第17話 盛夏

 海に来て3日目の朝が来た。誠が目を覚ますと、コッコが1階の部屋でスケッチをしていた。今日は隣にアキもいて、誠を見ていた。

「アキさん、コッコさん、お早うございます。」

「湘南、お早う。」

「湘南ちゃん、お早う。いやー、湘南ちゃんがJSを部屋に連れ込む人間だとは思わなかったよ。」

「はい?」

誠が隣に気配を感じて見てみると、すぐ隣に美咲が寝ていた。

「えーーーーー。」

その声で、全員が起きた。

「ふわぁー、湘南兄さん、お早うございます。また寝ちゃいました。」

「美咲さん、どうしてここに。」

「どうしてって、湘南兄さんが私と会いたいって言うから。」

「そっ、そんなことを言ったことはないと思います。」

美咲が周りを見回して言う。

「さすが、湘南兄さん、みなさんから信用されているんですね。みなさん、私が嘘をついているという目をしています。」

「まあ、湘南ちゃんには、そんなことをJSに言う度胸がないことは分かっているつもり。」

「でも、コッコ姉さん、100パーセント嘘というわけでもないんです。昨日のメールはアキ姉さんじゃなくて、湘南兄さんが書いたものみたいですし、湘南兄さんが送ってくれたアキ姉さんが練習している写真、背景の景色を見たことがあると思ったから、朝早く起きて散歩に出て同じ景色を探したんです。そうしたら、この家の前から見た景色だったので、家の中を覗いてみたら、湘南兄さんが寝ていたんです。」

「なるほど。湘南がその写真で美咲ちゃんを来るように誘ったと。」

「はい。それに、湘南兄さんは、外から見えやすい位置で寝ていましたし。」

「それは誤解です。普通、この写真だけで訪ねてくる小学生はいないと思います。」

「それもそうだね。」

「いや、妹子なら小学生の時でも、できそうだけど。」

「うん、アキちゃんの言う通りか。これは湘南ちゃんを人民裁判にかけることが必要かな。」

「いやいや、写真を送るときには、アキさんに送ってもいいか確認したじゃないですか。」

「コッコ姉さん、アキ姉さん、裁判をしても無駄なんじゃないでしょうか。本当のことは湘南兄さんしか分からないですし。もしかすると、誰にも分からないように私を誘った、知能犯なのかもしれませんが。」

「あの、美咲さんね。」

「大丈夫、湘南ちゃん。美咲ちゃんは、湘南ちゃんを助けようとしているんだよ。」

「はい、湘南兄さん、ごめんなさい。冗談が過ぎました。それに、美咲に悪いことをしようとして誘うなら、別の誰もいないところの場所の背景を使うと思います。誘ったとしても、単に美咲に会いたかっただけだと思います。」

「まあね。美咲ちゃんの言う通り、本当のところは湘南にしか分からないし、美咲ちゃんがいいならそういうことにしましょう。」

「本当のところって。」

「パスカルもいいよね。」

「いいというか、メール文面だけで湘南が書いたと分かって、この写真だけでここまで来るって、末恐ろしい女子小学生だと思った。」

「僕も同感だよ。」

「パスカルとラッキー、女の子を甘く見ちゃだめよ。」

「はい。」

「でも、美咲さん、ご両親には何て言って出てきたんですか。」

「ちょっと散歩してくるって。出発までには戻るからって。」

「何時、出発なの?」

「11時。」

「戻るところは、ここからどのぐらいのところなの?」

「15分ぐらい。」

「2時間弱はあるね。美咲ちゃん、ついでだから少し練習していかない?」

「いいんですか。」

「アキさん、まだ親の許可を取っていないのに大丈夫ですか。」

「美咲ちゃん、ここまで来たんだよ。単なる散歩のついででいいわよ。」

「はい、散歩の途中で歌を歌いました。」

「うん、そう。時間がないから、早速始めよう。朝食はその後にしようか。それじゃあ、みんな準備して。」

「おっ、おう。」「わっ、分かりました。」

「じゃなくて、ここからはパスカルPが仕切る。」

「はい。それでは、美咲ちゃん、曲は何でもいいから、とりあえず一曲歌ってもらえるかな?声とか歌のレベルとか知りたいんで。」

「分かりました。トリプレットの『私のパスをスルーしないで』をお願いできますか。」

「湘南、大丈夫か?」

「はい、カラオケソフトにもありますから大丈夫です。」

「じゃあ、頼む。」

パスカルが美咲にマイクを渡し、誠がカラオケをスタートさせ、美咲が歌い終わる。

「美咲ちゃん、そのロリ声はわざと?」

「はい、その方が受けるかなと思って。」

「美咲ちゃん、普通の声で歌える。」

「普通の方がいいですか。」

「うん、うちはあざとくいく方じゃないから。」

「プロデューサー分かりました。健康的で純真な小学生という感じの声で歌います。」

美咲が小学生らしい声でもう一度歌う。

「アキちゃんと組み合わせるならば、こっちの方がいいと思う。」

「うん、私もそう思う。」

「逆に、アキさんはロリ声が出せますか。」

「なんだ、湘南ちゃんはやっぱりロリコンなんだ。」

「そうじゃなくて、1曲ぐらい変化があってもいいかなと思って。激しい曲や感情がこもったバラードを歌うのは、二人にはまだ難しそうですし、ロリ声もアキさんが一人でやると浮いてしまいそうですが、美咲さんといっしょならと思って。」

「なるほど。やってみるね。・・・・湘南お兄ちゃん、こんにちは、アキちゃんだよ。いつも曲をアレンジしてくれて、有難うね。お兄ちゃん、大好き。・・・こんな感じかな。」

「いいね。アキちゃん。一応、そういう練習しているの?」

「直接歌手になるのが無理そうなら、声優からとも思って、一人カラオケで練習したりしている。」

「ちなみに、コッコちゃんは?」

「できるかよ。ロリ絵なら描けるぞ。」

「うーん、コッコちゃん自身のロリ絵か。」

「需要ねーよ。」

「でも、湘南、ロリ声なら『ペナルティーキック』の方が良くないか。」

「はい、僕もそう思います。」

「美咲ちゃん、『ペナルティーキック』って歌える?」

「はい。」

「『ペナルティーキック』も歌えるってことは、美咲ちゃんは、トリプレットのファンなの?」

「えーと、元々はアイドルラインのファンでしたけれど、今はトリプレットのファンです。リーダーのなおみちゃんが、可愛いとかだけじゃなくて、全部がすごいって感じですし。」

「・・・・・・・・」

「そうなんだ。本当になおみちゃんは、歌、ダンスだけじゃなくて、ユニットを引っ張る力も断然すごいから。」

「・・・・・・・・」

「はい、そう思います。アキ姉さんも、なおみちゃんのファンなんですか?」

「ファンというより、今は目標。3つ年下だけど。」

「私もそうです。」

「じゃあ、もしいっしょにやれるようになったら頑張りましょう。」

「はい。」

「では、話しがまとまったところで、『ペナルティーキック』を二人共ロリ声で歌ってみよう。」

「了解。」「はい、プロデューサー。」

「予備のためにマイクをもう一本持ってきていますので、使ってください。」

「有難う。さすが湘南ね。」

誠が予備のために持ってきたマイクをアキにわたして、二人がロリ声で『ペナルティーキック』を歌い終える。

「湘南ちゃんの言う通り、美咲ちゃんといっしょならありか。」

「そうだね。なかなか可愛かったよ。そう言えば、KOTOKOちゃんの『さくらんぼキッス 〜爆発だも〜ん〜』のロリ声も凄かったからね。ありなのかもしれない。」

「ラッキーさんが言うなら間違いないな。」

「有難うございます。」

その後も、交互に歌を歌ったりアキが美咲のダンスの指導をしながら、1時間余りが経過した。

「アキさん、美咲さん、そろそろタイムリミットです。」

「本当だ。美咲ちゃん、今日はここまでにしましょう。」

「はい、分かりました。」

「最後に、二人を前にして写真を撮ろうか。それじゃあ、並んで。あれ、セローは?」

「台所みたいです。」

「イヤフォンをしていたから、僕が呼んでくるよ。」

セローがやってきて、セルフタイマーを使って7人で写真を撮影した。

「なかなかいいね。」

「まあね。確かに二人のほうが目立ちそう。」

「アキ姉さん、カッコいい。」

「有難う。」

「今の写真と、収録した歌とインスツルメンタルをミキシングしたものは、メールで美咲さんに送ります。」

「本当に!湘南兄さん有難うございます。美咲と会いたくなったらいつでも呼んでね。」

「はっはい。でも、呼ぶときには、アキPGでお呼びします。」

「湘南兄さん、そんなに怖がらなくても大丈夫だけど。」

「はい、美咲さんのためになることならば、頑張ります。」

「そうですね。分かりました。それでは、アキ姉さん、パスカルプロデューサー、コッコ姉さん、湘南兄さん、ラッキー兄さん、セロー兄さん、今日は本当に有難うございました。また、お会いできるように頑張ります。」

「また頑張りましょう。」「楽しみにしているよ。」「おう、また。」「次までに『ペナルティーキック』のアレンジ考えておきます。」「期待しているよ。」「またねー。」

美咲は入ってきた居間の窓から去っていった。


 朝遅く、うつ伏せで寝ていたミサが目を覚ました。

「背中が重いな。昨日、久美先輩にこぶしでお腹と背中を押されたからか。」

そう思いながら、目を開けて背中のほうを見ると、自分の背中の上に人の頭があった。よく見ると明日夏の頭だった。

「明日夏?明日夏は、もう。」

そして、周りを見回してつぶやいた。

「ふふふふ、酷い有様。」

ミサはポケットからスマフォを取り出すと背中の上の明日夏や周りの写真を何枚か撮影した。

「明日夏は、これでも寝たままね。」

そのシャッター音で尚が起きた。

「あっ、美香先輩、お早うございます。」

「うん、尚、お早う。」

「しかし、すごい状態ですね。あっ、明日夏先輩はもう。明日夏先輩、明日夏先輩、起きて下さい。美香先輩、ごめんなさい。」

尚は明日夏を起こそうとする。

「私は、ぜんぜん、構わないけど。」

尚が明日夏の頭を持ちながら、ゆっくりと明日夏の体を起こすと、明日夏も目を覚ました。

「あっ、尚ちゃん、お早う。」

「もう、美香先輩に謝って下さい。」

「私、ミサちゃんに何かした?」

「頭が美香先輩に乗っかっていました。」

尚美に頭を持たれたまま、明日夏が謝罪する。

「ミサちゃん、よくわからないけど、ごめんなさい。」

「寝ている時だし、いいわよ別に。」

明日夏が自分で上半身を起こした。

「何これ?酷い状態。」

尚が突っ込む。

「先輩が言わないで下さい。」

時計を見たミサが尚に言う。

「それより、13時出発なのに、もう11時を回っている。」

「本当だ。ブランチを作っている時間はもうなさそうですね。」

「とりあえず、食パンを焼くとして。」

明日夏が言う。

「それをくわえて走る。」

「その役は、明日夏先輩に任せます。」

「えー、ミサちゃんがやったほうが絵になるのに。」

尚が冷蔵庫の中を見ながら答える。

「それはそうでしょうけれど、パン食い競争をやっている時間はありません。とりあえず、魚肉ソーセージで何か作ります。」

「えっ、私を食べるの?」

「先輩だと食中毒を起こすから食べません。本物の魚肉ソーセージです。昨日、スーパーで買ってきました。」

ミサが感心する。

「ああ、あの時に。」

「はい。卵と一緒にいためます。美香先輩、使って申し訳ありませんが、サラダは作れますか?」

「ちぎりレタスなら。」

「今はそれで十分です。ミニトマトがありますから、あとはドレッシングで形になるでしょう。」

「明日夏先輩。由佳先輩と、亜美先輩を起こしてもらえますか。身の回りの物の片付けや、洗面などを始めてもらって下さい。」

「いいけど、橘さんは?」

「橘さんは、いろいろ積もっているものもありそうですので、まだ寝かせておいてあげましょう。」

明日夏が由佳と亜美を起こしに行った。ミサが尚を手伝いながら言う。

「尚はやさしいのね。」

「昨日の話、橘さんも大変ですが、社長はもっと大変かもしれません。」

「ヒラッチが。」

「はい。たぶん、社長は学生のころから橘さんが好きだったんだと思います。」

「そうなんだ。まあ、久美先輩、美人だし。」

「それなのに、橘さんが付き合っていた親友が目の前で事故で死んでしまって。」

「そういうことになるのか。どうするんだろう。」

「本当のところは、本人も分からないかもしれません。今は橘さんを歌手として成功させたいんだと思います。全てはそれから。自分の思いを伝えるとしても、その後と思っているのではないでしょうか。」

「ロマンチックな話ね。」

「本人たちは必死で、ロマンチックとは思っていないでしょうけど。」

「そうでしょうね。その話は明日夏には?」

「話していません。口が軽そうですし。」

「久美先輩が再デビューをするときには、頑張りましょう。」

「はい、事務所が違うのに厚かましいお願いとは思いますが、やはりロックシンガーの美香先輩が一番頼りになると思いますので、よろしくお願いします。」

「全然、厚かましくないから。私、元からアンナさんのファンだったし、素敵というと違うかもしれないけど、いい話だし。」

「そうですね。」

「それに、もし私に恋人ができて今の事務所を首になったら、パラダイス興行にお願いしようと思っているから、媚びを売っておいても損はないわ。」

「なるほど、その節には是非パラダイス興行に。」

ミサと尚で微笑んだ。二人を起こし終わった明日夏が尋ねた。

「二人でなに話しているの。魚肉ソーセージのこと?」

尚が答える。

「はい、それと、もし美香先輩に恋人ができて、今の事務所を首になったら、是非、パラダイス興行にって話をしていました。」

「すごい。そうなったら、毎日が楽しくなりそう。尚、ミサちゃんに恋人を作る作戦を考えて。」

「だめですよ、そんなことしちゃ。うちの規模じゃ美香先輩の活動範囲が限られちゃいます。美香先輩がパラダイス興行に来るとしたら、ロックよりも恋人さんの方が大切になったときだけです。」

「そうか。じゃあ無理か。」

「今の私がロックより恋人を選ぶなんて考えられないけど、そんな恋もしてみたいかな。」

久美が起きて言った。

「恋はできるうちにしろ、よ。ロックシンガーなんだから、男は歌の糧だって、そっちの社長に言ってやればいいのよ。」

「はい、相手が見つかったら頑張ります。でも、久美先輩の言うことを聞いて首になったら、パラダイス興行に入れて下さいね。」

「無問題。たぶん悟が一番喜ぶ。歌唱力的にも経営的にも。もともとロックバンドの事務所だし。」

「あの、すみません。橘さん、まだお酒が残っているように見えますが、起きたんでしたら、時間がなくなって来ましたので、荷物の整理や洗面などの準備をお願いできますか。」

「わかり、うっ。」

「大丈夫ですか、橘さん?」

「頭、痛。」

「もう、二日酔いですね。社長から二日酔いの胃薬を預かっていますから、ちょっと待ってて下さい。すみません、美香先輩、ここをお願いします。」

「わかったわ、行ってらっしゃい。」

尚が二日酔いの胃薬を持ってきて、久美に渡す。久美はそれを飲み干した。

「ふー。これ効くのよね。」

「はい、社長もそう言っていました。橘さんにはこれがいいって。」

「ほんと?悟が。悟、昔からだけど、いいお嫁さんになるわ。」

「お嫁さんですか。」

「そう思わない?」

「うーん、そうですか。そうかもしれません。」

「まあ、13の娘には難しいか。悟、パッとしないけど、結婚相手としては悪くないと思うぞ。」

「橘さん、どうですか。同じ年ですし。」

「悟が私のようなガサツな女を好きになるわけないじゃない。それに、悟には可憐で素敵な女性の方が似合っているわよ。」

「外野から見ていると、お似合いの二人に見えますが。」

「へー、そう見えるんだ。」

「はい。」

「尚もそのあたりはまだまだだね。恋愛をしてみれば分かるよ。でも、尚はもう少ししてからの方がいいかな。」

「高校生になってからですか。」

「私の経験からも、高校生になったらした方がいいと思うよ。そうじゃないと、美香みたいになっちゃうぞ。」

「えーー、久美先輩、酷い。」

「美香先輩は美香先輩でいいような気もしますけど。」

「このままだと、人じゃなく女神に昇華して朽ち果てるみたいな。」

「えー、朽ち果てたくないよー。」

明日夏が口を挟む。

「朽ち禿げる。」

「それはもっといやだな。」

「美香先輩は、40才、50才になっても相手はいますから大丈夫です。それに、ロックシンガーなら30台で結婚する方も多いです。まだ、10年以上あります。焦らずじっくりいい人を見つけて下さい。」

「分かった、尚を信じる。」

「橘さんもです。」

「尚、フォロー有難う。」

尚がキッチンに戻っていった。

「久美先輩、明日夏はどうなんですか。私と同い年ですよ。」

「明日夏か。精神年齢が追いついていないから、難しいなー。」

「橘さん、そんなことはないんですよ。」

「そうなの?誰かいい人がいるの?」

「小学校の時の話です。」

「そう言えば、昨日、言っていたわね。」

「小学校2年のお正月に両親が離婚して、遠くに引っ越しをしたんです。」

「うん、それは寝る前に聞いた。苗字が違うお兄さんがいるんだって。」

「その時に、3次元の男の子と10年後に再会しようと約束をしたことがあるんです。」

「へー、それで、どうなったの。」

「忘れられて、どうにもならなかったんですけど。引っ越した後、手紙も来なかったし。」

「そうなんだ。明日夏もそんな苦労をしているんだ。あはははは。」

「本人には笑い事じゃなかったですけどね。」

「ごめん、明日夏の言う通り。急に会えなくなるのは小学校2年生でもかなりきついよね。」

「明日夏にリトルロマンスか。想像できないけど素敵ね。」

「ミサちゃん、本人には全然素敵じゃなくて、悲しくて、相手ばかりじゃなく、会いに行かない自分にも腹立たしくて、悶々とするというか、くよくよするというかだよ。」

「明日夏、それで2次元男性にはまるようになったの?」

「直接的には好きなアニメがあったからだけど、間接的にはそうかもしれない。」

「なるほど。」

キッチンの尚が指示をする。

「準備が終わりましたので、テーブルの上を片づけて下さい。」

「ダコール。」

「由佳先輩と亜美先輩、運ぶの手伝ってくれますか。」

「オーケー。」「はい。」

「有難うございます。それで明日夏先輩、今でもその男の人と小学校の同窓会なんかで会うことはあるんですか。」

「えっ、あっ、それはたまにあるかな。」

「それで、どんな感じなんですか。」

「うーん、向こうは完全に忘れていて腹が立つこともあるけど、元気いっぱいで頑張っているようだからいいかなって。」

「そうですよね。元気なら。でも、もしその人が覚えていて、また付き合ってくれと言われたら、明日夏先輩は付き合ったんですか?」

「どうだろうね。そうなってみないとわからないや。」

「まあ、そうかもしれませんね。」

「でも、明日夏、完全に嫌だというわけじゃないなら、私からその男性に話してみようか。」

「いやいや、小学生時代の知り合いだから。ミサちゃんが来たらびっくりしちゃうよ。」

「美香、そういうことを言うなら自分からよ。でも、明日夏もロックできそうね。」

「橘さん、それは声質的に無理と思います。」

「明日夏、そんなことはないよ。可愛い声のロックというのもあるんだよ。」

「美香の言う通り。今まで明日夏を単なるアニメ好きのオタクと見くびっていた。それだけのソウルがあれば、ロックを歌えるわよ。」

「皆さん、セッティングが終わりました。ブランチにしましょう。明日夏先輩がロックを歌っている姿は想像しがたいですけど。ただ、明日夏先輩にロックを歌わせたかったら、二人のスタイルの凄さはロックシンガーの法則があるからと言った方がいいかも。」

「ロックシンガーの法則!?そうか、さすが尚ちゃん。なるほど、ロックも歌おうかな。」

「でも、発声の基礎が今の美香ぐらいになってからの方がいいか。」

「橘さん、私にそんなときが来ますかね。」

「真面目に2年間練習していれば、何とかなると思う。」

「それは頑張らねば。」

「その通り。」

「それでは、あまり何もないですが、いただきましょう。」

「いただきます。」

「美味しい。」

「そういえば、美香先輩って、魚肉ソーセージを食べることってあるんですか。」

「シェフが作ったものならば。」

「美香先輩は、豚肉のソーセージもシェフの手作りでしたね。」

「うん。高校生のときまでは全部そうだったけど、今はスタッフと食べるときには、普通のものを食べているよ。」

「なるほど。」

「でも、一人でそんなものを食べるより、みんなと食べる方が美味しい。学校では一人で食べていたから。」

「みんな遠慮していたんでしょうね。」

「尚ちゃん、私も一人で食べることが多かったよ。」

「ああ、みんな敬遠していたんでしょうね。」

「尚ちゃん、酷い。」

「まあ、かく言う私も、学校では一人でいることが多いです。」

「それは、尚ちゃんが、周りを拒絶する感じだったんじゃないかな。」

「そうですね、明日夏先輩の言う通りかもしれません。由佳先輩は?」

「俺も、クラスの友達はいなかったけど、高校でダンスの部活に入ってから、友達ができた感じ。屋上で部活の子たちと食べていました。まあ、豊のことで仲が悪くなったやつもいるけど。」

「由佳ちゃんも、取っ組み合いの喧嘩をしたの?」

「橘さんじゃないので、そこまでは行かないです。でも、そいつだけは、今でも音信がないです。」

「それは仕方がないわね。でも、由佳、パラダイス興行が部活みたいな感じだから、良かったね。」

「はい。で、亜美はオタク仲間がいるんだよね。」

「うん、学校ではいなかったけど。イベントで知り合ったショタ仲間がいるよ。今はあまり会えないけど、鍵付きのSNSアカウントで連絡は取り合っている。」

「そうか、趣味仲間というのもいいもんね。」

「そうです。学校で一人ぼっちになったとしても、悩むことはないです。」

「結局、ここには普通じゃない人たちが集まっているんですかね。」

「まあ、尚の言う通り、私たち、普通じゃないのかもね。」

「だから、いつも言っているでしょう、まともなのは私ぐらいって。みんなが普通じゃないから、私が普通じゃなく見えるだけなんだよ。」

「そうなのかな。」

「美香先輩、明日夏先輩の言うことを取り合わなくてもいいです。普通じゃないを極めているだけです。」

「尚ちゃん、酷い。」

「でも、だんだん、出発する時間が近づいてきましたね。洗い物をしちゃいましょう。」

「それは、管理人さんがやってくれるから大丈夫。」

「本当に、大丈夫ですか。」

「普段は別荘の掃除ぐらいしかすることがないから大丈夫だと思う。」

「分かりました。それでは、集合写真を撮りましょうか。」

「うん、亜美、お願い。」

「分かりました。あと、みなさんが撮った写真のデータは私に下さい。ミサ先輩は、あとでスマフォを貸してもらえれば、データを吸い出しておきます。パラダイスのみんなのデータは事務所で受け取ります。集めたものは、パスワード付きのUSBメモリーで手渡します。画像や動画は、くれぐれもネットには上げないようにして下さい。」

「亜美先輩、有難うございます。」

「亜美、分かった。スマフォは車の中で大丈夫?」

「大丈夫です。」

亜美が三脚を立ててカメラをセットした。

「準備が終わりました。」

「先輩、今度はふざけたことを言わないで下さいね。」

「分かったよ。」

「じゃあ、みんな集まってください。」

「亜美ちゃん、大きなフラッシュ。」

「逆光になっちゃうんで。」

「さすが。」

「あの、先輩だけ横にならないで下さい。」

「くつろいでいる感じを見せようと思って。」

「たまには、ビシッとしたところも見せて下さい。」

「それでは、何枚か撮ります。」

「先輩、だからと言って、腕立てとか、腹筋とかしなくても大丈夫です。」

「体がなまっちゃうと歌えないかなと思って。」

「明日夏さんが腕立てなら、俺は倒立で。」

「それじゃあ、私も由香先輩に付き合います。」

「じゃあ、私は開脚で。」

「ミサさんすごい、脚が180度開くんだ。」

「困ったな。じゃあ、私はブランデーのビンを持って。」

「私何もできない。」

「亜美先輩、ジャンプで撮って。」

「リーダー、分かりました。撮るよ。」

「もう一枚。」

「最後。」

「有難うございました。」

みんなが出来上がった写真を見る。

「みんな、普通じゃない。」

「しいて言えば、亜美先輩がまともでしょうか。」

「うん、ぽっちゃりジャンプが可愛いねー。・・・・痛い。何?どこから、何が当たったの?尚ちゃんはずうっと見ていたのに。」

「小さなゴムボールが床と壁2回と天井で跳ね返って当たったみたいです。」

「尚ちゃん、部屋の壁でビリヤードをしちゃ危ないよ。」

「先輩が瞬きしている間に、私の後ろの方を飛んでいるのが分かりました。」

「尚ちゃんは後ろも見えるの?」

「はい。それより、橘さんはウイスキーをラッパ飲みしたんですか。」

「少しだけだよ。」

「でも、その瓶から他の人は飲めなくなっちゃいますよ。」

「アルコール消毒だから、大丈夫。」

「久美先輩、お土産に差し上げますので、お持ちください。」

「美香、ごめん。悪い。」

「それぐらい、大したことはありません。」

「じゃあ、悟と飲ましてもらうわ。」

「はい、ヒラッチ、と飲んで下さい。」

「有難う。」

「リーダー、倒立とか安定してできるんですね。」

「小学校の時、体操教室に行っていました。ここだとバク転は無理そうなんで、側転とかならできます。やってみますね。」

尚が側転で何回か回る。

「リーダーすごい。だから、ダンスを覚えるのが速かったのか。」

「私の場合は、ダンスより体操の方が似合っていそうですけど。」

「じゃあ、次はもっとダイナミックなダンスを取り入れてみようぜ。」

「私は、そんなのできない。」

「そうですね。3人のユニットでバランスも大切ですので、機会があればということにしましょう。」

「分かったよ。リーダー。」

「体操をやっていたなら、尚は開脚もできる?」

「はい。」

「じゃあ、一緒にやって、また写真を撮ろう。」

「分かりました。明日夏先輩は隣で寝ててください。」

「ふふふふ、実は、私も開脚はできるのだよ。」

3人が並んで開脚をしたところで、亜美が写真を撮る。

「3、2、1、ハイ!」

写真を撮り終わって、久美が少しむせる中、全員が立ち上がる。

「本当ですね。先輩、相撲部でしこでも踏んでいたんですか。」

「どすこい。どすこい。ごっつぁんです。違う!」

「バレーボール部ですか。ボールを無くしそうですね。」

「そうそう、レシーブのとき脚が開きすぎても大丈夫。違うって!尚ちゃんがボケの役を取らない。でも、バレーをやっていたって分かる?」

「明日夏先輩、姿勢が良いと思っていましたので、なんとなく。」

「その通り、中学校までバレーをやっていたのだよ。」

「ああ、だから明日夏は綺麗に見えるのか。」

「ミサちゃん、それは半分褒めて、半分褒めていないかも。」

「そんなことないって。私、明日夏みたいになりたいし。」

「自分で言うのも何だけど、それは止めておいた方がいいよ。」

「そうかな。」

「明日夏先輩、でも何でバレーを辞めたんですか。」

「アニメにはまって、時間がなくなったからなんだけど。」

「へー、それは明日夏先輩らしい理由ですね。」

「そうかな。へへへへへ。」

「でも、結果オーライで良かったですね。」

「もし続けていれば、今頃、世界のプリマドンナだったかもしれない。」

「はい、世界のプリマドンナ漫才師だったかもしれませんね。」

亜美が撮った写真を見せる。

「写真転送終わりました。」

「これは!」

「由佳ちゃんは、倒立でジャンプ。」

「亜美も、マイクを持ちながらジャンプか、亜美らしいな。」

「由香と違って、あまり何もできないから。」

「橘さんはブランデーをラッパ飲みしながらジャンプですか。社長が何と思うか。」

「さすがの私もジャンプしながら飲んだのは初めてよ。」

「普通そうでしょうね。でも、大丈夫ですか。」

「ちょっと飲みすぎちゃったけど、大丈夫。子供は真似しないようにじゃなくて、明日夏と美香、あと由香も、来年大人になっても真似しないように。」

「了解!」「はい、分かりました。」「ははははは、誰も真似しませんって、橘さん。」

「それにしても、この写真を世間の人が見ると、変人6人衆かもしれませんね。」

「それでもいいじゃない。また6人でどっか行きたいな。」

「とりあえず、冬にスキー・スノボでもどうでしょう。」

「蔵王に、ここほど大きくないけど別荘があるから、そこで良ければ。」

「それでは、お言葉に甘えて蔵王にしましょう。日程はまだ決められませんが、年末年始になると思います。日程は10月ごろに調整しましょう。普通の2泊が難しかったら、夜出発して、車中1泊、別荘1泊も考えたいと思います。」

「わかった。」

「それでは、荷物を持って車に移動しましょう。」

別荘に管理人はいなかったが「有難うございました。」と言って別荘を後にした。

 帰りの車は、小田原のミサの家の系列のホテルに寄って休んだ後、岩田家で尚を降ろし、パラダイス興行へ向かった。道中、海で撮った写真を見せあったり、冬の旅行の計画についての話をして盛り上がったが、だんだんと疲れが出て無口になったり、寝ていたりした。その中で、明日夏と亜美は、アニメや登場キャラに関して、パラダイス興行に到着するまで飽きずに延々と話していた。


 美咲が帰った後、アキ班ではセローが遅い朝食を出そうとしていた。

「朝食の準備はしておいたよー。目玉焼きと昨日のあまりのソーセージを焼いたものとサラダ。」

「セロー、有難う。なんか目玉焼き、私のよりうまく焼けている。」

「毎朝焼いているからー。」

「そうなんだ。やっぱり、経験か。」

「おう、セロー、有難うな。いただきます。」

「いただきます。」

6人が朝食を食べ始めた。アキがみんなに尋ねる。

「美咲ちゃんのパフォーマンス、どう思った。」

「俺は、歌はまだまだだけど、雰囲気は良いと思った。」

「湘南は?」

「美咲ちゃんの場合、アイドルより、子役や女優の方が向いていそうと思いました。まだ、小学生ですし、アイドルから女優になる例は多いので、芸能人になりたいなら、アイドルを目指すことは良いとは思いますが。」

「うん、なんとなく分かる。」

「芸名を考えないとな。」

「小学生ですし、本名と離れているほうがいいと思います。」

「うん、湘南の言う通りだと思う。パスカル、考えておいて。」

「分かった。ボーヴォワールとか。」

「パスカルちゃん、女性の哲学者の名前はやめておこう。」

「たぶん、女優にもアイドルにも使えそうな名前がいいんじゃないでしょうか。」

「分かった、考えておく。」

「ねえ、冬もみんなでどこか行かない?」

「冬だと、スキーとか、スノボとかか。」

「私、どっちもできないから、やってみたい。」

「じゃあ、そうするか。」

「蔵王に、僕がよく行く民宿があるけど。大勢で行けばホテルよりは安く済むと思うよ。」

「えっ、ラッキーってスキー場によくいくの?」

「大学はスキー部だったから。」

「へー、意外。じゃあスキーが上手なんだ。」

「うーん、競技スキーをやっていた。大回転。下手じゃないけど、整備されていないところを滑るのはそれほど得意じゃないかも。」

「でも、すごい。」

「スキーの初歩なら教えられるけど。今の若い人はスノボだよね。」

「俺はスノボは少しできる。」

「私も少し。」

「そうなんだ。ねえ、湘南は両方できないわよね。」

「一応、スノボが少しできます。家族で冬にスキー場に行っていました。ですので、チェーンとかの用意はありますので、うちの車で行くことができます。」

「そっか。まあ、本当にスキー場に行けそうになって嬉しい。答えたくなければ答えなくてもいいけれど、妹子はスノボが上手なんだよね。」

「妹はテレマークスキーが得意です。」

「テレマークスキー?普通のスキーと違うの?」

「歩くためのスキーと滑るためのスキーを合わせたようなもので、軍隊でよく使っているものです。妹は滑るのも上手と思いますが、よくゲレンデをテレマークスキーで上っています。」

「ゲレンデを上って行くの?!さすがね。まあ、私はやるならやっぱりスノボかな。できると、カッコいいし。」

朝食が終わり、セローが中心となってだいたいの経費を清算した後、誠はラッキーを駅まで送り、戻ってきて別荘の掃除を手伝った。

「アキさん、掃除はこれぐらいで大丈夫ですか?」

「大丈夫だと思うよ。掃除の人はたまに入るから。」

「有難うございます。」

「そんじゃ帰るか。」

「セローさん、それでは日曜日のライブで。」

「セロー、明日夏TOとして、オタ芸をバシッと決めろよ!」

「うん、練習の成果を出すよー。」

「ただ、指定席ですので、集まれないところがつらいところですね。」

「まあ、それぞれの場所でできる範囲で頑張ろう。」

「そうだねー。じゃあー、日曜日のライブでー。細かい清算もそのときまでにはしておくよー。」

「おう、頼む。」

セローがバイクで出発した。残りの4人もGT-Rでアキの別荘を後にした。帰りは助手席にアキが座った。後席のパスカルとコッコはすぐに寝てしまった。アキは寝ないように頑張っていたが、少しして寝付いた。誠は、明日夏、ミサ、トリプレットの歌を聴きながら運転した。帰りも、道中の西湘パーキングエリアに立ち寄って、ソフトクリームなどを食べたりしながらアキの家に向かった。

 西湘パーキングエリアを出るとパスカルとコッコはまた寝てしまったが、アキは起きて海を見ていた。新湘南バイパスに入るカーブで、誠はミサとの競争を思い出していた。カーブを曲がりきったところで、アキがつぶやいた。

「本当に綺麗だった。」

「何がですか?」

「海に決まっているでしょう。」

「そっ、そうですね。」

「湘南、ニヤニヤしていたけど、何を考えていたの?まさか、美咲ちゃんのことじゃないでしょうね。」

「違います。ニヤニヤはしていませんけど、自動車の運転が好きな鈴木さんのことです。こういうカーブは好きなんだろうなと思って。」

「湘南、自動車部だったわね。でも、鈴木さんって?」

「えっ、ごめんなさい。えーと、学年が同じなんですが。」

「へー、もしかすると、鈴木さんって女の人?」

「なんで、そんな妹みたいなことを聞くんですか?」

「口ごもっているところで、そんな感じがしただけ。でも、妹子はそういうことを聞くんだ。まあ湘南のことを心配しているみたいだしね。」

「女性に騙されそうと思っているみたいです。」

「分らないことはないかな。私も最初は湘南のことをチョロいやつって思っていたし。」

「そうなんですか。」

「あのニヤニヤが美咲ちゃんじゃないからいいけど、鈴木さんとはどんな関係?」

「えーと、知り合い程度でしょうか。別に、深い関係ではありません。」

「そういうことにしておくけど、車好きという以外にはどんな人?」

「えーと、運動神経がすごくいい人です。」

「運動神経がいい人か。湘南と合うかもしれない。」

「僕は運動神経、良くないですよ。」

「そんなことは良く知っているわよ。でも、反対のところがいいと言うこと。今度連れてきてよ。」

「何でですか。」

「今までのお礼に、脈がありそうかどうかチェックしてあげる。私、感はいい方だと思うよ。」

「全く脈はないと思います。」

「連れてこないと、今の話、パスカルにしちゃうぞ。」

「分かりました。もし機会がありましたら、お引き合わせします。」

「分かった。楽しみができた。」

アキの家の近くのガソリンスタンドで、洗車と給油をした。パスカルはアキの家の近くの公園で降りて、残りの3人はアキの家に向かった。そして、誠はアキの家の駐車場に車を止めた。

「湘南ちゃん、寝ちゃってごめんね。アキちゃん、それじゃあ、日曜日に。」

「うん、日曜日に。」

「イラストはその時までにだいたい仕上げる。」

「有難う。でも、あまり過激にしないでね。」

「まあ、今回は収穫が多かったし、楽しい雰囲気を出すよ。」

「楽しみにしている。湘南、運転、有難うね。楽しかったわ。」

「どうも有難うございます。僕は、GT-Rを運転できて良かったでした。」

「それじゃあ、日曜日に。」

「はい、日曜日に。」

誠とコッコはパスカルがいる公園に歩いて向かい、パスカルと合流して駅に向かった。

「それじゃあ、また。」「おう、また。」「いいスケッチが描けた。またね。」「パスカルさん、残りの2曲もお願いします。それでは日曜日に。」

「おう、任せておけ。では日曜日に。」

「それじゃあ、日曜日に。みんな有難う。」

その後飲みに行くことはなく、電車に乗ってそれぞれの家に向かった。


 誠が家に到着すると、妹が階段を降りてきた。

「お兄ちゃん、お帰りなさい。」

「ただいま。尚も元気そうで良かった。」

「うん、楽しかったよ。みんなのいろいろな話が聞けたし。バーベキューの肉も美味しかった。お兄ちゃんの方は?」

「みんな楽しんでいたよ。僕はGT-Rを運転できたのは良かった。」

「でも、今度から、どこか泊りで行くときには尚にも話してね。」

「そうするよ。」

「明日夏さんの応援の練習とアキの新曲の準備は、どうだった?」

「両方ともちゃんとできたよ。ところで、ケーキ屋で会った後、アキさんの前でアキさんの新曲のパフォーマンスをしたんだって。」

「うん、アキの参考になると思って。」

「尚とのレベルの差を知って、アキさんが精神的に挫折しかけたんだけど。」

尚は瞬間的に誠が言った「しかけた」という意味を理解した。

「でも、お兄ちゃんが励まして、アキはもっとやる気になったんだよね。」

「励ましたのは僕だけじゃないけど。尚はそこまで考えていたのか。」

「もちろんだよ。お兄ちゃんのことは誰より知っているつもりだよ。」

「そうか。ごめん、アキさんにアイドルになることを止めさせようとしたのかと誤解してしまった。」

「強敵になるライバルを今のうちに潰すって?アキは信用できないところもあるけど、お兄ちゃんが応援している人にそんなことをしないよ。負けず嫌いのアキのことだから、今は目標は尚とか言って頑張っているんじゃないかと思うよ。」

誠が尚の頭を撫でながら言う。

「驚いた。その通り。本当にごめん、お兄ちゃんが悪かった。でも、尚もどんどん成長しているんだな。お兄ちゃんも嬉しい。」

「もう、お兄ちゃん、子供じゃないんだから。」

尚は喜びながらも「うーん、アキにはお兄ちゃんがついているから、下手な小細工は通用しないか。アキをお兄ちゃんから引き離すには何か別の方法を考えないと。」と思っていた。

「そう言えば、美香先輩がお兄ちゃんに叱られたって言っていたけど、お兄ちゃん、美香先輩の運転について叱ったの?」

「僕が鈴木さんを叱るわけがないでしょう。前に尚が言ったように純真で真っ直ぐな人だけど、何と言うか、小学生より幼いところがある感じがしたから、安全運転するようにお願いしただけだよ。」

「鈴木さん?あー、本名の苗字か。」

「そう呼んでと言われたから。」

「そうなんだ。でも、美香先輩はお兄ちゃんに叱られたと思ったみたい。」

「困ったな。尚に迷惑がかからないといいけど。僕の悪口なら、鈴木さんに何を言っても構わないから。うちの兄はおかしな奴だって。それより安全運転はしてもらえそう?」

「うん。マネージャーの橘さんの昔のバンドのメンバーが、バイクと急に右折した車の事故で、落ち度がないのに亡くなったという話を聞いて、絶対に安全運転をしないといけないと思ったみたい。」

「橘さんにはなんて言っていいか分からないけど、鈴木さんが安全運転してくれれば、僕はそれだけで構わないかな。」

「ふーん。お兄ちゃんとしてはそうだよね。でも、ねえ、お兄ちゃん、美香先輩って、美人だと思う?」

「それは、まあ。傍で見たら、人間離れているというか、動く実物大フィギュアみたいな感じの美人だった。」

「ふーん。」

「近くで話せただけで光栄というか、歌もすごく上手だし、尚の友達になってくれて感謝しているよ。僕が手助けできることがあれば何でもしたいと思う。」

「まあいいや。美香先輩が『Overfly』のアレンジ、有難うだって。」

「今度の日曜日のライブのコラボの?あれを使ってくれるの?」

「まあ、私が強く推薦したからだけど。あと、ライブでみんなで歌うので、少し変化を付けたいというのもあったみたいだけ。」

「トリプレットの時と今回と、尚のおかげだね。有難う。」

「そうだ、社長が少し手直しをしたんだけど、あのままだと人間じゃ演奏できないので、気を付けてって言っていた。」

「分かった。プロの助言は本当に有難い。確かに僕は社長さんと違って演奏できないから、もっと勉強しないと。尚、できれば社長さんに、助言のお礼を言っておいてくれる。」

「うん、もちろん。」

「日曜日のライブ楽しみにしているよ。」

「わかった、リハーサルと本番、頑張るよ。」

「帰りが遅くなるようなら言ってね。夏休みで時間があるから迎えに行くよ。」

「有難う。じゃあ、明後日のリハーサルの日にお願いしていい?」

「もちろん。」


 ヤングアニソンライブの日となった。朝に誠と尚美が家を出発した。

「尚、昨日遅くまで、静かに練習していたみたいだけど、ダンスの練習をしていたの?」

「ううん、ステージ衣装の下に隠した催涙スプレーやスタンガンを取り出す練習。1秒以内には取り出せるようになったよ。」

「止めても無駄だよね。迅速に退避するため、鈴木さんを持って運ぶ係を事前に決めておくといいと思う。」

「うん、そうする。」

「あと、鈴木さんが退避したら尚もすぐに退避するんだよ。尚を攻撃するために、鈴木さんを襲うと見せかけて、やられたふりをしている可能性もあるから注意するんだよ。」

「そっか、気を付けるよ。ところで、お兄ちゃん、今日は会場でどんな恰好をする予定?」

誠がバックの中を見せる。

「明日夏さんのグッズの緑の法被とヘアバンドだよ。下にトリプレットのTシャツを着ているけど、見えないと思う。」

「見えなくても嬉しいよ。お兄ちゃん、明日夏さんの副TOだからね。」

尚には赤いリストバンドも目に入ったが、デザインからして普通のスポーツ用品と思った。誠にしては色が派手で変わっていると思ったが話を続けた。

「ステージから探してみるけど、公演中は、いつも見つけることができなくて。」

「見つけなくてもいいよ。公演中はトリプレットのことに集中して。話せることがあったら、後で話してくれれば。」

「分かった。」


 尚美は渋谷からタクシーに乗り、ヘルツレコードの本社に向かい、誠は会場と近いネカフェで時間をつぶし、開場2時間ぐらい前にホールの前に行き、物販の列に並んだ。

「明日夏さんのグッズはTシャツか。トリプレットは、個人別のものもあるけど、3人が並んだタペストリーにしようかな。鈴木さんは、尚の面倒を見てもらっているお礼にアルバムのCDを買うか。CDならファンじゃなくても買うこともあるし。」

物販を終わると、セローを中心に、誠、パスカル、アキ、コッコが集まった。男性3人は明日夏のグッズの法被を着ていた。

「セローさん、フラスタのとりまとめ有難うございます。」

「うん、ラッキーさんに方法を教わって、今回で2回目、だいぶ慣れてきたよー。」

「ラッキーさんは、もうすぐ来ると連絡がありました。」

「今回の席は、パスカルちゃんと湘南ちゃん、セローちゃんとラッキーちゃんというなかなかの組み合わせで、パスカルちゃんと湘南ちゃんなんて法被までお揃いなのに、私とアキちゃんからの席からは離れているんだよな。残念。」

「ステージを見る方を集中してください。」

「湘南、今日は明日夏ちゃんの応援、頑張ろうな。」

「はい。本当はみんなでかたまれれば良かったんですが。」

「指定席で、チケットが2枚ずつしか売っていないから仕方がない。」

ラッキーがやってくる。

「ラッキー、こんにちは。こんどのライブの宣伝してくれて有難うね。」

「アキちゃん、こんにちは。お安い御用だよ。」

「それにしても、ラッキーちゃん、すごい荷物だね。」

「今回、推している演者が多かったからね。」

「ヤングということで、アニソン歌手や声優さんの中でも若い人が多いからですか。」

「まあ、そういうことだね。」

「そう言えば、湘南、ミサちゃんのCDを買っていたようだけど、DDに目覚めるか。」

「大河内さんには妹がお世話になっているので、お礼の気持ちです。」

「湘南、美咲ちゃんからは連絡きているんだよね。」

「はい、メールを皆さんに転送していますが、土曜日に来て返事を出しました。皆さんもできれば返事をして上げてください。」

「それにしても、湘南ちゃんは相変わらず策士よのう。お母さんから先に説得するようアドバイスするのは。」

「外堀を埋める作戦は、妹の時に上手くいったためです。」

「なるほど。」

「うちは、アイドル活動に関してはどっちもだめそう。目立たないように、こっそりやるだけ。」

「親の同意書とかは大丈夫なの?」

「今のところ、お金をもらうつもりはないし、雇用契約しているわけじゃないから。だいたい、私はパスカルの労働者というわけではないし。」

「確かに、どっちかというと、アキちゃんがパスカルちゃんの雇用主だもんね。」

「メイド喫茶の方はどうなんですか。」

「メイド喫茶のバイトはもうやめる。今の活動の邪魔になるから。親に許してもらえそうな普通のバイトにする。」

「それだと、集合場所を考えないといけないですね。」

「普通の喫茶店でいいんじゃない。ぼったくられないし。」

「そっ、そうですね。」

「自分で言うのが、アキちゃんらしい。」

「そう言えば、今日もコールブックは配らないんだよね。」

「はい、部数に限りがありますので、前回や今回のような大きなライブでは無理だと思います。一応、30部ほど持ってきてはいますが。」

「でも、湘南君が作ったホームページのQRコードを載せたカードを作ってきたよー。応援の方法は、湘南君のホームページを見ればわかるしー。」

「セローさん、さすがです。」

「ラッキーさんが教えてくれたからだよー。配るのを手伝ってくれるー?」

「もちろんです。」「OK。」「分かったわ。」「了解だよ。」

「ごめん、僕は他の人と話してくる。ついでで配れるから、20枚ほどお願いできる。」

「分かったー。お願いしますー。」

「ラッキーさん、私の宣伝もお願いね。湘南、私のチラシ持ってきた?」

「はい、30枚ほどあります。」

「じゃあ15枚、ラッキーさんに渡して。」

「はい。あと、もし知り合いの明日夏さんファンがいらっしゃっいましたら、コールブックの配布をお願いできますか。」

「じゃあ、10部ほどもらおうかな。」

「有難うございます。」


 開演前、明日夏とトリプレットの3人がミサの楽屋を訪ねた。

「美香先輩、リハーサルも大丈夫そうでしたね。」

「うん、海に行って前より元気になったし、みんなも頑張っていると思えば大丈夫。」

「今回はステージ衣装の中に催涙スプレーとスタンガンを仕込んできました。私は舞台袖にいて、もし何かあったら3秒以内に対応しますから安心して下さい。」

「そっ、そう。有難う。さすが尚、何でも積極的に解決しようとするんだね。でも、無理はしないでね。誠、妹思いだから、私のために尚にケガさせたら、嫌われちゃう。」

「兄は悲しむことはあっても、美香先輩を嫌うという事はないと思います。相手の制圧は私に任せて、ともかく、美香先輩は急いで逃げてください。」

「うん、絶対に逃げる。」

「リーダー、さすがに今日は大丈夫でしょう。そんなことより、コラボ曲で、海での練習の成果を見せましょうよ。」

「由香に賛成。由香といっしょにダンスして切れと滑らかさの感じが、前より分かった気がする。」

「ミサさんは、普段はライブではあまりダンスを披露しないんですよね。」

「うん、そう。今回が初めてだよ。いつもは歌に集中することにしているから。」

「それじゃあ、ミサさんのファンはミサさんのダンスを見てびっくりすると思いますよ。」

「ファンが離れないといいけれど。」

「そんなファンがいないとは言いませんが、そんな人は相当のひねくれ者ですよ。ミサさんのダンス、マジで良かったです。明日夏さんのダンスもいつもより振りが大きめだから、ファンにとっては新鮮かもしれません。」

「へへへへへ。新たな神田明日夏を見てもらおう。」

「そっか、そうだよね。新たな大河内ミサを見てもらおう。」

「みんな、頑張ろうね。」

「それでは、5人で円陣を組みましょうか。掛け声は一人ずつ。最初は由香先輩で、亜美先輩、ミサ先輩、明日夏先輩の順で、最後は不祥ながら、私が掛け声をかけます。」

「楽しそう。」「うん、やろう。」「オーケー。」「了解です。」

5人が円陣を組む。

「カッコよくダンスを踊るぜ!」

「おー。」

「綺麗なハーモニーを響かせよう!」

「おー。」

「橘さんの特訓の成果、みんなで見せよう!」

「おー。」

「海は広いな大きいな!」

「おっ、おー。」

「行ってみたいな、よその国!」

「おっ、はははははは。」

「すみません。明日夏さんに乗ってしまいました。ラスト、もう一回行きます。」

「了解。」

「コラボを成功させて、また、みんなで遊びに行こう!」

「おーーーー。」

「有難うございます。」

5人がそれぞれの楽屋に戻っていった。


 公演が始まり、『ペナルティーキック』の前奏と共に、トリプレットがトップバッターとして出てきた。

「みなさん、こんにちは。トリプレットです。」

3人がペナルティーキックを歌い始め、無事に歌い終わる。

「改めまして、みなさん、こんにちは。アニソンヤングライブにようこそ。ただ今、お聴き頂いた曲は、私たちのデビューシングル『私のパスをスルーしないで』のカップリング曲の『ペナルティーキック』を、私、チアセンターの星野なおみ、と、」

「ダンスセンターの南由香、と、

「ボーカルセンターの柴田亜美で、お届けしました。」

「今日も、よろしくお願いします。」

「ところで、みなさん、メンバーの中にちょっと変わった人がいるのに気が付きましたか。・・・・みんな変わっている?いえ、あの、性格が変わっているという意味じゃなくて、外見が変化したメンバーはいますか?・・・・はい、そうです。由香先輩です。何か日焼けしていますよね。どうしたんですか、由香先輩。」

「ちょっと前に、海に行ってきたぜ。って、リーダも亜美もいっしょだけどな。二人と俺の違いは、日焼け止めとサンオイルの違いなんだぜ。」

「そうなんです、トリプレット3人と、同じ事務所の明日夏先輩、それになんと、大河内ミサ先輩もいっしょに海に行ってきました。詳しい話は、ライブの後半であると思いますので、楽しみにしていてください。でも、由香先輩、ますますカッコよくなりました。」

「みんなも、そう思うか。・・・・・おう、有難うな。」

「私は海でたくさん泳いだり、ダンスしたりしたので、少し痩せるかとおもったのに、変わらなかったでした。」

「亜美、バーベキューでいっぱい食べたからな。ケーキもな。」

「うん、だから体重の変化がプラスマイナスゼロだった。」

「でも、楽しかったですよね。」

「はい、本当に楽しかったです。」

「それに、亜美はダンスを頑張ったから、絶対に上達したよ。だからプラスだぜ。」

「由香先輩の言う通りです。それに、ミサ先輩の歌を間近で聞けて良かったですよね。」

「その通りです。ミサさんのカラオケ、すごく刺激になりました。まだまだ頑張ろうと思います。」

「もしかすると、心配されている方もいらっしゃるかもしれませんが、ミサさんはすっかり元気です。後ほど、すごいパフォーマンスを披露してくれると思いますので、楽しみにしていて下さい。それでは、ボーカルセンター亜美先輩の奇麗な声が映える『ずうっと好き』と、トリプレットの最後の曲になりますが、」

客席から「えー。」という声が響く。

本当のサッカー選手みたいにカッコいい由香先輩のダンスが映える『私のパスをスルーしないで』をお楽しみください。」

2曲を続けて歌い、無事に歌い終える。

「有難うございました。トリプレットで、『ずうっと好き』と『私のパスをスルーしないで』でした。ライブはまだ始まったばかりです。この先も元気で若いアーティストのパフォーマンスをお楽しみください。それでは、トリプレット、チアセンターの星野尚美、

「ダンスセンターの南由香、」

「ボーカルセンターの柴田亜美、」

「でした。またねー。」

3人が手を振りながら退場していった。


 ヤングライブということで、新人やそれに近いアーティストが順番にステージの上に立ち、パフォーマンスを披露した。そして、ライブの最後の方に、すっカーズが舞台に現れ、演奏の準備が終わると明日夏が現れ、『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』の前奏が始まり、明日夏が歌い始める。無事に歌い終わると、明日夏がMCを始める。

「こんにちは、神田明日夏です。私のファーストシングル『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』から『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』をお届けしました。最初に尚ちゃんが言っていたように、ミサちゃんとトリプレットのみんなと海に行ってきました。泳いだり、バーベキューをしたり、カラオケをしたりして楽しんできました。でも、なんて言っても圧巻だったのは、ミサちゃんとトリプレットの4人が水着でダンスの練習をしているところでした。お前は練習しなかったのかって?私は、ビーチベッドで横になってジュースを飲みながら4人のダンスを鑑賞していました。おかげで、セレブエロおやじのようだと尚ちゃんに言われちゃったんですけどね。でも、今でもまぶたに焼き付いていますよ。躍動する肉体のミサちゃん、元気で妖精のように可愛い尚ちゃん、切れ切れダンスの由香ちゃん、小さな体に秘められたエロスの亜美ちゃん。本当にね、アニソン歌手になれて良かったと思いました。その楽しかった気持ちも込めて、セカンドシングル『ジュニア』から『天使の笑顔』と『ジュニア』をお届けします。」

明日夏が2曲続けて歌う。

「有難うございました。お聴きいただいた曲は、『天使の笑顔』と『ジュニア』でした。えっ、歌い終わったんだからひっこめって?酷いな。違うんですよ。これからコラボで歌います。それでは、ミサちゃん、出ておいで。」

「明日夏、亜美や私のダンスの形容はいったい何なんだよ。」

「あっ、躍動する肉体のミサちゃんだ。」

「だから、それ。」

「芸術品のようだった。」

「いや、それは。まあ、明日夏だからしかたがないけど。でも、明日夏は何て言えばいいんだろう。優雅にくつろぐ・・・・」

「エロおやじ。」

「それを自分で言うの。それにしても、今までは海なんて家族でしか行ったことがなかったから、みんなと行けて本当に楽しかったです。みんなからいっぱい元気をもらうことができて、これからも頑張っていけそうです。」

「えー、ミサちゃんが一番元気だっんじゃ。疲れを知らない子供のようだった。」

「精神的な元気かな。尚が言っていた通り、明日夏を見ていると、小さいことにくよくよするのが馬鹿らしくなる。」

「それ、褒められている気がしない。」

「ううん、尚もほめているんだよ。それでは、せっかくのコラボということで、二人だけじゃなく、トリプレットの3人も呼びたいと思います。尚、由香、亜美、いらっしゃい。」

「はーい。」

トリプレットの3人もやってくる。

「明日夏さん、何ですか。小さな体に秘められたエロスの亜美先輩って。」

「そうですよ。私、将来的には歌手志望なんですから。」

「亜美ちゃん、情感こもったバラードを歌うためにはやっぱり秘められたエロスが必要という、先輩からのアドバイスです。」

「それはそうですが。」

「亜美先輩、なんか、明日夏先輩に上手く丸め込まれた感じですが。」

「小さな体に秘められたエロスの亜美です。」

「亜美先輩、開き直ったんですか。」

「明日夏さんのエロおやじ戦法を真似してみました。」

「なるほど。でも、それが定着しても大丈夫ですか?」

「・・・・・大丈夫じゃないです。」

「明日夏先輩とは違うので、その二つ名はここだけということにしておきましょう。」

「はい、分かりました。」

「ねえねえ、尚ちゃん、私のエロおやじも定着すると大丈夫じゃないよ。」

「大丈夫です。全く、問題ありません。」

「そうなの?」

「はい。断言できます。」

「それじゃあ、Tシャツにプリントして売ろうかな。優雅にくつろぐエロおやじ、神田明日夏。小さな体に秘められたエロス、柴田亜美という。」

「私まで巻き込まないで下さい。」

「でも、亜美ちゃんのTシャツの方が売れそうだから。」

「Tシャツの話は、スタッフの方に任せるとして、由香先輩、ミサ先輩のダンス、どうでした?」

「パワーがあるダンスで、見ている人は絶対にその迫力に圧倒されると思います。」

「ミサさんは、普段歌う時は、あまり振付はしないんですよね。」

「うん、私は歌うことに集中しているから。由香はずっと練習してきたから、スピード感の中にもしなやかな感じがやっぱりすごい。海でいっしょに練習して、由香のすごさがもっと分かってきたよ。」

「有難うございます。でも、ミサさんのダンスもなかなかです。コラボ曲の間奏ではミサさんといっしょにダンスをしますので、みなさん、是非、注目して下さい。」

「本当に絶対すごいから。エロおやじ、大推薦。」

「明日夏、ダンスは別にエロくはないけど。」

「芸術を、エロく見るのが、エロおやじ。」

「先輩、575でまとまっていますが、大丈夫ですか。本当にエロおやじが定着してしまいますよ。」

「そうだった。ミサちゃんと由香ちゃんの本当に綺麗なダンスです。」

「それでは、コラボで歌いたいと思います。」

「オリジナルの振付と、」

「オリジナルのハーモニー、」

「海で5人で練習してきたコラボ曲、」

「楽しんで頂ければと思います。」

「『Overfly』」

5人で『Overfly』を歌い、間奏のミサと由香のダンスもバッチリと決まり、曲が終わると拍手が巻き起こった。

「有難うございます。大河内ミサと、」

「神田明日夏と、」

「トリプレット、星野なおみと、」

「南由香と、」

「柴田亜美と、」

「演奏、すっカーズで、『Overfly』をお届けしました。」

「すっカーズのみなさん、有難うございました。」

「皆さん、ミサさんと俺のダンス、どうだった!・・・・良かったって。」

「有難うございます。」

「明日夏、尚、亜美のダンスも良かったよね。・・・・ほら、良かったって。」

「それじゃあ、また、みんなでダンスをできるような機会を作りましょう。」

「そうね。」

「でも、みんな、聞いて。この4人はこんな感じのダンスの練習を水着でやったんだよ。普段はオタクな私がエロオヤジ化するのもわかるよね。・・・・分かるって。ミサちゃんが赤、尚ちゃんがピンク、由香ちゃんが黄色、亜美ちゃんが白。」

「そして、明日夏先輩が緑でしたね。」

「そう。だから、ミサちゃんと、由香ちゃんと、私で信号機。」

「赤、黄、緑ですか。信号機トリオ、漫才でデビューしますか?」

「うーん、ミサちゃんを鍛えなおす必要があるけど。」

「私はロックシンガーの方がいい。」

「それじゃあ、この話は無理ですね。」

「残念。まあ、漫才はともかく、またみんなで遊びに行こう。」

「もちろん。」

「でも、ミサちゃん、忙しそうだからな。」

「絶対行く。約束する。トリプレットのみんなもね。」

「はい。必ず。」「絶対だぜ。」「楽しみにしています。」

「ミサちゃんと遊ぶ約束を取り付けたから、私たちは退散しますか。」

「そうしましょう。それではみなさん、またお会いしましょう。」「またねー。」「まただぜ。」「また、お願いします。」

明日夏とトリプレットのメンバーが手を振りながら舞台袖に下がった。尚美は舞台袖に留まって、会場とミサを見ていた。

「尚ちゃん、お疲れ様。」「尚、うん、今できる最高のパフォーマンスだったと思う。」

「社長、橘さん、有難うございます。今日は何もないとは思いますが、何かあってミサさんが動けない場合は、橘さんといっしょに運んでください。」

「了解。」「尚、了解。」

ミサもパフォーマンスを始めていた。

「4人がいなくなって、ステージが静かになってしまいましたが、ここから、私の歌をお届けしたいと思います。それではお聴きください。私のデビュー曲『Fly!Fly!Fly!』」

『Fly!Fly!Fly!』を、以前よりリズムに乗って歌った。

「私のデビュー曲であり、とっても好きな曲『Fly!Fly!Fly!』をお届けしました。海には明日夏の歌の先生である橘さんがいらしていて、歌の特訓をいっしょに受けてきましたので、この曲が持つスピーディーな感じをより引き出せているんじゃないかと思います。橘さん、私が中学生のときの憧れのロックシンガーでしたので、これからもいろいろ教わって、歌に磨きをかけていきたいと思っています。それでは、次は打って変わってバラード調と7月にリリースした新曲を曲お届けしたいと思います。」

ミサが『許されざる恋』と『Catch UP』を歌い終わると、歓声が巻き起こる。

「有難うございます。『許されざる恋』と『Catch UP』をお届けいたしました。次がこのライブの最後の曲になります。」

会場から最大限の「えーーー。」という声が巻き起こる。

「先日の一件をご存じの方もいらっしゃると思います。そのために、これでも一時は落ち込んだのですが、みなさんに歌っていただいた『Bottomless power』が私に力を与えてくれました。友人やたくさんの方々に支えられていると分かって、今の私は前以上に元気です。何千もの方に歌っていただいたパワーには敵わないですが、すこしでもお返しができたらと思います。『Bottomless power』。」

ミサが『Bottomless power』を歌い上げる。歌い終わると、今までで最大の歓声が巻き起こる。

「有難うございました。大河内ミサで『Bottomless power』でした。また、どこかで必ずお会いしましょう。」

手を振りながら、ミサが舞台袖に下がった。


 ミサが一度下がったあと、最後の舞台あいさつのために一人ずつステージに出てきて挨拶をした。コラボを行ったトリプレット、明日夏、ミサは最後の方となった。

「トリプレット、星野なおみです。今日は大河内ミサさんと明日夏さんとコラボができて楽しかったでした。歌の実力で少しでもミサさんに近づいて、より良いコラボをしたいと思っていますので、みなさん、これからも応援、お願いします。今日は、本当に有難うございました。」

「トリプレット、南由香だぜ。すごかったよね、ミサさんのダンス。絶対また機会を作って、一緒にダンスをしたいと思っている。そのときは、是非、見に来てくれ。今日は有難うな。」

「トリプレット、柴田亜美です。これからも、小さな体に秘められたエロスを磨いて、『ずうっと好き』をもっと上手に歌えるように頑張ろうと思います。今日は、お越しいただき、有難うございました。次は、優雅にくつろぐエロおやじの明日夏さんです。」

「ねえ、亜美ちゃん、それ定着させるつもり?」

「明日夏さんと一緒の時だけです。」

「なるほど。神田明日夏です。みんなで海に行って、より仲良くなったんですが、仲良くなりすぎて、こんな感じで何を言われるか分からない状態になりました。」

「明日夏先輩が先に言ったんですよ。」

「そうでした。自業自得ですね。これからもミサちゃんとトリプレットのみんなと一緒に練習したり、遊んだりして、その成果をステージでみなさんに披露したいと思います。今日は、本当に有難うございました。」

「大河内ミサです。明日夏の優雅な振付も明日夏らしくて良かったよね。今日は明日夏とトリプレットのみんなと最高のコラボができ、楽しくて思い出に残るライブになりました。夏真っ盛り。私もまだまだいろんなことに挑戦していくつもりですが、皆さんも新しいことに挑戦して、夏を楽しんで下さい。明日夏やトリプレットとのコラボをお届けできたこのライブがみなさんの思い出の一つになってくれれば嬉しいです。今日は、本当に有難うございました。」

最後に全員で手をつないで、声をそろえて挨拶をする。

「今日は、アニソンヤングライブにお越しいただき、有難うございました。」

そして、演者たちが舞台袖に引き上げていった。


 ライブの後、パスカル、アキ、コッコ、ラッキー、セロー、誠が喫茶店に集まっていた。

「お疲れ。」「楽しかった。」「なかなか楽しかったよ。」「盛り上がったね。」「明日夏ちゃん、可愛かったー。」「お疲れ様です。」

「ミサちゃん、明日夏ちゃん、トリプレットのコラボ、本当にすごかった。やっぱり、あれがプロかって感じだった。」

「うん、長年見てきた中でも最高のコラボだった。でも、アキちゃんが妹子ちゃんに会ったとき、ミサちゃんや明日夏ちゃんも来ていて、練習していたんだろうね。」

「ラッキー、湘南はいろいろ知っているみたいだから、あまりその話は。」

「そうだね。ごめん。でも、ミサちゃんが元気になってて良かった。」

「ミサちゃん、ダンスがあんなに上手って知らなかった。歌もますますパワフルだったし。」

「まだまだ伸びるな、ミサちゃんは。」

「明日夏ちゃんも、すごかったよー。」

「そう、セロー君のいう通り。地味に実力を伸ばしている感じがする。」

「はあ、私とは差は開く一方という感じ。」

「アキちゃんは二人と勝負するつもりだったの?」

「そういうつもりは、ないけどさー。妹子もすごかったし。」

「アキさんは、アキさんの良さを伸ばせばいいと思います。」

「その通り。湘南らしい、フォローだな。」

「まあ、それしかないものね。」

「セローさん、応援の方はどうでした。」

「うん、練習したから、ラッキーさんとちゃんとできたと思うよー。」

「そうね。後ろから見ていたけど、二組ともばっちりだったよ。」

「でも、やっぱり、シンクロ率はパスカルちゃんと湘南ちゃんの方が高かった。」

「まあ、そうね。それは、そうだったかもしれない。」

「そうかー、次はもっと頑張るよー。」

「でも、セローちゃん、二人は神が造りしカップルだから、シンクロ率は仕方がないのかもしれない。セローちゃんは、もっと元気にかな。」

「分かったー。」

「応援と言えば、タック君たちのグループ、すごかったね。」

「場所は散らばっていたけれど、会場全体でシンクロしていた。」

「あれは、体育会系のシンクロだよね。」

「おう、体育会系の気合が入っていた。あれは無理だな。」

「そうですね。もう少し練習しようかとも思いますが、明日夏さんは次のライブがシンガポールまでないんですよね。」

「まだ2か月もあるよー。悲しいなー。」

「ミサちゃんは、とりあえず次はアニサマ2日目か。」

「それと、テレビの歌番組に出演するってSNSに書いてあった。」

「アキちゃん、サンキュー。見逃していた。ところで、湘南はアニサマに行くのか?」

「今のところ、行く予定はないです。」

「アニサマはマジにチケットに余裕がないから、チケットを湘南にまわすこともできないし。」

「はい、大丈夫です。僕は、時間があるうちにアキさんの方の作業をしたいと思います。夏前にあまり作業ができなかったでしたから。」

「湘南、有難う。でも、ごめん。私はミサちゃんが出るアニサマ2日目に行くんだけど。」

「はい、アーティストの勉強をしながら、楽しんできてください。」

「有難う。」

「よーし、アキPGは、アキちゃんの収録やライブで。セローは、明日夏さんの次のイベントで、また会おう。」

「コッコがコミケで出店するので、その手伝いでコミケに行くの。時間があったら来てね。」

「私の同人漫画も買っていけ。」

「分かったよ。」「コミケか。久しぶりだな。」「はい。行ってみます。」

パスカル、ラッキー、コッコは、そのまま飲みに、誠は尚美の送迎のために渋谷に、アキとセローは帰宅の途についた。


 公演が終わり、関係者の挨拶や片付けが終わったステージに仰向けで寝ている明日夏のところに、明日夏を探していたミサ、尚美、由香がやってきた。

「また、明日夏先輩、どこに行っていたかと思えば、ステージに横になって。お疲れですか?」

「『タイピングワールド』にバグがあったみたいで、海から帰ったら、その対応で姉貴の手伝いをして大変だった。」

「そうなんですね。ゲーム、もう発売でしたね。」

「うん、ディスクはもうプレス済みだから、バグの部分はダウンロードで治すみたい。」

「なるほど。」

「私も横になってみようかな。」

ミサが明日夏の隣で横になる。

「変な景色。でも、なんか自由になった気がする。さっきまで、お客さんがいっぱいいたのに。」

「俺も横になってみよう。」

「もう、明日夏先輩が変なことをするから、由香先輩まで。私も、付き合いますけど。・・・あー、美香先輩の言うことわかります。」

「ところで、リーダー、今日、リーダーの兄貴は来ていたんですか。」

「朝、一緒に家を出ましたので、来ているとは思いますが、これだけ広いと見つけるのは無理でした。それに、ステージ前を見張っていましたし。豊さんは来ていたんですか?」

「SNSでだいたいの位置を聞いていたから、歌っている間は見つけられなかったけど、リーダーのトークの間に見つけることができたぜ。」

「それは良かったです。」

「でも、尚のお兄さん、あの辺にいたわよ。熱心に明日夏の応援をしていた。」

「でも、ミサちゃんが出ている間は、尚ちゃんみたいにステージ前を見張っていたよ。」

「美香先輩も明日夏先輩も兄の位置が分かったんですか。」

「うん、誠は明日夏の応援をするときには目立つから、そのとき見つけるといいと思う。」

「いつもいる橘さん推しの友達といっしょだった。」

「パスカルさんですね。」

「そう言えば、誠は隣の人といっしょに明日夏を応援していた。」

「リーダ、落ち込まなくても、歌にダンスにトークに警戒に、リーダが一番大変なことはみんな分かっていますから。」

「それに、尚ちゃん、尚ちゃんは由香ちゃんと亜美ちゃんのことも考えないといけないからねー。」

「明日夏さん、酷い、って言いたいところですが、その通りです。」

「美香先輩、一応確認ですが、どんな服を着ていました?」

「明日夏の緑の法被に、緑の鉢巻。あと、私があげた赤いリストバンドをしていた。」

「あー、あの赤いリストバンドは、美香先輩のグッズだったんですね。」

「グッズじゃなくて、私物かな。海でケーキ屋さんに行ったときに、ケーキを持ってもらって、汗をかいていたから、汗を拭くためにあげたの。だいたい、誠は私のファンじゃないし。」

「でもミサちゃん、何で尚ちゃんのお兄ちゃんがミサちゃんのファンじゃないって分かるの?」

「私がいけないんだけど、そんな危険な運転をする人のファンにはならないって言われたからだよ。」

「ふーん。でもそれはきっと、尚ちゃんのお兄ちゃんのやさしさだと思うよ。」

「うん、それは分かっている。」

「兄も、美香先輩に安全運転をお願いしたと言っていました。」

「それに、私からも私のファンにならないでって、お願いしているからそれでいいの。」

「何ですか、それ。ミサさん、売り言葉に、買い言葉ですか。」

「そうじゃなくて、演者とファンの関係になると、誠が垣根を作っちゃうから。そんなのいやだし。」

「ミサさん、それなんか危険な発言のような気がします。」

「大丈夫。今どうこうという話じゃないから。今はロックシンガーになるのが第一で、そのために頑張る。誠は尚のお兄さん。今は、そういうことだから。」

「そうだね。尚ちゃんのお兄ちゃんも、ミサちゃんのためにならない、変なちょっかいを出したりしない人だから大丈夫だと思うよ。」

「明日夏さん、ミサさん、これだけ美人なのにですか。」

「うん。」

「私もそう思います。安全運転をお願いしたのは、美香先輩に小学生みたいに幼いところがあるからと言っていました。」

「小学生みたいに幼い!?」

「でも、手助けできることがあったら何でもしたいとは言っています。」

「さすが、尚ちゃんのお兄ちゃん、ズバリ言うねえ。」

「えー、明日夏、私、そうなの?」

「うん。」

「由香はどう思う?」

「えーと、たぶんすごく純真という意味だと思います。」

「私、純真に見えるの?そんなことはないんだけど。だけど、尚、将来、もし誠と付き合うことがあっても、絶対に真剣に付き合うから安心して。誠に酷いこと、うちの兄みたいなことは絶対にしない。それは絶対に誓うから。」

「はい、それは理解しています。」

「そういうことが言えるのも、ミサさんの純真なところです。」

「そうなんだ。でも、由香、このことで首になったら、パラダイス興行でよろしくね。」

「ミサさんの歌ならば、俺のバックダンスが生かせそうで嬉しいです。」

「そう。それじゃあ、私のワンマンでは、バックダンス、お願いしようかな。」

「お安い御用です。」

「私も頑張んないとなー。1年半ぐらい前の正月にアニソン歌手になると決心して、本当にアニソン歌手になって、ステージに立てるようになったんだよね。」

「今は、寝ていますけれどもね。」

「へへへへへ。」

「でも、決心から1年と少しでデビューできる明日夏って天才かも。私は、中学生の時に橘さんの歌を聞いてからだから、5年以上は経っている。」

「それだから、実力には大きな差がある。」

「先輩は、態度の大きさと奇抜さで歌手をやっていますよね。・・・えっ、ちょっと待ってください。」

「何、尚ちゃん。」

「1年半ぐらい前の正月って、小学校2年から10年後の正月ですよね。もしかすると、会おうといった男性が来なかったからですか、プロの歌手になろうと思ったのは。」

「えっ、・・・・・・・。」

「なるほど、そういうことなんですね。もしかして、明日夏先輩、有名な歌手になって相手を見返してやろうということですか?」

「・・・・・・・・・。」

「ふふふふふ、明日夏にしては珍しく言葉が詰まっているわね。いいわよ、明日夏、一緒に頑張りましょう。とりあえず、お互い、もっと歌がうまくなるように。」

「うん、分かったよ。でも、尚ちゃんは、変なところで感がいいんだから。」

「さすが、名探偵尚ね。」

「でも、明日夏先輩、作詞家にもなりたいんでしたよね。」

「うん、その通りだよ。」

「そっちは、印税で左うちわでの生活ですね。」

「そう、誰かに歌ってもらうだけで収入が得られる。」

「いい歌詞だったら、トリプレットで歌えるように、お願いしてみます。」

「明日夏、私の歌詞もお願いね。」

「明日夏先輩に美香先輩に合うカッコいい詩が書けますか。」

「でも、私の歌詞で歌うと、違ったミサちゃんが見れていいかもよ。」

「漫才ロックにしないで下さいね。」

「人を笑わせるロックね。尚ちゃん有難う、いいアイディアだと思う。」

「いいんですか、美香先輩、それで。」

「そういう曲があってもいいわよ。聴く人が楽しめれば。」

「なるほど。さすが美香先輩ですね。」

もう引き上げる時間のため、亜美とステージにやってきた久美が尋ねた。

「何、何で4人でステージの上で仲良く横になっているの。みんな、もうそろそろ帰る時間よ。」

面白そうと思った亜美が4人の写真をカメラで撮影しようとしていた。

「橘さん、了解です。明日夏先輩、動けますか?」

明日夏が答える。

「こいつ、動くぞ。」

明日夏が頭を動かして、二人の方を見る。

「立ち上がって、正面だ。カメラは?」

明日夏がスマフォを取り出して、亜美の方に向ける。明日夏がやっていることを理解した、亜美がすかさず言う。

「橘さん、明日夏さんが動き出しました。」

「抜け殻だけかと思っていたが。」

「いや、まだうまく動けないです。撮影します。・・・・・なんて、明日夏さんだ。ビデオをまったく受け付けません。」

「見てろよ。亜美ちゃんめ。」

「今の仕事は、帰ることなのよ。引くのよ、亜美。」

「何言っているんです。ここで何とかしなくては、明日夏さんがますます。」

「立った。」

「立ってくれ。立てよ。」

そう言いながら、明日夏がゆっくりステージ上に立ち上がる。

「うわっ、立った。」

「明日夏、ステージに立つ!」

「もう、何やってるんですか。明日夏先輩は。」

「えへへへへへへへへ。」


第1章『明日夏、ステージに立つ』完。

第2章『光るワンマンライブ』に続く。

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