第25話 海外ライブ(後編)

 今回のライブは、イベント参加者ならば誰でも参加することができるもので、基本的にはイベントの客寄せのためのライブである。会場は大きなコンベンションセンターの一部を仕切って作られている。前日はトークショーや日本人ゲストを交えたコスプレショー、今日の午前中はリハーサルが行われていた。観客席には折りたたみ椅子が並べられていて、自由に座って良いことになっている。普通のライブと異なり、演者が登壇する順番と時間が発表されていて、一人の歌手または一組のユニットが20分間歌い、出入りのために10分の休憩時間を繰り返す形になっている。ただ、最後のミサだけ30分の持ち時間である。客によっては聴きたい歌手だけ聴いて会場から出て行ってしまうこともある。そして、ライブは午後1時半に始まって、4時半に終了する予定である。昼食を済ませた誠たちは、ライブ開始1時間前にライブ会場に入場した。前8列ぐらいまで客が入っていた。

「1時間前なのにまあまあ入っているな。」

「時間にはフルに入ると思いますので、アキさんとコッコさんは中央に面した通路側が見やすいと思います。」

「うん、そうするわ。」

「私は湘南ちゃんとパスカルちゃんの後ろで。」

「分かりました。」

「セロー君とタック君の仲間が一番前の席にいるね。」

全員が席に荷物を置いて、セローとタックの方に向かった。

「セロー君、タック君、こんにちは。」

「あー、ラッキーさん、みんな、こんにちは。」

「ラッキーさん、みなさん、こんにちは。湘南さん、お勤めご苦労様です。」

タックと周りの数人が頭を下げた。

「湘南君、リハーサルの音が外からも聴こえたけれど、明日夏ちゃん、今日も可愛かったよー。」

「湘南さん、『トリプレット』の方もバッチリです。」

「湘南、なんか反社会組織の組長みたいね。」

「でも、楽しみだね。最高のライブを期待しようぜ。」

「パスカルさん、もしかして昼から飲んでいます?」

「おう、久しぶりに酒粕パスカルに戻っているぜ。」

「パスカルさん、基本が20分ずつの出演で、形が地下アイドルの公演に近いですから、見ておいた方がアキさんのライブの参考になると思います。」

「そっそうか。湘南のいう通りだな。ライブが終わるまで飲まないよ。」

「私も見なくちゃだけど、パスカルも頼んだわよ。」

「おう。」

「あの、タックさん,いつも有難うございます。公開されてご存じと思いますが,妹は10月からクイズ番組と情報番組にレギュラー出演します。」

「はい,もちろん知っています。」

「レギュラーでない番組への出演も決まってきているようですので,ヘルツレコードのホームページやSNSをチェックしてもらえばと思います。」

「分かりました。」

「由香さんの方も,ダンスのイベントへの参加が発表され,亜美さんの歌の動画サイトのチャンネルができましたが,これからみんなが本当に忙しくなると言っていますので、二人の応援もお願いします。」

「もちろんです。亮,大河もいいな。」

「了解。」「言われなくても分かっています。」

「これからの楽しみができました。湘南さん,有難うございました。」

「タック,12月ごろに私のワンマンライブをやって,『トリプレット』の曲も歌うから,時間があったら来てね。」

「アキさんでしたっけ。時間に余裕があるようだったらお邪魔しようと思います。」

「余裕は作るもの。」

「はっ、はい。」

「こう見えても、なおみちゃんとはポジションを争った仲なんだよ。」

「本当ですか?レベルがだいぶ違うように見えますが。」

「タック!普通はもう少し遠慮して言うんじゃないの。パラダイス興行のオーディションを受けた時に、3人組のアイドルユニットのリーダーを探していると言っていたから、間違いないわよ。まあ、私はオーディションで落ちて、なおみちゃんはオーディションなしで湘南と一緒にいるところをスカウトされたわけだけど。」

「それなら納得できます。」

「だから、よろしくね。」

「はっ,はい。」

「それじゃ、タックまたね。」

「また、お願いします。湘南さんも、なおみちゃんのこと、よろしくお願いします。」

「はい、疲れが溜まっていないかチェックするようにしています。セローさんも、明日夏さんの応援、お願いします。それでは、また。」

「湘南君、またー。」

「おう、セロー、タック、またな。」「また。」「また、イベントで。」


 5人が席に戻った。誠がアキに話しかける。

「『トリプレット』の春の件,黙っていてくれて有難うございました。」

「それはもちろん,私もプロを目指しているんだから。」

「アキちゃん,『トリプレット』の春の件って何だ?」

「飛行機で橘さんが言ったこと覚えていないの?」

「ない。」

「それじゃあ、来春の『トリプレット』をお楽しみに。」

「そうか。まあ,楽しみがあるということが分かっただけでも、いいことだ。」

「そうそう。」

5人はライブが始まるまで,おしゃべりをしながら待っていた。


 いよいよ、ライブが始まろうとしていた。客席はほぼ埋まり,長居しないつもりなのか少し空いている席に座らずに立ち見をしている客もいた。明日夏が尚美たちに話しかける。

「トップバッターは尚ちゃんたちだね。」

「リーダー、女の子3人で元気なところが会場を温めるのにいいんでしょうか。」

「私たちは追加で入ったので,元々のスケジュールの前に加えたんだと思います。でも,亜美先輩の言う通りで,元気いっぱいに会場を温めましょう。」

「はい,わかりました。」

「ラストはミサちゃん。」

「美香先輩の圧倒的歌唱力が、ライブを締めるのにはピッタリなんだと思います。」

「でも、亜美ちゃん、中盤に出る私は、笑いをとらなくちゃいけないから大変なんだよ。」

「明日夏先輩,笑いをとらなくていいですので、普通に歌ってきてください。」

「明日夏らしく、自然にやればいいと思うよ。」

「ミサちゃん、尚ちゃん、大丈夫。普通に自然にやるから。」

何となく不安になるミサと尚美だった。『トリプレット』に呼び出しがかかった。

「尚ちゃん、行ってらっしゃい。」「尚、舞台袖で見てるから。」

「それでは、行ってきます。」


 ステージがまだ暗い中,『トリプレット』が配置につくと,『ペナルティーキック』のカラオケ音源が流れ始め,照明が灯り,『トリプレット』のパフォーマンスが始まった。明るく元気な雰囲気の中,無事にパフォーマンスを終えると,尚美が英語で話し出した。

「Hello everyone, we are Triplet, an idol group singing songs for anime. We are so happy to see you. We sang "Penalty kick". In the song, a girl kicks her cheating boyfriend. You may think this song is radical. But some of real Japanese girls are more radical. Please not be a cheating boy if you have a Japanese girlfriend. If not, you may fall into the river. It is an important advice from Triplet. Now, we will introduce our members. For the first, Yuka-senpai, please introduce yourself.(みんなさん、こんにちは、私たちはアニメの歌を歌うアイドルグループ、『トリプレット』です。みんなに会えてとても嬉しいです。私たちは『ペナルティーキック』を歌いました。この歌の中で、女の子が浮気するボーイフレンドをキックしています。みなさんはこの歌を過激と思うかもしれません。しかし、日本の女の子の中にはこれより過激な場合があります。日本の女の子をガールフレンドにしたら、浮気するボーイフレンドにならないで下さい。そうでないと、川に落とされます。これは『トリプレット』からの重要なアドバイスです。さて、私たちのメンバーを紹介します。最初に由香先輩、自己紹介をお願いします。)」

「おっ,おれか。アイアム ユカ。アイ ライク ダンシング。サンキュー。」

「Yuka-senpai, thank you very much. Next is Ami-senpai. Could you introduce yourself.(由香先輩、有難うございます。次は亜美先輩。自己紹介をお願いします。)」

「イェス、アイアム、アミ。アイ ライク シンギング。サンキュー。」

「Ami-senpai, thank you very much. My name is Naomi Hoshino. I am in charge of the leader of Triplet. However, each of three members plays a role of the center of Triplet utilizing her own advantage. Yuka Minami-senpai is very good at dancing and she is the dance center of Triplet. Ami Shibata-senpai is very good at singing and she is the vocal center of Triplet. Because my advantage is that I am cheerful, I am the cheer center of Triplet. Here, Yuka-senpai shows a dance performance. We hope you know her dancing ability. (亜美先輩,有難うございます。私の名前は星野亜美です。私は『トリプレット』のリーダを務めています。しかしながら,3人のメンバーそれぞれが,各メンバーの得意な点を活かして,センターの役割を果たします。由香先輩はダンスが得意で,『トリプレット』のダンスセンターです。亜美先輩は歌が得意で,『トリプレット』のボーカルセンターです。私の利点は元気なことですので,チアセンターです。ここで,由香先輩がダンスパフォーマンスを披露します。彼女のダンスする能力を分かってもらうことを望みます。)それでは由香先輩お願いします。 」

「おう、みんな手拍子よろしくな。」

「We would like to ask you to help Yuka-senpai by hand clapping. OK? Let's start clapping hands.(由香先輩のために手拍子をお願いします。よろしいですか?手拍子を始めましょう。)」

手拍子が始まり、由香がダンスパフォーマンスを披露する。パフォーマンスを終えると、観客が盛大に拍手をした。

「サンキュー。」

「Thank you very much for your hand clapping and applause. We are pleased if you understand Yuka-senpai is a wonderful dancer. The next song is "Watashi no pasu wo suru shinaide", "Please do not ignore my pass." This is the theme song of anime "U-18". In this song, you can also enjoy the wonderful footwork of Yuka-sennpai. Ready! Start music. (拍手と声援有難うございます。由香先輩が素晴らしいダンサーと分かってもらえれば嬉しいです。次の歌は『私のパスをスルーしないで』,私のパスを無視しないでです。この曲はアニメ『U-18』のテーマソングです。この曲でも,由香先輩の素晴らしいフットワークを楽しむことができます。用意,音楽スタート。)」

会場に『私のパスをスルーしないで』のカラオケ音源が流れ始め,由香が見事な足さばきを見せる。

「Thank you very much. The song was "Watashi no pasu wo suru shinaide". Because Yuka-senpai has good athletic nerves, all passes from us were ignored. The next song is "Zutto suki". The meaning is "I love forever". By the song, you can recognize and enjoy Ami-san's wonderful voice. Ami-san, are you ready? (有難うございます。歌った曲は『私のパスをスルーしないで』です。由香先輩は良い運動神経をしていますので、私たちからのパスがすべて無視されてしまいました。次の曲は『ずっと好き』です。その意味は,永遠に好きです。この曲で,亜美先輩の素晴らしい声を分かって,楽しんでもらえると思います。亜美さん,準備できていますか?)亜美さん準備はオーケーですか?」

「はい、大丈夫です。」

「Ok. Music start.(それでは,音楽スタート。)」

会場に『ずっと好き』のカラオケ音源が流れ,亜美が力強く歌い始め,パフォーマンスが始まり、無事に終える。

「Thank you very much. We sang "Zutto Suki", "I love forever". Because Ami is a high school student and I am a junior high school student, our schedule in Singapore is very tight. However, we went sightseeing in the afternoon yesterday and enjoyed Singapore. (有難うございます。『ずっと好き』,永遠に好きを歌いました。亜美先輩は高校生,私は中学生なため,シンガポールでのスケジュールは非常にタイトです。しかしながら,昨日の午後,観光に行って,シンガポールを楽しみました。)由香先輩、シンガポールでは何が一番印象に残りましたか。」

「えっ、えーと。」

「由香先輩は食いしん坊ですから、朝食のブッフェとかですか。」

「おう、そうそう。中華、日本、東南アジアの料理があって、すごく楽しめた。東南アジアの料理は初めてだった。」

「Yuka-senpai was most impressed by the buffet for breakfast because she could enjoy Chinese, Japanese, and East-Asian foods. It is the first time for Yuka-san to have East-Asian foods. (由香先輩は,中華,日本,東南アジアの料理を楽しめたため,朝食のビュッフェにもっとも印象づけられた。由香先輩は東南アジアの料理を食べるのは初めてだった。)亜美先輩は?」

「アイ ライク マーライオン。」

「Which part of Merlion was you impressed most.(マーライオンのどの部分が最も印象的でしたか。)]

「はい?」

「マーライオンのどこが印象的でしたか?」

「可愛いところ。」

「Ami-senpai said Marlion is very cute so that she love it.(亜美先輩は,マーライオンがとても可愛くて好きだと言いました。)」

「リーダーはシンガポールのどこが良かったですか?」

「I have been impressed by this "Enjoy Animation" most. Many people gather here and enjoy the festival of animation. Many people including young boys and ladies come to the booth of "U-18", and enjoy the exhibition and goods of "U-18". Actually, we went to the booth and I bought a special poster for "Enjoy Animation". Ami-senpai bought many goods. How many goods did you buy at the booth for "U-18"? (私は,エンジョイアニメーションが最も印象深かったです。若い男の子と淑女の方々が『U-18』の展示や商品を楽しんでいました。私もブースに言って,エンジョイアニメーション用のスペシャルポスターを買ってきました。亜美先輩はたくさんグッズを買っていました。亜美先輩,『U-18』のブースでグッズを何個買いましたか?)亜美先輩、『U-18』のブースでグッズを何個ぐらい買ったんですか?」

「アイ バイ イレブン グッズ。」

「Oh! eleven. Is this because this is an animation of a football game? (おー,11個!サッカーアニメだからですか?)サッカーだから11個買ったんですか?」

「イェス。」

「Ami-senpai loves "U-18" very much.(亜美先輩は『U-18』が大好きです。)」

「イエス。アイ アム ハッピー ビコーズ アイ キャン シング 『U-18』。」

「We published an announcement about us last week. Do you know?(先週,私たちに関するあるアナウンスがありました。知っていますか?)」

会場から、Yesという返答が返ってきた。

「Our song "Icchokusen" will be decided as the theme song of the anime "Pure Cute". "Pure Cute" is an anime about magical girls. They fight against enemies of human beings. The target viewers of "Pure Cute" are young girls and gentlemen. They are the opposite of "U-18". And "Icchokusen" means a straight line. Its short version was published last week. I play the role of the center for "Icchokusen" for the first time. Here, we will sing the full version of "Icchokusen" for the first time. I am a little nervous. Please cheer us up by your hand clapping or your voice. We wish our thought of thanks flies to your heart in a straight line. Ok, the next is the last song of Triplet, (私たちの曲『一直線』はアニメ『ピュアキュート』のテーマソングに決まりました。『ピュアキュート』は魔法少女のアニメです。彼女たちは,人類の敵と戦います。『ピュアキュート』視聴者ターゲットは,若い女の子と紳士の方々です。これは,『U-18』の逆ですね。『一直線』は直線を意味します。そのショートバージョンは先週公開されました。『一直線』では,初めて私がセンターを努めます。そして,ここで初めて『一直線』のフルバージョンを歌います。私は少し緊張しています。どうぞ,手拍子や声で元気づけて下さい。私たちの感謝の想いが皆さんに一直線に届くことを願っています。オーケー,次の曲が私たちの最後の曲です。)」

日本と同じように「えー」という声が会場に響いた。

「"Icchokusen". Start music.(『一直線』,音楽スタート。)」

『一直線』の伴奏の音楽が流れ,可愛く明るいパフォーマンスを無事に終える。

「Thank you very much for listening. The song we sang is "Icchokusen", the theme song of "Pure Cute". Because we would like to enjoy Singapore and sing more songs in Singapore, we would like to come back to Singapore. For the purpose, I would like to ask you to support Tripplet. Thank you very much again. (お聴きくださり有難うございました。歌った歌は『一直線』,アニメ『ピュアキュート』のテーマソングです。シンガポールを楽しみ,シンガポールでもっと歌いたいから,私たちはシンガポールに戻ってきたいです。そのために,『トリプレット』への応援をお願いします。有難うございました。」

尚美が由香の方を見る。

「アイム ユカ ミナミ。アイ ラブ ユー。」

「アミ シバタ。アイ ラブ シンガポール。」

「I am Naomi Hoshino of. (私は,星野なおみ)」

尚美が由香と亜美の方を見て,同時に叫ぶ。

「Triplet(『トリプレット』)」「『トリプレット』」「『トリプレット』」

「We will come back to Singapore. Please wait for it. Thank you very much!(シンガポールに戻ってきます。どうぞ,待っていて下さい。有難うございました!)」

「サンキュー」「サンキュー」

『トリプレット』が舞台袖に下がり,会場は休憩時間になった。明日夏とミサが出迎える。

「尚ちゃん,初めての海外公演なのに完璧。」

「本当にそう。私も頑張らなくちゃ。」

「私たちは,3人いますから,やっぱり気が大きく持てます。」

「由香ちゃんと亜美ちゃんの英語も良かったよ。」

「おれは、アイ ラブ ユーぐらいしか言ってないけどな。」

「由香,もしかして、あれは客席に居た豊さんに言ったの?」

「おお,分かったか。さすが亜美。」

「いや,由香,自重しようね。本当に。」

「分かってるって。大丈夫だよ。」


 一方タックたちの席では。

「タックさん,新曲良かったですね。」

「おう,なおみちゃん,初めてセンターなのにバッチリ決めていた。」

「『ずっと好き』の亜美ちゃんも,良くなっていましたよ。」

「それも,亮の言う通りだ。由香ちゃんのダンスパフォーマンスは安定していた。」

「そうですね。」

「それにしてはタックさん,元気がないですね。公演が終わったからですか?これから,『トリプレット』のリリースイベントが続きますよ。日本に帰っても頑張らないと。」

「分かっている。もちろん,全通するつもりだ。ただ,こんなに近くで『トリプレット』を見ることはできなくなるかもしれないと思って。」

「テレビのレギュラー出演も決まっていますから,そうなるかもしれませんが,タックさんらしくもない。そうなるのが俺たちの夢でしょう。俺たちは,できることを全力で応援すればいいんです。」

「大河の言う通りだな。よし,日本に帰っても頑張ろうぜ。」

「おう!」「おう!」

 アキが誠に話しかける。

「なおみちゃん,英語,完璧だったわね。」

「そうですね。小学生のころから頑張っていましたから。でも,アキさんも英会話教室は行っていたんじゃないですか。」

「えっ,分かる?」

「すごく立派な家庭ですから。」

「まあね。でもあまり勉強しなかったわ。今,小学生に戻れるなら,本当に頑張って勉強するのに。」

「そんなことを言っていないで,アキさんはまだ高校2年生ですから十分間に合いますよ。と言っても,私もアキさんのことを言えたものではないですが。」

「湘南君の場合は,しゃべるのはだめでも,読み書きができるから,それで大丈夫と思ってしまうんだろうね。」

「ラッキーさんのいう通りで、そんな感じです。」

「パスカルは,英語,どうなの?」

「外国人の住民もいるから,なんとかやっているけど。まあ,湘南と同じようなもんだ。」

「そうなんだ。でも私は英語で会話ができたいかな。」

「アメリカに居ればだれでも英語が話せるようになりますので,努力を続けることが重要だとは思います。」

「そうだな。それは湘南の言う通り。」

「はーい。」


 尚美が担当の蒲田と日本でのリリースイベントに関して打ち合わせをしているときに,由香と亜美がおしゃべりをしていた。

「リーダーの英語、何を言っているかさっぱり分からなかったぜ。」

「安心して、私もだよ。」

「でも、亜美はリーダーから英語の宿題を手伝ってもらっているんだろう。」

「英語の成績は良くなったけど,英語が話せるか話せないとは別問題だよ。」

「まあそうか。俺が高校の時に『トリプレット』があれば、俺の英語の成績ももっと良くなったんだろうな。」

「それ以外にも、国語、地理・歴史は良くなったんじゃない。」

「お前、リーダーにそんなに手伝ってもらっているのか。」

「うん。でも,言ってることが難しくて、何を言っているか分からないこともあるけど。」

「まあな。もう高校生としてそれでいいのかなんてことは言わない。」

「私の今の目標は、リーダーの選挙の応援演説に呼んでもらえるような有名な歌手になって、恩返しをすること。だから練習と動画サイトの私のチャンネル頑張る。」

「おれも、そうするよ。」

「由香の場合は,頑張りの他に自重も必要だからね。」

「おっおう。」


 明日夏の出番になった。『スーパーガール』のカラオケ音源が流れ始めると,舞台袖から明日夏が歩きながら出てきて,『スーパーガール』を歌いだす。無事に歌い終えて、MCを始める。

「ハロー,エブリワン,マイネーム イズ アスカ カンダ。えーと。ごめんなさい、後の言葉は忘れちゃった。あははははは。笑ってごまかすなって。これから、日本語で話しまーす。」

明日夏が大きな身振り手振りで話し始める。

「みなさん、こんにちは。私の名前は、神田明日夏、神田明日夏、神田明日夏です。いま、お届けした曲は、『スーパーガール』、『スーパーガール』、『スーパーガール』です。私はアニソンシンガー,アニメの歌を歌っています。子供のころから,アニメが大好きでアニソンシンガーになるのが夢でした。次の曲はアニメの『ジュニア』のテーマソング『ジュニア』です。主人公の晃はジュニアと呼ばれていて、あっちの女の子、こっちの女の子、そっちの女の子から好かれるハーレムもののアニメなんです。そんなジュニアのことが好きな女の子の気持ちを歌った曲です。私はそういう男性は遠慮したい方なんですが、最後に勝てばいいという積極的な女性もいまして、そういう隠れた強さも織り込んで歌いたいと思います。」

 明日夏が『ジュニア』を無事に歌い終わる。

「神田明日夏で『ジュニア』でした。隠れた強さが上手に表現できていたでしょうか。」

セロー、誠、パスカルや主に日本人観客が,

「できてたー!」

と叫び、会場は拍手に包まれていた。

「有難うございます。アニメ『ジュニア』は、今週が最終回です。どのような結末になるのか、ならないのか、楽しみにしていてください。私はシンガポールを通過したことはありましたが,入国するのは初めてです。昨日の午後、ミサちゃん、『トリプレット』のみんなと、シンガポールの観光をしました。観光した中で,一番印象に残ったものはマーライオンです。亜美ちゃんと同じで,愛嬌があって可愛かったでした。こんな感じです。」

明日夏がマーライオンの恰好すると、会場から笑いが起きる。

「私のマーライオン,可愛かったですか?」

会場から「可愛かった。」という答えが帰ってきた。

「有難うございます。ミサちゃんや『トリプレット』のみんなとどこかに行くのは初めてでなく,この夏にはみんなで海に行って遊びました。昼間たくさん遊んで楽しかったのですが,夜、みんな先に寝てしまって、仕方がないので、昼間楽しかったことを思い出しながら私一人でコーヒーを飲みました。そんな寂しい想いも込めて歌います。『一人ぼっちのモーニングコーヒー』」

 会場が少し暗くなり,『一人ぼっちのモーニングコーヒー』のカラオケ音源が流れ始めた。そして,明日夏が静かに歌い始め,無事に歌い終えた。会場は拍手につつまれた。

「有難うございます。神田明日夏で『一人ぼっちのモーニングコーヒー』でした。まあ,あまり得意じゃないんですが,しっとりと歌えていたでしょうか。」

会場から拍手が起きた。

「有難うございます。これも歌の練習の成果か,みんなが先に寝てしまったおかげか分かりませんが,みなさんの応援、とても嬉しいです。私のスケジュールもタイトで,シンガポールやエンジョイアニメーションを十分に楽しむことができませんでした。ですので、私はこれからも、もっともっと頑張って,またシンガポールのライブに呼ばれるようになりたいと思います。それでは、私のこのライブでの最後の曲です。」

会場から「えー」という声が響き渡る。

「アニメ『タイピング』の主題歌で,私のデビュー曲である『二人っきりなんて夢みたい。でも,夢じゃない。』をお届けします。」

会場にカラオケ音源が流れ,明日夏が抑え気味で歌いだす。そして,問題なく歌い終える。

「神田明日夏で,『二人っきりなんて夢みたい。でも,夢じゃない。』です。今日はみんな会場まで足を運んで来てくれて,有難うね。絶対、絶対、シンガポールに戻ってくるからね。そのときを待っててね。本当に,またねー!」

明日夏が舞台袖に下がって行った。久美、ミサ、尚美たちが出迎える。

「明日夏、何か別人になったように良かったわよ。」

「うん、久美先輩のいう通り。」

「本当ですか。橘さんが私を褒めるんなんて、急に台風が来て飛行機が飛ばなくならなければいいけど。私はともかく、尚ちゃんと亜美ちゃんが学校に行けなくなっちゃう。」

「明日夏先輩、大丈夫です。観測史上、台風はシンガポールには1回しか来ていません。」

「でも、1回来ているじゃん。」

「まあ、そうですけど、今朝の天気予報で大丈夫でしたので、大丈夫だと思います。東京の明日の朝も大丈夫です。」

「なら、大丈夫かな。」

「はい。」

「明日夏の歌が良くなったのは、美香の教え方がいいのかな。私も反省しないと。」

「橘さんに厳しく鍛えられた基礎と、ミサちゃんの丁寧な教え方が合わさったからかもしれません。」

「美香の方が丁寧か?」

「根気強くて、申し訳ないと思ってしまいます。」

「でも、明日夏先輩、社長の努力は無駄にしてしまいましたよ。」

「覚えた英語のスピーチ、急に出てこなくなっちゃった。社長、大変申し訳ありません。」

「まあいいよ。明日夏ちゃんの場合は、日本語でもお客さんに受けていたから。」

「そうね。笑いは取っていたわね。」

「明日夏は、堂々としているところが良かったんだと思う。」

「それだけが、先輩の取り柄ですからね。」

「尚ちゃん、酷い。」


 一方観客席では。

「湘南、今日の明日夏ちゃん、ちょっと違っていたわよね。」

「アキさんのいう通りです。歌が落ち着いていて、とても良い感じでした。MCの感じは変わらなかったですが。」

「何、惚れ直したって感じ。」

「歌にですが,それはあります。」

「でも,何か両肩から,郷愁が漂っているわよ。」

「うーん、うかつに近寄れなくなった感じがするからでしょうか。」

「まあね。分かるわよ。やっぱり明日夏ちゃんもメジャーの歌手だから一線を引かないといけないのかもね。」

「それは、アキさんの言う通りです。」

「でも,かけている時間も環境も違うのかな。やる気だけなら、私もあるけど。」

「アキさんもマリさんの教えで、良くなってきていますから。」

「有難う。パスカルはどう思った?」

「俺も、湘南の意見と同じかな。明日夏ちゃん、ミサちゃん、『トリプレット』の相乗効果で良くなっているのかとも思うな。」

「仕事は直接競合しないですし、仲も良さそうですが、5人の中でライバル心とかはあるものでしょうか。」

「それはあるんじゃないかな。やっぱり。」

「俺も,そう思う。」

「そうですか。」

「湘南、そんなに心配しなくても、妹子なら大丈夫よ。」

「有難うございます。」


 ライブ最後のミサのライブが始まろうとしていた。アキはセローと席を代わってもらって、最前列にいた。

「パスカル君、いよいよだね。」

「今回のメインイベント!」

「セローさんのメインイベントは終わってしまったみたいですが。」

「セローは、そうだろうな。でも、そういうところもいいと思うぜ。」

「おっ、湘南ちゃんにライバル出現か。」

「あの、コッコさん、・・・まあいいです。セローさん、明日夏さんはどうでした?」

「明日夏ちゃんは、いつでも最高だよー。」

「そっそうですね。」

客席は完全に埋まり,客席の後ろと両サイド共に,立ち見している観客で一杯になっていた。スポットライトがステージ中央を照らし,ミサが見えた。

「Hello everyone. Hello Singapore. I am Misa Okouchi. Please listen to my song "Fly! Fly! Fly!".(みなさん、こんにちは。シンガポール,こんにちは。私はミサ大河内です。私の歌『Fly!Fly!Fly!』を聴いてください。)」

『Fly!Fly!Fly!』のカラオケ音源が流れると,会場の数名のファンが歓声を上げた。ミサが歌い始め無事に歌い終わった。

「Thank you very much. This song "Fly! Fly! Fly!" is my debut song and the theme song of the anime "Front Base". Since I debuted, a year has passed. I have had many experiences during this one year. One of the most impressive and valuable things is that Asuka, members of Triplet, Naomi, Yuka, Ami, and I became friends. We went to tea rooms, mountains, and the sea, and performed live concerts. This time, we can come to Singapore, appear in such a wonderful live concert together, and recognize your strong supports. I am definitely one of the happiest women in the world. I really appreciate your support. As Naomi and Asuka said, we can enjoy Singapore yesterday. As Asuka said, we went to the Merlion and took many photos. We could add experiences in Singapore to our memories. Thank you Singapore. Next, I will sing two mellow songs "Uninnocent" and "Yurusarezaru Koi". "Yurusarezaru Koi" means unallowed love. They say, I am good at powerful or energetic songs. However, I like such mellow songs expressing a deep region of the human mind. Please listen to my songs.(有難うございます。この歌『Fly!Fly!Fly!』は私デビュー曲でアニメ『フロントベース』のテーマソングです。デビューしてから1年が経ちました。この一年でたくさんの経験をしました。最も印象的で価値あるものの一つは,明日夏と『トリプレット』のメンバーの尚美,由香,亜美と友達になれたことです。私たちは,喫茶店,山,海に行ったり,ライブコンサートにいっしょに出演したりしました。今回,私たちはシンガポールに来て,こんな素晴らしいライブコンサートに出演できて,そしてみなさんが応援してくれていることが分かりました。私は,間違いなく世界で最も幸せな女性の一人です。本当に応援ありがとう。明日夏が言ったように,私たちは,マーライオンに行って,たくさんの写真を撮ってきました。私たちはシンガポールでの経験を思い出に加えることができました。シンガポール,有難う。次の二曲『Uninnocent』と『許されざる恋』は,落ち着いた曲です。『許されざる恋』は許されない恋を意味します。私はパワフルでエネルギッシュな歌が得意と言われます。しかし,私は人の心の深い領域を表した静かな歌が好きです。私の歌を聴いてください。」

ミサが『Uninnocent』と『許されざる恋』を無事に歌い終える。

「Thank you very much for listening to my songs and supporting me. I sang "Uninnocent" and "Yurusarezaru Koi". I really want to be a rock singer who can encourage people. Actually, when I was a junior high school student, I was deeply depressed. But rock music by a rock singer strongly encouraged me, and I had a wish I would be such a rock singer. You may think my songs are not enough to do it.(私の歌を聴いてくれて、そして応援してくれて有難う。『Uninnocent』と『許されざる恋』を歌いました。私は本当に人々を勇気づけられるロックシンガーになりたいです。実際私が中学生の時、私は深く落ち込んでいました。しかし、一人のロックシンガーが歌うロックミュージックによって勇気づけられました。それで、私もそんなロックシンガーになりたいという望みを持ちました。皆さんは、私の歌はそのために十分でないと思うかもしれません。)」

観客の何人かが「No!」と叫んだ。 ちなみに日本人観客は,何を言っているか良く分からなくて静かだった。

「I continue to sing with my bottomless power and I will definitely be such a rock singer. Next, I will sing "Bottomless power" and "Catch up". "Catch up" is my new song for the theme song of the anime "Champion Cup". I am glad if they can encourage you even a little. (私は私の限りないパワーで歌い続けます。そして、必ずそのようなロックシンガーになります。次に『Bottomless power』と『Catch Up』を歌います。『Catch Up』はアニメ『チャンピオンカップ』のテーマソングになる私の新しい歌です。私は、これらの歌がみなさんを少しでも勇気づけられれば嬉しいです。)」

ミサが『Bottomless power』と『Catch Up』を無事に歌い終わる。

「Thank you very much. I sang "Bottomless power" and "Catch up". I will have my first one-man live concert on October 23rd. I will sing many songs including cover songs wholeheartedly for the first year anniversary. If you are in Japan at that time, I would like to ask you to attend my live concert. I wait for you. The next song is my last song.(有難うございます。『Bottomless power』と『Catch Up』を歌いました。10月23日に私の最初のワンマンライブコンサートを開催します。カバーソングを含めて,一周年記念のために心を込めてたくさんの曲を歌う予定です。もし,そのとき日本にいるようでしたら,私のライブコンサートに参加してください。お待ちしています。次の曲が私の最後の曲になります。)」

会場に「えー」という声が響く。

「Because I want to be a rock singer who encourages people in the world, I practice singing songs in English now. Here, I will sing the English version of "Fly! Fly! Fly!". (私は世界中の人を勇気づけられるロック歌手になりたいので,今,英語の歌を練習しています。ここで,『Fly!Fly!Fly!』の英語バージョンを歌います。)」

ミサが『Fly!Fly!Fly!』を無事に歌い終える。

「Thank you very much. I sang the English version of "Fly! Fly! Fly!". It is my first time to sing an English song in front of an audience. I would like to ask your opinion. What do you feel about it?(有難うございます。『Fly!Fly!Fly!』の英語バージョンを歌いました。観客がいる前で英語の歌を歌うのは初めてです。みなさんの意見を聞きたいです。どうでしたか?)」

観客の何人かが「Nice!」,「Wonderful!」と叫んだ。釣られて日本人の観客が「最高」と叫び,誠も「ブラボー」と声をかけた。声援を聞いて、ミサが少し微笑んだ。

「Thank you very much for your approse. I am eager to come back to Singapore. For this purpose, I continue to do my best. I hope for your support. I love Singapore. I love you!!! See you again.(声援、有難うございます。私はシンガポールに戻ってきたいです。そのために,全力を出し続けます。応援お願いします。シンガポール大好き。みんな大好き。また,会いましょう。)」

鳴りやまない拍手の中,ミサが手を振りながら舞台袖に下がっていった。


 ミサが歌い終え、舞台袖に戻り、関係者に挨拶をした後、明日夏たちのところにやってきた。

「ミサちゃん、お疲れ。」

「美香先輩、お疲れ様です。」

「ミサさん、お疲れ様ですねー。」

「有難う。ナンシー、英語の『Bottomless Power』どうだった。」

「問題はないですねー。発音も完ぺきだったですねー。」

「有難う。」

「上手すぎて、私には何を言っているか分からなかったよ。」

「明日夏先輩は、そうでしょうね。」

「あとはライブ関係者打ち上げパーティーに出席するだけね。」

「はい、私たちは20時に失礼して、空港に向かいます。」

「尚は,明日学校だったっけ。頑張ってね。あと,もし良かったら,誠の感想を聞いておいて欲しいんだけど。」

「分かりました。明日の晩に家で聞いてみます。」

「有難う。」

「尚ちゃん,打ち上げはどこでやるの?歩いて行ける?」

「マリーナベイ・サンズのスカイパークのレストランの一部を借り切ってやるそうです。ですので,ワゴン車で行くことになると思います。」

「そうなんだ。それじゃあ,ミサちゃん,またね。」

「美香先輩,マリーナベイ・サンズの会場で。」

「分かった。私も着替えてから行くから,それじゃあ会場でね。ナンシー、行こうか。」

「はいですねー。」


 誠たちとセロー、タックたちが会場から出たところで集まった。

「湘南さんたちはこれからどうされるんですか。」

「マリーナベイ・サンズに寄ってから、空港へ向かいます。」

「僕たちは、もう一泊しますので、こっちの『トリプレット』のファンとこれから打ち上げです。」

「国際的なファンの集まりですね。SNSで知り合ったのですか。」

「その通りです。」

「さすがです。それでは,また,『トリプレット』のイベントで。」

「はい,その時はまたお願いします。」

タックたちが去っていった。

「ミサちゃんが,I love you という時に,目が合ってドキッっとしたぜ。」

「それは良かったわね。」

「パスカル君の言う通り,心臓に悪かったよ。」

「またラッキーちゃんは年寄り臭いことを。湘南ちゃんは?」

「すみません。考え事をしていて見ていなかったです。」

「湘南らしいけど,何を考えていたのよ?」

「ナンシーさんが言っていた,大河内さんの歌についてです。」

「まあ,湘南らしいな。」

「そうだわね。それじゃあ,マリーナベイ・サンズへ出発しよう。」

「はい。まずは,あっちのバス乗り場に移動します。」

「了解。」


 マリーナベイ・サンズの会場の入り口で,パラダイスの一行とミサたちが再開した。ミサは黒いパーティードレスを着ていた。

「ミサちゃん,すごい。アニメの実大物フィギュアみたい。」

「少し恥ずかしんだけど,この服ナンシーが着ろと言うから。アニメじゃなくて、そのフィギュアなの。」

「うん。そのしっかりとした骨格を包んだ肉と脂肪の芸術、絵では表現できないかも。でも、その肌の質感、フィギュアでも無理か。」

「明日夏の感性、なんかおかしい。」

「明日夏さん、そこは妄想で補えばなんとでもなります。」

「亜美ちゃん、さすが。でも、ミサちゃんはその妄想のもとになりそうだね。」

「さすが、明日夏さん。妄想力を高めるためには、リアルの可愛い男の子を見ておくことも必要と言うことですね。」

「その通りだけど、法を犯してはだめだよ。」

「分かっています。」

「二人とも大丈夫かな?」

「由香は、豊さんには絶対に会わせないレベルだよね。」

「おう、それは亜美のいう通りだな。」

「うん、私も輝三には会わせたくない。」

「亜美、それ実在しないから。」

「でも、日本のオタクたちの力で絶対2次元への扉を完成させると信じているから。」

「そうなるといいな。まあ本当のところ、豊程度じゃミサさんが見向きもしないから、心配いらねえんだろうけど。」

「由香ちゃん、それでも、やっぱり心配なんだ。」

「まあ、やっぱ、そういうもんなんですよ。」

「なんか、由香、一人大人ぶっている。」

「ミサさん、申し訳ないです。」

「でも、みんなは普通の服で来たんだ?」

「悟が答える。」

「ごめんなさい。僕たちは,パーティーを途中で出て空港に直行しなくてはいけないから。」

「そうでしたね。ヒラっち,残念です。でも,それでいいなら,私も普通の格好で来れば良かった。」

「ミサさんはこういうドレスがものすごく似合うので,絶対着た方がいいですよ。パラダイスの人間には似合うやつはいねーけどな。」

「由香,橘さんが着れば,私より似合うと思うよ。」

「さすがに、美香には敵わないわよ。」

「うーん,橘さんの場合、片手に日本刀,反対の手に日本酒の瓶を持っていると似合うかもしれません。」

「明日夏ー。」

「若い時なら、久美自身が日本刀のようだったから、両手に日本酒とウイスキーの瓶かな。」

「なるほど。」

「悟―。」

そのとき会場への扉が開いた。

「橘さん、高級なただ酒が飲めるかもしれませんよ。行きましょう。」

「こら,明日夏,逃げない。」

「明日夏先輩,行ってしまいましたね。それではみなさん,会場に入りましょう。」


 夕食会は、ビュッフェスタイルで、部屋の中央にテーブルが置かれ、壁際に食べ物が並んでいた。席は自由席だったので、参加者は気ままに座って食べたり話していたが,悟は名刺を持ってあいさつ回りをしていた。ときどき、明日夏が悟に呼ばれて、いっしょに挨拶をした。『トリプレット』を担当しているヘルツレコードの蒲田が、明日夏と悟と同様に活動していた。逆に、ミサのところに話にくる関係者も多かった。少し時間が経つと、全員が落ち着いて座って飲み物と食事を楽しみ始めて、悟と蒲田が席に戻ってきた。

「ヒラっち,お疲れ様。」

「ミサちゃん、有難う。でもこれが僕の仕事だから。」

「社長にはいつも感謝しています。」

「なんか明日夏にしちゃ,殊勝ね。」

「社長には本当に感謝しています。でも、橘さんはあいさつに行かなくていいんですか?」

「私が行くと話がぶち壊しになるから来るなって,悟が。ははははは。」

「ははははは。橘さん、もうすでに飲みすぎでは?」

「こんなにいい酒がただで飲めるなんて、そんな機会はめったにないからねー。これは、明日夏に歌を教えた私へのご褒美だわ。」

「社長、どうしましょうか。」

「まあ,ここで飲んだ分、飛行機で騒がずにすぐに寝るんじゃないか。」

「なるほど、社長,さすが付き合いが長いだけのことはありますね。」

 尚美が蒲田に話しかける。

「蒲田さんもお疲れ様です。」

「星野さん、有難うございます。私も平田社長と同じで、仕事ですから。」

「シンガポールで仕事ができたのは、溝口社長と蒲田さんのおかげです。有難うございました。」

「星野さんたちは、これからの方が大変です。」

「はい、頑張っていきます。でも、蒲田さんもこれから溝口マネージャーからいろいろ指示を受けることになりますから大変になりそうですね。」

「星野さんにはかなわないですね。でも、溝口マネージャーとの仕事は、大変でもこれからの自分のキャリアにプラスになると思っています。お互い頑張りましょう。」

「はい。よろしくお願いします。」

軽く会釈した後すぐに外を見た尚美に明日夏が尋ねる。

「尚ちゃん,さっきから外を気にしているようだけど,何かあるの?」

「えっ,いえ,景色が綺麗だなと思って。」

「尚ちゃんの言う通り。ねえ、帰るときにみんなで写真を撮ろうよ。社長と蒲田さんを真ん中にして。」

「はい,そうしましょう。あの、美香先輩はどうします?」

「仲間外れにしないで。いっしょに撮りたい。」

「有難うございます。」

「あの、申し訳ありませんが、僕はシャッターを押しますから大丈夫です。」

「えー、蒲田さん何でですか?」

「あー,美香先輩、蒲田さんは新婚さんでいらっしゃいますから。」

「はい、こんな奇麗な方々と一緒に撮影した写真がありますと、何と言いますか。」

「家庭不和の原因になることがあるということですね。」

「はい。」

「そうなんですね。もし、よろしかったら、奥様の写真を見せて頂けますか。」

「結婚式の時の写真です。お恥ずかしい限りですが。」

「すごい。」「ヒューヒュー。」「お嫁さん、可愛い。」

「美穂さんと言って、蒲田さんが,ヘルツレコード傘下のインディーズレーベルで働いていた時の担当の地下アイドルの方だったんですよね。」

「星野さん、何でも知っていますね。その通りです。」

「えっ、それって、もしかしたら犯罪じゃないの?」

「明日夏、さすがに結婚すれば問題ないんじゃない。あのプロポーズの言葉はどんな?」

「お恥ずかしいですが、美穂はアイドルを卒業するけど、一生僕に君の担当させてくれないか。です。」

「すっ、すごい。」「すごいわねー。」「知っていましたが、すごいです。」「すごいです。」「すごいですねー。」「社長、参考になりましたか?」

「明日夏ちゃん、僕にはそんなこと言えないかな。」

「社長、しっかりして下さいよ。」「社長、しっかりしようぜ。」

テーブルが笑い声で包まれた。

「でも,みんな初めての海外ライブだから,心配していたけど,みんな本当にちゃんと歌っていて,安心して聞いていられたわ。」

「へへへへへ。」「有難うございます。」「橘さんのおかげです。」

「ごめん,美香は初めから心配していなかったから。」

「えー,心配して下さい。」

「美香、英語の歌、本当に海外アーティストみたいだったわ。だんだん美香に教えることがなくなってきた。すごいわ。」

「いえ、まだまだですので、これからもよろしくお願いします。」

「そう言ってもらえると嬉しいけど。」

「僕も、ミサちゃんは歌うのがすごい上手だと思いますが、もっと自分を出して、それが歌の個性になったら、もっと歌が魅力的になると思います。逆に、そうでないとアメリカだと埋もれてしまうから、まだまだ工夫していって欲しいと思います。」

「はい、ヒラっち、有難うございます。」

「それなら、とりあえず、アニメキャラみたいな恰好をして歌うといいですねー。アニメキャラみたいな顔とスタイルをしているんですねー。」

「そうじゃなくて、歌で勝負したい。」

「ミサはロックを歌うのが上手ですねー。でも、橘さんやアンナさんに比べると、心がない感じがするんですねー。それで聴いている人に想いが届かないんですねー。」

「えっ,もしかしてナンシーは、橘さんやアンナさんの歌を聴いたことがあるの?」

「CDですけど,聴いたことがあるんですねー。」

「でも、聴いたんだ。」

「はいですねー。日本語の歌なのに、すごく良かったんですねー。」

「ナンシーさん,有難う。久美でいいわよ。」

「それでは,久美,私もナンシーでいいですねー。」

「ナンシー,分かった。」

「はい。橘さんに教えてもらえば、ミサの歌ももっと心に届くようになるとは思うんですねー。でも,それだけではだめだと思うんですねー。久美の会社の社長さんが言うように、もっと自分がないとだめなんですねー。そうなれば、ミサはすごい歌手になると思っているんですねー。でも、それには時間がかかるんですねー。それまでの間は、ミサのナイスボディーで売るといいんですねー。」

「ナイスボディーで売るって・・・・。」

尚美が話しを変える。

「ナンシーさんはシンガポールはどうでした?」

「仕事が多かったですねー。フィリピンやマレーシアのイベント主催者と会ってきたですねー。ミサはすごい好評だったですねー。」

「ナンシーちゃん,すごい。ちゃんと仕事してるんだ。」

「当たり前ですねー。明日夏さんとは違うんですねー。でも、そこが明日夏さんのいいところですけれどもねー。明日夏さんの歌は元から好きだったんですけど、今日のライブを見て,歌だけじゃなくて全体的に自由な雰囲気がすごい良かったんですねー。英語をちゃんと話せるようになれば,アメリカでコメディーシンガーとして成功するかもしれないですねー。」

みんなが笑う。尚美が尋ねる。

「ナンシーさん,明日夏先輩をすぐに分かってしまうなんて,さすがですね。」

「有難うですねー。」

「ナンシーさん、仕事ばかりで,楽しいこととかはなかったですか?」

「昨日の午後に、エンジョイアニメーションの展示を見れて面白かったですねー。『ジュニア』のグッズの情報もあったですねー。」

明日夏が答える。

「へー、そうなの。」

「明日夏さん、『ジュニア』にはあんまり関心なさそうですねー。」

「ま、まあ,私は。亜美ちゃんはあるんじゃない。」

「私は、『ジュニア』では、倫也君がいいと思います。」

「亜美さんは、可愛い男性が好きなんですかー?」

「亜美ちゃんには,ショタ成分も入っているから。」

「ショタ成分ですねー。実は私にも入っているですねー。最近だと『プラズマイレブン』がいいですねー。あっ,申し訳ありませんですねー。亜美さんたちはライバルの『U-18』の主題歌の担当だったんですねー。」

「いえ,ナンシーさんが『プラズマイレブン』のファンと知って私も嬉しいです。私も本当は『U-18』より『プラズマイレブン』のキャラの方が好きなんです。好きな子が多すぎて困るぐらいです。」

「ナンシーちゃん,可愛く見えても亜美ちゃんは欲望の塊のような女の子なんだよ。」

「なるほどですねー。亜美さんはなかなかいいキャラクターをしているんですねー。」

「ナンシーちゃん,他にも何か面白いものはあった?残念ながら私たちは展示をあまり見れなかったんだよ。」

「展示じゃないですけど,古い友達に会ったですねー。」

「へー,ナンシーちゃんのオタク仲間?」

「そうなんですねー。ラッキーさんと言うんですねー。」

尚美が驚く。

「ラッキーさん?もしかして、日本人で恰幅の良い方?」

「そうですねー。ラッキーはSNSの名前なんですねー。オタク友達5人と来ていたんですね。あとの4人もいい人だったんですねー。でも一人,湘南というオタクがあれやこれやとうるさいやつなんですねー。嫌いなんですねー。」

明日夏、ミサ、由香、亜美が凍り付く。尚美が尋ねる。

「何かあったんですか?」

「ミサのマネージャーをしていることを話していたんですねー。そしたら,あれは言うな,これは言うなってうるさいんですねー。」

「もしかすると,美香先輩の今後の計画とかを話したりしませんでしか?」

「そうですね。全米デビューの計画とか,ミサのナイスバディなサイズとかですねー。」

尚美,明日夏は安心するが,ミサはもっと凍り付いていた。明日夏が諭す。

「ナンシーちゃん,すぐに分かることだから、そんなに秘密にすることはないと思うかもしれないけど,言っちゃいけないことは言っちゃいけないんだよ。この世界では。」

「分かっているですねー。でも,ラッキーさんは大丈夫なんですねー。」

「新曲や新しいことは、たくさんの人の努力があってできることで、情報を解禁するのも最も良い時を考えて決められていることだから。協力が必要な家族とかならば別だけど、外部の人に話すのは、たくさんの人たちを裏切ることになるんだよ。」

「でも。」

「ラッキーさんは大丈夫でも、ラッキーさんが大丈夫と思った人にラッキーさんが話して、そういうことが続くと収集がつかなくなるから。」

「分かったですねー。明日夏さん,もう言わないんですねー。」

「うん。それに、湘南という人は、嫌味じゃなくて,ナンシーちゃんのことを考えて注意してくれたと思うから、怒っちゃだめだよ。」

テーブルが静まり返っていた。久美が話し出す。

「明日夏が、そんなまともなことを言うとは思わなかった。」

「えっ。私、社長や橘さんにしちゃいけないと言われたことはしないですよね。」

「まあ、それは私と違うところか。でも、した方がいいということもしないけど。」

「久美、最近はそれもしているんじゃないか。」

「うーん、去年の記憶が強烈だったからか。明日夏も大人になっているんだ。」

「橘さん、そうですよ。」

「ナンシー、未公開情報なんかを話したことなんかは、私はそんなに気にしていないけど、もしかして、誠に何か変なことを言わなかった?」

「あの,ナンシーさん、誠と言うのは湘南という人のことです。」

「ダメTOとか,うるさいととか、嫌いとかですねー。」

ミサのすごく怖い表情をする。

「ナンシー、今度誠にそんなこと言ったら許さない。出て行ってもらうから。」

「・・・・・・。」

ミサが尚の方を向く。

「ねえ、尚、誠はまだシンガポールにいるんだよね。」

「えっ,はい,そうですけど。」

「居場所が分かったら教えて,お願い。」

「えーと。」

「尚,お願い、教えて。私が行って謝ってくる。」

「分かりました。実はレストランに入る前に,7時半まではこのスカイパークを散歩しているってSNSのメッセージがありました。それでは、いっしょに・・」

「尚,有難う。」

時計を見て話の途中でミサは走り出していた。

「えっ,あっ。」

「尚ちゃん,早くお兄ちゃんに連絡して。尚ちゃんのお兄ちゃんなら、なんとかしてくれるから。」

「えっ、あっ、はい。了解です。」

尚が通話で誠に連絡する。

「もしもし,尚,何?大丈夫?」

「うん,私は大丈夫だけど,美香先輩がナンシーさんのことでお兄ちゃんに謝りたいと、会場から出て行っちゃったんだけど。」

「分かった。急いで探す。夕食会の会場はどの建物の上だった?」

「真ん中の建物。」

「了解。服とマスクは?」

「黒いドレスを着ている。マスクはしていない。」

「了解。見つけたら連絡する。」

「お願い。」


 誠が5人に急用ができたことを告げる。

「すみません。急用ができました。もし,時間までに戻らなかったら、先に空港に行って飛行機に乗って下さい。僕はホテルに荷物を預けていないので大丈夫です。」

「今のは妹子からの連絡?」

「はい、その通りです。」

「分かった。行ってらっしゃい。」

「まあ、湘南はまだ夏休みだし、遅れても大丈夫だからな。」

「湘南君,あとはホテルによって空港に行くだけだから,僕に任せて行ってきて。」

「ラッキーさん,有難うございます。行ってきます。」


 ミサはレストランを出て,周りを見渡したが,思ったより広く人が多数いて,どうしようか迷って右往左往していたが,左右を見ながらドタドタとやってくる男性を見つけた。

「誠だ!」

男性は自分を見つけていないようだったが,ミサは男性の方に走り出していた。少しして、誠もミサに気づいた。人目に付かない方が良いと思い、外側の人がいない場所を合流地点として指さした。ミサもそれに気が付いて、その方向に向かって行った。

 ミサが店を出て行ったあと、レストラン中で尚が社長に話しかける。

「実は兄もスカイパークにいるようですので,大丈夫だと思いますが、一応、私も探してきます。」

「何だ,お兄ちゃんがここにいるから,さっきから尚ちゃんは外を見ていたのね。」

「あのー、湘南さんと皆さんはどのようなご関係ですねー?」

「湘南,本名は誠と言うのですが,私の兄で、美香先輩も知り合いなんです。」

「そうなんですねー。それは申し訳ないことをしたですねー。」

「大丈夫です。兄はそんなことで怒らないと思いますし、明日夏先輩が言っていた通り、ナンシーさんのことを考えて、注意したんだと思います。」

「そんなことをしていると、仕事を首になるみたいなことを言ってたですねー。喧嘩を売っているのかと思ったですねー。私も探しに行って、謝ってくるですねー。」

「いえ、私の兄ですので、謝罪の機会はいつでも設定できますから、もう少し時間を置いてからの方がいいと思います。今は連絡のためにナンシーさんはここにいて下さい。念のため,私が見てきます。」

「分かりましたですねー。」

尚が早歩きで外に出た。明日夏がナンシーを安心させるように言う。

「ナンシーちゃん,尚ちゃんと尚ちゃんのお兄ちゃんなら絶対大丈夫だから、心配することはないよ。」

「明日夏さん、心配してくれて有難うですねー。でも,あんな怖い顔のミサは初めて見たんですねー。本当に、良かったんですねー。」

「良かったって?」

「引きこもりすぎて、ミサさんには感情がないのかと思っていたですねー。あんなに怒ることもあるんだと分かって良かったんですねー。」

「ナンシー、実は私もそう思った。でもナンシーも、本当に大物だわね。」

「久美、有難うございますねー。」

「でも、ナンシーちゃん、橘さんには気を付けた方がいいよ。橘さんが怒ると、ミサちゃんと違って、すぐに手がでるから。」

「明日夏ー!」

「明日夏さんの言うことは正しそうですねー。」

「まあ、久美の場合、脚が出てからが本番だけどね。」

「さすが、社長、橘さんと付き合いが長いです。」

笑い声が起きる。

「まあ,実際,尚ちゃんのお兄ちゃんがダメTOというのは本当だけど,ミサちゃんのことは何とかしてくれると思うから,ナンシーちゃん、二人が戻るまで『ジュニア』の倫也の良さを教えて。一応、私、主題歌歌っているし。」

「分かったですねー。」

外に出た尚美は、辺りを見まわしたが誠もミサも見つけることができなかった。このフロアーから出ることはないので,ミサが落ち着くために少し時間が経ってからSNSで居場所を聞くことにして、外の景色を見ていた。


 誠とミサが人があまりいない屋上の外側の淵に到着した。

「鈴木さん、こんにちは。お久しぶりです。」

「誠、こんにちは、お久しぶりです。」

誠は、「鈴木さんの正面を外側に向けさせて、服も目立つから何とかしなくちゃと。」と思い話しかける。服に関しては目立つだけではなく,実際、目のやり場にも困っていた。

「夕日が奇麗ですね。」

「そうですね。あの、今知ったんですが、うちの新しいマネージャーが、誠に失礼なことを言ってしまったそうで、大変申し訳ありません。」

「ナンシーさん、さすが溝口事務所が選ぶだけあって、優秀なマネージャーさんだと思います。それより、風が出ていますし外は寒くはないですか。」

「少し寒いかもしれませんが、大丈夫です。」

「ライブのTシャツを着ませんか。その方が目立ちませんし。」

誠がバッグからTシャツを取り出す。

「分かりました。」

ミサがTシャツを着たところで話しを続ける。

「ナンシーさん、鈴木さんの良いところや弱いところを理解して、なんとか良い方向に持っていくようにしているみたいです。」

「そう言ってもらえると嬉しいです。」

「ナンシーさんは、日本語がネイティブでないのに、僕の言い方が良くなかったんだと思います。それで誤解が生じただけだと思っています。」

「でも、解禁前の情報を話そうとしたことを注意してくれたんですよね。」

「はい、それぞれの人が安心と思う人に話していくと、そのどこかで漏洩したり、伝言ゲームのように違う内容になったりしますので、気を付けた方が良いと思いまして。」

「それは、誠のいう通りです。」

「それに、アメリカ人だから契約を厳格に守る人と思ったのですが、アメリカ人でわざわざ日本に来るぐらいですので少し変わったところがあるのか、もともと契約を守るような人ばかりならば、アメリカはもっと良い国になっているのかわかりませんが、音楽的には鈴木さんのマネージャーに向いているような気がしましたので、このまま続けていくためにも、分かってもらいたかっただけだったんです。」

「私のマネージャーに向いていると思いますか?」

「はい、話していて,音楽,特にロックが好きで,知識も感性もしっかりしているように思いました。」

「そうなんですね。」

「ただ、喧嘩を売っているように思われてしまいまして、もしかすると、過去にひどい誹謗や中傷を受けたことがあるのかもしれません。僕がちょっと不注意でした。」

「そんなことはありません。誠は正しいことをしたと思います。」

「有難うございます。誤解からですし、音楽そのものだけじゃなく,アメリカのロック業界の事情にも詳しそうですので、ナンシーさんと協力して全米デビュー、進めていくのがいいと思います。」

「誠がそう言うなら、そうしたいと思います。」

「それと、ナンシーさんは、中学の時からアメリカでロックシンガーのオーディションを何度も受けて、全部落ちていたそうです。それでもあきらめずに、高校からドラムを始めたそうで、ロックへの想いは強そうですね。」

「そうなんですか。ナンシー、そんなこと一言も言っていませんでした。」

「順風満帆な鈴木さんには言い出しにくかったんだと思います。それで、鈴木さんをアメリカで成功させたいという強い想いはあると思いますが、もしかすると、それ以外の複雑な想いもあるかもしれません。でも、橘さんのように、鈴木さんの足りない部分を持っている気がしますので、二人が話し合うといい結果が出るように思います。」

「有難うございます。また二人で話し合ってみます。」

「はい、是非,そうしてもらえると嬉しいです。」

「そういえば,ライブでブラボーって声をかけてくれて有難うございました。」

「あれが分かったんですか?尚が鈴木さんの五感の鋭さは人並外れていると言っていましたが,本当なんですね。」

「それだけではなくて,すごく聞き取りやすかったです。本当に。」

「有難うございます。鈴木さんの今日の歌,すごく素晴らしかったでしたが,橘さんの真似でもいけないと思って,悩んでいたりしますか?」

「図星です。方向としては自分が大好きな橘さんの方向を目指していますが,それだけでもいけないと思って。」

「僕が少しでもお手伝いできればいいのですが,鈴木さんのレベルになってしまうと,最後は自分であがくしかないんじゃないかなとも思います。」

「はい,橘さんにもそう言われています。でも,誠と話すと気が楽になります。」

「そう言ってもらえると,嬉しいです。」

ミサがその景色を見る。

「本当に夕日が奇麗ですね。夏の江の島を思い出しました。」

「僕もです。江の島で思い出しましたが、盗聴器とかのチェックが必要でしたら言って下さい。」

「はい。できれば、東京と大阪のワンマンライブが終わったらお願いできますか。」

「喜んで。あそこに、マーライオンが見えますね。」

「そうですね。尚や明日夏と写真を撮ったんですよ。見ますか?」

「はい、有難うございます。」

ミサがスマフォの写真を見せる。

「何となく、3人の性格が良く分かる写真ですね。」

「ははははは、そうですね。」

「僕たちもマーライオンの公園で写真を撮ったんですよ。」

誠がスマフォの写真を見せる。

「この女性は?そう言えば、ライブで誠の後ろにいましたね。」

「コッコさんと言って、漫画やイラストを書いています。」

「あー,この女性がコッコさんなんですね。大学のお友達でしたね?」

「先輩に当たります。」

「明日夏と亜美はコッコさんが描いた漫画を持っているみたいなんですが,私にはまだ早いからって言って、見せてくれないんです。」

「はい。なんというか、内容が僕とパスカルさんが恋人同志という、コッコさんの妄想なんですが、表現が過激ですから、鈴木さんは見ないほうがいいと思います。」

「そうなんですか。妄想なんですね。」

「はい、そうです。」

「良かったです。それにしても、これがマーライオンなんですか?」

「マーライオンが水を出すポンプがある場所なんです。」

「そっ、そうなんですね。さすが誠だと思います。」

「いえ、そういうことだからうちの大学は恋人にしたくない大学第一位を取り続けているんだと思います。」

「誠には恋人はいないんですか?」

「はい。いわゆる、いない歴と年齢が同じというやつです。」

「そうですか。でも、私もです。」

少しの沈黙が続いた。

「尚が言っていましたけど、ワンマンライブには来てくれるんですよね。」

「はい、友達のFCのチケットを売ってもらって参加する予定です。」

「パスカルさんですね。今日も誠の隣にいましたね。なるほど、その後ろのコッコさんは二人を観察していたんですか。」

「ステージの上からそこまで分かるんですね。」

「最初の『トリプレット』のステージの時に分かりました。最初から自分の出番だと見つけられるかどうか自信がありません。」

「そのときは見つけなくて構いませんので、自分のステージに集中してください。」

「分かりました。あとは、海でのビデオに写っていたアイドルのアキさん、それと男性二人が見えました。」

「背が高い人がセローさん、現在の明日夏さんのTOです。恰幅の良い人がラッキーさんです。」

「ラッキーさんって、ナンシーの友達の。」

「はい、その通りです。」

「なるほど、あの人がラッキーさんだったんですね。みなさん、いつもいっしょで仲が良さそうですね。」

「セローさんは明日夏さんのイベントのときだけいっしょですが、それ以外の5人はアキさんたちのプロデュースをしていますので、しょっちゅう会っています。」

「アキさんたちというと、メンバーが増えるんですか。」

「あのビデオに小学生の女の子が写っていたのを覚えていますか?その小学生の子が加わることになりました。」

「小学生の女の子!」

「あの、犯罪じゃないですよ。その子がアイドル活動を強く希望しているからです。」

「それは分かります。でも、何か楽しそうですよね。」

「はい、鈴木さんから比べれば、本当にアマチュアなんですが、みんな楽しいからやっているんだと思います。」

「楽しいは大切だと思います。」

「最近、その活動のために作曲も始めています。そのことで,平田社長さんとSNSでチャットしているのですが,いい曲ができそうだったら、『トリプレット』や明日夏さん、デスデーモンズさんのアルバムに採用してくれるというので、そっちにも挑戦するつもりです。」

「ヒラっちが!?それは楽しみです。でも、デスデーモンズの曲と言うと,ロックの楽曲も作曲するんですか。」

「鈴木さんの前で言うのは恥ずかしい話ですが,ロックの楽曲をいろいろ聴いて勉強しているところです。」

「あの,もし良ければ,私にも曲を作ってもらえないでしょうか。」

「社長さんに、鈴木さんはレベルが違いすぎてすぐには無理だけど、3年か5年後ぐらいには鈴木さんに歌ってもらえるような曲が作曲できるようになることを目指そうと言ってもらえて、社長さんと頑張るつもりです。」

「二人で?」

「はい。さっき言った明日夏さんやデスデーモンズの曲も,正確には二人で作曲・編曲する予定です。」

「ヒラっち、私にはそんなこと一言も言っていなかったけど。」

「もしかすると,社長さんは鈴木さんに作曲していると自分から言うのは恥ずかしいんじゃないでしょうか。僕は素人ですから何でも言えますが。ですので、聞くなら橘さんにして、社長さんには知らないことにしておいて下さい。」

「分かりましたが、ヒラっちにもお世話になっていますし,誠とヒラっちが作曲した曲ならすぐにでも歌いたいです。」

「僕もそうですが、社長さんも正々堂々と正式に採用されたいんだと思います。」

「そうですか。残念です。それじゃあ、曲ができたら聴かせてください。大河内ミサとしてではなく、単なるロック好きとして、お手伝いしたいです。」

「分かりました。ロックでしたら,デスデーモンズ用の曲ができたら、聴いてみてください。少し方向性を変えてみようということで,すごく女々しいロックにするつもりです。」

「女々しいパンクロックですか。どんなものになるか良く分かりませんが,曲を聴いた感想は正直に言いますね。」

「はい。かなり怖いですけど、酷評でも乗り越えて、何回でも作曲します。」

「私も何回でも、正直に感想を言います。」

「分かりました。」

そのとき、尚美からSNSで連絡が来た。

「尚からです。鈴木さんを探しているみたいです。」

「会場から飛び出てきちゃいましたから、残念ですが、そろそろ戻らないといけないです。」

「わざわざ有難うございました。楽しかったでした。」

「私もです。」

誠が尚美に場所をSNSで連絡した。すぐに尚美がやってきた。尚美はミサの穏やかな表情を見てほっとしていた。

「尚、飛び出しちゃってごめんなさい。誠と話して分かったけど,ナンシーの日本語の誤解で、そうなったみたい。」

「はい、ナンシーさんは日本語がネイティブではないので、お兄ちゃんはナンシーさんのために言ったつもりでも,誤解が生じてしまったとは思っていました。」

「尚はお兄さんを信頼しているのね。」

「それは美香先輩の言う通りです。でも美香先輩、もうそろそろ戻らないと。あと,お兄ちゃん,美香先輩はワンマンや全米デビューを控えていてすごく大切な時だから,美香先輩にあまり馴れ馴れしくしちゃだめだよ。」

「もちろんそれは分かっているつもりだよ。今も目立たないようにTシャツを着てもらって,なるべく外の方を向くようにしていたし。それにアキさんにも,プロの方々とは一線を引かなくてはいけないと言われたので,気を付けないといけないとは思っている。」

「アキが,何で!?」

「しないとは思うけど、危ないことをしそうに見えるのかな。」

「そんなことは全然ないです。誠,明日夏はともかく,私には普通の友達として接してくれると嬉しいです。」

誠が尚の方を見る。

「まあ,美香先輩がいいと言うなら仕方がないけど。」

「仕方がないというより,私はそうしてもらえると嬉しい。」

「それでは,音楽仲間ということで,お願いしていいですか?」

「はい。音楽仲間です。もちろん,尚も。」

「有難うございます。」

「それじゃあ,せっかくだから,帰る前に写真だけ撮りましょう。」

「僕も,SNSに使うには綺麗な背景だと思います。」

「うん、私もそう思った。」

「美香先輩,SNSに載せるなら,せっかくのドレスですので,Tシャツは脱いだ方が。」

「そうか。誠,気を使ってTシャツを貸してくれて有難うございました。」

「ライブのロゴのTシャツ,もしお持ちでなければ差し上げます。この間のリストバンドのお礼です。」

「本当ですか。嬉しいです。そのうち,何かでお返しはします。」

「Tシャツはどうぞ。お返しは気持ちだけでいいのですが,何かの時にでも。」

「はい。」

「それでは二人並んで下さい。僕がシャッターを押します。」

「誠,その前に三人で撮りましょう。尚との写真はその後にお願いします。」

「分かりました。」「はい。」

尚を真ん中にして三人で,三人がそれぞれのスマフォを使って写真を撮影する。

「それでは,僕が二人を撮ります。」

「お願いします。私のスマフォを使って下さい。」

待ち受け画面を見た誠が言う。

「ギターを弾いている姿もカッコいいですね。」

「カッコだけです。それでは,誠,Tシャツを持っててくれますか。」

ミサがTシャツを脱いで一度誠に渡す。

「それではお願いします。」

尚美がポーズを変えながら,誠が撮影する。何枚か撮影した後,スマフォとTシャツをミサに戻す。

「有難うございました。」

ミサが写真を確認している間,誠が尚に尋ねる。

「尚,写真を撮るとき、ポーズの付け方って教わるの?」

「うん,ヘルツレコードの方で教わっているけど,自分でも勉強している。」

「そうなんだ。やっぱり,プロはポーズの付け方が素人と違うって感じがする。」

「お兄ちゃん,アキと比べているの?」

「そういうわけでもないけど。パスカルさんだと何て言うかなと思って。」

「パスカルさん,撮影時にいろいろ注文するんだ?」

「背景とかいろいろ考えるみたいだから。」

ミサが今撮影した写真を誠と尚美に見せる。

「美香先輩はポーズとかどうしているんですか?」

「私はさぼっているかな。」

「鈴木さんはロック歌手ですからそれで構わないとは思います。」

「美香先輩がさぼると言っても,明日夏先輩とは違って聞こえるから不思議ですね。ポーズを付けなくてもカッコいいし。」

「でも,尚,そう言えばさっきの待ち受けのギターの写真はもっとカッコ良かったよ。」

「えっ、美香先輩、見てもいいですか。・・・・・本当だ。」

「恥ずかしいです。ギターを持ってギタリストになった気分で,ちょっとカッコを付けています。でも,他の人には秘密でお願いします。」

「分かっています。」

「でも,誠もどうです,新たな尚は?」

「二人とも,撮影時は直視できなかったでした。」

「酷い。人をゲテモノみたいに。」

「そんなことはありません。二人ともとてもまぶしくて。でも,この二人で写っている写真,何か姉妹みたいにも見えますね。」

「お兄ちゃん,それ注意しないと,プロポーズみたいになっちゃうよ。」

「えっ,あっ,そうか。失礼しました。」

「うーん,私としては,尚のお姉さんになって下さいだと,プロポーズとしては0点です。やっぱり,私が中心じゃないと。」

「分かりました。そういうときがあったら気を付けます。」

「はい、そうして下さい。」

「それじゃあ,お兄ちゃん,また羽田空港で。」

「はい,羽田空港で。」

「羽田空港?」

「尚のスーツケースを家まで持って帰って,尚は学校に行く予定です。」

「誠の大学の方は?」

「今はまだ夏休みなんです。9月下旬から新学期です。忙しい鈴木さんにそういうことを言うのは申し訳ないのですが。」

「自分で選んだ道ですから,それは大丈夫です。でも,今年の夏休みは楽しい夏休みになりましたか?」

「はい。夏のライブ,江の島,シンガポールと楽しかったでした。あと,平田社長さんと知り合いになれたことも良かったでした。」

「そうですね。私も同じです。その全部が楽しかったでした。」

尚美が話を遮る。

「あの美香先輩,話の途中で申し訳ないのですが。」

「ごめんなさい。時間ですね。それじゃあ,誠,またお願いします。」

「はい,よろしくお願いします。尚も,また。」

「うん,また。」

ミサと尚美が会場に戻って行った。誠がSNSで連絡を取ると,5人は既にホテルから空港に向かっている途中だったので,バックパック一つで荷物をホテルに預けていなかった誠は直接空港に向かった。


 尚美と何故か上機嫌なミサがテーブルに戻ってきた。

「ミサ、この度は大変申し訳なかったんですねー。」

「ナンシー、さっきは大きな声を出してごめんなさい。日本語の微妙なニュアンスで誤解が起きただけみたいだから、仕方がないと思う。誠のことは気にしないで。それより、全米デビュー、いっしょに頑張っていこう。」

「分かりましたですねー。ファンの方への言葉遣いは注意するですねー。」

「うーん、誠は私のファンじゃなくて、音楽仲間だから。」

「そうなんですねー。橘さんとアンナさんの歌はミサさんの歌の方向性を考えるときに参考になると教えてくれたのは,湘南さんだったんですねー。」

「そうだったんだ。今度,お礼をしなくちゃ。」

「今度、直接会って謝罪するですねー。」

「ナンシー,こういう時,日本では体で謝罪するのよ。」

「久美,分かりましたですねー。日本人男性とは初めてなんですねー。」

「あっ,あのナンシー,日本ではって話、久美先輩の冗談だから。気にしないでね。」

「でも,自分の不始末は全力で償うんですねー。」

「いや・・・。あの、久美先輩、何とか言ってください。」

「それじゃあ,マネージャーの不始末を演者が償って、美香と少年が二人で大人になればいいんじゃないか。」

「わっ,私ですか。あの,それは,・・・・あの,私じゃ誠に失礼と言うか・・・。」

「美香と少年,ピッタリだと思うわよ。」

「ピッタリなんですねー。ミサの相手をしない方が失礼なんですねー。湘南さんの胸にレッツゴーなんですねー。」

「そうそう、レッツゴーなんですねー。」

「でも,・・・・・。」

「あのー,橘さんとナンシーちゃん,そういう冗談はいいかげんにしないと、尚ちゃんの目がもう怖すぎますよ。」

「えっ,尚。・・・・・これは冗談よ。冗談。あはははは。」

「星野さん,冗談なんですねー。」

「尚,絶対大丈夫。ナンシーが誠に会いに行くときには私もついていくから。」

この後すぐ、パラダイスの一行はみんなで写真を撮ったあと,ミサたちと別れて空港に向かった。ミサとナンシーの二人だけになると,ミサたちのところに関係者が訪ねてくるようになった。


 空港で合流した湘南にアキが尋ねる。

「ねえ,妹子からの連絡は何だったか聞いていいい?」

「エンジョイアニメーションの主催者が、マリーナベイ・サンズのレストランで、ライブ関係者の打ち上げを開いていたらしいのですが、会場から大河内さんが見えなくなったため、探すのを手伝っていたんです。」

「見つかったの?」

「はい、屋上を歩いているところを妹と一緒に見つけました。問題はなかったです。すぐに戻るつもりだったそうですが、景色に見とれていて時間を忘れてしまったそうです。」

「そうか,良かった。」

「まあ、マリーナベイ・サンズに来たら屋上を散歩したいよな。俺にも分かる。でも,ミサちゃんに何もなくて良かった。」

「シンガポールの治安はいいですから,大丈夫だと思ってはいました。」

「それもそうだな。」

「そういえば,さっき大河内さんと妹の写真が,二人のSNSに上がっていました。」

「本当に!?見てみる。」

全員がSNSを確認する。

「妹子ちゃんもとても可愛いけど,ミサちゃんはなんかすごいな。」

「僕はミサちゃんのドレス姿,初めて見たよ。やっぱり,すごいとしか言えない。」

「でも,みんなで撮った写真の明日夏ちゃんの方が可愛いよ。」

「おー,さすがセローちゃんはブレないね。」

「ミサちゃん,すごい幸せそうに見える。」

「初の海外ライブを成功させたからな。だが,この写真を撮った撮影者の影は,体型といい湘南ぽいな。」

「えっ!?このライトの影ですか。この影だけだと誰だか分かりませんが,ナンシーさんなんじゃないですか。」

「俺には分かる。」

「この写真だけから湘南ちゃんの浮気を発見できるなんて,さすがはパスカルちゃん。」

「役得とは言え,何か許せん。」

「うん,それはパスカル君と同じだね。」

「えーと,どちらかというと目のやり場に困りました。」

「何だと!絶対許せん。」「それは許せないな。」

誠は少しの間パスカルとラッキーからバシバシたたかれていた。


 帰りの飛行機、パラダイスの一行は、社長の予想の通り、久美がすぐに寝てしまったため、夜食の時間が終わると全員、すぐに寝付いた。誠たちは、パスカルがお酒を飲んで少し騒いでいたが、二日間精一杯に遊んだ疲れからかすぐに寝てしまった。誠は、空席があったため、通路の反対側の中央の座席に移動して寝ていた。暗くなってしばらくしてから、尚美がお手洗いのために席を立ったが,なかなか戻ってこなかった。そのため、悟が心配して,尚美を探すために席を立ったが、尚美が誠の肩にもたれて静かに寝ていたのを見つけて、すぐに席に戻った。明日夏が悟に尋ねる。

「尚ちゃんは?」

「誠君の隣で寝ていたから心配はいらないよ。」

「そうですか。」

飛行機は順調に羽田空港に向かって飛行していった。

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