第24話 海外ライブ(中編)

 飛行機がシンガポールに近づいて、機内が明るくなった。尚美、悟、亜美が目を覚ました。悟が尚美に話しかける。

「尚ちゃん、亜美ちゃん、おはよう。」

「社長、お早うございます。」「お早うございます。」

「尚ちゃんにお願いがあるんだけど、いいかな。」

「もちろんです。何でも言ってください。」

「それが昨日の晩、酔っぱらった久美が、誠君たちのいる席に乱入してご迷惑をかけたみたいなんだよ。」

「そっ、そうなんですか。でも橘さんの方から行ったんですね。」

「それはその通り。誠君たちに非は全くない。誠君が知らせに来てくれたから、なんとか面倒なことになる前に久美を連れ帰ることはできたけど。」

「それは、とりあえず良かったです。でも、兄がこっちに来たんですね。全然気が付かなかったでした。兄たちの方は大丈夫だと思います。」

「ラスカルという人が、久美のCDを二枚とも持っていたんだけど、それが嬉しかったのかもしれない。」

「ラスカル?パスカルさんのことだと思います。」

「パスカルさんっていうんだね。久美はラスカルと呼んでいたんだけど。そうか、名前も間違えていたのか。」

「パスカルさんは大学で哲学を専攻していたので付けた名前だそうです。何となくですが、ラスカルさんの方が似合っていそうですけど。」

「昨日の晩、とりあえずその場でも謝ったんだけど、またきちんと謝りに行こうと思っているんだけど。」

「それで、私にいっしょに行って欲しいわけですね。」

「その通りなんだ。」

「はい、パスカルさんとはパラダイス興行に来る前からの知り合いですし、喜んで一緒に行きます。」

二人の会話で目を覚ました明日夏が尋ねる。

「私も行きましょうか?橘さんを連れて帰るときにはいっしょに行きましたし。」

「明日夏先輩は心配しなくても大丈夫です。何人かは個人的に知っていますし、明日夏先輩のTOと副TOがそろっていますので、イベント以外で接するのはあまり良くないんじゃないかとも思います。」

「うっ、うん。」

「ここは尚ちゃんの言う通りだと思う。それじゃあ、尚ちゃん、いっしょに行こうか。」

「社長、いっしょに行く前に、私だけ行って兄に様子を聞いてきます。大丈夫そうなら呼びに来ます。」

「すまないね。」

尚美が誠の席の方に行く。

「お兄ちゃん、おはよう。みなさん、おはようございます。」

「えーと、なんと呼んだらいんだろう。ここだと妹子の方がいいかな。お早う。」「妹子ちゃん、お早う。」「おう、お早う。」「おー、久しぶり。マスクをしていても、妹子ちゃんは美少女だね。」

「お兄ちゃんに、妹子と呼ばれるのは変な感じだけど、ここではそれで。」

「でも、何かあったの?」

「昨晩のことで、社長が謝罪に来たいみたいだけど、大丈夫?」

「妹子ちゃん、こっちは橘さんといっしょに飲めて楽しかったから、謝罪とかは全然いらないけど。」

「僕もパスカルさんと同じ意見だけど、それで社長さんの気が晴れるなら、来てもらう分は全然構わないけど。」

「分かった。社長を呼んでくる。」

「ちょっと妹子ちゃん、戻る前に『トリプレット』の3人のゆるゆりイラストを見てみない?」

コッコが描いた『トリプレット』のゆるゆりイラストを尚美が見る。コッコが尋ねる。

「どう?」

「公認はできませんけれど、同人誌をコミケで売る分には構いません。亜美先輩によると、今年の夏コミでも、そういう漫画を売っているところもあったようですし。」

「さすが妹子ちゃん、話しが早い。一応聞いておかないと、妹子ちゃんのこととなると、湘南ちゃんがマジで怒るからな。湘南ちゃんもいいよな。」

「妹がいいというなら、仕方がありません。」

「全年齢対象で描くし、コミケで売るときは『三連符(トリプレット)』という名前にする予定だよ。一応、今まで描いた分は湘南ちゃんに送っておくから。」

「有難うございます。それじゃあ、お兄ちゃん、社長を呼んでくるね。」

「うん、そうして。」

尚美と悟がやってきて、悟が謝罪する。

「みなさん、この度はうちの橘がご迷惑をおかけして、大変申し訳ありませんでした。」

「社長さん、謝る必要は全くありません。楽しくお酒を飲んでいただけです。」

「はい、僕たちには迷惑ということは全くなかったです。どちらかというと、周りのお客さんにご迷惑だったかもしれません。ただ、機内が暗くなる前には終わりましたので、大丈夫だったと思います。」

「そう言ってもらえると助かります。」

「僕の場合、両方のCDに橘さんのサインがもらえましたし。」

「久美、酔っぱらっていたのか、かなり文字が曲がっていますね。もし、必要ならちゃんとしたものにしますが。」

「この方が記念になっていいです。あと、これは古本屋で雑誌を買って写真を撮ったものですが、20歳ぐらいの橘さんと社長さんも写っているんですよね。」

悟はジュンも写っていると思いながら答える。

「ベースをカッコつけて持っていますね。お恥ずかしい。この雑誌も懐かしいです。昨晩は、久美も若い時に戻った気分になって、調子に乗ってしまったのかもしれません。」

誠が社長のところに行った理由を説明する。

「橘さんが、『トリプレット』のワンマンライブのことなども話し始めていましたので、もう戻った方がいいと思って、お呼びしました。」

「そうですか。音楽仲間だと思ったのかもしれません。どうも有難うございます。お詫びとお礼の印として、私が個人的にできることがあれば、何かしたいと思いますが。」

「もしよろしければ、社長さんはキャパがスタンディングで200ぐらいのホールに詳しいという話ですので、何か良いホールを紹介してもらえますでしょうか。」

「はい、それはもちろん。セミプロのバンドのためのライブを毎週開いていますから。でも、何に使われるんですか?」

「アイドルのワンマンライブなんですが。こっちのアキちゃんと、これから追加するメンバーで開催する予定です。」

「社長さん、お久しぶりです。」

「君は春の・・・。」

「はい、春のオーディションを受けて落ちたアキと言います。妹子、尚美さんの前からの呼び名ですが、妹子の方がずっと優れていることは分かっていますから、落ちたことは気にしていません。いいホールをご紹介頂ければと思います。」

「分かりました。会社としては無理ですが、個人的に手伝えることがありましたら、手伝わせて頂こうと思います。」

「有難うございます。」「有難うございます。」「有難うございます。」

「本当は私も手伝いたいんですが。」

「尚ちゃんは、これから本当にとっても忙しくなるから。でも、誠君、尚ちゃんは自分では言わなさそうだから、もし、近くで見ていて尚ちゃんに大変すぎると思ったら連絡して下さい。私の方で絶対に何とかしますので。」

「尚のことを心配して頂いて、有難うございます。はい、いつも見守るようにしています。尚、だから、大した用事がないのに話しかけてもいやがらないでね。」

「いやがらないよ。社長もお兄ちゃんも心配してくれて有難う。でも、大丈夫。絶対に成功させてみせるから。」

「うん、確かに尚ちゃんは、こっちの心配をよそに、あっさりと成功させてしまうようにも思えますけどね。」

「そうですね。」

「それでは、パスカルさん、僕の連絡先は誠君が知っていますので、ライブの概要が決まりましたら、連絡して下さい。適当なホールを探してみます。」

「皆さん、お兄ちゃん、また。」

「社長さん、有難うございます。妹子ちゃん、期待しているよ。」「頑張ってね。」「またね。」「またよろしくお願いします。」


 尚美と社長が席に戻った。機内では朝食が配られていた。

「明日夏、久美はずうっと寝ているの?」

「はい、良く寝ています。社長の方はどうでした?」

「ああ、大丈夫だったよ。お詫びというわけではないけれど、僕がパスカルさんや誠君たちが開くアキさんのワンマンライブのお手伝いを個人的にすることになった。」

「アキさん・・・」

「都内のスタンディン200の箱は良く知っているし、『パラダイスドリームス』のために、アイドルのライブについても下調べをしてあったから大丈夫だと思う。まあ、『トリプレット』がいきなりメジャーデビューしちゃったから不要になったけど。」

亜美が後ろを向いて話しかける。

「『パラダイスドリームス』、懐かしい名前ですね。あれから半年以上があっという間でした。」

「亜美先輩、『トリプレット』の名前の権利はヘルツレコードが持っていますから、もし契約解除されることになったら、『パラダイスドリームス』で再デビューかもしれませんよ。」

「そんなことが・・・・・あー、由香か。」

「そうなったらなったで、『パラダイスドリームス』でドームでワンマンライブです。」

「そうですね。私はリーダーに付いていきます。」

「そのためにも、社長はドームでのワンマンライブ開催をマネージできるようになって下さいね。」

「尚ちゃん、厳しい。」

「でも、リーダー、朝食が配られているのに、肝心の由香は戻って来ませんね。」

「さすがの由香さんも、着陸態勢に入る前には戻ってくると思いますよ。」

「由香は一人で3席使って寝ているんですかね。あと社長、もしリーダーのお兄さんたちのワンマンライブに手伝いが必要なようでしたら言ってください。私も個人的にライブを手伝います。」

「亜美ちゃんが?」

「はい、実は私、ライブの裏方の仕事がどんなものか知っておきたいんです。」

「なるほど。うん、それはいい心がけだと思う。」

「有難うございます。あと、本当はコミケの売り子とかもやってみたくて。」

「そっ、そうですか。コミケの方は良く分からないけど、誠君たちのライブの手伝いならば問題はないと思う。お客さんに身元がバレないことが絶対の条件だけど、それも誠君たちがきちんと考えてくれると思う。ただ、みんなボランティアでやっているみたいで、無給になることは覚悟してね。」

「はい、無給で構いません。決まったらリーダーを通してお兄さんに相談してみます。」

明日夏が尋ねる。

「でも、社長、亜美ちゃんの話、ヘルツレコードとの契約的には大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫。芸能活動に当たらないから、そこまでは制限されない。人前で歌ったり、トークショーみたいにそれでお客を呼ぶようなものはだめだけど。」

「有難うございます。リーダーや由香と違って、私は、『トリプレット』のイベントがない土日に時間がありますから、勉強のためにやってみようと思います。リーダー、構わないでしょうか?」

「はい、社長の注意に従えば、問題ないと思います。」

「有難うございます。それじゃあ、手伝いに参加できた場合、ついでにリーダーのお兄さんとアキさんの関係を調べてきて、リーダーにご報告します。」

「えっ、あっ、はい。」

明日夏が言う。

「何だ、亜美ちゃんの本当の興味はそっちなんだ。」

「でも、明日夏さんも興味ありません?リーダーのお兄さんがどんな人なのか。」

「うーん、尚ちゃんのお兄ちゃんだから、全く興味ないことはないけど。」

「それでは、明日夏さんにもご報告します。」

「尚ちゃんのお兄ちゃん、今、本当にどんな感じなんだろうね。ちょっと楽しみ。」

「もう、みんなで、うちの兄をネタにして。」

「リーダーの場合は、興味があるというより、心配なんじゃないですか。」

「そうですね、亜美先輩の言う通り、心配じゃないことはないです。」

「ですので、私が調べてきます。」

「分かりました。お願いします。」

悟は、「これも若い女の子の娯楽の一つなのかな。」と思いながら聞いていた。


 一方、パスカルたちは、アキのワンマンライブがより現実的になって喜んでいた。

「パラダイス興行の社長さんが、個人的でも力を貸してくれるのは嬉しい。」

「そうですね、もともとセミプロのロックバンドのための音楽事務所ですから、お金をかけないでライブを開くコツも知っていると思います。」

「それは頼もしいな。後は集客だけだ。」

「今回は特典会ではなく、ライブをメインに集客しなくてはいけないので、それが一番難しいですよね。」

「おう。200の箱だから、採算でなく見栄だけを考えても、100は入れたい。」

「これからユミさん、マリさんが入るので、大丈夫だとは思いますが。」

「ねえ、パスカル、私一人で100を集客して、プラス50にすれば、採算もとれる?」

「おう、チケット代は安めにするつもりだけど、150入れば黒字になると思う。」

「それじゃあ、頑張る。」

「でも、アキちゃん、分かんないよー。ユミちゃんが一番集客するかも。」

「うっ。」

「歌の上手さなら、マリさんがダントツです。」

「うっ。何か、二人とも厳しいな。」

「蓋を開けてみたら、30かもしれないしな。」

「うっ、ステージ上だとそれが一番きつい。」

「いや、それはボーナスがふっとぶ俺が一番きつい。」

「そうですね。でも、最善を尽くしましょう。」

「うん、それしかないから。」

「おう、でも楽しみだぜ。アキちゃんのワンマンライブ。」

「そうね。」

あと30分で着陸する旨がアナウンスされたころ、セローが戻ってきた。

「セローさん、お帰りなさい。」

「ただいま。昨日の夜、ここに座っていた女の人は、湘南君の友達ー?」

「違います。パラダイス興行の橘さんが、いらっしゃっていました。」

「えっ、橘さんが。また何でー。」

「たぶん、向こうのグループにお酒が飲める人がいなくて、お酒を飲める人を探していたからだな。俺がお酒の相手をしたけど、暗くなる前に社長さんが連れて帰って行った。」

「そうなんだー。明日夏ちゃんのワンマンの情報、計画があれば日にちだけでも聞きたかったなー。」

「セローさん、そういう話しはしてはいけないと思います。」

「そうだけど、早く分かれば出勤日を調整できるからなんだけど、湘南君のいう通りかー。」

「おれは、橘さんが歌手だったときのCDにサインしてもらったよ。」

「この写真、何かすごい怖そうー。」

「確かに、このころの橘さん、ギザギザしていそうです。」

「そこがいいんじゃん。」

「えーー。可愛い方がいいよー。」

「まあ、セローはそうだろうな。」

「明日夏ちゃん、最高ー!」


 少しして、由香が席に戻ってきた。

「おう、みんな、帰ったぜ。」

「由香、お帰り。」

「由香先輩、お帰りなさい。今から帰りの飛行機に乗るまでは、由香先輩は『トリプレット』のメンバーであることを自覚してくださいね。」

「おう、分かった。リーダー、サンキューな。」

「でも、由香、目が赤いけど、あんまり寝ていないみたいだな。」

「あー、夜行便の飛行機に乗るのが初めてで、あんまし寝られなかった。」

「由香、意外と繊細なんだ。私は良く寝られたよ。」

「まあ、亜美は、いつでもどこでも寝られそうだからな。」

「そんな、人をストレスがない人みたいな。」

「でも、その方がいいんじゃないか。」

「それは、そうだけど。」

後席では、起きたばかりの久美が悟から二日酔いの薬をもらって飲んでいた。

「この薬効くのよね。」

「明日のライブの打ち合わせがあるから、夕方までには治すんだよ。」

「まだ、10時間以上あるから大丈夫。」

「分かった。昨日なんであんなに飲んだんだろう。やっぱり、ただ酒は進むわね?」

「昨日のこと、記憶にないの?」

「ただ酒が嬉しかったこと以外はない。」

「じゃあ、うちだけの話しじゃないから、後で話すよ。」

「えっ、私、なんか悪いこをとした?」

「悪いというより、うるさくて迷惑をかけたぐらいかな。」

「そっ、そうか。また、悟が私の代わりに謝ったのね。」

「いつものことだから、構わないけど。」

「ごめんなさい。」

「まあ、健康には気を付けて。」

「分かった。」


 飛行機は無事着陸し、それぞれのグループが飛行機を降りた。誠たちは、休憩する場所が多くある空港に留まって休んだ後、ホテルに荷物を預けて、エンジョイアニメの会場に行って、展示を見ることにしていた。そのため、朝の9時ごろまで、空港内のリクライニングができる椅子に座って休んだ。

 悟たちは出国手続きをして、主催者が用意した出迎えのワゴン車に乗って、アーリーチェックイン(通常のチェックイン時間より早い時間にチェックインすること。追加料金が必要なことがある。)ができるように手配してあるホテルに向かった。

「部屋は、久美と明日夏、『トリプレット』はエクストラベッドをいれた3人部屋を使う予定。鍵はカードキーで、全員が部屋の鍵を持つことができる。」

「社長と橘さんが同じ部屋に泊まれば、全員がツインで泊まれるけど。」

「そっ、そういう訳にもいかないだろう。明日夏ちゃん。」

「私は悟なら平気だけど。」

「ほら。」

「社長は、橘さんから男性扱いされていないんだな。」

「まあ、由香の言う通りかもね。」

「そういうのじゃなくて、昔は男性4人と雑魚寝とか平気だったし。」

「それじゃあ、社長、女性4人と雑魚寝、行きますか?」

「でも明日夏さん、何で女性が4人だけ・・・・・あっそうか。由香は無理か。」

「おお、さすがに鈍い亜美ちゃんでも分かったか。」

「鈍いって、明日夏さんには言われたくないです。」

「明日夏ちゃんと『トリプレット』のみんなは、演者なんだから、そういう誤解を招く可能性のあることはしないし、してはいけないから。」

「とすると、社長と同じ部屋に泊まれるのは橘さんだけですね。」

「明日夏、大人をからかうもんじゃない。では、夜9時にみんなの様子を確認するけど、それまでは自由にしていいいよ。」

「ねえ、ねえ、尚ちゃん。ミサちゃんも同じホテルなんだよね。」

「はい、この建物の最上階のスイートルームで新しいマネージャーさんと一緒に泊まるということです。」

「おー、さすが。でも、同じ建物だと便利だね。」

「はい。それで社長、昼前から美香先輩と観光する予定ですが、社長も途中までいっしょに行きますか?」

「いや、若い人たちで行ってらっしゃい。安全のために主催者が用意したワゴン車が使えるようにお願いするから。」

「それは助かります。」

「それじゃあ、主催者の担当にワゴン車のことを連絡しておくから、昼まではゆっくりしていてね。」

「有難うございます。」

悟が3部屋分のチェックインをして、6人はそれぞれの部屋に向かった。

「リーダー、飛行機で眠れなかったんで、午後はホテルにいようと思うけど、いいかな?」

「由香、せっかくシンガポールの街を散歩できる機会なのに、行かないの?」

「ああ、ダンスは体力使うし、明日は新曲をステージで初披露だし。」

(動画配信サイトでのショートバージョンのMV配信は始まっていた。)

「でも、由香、新曲のセンターはリーダーだよ。」

「それでも、初めての海外公演だし。」

「由香はプロの意識が高いのかー。でも、私は行ってこようと思うんだけど?」

「もちろん。亜美はまだ高校生だし、いいんじゃないか。いろいろ見ることも必要だよ。」

「分かりました。由香先輩はホテルでゆっくりしていて下さい。」

「おう、リーダー、サンキューな。」

由香が行った後、尚美が一人ため息をついた。それを見た明日夏が尋ねる。

「尚ちゃん、何でそんなに黄昏てるの?」

「えっ、私、そんな疲れた中間管理職みたいですか。」

「うん。」

「分かりました。気を付けます。」


 シンガポール空港で休んでいた誠たちのところに、関西空港発の深夜便でシンガポールに着いたラッキーがやってきた。

「おはよう。みんな無事に着いたみたいで、なにより。」

「ラッキーさんも、おはようございます。」「おはよう。」「ラッキーちゃん、おはよう。」「おはようー。」「おはようございます。」

「おー、さすがみんな、若いから元気だね。」

「俺はそんなに若くないですよ。」

「確かに。パスカル君だけ少し元気がなさそうだね。」

「昨晩はお酒がただで飲めたので、少し飲みすぎました。でも、あと1時間もすれば回復します。」

「それは頼もしいね。僕はイベント前だから一杯にしておいた。もちろん帰りは飲むつもりだけど。」

「ラッキーさんといっしょに飲めないのが、寂しいです。」

「コッコちゃんは飲まなかったの?」

「最近、徹夜が続いていたんで、すこし飲んだら寝てしまったよ。本当にもったいないことをしたよ。」

「ラッキーさん、面白い話もあるんですが、ここだと何ですので、別の場所で話します。」

「はい、僕もその方が良いと思います。」

「何だろう。まあ、楽しみにしておくよ。」

「全員がそろったところで、今日の予定ですが、とりあえず、みなさん、お腹はすいていますか?」

「私は、大丈夫。着陸前に朝食が出たから。」

「俺も、まあ大丈夫。」

「それでは、もう少ししたら出発しましょう。まず、ホテルに荷物を置いてから、会場に向かいます。昼食は早めに11時ごろにとろうと思います。」

「湘南君、SIMカードは現地のものにしておいた方がいいから、SIMカードを買って入れ替える時間を考えた方がいいと思う。」

「はい、ラッキーさんの言う通りだと思います。みなさん、スマフォはSIMフリーにしてきましたか?」

「おう、良く分からなかったけど、してきたぞ。」「私も。」「僕もだよー。」「私はもともとSIMフリーのスマフォだから。」

「ぼくもそうですが、ラッキーさんもそうですか。」

「僕は海外用のSIMフリーを別に持ってきている。それじゃあ、SIMカードを買ってから4Gでの通信を確認しながら休もう。」

「了解。」


 昼前に美香から尚美に連絡があった。

美香:今ホテルに戻ってきた

尚美:何時ごろ出発できますか

美香:私は今すぐでも大丈夫

尚美:昼食はまだですよね

美香:うん

尚美:それでは、いっしょに食べましょう。他の人をちょっと確認してきます

美香:待ってる

「亜美先輩、いつごろ部屋を出れそうですか?」

「あと10分で行ける。」

「それでは、10分後に橘さんの部屋に来てください。」

尚美も自分の支度をすぐに済ませて、久美と明日夏の部屋に行った。

「明日夏先輩、いつごろの部屋を出れそうですか?」

「うーん、あと5分ぐらい。」

「ということは、15分後か。」

「尚ちゃん、酷い。ミサちゃんの部屋に行ってみない?眺めがいいかもしれないよ。」

「分かりました。聞いてみます。」

尚美:美香先輩の部屋に行ってみていいですか?

美香:もちろん、大歓迎

尚美:それでは20分後ぐらいに美香先輩の部屋に伺います

美香:ナンシーというマネージャーがいっしょだけど大丈夫だから

尚美:分かりました

 尚美は「英語が上手なマネージャーさんか。怖い人じゃなければいいけど。」と思いながら、ワゴン車の運転手に迎えの時間を連絡した。

「橘さんはどうします?」

「二日酔いだから。」

「分かりました。」

「でも、また女だけでの観光旅行か。」

「もしかすると、ナンシーさんという美香先輩の新しいマネージャーさんが、加わるかもしれませんが。」

「ナンシー?女じゃ同じことじゃない。少年でも呼んだら。」

「兄は兄のグループの面倒をみているみたいですので。」

「尚ちゃんのところは、似たもの兄弟だからね。」

「それは明日夏先輩の言う通りかもしれません。では、橘さん、行ってきます。8時までには戻ります。」

「橘さん、行ってきます。」「行ってくるねー。」


 三人は最上階のミサの部屋に向かい、呼び鈴を鳴らすと、ミサとナンシーが出てきた。

「明日夏、尚、亜美、こんにちは。こちらが新しいマネージャーの早川ナンシーさん。アメリカ育ちで、アニメが好きで日本にやってきたって。」

「ナンシー、ハーイ。」

「明日夏、ハーイ。」

二人が抱き合う。

「あれっ、明日夏とナンシーは知り合いだったの?」

「えっ、初対面だよ。」

「はーい、初めて会いましたですねー。」

「そうなのね。分かった。明日夏は、芸名も本名も、神田明日夏と言って・・・。」

「神田明日夏さん!もしかして『ジュニア』の主題歌を歌っている方ですか?」

「えっ、そうだけど。」

「これは、とんだ失礼をしてしまいましたですねー。」

「いえいえ、それほどの者ではないから大丈夫だよ。」

「こちらが、『トリプレット』の・・・・」

「『U-18』の主題歌を歌っている?」

「うん、そうだよ。」

「そうすると、星野尚美さんと柴田亜美さんですね?」

「その通りです。ナンシーさん、初めまして、星野なおみです。よろしくお願いします。」

「柴田亜美です。よろしくお願いします。」

「なおみちゃんと亜美ちゃん、妖精さんみたいですねー。ミサさんは、すごい方々とお友達なんですね。驚きましたねー。」

「もしかすると、ナンシーさんはアニメが好きで日本に来たということですが、美香先輩も有名なアニメの主題歌を歌われていますよ。」

「もちろん、知っていますねー。ですけど、ミサが歌っている主題歌のアニメと趣味が合わないんですねー。」

「そうですか。歌手としても美香先輩の方がすごいと思うのですが、ナンシーさんは美香先輩のことをどう思っているのですか?」

「歌の基礎がすごくしっかりしている引きこもりロックシンガーですねー。」

「うーん、ナンシーちゃん、鋭い。」

「えー、明日夏、私そうなの?」

「でもナンシーちゃん、ミサちゃんは集中力がすごくて、本当にすごい人だよ。」

「すごく集中しすぎて、すごい引きこもりになっちゃったんですねー。」

「えーと、何と言ったらいいんだろう。」

「さすが、アメリカ育ちって、明日夏さんをも超えてくるんですか。」

「亜美先輩、アメリカ育ちとかいう問題ではないと思います。」

「でも、ナンシー、ナンシーはロックが好きなんだよね。」

「はーい。高校生までは、ロックにはまっていて、24時間ロックを聴いていましたねー。でも、大学に入って日本のアニメを見て、アニメ研究会に入って、オタクになったんですねー。大学を卒業してアメリカでオタク活動をしていたんですねー、今回、溝口エイジェンシーで、ミサのマネージャーに採用されて日本に住むことができたんですねー。」

「そうなんだ。でも、24時間ロックを聴くって。」

「授業中も、食事をしているときも、お風呂に入っているときも、寝ているときも聴いていたんですねー。」

「そうなんだ。それはすごいと思う。」

「ナンシーちゃんは、今は、24時間アニメを見ているの?」

「そうしたいですねー。でも働いている間と寝ている間は見れないからロックを聴いているんですねー。だから、アニメを見るのは8時間位ですねー。日本は新作アニメが40本以上あるから楽しんですねー。」

「全部見ているの?」

「もちろんですねー。」

「うーん、すごい。」

「さすがの明日夏でも?」

「うーん、私は20本ぐらいだ。」

「20本でもすごいけど。」

「ところで、ナンシーさんもいっしょにシンガポールの観光に行きますか?」

「いっしょに行きたいんですねー、でも、午後から会場で明日の打ち合わせをしなくてはいけないんですねー。そのついでにエンジョイアニメーションの会場も見てきたいんですねー。『ジュニア』のブースもあるんですねー。」

「『タイピング』のブースは?」

「ありますけど、私は『ジュニア』の晃(あきら)の方が好きですねー。」

「そんなことは、ないですねー。絶対『タイピング』の直人の方がいいんですねー。」

「あの、明日夏先輩、話し方がいつもと違ってきていますよ。」

「晃の方がイケメンなんですねー。」

「えーー、あんな二股じゃない、何股みたいなのがいいんですかねー。」

「カッコよければ、すべてが許されるですねー。」

「ナンシーさんも、明日夏先輩も、落ち着きましょう。それに、明日夏先輩は両方の主題歌の担当じゃないですか。」

「そうだけどさー。」

「あと、美香先輩はあまり気にしないでくださいね。」

「尚、気を使ってくれて有難う。明日夏、何を言っても大丈夫だよ。うちの兄がいけないのは分かっているから。」

「そうか。ミサちゃん、変なことを言ってごめんなさい。」

「ううん。明日夏が正しい。ナンシーもアニメならいいけど、実生活では気を付けないと。尚が言っていた通り、うちの兄みたいな、何と言うか、プレーボーイもいるから。」

「大丈夫なんですねー。最後に勝っていればいいんですねー。戦わずして負けるのが人間として一番いけないんですねー。」

「リーダー、ナンシーさん、橘さんも超えてきていますよね。」

「本当に橘さんの良い相手になりそうです。それでナンシーさん、ナンシーさんはいつも勝っているんですか?」

「そうだったら苦労はないですねー。でも、最後は絶対に勝つんですねー。」

「アメリカの方の発想ですね。はい、その積極性は参考にしたいと思います。」

「まあ、ミサちゃんなら、全勝できそうだけど。」

「だから失恋の歌が上手に歌えないというやつですね。」

「なるほどですねー。ミサのナイスボディーならそうなるんですねー。」

「もう、みんなで人をからかって。私だって人を好きになっても、何もできなくて苦しい想いをしたことならあるから。」

「それはミサが引きこもるから、いけないんですねー。」

「うーん、ナンシーの言うことは分からないこともない。待っているだけじゃやっぱりだめだと思う。ナンシーや久美先輩を見習わって自分から行かないとか。」

「そうなんですねー。戦えば、ミサなら楽勝なんですねー。」

スマフォを見た尚美が言う。

「ちょうど、ワゴンが玄関に到着したそうですので、出発しましょう。」

「分かった。景色を見てもらえなくなっちゃった。ナンシー、帰りは夕食を食べてからだから、たぶん夜になると思う。」

「分かったですねー。帰ったらまた来るといいですねー。夜景がとても綺麗ですねー。」

「ナンシーのいう通り。帰りにまた寄って。」

「はい、そうしましょう。」


 4人がエレベーターで一階に降りて、ワゴン車に乗り込んだ。

「ミサさん、すごいマネージャーさんでしたね。」

「溝口社長が選んだんでしょうか?」

「うん、そうみたいだけど。」

「美香先輩にもっと積極的になって欲しいということだとは思いますけど。」

「海外で活動するには、あんな感じでがんばらないとかな。」

「ナンシーさんはかなり極端な方だと思います。とりあえず昼食にしましょう。ガーデンズ・バイ・ザ・ベイのレストランに予約が入れてあります。」

「さすが、尚ちゃん。出発進行!」

4人は、ワゴンでガーデンズ・バイ・ザ・ベイに向かった。


 空港を出た誠たちのグループの6人は、その夜に泊まるホテルに寄って荷物を預けたあとエンジョイアニメーションの会場に向かい、入場した。

「混まないうちに、昼食を取ってしまいましょう。」

「湘南君の言う通りで、昼食を取りながら今日行く場所を考えるのが良いと思う。」

「おう、さすがに腹が減ってきた。」

「私も、お腹がすいてきた。」

6人は会場にあるフードコートに入り、席を取った。

「夕食は、一応中華です。」

「じゃあ、私はハンバーガーにしよう。」

「俺は、ラーメンだ。」

「パスカル、湘南が晩は中華だって言ったじゃない。」

「俺は、一日三食ラーメンでも大丈夫だ。」

「でも、同じものばかり食べていると健康に悪いわよ。」

「大丈夫。野菜ジュースも飲んでいるから。」

「もう、塩分の取りすぎにも気を付けてね。ラッキーは何にするの?」

「僕はサンドイッチかな。」

「僕は牛丼にします。」

「そんなのがあるの?本当だ。日本のチェーン店のね。」

「はい、味が同じかどうか比べてみようと思って。」

「なるほど。セローは?」

「無難だからハンバーガーにするよー。明日のライブまでは、お腹を壊したくないんだよー。」

「セローらしい。コッコは?」

「フライドチキンかな。」

「それでは、僕が席の荷物を見ていますから、みなさん行ってきてください。」

「やっぱり、日本と違って目を離すと危険か。」

「大丈夫だと思いますが、念のため。」

「それじゃあ、俺も見ているよ。」

「それじゃあ、私も見ている。」

「コッコは見ているものが違うんでしょう。」

「そうだけど、ちょうど半々の人数でいいんじゃない。」

「それもそうね。じゃあ行ってくる。」

アキたちが買いに出て、戻ってきた。

「それでは、行ってきます。先に食べていて下さい。」

「分かった。行ってらっしゃい。」

誠たちが買いに出て戻ってきた。誠が牛丼を一口食べる。

「湘南、どう、こっちの牛丼の味は?」

「少し油っぽいでしょうか。」

「見た感じもそうね。ラーメンは?」

「まあまあだな。ラッキーさんは?」

「うん、チェーン店だから日本と同じ味だ。」

「チキンも同じ味だよー。」

「アキちゃんもサンドイッチか。」

「へへへへへ、ラッキーにおごってもらっちゃった。」

「あー、アキちゃんの飯はおごる約束だったから、俺が出しますよ。」

「それは心配しなくて大丈夫。」

「それじゃあ、夕食はコッコちゃんもおごるよ。」

「おー、ごちになります。」

「この後イベントを見ますが、集合時間は5時です。場所は、入口のホールで、地図だとこの位置です。」

「今の位置はどこ?」

「ここです。」

「ここね。分かった。」

「来るのが難しいようでしたら、スマフォで連絡して下さい。探しに行きます。」

「もし、歩き疲れたら、ライブ会場に行くといいと思うよ。」

「ラッキー、今日は何をやっているの?」

「声優やアニメ監督のトークショーと地元の方たちのコスプレショーみたい。」

「それも面白そうね。」

「そのイベントは5時前に終わりますから、終わってから来ても大丈夫です。」

「分かった。」

「それじゃあ、展示会場に行きましょう。」

「おう。」「レッツゴー。」

アキ班の6人は、集合場所を確認した後、思い思いの場所に向かって行った。


 明日夏たちは、ガーデンズ・バイ・ザ・ベイのレストランで昼食をとった後、空中の散歩道、スカイウエイを散歩した。

「明日夏さん、シンガポールまで来ると誰も私を分からないみたいで、人の視線を気にしなくていいから楽です。」

「亜美ちゃん、私もだよ。だれも後ろ指をささないから楽だよね。」

「後ろ指を指されるのは明日夏先輩だけです。でも、美香先輩だけは何か視線を集めていますね。」

「さっきからそうなんだけど、私が主題歌を歌ったアニメ、そんなに有名なのかな。マスクをした方がいいかな。」

「今のミサちゃんの場合、マスクは無駄かもしれない。薄着だから、ミサちゃんのナイスボディーに視線が集まっているだけじゃないかな。」

「そんな、明日夏までナンシーみたいなことを。」

「美香先輩、上着を取りに戻りますか?」

「ううん、そこまでしなくても大丈夫。」

「それでは、みんなで美香先輩が隠れるような位置で歩きましょう。」

「それじゃあ、背の高い私が先頭で、隊列を紡錘陣形に再編するよ。」

「明日夏、紡錘陣形って?」

「えーと、明日夏先輩が前で、亜美先輩と私が美香先輩の少し前の左右を歩きます。」

「さすが尚ちゃん、良く分かっているね。お兄ちゃんの影響かな。」

「明日夏さん、私も紡錘陣形ぐらい知っていますよ。相手の守備を突破するためのサッカーの陣形ですよね。」

「亜美先輩、それはアニメだけの話で、本当のサッカーに紡錘陣形ありません。あの、念のため知っておいて下さい。」

「そうなんですか。」

「はい。」

「本物のサッカーに、あの有効な戦法がないなんて、驚きです。」

「はい、私も驚きました。では、次は植物園に行きます。」

「尚、ここの景色も綺麗だから写真を撮ろうよ。」

「そうですね。そうしましょう。」

「それじゃあ、私が撮るね。」

明日夏がスマフォにセルカ棒を取り付ける。

「明日夏先輩、セルカ棒ですか。さすがです。でも、照明の電線も見えますので、セルカ棒が電線に触れないように気を付けて下さい。」

「はーい。」

 明日夏が棒の角度を変えながら、撮影する位置を探す。

「明日夏さん、セルカ棒を使うなら、もっと斜め上から撮った方が・・・そうでした、電線に触れないようにですね。ごめんなさい。」

「亜美ちゃん、そうじゃなくて、上からだとミサちゃんがセクシーショットになっちゃって、SNSに使いにくくなるかなと思って。」

「そうなんだ。明日夏、気を使ってくれて有難う。」

「明日夏先輩、あまり気にせず、いろんな角度から撮りましょう。公開するものは、その中から選べばいいと思います。」

「まあ、尚の言う通りね。」

「でも、リーダー、明日夏さんだと、間違って写真を流出させちゃうかもしれませんよ。」

「亜美ちゃん、酷い。」

「もしそうなっても、社会通念上問題がある恰好ではありませんので、美香先輩の人気が増すだけだと思います。」

「尚ちゃん、酷い。」

「えっ、美香先輩、申し訳ありません。」

「ごめん、冗談。明日夏の真似をして言ってみたかっただけ。それじゃあ、植物園に行きましょう。」

「はい、了解です。」

 4人はガーデンズ・バイ・ザ・ベイの植物園を見てから、お茶をした後、マーライオンのある公園にワゴン車で向かった。

「ケーキ、美味しかった。」

「明日夏先輩は、それだけ食べて、太らないところが羨ましいです。」

「亜美ちゃんは、ダイエットしているんだっけ。」

「はい、オーディションの時からしています。」

「明日夏先輩は無駄に動いて、エネルギーを消費しているんだと思いますよ。」

「なるほど。明日夏さんの真似をして動けばいいんですね。」

「まずは、身振り、手振りを大きく。」

「こんな感じですか。」

「はい、方向性はいいと思います。明日夏先輩に比べればまだまだですが。」

「尚ちゃんと亜美ちゃん、私で遊んでいるでしょう。」

「はい。」「はい。」

「明日夏、楽しい後輩を持ったわね。」

「これも、明日夏先輩の影響だと思います。」

「そうね。」

「おー、マーラーカオだ。」

「それは食べ物で、マーライオンです。まだ、食べ足りないんですか。」

「そうそう、マーライオン。でも、マーラーカオで作ればいいのに。」

「お土産の店にあるかなー。」

「亜美ちゃんも興味あるの?」

「両親へのお土産にいいかなと思って。」

「じゃあ、あとで探してみよう。」

(著者注:ググった感じで、マーラーイオンのマーラーカオはなさそうでした。)

「この海の上の道を行きます。」

「尚、分かった。この先で写真を取りましょう。」

「了解です。」

 明日夏がマーライオンの真似、亜美が水を受ける真似をする。

「二人とも何をやっているの、もう。」

「明日夏先輩、亜美先輩、それではいきます。5、4、3。」

「にいー。」「にいー。」

尚美が何枚か写真を撮る。

「尚ちゃん、考えたね。とっさに対応できなかった。」

「はい、対応できなくて良いですので、美香先輩、どうぞ。」

「どうしようかな。亜美と同じポーズかな。」

「無理はしなくていいと思います。」

「でも、どうしよう。」

「水の女神みたいな感じでは?」

「分かった。それでいく。」

「リーダーもどうぞ。私がデジイチで撮ります。」

「そうでしたね。お願いします。」

「それでは撮ります。5、4、3。」

「にいー。」「じゅうにいー。」

亜美が何枚か写真を撮る。

「しまった。尚ちゃんの術中にはまってしまった。足したぐらいではだめだ。かけるといつくだ。・・・・・・・」

「60です。」

「それなら大丈夫か。」

「ちょうど、水を噴いているようになります。」

「なるほど。さすが、尚ちゃん。」

「撮影した、写真を見ますか?」

「はい、お願いします。」

亜美と尚美が写真を見せる。

「リーダー、コメディアン二人とモデル二人みたいな感じですね。」

「個性が出ていますね。由香先輩がいませんが、『トリプレット』として、亜美先輩と私とで撮りましょう。」

「はい、それじゃあ、今度は私が水を噴く方でいいですか。」

「そうでなくて、二人ともアイドルとして撮りましょう。」

「そっ、そうですね。リーダー。すみません。」

「大丈夫です。明日夏先輩、写真をお願いできますか?」

明日夏が亜美のカメラを借りて撮影する。

「じゃあ撮るね。5、3、1。」

「えっ。」「マイナスいちー。」

「バレたか。」

「掛け声はいいですから、黙って写真を撮ってください。」

「はーい。」

明日夏が写真を連続で撮り、カメラを亜美に戻す。

「亜美ちゃん、どう。ちゃんと撮れている?」

「はい、大丈夫です。」

「これなら、SNSに使えそうです。」

「尚ちゃんも作り笑顔が上手くなったね。」

「まあ、デビューが決まってから半年経っていますし。」

「亜美ちゃんは、作り笑顔がまだまだだね。」

「はい、明日夏さんの言う通りです。作り笑顔をしなくてもいつでも笑顔の明日夏さんが羨ましいです。」

「ふふふふふ、私のように悟りを開くには、亜美ちゃんも、修行を積まないと。」

「分かりました。もっともっと、たくさんアニメを見るようにします。」

「その通り。」

「毎季20本を超えるように頑張ります。」

「亜美先輩、睡眠時間は取ってくださいね。」

「分かっています。スマフォを5Gにして待ち時間にもアニメを見れるようにします。」

「おー、さすが亜美ちゃんだね。でも、尚ちゃんはもう5Gだよね。」

「はい、ほぼ全バンドが入るそうで、日本とシンガポールのSIMカードが入っています。」

「お兄ちゃん、さすがだね。それで尚ちゃん、この後は?」

「ショッピングセンターに寄ってから、中華料理店で夕食をとって、帰る予定です。」

「よーし、出発だ!」

「その前に、美香先輩はTシャツを買って着た方がいいかもしれません。」

「そうね。そうする。」

「それじゃあ、また紡錘陣形でお土産屋さんに出発だ!」


 夕方5時少し前に、誠たちがイベント会場の集合地点に集まった。

「えーと、全員そろっていますね。夕食は中華レストランを予約してあります。時間に余裕がありますので、ゆっくり行きましょう。」

「湘南、深夜便で直接アニメイベントだから、さすがに疲れたわ。」

「はい、今日は夕食の後はホテルに戻って休む予定です。」

「うん、そうしましょう。」

「ラッキーさん、ホテルに戻ったら部屋で軽く飲みませんか?」

「そうだね。今日は軽くにしておこう。コッコちゃんとセローは?」

「僕は明日のライブのために、今日は休むよー。」

「私はお邪魔するよ。悪いね、湘南ちゃん。」

「何でです?」

「パスカルちゃんを取っちゃって。」

「それは構いません。僕も寝るときはセローさんの部屋に行きます。」

「湘南ちゃん、新婚旅行の初夜を、それではだめだろう。成田、いや羽田離婚の原因になるぞ。」

「ならん。」「なりません。」

「その話しはいいとして、みんな、イベントはどうだった?」

「出店しているアニメは日本とそれほどは変わらない感じです。ディズニーやアメコミ関係のブースが日本より多かったです。あと、コスプレショーは参加者も観客も陽気でした。」

「何かグッズは買ったの?」

「明日のライブグッズが売っていたので、Tシャツと5人のアクスタを買ってきました。それと『ピュアキュート』のグッズです。」

「そうだよね。『ピュアキュート』、10月から『トリプレット』が主題歌を歌うんだよね。」

「話しのネタになるかもしれないと思いました。ただ、店には小さな女の子と僕ぐらいの男性が多かったのですが、同じキモオタと見られていると思うと、やっぱりいい気持ちはしなかったでした。」

「いや、湘南ちゃん、悪いけど、湘南ちゃんは世間から見ればキモオタそのものだろう。うちの大学は大部分がそうだから気が付かないかもしれないけど。」

「そっ、そうなんですね。確かにそうかもしれないです。」

「湘南、大丈夫、それほどでもないから。」

「アキちゃんも地下アイドルをしているんだから、世間から見たらまともじゃない。」

「コッコも腐女子じゃん。」

「その通り。世間の人からは、まともじゃないと思われている。」

「まあまあまあ、みんな喧嘩しない。」

「喧嘩はしていないよ。だから、世間の人から冷たい目で見られても気にしないで、6人仲良くしようということ。」

「コッコさんが言うことが正しそうです。」

「そうね。」

「パスカルさんはどうでした。」

「おう、今度の冬アニメの『地獄のルーレット』が良かった。」

「何それ、怖いアニメみたいだけど。パスカルはそういうアニメがいいの?」

「いや、アキちゃん、パスカル君が言った『地獄のルーレット』は、タイトルは怖そうでも内容はハーレム系のアニメだよ。」

「へー、そうなんだ。」

「おう、ラッキーさんの言う通りだ。核ミサイルをたくさん持った国の独裁者プーリンが追い詰められて、攻撃を止めないと全人類の命をかけたロシアンルーレットをするぞって脅したんだ。」

「ロシアンルーレットって、拳銃に弾を一発入れて自分の頭を撃つゲームなんだけど、それが発射されたら自分も死ぬけど、自動的に核ミサイルが一斉に発射されて人類がほぼ絶滅するという設定。」

「やっぱり、怖い話じゃん。」

「で、実際発射されるんだけど、お金持ちの家に家庭教師で来ていた男子大学生とその家の子供の女子小、中、高、大学生と、家専属の若い女医さん、お母さんの女性6人と核シェルターに100年以上閉じ込められるという話だよ。」

「それで、その家庭教師は、毎日ルーレットによって選ばれた女性とその日1日、相手をしなくてはいけないということが、1対6の多数決で決まったんだよ。」

「どっちかというと、天国のルーレットじゃないの、それじゃあ。」

「でも、その女性6人ともがすごい癖が強いんだよ。いわゆる地雷女。毎日、その家庭教師にはハズレのないロシアンルーレットをやっているみたいになる。」

「なるほど、確かにパスカルが好きそうな話しよね。」

「おう、みんな可愛いしな。」

「アキさんは、どんな話しが良かったですか。」

「一応『タイピング』の2期かな。でも、劇場版の新作機動戦士ものも楽しみ。」

「そうでしたね。アキさん、機動戦士ものが好きでしたよね。」

そのとき、横からラッキーに声が掛かった。

「ラッキー、ハーイ!」

ラッキーがその方向を向いて挨拶をする。

「ナンシー、お久しぶり。」

「久しぶりですねー。うーん、1年ぶりぐらいですねー。」

「そんなもんだね。ナンシー、元気していた?」

「元気だったですねー。」

「それは良かった。えーと、紹介するね。こっちから、コッコちゃん、アキちゃん、パスカル君、湘南君、セロー君で、みんなオタク仲間だよ。」

「みなさん、よろしくねー。」

「こちらが、ナンシーちゃん、アメリカのオタクで、3年ぐらい前にアトランタのイベントで知り合ったんだけど、日本語も上手で、アニメは日本語で見るぐらいだよ。」

「ナンシーちゃん、よろしく。」「ナイツーミーチュー。」「よろしくね。」「こんにちは。」「よろしく。」

パスカルがナンシーに尋ねる。

「ところで、ナンシーちゃんは、シンガポールになんしーに。」

突然、空気が氷結し静寂が訪れる。アキが謝罪する。

「ごめんなさい。こいつバカで。もう、パスカル、日本の恥を晒さないでよ。」

しかし、ナンシーが大笑いを始める。

「ナンシー、なんしーに・・・・・」

「アキちゃん、ナンシーさんに受けているじゃないか。」

「普通は受けない。」

ナンシーが笑い終わって答える。

「ごめんなさいですねー。アメリカでは聞かないジョークですねー。」

「日本でもあまり聞かないけど。」

「今から夕ご飯に行くけど、ナンシーもいっしょに行く?」

「はい、行くですねー。久しぶりにオタバナを咲かせるですね。」

「本当、恋バナは誰もできなさそうだもんね。」

「アキちゃん、そういうみんな分かっていることを言うもんじゃない。」

誠が予約してあった中華料理の店に1名増えることを連絡した後、その店に移動した。

「話しを戻して、ナンシーちゃん、今日はアメリカから?」

「違うですねー。この夏から日本で就職して日本に住んでいるんですねー。」

「それじゃあ、今日も日本からなんだ。もしかしてお仕事?」

「日本人関係者の案内か何かですか?」

「私、今、溝口エイジェンシーという会社で、大河内ミサというロック歌手のマネージャー助手をやっているんですねー。明日、ミサがエンジョイアニメーションのライブに出るので、今日は明日のスケジュールの最終打ち合わせに来たですねー。」

「ミサちゃんのマネージャーをやってるの?それはすごいな。ぼくたちも、そのライブを聴きに来たんだよ。」

誠は「新しい英語の得意なマネージャーさんというのは、ナンシーさんのことなのか。」と思いながら聞いていた。

「はーい、それは嬉しいですね。今朝、神田明日夏さんや『トリプレット』の星野なおみさんや柴田亜美さんに会って話せたんですねー。役得ですねー。」

「そうなんだ。まあ、ナンシーちゃんのアニメの趣味からすれば、そっちだよね。でも、ミサちゃんの方が、歌手としては、大物というか。」

「大河内さんの歌は基礎からきちんと積み上げていて、声が澄んでいて、声量もあって、あと、歌手としての一般の方への知名度も高いと思います。」

「それは、そうですねー。ミサの方が発声もテクニックも上手なんですねー。10代の日本人の歌手の中では、一番上手だと思うんですねー。」

「それはナンシーさんに同意します。」

「それにすごい美人でスタイルもいいですねー。」

「おう、ナンシーちゃん、その通りだ。」

「でも何かつまらないんですねー。努力はしていても、自分がないという感じなんですねー。」

「そうなんですか。」

「ロック歌手になりたいという強い想いはあるんですねー。すごく頑張っているんですねー。でも、それだけなんですねー。」

「大河内さんに、人生経験みたいなものが不足しているということですか。」

「それもあると思うですねー。それと自分を出すのをためらっているんですねー。」

「何となく分からないことはないです。英語の問題ということは?」

「日本語でもそうなんですねー。貪欲さもないんですねー。私がミサみたいに野生の肉食動物的な美人だったら、もっとセクシーな衣装で目立つんですねー。」

「野生の肉食動物的美人ですか。言いたいことは分かりますが、性格は反対ですよね。」

「ステージ上では性格のことなんて言っていたらだめですねー。自分のアドヴァンテージを生かさないとだめなんですねー。ミサのスリーサイズは、93」

誠が慌てて止める。

「ナンシーさん、そういうことを勝手に話しては。」

「まあ、そうですねー。でも、そうしないと、たくさんの歌手がいるアメリカでは埋もれてしまうと思うんですねー。」

誠は「アメリカ」という言葉に注意しようか迷ったが、かえって良くないと思い、とりあえず音楽の話に変えることにした。

「・・・・・ナンシーさんはよくロックを聴くんですか?」

「当たり前ですねー。小さい時からたくさん聴いていたんですねー。中学と高校の時、ロックシンガーになりたくて、オーディションを何回も受けたんですねー。でも、ボーカルの才能はなかったんですねー。高校からはドラムも始めたんですねー。」

「ドラムですか?カッコいいですね。ところで、ナンシーさん、橘さんの歌を聞いたことがありますか。」

「ミサがレッスンを受けているというパラダイス興行のボイストレーナーさんですねー。歌手だったんですかねー。」

「パスカルさんが調べて数年前にCDを2枚出していて、僕も買ってみたのですが、大河内さんが好きな歌手ですので、是非、聴いてみて下さい。」

「分かりましたですねー。」

ナンシーが自分のイヤフォンを誠のパソコンに繋いで、橘のCDを聴き始めた。

「湘南も橘さんのCDを買ったのか。」

「はい、パスカルさんにタイトルを聞いて。」

「まあ、明日夏ちゃんのボイストレーナーでもあるしな。」

「はい。」

ナンシーがドラマーみたいにリズムをとりながら聴いている間、他の6人は今日の出来事や明日の予定を話したり食事をしたりしていた。何回か聴いた後、ナンシーが意見を話す。

「橘さん、すごいんですねー。日本語のロックなのにソウルが伝わってくるんですねー。」

「アンナさん名義の『Undefeated』は、大学生の時にバンドで出したCDだそうです。」

「歌で自分を出し切って、ミサとは正反対なんですねー。」

「そうなんですか。だから大河内さんは橘さんにあこがれるのでしょうか。」

「そうかもしれないんですねー。でも、声的にもミサはこの方向ではないと思うんですねー。もう少し、静かでソリッドな強さが出せると思うんですねー。」

「それはナンシーさんの言う通りかもしれません。橘さんのCDが必要ならばお送りしますが。」

「タイトルだけ教えてくれれば大丈夫ですねー。経費でCDぐらい買えるんですねー。SNSのアドレスを交換するですねー。」

「僕に教えて大丈夫でしょうか?」

「ラッキーさんも知っているから大丈夫ですねー。」

「分かりました。」

誠とナンシーがSNSのアドレスを交換して、誠が橘のCDの情報を送る。」

「そう言えば、明日夏さんの歌はロックではないですが、ナンシーさんはロック以外も聴くんですか?」

「ロック以外を聴くようになったのは、大学に入って、アニメを見るようになってからですねー。可愛い歌も好きになったんですねー。」

「なるほど。」

「神田明日夏さんの生の歌は、アニサマで初めて聴いたんですねー。アニメのオープニングよりずっと良くて驚いたんですねー。繊細で可愛らしい気持ちが伝わってきて好きなんですねー。今の一押しなんですねー。」

「ナンシーちゃんはセローちゃんと気が合いそうだな。」

「ナンシーさんの言う通りだと思いますー。明日夏ちゃんは最高です!」

「ナンシーちゃん、セロー君は、明日夏ちゃんのTOだから。」

「明日夏さんのTO、それはすごいですねー。よろしくお願いするですねー。」

「何かあったら、何でも言ってー。明日夏ちゃんのためになることなら全力でするよー。」

「分かりましたですねー。ということは、明日夏ちゃんのホームページを作っているのはセローさんですねー?」

「それは湘南君だよー。湘南君は副TOということになっているけど、いろんなことを知っていて、どちらかというと、僕が湘南君を手伝っているんだよー。」

「湘南さんからみた明日夏さんはどうなんですかねー。」

「歌は良くなってきていると思いますが、大河内さんと比べると、発声や基礎がまだまだかなとも思います。」

「なんか、ダメな副TOなんですねー。」

誠は「鈴木さんのダメ出しをするマネージャーに言われたくないな。」と思いながらもそれは黙って答えた。

「明日夏さんは、まだまだ伸びると思いますので、応援を続けていこうと思います。」

「明日夏さんの歌の想いが伝わってこないんですかねー。やっぱり、湘南さんは頭でっかちで考え過ぎるんですねー。副TOならもっと歌を感じないとなんですねー。」

「湘南君は、最初は明日夏ちゃんのTOだったんだよー。今はアキちゃんのプロデュースで忙しいから、僕が代わってTOなんだよー。」

「アキさんって、誰ですねー。」

「私です。アキでいいです。私もナンシーって呼ぶから。」

「分かったですねー。アキは歌手なんですかねー?」

「いわゆる、地下アイドルをやっています。プロデューサーはパスカルです。」

「プロデューサーのパスカルです。みんなアマチュアですが、アキちゃんを有名にするために活動しています。」

「アマチュアでアイドルプロデュースをやっているんですねー。」

「CDやグッズの販売もしていますが、タダ働きでなんとか採算があっている感じです。」

「何か、アニメの話みたいですねー。みなさん、すごいんですねー。」

「有難うございます。」

「湘南は、私のホームページや歌のレコーディングを担当しています。」

「湘南さんは、本当に器用なんですねー。でも、何か愛情を感じないんですねー。もっと愛がないとだめなんですねー。」

「まあ、はい。」

「でも何で、ナンシーちゃんが、ミサちゃんのマネージャーをすることになったの?」

「それは、来年、ミサが全米デビュー・・・」

誠が慌てて言葉を遮る。

「それは、まだ言ってはいけません。未公開の情報だと思います。」

「ラッキーさんなら大丈夫ですねー。」

「だめです。」

「うるさい人ですねー。」

「そういうことでは、今の業界にいられなくなります。ナンシーさん、す、大河内さんと経験的にも音楽的にも一緒に仕事をするには適任と思いますので、そうなって欲しくないです。」

「そんな簡単に私のことを分かったつもりになられても困るんですねー。湘南さんみたいな人間は嫌いなんですねー。」

「ナンシーさん、とても鋭い感性を持たれていますし、今までいろいろとご苦労されているのかもしれませんが。やはり・・・」

「ナンシーちゃんも、湘南君も落ち着こう。ナンシーが言ったことは聞かなかったことにしておくよ。」

「ラッキーさん、ごめんなさいですねー。」

「ナンシーさん、ラッキーさん、申し訳ありません。」

湘南とナンシーが何となく気まずいまま、7人でオタ話を続け、7時過ぎに解散となった。

「それではナンシーちゃん、またどこかで。」

「またどこかの現場でですねー。そう言えば、ミサは今日の午前中に地元のテレビ局のインタビューを受けて、それが10時からの音楽番組で放送されるんですねー。見るといいですねー。それではまたですねー。」

「ナンシー、有難う。またねー。」「それでは、また。」「バイバイー。」「明日夏ちゃん、最高!またねー。」

誠は「逆にそういうことは早く言わないと。それにしても、橘さんには溝口エイジェンシーが付いているから鈴木さんは大丈夫と言ってしまったけど、溝口エイジェンシーも大丈夫なのかな。」と思いながらも、

「お疲れ様です。」

とだけあいさつした。ナンシーがタクシーで去って行ったあとスマフォを見ると、尚美からミサの地元テレビの出演に関して詳しい情報が入っていた。

「さっきの大河内さんのテレビ出演の件ですが、こんな感じみたいです。」

セロー以外がスマフォを覗き込む。

「湘南君、有難う。これは見逃せないよね。」

「おう、絶対に見るぞ。」

「妹子からの情報なんだ。うん、私もこれを見てから寝るわ。」

「私は、パスカルと湘南の部屋にいるから、まあ見ることになるだろう。」


 明日夏たちがホテルに戻って、直接ミサの部屋に向かった。

「ナンシー、ただいま。」「お邪魔します。」「お邪魔します。」「お邪魔します。」

「お帰りなさいですねー。」

「私の部屋に来ると外が良く見えるから。」

「窓に晃のポスターが貼ってあるから、こっちがナンシーさんの部屋なんですね。」

「そうですねー。」

「晃の抱き枕もある。」

「カバーを日本から持ってきて、枕はホテルの枕なんですねー。」

「明日夏さん、さすが、目の付け所が違います。アメリカでオタクになるだけあって、半端ないです。」

「ナンシーちゃん、ポスターはどうやって持ってきたの?」

「ポスターケースを使っているんですね。アメリカに居たときは遠征しないとイベントに行けないから、昔からイベントには持ってきているですね。」

「ナンシー、そのポスターケース、空港で見たけど、そのポスターを入れてきたんだ。」

「そうですねー。あと、ミサのポスターも持ってきたですねー。それを使った後、こっちで手に入れたポスターを入れて持って帰るんですねー。」

「ナンシーさん、さすがです。」

「亜美さん、有難うですねー。」

「それじゃあ、何もないけど、私の部屋に来てくれる。ソファーもあるからゆっくりしていって。」

「はい、美香先輩、お邪魔します。」

尚美はミサに続いて部屋に入ったが、3人は東京でよく行くオタクショップの話をしてから、ミサの部屋にやってきた。その後、夕日を見たり写真を撮ったりして、8時前に自分の部屋に帰ることになった。

「それでは、明日の朝、朝食会場に7時半にお願いします。」

「分かった。それじゃあみんな、明日の朝、朝食会場で。」

「ダコール。またねー。」「また、お願いします。」「また、来るといいですねー。」


 部屋に戻ったあと、尚美は明日夏と久美の部屋に向かった。すぐに悟も来て、明日の予定について話していた。そして、集合時間の9時になって、亜美が少し遅れて部屋にやってきた。

「遅れて申し訳ありません。社長、リーダー、由香が時間になっても戻って来ないので、連絡していました。由香に電話をかけたり、ミサさんに聞いたりしてみたんですが、由香は電話に出ないし、ミサさんのところにもいないみたいです。」

悟が驚く。

「えっ、由香ちゃんがいないの。とりあえずホテルの周りを探してくる。」

「あっ、社長、ちょっと待って下さい。」

「久美と明日夏ちゃんは、できたらホテルの中を探してみて。尚ちゃんと亜美ちゃんはこの部屋か自分の部屋から出ないね。」

「あの、社長。」

悟は尚美が止めるのを聞かないで出て行った。

「由香ちゃん、どこに行ったんだろう。橘さん、社長の言う通りホテルの中を探してみましょう。」

「事件に巻き込まれていないといいんだけど。念のため二人いっしょに行動するわよ。」

「分かりました。」

尚美は落ち着いていた。

「橘さん、明日夏先輩、部屋を出るのはちょっと待ってて下さい。あの、亜美先輩、豊さんの苗字を知っていますか?」

「相澤です。相澤豊と言っていました。由佳が前に出たダンス大会の出場者名簿にもありましたから、間違いないです。でも、それが何か?」

「ちょっと、確認してみます。」

尚がフロントに電話をかける。

「Can I ask to connect this line to the room of Yutaka Aizawa. My name is Naomi Iwata. Sorry I do not know his room number. Ok、 thank you. (豊 相澤さんの部屋につないでもらえないでしょうか。私は岩田直美です。すみません、部屋番号は分かりません。はい、ありがとうございます。)」

「あっ、由佳先輩ですか。良かったです。もう夜の9時を回っていますけど。はい、そんな時間です。えーと、分かりました。それでは、朝7時には部屋に戻ってください。あと、朝食を二人で一緒に取るのは目立ちますので、もしそうしたければ、豊さんも私たちと一緒に。それは無理ということですか。では、朝7時にこちらに戻ってきてください。念のため豊さんの部屋番号を教えてください。1023ですね。了解です。こちらの部屋番号は2043ですが覚えていますか。明日の朝に忘れるかもしれませんので、メモしておいてください。はい、それではおやすみなさい。はい、明日朝7時に2043号室で。」

久美が尋ねる。

「尚、由香は豊さんと一緒ということ。」

「はい、そうです。」

「どうして分かったの?」

「羽田で俺だけビジネスで行くわけには、と言ったときに、豊さんがシンガポールに来るとは思いました。飛行機で席を離れたのも共同運航便で一緒になった豊さんのところに行っていたんだと思います。今日の午後、一緒に遊びに行かないで部屋にいるということで、一緒にいると思いました。そして、外に出たにしては部屋に荷物が残り過ぎていますので、由香さんはホテルから出ずに、同じホテルに泊っている豊さんの部屋にいると思いました。」

「そう、相変わらずさすがね。悟に伝えるわ。」

「お願いします。亜美先輩、美香先輩にも心配いらない。無事にホテルに戻っていますとだけ伝えてもらえますか。余計なことは連絡しなくても大丈夫です。もし、必要ならば明日の朝にお話します。」

「リーダー、了解です。」

少しして悟が戻ってきた。

「由香ちゃんは、ホテルの中にいるんだって。」

「うん、豊さんの部屋にいることを、尚が電話で確認した。」

「良かったというか、何と言うかだね。」

「そうね。」

「まあ、若い時の久美よりは、大丈夫だと思うけど。」

「えっ、私、そんなに酷かった?」

「まっ、まあ。」

明日夏が亜美がミサに送るSNSのメッセージにハートマークをたくさん追記していた。

「もう、明日夏先輩、余計なハートマークを送らないでください。」

「その方がミサちゃんが安心するかなと思って。」

「それは、確かにそうですね。」

「でしょう、でしょう。」

「そういうところは、明日夏さんの数少ない取り柄ですけれどもね。」

「尚ちゃん、酷い。」

「でも、リーダー。こういうことがあるから、リーダーは飛行機で『パラダイスドリームス』に戻る話をしたんですね。」

「はい。それでも亜美先輩、『トリプレット』としてメジャーで活動できる今のうちに、できることはやっておきましょう。『パラダイスドリームス』に戻るにしても、個人で活動するにしても、『トリプレット』のファンをある程度引き継ぐことは可能だと思います。」

「分かりました。でも、少なくても10代の間は、個人ではなくて、リーダーといっしょに活動したいです。」

「はい、私もそうしたいです。それでは、亜美先輩も、動画サイトのチャンネルの方頑張って下さい。」

「亜美、曲が決まれば、インスツルメンタルは、悟の編曲とデスデーモンズの演奏で準備するから。」

「うん、亜美ちゃん、編曲はぼくがやるか誠君にお願いする。」

「兄がですか?」

「若い感覚も必要と思って。誠君は喜んでやってくれそうだと思うけど、ダメかな。」

「すみません。ただ驚いただけです。はい、兄はとても喜ぶと思いますので、社長がよろしければ、どんどん進めてください。」

「尚ちゃん、有難う。」

「社長、リーダー、有難うございます。それでは、部屋に戻って歌う曲を考えてきます。」

「亜美先輩、お願いします。」


 亜美が部屋に戻って行った。少し暗くなっている久美に明日夏が話しかける。

「橘さん、どうしたんですか?由香ちゃんのことが心配ですか?」

「由香はしっかりしている子だから大丈夫だと思う。でも、私も若い時はみんなにこんな感じで迷惑をかけていたのかなって思って。」

「橘さん、大丈夫です。昨晩も迷惑をかけていましたから。」

「久美がかける苦労は、みんな楽しんでいたんじゃないかな。」

「そうでないと橘さんではありませんから。」

「三人とも全然フォローになっていない。」

笑いが起きる。

「社長、橘さん、由香さんのことがあっても大丈夫なように手を打っているつもりです。ただ、亜美先輩はのんびりしているところがありますので、多少危機感を持ってもらった方が良いかと思いまして、『パラダイスドリームス』の話を出しました。」

「そうなんだ。さすがは尚ちゃんだ。」

「社長、何か私みたいになっていますよ。」

「ははははは、明日夏の言う通りだね。でも由香ちゃんが無事ということで良かった。それでは明日夏ちゃんと尚ちゃんは明日があるので、今日は早く寝るように。久美も明日夏ちゃんと一緒の部屋だからお願いね。」

「分かっている。」「ダコール。橘さん、飲むときは社長の部屋でごゆっくりと。」「はい、社長、おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」

明日夏たちは、ミサが出演するテレビ番組を見た後、11時前には床についていた。明日夏はシンガポールのステージの夢を見ていた。

「ハローエブリワン。マイネームイズ、アスカ カンダ。」


 誠たちも、夕食のあとホテルに戻った。セローはシャワーを浴びてから、部屋で明日夏を応援する復習をしていた。ラッキーとコッコは誠たちの部屋に来て、パスカルとビールを一缶飲んで、4人でオタバナをしていたが、少しして部屋に戻っていった。ラッキーは部屋でタブレットを使って明日のイベントの情報を調べたり、SNSに今日あったことを写真付きで投稿していたりした。コッコはシャワーを浴びた後、誠たちの部屋に戻るつもりだったが、シャワーを浴びベットに横になると、そのまま寝てしまった。コッコの代わりに、アキが部屋にやってきた。

「コッコが寝ちゃったから、ここでミサちゃんのテレビを見せてくれる?」

「おう、大歓迎だ。お菓子ならあるぜ。」

「湘南は何をやっているの?」

「この間のレコーディングのミックスを再調整しています。」

「良ければ、聴かせてくれる?」

「はい、音量は小さめにスピーカーで流します。5通りありますので、どれがいいか考えてみて下さい。」

アキ、パスカルと湘南がミックスしたものを聴いた。

「どうですか?」

「なかなかいいんじゃないか。」

「そうね、ユミちゃんが入って、全体的に可愛くアイドルぽくなったわね。」

「どれが良かったですか?ボーカルとインスツルメンタルの音量のバランスとか、アキさんとユミさんがいっしょに歌うサビでのバランスとか。」

「もう一度、ワンコーラスずつ聴かせてくれる。」

「了解です。」

誠がワンコーラスずつ流す。

「どうでした。」

「俺には、良く分からん。」

「うーん、3番目が良かったかな。」

「5つの中では、ボーカルが強めになっています。」

「そんな感じね。」

「いいんじゃないかな。」

「それでは、他の曲も収録したら、こんな感じでミックスしようと思います。」

「うん、それがいいと思う。ねえ、パスカル『ユナイテッドアローズ』のデビューの方はどんな感じ?」

「おう。CDの他は、写真撮影、ポスター、ちらし制作なんかがあるけど、湘南から教わって、俺の方でもできるようになっている。」

「ホームページはアキさんの枠組みと同じものを作ってありますので、それに画像や文章を載せればいいようにできています。」

「二人ともさすがね。だんだんとキラとアスランみたいになっている。」

「それは褒めすぎです。」

「衣装の方も、マリさんとやっていて、来月中にはできると思う。」

「了解。細かいところを詰めてみるか。」

「うん、そうしよう。」

 『ユナイテッドアローズ』のデビューを11月1日の日曜日と仮決めして、それまでにやることの詳細を話し合った後、ミサが出演するテレビ番組を見た。ミサの出演が終わると、アキは自分の部屋に戻っていった。誠とパスカルも2時間の時差のためか、その後、すぐに床についた。


 日曜日の朝、ホテルの朝食会場に由香と亜美以外のパラダイス興行のメンバーとミサたちが集まった。

「由香は?昨日の晩、戻ってきたんでしょう?」

「由香先輩と亜美先輩は、もう少ししたら来ると思います。」

「由香ちゃん、部屋に戻ってきたのは今朝だったから、支度に少し時間がかかっているみたい。亜美ちゃんは由香ちゃんといっしょに来ると思うよ。」

「えっ、明日夏、どういうこと。」

尚美が言う。

「美香先輩に隠しても仕方がありませんので、話してもいいですが、話してもいいですか?」

「????良く分からないけど、もちろん。由佳のことが心配だし。お願い。」

「わかりました。要点だけ言います。由佳先輩はホテルからは出ていませんでした。豊さんが同じホテルに泊っていて、由佳先輩は朝までその部屋にいました。ということです。」

「それって、それって・・・・」

明日夏が言う。

「赤くなったミサちゃん、可愛い。」

「とりあえず、一件落着です。今日のライブ頑張りましょう。美香先輩、明日夏先輩。」

「うっうん、分かった。」

「海外での初ライブ頑張るぞー!」

「明日夏先輩、スピーチは英語ですか?」

「尚ちゃん、もちろんその通り。社長さんに原稿を書いてもらったから読めば大丈夫。フランス語は得意なんだけど、英語を話すのは全然なんだよ。」

冗談と思ったミサが笑った。

「明日夏ったら、ふふふふふ。」

「社長が書いたなら安心と思いますが、ちょっと見せて下さい。」

「はい、これ。」

「これは・・・・。」

ミサが少し驚いた。紙にはカタカナでスピーチ内容が書いてあった。

「明日夏先輩はこれをしっかり覚えて、ライブの時にスピーチしてくださいね。」

「了解!マイネーム イズ アスカ カンダ・・・」

少しして、由香と亜美がやってきて、中華料理、東南アジアの料理、洋食、和食のブッフェを楽しんだ後、8人は午前中のリハーサルのために、会場に向かった。


 一方、誠たちもホテルで朝食をとった。

「このホテル、朝食のブッフェには定評があるんだよ。」

「確かに、美味しそうなものがいっぱいあるわね。」

「はい、このホテルはラッキーさんの紹介なんですが、シンガポールではいつもこのホテルなんですか。」

「そうだね。値段的にもちょうどいいし。」

「ラッキーさんと一緒だと、安くて美味しいものがありつける。」

「パスカルの言う通り。ところで、妹子たちはどんなホテルに止まっているの?」

「主催者が用意してくれた、三つ星ホテルみたいです。安全のこともありますから。」

「なるほど。」

「くそー、何で昨日寝ちゃったんだろう。パスカルちゃんと湘南ちゃんの新婚旅行初夜を見逃しちゃったよ。」

「日頃の疲れじゃない。私は二人を見てたけど、別にいつもの通りだったわよ。」

「セロー君は先に寝たから、元気いっぱいって感じだね。」

「もちろんだよー。朝から会場に行ってライブ会場の前で並ぶんだよー。」

「さすが、明日夏ちゃんTO。」

朝食が終わると、セローはライブの前方の席に座るためにイベント会場に向かった。誠、パスカル、アキ、コッコ、ラッキーの5人はシンガポール観光をすることにした。最初にマーライオンがある公園に向かった。アキ、パスカル、ラッキーがマーライオンを横から見ることができる道で、マーライオンの真似をしながら写真を撮る中、マーライオンから少し離れた扉を見ていたコッコに誠が話しかける。

「コッコさん、何を見ているんですか。」

「湘南ちゃんか。非常勤講師の先生が、ここにマーライオンの口から水を出すためのポンプがあって、うちの製品だって言っていたから来てみたんだが。」

「コッコさんは融合系だから、機械系の話もあるんですね。」

「そう。機械、電気、情報、土木、化学、生物、環境、なんでもある。」

「それは大変そうですね。でも、ポンプは見えなさそうですね。」

「ポンプの音で外からは良く聞こえない中、小屋の中のバールと平塚が・・・」

「変な妄想をしていないで、せっかくだから写真を撮っておきましょう。」

「まあ、そうしようか。」

マーライオンの写真を撮っていたアキやパスカルがやって来た。

「コッコに湘南、そんなところで、何の写真を撮っているの?」

「コッコさんの授業の非常勤講師、えーと、いつもいるわけではない先生の会社で、マーライオンから水を出すポンプを作っていて、この中にあるという話だからです。」

「湘南ちゃんの説明の通り。」

「湘南、そんなことしているから、お前らの大学、いつも恋人にしたくない大学ナンバーワンになるんだろう。」

「ふふふふふ、湘南ちゃんみたいな人がいる限り、今年もその地位は安泰だな。」

「コッコちゃん、それを自分で言うか。」

「へー、でも大岡山工業大学って、恋人にしたくない大学ナンバーワンなの。」

「そうみたいです。第一位を長年続けています。」

「それは世の中の女子大生に目がないだけだよ。」

「アキさん、お気遣い、有難うございます。」

「そうは言っても、アキちゃんが女子大生になったら、話の面白いイケメン男子大学生の方に行っちゃうんじゃないの。」

「だから、私はどっちも行かないって。アイドル優先。」

「アキちゃん、プロデューサーとして、その覚悟はとても嬉しいけど、どこまで続くか楽しみにしているよ。」

「まあ、見てて。」

「パスカルさん、アキさんは本気みたいですよ。」

「湘南は分かってくれていると思った。」

「湘南は、すぐに人を信じて騙されやすそうだけどな。」

「それはパスカルも同じだから。」

ラッキーが言う。

「アキちゃん、厳しいね。」

「ううん、二人ともいい人ということ。」

コッコが茶化す。

「おっ、アキちゃんも魔性の女子高校生に転向か。」

「そっそうね。私もユミちゃんを少しは見習わないと。」

「湘南、また女性陣が怖い話をしているんだが。」

「パスカルさん、大丈夫です。基本的に悪い方々ではないと思います。万が一そうだとしたら、あまり甲斐性がない僕たちは相手にされていないと思います。」

「まあ、それもそうだな。」

「どちらかというと、私よりコッコの目の方が怖いわよ。」

「おっ。」「それは言えます。」

「コッコちゃんに湘南、とりあえず、ポンプのあるところの前で、同じ大学の学生二人で写真を撮るか。」

「パスカルちゃん、サンキュー。」「記念になると思います。」

「コッコちゃんと湘南君らしい、マーライオンの記念写真だろうね。」


 マーライオンの後、アキ班の5人はガーデンズ・バイ・ザ・ベイを訪ねスカイウエイを歩いた。

「木みたいなタワーだな。」

「それが売り物みたいですね。夜は光って奇麗らしいです。」

「あの3つの建物の上に庭が乗っている建物が、マリーナベイ・サンズね。」

「上に重いものが乗っていますが、本当に大丈夫なんでしょうか。」

「シンガポールは地震がないから大丈夫なんだろう。」

「そうですか。」

そうは聞いても、やっぱり不安になる誠だった。(著者注:シンガポールは、プレートの境目から離れていて、地震はほとんどないとのこと。)

「ねえ、今日の夕方、ライブが終わってからあの屋上に行ってみようよ。」

「夕食の時間を考えなければ大丈夫ですが。」

「湘南君、チャンギ空港は24時間空港で、夜中でもレストランは開いているから、飛行機を待っている間に食べることができると思う。」

「それで大丈夫でしたら、マリーナベイ・サンズに行く時間はあります。」

「じゃあ、そうしよう。反対の人!?・・・いないわね。それじゃあ、ライブが終わったらマリーナベイ・サンズの屋上にレッツゴー!」

「分かりました。詳細は夕方までに確認しておきます。」

「そう言えば、湘南君、ミサちゃんの昨日の晩のテレビ出演情報は有難かった。すごく面白かったよ。」

「ラッキーさん、ミサちゃんが何を言っているか分からなかったって言ってましたよー。」

「ネイティブみたいな英語を話すから全然分からなかったけど、楽しかった。」

「俺も何を言っているか分からなかったけど、楽しかった。」

「私も良く分からなかったけれど、ある程度でも分かった人はいるの?」

シーンとした時間が流れた。

「パスカル、いい大人が。」

「俺より、現役大学生だろう。」

「パスカルちゃん、うちの大学じゃ無理だろう。」

「あの、妹に聞いておきましょうか?」

「妹子は分かるんだ?」

「小学生のころから英会話教室に通っていましたし、今ではCNNのニュースとか普通に分かるみたいですから。」

「そうなんだ・・・。でも分からなくても大丈夫。」

「まあな。」

「妹子はどこでミサちゃんのテレビ出演の情報を知ったんだろう。」

「昨日の午前中に大河内さんのテレビ番組の撮影があって、その後、午後にいっしょにシンガポールを観光したときに聞いたそうです。」

「湘南、どんなところを観光したか聞いていい?」

「はい。基本は僕たちが行ったところと同じです。たぶん、今日の午前中にSNSにその時の写真を上げるんじゃないかと思います。」

「そうなんだ。それじゃあ、今日来て良かったわね。邪魔にならないで。」

「アキちゃんにしては殊勝な考えだな。」

「まあね。それにしても、昨日のミサちゃんの英語、ミサちゃんには欠点がないのかな。」

「ない。」「ない。」

「何よ、パスカルとラッキー。」

「妹によれば、大河内さんには集中しすぎて、周りが見えなくなってしまうことがあるみたいです。」

「そうか。欠点かどうか分からないけれど、そんな感じよね。」

「あとは、断るときはきっぱりと断るということで、お高く留まっていると勘違いされてしまうことが心配と言えば心配です。」

「まさに、ロックシンガーだな。」

「そうそう。パスカル君の言う通り、ロックシンガーはそのぐらいじゃないと困る。」

「二人とも、ミサちゃんにはやたら甘い。まあ仕方がないけど。」

その後、6人はフラワードームを散歩した後、昼食をとり、ライブが行われるエンジョイアニメーションの会場へ向かった。

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