第13話 海(1日目)

 明日夏班が砂浜に着くと、ビーチパラソルが3つ、その下にビーチベッド2つとテーブル1つがそれぞれセットしてあった。そして、テーブルには飲み物が2つずつ置いてあった。

「スゲー!俺、海に入るよりこのビーチベッドに横になりたい。」

「どうぞ。」

「みなさん、できれば一度ビーチベッドに横になってみて下さい。」

「亜美、写真を撮るの?」

「そうです。」

「三脚を持ってきたんだ。」

「はい。みんなで撮るためにです。」

亜美が三脚とカメラをセットする。

「亜美先輩、セルフタイマーですか?」

「いえ、スマフォからコントロールできます。」

「へー、いろいろ進歩しているんだねえ。それを使いこなす亜美ちゃん、さすがだよ。」

「有難うございます。」

亜美もビーチベッドに横になって、写真を撮る。

「はい、では撮ります。」

「明日夏先輩、チーズの後にまた余計なこと言わないで下さいね。」

「フォンデュと言おうと思っていたんだけど。」

「言わなくていいです。というより、ここにいるみなさんはジャケット写真などを撮るわけですから、普通のチーズとかじゃなくて、各自、カッコよくポーズを決めましょう。」

「尚ちゃん、分かった。」「うん、やってみる。」「ダンスポーズで。」

「それでは、連続で何枚か撮ります。はい。」

「チーズ。」

みんな笑い出す。

「明日夏先輩!」

「いやいや、私、ジャケット写真の時も、自分でチーズって言っているよ。」

「なるほど。そう言えば、明日夏先輩のジャケット写真、笑顔の写真ばかりですよね。」

「うん。笑顔がいいって言われる。」

「まあ、穢れも苦労も知らない子供のようですから。」

「それは、尚ちゃんでしょう。」

「穢れはともかく、苦労は良く知っています。」

「私だって、苦労は知っているよ。」

「でも、いつも一番楽しそうですよ。」

「苦労を表に出さないのが本当の大人なんだよ、子供の尚ちゃん。」

「そうでしょうけど。」

「でも、私からすれば、5人とも穢れも苦労もしらないって感じかな。」

「橘さん、俺は穢れを多少知っていますけどね。」

「由香先輩!」

「何、尚?由佳に何か秘密?」

「美香先輩には、もう少し時間が経ったらお話します。」

「えー、尚から子供扱い?」

「男性関係ですので。」

「えっ、あっ、そうなの?すごい。それじゃあ、秘密でも仕方がないか。」

「いずれ機会を見て、お話します。」

「分かった。いつかきっとね。」

「はい、分かりました。」

「では気を取り直して、5枚連続で写真をとります。」

「それじゃあ、明日夏先輩はチーズ以外言っちゃいけませんよ。」

「分かったよ。」

「はい。」

「チーズ、チーズ、チーズ、チーズ、チーズ。」

写真を撮り終わってから、みんな噴き出した。

「写真が撮り終わるまでは、何とか明日夏の攻撃に耐えたわ。」

「先輩は、コメディアンになった方がいいんじゃないんですか。」

「アニソングランプリの東京予選で、ミサちゃんのステージを見ているときに、係員のおじさんにも、アニネタ漫才の方が向いているかもと言われた。」

「あー、あの時に。懐かしい。」

「係員さんに、来年はいっしょにアニネタ漫才でアニソンコンテストに出場しましょうと言ったら、断られたけど。」

「だって、あれは漫才のコンテストじゃないわよ。」

「あー、良く考えれば、そうだね。」

「明日夏、良く考えなくても、そうだよ。」

「みなさん、写真を見ますか?」

「ここで観れるんだ?」

「はい、スマフォに転送しましたから。」

全員が亜美の周りに集まる。

「貫禄の橘さん、可憐なミサちゃん、キュートな尚ちゃん、スピードカッコいい由佳ちゃん、ぽっちゃり美人の亜美ちゃんって感じ。」

「あの、明日夏さん、ぽっちゃりって止めませんか。」

「ごめんなさい。えーと、ふくよか美人の亜美ちゃん。」

「言葉の印象があまり変わらないです。」

「色白美人の亜美ちゃん。」

「はい、それでお願いします。」

「色白美人の亜美ちゃん、貫禄の橘さん、可憐なミサちゃん、キュートな尚ちゃん、スピードカッコいい由佳ちゃん、ぽっちゃり美人の亜美ちゃんって感じ。」

「最後にもう一回入っているし。」

「明日夏先輩、何度も言っていると、本当にハラスメントになりますよ。」

「亜美ちゃん、ごめんなさい。調子に乗りすぎてしまいました。」

「亜美先輩も普通ならスマートな方です。ここにいる方たちが、ちょっと普通じゃないだけなんです。」

「はい、リーダー、芸能界に入る以上、それは仕方がないことと分かっています。」

「それに、バラードを歌うような歌手は、亜美先輩よりずっと貫禄がある方ばかりです。」

「色白美人の亜美ちゃん、貫禄の橘さん、可憐なミサちゃん、キュートな尚ちゃん、スピードカッコいい由佳ちゃんって感じ。」

「明日夏先輩も、容姿の話をするのは、この世界では危険ですので気を付けましょう。」

「尚ちゃんの言う通りです。亜美ちゃん、すごいいいスタイルしているし。」

「亜美先輩、明日夏先輩も悪気はないというか、同じ直人推しとして、亜美先輩の、何というか、で負けていることのへの嫉妬というか誉め言葉なんですよ。」

「何というかって何ですか?歌のことですか?」

「えーと。」

「亜美ちゃん、やっぱり、成長しているよね?」

「身長は変わりませんよ。」

「そっちじゃなくて。」

「あー、そのことですか。そういえば、夏前にカップを大きくしたから、そうかもしれないけど。」

「だよね。私の観察眼に狂いはない。」

「そういう意味だったんですね。」

「そうなの、ごめんなさい。でもね、私もなんだよ。」

「明日夏先輩の場合は、見栄ですか。」

「歌の練習をちゃんとしているからだよ。」

「あの法則ですか。」

「うん。差は縮まっていないことになるけど。でも、実は尚ちゃんもでしょう。」

「まあ、そうですけど。私の場合はそういう年齢ですし。」

「ミサちゃんは?何か良く見ると、だんだん橘さんに近づいている気もする。」

「恥ずかしいけど、2つほど大きくしたかもしれない。」

「明日夏先輩、歌の実力の差は開く一方という事ですね。」

「現実は厳しい。」

「明日夏さんはいいですよ。俺なんか変わっていないし。」

「由佳、体の切れが悪くならなくて、ダンサーとしてはいいことだよ。」

「もうそう考えるしかないです。」

「由香先輩は、誰にも負けないダンスの切れを追求しましょう。」

「はい、そのつもりです。」

「でも、写真を見ていると、ミサさんはカッコいいセレブという感じですが、明日夏さんは、こういうところでもリラックスしていて、生粋のセレブって感じもします。」

「うん、ほんとね。」

「明日夏先輩の場合、セクハラおやじセレブって感じのリラックスさですね。」

「尚ちゃん、酷い。」

「アメリカ合衆国大統領の前でもリラックスできそうな明日夏先輩ですから、態度だけは普通のセレブを越えているんでしょうね。」

「えへん。」

「そこが、明日夏さんのいいところだぜ。」

「はい。少しデリカシーに欠けていますが。」

「かなり欠けていますが。」

「尚ちゃんと亜美ちゃん、酷い。」

「じゃあ、せっかく海に来たことだし、そろそろ泳ごうか。」

「そうしましょう。」

「俺はここで少しだけ焼いた後、日焼け止めを塗って入る。」

「じゃあ、由佳、カメラを見ておいてくれる。」

「分かった。」

「ここは、柵で仕切られているプライベートビーチだから、見ていなくても大丈夫とは思うけど。」

「そうでしたね。失礼しました。」

「はい、隣の建物のフロッグマンがいるかもしれませんが、こちらを監視するだけだと思います。それに夜ならともかく、昼間に侵入はしないでしょう。」

「フロッグマンって。」

「えーと、平たく言えばアクアラングを付けた兵隊さんです。さっき、ヨットの上にその装備があったので、もしかすると、海の中に残っているかもしれないと思って。」

「うん、侵入することはないと思うよ。誰かが溺れたら助けてくれるかもしれない。」

「明日夏さんの言う通りだと思います。」

「じゃあ、みんなで、泳ぐ競争しようか。」

「それなら、ミサちゃんは犬かき限定で。」

「犬かき!?」

「そうしないと、全く競争にならない気がする。」

「分かった。やってみる。」


 アキ班が海に到着しようとしていた。

「アキちゃん、思ったより浮輪が似合うね。童顔だからか。」

「アニメのワンシーンみたいだよ。」

「そうそう。」

「アキさん、その浮き輪って、どうやって選んだんですか?」

「透明部分が多くて、水着の色とあっているもので、あとは直観。」

「なるほど、有難うございます。」

「うん、確かに、透明部分が多い方が雰囲気が明るくなるね。絵で書くのは面倒になるけど。」

「コッコちゃんは、浮き輪はしないの?」

「需要があったら、してもいいけど、ないよな。」

「まあ、そうだけど。」

「パスカル、そういうことは、はっきり言わない。」

「何て言えばいいのか分からない。」

「うーん、浮き輪がなくても・・・・、まあ、今のでいいわ、仕方がない。」

「スケッチしている姿の方が、需要があるんじゃないでしょうか。」

「湘南ちゃん、フォローしたつもりか。どっちも、ねーよ。」

海に到着する。

「とりあえず、ビーチパラソルを2本立てて、シートを引いて固定しましょう。」

「オーケー」

男性4人がいたため、設置はすぐに終わった。ラッキーさんがシートに寝そべる。

「僕は、しばらくここにいるから、みんな泳いできていいよ。朝、始発だったから、休むのにちょうどいい。」

「分かりました。30分ぐらいしたら戻ってきます。」

「それじゃあ、泳ぐ競争でもしようか。」

「アキちゃん、速いの?」

「それほどでもないけど、中学卒業までの9年間は水泳教室に行っていたから。」

「それは、速そうだ。」

「普通の男子には負けない。パスカルは何か学校で運動やってた?」

「いや、写真部だった。中学生のころはフィルムカメラを使っていたんだけど、カメラの進歩が速くて。」

「そうなんだ。」

「でも、カメラを持つのは嬉しい。」

「へー。」

「コッコさんは、泳げるんですか。」

「失礼な湘南ちゃんだな。泳げないよ。そんな時間があったら絵を描いていた。」

「僕もです。専門書ばかり読んでいました。セローさんは泳げそうですよね。」

「高校まで水泳部だったよー。」

「すごい、セローのイメージと合わないけど、100メートルは最高で何秒ぐらいだったの?」

「水泳部と言っても、シンクロナイズドスイミングをやっていたから、速さはそんなでもない。」

「えっ、・・・・・・」

「何だ、逸材多いな、おい。セローちゃん、犬神家できるの。」

「ある程度までは。あー、でも海だと少し楽かなー。やったことはないけど。」

「じゃあ、後でお願い。スケッチして見たい。」

「分かったー。ノーズクリップは持ってきたから、やってみるよ。」

「コッコ、犬神家って?」

「犬神家というのは、古い推理小説や映画のタイトルだよ。その映画のシーンの中で、殺された人が水面から2本の脚をV字で出しているところがあるんだけど、そのポーズのこと。」

「でも、何でそんなポーズを。」

「うーん、当時有名だったらしく、いろいろな所でネタに使われる。」

「そうなんだ。まあ、とりあえず海に入ろう!」

「オーケー。」

5人が海に入った。

「気持ちいい。」

「うん、そうだね。」

「足の下が気持ち悪い。」

「足の下の砂が流れでさらわれていく感じですね。」

「それじゃあ、競争、行くわよ。」

「ゴールは?」

「私たちにゴールはないわ。」

「アキちゃん、カッコいいことを言ったつもり?」

「うん。」

「でも、そこそこカッコいいか。」

「さすがパスカル。じゃあ、行くよ。よーい、ドン。」

5人が泳ぎだすが、セローが見えなくなる。50メートルぐらい泳いで、アキが止まって、後ろを見る。

「3人は見えるけど、セローは水中かな。」

セローがアキのそばに出てくる。

「セロー、もっと速いかと思った。」

「日頃の不摂生がー。」

「自分で言わない。」

「パスカル3番!」

「疲れた!」

「コッコと湘南はいい勝負ね。頑張れ!二人とも。」

二人はほぼ同時に着く。

「コッコと湘南は、同着ね。」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、・・・」

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、・・・」

「二人とも、大丈夫。」

「はあ、はあ、大丈夫だけどちょっと休む。」

「はあ、はあ、ぼ、僕もです。」

「大学生なのに、たった1回泳いだだけで、そういうことでいいの。」

「我々の大学は、こういう学生が通う大学なんだよ。」

「コッコさんのいう通りです。」

「湘南ちゃん、パラソルの下で休むか。」

「はい、そうしましょう。」

二人はラッキーの所に引き上げていった。

「もう、しょうがないやつらだな。」

「まあ、二人らしいと言えば、二人らしい。」

二人に代って、ラッキーがやってきた。

「じゃあ、さっき出発したところまで、競争ね。」

「わかった。」

「セローさんは水上を泳いで、見えないから。」

「分かったー。」

再度の競争も、アキ、セロー、パスカル、ラッキーの順だった。

「また、私が一番。」

「やっぱり、経験者はフォームが綺麗だし速い。」

「はあ、はあ、はあ、アキちゃんは、はあ、経験者なんだ。」

「9年間水泳教室に行っていたそうです。」

「それじゃあ、かなわないな。はあ、僕はまた休んでくる。」

「あの、今来たばかりじゃ。」

「少し休んだら、また来る。」

「軟弱なやつらばかりだ。あっ、コッコが手を振っている。・・・・犬神家やれだって、セローさん。」

「分かった。やってみるー。」

セローがノーズクリップをして、水中に潜って、脚を水面から出して開く。

「なんか、すごい不気味な感じ。」

「この不気味さの宣伝で、みんなの目を引いて映画に客を集めたそうだよ。」

「そうなんだ。」

「アキちゃんも、セローさんに教わって犬神家のポーズでポスターにしてみるか。」

「いやよ。」

「まあ、そうだろうね。」

「まだ浮き輪と水着の方がいいわよ。」

セローが上がってくる。

「セローさん、お疲れ。ちゃんとした犬神家だったよ。」

「脚を上げるのは疲れるよー。」

「そうだろうね。」

「それじゃあ、パスカルの泳ぐ練習かな。」

「コッコちゃんとラッキーさんと湘南は?」

「今、休んでいるみたいだから。」

「ほら、パスカル、まずは蹴伸びから。」

「蹴って、真っすぐ進むやつ?」

「そう。」

 少し時間が戻って、ビーチパラソルの下の湘南とコッコは、シートに座りながら雑談をしていた。

「いやー、死ぬかと思った。」

「いきなり、50メートルですからね。でも、少しは運動しないといけないかなとも思いました。」

「まあな。しかし、アキちゃんたち、また競争をしている。元気だな。」

「アキさんがまた勝ちそうですね。」

「そうだね。あれだけ泳げるのに浮き輪って、撮影用で正解だろう。」

「そう言われれば、そんな気がします。」

「やっぱり、アキちゃんが勝った。ラッキーさんも頑張ったね。」

「その通りです。あれ、でもラッキーさん、こっちに来ますね。」

「一回で疲れたか。我々と同じだ。よし、セローに犬神家をやらせよう。」

コッコが大声で言う。

「セロー、犬神家やって。犬神家だ。」

「分かったみたいですね。」

「おー、犬神家だ。やっぱり不気味だ。スケッチしておこう。」

「さすがです。パスカルさんが練習を始めました。」

「パスカルも元気だね。」

「海の中の方が涼しいので、僕は少し離れたところで泳いできます。」

「アキが元気すぎるから、近寄ると巻き込まれそうだしな。」

「はい、その通りです。」

 誠は3人から少し離れたところで、海に入りゆっくりと泳ぎ始めたが。

「湘南、あんなところで、一人で泳いでいる。行くわよ。」

「はい。」「分かったー。」

それを見ていたラッキーがコッコに話しかける。

「あー、湘南君、すぐに見つかっちゃったね。」

「そうだね。でも、なかなか、いい構図だよ。」

湘南のところに到着したアキが誠に言う。

「ほら、湘南、一人で海に浮かんでない。」

「ここへは、アキさんのプロデュースと、明日夏さんの応援の練習以外は、ゆっくりしに来たんじゃ。」

「そんなことじゃ、妹子と差が開く一方よ。イベントであれだけダンスができるって、すごい体力よ。兄としてカッコ悪すぎない。はい、泳ぐ練習。」

何となく納得してしまう誠だった。

「分かりました。」

「じゃあ、まずはキック、バタ足から。」

「子供みたいですね。」

「子供より、泳げないんだからしかたないでしょう。セローは横からアドバイスしていて。」

「分かったー。」

「じゃあ、パスカル、湘南、引っ張るから両手を伸ばして。」

「一人で二人をですか。」

「やれば、できるんじゃない。はい、手を出して。」

「湘南はまだ年齢が近いけど、俺はかなり離れているし。」

「いいから、いいから。泳ぎの練習。はい、両手を重ねて伸ばして。」

「分かったけど、少しだけな。」

「ほら、湘南も。」

「はい。」

「いい子。」

アキがバタ足をする二人の手を引っ張る。その様子を見ていたコッコがラッキーに話しかける。

「アキちゃん、楽しそうだな。しかし、なんというジャンルだ、これ。」

「女王様系ではあると思うけど。さすがに、分からない。」

「ラッキーちゃんでも分からないか。規格外だな、あの3人は。ははははは。」


 一方、明日夏班では、50メートルぐらいの競争が決着した。ミサが先頭で、そして尚と久美がほぼ同時、明日夏、亜美の順番だった。

「速い、速いよ。ミサちゃん、犬かきなのに。」

「途中から、コツが掴めてきた。」

「じゃあ、次は猫かきで。」

「どこか違うの?」

「ニャーニャー言いながら泳ぐ。」

「先輩、それじゃ、犬かきはワンワン言いながら泳がないとダメじゃないですか。」

「その通り。だから、このレース、ミサちゃんは失格。」

「えー、そんなの前もって言ってもらわないと。」

「分かった。このレースはミサちゃんが勝ちだけど、次はニャーニャー猫かきで。」

「分かった。」

「いや、いいんですか。日本を代表する若手ロックシンガーにそんなことをやらせて。というか、美香先輩も。」

「尚、まあ、誰も見ていないから大丈夫。」

「美香先輩がいいならばいいですけど。」

 ミサが「ニャー、ニャー。」と言いながら猫かき?をするが、一番でゴールし、尚と久美がまたほぼ同着だったが、二人は笑いながら立ち上がった。

「尚、そんなに可笑しい?」

「すみません。美香先輩が真面目にニャー、ニャー言っているので。」

「大河内さんの違う一面を見ることができました。」

「でも、美香先輩は、こんなことでも真面目に取り組むんですよね。」

「そうね。うちの子たちも見習わないと。」

亜美がゴールした。

「でも、明日夏さんがいるからこんなことに・・・・」

後ろを見ると、明日夏が「ワンワン」言いながら左右を見ながら、犬かきでゴールし、全員が大笑いでそれを向かえた。

「えーと、ミサちゃんだけにやらせるのはいけないかと思って、私もワンワン犬かきにしてみた。」

「先輩、それじゃあハンディにならないじゃないですか。」

「言った責任があるかなと思って。でも、ミサちゃんニャーニャー猫かきで、一番だったんだよね。」

「はい、ちゃんと真面目にやっていました。」

「じゃあ、次はどうしようか。」

「うーん、溝口対パラダイスで、1人対4人のリレーでの対決にするとかでしょうか。」

「うん。それじゃあ、ミサちゃんのチューチューねずみかきを、パラダイスがニャー、ニャー猫かきで追うというのは。」

「まだやります、それ?明日夏さんって、結構しつこい方なんですね。」

「私は、どっちでもいいけど。」

「美香先輩も。何となくですが、悪い男に騙されないで下さいね。」

「でも、どうやって悪い男を見分けたらいいんだろう。」

「約束を守らなかったり、いつも嘘をつくような人は止めた方がいいと思います。あと、殴らなくても人を殴るような恰好をする人もだめと言われています。」

「そうか、分かった。」

「ねーねーねー、じゃあ、普通に泳いで、1対4のリレーをしようか。」

「その方がよっぽど勝負にならないので、2対3にしましょう。ミサ先輩は100メートル、明日夏先輩だけチューチューねずみかきで、残りは普通にリレーで。これで同じぐらいの速さになるんじゃないでしょうか。」

「何故に私だけチューチューねずみかき?」

「発明者に敬意を払いました。」

「そうか、尚ちゃん、有難う。」

「順番は、明日夏先輩、美香先輩、美香先輩と、亜美先輩、私、橘さんで。」

「わかった、尚、やってみよう。」

「では、美香先輩、向こうに行きましょう。」

 ミサと尚美が配置に着き、尚美がスタートの合図をする。

「では、明日夏先輩、亜美先輩、よーい、スタート。」

明日夏がチューチュー言いながら犬かきで先を行く亜美の後を追う。亜美が尚美のところに到着して、尚美がスタート。尚美が半分ぐらい進んだところで、鼠の顔をまねた明日夏が到着する。

「明日夏、その顔見たら、笑って泳げないよ。」

と言いながら、ミサがスタート。尚美が久美のところに到着して、久美がスタート。尚美が後ろを見ると。

「だいぶ、差を詰められている。ちょうどいい勝負かな。」

ミサが尚美の所で、向きを180度向き変え、久美を追って明日夏と亜美の方に向かう。

「亜美ちゃん、橘さんとミサちゃん、水しぶきの勢いがすごいね。」

「二人とも真剣ですよね。」

「うん。」

二人がほとんど同時に到着する。

「ミサちゃん、橘さん、同着だと思う。」

「はい、私もそう思います。」

「はあ、はあ、追いつかれたかー。」

「はあ、はあ、はあ、橘さん、なかなか追いつけませんでした。はあ、はあ、はあ、さすがに疲れました。はあ、はあ、はあ。」

4人ところに尚美がやってきた。

「見たところ同着のようでしたが?」

「うん、そうだと思う。」

「お疲れ様です。美香先輩、速かったでした。」

「はあ、はあ、すこし疲れた。はあ、はあ。」

「こっちから見てたら、勢いが凄かったでした。」

「はあ、全力だったから。はあ。」

「橘さんは大丈夫ですか。」

「はあ、距離が短いから大丈夫。でも、最近ビールばっかり飲んでいるから体が重い。」

「ぽっちゃりお腹の橘さんというのも可愛いかも。」

「明日夏ー。」

久美が明日夏の頭を両手でぐりぐりする。

「橘さん、パワハラですよー。」

「どんどんやっちゃいましょう。セクハラ親父にはいい薬です。」

「亜美ちゃん、酷い。」

「亜美、このぐらいでいいかな。」

「はい。」

「あー、痛かった。」

「はあ、はは、は、はは・・・・、苦し・・・」

「息を切らしている美香先輩を笑わさないで下さい。苦しそうです。」

「ミサちゃん、ごめんなさい。」

「はあ、・・・はあ、でも、少し落ち着いてきた。はあ。」

「美香先輩、大丈夫ですか?」

「うん、だんだん大丈夫になってきた。はあ。」

「本当に全力で泳いだんですね。」

「追うときの方が、全力以上の力を出しちゃうのかな。」

「それはわかります。では、皆さんお疲れのようですので、昼食にしましょうか。」

「うん、そうしよう、そうしよう。」

「じゃあ、行こうか。」

「はい。」

 5人が由佳のいるところまで戻ると、尚美が由佳に昼食にすることを告げる。

「由佳先輩、昼食にしましょう。別荘の庭まで戻ります。」

「リーダー、了解。でも、海で水泳の競争って、みんな若いなー。」

「由佳の言う通り。結構疲れたよ。」

「誰が言い出したんですか。」

「やっぱり明日夏かな。」

「いや、だって、こんな真剣な競争になるとは想像もしていなかったよー。」

「ミサさんと、明日夏さんは、犬かきをやっていましたよね。」

「由佳、それだけじゃないんだよ。ワンワン犬かきとか、ニャーニャー猫かきとか、チューチューねずみかきとか。」

「それは、ワンワンとか言いながら犬かきをするんですか。」

「そう。」

「あははは、それは明日夏さんが考えそう。」

「ミサちゃんも、ニャーニャー猫かきをしていたよ。」

「明日夏がしろと言うから。」

「そうだけど。」

「ミサさんは、それでも一番早かったです。」

「亜美、たぶんそれはバタ足だけでも、みんなより速いんだよ。」

「分かった。そうなのね。由佳も運動が得意なだけあるわ。」

別荘に到着すると、シャワー室でシャワーを浴びて、服に着替え、昼食を持って庭のテーブルに集合した。

「由佳ちゃん、少し焼けたねー。」

「はい、午後は日焼け止めを塗ります。」

「さっきの、日焼けの相談って事務所か何か?」

「まあ、そんなもんです。」

「そうか、由佳も大変ね。」

「それでは、皆さん、昼食にしましょう。」

「はい。」

「飲み物は用意されているんですね。これは、オレンジジュースですか。」

「うん、搾りたてだから美味しいと思う。」

「本当に美味しそうですね。それでは、各自が持ってきたものを披露しましょう。では、私が持ってきたものは、普通にサンドイッチです。」

「あっ、被っちゃったか。」

「ミサ先輩もですか。中身は何ですか?」

「キャビアとホアグラ。」

「全然、被っていないから大丈夫です。私は、ハムサンドと玉子サンドです。」

「私は、塩おにぎり、だよ。」

「白いお米を握って、塩をまぶしただけですね。」

「その代わり、お米は魚沼産コシヒカリだよ。2キログラムだけ買ってきた。普通のお米の10キロより高かった。」

「そうですか。それは楽しみです。」

「橘さんは、唐揚げですか。」

「そう、若い人が多いから、こういうものがいいかなと思って。」

「橘さん、ごっつぁんです。俺は人参ドーナッツ。」

「由佳、人参ドーナッツって?」

「ドーナッツの中に、おろした人参が入っているんです。小さいころ、俺が人参嫌いで、おかんが作ってくれていたんですが、普通のドーナッツより好きになったんです。」

「なるほど。」

「私は、フルーツをカットして来ました。」

「デザートがあって嬉しいです。それじゃあ、食べ始めましょう。」

「頂きます。」

「じゃあ、おれは唐揚げから。・・・・、美味しいです。橘さん。」

「尚ちゃんのサンドイッチは家庭の味って感じ。ミサちゃんのは、食べなれていないと美味しさが伝わらないかも。」

「ミサさんのサンドイッチが、凄い味ということは分かります。うん、セレブの味だ。」

「亜美、セレブの味って何だ。」

「とても高級な感じの味。食べなれているミサさんならばきっと美味しいんだろうなと思えるような味です。」

「なるほど。俺たちだと、変わった味ということか。でも、やっぱり食べてみたくはあるな。キャビアとかフォアグラとか。」

「うん、私も由佳の言う通り。」

「でも、なんか悔しいんですが、明日夏先輩の塩おにぎりが一番美味しかったでした。」

「私も尚の意見に賛成。お米を食べるとやっぱり落ち着く。」

「みんな日本人だねー。」

「日本人の主食ですからね。橘さんはどうですか。」

「お酒があれば、大河内さんのサンドイッチが美味しいかも。」

「なるほど。」

「でも、私以外みんな未成年だから、今回は飲まないつもり。」

「お酒を飲むのは構わないんですが、飲んだらマイクを持たないで下さいね。」

「分かっているけど、飲んだら忘れるので、もし飲んだら周りが気を付けて。」

「分かりました。大至マイクを急隠します。」

「晩ご飯は、今日がチキンカレーで、明日がバーベキューです。」

「うん、材料はもう買ってあると思う。」

「はい、夕食はみんなで作りましょう。明日の朝食と昼食、明後日のブランチはどうしますか?」

「明日の朝食は管理人さんにお願いしてある。昼食は外に出る?」

「騒動になると面倒なんで、焼きそばでも作りましょうか。」

「騒動か。去年はこれほど有名になると思っていなかったから、何か目立たない方法を考えないと。」

「はい、その方が自由に行動できます。」

「そうだね。小田原まで行けば、うちのホテルの部屋で食事ができるけど、ちょっと遠いし。」

「帰りの休憩場所の場所としてはいいですね。」

「分かった、連絡しておく。」

「焼きそばの材料は、トリプレットで行ってきましょうか。」

「必要なものを書いてもらえれば、管理人さんにお願いできるから大丈夫。」

「分かりました。後で、メモしておきます。」

「明日の晩、デザートにケーキを買いに行こうかな。地元に有名なケーキ屋さんがあるんだ。」

「へー、それは楽しみですね。」

「今日のうちに予約をしておかないといけないから、後で何にするか聞くね。」

「分かりました。」

「ケーキを取りに行くのは、どうします。管理人さんに頼めます?」

「街にも行ってみたいから、夕方、少し日が落ちたら行ってくる。」

「分かりました。それでは私もいっしょに行きます。場合によっては、美香先輩には隠れていてもらって、私が買ってきます。ついでにショッピングセンターで明後日のブランチの材料も買ってきます。」

「管理人さんに頼めるけど。」

「せっかく、外に出るんだったら、自分で見たいかなと思いまして。」

「そうなのね。分かった。」


 アキ班は、海の家の店で昼食を買おうとしていた。

「焼きそば、カレー、ハンバーガー、チャーハン、フライドポテト、いろいろあるね。」

「僕は唐揚げ焼きそばです。コッコさんは、食べ物は僕の同じで、飲み物はアイスコーヒーということですので、僕もアイスコーヒーにします。」

「まあ、無難だな。俺は、ビールと餃子チャーハンかな。」

「昼間からですか。」

「大丈夫、夜は飲まない。」

「それなら、その方がいいですね。」

「うーん、僕はパスカル君と同じかな。」

「僕も、ビールと唐揚げチャーハンにするよー。」

「アキちゃんは決まった?奢ってあげるよ。」

「パスカル、太っ腹。」

「まあ、アキちゃんのおかげで、宿代がかからないし。」

「じゃあ、ハンバーガーとポテトとコーラかな。」

「それだったら、ハンバーガー屋で食べれば良くない?」

「うーん、でも海で食べると別の味だよ、きっと。」

「そうかもね。」

5人は昼食を買って、ビーチパラソルまで戻る。

「なんだ3人ともビールか。私もそうすれば良かった。」

「夜には飲めないので、今、飲んじゃおと思った。コッコちゃんの分もちゃんと買ってある。」

「なんだ、パスカル、気が利くな。サンキュー。」

「じゃあ、アイスコーヒーは2つとも僕が飲むことにします。喉が乾いていましたし。」

「湘南ちゃん、すまん。お金は払うよ。年上だから気にするな。」

「えーと、分かりました。それでは頂くことにします。」

「じゃあ、とりあえず、乾杯からな。アキちゃん音頭を。」

「わかった。それでは、アキPGの発展を祈って、乾杯!」

「乾杯!」

「ビールが美味しいぜ。」

「いやー、ほんと。生きていて良かった。」

「うん、こんなに美味しいビールは久しぶり。泳いだからか。」

「美味しいー。」

「アイスコーヒーも美味しいですよ。」

「コーラー、最高!」

「まあ、子供には分からないよな。」

「でも、パスカル、ビールは苦いんだよね。」

「その苦いところが美味しんだよ。」

「うん、分からないかも。」

「アキちゃん、甘いお酒もあるんだよ。カクテルのカルアミルクとか。」

「それなら飲んでみたいけど、まだ3年とちょっと後かな。」

「誕生日は来年の2月だっけ。」

「そう。次の誕生日で17歳。」

「17歳!」

「そうだよ。」

「すごいな。」

「何が。」

「いや、16歳の普通の女の子と話している自分が。」

「自分が16歳の時は話していたんじゃ?」

「その時も含めてだ。」

「アキちゃんは普通じゃないかもな。パスカルもそうだけど。」

「コッコもかなり変わっている。」

「ははははは、それもそうだ。まともなやつは、この6人の中にはいないな。」

「そうかもね。」

「ビールを買ってこよう。他にもいるやつ。」

「はーい。」「はい。」「はい。」「私、ジンジャエール!」

「アキちゃん、ジンジャエールね。じゃあ、買ってくるわ。」

「パスカル、持つの手伝うよ。奢ってくれれば。」

「分かった。頼む。」

「じゃあ、行こう。」

パスカルとアキが飲み物を買ってくる。

「湘南ちゃん、午後はどうするんだい。」

「ビーチボールや泳いで遊んだ後に、オタ芸の練習をして、別荘へ戻る予定です。」

「そうか、分かった。昼食を食べたら、オタ芸まで休むか。」

「まだ来たばかりですよ。」

「ビールを飲んじゃったからね。少し休まないと。」

「そうですか。」


 一方の明日夏班は午後の活動を再開しようとしていた。

「さて、午後はどうします。」

「私は、ビーチでシエスタ。」

「昼寝ですね。朝が早かったからですか。」

「私も、そうすることにするわ。」

「橘さんもですか。」

「元気じゃ、若い人にはかなわないわよ。」

「じゃあ、4人でビーチバレーでもする?」

「そういえば、コートがありましたね。」

「うん。」

「とりあえず、チームは、美香先輩と亜美先輩、対、由佳先輩と私で始めてみましょう。初めは、練習試合で。」

「わかった。」

「ミサさん、よろしくお願いします。」

「由佳さん、とりあえず、どんな感じかやってみましょう。」

「分かった。」

「それじゃあ、ボールを持ってきてもらう。」

管理人がボールを持ってきて、6人が砂浜に移動した。

「橘さん、ビーチパラソルとベッドをコートの方に移動しましょう。」

「明日夏にしてはいい提案ね。そうしましょう。」

二人で、パラソルとテーブルとビーチベッド2つをビーチが良く見える位置に移動させた。

「うん、これで良く見える。」

まず、尚美がサーブをする。ミサがレシーブをする。

「亜美、トスをお願い。」

「えーー。」

亜美がとりあずボールを上に上げる。ミサがかなり移動してスパイクを打って決める。

「決まった!」

「これは、勝負にならないかも。」

亜美がサーブを打ち、由佳が拾う。尚美がいい位置にトスを上げ、由佳がスパイクを打つが、ミサがブロックして、点が決まる。

「ミサさん、ナイスブロックです。」

「有難う。」

「リーダー、どうする。」

「クイックを使いましょう。とりあえず、Aで。私のトスと同時にジャンプしてください。」

「わかった。」

亜美がサーブをして、由佳が拾い、尚美が自分のすぐ前に低いトスを上げる。由佳がAクイックを決める。

「ナイス、由佳さん。経験者ですか?」

「中学はバレーボール部だった。ダンス部とかなかったし。」

「なるほど。」

「亜美、行くぞ。」

そう言いながら、亜美めがけてジャンピングサーブを打つ。亜美は取れなかった。

「リーダ、亜美に集中攻撃で。」

「分かりました。」

「由佳、酷い!」

「亜美、それが戦いというものさ。次行くぞ。」

由佳が亜美めがけてジャンピングサーブを打つが、今度はミサが亜美の前に出て、サーブを拾い、亜美がトスを上げる。由佳がブロックしようとするが、その横をスパイクが抜けていく。尚美が拾い、由佳がトスを上げ、尚美がミサと亜美の真ん中にスパイクを打つ。それをミサが拾い、亜美がトスを上げる。ミサがスパイクを打つと、ブロックしている由佳の手に当たり、コートの外の砂の地面に当たった。ミサが喜び、由佳が残念がった。

「やった!」

「くそー。」

尚美が由佳に話しかける。

「次はBで。」

ミサがジャンピングサーブを打ち、由佳が拾う。尚美が自分から離れた位置にめがけて、低く速いトスを上げ、走りこんでいた由佳がスパイクを打ち、コート内の地面にボールが着地した。

「由佳先輩、ナイス、スパイク。」

「リーダー、ナイストス。」

「尚と由佳って、本当のバレーボールのコンビみたいに意気が合っている。」

「トリプレットの練習の賜物なのでしょうか。」

「リーダーの言う通り。」

尚美がサーブを打つ。ミサが拾い、由佳がトス、ミサがスパイクを打つ。由佳の横をすり抜けたボールが地面に落ちる。

「ミサさん、ナイススパイク!」

「亜美、ナイストス。」

亜美がサーブを打つ。尚美が自分の後ろに低いトスを上げる。由香がクイックを打つが、ミサがブロックして決まる。

「A、B、Cだと単純すぎましたか。」

「サインを決めましょう。」

「それぞれ、指1本、2本、3本で行きましょう。今はそれぐらいしかできないと思います。」

「分かった。」

亜美がサーブを打つ。由佳が拾い、尚美が再度自分の後ろにトスを上げると、由佳がスパイクを打ち決まる。」

「由佳先輩、ナイスCクイック。」

「リーダー、ナイストス。」

由佳がジャンピングサーブを打つと、ミサが拾い、亜美がトスを上げ、ミサがスパイクを打つ。由佳の手を横を通ったボールを尚美が拾う。

「リーダー、ナイス!」

由佳がトスを上げる。尚美がスパイクを打とうと思うと、前にミサがいたので、フェイントでボールをコートの隅に落とそうとする。亜美がボールを追いかけるが追いつかない。だが、ボールは白線の少し外側に落ちた。

「由佳先輩、すみません。」

「リーダー、惜しい。」

こんな感じで、ビーチバレーボールの接戦が続いていた。

「橘さん、みんな真剣で、なんかすごい試合になっていますね。」

「ほんとね。みんな真面目な子ばかりだし、ちょうどいい組み合わせなのかも。」

「そうですね。」

「本当に見ているだけでも面白い。」

「はい、ダイナマイトボディのミサちゃん、ロリータ可愛い尚美ちゃん、俊敏カッコいい由佳ちゃんと、ぽっちゃり美人の・・痛っ。」

尚美がミサのスパイクを受けそこなって弾かれたボールが明日夏の頭に当たり、宙を舞う。明日夏がそのボールをキャッチする。

「明日夏先輩、ごめんなさい。ボールがそっちに行っちゃいました。」

「尚ちゃん、今のわざとでしょう。」

「いいえ、美香先輩のスパイクの取り損ないです。」

「もう、ほんとかな。」

「嘘だと思ったら、美香先輩のスパイクを受けてみて下さい。」

「それは遠慮しよう。球速がどんどん速くなってきているから、私じゃ怪我するかもしれないし。私はここでセレブのセクハラ親父として、みんなの躍動する素晴らしい水着姿の肉体を鑑賞させてもらうよ。」

「そう言えば、外国の映画なんかでは、お金持ちの人が水着の美しい方々を競わせて、それを鑑賞するなんて場面がありますが、そんなの本当にあるんでしょうか?」

「私は見たことがないよ。いるとしたら、セレブというより成金の方じゃないかな。」

「まあ、日本だとそうだろうね。じゃあ尚ちゃん、ボール、はい。」

「明日夏先輩、有難うございます。」

「せっかくだから、この熱戦を記録に残そうかな。亜美ちゃん、カメラ借りていい?」

「はい。使い方分かりますか?」

「シャッターを押せばビデオが撮れるようにセットしてもらえる。」

「分かりました。」

亜美がカメラをセットして、明日夏に渡す。

「ビデオを撮るときはこの赤いボタンを押してください。シャッターを押すと、ビデオの撮影中でも写真が撮れます。」

「そうなんだ。すごいねー、最近のカメラは。尚ちゃん、ボールをぶつけるとカメラが壊れるので、ぶつけないでね。」

「あー、分かりました。カメラを持っている間はぶつけません。」

「あっさり白状しているし。」

「それじゃあ、美香先輩、行きますよ。」

「はい、いつでもいいよ。」


 アキ班の方の方も、昼食を終えて、一部が活動を再開しようとしていた。

「ねえねえ、みんな、ビーチボールやろうよ。」

「俺は、今日は朝早かったから、少し寝る。」

「歳でビールのまわりが早いんで寝ます。」

「セローは?」

「まあ、せっかくだからー。」

「湘南はやるよね。飲んでいないし。」

「はい。分かりました。じゃあ、お手柔らかにお願いします。」

「私は、3人の様子をスケッチしている。」

「分かった。湘南、セロー、あの空いているところに行くよ。」

「了解。」「分かったー。」

3人でビーチボールを始める。

「じゃあ、行くよ。はい、セロー。」

「はい。」

「アキちゃん、返しますー。」

「スパイク!」

ボールが湘南の手を弾いて、後ろに飛んでいった。後ろに取りに行きながら言う。

「あんな速いの取れませんって。お手柔らかにお願いします。」

「あのぐらい取れないとだめでしょう。」

「セローさんならば、取れるんじゃないでしょうか。」

「じゃあ、次はセローね。湘南、まずボールをこっちにちょうだい。」

「はい。アキさん。」

「はい、湘南、戻して。」

「はい。」

「スパイク!」

ボールがセローの手を弾いて後ろに転がっていった。

「わー。」

「セローも同じか。」

「セローさんと僕がパスカルさんたちが背になるようにしましょう。そうすれば、取りに行く必要はなくなります。」

「湘南は、運動はダメでも頭は回る。そうしよう。」

また、ビーチボールを開始する。

「セロー、スパイク!」

「はいー。」

「おっ帰ってきた。じゃあ、次は湘南。ボールを返して。」

「はい。」

「スパイク。」

ボールは誠の手を弾いて、パスカルの頭に当たったが寝たままだった。コッコは起きてスケッチをしていたが、ボールを追おうとはしなかったため、誠が取りに行き、所定の位置に戻ってきた。

「パスカル、役に立たない。」

「まあ、お疲れなんでしょうかね。」

「湘南はこっちの方が楽?」

「そうですね。泳ぐのは得意じゃないので、すごく疲れます。」

「じゃあ、泳ぐ練習より、ビーチボールを続けていよう。」

誠が近くで小学高学年の姉と低学年の弟らしき二人が見ていることに気が付いた。

「アキさん、あそこの子供が参加したそうですけど。」

「本当だ。」

アキが二人に誘いかける。

「ねえ、いっしょにビーチボールやる?」

弟が答える。

「うん。」

姉の方が尋ねる。

「ご迷惑ではないですか。」

「私たちも遊びに来ただけだから、別に大丈夫。それに、あの二人のお兄ちゃんは、私の奴隷だから大丈夫だよ。」

「アキ姉さんの奴隷なんですか。」

「そう。お名前は?」

「弟が徹で、私が美咲です。」

「私のことはアキと呼んで。美咲ちゃんも、可愛いから、大きくなったら奴隷が持てるよ。」

「アキ姉さん。分かりました。頑張ります。」

誠は「頑張るのか。」と思いながらも「これで少し楽になりそう」とほっとした。

「念のため聞くけど、お父さん、お母さんは?」

「あそこで、こっちを見ています。」

「そうか。じゃあ安心だね。」

「じゃあ、徹君、ボール行くよ。」

「うん。」

その後はアキも強いスパイクを打つことなく、平和なビーチボールの打ち合いが続いた。


 ビーチバレーを続けていた亜美は疲れてきていた。

「ミサさん、少し疲れました。」

「そうね、じゃあ休もうか。尚、由佳、休憩にしよう!」

「分かりました。」「了解。」

尚美が由佳に言う。

「水を取ってくるのを手伝っていただけますか。」

「リーダー、了解。脱水になっちゃいますよね。」

「はい。」

「あっ、持ってきてもらうから大丈夫だよ。」

ミサがスマフォで電話して水をお願いした。少しして、管理人が氷とピッチに入った水とコップを運んできた。そして、氷と水を6つのコップに注ぎテーブルに置いた。

「有難う。もう下がって大丈夫です。」

「かしこまりました。明日夏様、皆様、今日はこの別荘にお越しいただき、大変ありがとうございます。何かありましたら、いつでも私どもをお呼びください。」

そう言って、管理人が下がっていった。

「明日夏先輩は、このまま休んでいるんですか?」

「尚ちゃん、砂浜のビーチベットの上で携帯ゲームをするのが、海の正しい過ごし方なんだよ。」

「なるほど、明日夏先輩的にはそうなんですね。あー、そう言えばうちの兄もシートの上で、ごろっとして本を読んでばかりいましたね。」

「さすがだねー。お兄ちゃんが小さいときはビーチで電車の絵本とか読んでいるのを、尚ちゃんが無理やり引っ張り出していたんだろうね。可哀想に。」

「兄と歳が6歳離れているので、そのころのことはほとんど覚えていないんです。」

「まあ、そうだろうね。」

「橘さんも、このまま休んでいるんですか。」

「そうね。普段の仕事の疲れを取るにはちょうどいいわ。本当にセレブになったみたいだし。」

6人がビーチベットに横になった。それを、亜美が三脚を使って写真を撮ったりしていた。


「アキさん、疲れませんか?」

「湘南は、もう疲れたの?」

「一応。」

「徹君と美咲ちゃんは?」

「弟が少し疲れたようです。」

「じゃあ、休憩しようか。」

「徹君、美咲さん、30分ぐらいしたら、今度はオタ芸の練習をするから、もし興味があればまた来て。それまでは、お父さん、お母さんのところで休んでいてくれますか。」

「オタ芸ってなんですか。」

「ダンスみたいなものかな。」

「湘南、だいぶ違う気もするけど。」

「オタクが演者を応援するためのダンスと言えばいいかな。」

「良くわからないです。」

「セローさん、僕とオタ芸の例をお願いします。」

「分かったー。」

誠とセローが明日夏の応援のオタ芸を見せる。

「おもしろそー。」

「弟が参加したそうですので、また来ます。」

「そうですか。僕たちはあの3人といっしょのグループであの辺りにいます。」

「有難うございます。」

姉と弟が両親がいる場所に引き上げていった。

「湘南、ロリコンなの?小学生に手を出しちゃだめだよ。」

「違います。弟の面倒を見ている姉が大変そうだったからです。」

「まあ、そういうことにしておくわ。」

「親も見ているのに、変なことはしませんよ。それより、とりあえず休みましょう。水を飲まないとみんな脱水になっちゃいます。」

「そうね。」

誠たちがパスカルたちがいる場所へ戻っていった。

「パスカルは良く寝ているわね。」

「そうだね。僕は1時間ぐらいで目を覚ましたけれど、パスカル君はぐっすりだ。」

「あと30分ぐらいしたらオタ芸の練習を始めようと思います。」

「分かった。もう少ししたら、起こすよ。」

「でも、湘南ちゃんは、ロリコンなの?JS(女子小学生の略)をオタ芸の練習に誘うとか。」

「アキさんにも同じことを言われましたが、違いますよ。弟の面倒を見ている姉が大変そうだったからです。」

「JSは本当にやばいからな。それだけは言っておくよ。」

「もちろん、分かっています。親の目の届く範囲ですから大丈夫です。」

「それもそうか。でも、あの子たち、オタ芸の練習も来るって?」

「来るかもしれないと言っていました。」

「まあ、スケッチできるのは嬉しいけど。でも、オタ芸をするJSなんて、どのジャンルに入れていいかわからん。」

「勝手にジャンルに分ける方がいけないと思います。」

「いずれにしても、僕としては、女性のオタクが増えてくれると嬉しいよ。」

「ラッキーちゃん、今から洗脳か。すごいな。」

「まあ、今のうちにオタクの楽しさを分かってもらおうと思って。実際の活動は大きくなってからでも構わないから。」

「ラッキーの考えもわからないでもない。」


 両グループとも、30分ぐらいしたところで、活動を再開しようとしていた。

「さて、休んだことだし、リーダー何します。」

「橘さんと明日夏さんは、またお休みですよね。」

「私は、ゆっくりしている方がいいかな。」「ウィ。」

「由佳、私もゆっくりしていたい。」

「分かりました。美香先輩は動きたいですよね。」

「うん。いつ休憩が終わるかなって思ってた。」

「美香先輩、とりあえず、トリプレットの『私のパスをスルーしないで』のダンスをやってみますか。」

「うん、やってみたい。」

「由香先輩もいいですか?」

「オーケーだけど、せっかくだから尚ちゃんのお兄さんアレンジで。」

「分かりました。」

尚美がブルートゥースの携帯スピーカーを出して、スマフォから、誠がアレンジした『私のパスをスルーしないで』の歌付きの音源をかける。

「最初は、由香先輩の後ろで覚えてみて下さい。」

「了解。」

曲が流れ始める。由佳のダンスを見ながらミサは何とかダンスをし、曲が終わった。

「もう1回お願い。」

「分かりました。」

亜美も参加することにした。

「休んでいたかったけど、この曲を聴くとやらないといけない感じがします。」

「その通りだ、亜美、やるぞ。」

3回ほど練習した後、尚美が提案する。

「美香先輩、さすがあっという間にダンスを覚えてしまいますね。」

「ううん、まだまだだけど。」

「とりあえず、由香さんとツートップでやってみましょう。」

「分かった。」

3回ほど繰り返すと、ミサのダンスがだいぶスムーズになってきた。

「これ、歌いながらやるんだよね。」

「そうです。」

「マイクないけど、歌ってみようか。」

「歌詞、分かります?」

「今、聞いていたから分かる。」

「じゃあ、デスデーモンズだけで録った方を流しますね。」

「お願い。」

明日夏が提案する。

「せっかくだから、録画するよ。」

「うん、明日夏、お願い。」

「じゃあ、音楽、スタートします。」

音楽が流れると、今度は歌付きでパフォーマンスを行い、問題なく終わった。

「ミサさん、やっぱり声量がすごいです。」

「でも、亜美の声は、声量よりは綺麗さを出した方がいいよ。」

「はい、そうなんですが、声量があった方が歌の幅は広がります。」

「そうね。一人で歌うなら、いろんな曲が歌えた方がいいか。」

「でも、近くで声量のあるミサさんの歌声が聞けて良かったです。頑張る気になります。」

「私の歌で良ければいつでも歌うよ。じゃあ、もう1回やろうか。」

「はい。」

このような感じで3回ほど、パフォーマンスを行った。

「だいぶ慣れてきた。」

「はい、トリプレットじゃなくて、カルテットという感じでした。」

「有難う。」

「ミサさん、今度は、もう少しダンスの曲で踊ってくれませんか。」

「どんな曲がいい?」

「うーん、DA PUMPのU.S.A.」

「いいよ。」

「やった!」

「すみません。私は無理なので見ています。」

「亜美、分かった。」

「私も二人ほどは踊れませんが、知らないこともないので、隅の方で踊っています。」

「そうだな。リーダーにはちょうどいい練習かも。」

「有難うございます。サブスクリプションにありましたので、かけますね。」

「リピートでお願いします。」

「分かりました。」

何回かダンスをするうちに、だんだんミサと由佳の動きがシンクロしてきた。5回目のダンスが終わった後、一度休憩する。

「美香先輩、由香先輩、すごいです。」

「リーダーも頑張ったけど、ミサさん、ロックシンガーなのにキレキレでしたね。」

「由佳の方がすごかったよ。」

「でもミサさんは、体が大きいので迫力が違う。」

明日夏が声をかける。

「本当に最高の眺めだったよ。やっぱり由香ちゃんとミサちゃん、すごかった。尚ちゃんも頑張ったよ。由香ちゃんの体の動きがなめらかなのに軽くシュシュシュっと決まる感じがすごい。ミサちゃんは、体の脂肪の・・・・痛っ。」

尚美が周りを見ながら明日夏の方に向かって謝罪する。

「明日夏先輩、すみません!ボールがあると知らずに脚に当たってしまいました。」

「そうか、しまった。カメラを亜美ちゃんに返しちゃったからか。でも尚ちゃんの正確なキック、サッカー選手にもなれるんじゃない。」

「デビューシングルがサッカーアニメの曲だったので、ボール扱いを少し練習はしましたが、足に偶然ボールが当たっただけです。亜美先輩、ビデオは撮れました?」

「はい、リーダー、バッチリです。」

「亜美、有難う。後で見るのが楽しみ。」

「でも、ミサちゃん、リアルに見るのにはかなわないよ。」

「それは明日夏さんの言う通りかもしれないです。明日夏さんではないですが、海を背景に、最高の眺めでした。」

「亜美先輩が言うならば、本当なんでしょうね。でも、ダンスしている方はビデオで見るしかないですので、しかたがないです。」

「リーダー、曲を変えてまた踊ろうぜ。」

「分かりました。」

「分かった。」

「三人とも、元気だねー。三人頑張っているから、カレーは私が中心に作るよ。」

「いえ結構です。先輩、カレー、作ったことないでしょう。」

「失礼な。レトルトカレーなら作ったことがあるよ。」

「それ、温めるだけですから。」

「でも、最近のはいろいろあって美味しんだよ。」

「分かりました、明日夏先輩も手伝って下さいね。」

「分かった。尚ちゃんを手伝うことにするよ。」

「由佳、次の曲は何しようか。」

「リーダーもいるので、練習で使っている曲にしよう。亜美も来いよ。」

「分かりました。少し休めましたので、練習で使っているダンスなら参加します。明日夏さん、またカメラお願いします。」

「みんな若いねー。でも、これでボールは飛んでこない。」

久美がカメラを取る。

「じゃあ、ビデオは私が撮るわ。赤いボタンを押せばいいんだよね。」

「はい、そうです。これが電源スイッチです。」

「有難う。」

「橘さん酷い。尚ちゃん、ボールはダンスするところから離しておいた方が安全だよ。」

「だぶん、大丈夫です。」

「それじゃあ、ミサさん、リーダー、亜美、始めるぞ。」

「了解。」「準備できています。」「はい。」

ミサ、尚美、由佳、亜美の4人は1曲あたり4~5回ダンスをしては、曲を変えてダンスを踊った。


 アキ班でも活動を再開しようとしていた。

「ほら、パスカル、起きるわよ。」

「うん、あー、ここは?海か。良く寝た。アキちゃん、お早う。」

「お早うじゃないわよ。これから、明日夏ちゃんを応援するためのオタ芸の練習よ。」

「あー、分かった。あれ、あの、この小さい子供たちは?」

「さっき、ビーチボールをいっしょにやったの。オタ芸の練習も参加するって。ねー、徹君、美咲ちゃん。」

「うん。」

「はい。でもアキちゃん、この人もアキ姉さんの奴隷なの?」

「うん、そうだよ。パスカルって言うんだ。」

「アキちゃん、いったい子供に何を教えているの。」

「現実の厳しさだよ。」

「この人たちは?」

「この二人は、奴隷というより、オタク世界でのお兄さんとお姉さんという感じ。パスカルも奴隷の中で一番偉い、奴隷長ということかな。」

「こっちの二人より偉いと言うことなんですか。」

「でも湘南はいろんなことができる奴隷かな。奴隷の技師長という感じ。」

「そうなんだ。こっちのお兄ちゃんは。」

「セローと言って、会計が得意なんだよ。優秀じゃないと私の奴隷になれないんだよ。」

「へー、アキ姉さん、すごい。」

「アキさん、奴隷でもいいですが、そろそろ練習を始めましょうか。」

「分かった。」

誠はパソコンにブルートゥーススピーカーを連携させた。アキが尋ねる。

「こんな海岸まで、パソコンを持ってくるんだ。」

「はい。でも、これは壊れてもいいように中古で買ったものです。」

「湘南はパソコンをいったい何台持っているの?」

「常時稼働のリナックスサーバーが1台、デスクトップが新旧で2台、ノートが2台ぐらいです。」

「へー、さすがすごいね。練習を開始しようか。」

「うん。」

「分かりました。」

「音楽なしでゆっくりやるからついて来て。パスカルも前で。」

「わかった。」

オタ芸の練習を始めた。コッコがまだ座っているラッキーに話しかける。

「結局、アキは水着のまま踊っているよ。」

「ははははは、そうだね。」

「ラッキーちゃんはオタ芸を踊らないの?」

「音楽が始まったら開始するよ。」

「音楽が始まったら、スマフォでビデオでも撮っておくよ。」

「うん、記録に残しておこうか。」

音楽なしでの練習が終わって、音楽をかけることになった。

「じゃあ、僕はここから参加するよ。フォーメーションはどうする?」

「うーん、7人なので前3人、後ろ4人がいいんじゃないか。」

「じゃあ、センターは徹君で。左右に私と美咲ちゃん。後ろ4人は適当に。」

「それがいいですね。」

「ぼく、男のグループがいい。」

「徹君は、そっちの方がいいか。じゃあ、前2人が私と美咲ちゃん、後ろ5人のセンターが徹君で、あと適当に。」

「はい、それがいいと思います。では、音楽を開始します。」

「じゃあ、徹君、美咲ちゃん、頑張って!」

「うん。」「はい。」

曲が流れて、オタ芸が始まった。暇な観光客の視線が集まっていた。4回ほどやったあと、アキが美咲と徹に声をかける。

「基本はいっしょだけど、別の曲もやってみる?」

「うん。」「はい、お願いします。」

また、音楽をかけないで練習した後、音楽をかけてやってみることになった。

「フォーメーションを変えようか。3人と4人で。徹君とセロー、湘南が前、美咲ちゃん、ラッキー、私、パスカルが後ろにしようか。徹君、前3人は男子だけど大丈夫?」

「うん、大丈夫。」

「徹君がいいなら、それで行こう。美咲ちゃんも大丈夫。」

「はい。」

「アキさん、なんか周りに観客が集まってきていますが。」

「湘南、そんな細かいことは、気にする必要はないわよ。」

「そっ、そうですか。分かりました。気にしないことにします。」

「じゃあ、ミュージックスタート。」

「分かりました。」


 4人の、特に亜美のダンスの動きが悪くなってきた。

「俺もだけど、亜美、さすがに疲れたか。」

「そう。みんな元気だから、かなり疲れた。」

「私も少し疲れてきたかな。」

「それでは、今日はここまでにして、別荘に引き上げましょう。」

「うん、分かった。」「了解。」「助かった感、あります。」

「橘さんと明日夏先輩もいいですか。」

「無理しても仕方がないから、それがいいと思う。」

「たまにボールが飛んで来たけど絶景の中で休めたよ。極楽、極楽。」

「次は、シャワーを浴びて、カレーを作って、お風呂に入って、夕食にしてから、カラオケ大会です。美香先輩、お風呂は全員入れるんですよね。」

「うん、露天風呂の方はそう。あと、ここは片づけなくても大丈夫。」

「管理人さんですか。申し訳ないですが、片づける場所もわかりませんので、お願いすることにしましょう。」

「うん、それでいいと思う。」


 アキ班にも疲れが見えてきた。

「あの、アキさん、弟がもう限界みたいで。」

「そうか、私たちもさすがに疲れたわ。じゃあ、このぐらいにしましょうか。」

「有難うございました。弟が楽しそうで助かりました。」

「お姉ちゃんは弟の面倒を見なくてはいけないから大変よね。何か飲みたくない。」

「でも。」

「大丈夫。徹君、スポーツ飲料でいいかな。」

「うん。」

「じゃあ、湘南、買ってきて。」

「分かりました。全員、スポーツ飲料でいいですか。」

「湘南、8つじゃ俺も行くよ。」

「パスカルさん、有難うございます。」

誠とパスカルがペットボトル入りのスポーツドリンクを8つ持ってきた。誠がコッコに話しかける。

「アキさんのスケッチ、今日はビーチボールとダンスですから、躍動的な感じで描いているんですか。」

「えっ、アキちゃんのスケッチはあんまり描いていないよ。」

「さすがのコッコさんもお疲れですか。」

「そんなことはないけど、湘南に言うと怒るだろう。」

「ということは、さっきはJSは危ないと言いながら、ずうっと美咲さんのスケッチをしていたんですか。」

「決まっているだろう。こんなチャンスは始めてだよ。それに、こっちは絵だけだし。」

「それでも、場合によっては警察に捕まりますよ。」

美咲が誠に話しかける。

「湘南兄さん、警察って何を話しているの?」

「湘南兄さんって呼ばれているのか。すごいな。」

「このお姉さん、コッコさんが悪いことをしよとしていたから、そんなことをしていると警察に捕まるって注意していたんです。」

「そうなの?どんな悪いこと?保険金殺人。」

「美咲ちゃんには話せないけど、コッコさんはそこまで悪い人ではないから大丈夫。」

「美咲ちゃんがダンスしているところをスケッチしていただけだよ。」

「本当、見せてもらえますか?」

「このページだけ、いいよ。」

「すごい!私と徹が漫画の兄弟みたいに描いてある。徹ちゃんどう?」

「お姉ちゃんすごい。」

「美咲ちゃん、徹ちゃん、おほめ頂き、有難き幸せでございます。」

「他のページは?」

「それは、美咲ちゃんが大人になったら見せてあげるよ。それより、前に描いたアキちゃんのスケッチを清書したものを見る。」

「これがアキ姉さん。本当に上手。でも、この絵は何に使うんですか?」

「一つは、この絵を元にコミケという年に2回のマーケットで売るんだ。もう一つは、アキちゃんの宣伝のために使っているんだよ。」

「アキ姉さんの宣伝?」

「プロデューサーの私から説明しよう。」

「あっ、奴隷長さん。」

「奴隷長じゃなくて、プロデューサーだよ。」

「パスカル兄さん、プロデューサーなの?」

「パスカル兄さん!えーと、そうだよ。まだ有名じゃないんだけど、アイドル活動をしているアキちゃんを有名にしようと頑張っているんだ。」

「アキ姉さん、アイドルなんだ。」

「今のところ、アイドルと言っても全然有名じゃないけど。湘南、ホームページを見せてあげてくれる。」

「分かりました。」

誠がホームページを見せる。

「この『アキが歌う海浜公園』というホームページは、湘南兄さんが作ったんですか。」

「はい、そうです。その他にも、チラシ、ポスター、手焼きのCDなんかを作成しています。」

「さすが技師長さんですね。あのプロデューサーさん、アキ姉さんはアイドルになるために今は地下アイドルをやっているんですか。」

「正直に言うと、その通りだよ。まだ小さなホールでライブをしているだけ。でも、美咲ちゃん、そういうことに詳しいんだね。」

「はい。私もアイドルになりたいなと思っていて。あのプロデューサーさん、アキさんのユニットのメンバーは何人なんですか。」

「まだ、一人だけど。」

「アキ姉さん、歌がすごい上手いんですか?」

「下手ではないけど。すごいという程ではないかもしれない。」

「それなら、私を入れて二人にしたほうが、目立つと思います。」

「美咲ちゃんが入ればユニットは目立つとは思うけど。アキちゃんはどう思う。」

「うーん、目立つというのはわかるけど、美咲ちゃん大変だよ。そりゃあ、お客さんに喜んでもらえれば嬉しいけれど。・・・地下アイドルって綺麗なことばかりじゃなくて、訳のわからないおじさんたちとお話したり、一緒に写真を撮ったり。」

「大変なのは分かっています。プロデューサーさんとアキ姉さんの言うことには絶対に従います。ですから、私もメンバーに加えて下さい。お願いします。」

「分かったわ。でも、美咲ちゃんはまだ小学5年生だから、美咲ちゃんのお父さんとお母さんがいいというのが絶対の条件だよ。そうじゃないと、お姉さんたち警察に捕まっちゃうもの。」

「分かりました。父と母に話してきます。ちょっと待っててください。徹、一回戻ろう。」

「うん。」

 戻った美咲が両親から叱られているのが分かった。

「やっぱり、難しそうだな。」

「普通の親だとそうだと思います。というか、アキさんが親の許可が必要と言ったのは、初めからそのつもりだったんですよね。」

「それもあるけど。湘南、そんなことでめげるようじゃ、初めからアイドルなんて無理だと思うよ。」

「ある意味、試験なんですか。」

「まあ、そんなところ。」

父親が美咲の手を引いてこっちに向かってきた。誠が言う。

「僕から事情を説明します。」

「ううん、私から話した方が穏便に済むと思うから、後ろに控えていて。娘の前で女性に暴力を振るうことはないと思うけど。」

「分かりました。念のために防犯アラームを持っておきます。」

 父親と涙を流している美咲が到着した。

「君たちは、どういうつもりなんだ。うちの娘を地下アイドルにしようなんて。」

「私たちは、私たちの活動を説明しただけで、小学生を無理に誘うことはしなかったです。ただ、美咲さんがやってみたいと言うので、ご両親の許可があれば仲間に入れてもいいと説明したところです。ですので、美咲ちゃんがご両親に自分の意思を説明したのではないかと思います。」

美咲が泣きながら言う。

「うん、全部アキ姉さんの言う通り。今日、すごく楽しかったから。だから、私も地下アイドルやってみたい。」

「うーん、まあ、経緯はそうなんだろうけど。うちの娘には無理だと思う。」

「私もみんなに無理と言われて、ちゃんとした事務所のオーディションには落ちまくっていいます。でも、あきらめるのは嫌なので、いまの活動をしています。湘南、パソコンにホームページを表示させて。」

「分かりました。」

パソコンに表示させたホームページをアキが父親に見せる。

「君も、高校生なのに地下アイドルなんてやって、大人の男たちに利用されて、もっと良く考えたほうがいいんじゃないか。」

「私が利用されているように見えますか。」

「・・・・まあ、君の場合はそうなのかもしれないけど。とにかく、うちの娘には関わらないでくれ。これから中学受験もあるんだ。」

「でも、美咲ちゃんのお父さん、美咲ちゃんの人生は最終的には美咲ちゃんのものです。美咲ちゃんがやりたいことに挑戦できないというのは、やっぱり不幸だとは思います。」

「美咲のことは、僕と家内が一番考えている。美咲、帰るぞ。」

「お父さんちょっとだけ待ってて、今日のお礼だけ言ってくる。」

「分かった。」

「アキ姉さん、コッコ姉さん、今日は有難うございました。」

美咲がパスカルと湘南の後ろに回った。アキは、父親に地下アイドルのライブのホームページを見せて反対を向くようにして「是非、一度、地下アイドルのイベントにもいらして下さい。」と宣伝をしていた。美咲は、ラッキーとセローに挨拶した。

「ラッキー兄さん、セロー兄さん、今日は楽しかったです。」

誠は妹より小さな女の子が泣いていたため、心配で仕方がなかった。美咲は父親がアキとは話しているすきに、パスカルと誠に小声で話しかけた。

「ごめんなさい。でもお願いです、絶対に両親を説得して、連絡しますので、それまで待っててください。」

「はっ、はい、お待ちしています。」「あの、ご両親の許可は絶対ですが『アキが歌う海浜公園』で検索するとこちらの連絡先が分かります。」

「そうか、そうですね。湘南兄さん、有難う。」

その後、大声で挨拶をした。

「パスカルプロデューサーさん、湘南兄さん、今日は本当に有難うございました。」

 美咲と父親が去って行った後、コッコが誠に尋ねる。

「美咲ちゃん、最後にパスカルちゃんと湘南ちゃんに話しかけていたようだけど、何て言ってたの?」

「絶対に親を説得して連絡するので待ってて下さいって。」

「そうなんだ。思ったより、根性あるかも。美咲ちゃんが話せる時間をアキちゃんが作ってたんだよね。」

「そうだよ。美咲ちゃんが泣いていたの、ウソ泣きみたいだったし。大した玉だと思う。アイドルには向いているかもしれないとは思った。」

「そうなんですか。」

「私も良くやるから分かる。湘南も妹がいるんだから分かるでしょう。」

「僕は、妹が泣いているところを見たことがありません。4月にヘルツレコードのオーディションに受かったときに、生まれて初めて涙が出たと言っていましたけど。」

「なるほど、そうなんだ。だから、湘南はオロオロしていたんだ。まあ、妹子は自分の努力と実力で勝負するタイプなのかもね。」

「星野なおみちゃんはそんな感じがする。でも、美咲ちゃんも、なおみちゃんとタイプは違うけど、アイドルに向いているというのも本当かも。まあ、こっちは美咲ちゃんが親を説得して、連絡が来るのを待つしかないけど。」

「そうですね。」

「もし美咲ちゃんが加われば、女子小学生モデルをゲットだぜって感じだけど、美咲ちゃん、こっちの連絡先分かるか?」

「一応、『アキが歌う海浜公園』で検索すれば、こちらの連絡先が分かるとは伝えてはあります。」

「ほー、湘南ちゃんも、なかなか悪よのう。」

「そうじゃなくて、小さな女の子なのに泣いているのがかわいそうで、この先に希望を持った方がいいかなと思って。」

「湘南の場合は、そうだろね。」

 少しして、美咲と徹の家族が浜辺から引き上げて行った。両親はこっちを見ていなかったが、美咲は6人を見て手を振ってきたので、手を振り返した。家族を見送った後、誠が提案する。

「それじゃあ、需要はないかもしれませんが、一応、ホームページ掲載できる男性4人のオタ芸のビデオを撮影してから、引き上げましょう。」

「おー、いいね。」

「じゃあ、コッコと私で撮影するね。」

「お願いします。」

「じゃあ、配置はTOのセローと副TOの湘南が内側で、ラッキーさんと俺が外側かな。」

「いいよー。」「はい。」「それで行こう。」

「わはははは、今日は収穫多いな、もう。」

3回ほど撮影した後、6人は引き上げて別荘へ向かった。

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