第26話 ビデオ撮影
シンガポールから帰ってきて、ミサと『トリプレット』の三人がリリースイベントなどで忙しくしている中、今期のリリースがない明日夏は比較的暇にしていた。そして、『トリプレット』のイベントは蒲田たちが担当しているため、悟と久美も時間に余裕があった。また、誠と悟の作曲・編曲は終わっていて、一週間ぐらい前に明日夏に渡していた。ミサと久美が練習室でトレーニングをする中、明日夏が事務所にやって来た。
「社長、社長と尚ちゃんのお兄ちゃんの曲につけた私の歌詞、見てもらえますか?」
「明日夏ちゃん、もちろんいいけど、歌詞を書くのが早いね。」
「歌詞のアイディアはずっとメモしていましたから。」
「ほー、偉いね。」
「へへへへへ。」
「作詞はそれほど得意じゃないけど見てみるよ。誤字脱字ぐらいは直せると思う。」
「有難うございます。」
「でも、社長はこういうお金にならないことばかりをしていたから、この会社の経営が苦しかったんでしょうね。」
「うーん、否定はしないけど、今は明日夏ちゃんたちのおかげでだいぶ余裕ができたから、来年早々にはもう少し広い場所を借りる予定だよ。練習室はだいぶ広くなると思う。バンド編成が5人より多いときは、少し手狭だったから。」
「尚ちゃんたちの練習の幅が広がりそう。」
「うん、広々と練習ができると思う。」
「私も、もっとダイナミックに・・・・・」
「ステージを転がりますか?」
「あっ、尚ちゃん。」
「みなさん、こんにちは。」
「尚ちゃん、いらっしゃい。」「尚ちゃん、こんにちは。」
「二人で、何を話していたんですか?」
「私が書いた歌詞を社長に見てもらっているところだよ。尚ちゃんのお兄ちゃんと社長の曲の。」
「作曲への僕の貢献はほとんどないよ。編曲は協力したけれど。だから、作曲は誠君、編曲は、誠君、平田悟というところかな。」
「作詞は、秋山充年(あきやま みちとし)だよ。」
「明日夏先輩、男性の名前にしたんですね。」
「一応そうしたよ。お兄ちゃんの名前はどうするの?」
「兄の場合は本名でも構わないのかもしれませんが。」
「辻道歌(つじ どうか)は?」
「あー、辻堂ですか。もう授業が終わっているころですので、社長からということで、聞いてみます。」
「お願い。」
尚がSNSで誠と連絡する。
「はい、構わないそうです。それでお願いしますとのことです。」
「これで名前は全部決まった。めでたし、めでたし。」
「曲のタイトルは何ていうんですか?」
「『あんなに約束したのに』だよ。約束をすっぽかされた女の子の気持ちを、少しコメディータッチで書いている。」
「あー、体験に基づいているんですね。」
「最初はそういうのがいいかなと思って。」
「分かりました。練習までまだ時間がありますので、私にも見せて下さい。」
「ダコール。」
二人で明日夏の歌詞を見た後、感想を述べる。
「僕では明日夏ちゃんの感覚にはついていけないところもあるけど、矛盾とかはないし、いいんじゃないかな。誤字脱字もないし。」
「明日夏先輩のオリジナリティを感じる歌詞です。いわゆるアイドルが歌うにはいいように思います。」
「社長、尚ちゃん、有難う。私の初作詞、不合格でなくて良かった。あと、尚ちゃん、練習の後に時間があったら、仮歌用にいっしょに歌ってくれないかな?」
「もちろん、兄の曲ですし、喜んで。」
「じゃあ、尚ちゃん、歌手Yの方をお願い。私はAの方を歌うから。」
「分かりました。」
ミサのボイストレーニングの後、明日夏、尚美、由香と亜美を加えて、6人が練習室でボイストレーニングを行い、無事に終了した。
「久美先輩、お疲れ様。」
「美香、お疲れ。」
「橘さん、美香先輩、有難うございました。」
「橘さん、ミサちゃん、有難う。またね。それじゃあ、尚ちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。それでは仮歌のレコーディング、やっちゃいましょう。」
「明日夏、仮歌って?」
「私が作詞した歌の仮歌だよ。」
「はい、兄と社長が作曲と編曲をした曲です。」
「誠の曲、明日夏が作詞したんだ。」
「うん。作詞ができる人がいないみたいで、作詞の練習用に歌詞を作ってみたんだよ。もちろん、練習と言っても、今の私の全力で作詞したよ。」
「へー、そうなんだ。聴かせてもらってもいい?」
「もちろん。是非、聴いていって。尚ちゃんもいいよね。」
「もちろん、私は構いません。それでは社長を呼んできます。」
「皆さん、リーダー、申し訳ないですが、俺はここで。」
「はい、由香先輩、お疲れ様でした。それでは金曜日の夜のイベント、お願いします。」
「おう、分かったぜ。」
『ピュアキュート』は国民的アニメということもあって、土日に東京以外でイベントを行うため、東京では平日の夜にもイベントをするようになっていた。由香が帰宅し、代わりに社長が練習室に入り、準備を始める。
「橘さん、美香先輩、亜美先輩、これが楽譜です。」
「へー、これが誠の曲か。」
「明日夏さん、全体的に音程が高めだから、私には向いていなさそうですね。」
「歌手Aのパートは、亜美ちゃんでも大丈夫だとは思うけど。」
「そうか二人用でしたね。歌詞が明日夏さんらしくていいです。」
「へへへへへ。」
「明日夏ちゃん、尚ちゃん、こっちの準備はできたよ。」
「了解です。尚ちゃん、歌手Yは小学生だから、思いっきり可愛くだよ。」
「可愛く歌うのは得意ではないですが、やってみます。」
「明日夏ちゃん、尚ちゃん、準備はいいかな。」
「ダコール。」「はい。」
「それじゃあ、インスツルメンタルを流すよ。」
明日夏と尚美が楽譜にチェックを入れながら曲を聴く。
「社長、それではお願いします。」
「尚ちゃん、了解。」
明日夏と尚美が相談しながら2回ほど歌う。歌い終わったところで、ミサが注意する。
「尚が幼く歌うということで、音程がぶれるのはわかるけど、ハーモニーができていないところが結構あって気になった。特にサビのところ。この波線の部分はもう少し素直に歌った方がいいと思う。元気があるのはいいけれど、音程には気を付けて。赤くチェックしたところが明日夏が外しているところが多くて、青は尚が外しているところが多い。あと、明日夏のこのあたりの抑揚をもっと丁寧に。」
「美香先輩、分かりました。気を付けます。」
「ミサちゃん、分かったけど、今日のミサちゃん、何か厳しい。」
「誠が作曲したものだから、ちゃんとした方がいいと思って。」
「ミサちゃん、これは仮歌だよ。本当に歌うのは別の二人だから。」
「でも、プロとしてちゃんとしたところを見せないと、誠に恥ずかしい。」
「そうか。さすがはミサちゃん、何にでも手を抜かない。もっと気を付ける。」
「本当は、その二人の歌を指導しに行きたいけど。」
「さすがに、それは不味いんじゃない。ミサちゃんが行ったらビックリしすぎるというか、ミサちゃんの事務所がいいとは言わないと思う。」
「はい、兄の立場も面倒なことになりそうです。」
「そうか。そうだよね。」
残念そうなミサをみて悟が励ます。
「誠君の曲はこれだけじゃなくて、明日夏ちゃんやデスデーモンズの曲を、今一緒に作っているところだから。その曲に関しては、もしアドバイスをしてもらえるようならお願いしたいけど。」
「ヒラっち、気を使ってくれて有難う。分かりました。明日夏、その時は本気でやるから覚悟してね。大樹や治にもそう言っておいて下さい。」
「ダコール。ミサちゃんに怒られる大輝ちゃんや治ちゃんは見ものだね。」
「明日夏さん、人が悪いですよ。」
「ははははは。」
「でも、美香、昔に比べれば二人とも初見にしては、上手に歌えていると思うわよ。」
「そうですね。はい、それは久美先輩の言う通りと思います。」
「私は、歌詞をつけるために、曲を知っていたから初見じゃないんですか、尚ちゃんは本当の初見だよね。作詞者の気持ちまで分かっている感じで、すごいと思った。」
「頭の中に明日夏先輩を想像して、その明日夏先輩に歌ってもらっています。」
「何かわからないけど、尚ちゃん、すごい。」
その後、ミサの指導が止まないまま5回ほど練習した後、時間が来たため、明日夏と尚美がヘッドフォンをして、一人ずつ歌って仮歌のレコーディングを行い、それが無事終了すると、全員が練習室から出てきた。
「こんなに大変になるとは思わなかった。」
「でも、明日夏先輩、美香先輩のおかげでプロとして恥ずかしくないものができました。」
「それは尚ちゃんの言う通りだね。」
「だけど、明日夏の曲のときはこんなもんじゃ済ませないから。レコーディングのときも一緒させてね。」
「うへっ、アルバム曲でも。」
「そう。」
「はい、仰せのままに頑張るよ。良い仕上がりにしたいし。」
「でも、ミサさん、アイドルの曲も詳しそうでしたけれど、本当にいろんな種類の音楽を勉強しているんですね。」
「えっ、あっ、今度のワンマンライブで『トリプレット』の歌も歌う予定だから、今、勉強しているところ。」
「来週から、私たちもミサさんのワンマンの練習が始まるんでしたね。頑張ります。」
「うん、いっしょに歌うときの歌とダンスは出来上がってきているから、来週までにはちゃんと仕上げる。」
「さすが、何にでも手を抜かないミサさんです。」
「音楽に関してはね。」
尚美が明日夏に話しかける。
「明日夏先輩、大丈夫です。明日夏先輩も、最近は手を抜かないことが増えてきました。」
「えー。せっかく、尚ちゃんから何にでも手を抜く明日夏先輩と言われることを予想していたのに、答えが言えなくなっちゃったよ。」
「分かりました。何にでも手を抜く明日夏先輩です。」
「尚ちゃん、こう見えても私は遊ぶことには手を抜かないんだよ。アニメストーリーの分析とか、ゲーム大会とか。タイピング速度はまた速くなっているから。」
「明日夏さんも、今度のゲーム『タイピングワールド』の大会に出るんですね。」
「もちろん。亜美ちゃんも?」
「はい、いまタイピングの特訓中です。」
「ふふふふふ。対決、楽しみにしているよ。」
「私もです。絶対、決勝まで上がってきてください。」
「亜美ちゃん、大見得をきったね。決勝で楽しみにしているよ。ははははは。」
「ははははは。」
少しの歓談のあと、ミサが帰宅することを告げる。
「あの、みなさん、ごめんなさい。私はもう帰らないと。」
「美香先輩、今日の夜は自宅でアメリカの先生とインターネットを使ったトレーニングですね。」
「尚の言う通り。」
「分かりました。頑張ってください。」「ミサちゃん、またね。」「夜まで大変ね。頑張って。」「また、お願いします。」「いつでも来てね。」
ミサがリムジンで帰ると、悟がコンピュータに向かった。
「それじゃあ、今録音したものをとりあえずミックスするから。聴きたい人は、仕事でもして待っていて。」
悟が作業を開始する。
「橘さん、私にはあまり仕事がないけど。」
「明日夏は『タイピング』の2期のレコーディングの準備があるでしょう。」
「はい、もう準備万端です。」
「あとは、春アニメのコンペの準備もあるんじゃない。」
「そうでした。その原作の漫画を読まなくちゃ。」
「まあ作品を理解するためには必要だけど、漫画を読むのが仕事というのも、いい話だわよね。」
「漫画にも好き嫌いがありますから。」
「それもそうね。もうすぐ曲の準備もできるという話だから、頑張って読んでてね。」
「この漫画は男性向けですが、主人公は女性を裏切らないので結構好きな方です。尚ちゃんは何を読んでいるの?漫画じゃなさそう。」
「明後日の夕方に収録があるテレビの情報番組の台本です。」
「さすが尚ちゃん。」
「でも、情報にちょっと間違いあって、どうしようかと思っています。訂正を求めるのも大人げないですし。」
「尚ちゃんは大人じゃないから、大人げなくてもいいんだろうけど、大人で大人げない人もいるからねー。」
「明日夏の言う通り、中学生に間違いを指摘されると、逆ギレする人もいそうだわね。」
「そんなとき、橘さんは?」
「相手の3倍の勢いでキレる。」
「赤くなるんですか。」
「そうだけど、仕事はなくなるわね。ははははは。」
「でも、社長は笑い事じゃなかったんでしょうね。」
「尚ちゃんのいう通り、あちこちに謝って回ったんだろうね。」
「まあ、そうだったかな。」
「社長には幸せになって欲しいです。」
「それは、明日夏先輩に賛成です。」
「とりあえず、情報で間違っていると思うところと、理由をまとめて書いておいて。悟からということで、スタッフに連絡しておくわ。」
「有難うございます。」
「亜美ちゃんは何をしているの?」
「動画サイトに上げる2曲目のインスツルメンタルを聴いているのと、3曲目以降を選曲中です。次回の練習の後に2曲目を収録する予定です。」
「最初のアップ動画ですが、歌は良かったと思いますが、映像の方をもう少し工夫した方がいいという感じでした。」
「リーダーの言う通り、歌っているところを自分のデジカメで撮っただけでしたからね。」
「はい、歌っているところを撮ること自体はいいと思います。」
「有難うございます。ヘルツレコードとは独立して自分で作っていますから限界はありますが、もう少し工夫してみます。」
「お願いします。」
「そうだ、リーダーのお兄さんとそのお友達の方を呼べないでしょうか。」
「兄とパスカルさんですか。」
「はい。それでビデオの撮り方を教わりたいと思っているんです。アキさんのプロモーションビデオ、アマチュアにしてはできが良かったですし。」
「えーと。」
「亜美ちゃん、尚ちゃんのお兄ちゃんをここに呼ぶつもりなの?」
「はい。もちろん明日夏さんが事務所にいないときに呼びますから、明日夏さんは心配しなくても大丈夫です。」
「そっ、そう。」
「リーダーも、お兄さんたちには、撮影方法を教えてもらうだけで、何回も呼ぶわけではありませんから、心配は要らないと思います。」
「まあ、少年とラスカルなら問題は起こさないように思うけど。」
「橘さん、ラスカルさんでなくて、パスカルさんという話ですよ。」
「分かった、分かった。」
「絶対に、ラスカルって呼びそう。」
「まあ、ラスカルの方がしっくりくるんだよ。」
「後で、社長に聞いてみましょう。それで大丈夫なら兄にも聞いてみます。」
「有難うございます。」
少しして、悟がミックスを完成させる。
「一応できたよ。3つの音源を合わせただけだけど。」
「私が作詞した歌、早く聴きたい。」
「それじゃあ、ボリュームを大きくした方がいいから、練習室で流すか。」
練習室に移動して、聴き終えた明日夏が感想を言う。
「なかなかだね。尚ちゃんとコンビでアイドルデビューしても大丈夫そう。」
「そうですね。由香先輩と亜美先輩が独り立ちした後なら、いいですよ。」
「なるほど。それはいい考えだ。」
「尚ちゃんは、わざと小学生の声を出しているんだよね。」
「はい社長、歌手Yは小学生ということで、発声をあいまいにして舌足らずな感じを出しています。美香先輩に何か言われるかと思いましたが、そのことに関しては大丈夫でした。」
「尚ちゃん、『一直線』でも、今回みたいな感じで歌うのもありかもしれない。」
「もう、ロリコンか、悟は。」
「違うよ、久美。」
「橘さん、ピュアキュートの登場人物が全員小学生だからですよ。」
「えっ、あっ、なるほど、明日夏の言う通りか。」
「社長、善は急げで、とりあえず歌ってみます。亜美先輩、いっしょに歌ってもらえますか。由香先輩のパートは・・・」
「私が歌うよ。」
「明日夏先輩、有難うございます。」
「社長、ワクワクですね。」
「あくまでも、音楽事務所の社長としてね。」
「それでは、社長、カラオケ音源を流してもらえますか。」
「尚ちゃん、了解。」
尚美が小学生のような感じで歌う。
「どうでした。」
「尚のイメージからは離れるわよね。」
「ロリコンではないですか、ロリコンの気持ちが分かる社長、どうでした?」
「『ピュアキュート』のファンには受けるかもしれないね。」
「なるほど、社長個人としては良かったということですね。」
「分かりました。『ピュアキュート』のイベント用に考えておきます。」
「一応、蒲田さんに聴いてから、『ピュアキュート』の担当の反応も確かめておくよ。」『ピュアキュート』は来年夏の劇場版の主題歌のコンペの話も来ているから、事務所としても力を入れて行こうと思う。」
「有難うございます。歌い方に関してはお任せします。劇場版の方もがんばります。」
「お願いね。それじゃあ、仮歌は誠君に送っておくね。」
「有難うございます。でも、仮歌は渋谷から兄といっしょに帰る予定ですので、そのときに渡します。あと、念のため流出しないように、兄に注意するように伝えます。」
「まあ、大丈夫だと思うけど、尚ちゃんから言えば誠君は絶対大丈夫になるかな。」
「何々、尚ちゃんのお兄ちゃんは、尚ちゃんに絶対服従なの?」
「そんなことはないと思いますけれど、裏切らないという意味じゃないですか。」
「そうだね。そう言えば、誠君、結婚は尚ちゃんが許可した相手じゃないとできないとか言っていたな。」
「おー、さすが尚ちゃん。」
「もう、お兄ちゃんは、口が軽いな。」
「まあ男同志の会話だし。尚、仲がいいのはいいことじゃない。」
「そうですけど。」
「でも、少年も大変ね。尚のお目にかなう相手ってなかなかいなさそうだわよね。」
「例えば、尚ちゃんミサちゃんなら大丈夫なの?」
「もちろん美香先輩に不満な点は全然ないのですが、美香先輩がすごすぎて、あまりに不釣り合いですから、兄が苦労しそうなところが心配です。」
「なるほど。尚ちゃんも、妹としての苦労が絶えないね。」
「私も、美香と少年、性格的にはちょうどいいし、音楽の趣味も合いそうだけど、体力が違いすぎるから、少年に夜の疲れがたまって、早死にしそうなところが気になるわね。」
「久美、中学生と高校生がいるんだから。」
「ごめんなさい。悟にはまだ早かったか。」
「そうじゃなくて。」
「まあまあまあ、お二人さん。ところで、尚ちゃん、私なら?」
「だいたい明日夏先輩は、兄にそういう興味はないじゃないですか。」
「そうだけどさ。念のため聞いておこうかと思って。」
「明日夏先輩は悪い人でないことは良く分かっていますが、自宅の部屋の状態を聞いた限りでは、今のところはバツです。」
「うー、厳しい。掃除できないとか。じゃあ、亜美ちゃんは。」
「うーん。オタク話で楽しい夫婦にはなりそうですが・・・・。とりあえず、兄がどうしてもと言えば止めないという感じでしょうか。」
「明日夏さんに勝った。」
「負けた。それじゃあ、地下アイドルのアキさんは。」
「兄を利用しようとしているのが見え見えですから二重バツです。だいたい、アキがいなかったら、こんなことは言い出しません。」
「なるほど。何となく尚ちゃんの考えが分かった。」
「明日夏、私については聞かないの?」
「橘さんですか。尚ちゃんのお兄ちゃんに興味あるんですか?」
「さすがに10歳下だからないけど。一応。」
「分かりました。橘さんは?」
「お酒を控えてくれて、兄が良ければ良いという感じです。」
「酒を控えないといけないのか。じゃあ無理だ。」
「残念です。」
「尚ちゃん、本当はほっとしたでしょう。」
「そう言うわけでは。」
「でも、そうね。そういう話なら、悟の相手は私がチェックしてあげるわ。変な女に引っかからないように。」
明日夏と尚美と亜美が顔を見合わせる。
「それは・・・・・。」「それは・・・・・。」「それは・・・・・。」
「僕は大人だから大丈夫だよ。」
「社長の言う通りだと思います。」「はい、社長なら大丈夫です。」「社長、がんばりましょう。」
「みんな、有難う。」
「それで社長、リーダーのお兄さんの件ですが、アップロードするビデオの映像制作に関して、リーダーのお兄さんとお友達の方をここに呼んで教えてもらおうと思うのですが、構わないでしょうか。」
「誠君とパスカルさんに?」
「はい。二人が作ったプロモーションビデオを見てみて下さい。」
「分かった。」
亜美がアキのプロモーションビデオを見せる。
「そうだね。アマチュアにしては良くできているね。少なくとも僕じゃ作れない。さすが尚ちゃんのお兄ちゃんというところか。それなら、ついでに僕も一緒に聞こうと思うけど、構わないかな。」
「もちろんです。有難うございます。リーダー、お兄さんへの連絡お願いできますか?」
「分かりました。今日帰りに聞いてみます。」
「あと尚ちゃん。バイト料程度ならば払えるけど。うちじゃ基本時給千円だけど。」
「パスカルさんは公務員ですので、バイトはできないと思います。あくまでも、ボランティアになると思います。」
「それなら、誠君に普通の二倍の時給にして、あとは適当にやってもらおう。」
「仕事の形の方がいいわけですね。」
「そうだと思う。まあ、二倍と言っても時給二千円じゃ大したことはないけど。」
「分かりました。兄に伝えておきます。」
「有難う。それじゃあ、誠君に来てもらったとき、明日夏ちゃんとデスデーモンズのアルバム曲の方も相談するかな。」
社長がヘッドフォンを付けて曲の検討に入った。
「悟、何か嬉しそうね。」
「そうなんですか?」
「今まで事務所の経営の苦労が多かったから、少し楽になって、曲制作に係われるのは楽しいんじゃないかな。」
「尚ちゃんのお兄ちゃんと社長と、音楽の方向性が似ているのかもね。」
「性格も似ているところがあるから、それは、そうかもしれないわね。」
「橘さん、リーダー、社長とお兄さんの結婚だったら、許可するんですか?」
「おー、さすが亜美ちゃん。」
「えっ、さすがに考えたこともなかったです。うーん。」
「そうね、時代は本人たちが良いならという感じだけど。」
3人で楽しそうにしている悟の方を見た。
誠と尚美が渋谷で待ち合わせた。
「お兄ちゃん、今日も来てくれて有難う。」
「お疲れ様。」
尚美がUSBメモリーを渡す。
「これに、明日夏先輩が作った歌詞と楽譜が入っている。あとね、明日夏先輩と私で歌った仮歌も。」
「尚と明日夏さんで仮歌を歌ってくれたの。それは仮歌にはもったいないな。」
「一応、流出しないようにお願いね。」
「分かっている。データは絶対に自分の手元からは出さない。」
「ヘルツレコードの新曲というわけではないから、それほど神経質にならなくても大丈夫だけど、お願い。」
「分かった。」
「そうそう、それで由香先輩と亜美先輩が独り立ちしたら、明日夏先輩と二人コンビでデビューしようかって話しをしたんだよ。」
「時々コンビを組むのはいいと思うけど、明日夏さんは一人で歌っても大丈夫かな。尚は経験を活かして、裏方の仕事をメインにした方がいいかもしれない。」
「うん、お兄ちゃんの言うこと分かる。」
「そうだ。今週末の名古屋と大阪のイベント、親がお金を出してくれるというから、見に行くよ。」
「本当に。嬉しい。でも、お兄ちゃん、大学のこととか忙しくない?」
「まあ、情報系の勉強は、ノートパソコンとタブレットがあればできるから心配いらない。」
「すごいね。あと、お兄ちゃんにお願いがあるんだけど。」
「何?何でも言ってごらん。僕にできることなら、何でもする。」
「本当。有難う。亜美先輩の歌ってみた動画を見たことある?」
「もちろん。歌はとっても良かった。」
「動画の方が今一つって感じ?」
「まあ何と言うか。あの動画は、亜美さん自身で制作しているの?」
「その通り。ヘルツレコードとは独立にやっているから。それで、社長がお兄ちゃんとパスカルさんで亜美ちゃんにプロモーションビデオの作り方を教えてくれないかって。」
「僕たちでいいの?」
「うん。お兄ちゃんたちが作っているプロモーションビデオを見て、お願いされたの。バイト代も出すって。うちだと、時給千円ぐらいで大した金額じゃないけど。」
「もちろん、僕はオーケーだよ。バイト代は別にいらないけど。それにパスカルさんは、公務員だから、副業になって受け取れないと思うよ。」
「うん、だからお兄ちゃんに二倍出すって。あとは二人で考えてって。こういうことは仕事の形にした方がいいって。」
「分かった。平田社長さんのいうことも分かる。」
「あと、社長も一緒に受講するって。」
「大歓迎。早速、パスカルさんに聴いてみるね。」
「有難う。」
湘南:こんばんは
パスカル:おう、どうした
湘南:知り合いにお願いしていた歌詞ができましたので、家でチェックしてから送ります
パスカル:それは楽しみだな
湘南:社長さんから仮歌をもらったこともあって、ユミさんの家で練習を見てみようと思います。授業のない平日の午後にやろうと思いますが、パスカルさん平日に時間とれますか?
パスカル:アキちゃんのイベントがない土日は?
湘南:その日は妹のイベントと被っていて
パスカル:首都圏以外のイベントも行くのか
湘南:親がお金を出してくれるので
パスカル:親は心配なんだな。分かった。半日の有休を取って行くよ。まだ12日ぐらい余っているし
湘南:有難うございます。二人の練習日は明日が一番近いですが
パスカル:それじゃあ、明日だな。アキちゃんたちに連絡しておくよ
湘南:有難うございます。ところで、亜美さんのビデオ観ました?
パスカル:おう、見たぞ。歌はさすがと思った。でも言っちゃなんだが、動画は工夫がなくて俺たち以下だな
湘南:亜美さんが独力で作っているそうです
パスカル:そうなのか。できるなら手取り足取り指導したいものだ
湘南:本当に手取り足取りするのは困りますが、妹によると、平田社長さんが、僕たちに動画制作の方法を亜美さんに指導して欲しいということなのですが
パスカル:マジか
湘南:はい、アキさんの動画を見て良かったからだそうです
パスカル:とりあえず、OKと返事しておいてくれ。そっちも半日の有休を使うよ。
湘南:分かりました。時給千円のバイト料を出すとのことですが、パスカルさんは受け取れませんよね?
パスカル:それはそうだな
湘南:それで僕に二倍出すと言っているようですが
パスカル:OK。それじゃあ、そのお金は湘南がアキちゃんのプロデュースするための機材に使ってくれ
湘南:分かりました。あとこの件は、実施まではグループ内にも内密でお願いします
パスカル:仕方がないな。分かった。
湘南:有難うございます
「パスカルさんOKだった。パスカルさんは半日有休を取るって。」
「有難う。それじゃあ、日程を決めないと。」
「来週の亜美さんと社長の日程を聞いて、できるだけそれに合わせる。」
「分かった。」
翌日、パラダイス興行で、尚美がビデオ撮影講習の誠への依頼に関して報告する。
「社長、亜美先輩、パスカルさんと兄は大丈夫ということです。基本的には、撮影がパスカルさん、撮影助手と編集が兄になると思います。」
「有難う。」「リーダー、有難うございます。」
「二人の都合の良い日にできるだけ合わせるとのことで、パスカルさんは半日有休を取ってくるそうです。」
「私は水曜日の午後に授業がないので、そのときが良いですが。」
「兄も水曜日は午後に授業がなかったと思います。」
「尚ちゃん、とりあえず来週水曜日で誠君に聞いてみて。あと、ビデオ撮影のために購入しておいた方が良い機材があれば、連絡するようにお願いできる。」
「はい、分かりました。兄に連絡しておきます。」
「亜美ちゃん、私も参加していい?」
「構いませんが、何で明日夏さんが?」
「だって、リアルの平塚とバールだよ。ちょっと興味あるじゃん。」
「なるほど、明日夏さん、その通りですね。全然気が付きませんでした。」
「えっ、亜美ちゃん、そのために呼んだんじゃないの?」
「違いますよ。歌ってみた動画を良くするためですよ。由香の件で、『パラダイスドリームス』に戻った時を考えて、真剣なんです。」
「なるほど。さすが亜美ちゃん。」
「でもやっぱり、二人の共同作業、興味がないと言えば嘘になります。」
「へへへへへ。」
「ふふふふふ。」
「あー、尚ちゃん、あれはフィクションって分かっているから、心配はいらないよ。」
「分かりました。あの明日夏先輩、私は学校でいませんが、社長もいますし心配はいらないと思います。もし、何かあったら連絡してください。」
「分かったけど、心配は全然いらないよ。」
同日、誠が作曲した新曲の練習のために、夕方の少し前に誠とパスカルがユミの家に行き、ユミとマリに案内されて、ユミの部屋に入った。
「プロデューサーと湘南兄さん、これが女の子の部屋だよ。そんないいものじゃないと思うけど。」
「なるほど、これがリアルの女の子の部屋か。」「有難うございます。」
「いい香りがする。」「ぬいぐるみとかが女の子らしいです。」
「ユミちゃんが、昨日一生懸命掃除して、綺麗になって良かったわ。」
「ママ、そういうことは言わないの。」
「はいはい。」
「本当に初めて入ったよ。女の子の部屋。」
「僕も妹以外の女性の部屋は初めてです。アキさんの部屋の中もこんな感じ何ですか。」
「私の部屋はガンプラとか飾ってあって、もっとオタクっぽいかな。ユミちゃんの部屋の方が女の子の部屋という感じがすると思う。」
「なるほど。」
「ユミちゃん、有難う。それじゃあ、練習を始めようぜ。」
「はい。」「分かったわ。」「はい。」
5人がAV(オーディオビジュアル)ルームに移動する。誠が楽譜を渡す。
「秋山さんが作詞した歌詞は読んできてくれたでしょうか。」
「うん、10回は読んだ。」「はい、湘南兄さん、私も10回は読みました。」
「メロディーは前に送ったものと変わりません。編曲は平田社長のおかげで、だいぶ華やかになったと思います。」
「おう、楽しみだぜ。」
「まずは仮歌といっしょに聴いてみて下さい。申し訳ないのですが、平田社長さんとの約束で、これはお渡しすることはできません。」
「湘南、仮歌を歌っているのは誰なの?」
「明日夏さんと妹です。」
「それはすごいけど、また何で。」
「社長さんと尚が、その時事務所にいた明日夏さんに協力をお願いしたのではないかと思います。」
「そうか。そうよね。」
「ただ、数回しか練習していない状態で録音したので、あまり期待はしないで欲しいそうです。でも、僕が聴いた限りでは、やっぱり上手だと思います。」
「それは、そうでしょうね。」
「一人づつで歌っているものありますが、初めに二人の歌をミックスしたものを聴いて下さい。」
「頼む。」
誠が二人の歌をミックスしたものを流す。
「これがプロの歌声か。」
「こんな感じの歌なのね。」
「でも、なおみちゃんがいつもと違う感じがする。」
「小学生が歌うとのことで、小学生ぽく歌ったとのことです。」
「さすが妹子、確かに小学生のようね。」
「アキ姉さんもそういう声で歌えるよね。」
「まあ、そうだけど。私の方がわざとらしいかな。」
「何回か聴いてみてください。その後、一人ずつ歌ったものも流します。」
二人が口ずさみながら、何回か聴く。
「表現など、分かりましたでしょうか。」
「はい。」「はい。」
「湘南さん、私はだいたい分かりましたから大丈夫です。表現は二人に合わせて少し変えようと思っていますが。」
「分かりました。後はマリさんにお任せします。」
「有難う。今できる最良のものにする。でも、キーを1音上げて、テンポを少し下げてもらえますか。」
「分かりました。・・・・・これぐらいでどうでしょうか。」
「はい、これでお願いします。」
「僕とパスカルさんは邪魔にならないように部屋から出ていようと思いますが、また、リビングをお借りして構わないでしょうか。」
「どうぞ。何かあったら呼びます。」
「分かりました。パスカルさん、リビングでビデオの件を検討しましょう。」
「了解。」
誠とパスカルがリビングに移動し、マリの指導の下、アキとユミが練習を始める。
「パスカルさん、亜美さんのビデオ撮影のセッティング、どうしますか。」
「カメラは全身とアップの2台で撮った方がいいな。あと照明をちゃんとしないと。それと、背景をどうするかだな。」
「そうですね。」
「あと、歌とは別に短めのトークの動画も撮りたいと思う。アップする動画は分けてもいいと思うけど。」
「さすがです。」
「カメラと照明が2セットか。どうやって持っていくか?」
「照明は必要なものを連絡して下さい。平田社長さんに事務所で購入できないか聞いてみます。三脚は1台はあるみたいです。」
「了解。それでだいぶ楽になるな。あとは背景だな。」
「そうですね。」
「実際の背景にするか、グリーンバックにして合成するか。」
「背景用のシートで良いなら楽ですが、それを飾るとなると、何か小物を用意しないといけないですね。」
「ポスターを使うこともできるけど、とりあえず、グリーンバックにして、何か写真と合成することにするか。」
「了解です。写真を何にするか決めないといけないですね。」
「著作権の問題があるから、なるべく亜美ちゃんが撮影したものにするのが無難かな。」
「そうですね。それではライトとグリーンバックの購入のお願いと、亜美さんに写真を選んでもらうことを平田社長に連絡します。」
「頼む。向こうで用意してくれると運搬が楽になるな。用意してもらう機材は、俺が持っているのと同じでいいかな。」
「それで大丈夫だと思います。機材のメーカーと型番を教えてください。ネットショップの値段を調べて、社長さんにメールで送ります。」
「OK。」
誠とパスカルが、購入した方が良い機材の一覧を表計算ソフトで作成して、誠が悟にメールした。少ししてから、悟から購入しておく旨の返事がきた。
「購入しておくそうです。」
「それは良かった。だが責任が重くなったな。」
「その通りですね。頑張りましょう。」
「おう。で、短めのトークだけど、亜美ちゃん、そんなに話し上手じゃないから対話形式がいいんじゃないかな。」
「はい。当日、妹は学校の授業がありますので、相手は由香さんにお願いできるといいかもしれませんね。」
「それも、あとで聞いてみます。」
「とりあえず、由香ちゃんとして、どんな話をするか考えておくか。まあ、無難には10の質問とかかな。」
「はい、それはいい考えだと思います。」
「それじゃあ、質問事項を20ぐらい考えるか。」
「了解です。質問事項がまとまったら、質問事項を送って、由香さんの件、社長さんにお願いしてみます。」
「OK。質問は無難なものにしておこうか。少し面白みにかけるかもしれないけど。」
「二人ともメジャーのレコード会社に所属しているいますから、そうしましょう。あと、事務所で亜美さんと由香さんを呼ぶときは、柴田さんと南さんにした方がいいと思います。」
「まあ、それはそうだな。」
質問を考えたり、社長と連絡を取ったりするうちに、2時間近くが経ち、アキが二人を呼びに来た。
「パスカル、湘南、とりあえず、聴いてみてくれる。」
「おう。」「了解です。」
AVルームに移動する。マリが話しかける。
「完成度はまだまだだけど、方向性は決まったから、聴いてみて。」
「はい。」「了解です。」
アキとユミが『あんなに約束したのに』を歌い、多少音程がずれる時もあったが、歌い終わる。
「どう?仮歌とは曲の解釈を少し変えてみたんだけれど。」
「落ち着いた感じだな。」
「はい、他の曲が元気な曲ですので、この方がいいと思います。でも、すごいです。」
「私はこういう方が得意だし。歌詞がこの方が合っていると思って。」
「ユミちゃんも、いい感じだよ。」
「プロデューサーさん、有難う。」
「アキさんも、ユミさんを支えている感じがいいです。」
「湘南、サンキュー。湘南も最初の作曲にしてはいい曲だと思うよ。」
「有難うございます。でも、これだとアレンジを少し変えた方がいいと思いますので、平田社長さんとまた相談してみます。」
「湘南さんの言う通りだと思う。間奏にストリング(弦楽器)も使いたいところ。」
「分かりました。そのことも相談してみます。今の歌を録音して社長さんに送ろうと思いますが、今から録音しましょうか。」
「もう少しだけ練習した方がいいと思うから、来週月曜日に録音するわ。」
「月曜日ですか・・・・」
「湘南さんは、授業よね。それじゃあ、私に録音の方法を教えて。ミックスはお願いするから。」
「分かりました。パソコンとかありますか?」
「はい、私ので良ければ。」
「そのパソコンに録音用のプログラムをインストールします。マイクなどはここに置いていきます。」
「有難う。頑張って録音するわ。」
誠がマリに録音の方法を教えて、試しにアキが歌ったものを録音して、その日はお開きになった。
水曜日の午後2時少し前に、誠とパスカルがパラダイス興行の建物の前に集まった。
「こんにちは、パスカルさんスーツなんですね。」
「一応、公務員だからな。それじゃあ、いこうか。」
「はい。名前の呼び方の確認ですが、柴田さん、南さんです。」
「おう、大丈夫だ。」
パスカルが事務所の扉をノックして、扉を開けて挨拶する。
「こんにちは、私は小沢健一、通称パスカルというものです。」
「こんにちは、僕は岩田誠、通称湘南というものです。妹がいつもお世話になり、大変有難うございます。」
悟が挨拶を返す。
「パスカルさん、誠君、こんにちは。シンガポールの飛行機では久美がお世話になりました。」
「ラスカル、少年、よく来た。」
「パスカルさん、リーダーのお兄さん、今日はわざわざおいで下さり有難うございます。」
「これはもったいないお言葉を。柴田様に置かれましては、ご機嫌麗しゅう、謁見恐縮至極でございます。」
「あの、パスカルさん、亜美で大丈夫です。」
「それでは、亜美様。」
「じゃあ、亜美ちゃんで。」
パスカルが周りを見渡すと、悟がうなずく。
「それでは、亜美ちゃん、ビデオ撮影は私、編集に関しては湘南が担当します。」
「よろしくお願いします。」
「パスカルさん、亜美ちゃんの他に、僕と明日夏ちゃんが説明を聞こうと思うけど、大丈夫ですか。」
「明日夏ちゃんもですか。もちろん大歓迎です。湘南も構わないよな。」
「もちろん、大丈夫です。」
「パスカルさん、尚ちゃんのお兄ちゃん、よろしくお願いします。リアルのバールさんと平塚さん、楽しみにしているよ。」
「へっ、あっ、はい。」
「期待されても、リアルは違うと思いますが、よろしくお願いします。」
「それじゃあ、湘南、グリーンバックを設置しちゃおうぜ。」
「了解です。」
「あの、パスカルさん、設置するところをビデオで撮ってもいいですか。」
「明日夏ちゃん、全然構いません。それはとってもいい考えだと思います。」
パスカルと湘南がグリーンバックの設置を始めるが、パスカルがケーブルに躓き転びそうになる。
「パスカルさん、危ないです。」
湘南がパスカルを支えたため、パスカルは転ばずに済んだ。
「湘南、サンキュー。」
明日夏と亜美から感嘆の声が漏れる。
「おーーーーー。」「おーーーー。」
亜美が明日夏に尋ねる。
「今のビデオに撮れました?」
「ばっちり。」
「さすが明日夏さんです。でも、これを狙ってビデオを撮っていたんですか?」
「へへへへへ。」
「なるほど、そういう経験では、まだまだ明日夏さんにはかないません。」
パスカルが誠に話しかける。
「どうする。」
「お二人ともメジャーの歌手ですので、変なことには使わないと思います。作業を続けましょう。」
「おう、そうするか。」
グリーンバックの設置が終わって、カメラとライトの設置に入った。
「カメラは全体とアップの2台。顔の高さに合わせたいので、申し訳ないですが、亜美ちゃん、マイクの前に立ってもらえますか。」
「はい。」
「実際に録音するわけではないですので、顔が見えるように少しマイクから離れてください。」
「なるほど。分かりました。」
「アップはこの位置で、全身を映すカメラはこの位置かな。」
「はい、それで大丈夫だと思います。」
「ライトは正面少し下と右斜め上からで。こんな感じかな。」
「そうですね。正面のライトをもう少し強くしますか。」
「そうだな。その方が若々しくなるか。こんな感じか。」
「はい、これでいいと思います。」
「それでは、亜美ちゃん、録音した歌に合わせ、その位置で、できれば正面のカメラを見ながら歌って下さい。」
「はい、分かりました。」
「湘南、正面のカメラをお願い。」
「了解。」
「社長、カメラをスタートしますから、二人が手を上げたら、音楽をスタートしてください。」
「了解。」
二人がカメラをスタートさせ、手を挙げると、悟が音楽をスタートさせ、亜美が歌いだす。歌い終わったところで、カメラを止める。
「まだ、表情が固いです。リラックスするには、どうするか。」
「パスカルさんと尚ちゃんのお兄ちゃんが抱き合えば。」
「明日夏ちゃん、了解です。湘南、こっち来い。」
「またですか。仕方がないです。」
パスカルと湘南が肩を抱いて、見つめあうと、亜美が笑う。明日夏が尋ねる。
「もっ、もしかして、二人は本当にそんな関係なんですか?」
「明日夏ちゃん、断じて違います。でも、何故か女性陣に受けるので、リラックスしてもらうときとかにやっているだけです。」
「パスカルさんの言う通りです。」
「なるほど。本当にいいコンビだね。私はそんなに目が良くないからいいけど、ミサちゃんがこんなのを見た後で、またライブで二人が並んでいるところを見たら、笑って歌えなくなるかもしれない。」
「月末の大河内さんのワンマンライブでは、パスカルさんと僕は席が並んでいますので、大河内さんには、明日夏さんが撮影しているビデオを見せないようにお願いします。」
「まあ、そうしておくよ。」
「有難うございます。」
「あの、パスカルさん、湘南さん、違うポーズでもう一度お願いします。」
「湘南、あのポーズで。」
「分かりました。」
パスカルと誠がコッコの漫画のポーズをとる。亜美が喜ぶ中、撮影を再開する。
「それでは、亜美ちゃん、撮影を再開しましょう。」
「はい、バールさん、分かりました。」
「バールじゃない。社長さん、音楽をスタートしてください。」
カメラをスタートして、パスカルと誠が全く同時に手を挙げると亜美が噴き出した。
「全く同時。」
「あの、亜美ちゃん。」
「ご、ごめんなさい。」
少しして亜美が笑い止む。
「確かに、ライブの座席で二人が見つめあっていたら笑い出しちゃうかもしれない。」
「ライブでは見つめあわないようにします。なあ、湘南。」
「はい、パスカルさんの言う通りです。」
そう言いながら、パスカルと湘南がお互いに背を見せると、また亜美が笑い出す。
「ご、ごめんなさい。でも、シンクロ率120%です。」
「おう、そうか。」
「そんなことはないと思いますが。」
「とりあえず、笑ったままでも録画しよう。そのうち、笑いやむんじゃないか。」
「そうですね。とりあえず、止めないで録画することを繰り返しましょう。それで、パスカルさんは僕が手を上げるのを確認してから、手を挙げてください。」
「分かった。それでは社長さん、僕が手を上げたら音楽をスタートさせて下さい。でも、亜美ちゃんって、アキちゃんより普通の女の子みたいだな。」
「そういうところはありそうですが、やっぱり歌はしっかりしているし、すごいと思います。」
「それはそうだが、その他の部分だよ。もちろん、いい意味で言っているんだけど。」
「そうですよね。アキさんだと、こういう話をすると、すごく軽蔑した目で見られそうですよね。」
「おう、そうだな。」
「あの、パスカルさん、湘南さん。」
「すみません。湘南始めるぞ。」
「パスカルさん、了解です。音楽をお願いします。」
「了解。」
音楽が流れて亜美が歌いだす。今度はリラックスした表情で歌っていた。それを、何回か繰り返して、録音を終える。
「お疲れ様。」「お疲れ様です。」「亜美ちゃん、頑張った。」「亜美ちゃん、お疲れ。」「亜美、笑いすぎ。」
「ごめんなさい。笑いが止まらなくて大変でした。」
「とりあえず、このビデオを編集してみましょう。僕が僕のパソコンで編集しますので、事務所のパソコンで同じことをやって見てください。」
「はい、分かりました。」
誠と亜美が動画ファイル、歌のファイル、バックの画像をパソコンにコピーした。
「参考のために後で見れるように、僕の方は編集過程をデスクトップ録画で録画します。」
「有難うございます。」
「バックの画像は海の画像ですね。それなら、人ももう少し明るくしましょう。調整の方法は後で説明します。」
「はい。」
誠が動画編集ソフトを使って、編集していき、それを亜美が真似をする。
「今回の場合、歌っている音声トラックがメインです。」
「それに、歌っている動画を適切な大きさに切って貼り付けていきます。動画の音声トラックは不要なので、削除します。」
「はい。」
「それでは、このプログラムモニターで見てみましょう。画像と音声がちゃんと合っているか確認して下さい。」
「大丈夫です。」
「もう少し、画像を拡大しますか?」
「そうですね。それが良いと思います。」
「左上のパネルで拡大できます。時間を決めてズームインやパンさせることもできますが、ここでは不要ですので、あとで練習のためにやってみましょう。」
誠と亜美は、プログラムモニターで動画全体を確認した後、1時間ほどで約5分間の動画の編集を終える。
「それでは、亜美さんの方で書き出して見て下さい。書き出している時間で、僕のコンピュータで、ズームインなどをやってみましょう。」
誠の指導でズームインなどを試す。そうしているうちに、書き出しが終わった。
「書き出しに少し時間がかかりましたが、パソコンはGPU搭載のものにすると、書き出し時間が短くなると思います。」
「誠君、お勧めのコンピュータがあったら教えてくれますか?」
「分かりました。予算に合わせて考えます。」
「有難う。それじゃあ、亜美ちゃんのコンピュータをモニターに繋いで、ビデオを見てみましょうか。」
「社長、了解です。」
事務所のモニターに接続して、ビデオを流す。
「なかなか、良くなったね。」
「歌に入る前に、ウインクだよ。亜美ちゃん。」
「そういうのは要らないと思います。」
「なんでだよ、マー君。」
「亜美さんは、将来的に歌手を目指しているのですから、一人で活動するときは、できるだけ、正統派歌手のようにふるまう方が、そのイメージが定着すると思います。」
「うん、俺も湘南の言うことは分かる。亜美ちゃんは声も外見も素材がいいから、正統派で通した方が将来的にはいいんじゃないかと。」
「例えば、アキさんならば、場合によっては、そうやってアピールすることも考えないといけないかもしれませんが。」
「まあな。それは仕方がない。」
「どうせ、私は素材が悪いよ。」
「はい?」
「えっ?」
「明日夏さんは、すごく可愛い声と外見をしていますし、自由な雰囲気でみなさんを楽しませることができるとは思います。」
「そっ、そうか。」
「明日夏さん、二人とも明日夏さんのことは言っていませんでしたよ。アキさんと明日夏さんを間違えないでください。だいたい『あ』と『さん』しか被っていませんし。」
「それは、そうだね。へへへへへ、聞き違えちゃった。ごめんなさい。」
「でも、明日夏さんの場合、ウインクはともかく、自由に動くのはありと思います。」
「なるほど。」
「でも、明日夏さん、私たちは女性ぽくないと言われているわけですよね。」
「おー、そうか。それは許せんな。」
「そういうわけでもないんですけど。」
「俺は、由香ちゃんが一番女性ぽく見える。」
「僕には良く分かりませんけど、パスカルさんがそう言うなら、そうなのかもしれません。」
「だろーなー。」
「由香、余裕。」
「あのな。夢女子、ショタ、腐女子とはちがうよ。だいたい、明日夏さんや亜美と一緒じゃなかったら、こんな単語さえ知らなかったぜ。」
「夢女子が明日夏さんで、私がショタと腐女子ということ?」
「そうだな。」
「まあ、外れてはいないけど。」
「私、夢女子なの?」
「アニメにしか存在しないようなすごいイケメンキャラクターと、深い恋に落ちたいみたいだからですよ。」
「なるほど。由香ちゃん、私を冷静に見ている。」
「明日夏さんは面食いすぎるんですよ。普通の人じゃ全然ダメみたいで。」
「あの、亜美ちゃんは、イケメン嫌いなの?」
「いえ、イケメンは大好物です。」
「あの、亜美ちゃん、メージャーの歌手なのに、イケメンが大好物とか言っても大丈夫?」
「パスカルさん、外では言いませんから大丈夫です。」
「それなら安心。」
「明日夏さんがイケメン好きって言うのは、明日夏さんの副TOとしてはどうですか。」
「僕は大丈夫です。基本的に歌が好きなだけですから。」
「俺もかな。なんで安心して、好きなように言って大丈夫。」
「パスカルさんの言う通りです。ただ、明日夏さんも一般のファンの前では言わないほうがいいとは思います。」
少し不満そうな顔をしている明日夏を見て由香が言う。
「湘南さんとパスカルさん、女心は微妙なんだから、興味がないというのもまずいね。だから二人には彼女ができないんだぜ。」
「はい、由香さんの言うこともわかります。」
「おう、勉強になるぜ。」
「パスカルさん、こういう時に何て言えばいいか、今度、いっしょに検討しましょう。」
「おう。そうしよう。」
「検討するのか!?まあいいか。それにしても、二人の仲の良さは、彼女がいたらマジで嫉妬するレベルだな。それも気を付けた方がいいかもよ。」
「ご忠告、かたじけない。」
「パスカルさん、少し気にした方がいいのでしょうか。」
「でもな、湘南、俺たちに彼女ができる心配の方が杞憂だよ。」
「それもそうですね。万が一彼女ができたら、その時に考えることにしましょうか。」
「湘南の言う通りだ。」
「コッコさんは、パスカルさんと湘南さんと、よくいっしょにいるんですか?」
「亜美ちゃん、コッコちゃんを知ってるの?あー、漫画を見ているからか。はい、いろいろイラストを描いてもらっていて、いっしょにオタク活動をしているよ。」
「はい、明日夏さん、アキさんなどのイラストを描いてもらっています。」
「こいつなんて、大学のBLサークルに引っ張り込まれているし。」
「BLONGに?」
「はい。でも僕がすることは基本的にはゲームのプログラミンで、勉強にもなっています。」
「BLのゲームの?」
「基本的にはそうです。会話生成では、『タイピングワールド』より進んだ技術を使う予定です。」
「へー、それはすごいな。」
「そう言えば、コッコさんが描いた明日夏さんのイラストを見てみますか。」
誠がコッコのイラストを何枚か見せる。
「うめーな。亜美、この間コッコさん、天才とか叫んでいたし。」
「そうですか。それを聞いたら、コッコちゃん喜ぶな。」
「この後には何が続くんですか?」
「えーと、かなり人には見せにくいものなんですが。」
「どんな感じの?ジャンルだけでも。」
「亜美さんは、好奇心旺盛なんですね。コッコさんの趣味と言うより、コミケで販売するための明日夏さんと大河内さんに似た人のゆるゆりです。」
「見たいです。2次元化されているんですよね。似ている人だし、問題ないと思います。」
「では、亜美さんだけに。」
「えっ、私も私に似ている人を見たい。」
「まあ、ゆるいので大丈夫だとは思います。」
誠が画像を見せる。
「やっぱり、絵師さんはすごいです。」
「でも,これはミサちゃんには見せないほうがいいな。」
「それはそうですね。」
「でも、今日、お二人に会って分かりましたが、あの漫画は目の前にパスカルさんと湘南さんがいるから描けるんだと思います。」
「そうですか。」
「これからもコッコさんにネタを供給して上げてください。」
「わっ、分かりました。」
「コッコさん、夜中に男性が雑魚寝している部屋に平気で入ってきたりするので、一応、心配ではあります。」
「BL漫画の前には人間性なんて無意味だ、って言ってるし。」
「橘さんは共感するんじゃないですか?歌の前には人間性なんて無意味だ、というのは。」
「明日夏、歌より先に、恋の前には人間性なんて無意味だ、だよ。」
「なるほど。橘さんの場合はそうか。」
「とすると、恋、歌、人間性の順番ということですか。いえ、もしかすると、今は、酒、恋、歌、人間性の順番かもしれませんが。」
「少年は相変わらず物事をはっきり言うやつだな。だが、やっぱり、恋が先だろう。」
「分かりました。恋、酒、歌、人間性ですね。」
「その通り。」
「いや、橘さん、お願いですから、歌は酒の前に持ってきましょうよ。俺、橘さんの歌、大好きなんですから。」
「嬉しいこと言ってくれるね。ラスカル、そうするよ。恋、歌、酒、人間性な。」
「有難うございます。」
「亜美ちゃんは、BL、ショタ、歌、人間性の順番ではどうなる。」
「明日夏さんは?」
「私は、イケメン、イケメン、イケメン、歌、人間性かな。亜美ちゃんは?」
「ショタ、イケメン、BLは順位が付けにくいです。その後で、歌と人間性かな。由香は?」
「俺か。うーん、人間性、ダンス、歌かな。」
「なるほど。」「なるほど。」
「でも、私、コッコさんの漫画を見てから、結構BLの順位が上がってきているかな。」
「亜美ちゃん、腐っちゃだめだよー。」
「一人腐ると、周りまで腐り始めますからね。怖いです。」
「いや、尚ちゃんのお兄ちゃん、私は腐らない。イケメン第一。」
「さすが明日夏さんです。自由でありながら、意思が強い。」
「へへへへへ。」
「リーダーのお兄さん、コッコさんに、是非またコミケで漫画を出してと伝えて下さい。BLONG、冬コミでも絶対に行くつもりです。」
「でも、亜美ちゃん、申し訳ないけど、そのころはちょうど『トリプレット』の仕事で忙しいかもしれない。」
「あーそうか。それじゃあ、リーダーのお兄さん、申し訳ないですが1冊買っておいてもらえますか。お金はリーダー経由で絶対にお支払いします。」
「はい、では漫画も妹に渡します。いえ、妹は中身を見ないほうがいいですね。」
「おれが郵送するよ。」
「有難うございます。」
「それにしても、俺たちは恋愛対象じゃないということだな。」
「それは、そうでしょう。やはりイケメンの条件は厳しいです。」
「それはそうだな。でも、この中では社長さんはもてたんですよね?」
「えっ、何でですか?」
「社長さん、イケメンですし、ベースが弾けるからです。」
「いや、僕もこの歳まで彼女がいたことがないよ。」
「信じがたいですが、本当だとすると、バンドをやっているからと言ってもてるというわけじゃないのか。」
「まあ、そうだね。」
「それじゃあ、社長さんは、とりあえず俺たちの仲間ですね。」
「それは、その通り。」
「いや、違う。ラスカル、悟はすごいもてていたけどね。」
「橘さんの言うことわかります。理想が高かったんですか?。」
「ジュンと仲良かったかな。」
「ジュンさんというと、作曲を担当していた方ですね。」
「その通り。楽器はギターでね。」
「なるほど。亜美ちゃんが好きな関係だったとかですか?」
「あの、パスカルさん、ジュンさんは交通事故で亡くなられているので。」
「えっ、ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「いや、事故だから大丈夫。それじゃあ、次のビデオ撮影をお願いしていいかな。」
「了解です。ではビデオ撮影に移りましょう。次は質問コーナーのビデオ撮影です。」
「はい、準備してきました。由香もお願いね。」
「任せておけ。」
練習室に戻ってパスカルと誠が準備を始める。
「絨毯を敷いて、座椅子を二つ。」
「テーブルはどうします。」
「小さいやつを二人の間に。飲み物を置いて。」
「マイクもそのテーブルの上ですね。」
「その通り。カメラは、目線の高さで固定して二人の上半身を撮るのと、一台は俺がスタビライザーを使ってカメラを持って撮ることにする。」
「了解です。」
「僕も手伝うよ。」
「お願いします。」
機材のセットが終わったところで、二人に座ってもらう。
「向かって右に亜美ちゃん、左に由香ちゃんで、座ってみてください。」
「はい。」「おう。」
「湘南。画角はこんな感じでいいか。」
「はい、絨毯が曲がっていますので直します。」
「お願い。」
「はい、これでいいですか。」
「大丈夫だ。ではテストで撮影します。」
誠がヘッドフォンを装着した。
「マイクレベルは僕が確認します。」
「それでは、二人で何か話してい見て下さい。」
パスカルが手持ちのカメラで撮影し、誠が音声レベルを確認する。
「湘南、こっちはオーケー。」
「こちらも大丈夫です。」
「亜美ちゃん、由香ちゃん、自己紹介から。ワンカットずつ進めていくし、撮り直しもできるから、焦らなくて大丈夫だから。それでは、さっきと同じで俺が手を挙げたら初めて。」
「サンキュー。」
「監督、有難うございます。」
「監督!・・・。いや、それどころではないな。はい、それではスタート!」
「こんにちは、アイドルユニット『トリプレット』の柴田亜美です。今回は歌じゃなくトークをみなさんにお届けしたいと思います。」
「こんにちは、アイドルユニット『トリプレット』の南由香だぜ。亜美だけじゃトークは不安ということで、俺が来てやったぜ。」
「由香、有難う。」
「どういたしまして。」
「でも、床に座るとリラックスするね。」
「だが、俺はパンツだからいいけど、スカートの亜美は気を付けないと。」
「分かっている。それで、今日は何をするの?」
「おう、俺から十の質問を出すから、それに答えてもらう。」
「変なのはないよね。」
「社長がチェックしていたから、心配はいらない。」
「そうか、じゃあ大丈夫だね。」
「まあ、俺的には少しつまらないところもあるけど、これで亜美の基本が押さえられるぜ。」
「分かった。」
「それじゃあ、質問、行くぜ!」
「どんと来い。」
パスカルが言う。
「はい、カット。チェックするから待ってて。」
「はい。」「おう。」
パスカルと誠がそれぞれチェックする。
「おう、こっちは大丈夫だ。湘南の方は。」
「こちらも大丈夫です。でも、パスカルさんが、由香さんにすわるとスラックスするね、とか言うんじゃないかと思って内心冷や冷やしていました。」
「おう、床に座るとリラックスするね、のところだな。俺も思いついたが、さすがにここじゃ言えないだろう。」
亜美が苦笑しながら言う。
「監督さんは普通はそういうこと言うんですか。」
「亜美さん、それはもちろんです。そして、パスカルぅと言われるまでがセットです。」
「そうなんですね。みなさん、楽しそうですね。」
「でも、亜美、それ面白そうだからやってみるか。」
「えー、由香、やるの?由香もそういうギャグが好きそうだけど。」
「この件は、俺たちじゃ決められないけど。」
「そうですね。もしそのカットを入れるとすると、お別れの挨拶をした最後に入れるといいとは思います。」
「それは湘南の言う通りだ。ただ、入れる入れないの判断は社長さんにお任せします。」
「僕としては二人が良ければ良いけど。」
「でも、社長、ヘルツレコードの方は大丈夫ですか。」
「そうだね。亜美ちゃんがヘルツレコードと独立に動画をアップする許可はもらっているけど、二人になるとまた違うかな。だとすると、トーク自体がそうかな。確認してみないと。」
「お二人が構わないなら撮影だけしておいて、確認して、ダメならばアップしないということでどうでしょうか。」
「分かった。ビデオができたら、僕から連絡しておく。」
「それでは、質問1から始めましょう。」
「了解です。」「分かったぜ。」
パスカルと誠がビデオをスタートさせて、誠が手を挙げたことを確認してから、パスカルが手を挙げる。
「それじゃあ、亜美、第一問だ。」
「OK。」
「7かける4は。」
「しちし28だよ。でも、本当にそんな質問なの?」
「違うよ。」
「もう、真面目にやろうよ。」
「では、第一問、日本の総理大臣は?」
「えっ、安藤?」
「それは、前の総理大臣だな。」
「そうか。今の総理大臣は誰?」
「俺が知っているわけないじゃん。」
「知らないことに不思議はないけど、何で前の総理大臣を知っているの?」
「昨日、リーダーが前の総理大臣がどうこう言ってたからだよ。」
「なるほど。でも、それが質問なの?」
「違うよ。」
「ねえ、真面目にやろうよ。」
「真面目にやんなくちゃいけないというものでもないだろう。」
「そうだけどもさあ。」
「じゃあ、真面目に第1問。」
「本当だよ。」
「分かっている。『亜美の歌ってみたチャンネル』を始めた理由は?」
「これは、ほんとそうね。えーと、私の将来の夢が歌手になることで、たくさんの人に私の歌を知っていてもらいたいからです。」
「アイドル『トリプレット』として人気のあるうちに、みんなに聴いてもらうというわけだな。なかなか、いい便乗商法だと思うな。」
「便乗歌手ね。」
「まあ、アイドルユニットだと、歌だけというわけにはいかないからな。」
「ソロパートもあるけど、みんなで歌うことが多いし。ダンスもあって、歌に集中できるわけではないから。」
「俺は逆に歌のためにダンスに集中できない面もあるから、その気持ち分かるぜ。」
「アイドルは両方必要だから頑張らないといけないよね。」
「おう、歌は亜美にいろいろ教えてもらっている。」
「ダンスは、教室も行っているけど、由香に初歩から教わった。有難うね。」
「サンキューな。」
「これからも、いろいろな歌をカバーしていきたいと思いますので、皆さん、よろしくお願いします。」
「おう、亜美をよろしくな。」
パスカルが叫ぶ。
「はい、カット!!ビデオを確認するから待ってて。」
パスカルと誠がビデオを確認したあと、パスカルが話す。
「ビデオはOK。いや、亜美ちゃん、由香ちゃん、すごい良かったよ。」
「僕もそう思います。練習してきたんですか?」
「はい、二人で練習してきました。」
「やっぱり、プロですね。」
「ああ、やっぱりプロだ。でも、由香ちゃん、次から手振り身振りというか、もう少し手足を自由に動かしてみて。亜美ちゃんは、基本的には普通の感じでお願いね。」
「了解。」「監督、了解です。」
「それでは、第2問の撮影をします。私が手を上げたら、始めてください。」
「おう。」「はい。」
第2問から第10問を無事に撮り終わる。
「じゃあ、次はエンディング。俺が手を上げたら、始めて。」
「おう。」「はい。」
パスカルが手を挙げる。
「10の質問で、亜美のことがだいぶ分かったんじゃないかと思う。」
「私のオタクぶり、バレちゃいましたかね。」
「だろうな。」
「今日も帰ってからアニメ見るのか?」
「うん。録画してあるやつを見ないと。」
「そうだな。それじゃあ、今日のビデオ撮影はこれでお開きにするか。みんな、楽しんでくれたか?」
「楽しんでくれたら嬉しいです。」
「メッセージくれよな。」
「もう少し動画配信に慣れてきたら、生放送をするから、楽しみにね。」
「それは楽しみだな。そのときはコメントで応援するぜ。」
「いや、そのときは、由香も出るんだよ。」
「おお、そうか。じゃあ見れないかな。」
「録画は見れるよ。」
「その時を楽しみに頑張ろう。」
「うん。」
「それじゃあ、次の配信を楽しみにしていてくれ。」
「次は歌の配信になると思うけど、楽しみにしていて下さい。」
「『亜美の歌ってみたチャンネル』、『トリプレット』の南由香と、」
「同じく『トリプレット』の柴田亜美がお届けしました。」
「バイバイ。」
「またね。」
二人が手を振る。
「はい、カット!ビデオを確認するから待ってて。」
パスカルと誠がビデオを確認する。
「こっちはOK。」「こっちも大丈夫です。」
「それでは最後のおまけのシーンだけど、大丈夫かな。」
「はい、大丈夫です。」「おう、やってみるぜ。」
「それでは、スタート。」
パスカルが手を挙げる。
「おう、またカメラが回っている。」
「監督が、NGシーンみたいなものをやれって。」
「了解。」
亜美が由香に膝の上に座る。
「由香に座ると。」
「座ると?」
「スラックスするね。」
「お前、そんな、床の上に座るとリラックスするね、のダジャレのために、俺の膝の上に座ったのか。」
「そう。」
「まあ、いいけどな。それじゃあ、トークの時はまたおれも出るから、みんなまた見てくれ。」
「いいねとチャンネル登録をお願いします。それじゃあ、みんなまたね。」
亜美が由香の膝の上に座ったまま、二人がまた手を振る。
「はい、カット!ビデオを確認します。」
パスカルと誠がビデオを確認する。
「こっちはOKだ。」
「こっちもです。大丈夫です。」
「それでは、みなさん、とりあえず撮影はこれで終了です。お疲れ様でした。」
「これから編集に入ります。万が一の場合は、また撮影するかもしれませんので、セットは後で片付けようと思います。それでは、亜美さん、社長さん、明日夏さん、編集にお付き合いお願いします。」
「分かりました。でも、リーダーのお兄さん、少し疲れちゃいました。」
「少し休憩を入れましょうか?」
「ねえ、亜美ちゃん、疲れたなら編集は私が代ろうか。覚えたらあとで亜美ちゃんに教えてあげるよ。」
「明日夏さん、そうしてもらえると助かります。」
「それでは、明日夏さんと社長さん、さっきと同じ要領で編集を進めていきます。」
「誠君、ぼくもトークの方の編集はいいかな。それより、パスカルさんと、冬のワンマンライブの会場に関して話しているよ。」
「本当ですか。有難うございます。その話と編集が終わってからで良いのですが、『あんなに約束したのに』の歌い方を仮歌から少し変えましたので、アレンジのことで相談したいことがあるのですが。」
「了解。その後で明日夏ちゃんとデスデーモンズの曲についても話そうか。」
「僕は遅くなっても大丈夫ですが、社長さんは大丈夫ですか。」
明日夏が答える。
「社長さんは24時間勤務でも大丈夫ですから。」
「明日夏ちゃんのいう通りなので、その心配はいらない。」
「分かりました。それでは、明日夏さん、パソコンの前に座ってください。」
「了解。でも、二人でパソコンの前に座るとゲームをしたくなるな。」
「今はだめです。」
「はーい。偶然の振りして手とか触ったら、尚ちゃんに言いつけるからね。」
「アニメの見すぎです。それでは、作業に入ります。まずファイルのコピーからです。」
「ダコール。」
「明日夏さん、フランス語ですか?」
「そう。マー君もフランス語知っているの?」
「大学の第二外国語で取っていますが。知っているのは、ボンジュール(こんにちは)、セボーン(これは美味しい)、ジュテーム(あなたを愛しています)ぐらいでしょうか。」
「ジュテーム。マー君、いつからそんな大胆になったの。」
「あっ、いや。そういう意味ではないです。それより進めましょう。」
「どういう意味なんだ。ごまかしたな。・・・まあ進めようか。」
「はい。」
ファイルのコピーが終わって、編集を進める。
「まず、二つの動画のどちらを使うかは後で決めるとして、音声トラックはテーブルに据え置いたマイクを接続した動画のものを使って、パスカルさんの手持ちのカメラで撮った動画を使うときには、音声トラックを削除したものをタイムラインに載せます。」
「うまくできない。」
「えーとですね・・・。」
「ほい。」
明日夏のマウスが空いていることを確認して、誠がマウスを持つと、明日夏の手がかぶさってきた。
「えっ。」
「えっ。マー君の手があるとは思わなかったから。わざとじゃないぞ。」
「はい、分かっています。こちらこそ、何も言わずにマウスを使って。」
「一応、ごめんなさい。」
「いえ、こちらこそ申し訳ないです。」
「何か、逆になってしまったが、まあ作業を続けよう。」
「はい、次からマウスを持つときは、口頭で確認するようにします。」
「わっ、分かった。」
「こんな感じで、タイムラインに置きます。一度、コントロールZで取り消しますので、自分で同じようにやって見てください。」
「こんな感じか。」
「そうです。その通りです。これで、作業が続けられます。」
「有難う。」
作業を続けながら明日夏が話す。
「そう言えば、マー君は辻堂海浜公園を知っているんだよね。」
「はい、家からそんなに遠くないので。」
「子供のころに行ったりはしなかったか?」
「行ったかもしれませんが、小学校5年より前のことは、良く覚えていなくて。」
「私は小学2年生まであそこで良く歌っていたから、もしかしたら、知っているかと思って。」
「申し訳ありません。」
「構わないよ。男の子は小学校のことは良く覚えていないもんだからな。それで、ここはどっちのカメラの画像を使う?」
「パスカルさんの画像を使うのは、基本的に亜美さんがしゃべっているときのアップだけにしようと思います。」
「そうだな。」
それから二人は相談しながらビデオの編集を進め、夕方になる前までに、一応の編集を終え、プログラムモニターで編集結果を確認して、ビデオの書き出しを開始した。すると、尚美がやってきた。
「こんにちは。」
「尚ちゃん、いらっしゃい。」
「お邪魔しています。」
「あれ、亜美先輩は?」
「撮影が終わった後て、疲れたと言って、由香ちゃんと喫茶店に行っちゃった。」
「最初のビデオの編集は、亜美さんにやってもらったので、基本は分かったと思うけど。」
「こっちの方の編集は、私が覚えて亜美ちゃんに教えるよ。」
「有難うございます。」
「パソコンの操作をデスクトップ録画で撮影したから、それでも分かると思うよ。」
「お兄ちゃんも、有難うね。」
「いや、楽しかったから大丈夫。パスカルさんもそうだと思う。」
「ねーねーねー、尚ちゃん、私、尚ちゃんのお兄ちゃんに告白されちゃったよ。」
「いや、尚、そんなことはなくて。」
「お兄ちゃん、大丈夫。明日夏さんがダコールと言ったときに、フランス語の話になって、兄が知っているフランス語の中に、ジュテームが入っていたとかでしょう。」
「尚ちゃん、なんで分かるの?もしかして、私かお兄ちゃんに盗聴器を仕掛けているの?」
「兄に盗聴器を仕掛けても、すぐに見破られます。明日夏さんの場合も、明日夏さんの家の人に見破られると思います。それに、盗聴器は解析に時間がかかりますので、そんな暇はありません。」
「なるほど。いつもダコール、ダコールと言っているから分かっちゃったのね。さすが尚ちゃん。もう少しで書き出しが終わるから、いっしょにビデオを見よう。」
「分かりました。社長とパスカルさんにも挨拶してきます。」
「行ってらっしゃい。」
「社長、パスカルさん、こんにちは。」
「ああ、尚ちゃん。」
「えーと。」
「ここでは、尚、尚ちゃんで、お願いします。」
「尚ちゃん、こんにちは。」
「はい、いらっしゃい。でも、お二人で何を真剣に話していたんですか?」
「『ユナイテッドアローズ』のワンマンライブのホールや構成について、社長さんに相談に乗ってもらっていたんだ。」
「そうなんですね。」
「お金がかかるけど、生バンドにする予定。」
「事務所の手数料は無料にする。それでも、うちのバンドにお金が入るから。」
「まあ、ウィンウィンの関係です。」
「そうだね。」
「社長がいいならば、構いませんが。」
その時、由香と亜美が戻って来た。
「リーダーいらっしゃい。」
「おう、リーダー。リーダー兄とパスカルって、面白いやつだな。」
「そうなんですか。いつも、仲はよさそうですが。」
「それに、本当に頼りになるし。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
「みんな、ビデオができたよ。見てみようよ。」
「はい、分かりました。」
全員がモニターの前に集まる。
「尚ちゃんがきたから、歌うのビデオを先に流すね。その後、トークビデオを流すから。」
明日夏がビデオを順番に流し始める。
「歌もトークも良かったですが、何ですか、最後のは?パスカルさんのダジャレですか?」
「正確には、パスカルさんのダジャレを予測した、リーダーのお兄さんのダジャレです。」
「何か、複雑ですね。」
「パスカルさんが言うんじゃないかと思って、言わないように先に言っただけなんだけど、何か、無駄になってしまったよ。パスカルさんも考えたけど、ここでは、口に出せなかったって。」
「おう。さすがに、みなさんプロだから。」
「なるほど。」
「尚ちゃん、トークに関しては、社長がヘルツレコードに聞いてから、アップするかどうか決めることにしたよ。」
「そうですね。それが無難ですね。」
「でも、パスカルさんと誠君のおかげで、本当にとっても良くなったと思うよ。大手のユーチューバーぐらいの感じはある。」
「やっぱり、素材がいいから。」
「そうですね。由香さんも、話し声がしっかりと通る声で、意外とトークに向いていると思いました。」
「何だ。意外とって。」
「いえ、ダンスに加えてという意味です。」
「そっ、そうか。」
「『トリプレット』のステージでも、もっとトークに参加してもいいように思いました。」
「でも、俺、トークの内容の方が自信ないな。」
「どっちかと言うと、叫んだり、お客さんを煽ったりするのに向いていると思います。」
「ちょっと、やってみるな。」
「それは練習室に行ってからの方が。」
「分かった。」
全員が練習室に入る。
「お前ら、良く来たな。」
「速いです。」
「お前ら、良く来たな。」
「お前ら、の後で、少しためを入れましょう。それで、良く来たな、の方を、少し低い声でお願いします。」
「おう。・・・お前ら、良く来たな。」
「はい、それが基本だと思います。パスカルさん、どう思います?」
「もうちょっと、どすを効かせることがことができれば、もっといいと思うけど。」
「おめーら、良く来たな。」
「それじゃあ、わざとらしい可愛さで。」
「皆さん、よくいらしてくれました。由香、嬉しいー。」
「ドスを効かせて。」
「おめーら、良く来たな。嬉しいぜ。」
「うん、大丈夫。」
「あとは、他の人のセリフを聞いたり、自分で工夫するんじゃないかな。最後に、お前ら、元気ねーぞ、をお願い。」
「おめーら、元気ねーぞ。昼飯食ってねーのかよ。」
「おう、かなりいいね。さすが、プロって感じだな。」
「はい、パスカルさんの言う通りだと思います。みなさん、どうですか。」
「由香ちゃん、いい。」
「パスカルさん、お兄ちゃん、有難う。盛り上げるのに使えそう。」
「パスカルさん、サンキューな。リーダー兄、間は大切だな。」
「それと、トークの時の視線、表情、身振りも工夫していくといいと思う。」
「おう、それはダンスでも大切だからな。」
「由香さんをメインに、セリフの多い曲も取り入れていくといいと思いました。」
「うん、誠君の言う通りだね。ヘルツレコードの担当と相談しておくよ。」
「歌で俺がセンターか。」
「はい、由香さんに合ったセリフが必要ですが。」
「まあ、そういう曲があっても気分転換になるかもな。」
「おめーら、良く来たな。」
「明日夏さんは、自由な感じでギャグとしてならありだと思います。」
「ギャグとしてか・・・・。」
「平田社長、さっきお話した、こちらで仮にレコーディングした『あんなに約束したのに』を聴いてもらえますでしょうか。」
「感じを変えたんだったね。もちろん。」
「おお、私も聴きたい。」
「明日夏さん、仮歌、有難うございました。作詞した人のことは、まだ、グループの方には話していませんので。」
「パスカルさんならいいよ。」
「パスカルさん、秘密にしておいてもらえますか?」
「もちろん。何だか分からないけど、公務員だから口は固い。」
「はい、作詞家の秋山充年というのは、実は明日夏さんだったんです。将来作詞家になりたいということで、練習用に作詞してもらいました。」
「練習と言っても、今の全力で作詞したよ。」
「そっ、そうなんですか。それは有難うございます。すごく素敵な歌詞でした。湘南、だから、明日夏ちゃんが仮歌を歌ってくれたんだ。だったら、やっぱり歌ってもらった仮歌通り歌った方がよかったんじゃないか。」
「でも、マリさんの方もありだとは思います。とりあえず聴いて下さい。あっ、あの、歌手はアマチュアですので、そこは気にしないで下さい。」
「分かった。それじゃあ、誠君、聴かせて。」
誠が、マリさんが火曜日に録音したものを流す。
「こんな感じなんですが。」
「アイドルの曲からは離れたけど、すごいいいと思うよ。明日夏ちゃんは。」
「うーん、作詞者の想像を超えて、もっと作詞者の気持ちを表している。」
「明日夏ちゃん、それが音楽の面白いところだよ。」
「社長の言う通りです。ことろで、そのマリさんというのは?」
「小学生の新しいメンバーのユミさんのお母さんです。曲の解釈を変えたと言っていました。」
「解釈を変えたというと、クラッシック出身。」
「はい、音楽大学の声楽科でソプラノをやっていたと言っていました。」
「なるほど。そんな感じもする。久美はどう思う。」
「いいと思うよ。この感じなら、明日夏が一人で歌うこともできそう。」
「そうだね。ライブなどで使ってみてもいいかも。ただ、確かに誠君の言う通り、編曲は手直しをした方がよさそうだね。それじゃあ、早速、やってしまおうか。」
「はい、お願いします。パスカルさんはどうします?」
「俺は、今から帰ってワンマンライブの方を詰めるよ。」
「そうですか。それでは、次はレコーディングですね。」
「おう、その時また。皆さん、今日は有難うございました。いろいろ、勉強になりました。プロのレベルが分かりました。」
「こちらこそ、有難う。では、また。」「また、リーダーのお兄さんと来てください。」「またな。」「今度は、酒を持ってこい。そしたら、悟と一緒に飲もう。」「尚ちゃんのお兄ちゃんをよろしくね。」
「分かりました。それでは失礼します。」
パスカルが出ていくと、誠と悟が編曲について話を始めた。由香と亜美はその後少しして帰宅した。明日夏が仕事の漫画を、尚美が台本を読みながら話す。
「さすが、尚ちゃんのお兄ちゃん、今日はビデオ撮影と編集、すごく勉強になったよ。私も動画サイトのチャンネル、開こうかな。」
「『明日夏の明日からチャンネル』とかですか?」
「明日できること今日するな。明日から始めよう明日夏チャンネル!って。違うよ尚ちゃん。」
「では、『明日夏の2次元への扉』とか。」
「神田明日夏が解説する、深く甘美な2次元の世界。」
「問題は観る人の数ですが、そのテーマで本当にやるなら、継続的に頻繁にアップすることが大切だと思います。」
「尚ちゃん、それは無理だね。」
「それなら、止めておいた方がいいと思います。」
「パスカルさんと尚ちゃんのお兄ちゃんを雇えば、できるかもしれないけど。」
「明日夏先輩は、亜美先輩と違って既にメジャーの歌手として活動していますので、兄はきっと今の活動に集中した方がいいと言うと思います。」
「そうか。そうだよね。売れなくなったらお願いすることにしよう。」
「その時は、私からお願いしてみます。」
「ありがとね。」
「どういたしまして。」
その後、尚美と誠は、初めてパラダイス興行から帰宅の途についた。
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