワンマンライブには行きます。頑張ってください。」

「俺と湘南、ラッキーさんとセローさんは、両方行きます。」

「みんなの話を聞いて、私ももっと頑張らなくちゃいけないと思えて、良かったよ。有難う。」

お風呂を出た後、それぞれの休憩場所に戻って行った。


 誠とパスカルが、マリたちがいる畳敷きの休憩室にもどると、徹は起きてお茶を飲んでいた。少ししてアキとコッコも戻ってきて、座椅子に腰かけた。

「やっぱり、畳は楽。」

「それでは、申し訳ないのですが、ユミと徹と私は、お風呂に行ってきます。」

「時間は余っていますので、家族水入らず、ゆっくりしてきてください。」

「湘南さん、有難うございます。」「それじゃあ、行ってきます。」「行ってきまーす。」

マリたちが行った後、アキが湘南に話しかける。

「明日夏ちゃんって、曲の話をしているときは、あんな感じなの?」

「あれが素の明日夏さんの話し方みたいです。」

「へー、そうなんだ。オタクみたいな話し方で親しみが持てた。」

「ただ、イベントの時は演者とファンとして話してもらえると・・・・」

「分かっているって。」

湘南が立ち上がった。

「大変申し訳ありませんが、僕は空いている椅子を探して、パソコンでCDのマスターを制作しています。」

「おう、頼む。手伝えることがあれば手伝うが。」

「大丈夫です。ゆっくりしていて下さい。」

「湘南ちゃん、行ってらっしゃい。」

「今は集中したほうがいいわよね。今度、やっているところを見せてね。」

「はい、今日はその方が助かります。ワンマンが終わったら、冬休みとかに、MIDI制作をいっしょにやる機会を作ります。」

「有難う。」

湘南は椅子がある休憩室を探しに部屋を出た。


 明日夏と尚美は個室を出て、外が良く見える場所を探し、上の階の椅子がある休憩室で休むことにした。そこで、二人は話すことはあったが、ぼんやりと外を見ていた。

「尚ちゃん、寝ちゃったのか。朝、早かったのかな。・・・・・それで、マー君、尚ちゃんは寝ちゃったよ。」

「あっ、はい。さっきは有難うございます。空港の時みたいですね。やはり、尚を見ていると思ったのですか。」

「そうだね、マー君は、他に用事がなければ、尚ちゃんを見守っているよね。」

「そうかもしれません。」

「今はアルバムのミックスを作っているの?」

「はい、CDのマスターを制作していますが、そのチェックとミックスの手直しをしているところです。」

「へー、私が作詞した曲もあることだし、私にも聴かせてくれるか。」

「はい。えーと。」

「もちろん、こっちへきていいぞ。」

「失礼します。あの、イヤフォンを貸してもらえますか。」

「ダコール。」

誠がパソコンにイヤフォンをセットする。

「尚ちゃんのお兄ちゃんだし、もうそんなに気を使わなくてもいいぞ。」

「一応、演者とファンですし。」

「ミサちゃんとは?」

「鈴木さんは、最初にファンになるなと言われて、今でもファンクラブも入っていません。」

「私のファンクラブはまだ入っているんだっけ。」

「それはもちろん。今でも副TOですし。」

「それじゃあ、強制退会。」

「な、何でです?」

「地下アイドルに乗り換えた。」

「乗り換えていません。」

「冗談はともかく、お風呂での感じは、尚ちゃんが心配するような悪い女ではないみたいだったな。」

「アキさんのことですか。はい、一生懸命で周りが見えなくて、わがままに見えることはありますが、悪いという感じではないと思います。たぶん妹は身内を心配しすぎるところがあるんだと思います。」

「まあ、そうだろうね。ちょっと名前が気に食わないけど。」

「アキという名前ですか。」

「マー君は、私の昔の苗字を知っているんだっけ。」

「北崎ですよね。・・・もしかすると昔のあだ名が、明日夏・北崎で、あきだったんですか。」

「その通りだ。」

「なるほど。明日夏さんも、実はあきさんと呼ばれるほうがしっくりくるんですか。」

「どうだろう。呼んでみて。」

「あきさん、左8点回頭(船を左に90度回すこと)です。」

「とーりかーじ。何だ、左8点回頭って。普通、女の子に言うか。」

「なんとなく出てしまいました。でも明日夏さんも、取り舵、で答えていましたよ。」

「そうだったな。まあ小学校の時の話だから、今さらどっちでも構わんがな。」

「では、とりあえず明日夏さんでよろしいでしょうか。」

「まあ、あきさんでは混乱するからな。」

「それでは、先に秋山さん作詞の・・・・・もしかして、『秋山』は『あきさん』だったんですか。」

「その通りだ。さすがだな。」

「それでは、あきさん作詞の曲を流します。」

「頼む。暇ならこのお茶を飲んでいてもいいぞ。」

「それだと間接キスになってしまいますよ。」

「伝染する病気は持っていないから心配するな。」

誠は「ミサさんといいあまり気にしないのかな。断るのは失礼だし」と思って答える。

「有難うございます。頂きます。そう言えば、亜美さんとマリさんが二人で歌った『あんなに約束したのに』もあるのですが、それも聴いてみませんか。そっちの方がアキさんとユミさんの歌より良く歌えていると思います。」

「そうなのか。それじゃあ頼む。」

「分かりました。」

誠は音楽を流しながら、テーブルに置いてあったお茶のペットボトルを一口飲む。聴き終わった明日夏が感想を述べる。

「マリさんとやらと亜美ちゃんの歌は、私が歌っているのよりいいかもしれない。」

「はい、その通りだと思います。」

「相変わらずだな、マー君は。」

「ぶっつけ本番で歌った3回目の編集なしの録音でこれですから。」

「なるほど。」

「声の相性は、この間の亜美さんと鈴木さんのコンビよりも良いと思いました。」

「分かる気がする。それと、アキさんとやらも、結構上達してきているね。これでは私もうかうかできないな。」

「はい、マリさんの指導のおかげだと思います。」

「さすが橘さんの先生、なかなかの実力者ということか。」

「そうだと思います。尚から聞いている橘さんのスパルタトレーニングよりは、マリさんは習っている人が楽しくトレーニングできるようにしているみたいです。」

「しかしそれは、橘さんから聞いているマリさんの印象とはだいぶちがうな。」

「はい、マリさん自身も、昔はきつい顔をしていたと言っていました。結婚してお子さんがいらっしゃって丸くなったのではないでしょうか。」

「それはすごいな。人は変わっていくものなんだ。」

「はい、そうだと思います。」

そのとき、明日夏が誠がテーブルにおいたお茶を一口飲んだ。

「あっ、しまった。マー君は伝染性の病気は持っていない?」

「健康面は、ちょっと太りすぎというのがありますが、伝染はしないと思います。」

「まあ、そうだね。食べすぎには気を付けよう。」

「また妹みたいなことを。」

「尚ちゃんは、厳しいの?」

「70キロを超えると、お菓子を半分取り上げられていました。」

「厳しいな。心配なんだろうが。」

「そうだと思います。」

尚美が起きた、隣に兄がいるのが分かって驚いた。

「えっ、お兄ちゃん。明日夏さん、あのすみません。」

「大丈夫。後ろで尚ちゃんを見守っていたから、私から呼んだんだ。それでアキさんのアルバムの私が作詞した曲を聴かせてもらっていた。」

「そうなんですね。良かったです。」

「それでは、僕はまた後ろに下がっていることにします。」

「その必要もないが、そうした方がいいかな。」

「はい。それじゃあ、尚、パラダイス興行で。」

「分かった。お兄ちゃん。また後で。」

誠が後ろの椅子に下がって作業を再開した。


 マリたちが脱衣所から浴場へ向かうと、少しだけ先に入っていた亜美が声をかける。

「徹君、マリさん、ユミちゃん、こんにちは。」

声をする方を見ると、亜美がいた。

「あら、亜美ちゃん、こんにちは。」

「亜美さん、こんにちは。」

亜美がお風呂からあがって3人のところに行く。

「いっしょになるかなと思っていたんだけど、いっしょになれて嬉しい。」

「徹が寝ちゃったので、私たちだけお風呂に入るのが遅れてしまいました。プロデューサー、アキ姉さん、湘南兄さん、コッコ姉さんはもう上がっています。」

「ユミちゃん、有難う。それは大丈夫。徹君、お姉ちゃんの名前、覚えている?」

「ミーアお姉ちゃん。」

「はい、よくできました。お姉ちゃん、徹君が名前を覚えていてくれて嬉しい。それじゃ、徹君、お風呂に入る前に、お姉ちゃんが体を洗ってあげよう。」

横から見ていたユミが口をはさむ。

「あの、ミーアさん、私がやりますから大丈夫です。」

「大丈夫。ユミちゃんは、先に自分の体を洗って。18日にワンマンライブを控えているんだから、それに備えて湯船でゆっくり休んでいて。」

「それを言うなら、ミーアさんの方が所沢ドームでワンマンライブがあるからずうっと大変ですよね。」

「まだ全然先だし。それに、うちはね、リーダーが全部やってくれるから大丈夫なんだよ。」

「やっぱり、なおみちゃんって、すごいんですか。」

「そうだよ。リーダーがね、自分のことだけじゃなく、私の人気のことも考えて『トリプレット』のパフォーマンスを考えてくれているから。」

「すごいんですね。でも、アキ姉さんもそんな感じか。」

「まだ、ユミちゃんはちっちゃいからね。だから、ユミちゃんは今は休んでて大丈夫だから。」

「ミーアさんにも弟がいるんですか?」

「もちろんいるよ。脳内だけど。」

「そうですか。分かりました。それではお願いします。」

(ユミはオタクではないので、「脳内」の意味が把握できていなかった。)

「それじゃあ、徹君、頭から洗うよ。」

「うん。」

亜美が今までイメージトレーニングで鍛えた通りに体を洗う。ミサは「亜美って子供好きなんだ。私じゃまだ小さな男の子の面倒をみるのは無理かな。すごいな。」と思いながら、その様子を見ていた。


 体を洗い終わると。4人は浴槽につかった。

「マリさん、ユミちゃん、徹君、この方が大河内ミサという、私が本当に尊敬する歌手の方です。」

ミサはマリと言う名前を聞いて、「この人が誠が素敵と言う31歳の人妻か。二人のお子さんを育てながら、やっぱりいろいろすごいのか。」と思いながら挨拶する。

「初めまして、大河内ミサと言います。アニメの歌などを歌うロック歌手をしています。どうぞ、よろしくお願いします。」

マリがミサの姿を見て、「何、この人。顔と体が人形みたい。写真ではここまで分からなかった。まだ若さが残るけど、歌も上手だったし、プロの歌手は二物以上持たないとだめということなのね。」と思いながら挨拶する。

「初めまして、こんにちは。知り合いのパスカルさんとラッキーさんが大河内さんの話をしていて、歌はよく聴かせて頂いています。とりあえず私のことはマリって呼んでください。」

ミサは「誠は私の話をしないのだろうか。」と思いながら答える。

「マリさん、分かりました。よろしくお願いします。」

ユミは「さすが溝口エイジェンシー所属で、プロデューサーとラッキーさんが一番の美人というだけある。けど、今は外見より歌のことを言った方がいいか。」と思いながら答える。

「こんにちは、大河内ミサさん。湘南さんが若手の歌手ならミサさんが一番上手と言っていて、見習わなくてはと思っています。お会いできて光栄です。」

「本当に!有難う。ユミちゃんのオーディションのこと、ナンシーから聞いているけど、立場上応援ができないの。ごめんなさい。」

「溝口エイジェンシーの子役のオーディションのことですか?」

「はい、その通り。」

「オーディションを受けると知ってもらっているだけで、すごく嬉しいですので気にしないで下さい。プロデューサーと湘南兄さん、うちの頭脳みたいな人からアドバイスを受けていますので、それで頑張ります。」

「湘南兄さんって、尚のお兄さんのことですね。知っています。でも、尚も頭が良くて、私たちの頭脳みたいなものだけど、お兄さんもユミちゃんたちの頭脳なんだ。」

「はい。いろんなことに頼れる感じです。」

「そうなんだ、良かったね。がんばって。」

その時、徹が浴槽の中で遊ぼうしてと動くので、亜美がつかまえようとするが、あまり力を入れることができないため、逃げ出して行った。亜美が追いかけると、ユミがそれに続いた。


「お子さん、本当に可愛いですね。」

「有難う。でも最初は大変だったかな。」

「そうなんですか。私のボイストレーナーに橘久美先輩がいらっしゃるのですが、マリさんは久美さんの歌の師匠にあたるんですよね。」

「私のことを聞いているんですね。はい、久美には高校1年生の時に合唱部で歌を教えていました。そうか、そうすると、私は大河内さんのおばあちゃん師匠ということか。」

「まだお若いのでおばあちゃんはないと思います。久美先輩は、マリさんはクラシックの声楽一筋という感じだったのに、二十歳で結婚されたと聞いて驚いていました。」

「それは自分でも全く予想していなかったわよ。19歳の時に知り合って、お互い一目ぼれで、3カ月後にはユミができたことが分かって、その2カ月後には結婚しているなんて。」

「知り合ってから、5か月で結婚ですか。」

「そうなるわね。」

「ご結婚の相手は、何歳でいらっしゃるんですか?」

「学年は同じ。向こうの方が3か月年上かな。」

「学年は同じですか。19歳というと今の私と同じ年齢なんですよね。」

「大河内さんは、いま19歳なんだ。」

「はい、そうです。でも結婚って考えられないかな。」

「私も正志と知り合う一秒前までそうだったから。」

「そういうもんなんですね。」

「そういうもんよ。お互いだと思うけど。」

「それで結婚まで行ったのは、素敵だと思います。」

「有難う。」

「そう言えば、そちらで湘南と呼ばれている尚のお兄さんは、マリさんから見ても元気にやっていますでしょうか?」

「そうね。湘南さんは変化が分かりづらいけど元気だと思うよ。ユミも言っていたけど、うちの重要なブレーン。」

「そうなんですね。良かったです。」

「まあ、上手くやっているとは思うけど、他人の願いを叶えようとして、頑張りすぎるところがあるのが少し心配と言えば心配だけど。」

「マリさんのおっしゃる通りです。あの、まこ、じゃなくて、湘南さんに、もし困ったことがあったら、私に相談して。私にできることは本当に何でもするって伝えて下さいますか。」

「それはいいけど。あの、湘南さんがいい子と思うから、とても失礼なことを言うけど、遊びたいだけなら他の男にしてもらえると嬉しいけど。」

「そんな不真面目なことはしません。」

「そうよね。本当に何でもするって感じがしたし。まあ、久美も、はた目には男をとっかえひっかえしていたように見えたけど、付き合っている間は、一人ひとりに真剣だったから、久美からすると全然遊びではなかったんだよね。きっと。」

「いえ、そういうことではなくてです。」

「でも、ロックシンガーとしての久美の弟子と言うなら、今まで彼氏は何人ぐらいいたの?」

「いません。」

「ごめんなさい。プロの歌手だからそんなこと言えるわけはないわね。」

「そうではなくて、本当に今まで一人もいません。ですから、いつも久美先輩にロックシンガーになるために恋愛をしろって言われています。でも、もし誠と付き合うことがあったら、結婚まで考えて真剣に付き合います。それは約束します。」

「誠って、ああ、湘南さんの本名ね。そうなんですね。湘南さんはそれをご存じなんですか。」

「全く知らないと思います。」

「そうですか。」

「ですので、できれば秘密にして頂けると嬉しいです。」

「分かった。湘南さんにも誰にも言わないわよ。」

「有難うございます。」

「湘南さんとは良く会うの?」

「ほんのたまにだけです。もしかすると、私が尚といっしょに誠に会ったとき、私は誠に一目ぼれだったのかもしれませんが、マリさんの場合と違って、誠はそうでなかったみたいです。」

「本当は、パスカルさんが歳が離れすぎているから、湘南さんはユミの相手にいいかなと考えていたけれど、大河内さんとじゃ全然勝負にならなそうだわね。」

「そんなことはないと思います。思い返すと、3歳の時と10歳の時にも男性に一目ぼれしていたかもしれません。でも、その時はその後何もなくて。今度はそうしたくはありませんし、ユミちゃんに負けないためにも、今は全米デビューに向けて頑張ります。」

「全米デビューか、すごすぎて何も言えないけど、湘南さんに聞いてCDを買って応援する。」

「有難うございます。」

「でも、すぐに一目ぼれするのは、久美に似ているのかな。」

「そうかもしれませんが、好きな人をすぐに変えるということは絶対にないと思います。」

「そうかもね。話していて久美とは違って、そんな感じがする。」

「それに、後で写真が出てきて分かったのですが、3歳の時の好きになった男の子も実は誠だったんです。」

「へー、そんなことがあるの。」

「はい、私も驚きました。その時は偶然会っただけなのに。」

「その時の記憶がどこかに残っていたのかもね。それにしても、何で私にそんな話をしたの?」

「何ででしょう。ナンシーから聞いたのですが、マリさんとアキさんとユミさんの中では、マリさんが二人のお子さんを育てながらも自由な雰囲気を持ち続けて一番素敵な方って、誠が言ってたからかもしれません。」

「あら、湘南さんも嬉しいことを言ってくれるわね。でも、正志、亭主が生きている限りは乗り換えることはないから、それは安心して。」

「はい、それは分かっています。有難うございます。」

「湘南さん、私も良い青年だと思うけど、ミサさんにはどこが良かったの?」

「全部です。」

「まあ恋をするということはそういうものね。」

「そうかもしれません。」

「頑張ってね。」

「はい、それでマリさんに近づくために伺いたいのですが、音楽大学の声楽科ってどんなことを勉強するんですか?」

「発声の基礎から応用の実技の他、音楽の成り立ち、曲ができた時代を勉強して、曲を創った人たちの考えや気持ちを理解して、それを表現したり。いろいろかな。」

「そうなんですね。」

その後も、亜美とユミは徹を追いかけ、ミサとマリが音楽大学でのことを話した後、のぼせる前にお風呂から上がった。


 帰りの車は、パスカルが助手席に座り、つぎに徹を中央にマリの家族、その後ろにアキとコッコが座った。

「やっぱり、湘南ちゃんの隣はパスカルちゃんの方がしっくりくる。」

「一応、湘南とライブを実施する細かいことを話しておこうかと思って。」

「そうか。残り二週間、直接会えるのはあと1回ぐらいだもんね。」

「おう。来週のライブが直接宣伝できる最後のチャンスだ。」

「分かった。頑張るわよ。・・・・・ユミちゃん、元気がないけど、どうしたの?」

「ミーアさんのことが気になって。ママはどう思う?」

「そんなことより、私は今、湘南さんのほっぺたを一発叩きたい気分なんだけど。」

「おい湘南!ユミちゃんに何かしたのか。」

「えっ、ユミさんに変なことはしていないつもりですが。」

「はい、プロデューサー、湘南兄さんに変なことをされたことはありません。」

「私も、湘南はユミちゃんに変なことをしていないと思う。もし、したら許さないけど。」

「アキちゃん、厳しい。」

「私に何もしないのに。」

「そういうこと。」

「ユミさん、有難うございます。アキさん、変な冗談は言わないで下さい。マリさん、申しわけありません。僕が何かしたようなら、謝りますし、できる償いもしたいと思いますが。」

「湘南さんは、悪いことは何もしていないからそれは安心して。どっちかというと、もっとしっかりしろって、ビンタしたいの。」

「しっかりですか。」

「マリちゃんって、もしかしてSM女王?でも、湘南ちゃんがマリちゃんに鞭で叩かれている絵も面白いか。うん、コミケでいけるかもしれない。」

「コッコさん、そういう話はユミさんがいるので。」

「湘南兄さん、私は大丈夫です。それより、私にはミーアさんが徹の見る目の方が気になって。やたら徹の体に触るし。」

「お姉ちゃん、ミーアお姉ちゃん、とっても優しいし、いいお姉ちゃんだったよ。」

「そうだけど。」

誠は「なるほど、マリさんがしっかりしろと言っているのはこのことか。男女反対で考えれば、ロリコン高校生が自分の小さい娘に興味を持っているようなものだし。僕から注意した方がいいのか。女性から注意してもらった方が無難かな。事情に詳しいのは、明日夏さんとナンシーさんだけど、二人とも本人にその成分が全くないというわけでもないから難しいな。」と思いながら答えた。

「分かりました。マリさん。妹にからミーアさんに意見するようにお願いしてみます。」

「はい?」

「えーと、しっかりしろというのは、ミーアさんと徹君のことですよね。はい,何とかするようにしたいと思います。」

「あー、有難う。でも、ミーアちゃんなら大丈夫だから必要ないと思うけど。」

「そうですか。」

誠は「あれ、それじゃあ、何がいけないんだろう。」と考え始めた。そのとき、マリさんから声がかかった。

「湘南さん、『ユナイテッドアローズ』のカラオケをかけられる?」

「はい、かけられます。」

「それじゃあ、ワンマンまで時間がないから、アキちゃん、ユミちゃん、練習をしよう。」

「マリさん、今からですか。」

「そう。車の中でもできるよ。アキちゃんもユミちゃんも大丈夫?」

「私は大丈夫です。」「私もです。」

「それでは、アキちゃん、ユミちゃん、発声練習から。」

誠はマリが自分をビンタしたい理由が全然分からなかったが、それほど深刻なことではないのかもしれないと思いながらカラオケの準備をした。そして、1時間ぐらいアキ、ユミ、マリが歌の練習をした。その後、誠、パスカル、コッコ以外の4人は寝てしまった。

「CDのマスターの方はどうだ?」

「確認を含めても、あと1週間はかからないと思います。」

「そしたら、CDの作成だな。」

「はい、ジャケットやCDの表面の印刷は今からでもできますので、やり始めないと。」

「分かった。バックバンドの『ジュエリーガールズ』を交えたリハーサルがこんどの土曜日だっけ。」

「はい。バンドだけのリハーサルを明後日から二日ほどかけて行うということです。」

「それは頭が下がるな。」

「はい。その通りです。」

「リハーサルの件でアキちゃんとユミちゃんに確認しておかないと。」


 ミサのリムジンも誠たちが出発した10分後ぐらいに出発した。亜美が尚美に尋ねる。

「リーダーと明日夏さんのお風呂はどうでした?」

「最初はリラックスできました。途中からアキさんとコッコさんが入って来て、大変なところもありましたけれど、面白かったです。」

「お話ししたんですか。」

「はい。」

「あと、マー君とも話したよ。」

「えっ、二尉がお風呂にいたんですか。」

「さすがにそれはないよ。4人がブルートゥースイヤフォンを使ってグループトークで会話できるようにしていたから、そのイヤフォンを一つ借りた。」

「そうでした。この前コッコさんに依頼されて、二尉がそんなことを言っていましたね。」

「あとは、私はコッコさんの目が気になったよ。イラストレーターとお風呂に入るのは大変だと思った。参考になる話も聞けたけど。」

「コッコさんは、法律ぎりぎりで攻めてきますからね。」

「ははははは、その通り。でも、ミサちゃんがいなくて良かった。ミサちゃんだと、コッコさんのあの視線には耐えられないんじゃないかな。」

「視線はともかく、明日夏たちは、お風呂の中で誠と話せたんだ。」

「そうだけど、お風呂で話すと開放的になりすぎて、だいぶ余計なことを話してしまったかもしれない。」

「兄が明日夏先輩にいろいろ注意していましたよね。」

「そういえば、そうだった。」

「でも、明日夏先輩も絶対に言ってはいけないことは言ってはいなかったと思います。」

「それは良かったよ。あと、アキさんとやらも、尚ちゃんが心配するほど悪い人じゃないと分かって良かった。」

「明日夏さん、コッコさんの話によれば、それは半分合っていて、半分間違っているかもしれません。」

「亜美ちゃん、どういうこと。」

「アキ曹長は、初めは二尉やパスカルさんを利用しようと近づいてきたみたいです。でも、いっしょに活動するのが楽しくて、その中で二人に影響されて、他の人のことも考えられるいい人になってきたそうです。」

「そうなの。」

「ミイラ取りがミイラになったようなものだそうです。」

「この場合のミイラは、いい人と言うこと?」

「はいそうです。でも、コッコさんにしてみると、曹長に性悪さがなくなって、つまらなくなったそうです。」

「なるほど。マー君とパスカルさんは、性悪女を改心させるほどの最強コンビなのか。」

「そんな感じがします。」

「でも、さすが誠という感じ。私も、誠と出会って自分から前に出れるように変わってきている気がする。」

「それは良いことだけど、ミサちゃんたちのお風呂はどうだった?」

「いい湯だったよ。こっちには、マリさん、ユミさん、あと、ユミさんの弟の徹君といっしょになった。」

「話したの?」

「うん。マリさんと。高校1年生の橘さんの話を聞いたり、結婚のことと、クラシックの声楽の話が聞けて楽しかった。音楽は深いんだなって思った。誠がマリさんを素敵な人と言うのが分かった気がした。」

「体ではミサさんが圧勝でした。」

「亜美、体だけ勝っても・・・・。」

「さすがのマリさんも、ミサさんを近くで見たときは、かなり驚いていましたよ。」

「まあ、私も最初は驚いたからね。」

「でも、明日夏。今は普通だよね。」

「うん。ミサちゃんは、いわゆる脱いだらすごいロックシンガーかな。」

「ふふふふふ、脱いだらすごいロックシンガーか。でも、シンガーの方を頑張らないと。マリさんも、まだ10代だからって言ってくれた。これからをどう過ごすかが大切って。あと、歌の背景をちゃんと考えないといけないみたい。そのために、クラシック音楽では、作曲された時代の社会の様子を勉強するって。」

「そうなんだ。私も頑張らねば。」

「あとは、亜美ってすごい子供好きみたいで、ユミちゃんは遠慮していたけど、徹君の体を洗ってあげていた。でも、亜美、大丈夫だった?」

「はい、イメージトレーニングと違うところもありましたが、なんとかやり遂げました。」

「徹君と言うのは?」

「小学2年生の男の子。ユミちゃんの弟。」

「本物の人間、ホモサピエンス?うーん、厳密に言えば、動物界、脊椎動物門、哺乳網、霊長目、ヒト科、ヒト族、ヒト属?」

「たぶん、そう。」

「それはまた。それで、亜美ちゃんが本当にお風呂で8歳程度のヒト属、雄の体を洗ったの?」

「そうだよ。私じゃとてもできないかな。」

「明日夏さん、徹君の頭からちゃんと奇麗に洗いました。」

「亜美ちゃん!3次元の子供に手を出しちゃだめだよ。」

「明日夏さん、そのぐらい分かっていますよ。心配しないで下さい。」

「明日夏、亜美が大丈夫と言うから、大丈夫じゃないかな。」

「ご家族の方の様子は?」

「マリさんは全然気にしていなかったけど、ユミちゃんは、亜美が徹君といっしょにいるときはすごく不安そうな目で亜美と徹君を見ていて、亜美といっしょに徹君を追いかけていた。」

「亜美ちゃん!尚ちゃんからも何か言わないと。」

「亜美先輩、警察の厄介になるようなことは避けてください。」

「リーダー、分かっています。」

「尚ちゃん、それでいいの?」

「できるだけ自由にするのがパラダイス興行の方針ですから。」

「そうだけど。」

尚美がほくそ笑む。

「ふふふふふ、ユミめ、いい気味だ。」


 誠たちの車は、新宿で3人を降ろした後、パラダイス興行に向かった。パラダイス興行に到着すると、亜美と尚美が出てきた。

「徹君、また会ったね。車の中は面白かった?」

「うん。歌を歌ったりして、楽しかった。」

「そうなんだ。次はお姉ちゃんともいっしょに歌って。」

「分かった。」

ユミが亜美を敵視するような目で見る。それを見た尚美が「いい気味、いい気味。」と思いながら、朝はユミが座っていた車の助手席に乗り込んだ。

「徹君もユミちゃんのワンマンライブに来るの。」

「うん、いくよ。」

「じゃあ、その時また遊ぼう。」

「うん、また遊ぼう。」

「約束だよ。それじゃあ、また。」

「うん、また。」


 その後、誠はマリの家に向かい、3人を降ろした後、辻堂の自宅へ向かった。

「尚、どうだった。」

「楽しかったよ。外に出ると気分が晴れるし、鍋の食材が普段食べるものと違って美味しかった。そっちは?」

「楽しかった。外でみんなで食べると美味しいし。」

「そうだね。亜美先輩のこと心配かもしれないけど、一線は越えないと思うよ。」

「マリさんも心配いらないと言っているので、とりあえず様子を見ることにするよ。」

「ユミは不安そうだけどね。」

「そうみたいだった。あの、別件で、このことは他の人には話さないで欲しんだけど。」

「了解。何?」

「鈴木さんが、キャンプ場の入口で固まって動けなくなっていた。」

「そうなんだ。」

「車で来たから、歩いて道に迷ってパニックになったのかもしれないけど、何かあると、また動けなくなる可能性があるかもしれない。」

「大丈夫だった?」

「うん、ベンチで少し休んだら元気になって帰って行った。」

尚美は「お兄ちゃんを見に行ったのかもしれないけど、動けなくなったというのは何故だろう」と考えながら答える。

「とりあえず動けて良かったけど。美香先輩のことは、これからも注意しておく必要があるということだね。」

「そう思う。」

「分かった。できるだけ見るようにする。」

「有難う。」

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