第12話 海の別荘
夏が本領を発揮し始めたころ、いよいよ、明日夏班、アキ班が海へ出発する日である8月1日となった。その朝5時、誠が起きると尚美も起きた。
「お早う、お兄ちゃん。」
「お早う。尚、結構早いね。」
「うん、サンドイッチを作って持っていくの。あと朝早いから、6時過ぎに明日夏先輩が起きているか確認しないと。」
「サンドイッチは昼食?」
「そう、それぞれが何かを作って持ち寄って、みんなで分けるの。」
「それは楽しそうだね。」
「お兄ちゃんも、持っていく?」
「有難いけど、僕だけ持っていくわけにもいかないし。」
「朝食として食べれば、電車の中で。」
「いいのか。」
「大丈夫。六つ作るので二つぐらい増えても大丈夫だよ。」
「有難う。でも、僕は二つなの。」
「だって、みんな作って来るから一つが小さい。」
「なるほど。」
「お兄ちゃんは、何時出発?」
「6時。」
「分かった、それまでには作るね。」
「尚は何時出発?」
「事務所が8時で、ここは9時ごろ。正確な時間は連絡が来ることになっているよ。」
「そうか。運転手さんには無理を言わないで、ちゃんと休憩が取れるようにするんだよ。」
「大丈夫、1時間30分ぐらいに1回30分の休憩を入れるようにしているから。」
「尚が計画したの?」
「そう。」
「さすが。念のため場所を聞いておいていい?」
「もちろん。静岡県のここだよ。でも、美香さんの家の別荘だから、他の人には絶対に秘密ね。」
「わかった。じゃあ、記録しないで頭の中だけに入れておく。」
「うん。」
誠は「アキさんの別荘と5キロメートルぐらいしか離れていないのか」と思ったが、それだけ離れていれば遭遇することはまずないし、逆に何かあったらすぐに駆け付けられるので好都合だと思った。
「あと、疲れたり気分が悪くなったら無理をしないで休むこと。」
「うん。でも無理をするのはお兄ちゃんの方だから気を付けてね。」
「了解。何かあったら連絡してね。駆け付けるから。」
「分かっている。」
誠は行く準備を始めた。パソコンなどの機器類はいつものリュックサック、着替えやタオルを小さなスポーツバッグにまとめた。出発時間になり、階段を降りて台所に向かった。
「尚、じゃあ行ってくる。」
「はい、これ。」
尚美が小さなサンドイッチの箱を二つ誠に手渡す。
「有難う。尚が帰ってきたらサンドイッチの感想を言うね。」
「うん。楽しみにしている。」
二人は玄関に向かった。
「それじゃあ、行ってくる。旅行、気を付けて楽しんできてね。」
「お兄ちゃんも、気を付けてね。」
尚美は、誠が家を出ていくのを見送った。尚美は、誠の荷物を見て、少し不思議に感じた。
「あのバッグ、1、2泊の旅行の時に持っていくやつだけど、今日は荷物が多いのかな。」
ただ、あまり気を留めずに、明日夏に電話した。
「明日夏先輩、お早うございます。」
「尚ちゃん、朝早くから何?良く分からないけど、今日は眠いのに目覚まし時計が3つ鳴って大変だった。」
「今日は何の日か覚えていますか。」
「尚ちゃんが電話してくるぐらいだから、えーと・・・ああ、海に行く日だ。」
「そうです。」
「昨日の晩までは覚えていたんだよ。」
「昨晩まで覚えていて、今忘れている方が驚きます。それより、先輩は今朝8時に、パラダイス興行事務所ですので、行く準備をして下さい。」
「ダコール。」
「もう寝ないで下さいね。」
「ウィ、マドモアゼル。」
誠は駅でサンドイッチを食べた後、アキの家の近くの公園に向かった。旅行の準備を終えた尚美は、自分の出発までまだ2時間以上あったため、夏休みの宿題をやっていたが、休憩時間には、誠とアキを引き離す方法がないか考えていた。
朝8時前、アキの家の近くの公園に先に着いていた誠、パスカルの所にコッコがやってきた。
「コッコちゃん、お早う。」
「コッコさん、お早うございます。」
「パスカルちゃんに湘南ちゃん、お早う。いやー、二人はいつも仲がいいね。今日の夜、期待しているよ。」
「肝試しですか?」
「その通り。」
「コッコちゃん、独創的なのは分かっているけど、男性2人組で肝試しをするなんて聞いたことないぞ。それで、女性が驚かす係なんて。」
「アキちゃんが高校2年生なんだからしょうがないだろう。おじさんと二人にするわけにはいかない。」
「それは分かるけど、本当の目的は違うよね。」
「ワクワクが止まんないよ。パスカルちゃんと湘南ちゃんの二人のリアクション期待しているよ。」
「俺たちは、そんなに驚かないよね、湘南。」
「はい、たぶん。」
「まあ、暗い夜道を二人で歩いているだけで妄想できるから、それでも構わない。」
誠は、アキPG宛てに3人が到着したことを報告した。
パラダイス興行では、明日夏、久美、由佳、亜美が揃っていた。
「明日夏、偉いわね。時間前にちゃんと来るなんて。」
「尚ちゃんから電話がなければ忘れるところでした。昨晩、用意までしていたのに。」
「明日夏さんは、寝起きが悪い方なんですか。」
「うーん、朝起きた後、少しの間ボケていることがある。」
「リーダーがいたら、いつもじゃないですか、って言うところだな。」
「もう少し難しい単語で、四六時中じゃないですか、かな。」
「それとも、ボケてないときなんてありましたっけ、なんじゃ。」
「やっぱり、リーダーの突っ込みがないと、明日夏さんのボケが生きませんね。」
「由香ちゃんも亜美ちゃんも、尚ちゃんの影響を受けすぎだよー。でも、尚ちゃんが何て言うかは聞いてみたいかも。」
「そうですね。私が話を振りますから、さっきと同じように答えてみて下さい。」
「ダコール。」
8時少し前に、ミサがパラダイス興行に到着した。
「みなさん、お早うございます。」
「ミサちゃん、お早う。」「大河内さん、お早うございます。」「ミサちゃん、お早うーー。」「ミサさん、お早うです。」「ミサさん、お早うございます。」
「期待した格好とは違うけど、すごい。」
「期待した格好って?」
「夏のお嬢様。」
「でも、ミサさんほど、ホットパンツが似合う人もいないとは思います。それだけ脚が長ければ、ダンスが映えるんで、うらやましいです。」
「今回は海に行くから、この格好をしてきたんだよ。」
「しいて言うと、Tシャツを短くして、へそを出して欲しかったです。」
「自動車に乗る時間も長いから、エアコンでお腹冷やすでしょう。それより、早く行きましょう。」
「ダコール。」
「それじゃあ、社長さん、皆さんをお借りします。」
「どうぞどうぞ、楽しんできてください。」
「有難うございます。」
「じゃあ、社長、明後日の夕方まで、久美さんがいないですから、ゆっくり美少女アニメを堪能して下さい。」
「明日夏ちゃん、美少女だったらいいというもんではないんだよ。ストーリーも大切なんだ。」
「それは分かります。イケメンだけは萌えません。」
「もう、明日夏と悟がアニメの話をしだすと長くなりそうだから行くよ。」
「橘さん、分かりました。行きましょう。」
6人はミサのリムジンに乗り込み、尚美の家に向かった。行く途中、デビューから今までにあったことや、さっきの尚美の突っ込みに関して話した。
8時過ぎ、アキからアキPG宛てに連絡があった。
アキ:両親ともに出勤した
湘南:10分待ってて下さい
湘南:コッコとそっちに行きます
湘南:駐車場のドアを開けておいて下さい
アキ:了解
5分が経過し、パスカルはそのまま公園で待ち、誠とコッコがアキの家に向かった。
「いらっしゃい。」
「お早うございます。」
「お早う。でもアキちゃん、これはまた、スケッチしたくなるようなすごい家だね。」
「鍵をいいですか。」
「はい、これ。」
誠は鍵を受け取って、車のドアを開ける。2人が荷物をトランクに入れた後、誠がドライバー席に、二人が後席に座った。誠はマニュアルをインターネットで見ていたので、だいたいのスイッチの位置は覚えていた。」
「出発します。」
誠は、慎重に車を道に出した。誠は「やっぱり大きいな。」と思う。
「車庫のドアは?」
「リモコンで閉められる。」
アキがリモコンでドアを閉めた。
「まずはパスカルさんを拾います。」
「うん、プロデューサーがいないと話にならない。」
公園でパスカルを拾った。パスカルは助手席に乗り込んだ。誠はETCカードを挿入した後、出発する。
「では、出発します。せっかくですので、海岸沿いの道を通ろうと思います。休憩は西湘パーキングエリアで1回の予定です。ただ、トイレなどに行きたくなったときは、いつでも言って下さい。」
「おう。」「はい。」「任せるよ。」
パスカルが話し出す。
「この前のライブ、ミサちゃんは災難だったな。」
「怪我はなくて、仕事は続けているようですが、落ち込んでいるって話ですね。」
「ああいう輩は許せん。」
「そうですね。自分の愛を押し付けるのは良くないです。」
「私も、ああいう人は怖いわ。」
「大丈夫、アキちゃんは俺が守る。」
「守るというより、時間稼ぎしてくれれば、私は逃げられる。」
「大丈夫、アキちゃんが逃げる時間は僕が作る。」
「一発でのされるんじゃないわよ。」
「あの時は3人のスタッフで止められなかったですから、避難経路を考えておくことは必要とは思います。」
「それにしても、湘南ちゃんの妹子ちゃん、星野なおみちゃん、すごかったね。」
「そうそう、あれだけ図体がでかいと俺でも躊躇しそうなのに、全くひるむことなく、立ち向かって行ったよね。」
湘南がバックミラーでアキの顔を見る。
「大丈夫よ。参考になるかもしれないし。」
「うちの妹は、理由は分かりませんが護身術が好きで、そのため今ではミリオタの部分があったりします。」
「そうなんだ。昔、なんかあったのかな。だから、普段は地味な格好をしているのかもしれないわね。」
「そうなんでしょうか。何も話してくれませんが。今度聞いてみようかな。」
「でも妹子ちゃん、護身術を習うとか、積極的に対応しているから大丈夫だとは思うけどね。」
「はい、普段は不安そうな所を見せません。それでも僕が送り迎えすると、安心と言っていますので、やっぱり不安なこともあるのかもしれません。」
「星野なおみちゃんを送迎とかすごいな。」
「格好は妹子の方ですけど。送り迎えの時は、念のため催涙スプレーと圧縮空気式のアラームを持つようにしています。」
「妹を守るためだもんな。俺も一応アキちゃんのためにスプレーぐらい持つか。」
「スプレーを顔にかけることができなくても、時間稼ぎぐらいはできます。」
「そうだな。早速、調達しておこう。」
「ただ、正当な理由がない場合に催涙スプレーなどを携帯していると、軽犯罪法に違反しますので注意してください。」
「わかった。調べておくよ。」
コッコが話しを変える。
「昼飯はどうするの?」
「昼は海の家で休みながら、まずくて高い焼きそばとかですか?」
「まあ、普通そうか。晩飯は。」
「今日はカレーで、明日はバーベキューの予定です。」
「じゃあ、カレーは男どもで作ってくれ。私はアキのスケッチをしちゃうから。カレーのご褒美として、2次元化したイラストをすこしだけ見せてあげる。」
「えーーーー。」
「見せるのはホームページに載せる分で、どれがいいか聞きたいから。」
「わかった。でも見せる前に私に見せてよ。」
「わかったよ。」
「カレーは何カレーがいいですか。別荘に行く途中に休憩をかねて駅前のスーパーに寄って買ってこようと思います。」
「おい、湘南ちゃん。その前に、イラストのリアクションしろよ。パスカルちゃんも。」
「プロデューサーとして、ホームページに載せる絵をチェックしたいと思う。」
「はい、ファイルサイズなんかのチェックも必要です。」
「なんだ、それは。でもそれだけに楽しみだな、この二人。」
「少し、分かります。」
「おお、アキちゃんも腐った世界への扉を開けるか?」
「今はいいです。」
「そうか、残念。」
「それで、カレーはどうします?」
「お前は専業主夫か。ビーフで。」
「アキさんとパスカルさんは?」
「ビーフで。」「おう、ビーフで。」
「一応、後の二人はSNSで確認しておきます。家庭用のルーは使わないで作ってみるつもりです。」
「湘南ちゃん、大丈夫なの?」
「はい、部活の合宿で作ったことはあります。」
「なるほど。」
「じゃあ、指示は湘南に任せる。」
「了解です。」
アキが話を変える。
「そんなことより、海で何をするか決めない?」
「プロデューサーとしては、アキちゃんの水着のビデオ撮りをしたいところだが。」
「馬鹿プロデューサー。あー、でも本当のアイドルはそういうことをやっているのか。」
「アキちゃん、真に受けなくていいよ。プロデューサーの冗談だ。向こうは1億円とかがかかった仕事だし。」
「考えてみたら、水着の写真で億円単位のお金が動くって、プロのアイドルはすごいわね。」
「スイカ割とかしたいですか?」
「せっかくだから、やってみたい。」
「それでは、カレーの材料を調達するときに、買ってきます。」
「有難う。」
「湘南、経費は男3人で割るから、領収書をセローに渡してくれ。」
「3人というのは。」
「湘南は学生だろう。運転もするし。もう、パスカルさんとセローとは話がついている。」
「パスカル、さすがプロデューサー。」
「じゃあ、僕は高速代を持つことにします。」
「そうか、悪いな。」
「いえ、GT―Rを運転なんて、滅多にできないですから。」
「そうか。じゃあ、そうするか。」
「了解です。」
「パスカルちゃん、ごち。」
「パスカル、有難うね。」
「おお、気にすんな。でも、後でラッキーさんとセローにも言ってあげてくれ。」
「了解。」「分かりました。」
この後、アキ班は海で何をするかを話しながら、西湘パーキングエリアに向かった。
明日夏班のリムジンが尚美の家に着くと、SNSで連絡してあったので、尚美は家の外で待っていて、リムジンが止まると、降りてきた運転手がトランクに荷物を入れて尚美は車に乗り込んだ。
「みなさん、お早うございます。家まで来てくれて、有難うございます。」
「尚、お早う。今日は優等生スタイルなのね。」
「道中、何かがあったときに便利と思ってこのスタイルで来ました。別荘に着いたら着替えます。でも、美香先輩は、カッコ良すぎてすぐに分かってしまいそうですね。」
「帽子をかぶるし、サングラスもするから、大丈夫だとは思うけど。」
「とりあえず、しばらく様子を見てみましょう。西湘パーキングエリアで休憩の予定です。30分ぐらいですが、皆さん大丈夫ですか?」
「うん、私は大丈夫だ。」
「尚ちゃん、お早う。パラダイス興行の方は事務所でお手洗いは済ましてきたので、大丈夫だと思うよ。あと、今朝は朝起こしてくれて有難うね。」
由香が計画通り明日夏に尋ねる。
「明日夏さんは、寝起きが悪い方でなんですか。」
「うーん、朝起きた後、少しの間ボケていることがある。」
「先輩、ボケていることがあるなんて、まだ寝ぼけているみたいですので、早く目を覚まして下さいね。」
車の中が大きな笑いで満ちる。状況が分からない尚美が尋ねる。
「どうしたんですか。」
久美が説明する。
「ごめんなさい。さっき明日夏が同じことを言ったとき、由佳と亜美が突っ込んでみたんだけど、尚が言ったらどうなるかという話になって、明日夏が同じことを言ってみたの。」
「そうなんですね。」
「やっぱり、リーダーの突っ込み、切れ味が違う。」
「はい、すごかったです。」
「私も、ボケとか突っ込みとかができるようになりたいな。」
「美香先輩、一般にはボケの方が独創性が必要で難しいと言われています。それが自然にできる明日夏さんは、ボケの天才なんだと思います。」
「ねーねー尚ちゃん、それは褒めているの。」
「もちろんです。」
「本当に?」
「本当です。こうしてみんなで海に行けるのも、魚肉ソーセージに始まる明日夏先輩のボケのおかげです。」
「なるほど、そういうことになるのか。」
「いえ、美香先輩、感心しないで下さい。でも、美香先輩も、かなり一途な人ですから、どちらかというとボケ役の方ができるかもしれません。」
「そうなの、ボケ役か。そうなるためには、どうしたらいい?」
「まずはこの仲間内で、あまり何も考えずに、思ったことを何でも話してみて下さい。失敗したときのこととか。」
「失敗したときのこと?この間、ロンドンのCDショップに行ったとき、ロックの売り場で日本で売っていないCDがたくさんあったのが嬉しくなって、その店のロックのCDを全部買っちゃったんだけど、2000枚の封を開けるのが大変で、大部分のCDは封も開けてないの。」
「これは、石油王ボケとでも言うべき新しいジャンルでしょうか。でも、世間でいうと反感を買いそうですから外ではあまり言わない方がいいですね。」
「有難う。尚のいう通りだと思う。」
「でもミサさん、アイドルのオタクの愛なら、CDの2000枚ぐらいなんともありませんよ。」
「亜美ちゃん、どういうこと?」
「アイドルオタは選抜メンバーの選挙のために同じCDを3000枚ぐらい買って、封を開けて、3000個の番号をホームページに入力して投票しています。それで推しが選抜メンバーに選ばれたときは、嬉しくてわんわん泣くそうです。」
「すごいなアイドルを好きな人の愛は。」
「全収入、全人生をかけているみたいです。」
「そうか、私のロックへの愛なんてまだまだか。」
「美香先輩、でも、それは真似しなくてもいいと思います。」
「そうなんだけど、私、最近壁に当たっていて、どう歌えばもっと感情が乗せられるか、方向が分からなくて悩んでいるんだ。ロックへの愛が足りないのかもしれない。」
「そうなんですね。」
「俺からすると、贅沢な悩みに聞こえるけど、ダンスでもやっぱり上達すると壁があって、どんなに練習しても破れないで悩んで終わる場合もあるって言われている。才能とか骨格とかどうしようもないところもあるみたいなんだそうだけど。」
「そうなんですか。橘さんはどう思います。」
「私が言うのもなんですが、基本的には人生経験を積むことと、自分が好きな歌を歌う歌手の歌をたくさん聞いたり、歌うことだと思います。まだ、若いですので、焦る必要はないとは思います。まだ恋愛も失恋経験もないんですよね。」
「はい。」
「やっぱり、ロックも男女関係を歌った曲が多いですから、恋愛を経験しないとわからないところもあります。」
「橘さんが言われていることは分かります。」
「でも、ミサさんの場合、恋愛はできても、失恋はできないんじゃないでしょうか。」
「それは困りましたね。」
みんなが笑う。尚美が今は昼間の話をすることを勧める。
「そういう話の時間は夜に取ってありますので、今はこれから海ですることを具体的に考えましょうか。」
「賛成!」
この後、明日夏班でも海で何をするかについて話した。
明日夏班が西湘パーキングエリアに到着した。尚美が最初に降りた。大きなリムジンだったので、まず車で周りの人の注目を集めていた。尚美は「やばいか。」と思った。ミサが降りると
「大河内ミサだ。」「マジ、カッコいい。」「ミサちゃんだ。」「サインお願いします。」
という声が聞こえて、人が集まってきた。尚美が撤収を指示する。
「車の中に戻りましょう。」
「尚、ごめんなさい。」
「いいえ、美香先輩は悪くありませんので、気にはしないで下さい。」
尚美が最後に車に戻ると、スマフォに誠からSNSに連絡があったことを知らせる通知があったので、スマフォを開いた。
誠:高速のサービスエリアが混んでいるというニュースを見たんだけど、大河内さんが見つかって騒ぎになる可能性があるから、休憩は高速から降りて、普通の小さい喫茶店を使った方がいい。
尚美:有難う。分かった。
尚美は、誠が自分のことを心配してくれているのが嬉しかった。尚美が指示をする。
「高速を降りて、普通の喫茶店に入りましょう。」
「わかりました。大野さん、お願いできますか。」
「お嬢様、かしこまりました。」
「明日夏先輩は、次の移動では、美香さんに寄り添って、人が多い方向から見えないようにしてください。」
「ダコール。」
尚美は騒動を見ていたかのようなタイミングを不思議に思っていたが、偶然だろうと思い直していた。尚美がスマフォでインターチェンジの近くの喫茶店を選んで、それをみんなに見せる。
「それでは、この喫茶店にしましょうか。駐車場があってそんなに大きくなくて。」
「尚ちゃんに、任せる。」「うん、そうしよう。」「オーケー。」「雰囲気良さそう。」
リムジンはあまり大きくない喫茶店に向かっていった。
少し話が戻って、西湘パーキングエリアに着く少し前のアキ班の話である。
「もうすぐ、西湘パーキングエリアです。」
「この辺、海が綺麗だね。」
「はい、パーキングエリアからも海が見れます。」
「なるほど、じゃあスケッチブックでも持っていくか。」
「海のスケッチですか。」
「海を見ている湘南ちゃんとパスカルちゃん。」
「わかりました。アキさんは・・・・寝ているんですか。」
「うん、さっきからだよ。昨晩、眠れなかったんじゃないか。」
「えっ、パスカルさんかコッコさんに何をされるか心配でですか。」
「おい、湘南。おれは変なことは絶対にしないぞ。」
「もちろん僕は分かっていますけど。」
「まあね。湘南の言う通りか。女子高校生から見れば、そうなるよな。」
「あのね、お二人さん、この旅行を一番楽しみにしているのは誰だと思う。」
「コッコさん。」
「俺も、コッコちゃんだと思う。」
「いや、私も楽しみだけどさ。そうじゃなくて、純粋に楽しみにしているのは。」
「パスカルさん。」
「湘南、何で俺なんだよ。」
「自分で言ってたじゃないですか、色の濃いサングラスをかけて、水着の女の子を見るって。」
「湘南もちゃんと持ってきたか。」
「念のため持ってきましたが、何もなければ僕はかけないですよ。」
「この、むっつりめ。」
「そうじゃなくて、女性の誰かを探さなくてはいけないとき、パスカルさんの方法は役に立つと思っただけです。」
「まあ、いい。顔は動かすんじゃないぞ、バレるから。目だけ動かすんだ。」
「分かっています。あっ、もうすぐパーキングエリアに着きます。」
「お前らさー。まあいい、勝手にやってろ。おーい、アキちゃん、もうそろそろ起きて。海が見えるパーキングエリアに着くよ。」
「ふぁー。ああ、私、寝てたんだ。」
「うん、30分ぐらい。でも、だめだ、こいつら。」
「パスカルと湘南のこと?私は知り合えて幸運だと思っているよ。」
「まあ、そうだけどさ。うーん、そういうことだ、お二人さん。」
「俺も幸運だと思っているよ。」「えーっと、有難うございます。」
誠は、GT―Rが駐車場をパーキングエリアの駐車場に止めた。周りの視線が車に集まった。誠たちが降りると、一瞬、誠たちに視線が集まったが、すぐに視線は車の方に向いた。その30メートル前方を大きなリムジンが通って行った。「尚たちかもしれない。」と思って見ていると、車が売店の前に止まり尚美が出てきた。そして、ミサが降りてくると、人だかりができるのが見えた。
「大河内さん、ここからでも判別できる。あの派手な恰好じゃパーキングエリアは無理だろう。」
すぐにスマフォを取り出して、尚美に連絡した。尚美たちは車に戻り、少しして車が出発して、パーキングエリアを出て行った。誠は「大事にならないで良かった。」と思った。パスカルたちもリムジンを見ていた。
「大きなリムジンだな。VIPか。」
「VIPは警備のために機動性が落ちるあんなに長いリムジンは使いませんし、すぐそばに警備車両がいるはずです。お金持ちの方ではないでしょうか。」
「そうか。」
「うん、湘南の言う通りじゃないかな。すぐに引っ込んじゃったけど、ホットパンツの女の人、お金持ちの愛人みたいな感じだった。」
「おう、雰囲気はすごい美人だった。」
「中学生ぐらいの女の子もいましたから、娘さんたちなんじゃないでしょうか。」
「湘南ちゃんの言う通りかもしれない。でも、娘にしてもあの子、ホットパンツがすごく似合っていた。スケッチしたいが無理だろうな。」
「後が怖そうですね。」
「そうだな。」
「はい、じゃあ、お手洗い休憩です。15分後に、あそこの海が見える見晴らし台のあたりに一度集合しましょう。」
「了解。」「うん、わかった。」「オーケー。」
リムジンが喫茶店の駐車場に到着した。尚美が車を出て店に入り、店に入れるかどうか確認する。店には3人ぐらいしかお客がいなかった。尚美が車に戻り、入れることを告げると全員が下車した。明日夏がミサに寄り添って店に入り、6人は大河内が他の席から顔が見えないように席に座る。
「美香先輩、運転手さんは?」
「大野さんは、車の中で休むみたいで、いつもそうしているの。前の二つの席を使って寝ることもできるみたい。」
「わかりました。私たちといっしょだと、かえって気が休まらないでしょうね。」
「尚は運転手さんまで気にするんだ。」
「いえ、こちらの安全に係わることですから。」
「さすが尚。そうか、私のこの恰好も、みんなを危険にしているのかもしれない。ごめんなさい。」
「ミサちゃん、気にすることないよ。明日は、わが身かもしれないから。」
「明日夏先輩の場合は、一般の方しかいないところは大丈夫じゃないですか。秋葉原とか池袋では気を付けなくてはいけないとは思いますが。」
「そうなんだよ。池袋に行くと、時々後ろ指を指されている。」
「先輩、後ろ指を指すの意味わかっていますか。」
「イベントでの一件や、雑誌の取材で『タイピング』の男性声優さんと対談したり、並んで写真があるから、後ろから、なんであんなオタクが、と言われてしまっている。」
「オタクみたいな恰好をして行くわけですか。」
「リュック背負って、それに特典のポスターを3本ぐらいさしている。」
「なるほど。なんとなく想像できます。やはり、その界隈では有名になってきていますので、気を付けた方がいいということですね。」
「そうか。不便になるなー。」
「有名税というやつですね。」
店員が来て、それぞれが注文する。
「トリプレットが有名になると、俺なんかは絶対に平気だけど、リーダーは危ないかもしれない。」
「でも、リーダーは今の格好をしていれば、普通の人じゃまず見破れない。」
「そうだよね。私もやってみようかな。」
「そうですね、由佳先輩が変装するなら、真面目そうな眼鏡にスーツなんてどうでしょう。ビジネスバックを持って。」
「うん、試してみる。」
「スーツはブランド物でなくて、スーパーで売っている普通のものの方が良いかもしれません。」
「スーパーの洋服売り場とか入ったことがないんだけど、尚、買いに行くとき付き合ってくれる。」
「はい、喜んで。その時ですが、クレジットカードは、せめてゴールドカードぐらいにしてくださいね。ブラックカードだと目立ちます。あと、念のためにマスクをしていきましょう。」
「うん、わかった。」
「ところで、尚ちゃん、さっきの連絡、高速を降りて喫茶店にしようというのは、尚ちゃんのお兄ちゃんからの指示?」
「指示というか、助言です。」
「もしかして、尚ちゃんが心配で、ついてきているの?」
「そんなことはないです。今日は朝から出かけていきましたし。ニュースでサービスエリアが混んでいるというニュースを見たそうです。」
「ふーん。家の車は日産のGTーR?」
「そんないい車じゃありません。おじいちゃんとおばあちゃんを乗せることがあるので、7人乗りの普通のワゴンです。」
「そうなのかー。」
「リーダーじゃなくて、明日夏さんをつけてきているということは?」
「あー、それはない。私に危険があるという情報でも持っていれば別だけど。」
「その通りと思いますが、明日夏先輩が、兄に関してすごく正しいことを言うので驚きます。」
「尚ちゃん、私は人を見る目はあるのだよ。」
「野生の感ですか。」
「そうとも言う。」
尚美が出発の合図をする。
「時間ですので、出発しましょうか。美香先輩、車の方は大丈夫ですか。」
「確認してみる。・・・・大丈夫だって。」
「それでは、会計は私がやっておきますので、車に向かってください。美香先輩の分は、パラダイスのみんなで割りますので不要です。」
「いいのかな。」
「全然いいと思います。」
「橘さんがアイスコーヒー、美香先輩がミルクティ、明日夏先輩がコーヒーフロート、由佳先輩がチョコレートパフェ、亜美先輩と私がアイスミルクティですね。」
「はい。」
その時、ダンスをやっていそうな恰好の女子高校生のグループが入ってきた。尚美が、高校生たちが由佳をちらちら見ていることに気づいた。
「由佳先輩、もし声がかかるようならば、女子高校生ですので、適宜相手をしてください。由佳先輩以外は、その間に車に移動します。」
「わかった。」
全員が立ち、尚美が会計に、他の5人が外に出ようとすると、女子高生の一人から由佳に声がかかった。
「もしかすると、トリプレットの由佳さんじゃないですか。」
「あれっ、見つかっちゃった。あははははは。」
その間に、ミサと明日夏、久美と亜美が車の方に向かう。
「ダンス、カッコいいですよね。昔から動画サイトで見ていました。」
「本当に!有難う。」
「写真、いっしょに撮ってもらってもいいですか。」
由佳が尚美の方を見る。尚美がオーケーのサインを出す。
「おー、いいぜ。」
由佳が高校生と写真を撮り始める。
「見たところ、君たちも、ダンスやってんのかな?」
「はい。でも、なかなか上手くならなくて。」
「そうだな。自己流にならないように、ちゃんとしたスクールに行ってダンスの先生に習うことと、あとは練習あるのみだね。動画サイトにアップするのも動機づけになるけど、危険なこともあるので、親と相談しような。」
「はい、分かりました。この写真SNSにアップしてもいいですか。」
また、由佳が尚美の方を見る。尚美がオーケーのサインを出す。
「おー、おれはいいぜ。」
「有難うございます。さっき通ったホットパンツの方も、ダンスで鍛えた脚ですよね。」
「わかるか。ダンスを本気で志しているんだな。でも、あの方のことは秘密で。」
「わかりました。由佳さん、本当に有難うございました。」
「じゃあ、君たちも頑張って!」
「はい、がんばります。」
由佳は店を出て車に向かった。尚美も小さくなりながらサッと店を出て、車に向かった。二人を乗せると、車はミサの別荘へ向けて出発した。
「由佳ちゃん、後ろ指じゃなくてすごい。」
「ファンから声がかかったの初めてだったから、嬉しいぜ。」
「由佳先輩が良ければ、これからも女子高生や女子中学生と写真を撮ってSNSに上げてもらって下さい。」
「おー、いいぜ。でもリーダーも嬉しそうだな。」
「由佳先輩が女子高生に好かれるのは、トリプレットのプロモーションが計画通りに進行しているということだからです。」
「あー、俺のあれが原因か。リーダーには苦労をかけて、ごめんな。」
「それは気にしなくて大丈夫です。あの、美香先輩、着いてからのことですが、ビーチパラソル、テーブルはお借りできるんですよね。」
「うん、別荘に備えてあるよ。」
「じゃあ、テーブル2脚とビーチパラソル2つを設置するところからですね。」
「今日行くって言ってあるから、もう管理人さんがセッティングしたと思う。」
「そうですか。もしクーラーボックスがあるようならば、お借りして冷えた飲み物を入れておこうかと思うのですが。」
「別荘とビーチはつながっているから、別荘の冷蔵庫が使えるし、管理人さんが持ってきてくれるので、心配はいらないけど。別荘の冷蔵庫には飲み物もいろいろ揃っていると思う。スイカも冷やしてあるはず。」
「分かりました。うーん、じゃあ、することないですね。」
「うん、そうだと思う。家族で来るときは、いつも何も持っていかなくても大丈夫だから。」
「ホテル業という事もありますから、サービスを含めれば日本最高の別荘という感じですか?」
「そんなことは全然ないよ。お隣さんの別荘の方がお城みたいに大きいし、ヘリポートがついているみたいだし。」
「そうなんですか。上には上があるんですね。どんな人の別荘なんでしょうか。」
「フランスのお金持ちという話があるけど、表札も出ていないし良く分からない。」
「温泉好きのフランス人でしょうか。まあ、身元は秘密にするんでしょうね。」
「うん、そうだと思う。あまりよく覚えていないんだけど、小さい時にとなりの別荘の女の子と遊んだことがあるんだけど、すごい可愛い子と思ったことを覚えている。」
「今頃は、セレブフランス美女になっているかもしれませんね。」
「でも、今のミサちゃんには敵わないんじゃないかな。」
「確かに、私もそう思います。」
「明日夏、亜美、有難う。」
アキ班は、西湘パーキングエリアの海の見える丘に集まった。
「綺麗な海ね。」
「やはり、東京湾とは違うな。」
「ヨットが見える。あれ、風で進んでいるんだよね。」
「エンジン付きもありますけど。」
「湘南ちゃんは、夢のないことを。」
「すいません。今は風がありますから、エンジンが付いていても、風で進んでいると思います。」
「そうよね。」
「アキちゃん、プロデューサーとしては、ここでチラシやホームページ用の写真を撮ろうと思うけど、その格好なら大丈夫だよね。」
「うん、分かった。でも化粧を直したいかな。」
「僕もカメラを持ってきたいから、車まで一度戻ろう。」
「わかった。」
4人が車まで戻り、アキは化粧を確認し、パスカルはカメラ機材を取り出した。
「湘南は銀レフを持ってくれ。」
「分かりました。基本的には下からアキさんに光を当てればいいんですね。」
「その通り。」
「デジタル一眼ですか。新しく買ったんですね。」
「うん、プロデュースのために買った。」
「メモリーカードは入っていますか?」
「大丈夫。」
4人は海が見える丘に戻り、アキはモデルを、パスカルはカメラマンを、誠はその補助を、コッコは3人のスケッチを始めた。
「アキちゃんは適当にポーズを取ってみて。」
「はい。」
「湘南はアキちゃんの顔に光を。」
「了解。」
パスカルが写真を撮り始める。
「アキちゃん、いいね。可愛いよ。」
「はい、そして、それを生かすのはパスカルさんの腕しだいです。」
「湘南は相変わらずね。」
「ホームページの出来に係ってきますから。」
「分かってるって。」
「右に載せるのと、左に載せる写真もお願いできますか。」
「どんな感じにすればいいの。」
「自分の右とか左に何か物があるとして、それを紹介する感じだと思います。」
「分かった、やってみる。」
「有難うございます。パスカルさんも、そんな感じでフレーミングをお願いします。」
「分かった。」
「光も工夫した方がいいのかな?僕も動いてみますので、何枚か撮ってみて下さい。」
「デジカメだからいくらでも撮れるぞ。」
「ちょっと、今までの見せてもらっていいですか。ピントが合っているかだけ確認します。」
「おー、いいけどオートフォーカスだぞ。」
「はい、だいたい大丈夫ですが、今の場合、瞳オートフォーカスを使いましょう。」
「なんだそれは。」
「目の瞳にピントが合うモードです。」
「おう、設定の方法を教えてくれ。」
湘南がオートフォーカスのモード設定の方法を説明しながら、パスカルが瞳オートフォーカスモードに設定した。
「それでは、続きを撮るぞ。」
「了解です。」
「じゃあ、アキちゃん、お願いね。」
「分かった。」
15分ぐらい写真を撮影した後で4人は車に引き上げていった。
「おー、車の中は暑いな。」
「もうすぐ、エアコンが効くと思いますが、それまでは窓を開けておいてください。」
「了解。」
「じゃあ、出発します。」
「ねえ、パスカル、写真見せて。」
「オーケー。でも見方分かる?」
「うーん、分かんない。」
「タッチパネルだから、基本はスマフォと同じ。写真は指で変えられる。拡大したい場合は二本の指を開く。位置も指で変えられる。」
「有難う。」
アキが微笑みながら写真を見る。誠がコッコに尋ねる。
「コッコさん、スケッチは描けました。」
「うん、パスカルと湘南が協力して写真を撮影している新しい構図で描けて良かったよ、」
「需要があるのか分かりませんが、それは良かったです。」
「この雰囲気を伝えられれば100部は行くと思う。」
「結局は、コッコさんの腕しだいというわけですか」
「まあな。」
「それでは、次はスーパーに寄ってアキさんの別荘です。」
「うん、了解。」
「5パーセントぐらいは使えそうな写真があるわね。」
「おー、それだけあれば十分だな。」
「はい、10枚もあれば、夏のページを作れます。ところで、アキさん、別荘にビーチパラソルはあるんでしたよね。」
「2本はある。下に敷くものもあるよ。」
「わかりました。ラッキーさんもセローさんも順調に向かっているということですから、別荘に着いたら僕はラッキーさんを迎えに行きます。セローさんは、ほぼ同時に到着すると思いますので、4人で先に海に行っててもかまいません。」
「ううん、戻ってくるのを待っている。」
「分かりました。」
しばらく車を運転した後、誠が3人に伝える。
「もうすぐ、スーパーに到着します。手際よく買い物をしましょう。調味料は持ってきました。僕は、残りのカレーの材料を買ってきます。皆さんは、明日の朝食と飲み物やおやつなどを買っておいて下さい。」
「やっぱり、お酒はだめだよね。」
「今日は止めましょう。明日4人で飲むのは大丈夫と思いますが、アキさんと僕は未成年ですので気を付けてください。絶対、破廉恥なことをしないように。」
「でも、湘南ちゃん、私、破廉恥なことは、お酒を飲まないでもするよ。」
「女性同士ですよね。」
「そうだけど。」
「とすると、僕では判断ができないです。」
「ねえ、もしかすると、男性陣といっしょに居たほうが安全だったりするの。」
「そうかもしれないねー、この4人なら。」
「えーーー。」
「アキさん、もし、耐えきれなくなったら、1階に来てください。」
「分かった、そうする。」
「大丈夫だよ。私の場合、見るかスケッチするぐらいだから。」
「それは分かっているけど。」
GT―Rがスーパーの駐車場に到着する。
「とりあえず、湘南ちゃん、買い物を済ませてしまいましょう。」
「そうしましょう。」
誠は野菜類を買い物かごに入れた後、肉売り場に行った。
「最高級の鶏肉が全部売り切れている。まあ、僕たちには関係ないけど。」
他のメンバーは明日の朝食のための食パン、お茶、ジュース、お菓子などを買い物かごに入れ、会計の前で集合し、会計を済ませて車に戻った。
「それでは、アキさんの別荘に向かいます。」
「最初は掃除かな。」
「独り者だから、掃除は得意」
「へー、パスカルちゃん、それは意外だね。」
明日夏班がミサの別荘に到着した。周りを森に囲まれ、少しだけ離れた隣にお城のような別荘が見えるだけだった。
「別荘に着いたよ。大きな荷物は運んでもらえるから、貴重品だけ持ってリビングに行きましょう。」
「美香先輩、有難うございます。それでは皆さん行きましょう。」
全員が車から降りた。鉄筋コンクリートの3階建ての別荘が見えた。
「すごい大きな別荘ですね。」
「土地が安いから。とりあえず入りましょう。」
「はい。」
1階がリビングになっていて、海側は全面がガラス戸、その外にバーベキューができる庭があり、庭の先の階段を降りると、そこは砂浜だった。尚美たちがリビングに入って声を出した。
「うわー、景色がすごく綺麗。」
「リーダー、すごいっすね。」
「本当に、セレブって感じがする部屋です。」
「尚ちゃん、庭に出てみようか。」
「明日夏先輩、分かりました。」
「明日夏、外は風が吹いて気持ちいいよ。」
「うん、そんな感じ。」
6人が庭に出て、辺りを見回す。
「リーダー、すごい、沖にヨットだ。」
「リーダー、望遠鏡ですか。後で、貸してもらえますか。」
「はい、それは構いませんが、隣の建物の2名、ヨットの1名がここを監視していますね。」
「尚、本当に?」
「はい。何でしょう。見慣れない人がいるからでしょうか。」
「そうかもしれない。向こうのオーナーを守るためかも。」
「明日夏先輩は何をしているんですか。」
「親に到着したって連絡を。」
「そうですね。明日夏先輩も、親御さんにとっては19歳の娘さんですからね。」
「父がうるさくてね。」
「明日夏先輩も、人の子なんですね。少し安心しました。」
「尚ちゃん、酷い。」
亜美がミサに話しかけた。
「もしかすると、ミサさんみたいな綺麗な人がいるから、覗きかもしれませんよ。」
「私じゃなくて、明日夏とか尚とか可愛い子を覗いているのかも。」
「スタイリッシュな由佳先輩とか、えーと、・・・・健康的美人の亜美先輩かもしれませんよ。」
「リーダー、今、頭にぽっちゃりが思い浮かびませんでした?」
「そんなことはありません。あまり慣れていなかっただけです。社長がいたら、いい言葉を言ってくれそうですが。」
「それはそうかもしれません。」
「向こうも大人だから、やっぱり成熟した魅力の橘さんかもよ。」
「由香、大人をからかわない。」
「ここの管理人さんから、向こうの管理人さんに連絡してもらうことが出来ますでしょうか。」
「できるかどうか分からないけど、お願いしてみる。」
「お願いします。あれ、ヨットが引き上げます。建物の方の監視者も居なくなりました。」
「やっぱり、見慣れない人がいるからチェックしたのかもしれない。」
「そうですね。それだけかもしれません。お騒がせしました。」
「ううん。監視されることがあると分かっただけでも役に立つよ。今度、親に伝えておくね。」
「そうですね。」
「じゃあ、着替えて、日焼け止めを塗ってから海に行きましょう。昼食はここに戻れば大丈夫ですね。海はすぐそこですから。」
「うん、それでいいと思う。」
「日焼け止めを、背中に塗るペアは?」
「美香先輩と明日夏先輩、由香先輩と亜美先輩、橘さんと私かな。」
「じゃあ、それでいきましょう。」
「でも、女6人で日焼け止めを塗るって。」
「不健全かもしれませんが、今はそれしかないです。」
「ワクワク感がないわね。」
「それは、皆さんそれぞれが恋人さんを作って、ワクワク感を味わって下さい。」
「でも、リーダー、恋人になるとワクワク感はないんだよな。」
「そうそう、由佳の言う通り。」
「分かりました。その話はまた夜にすることにして、今は着替えて日焼け止めを塗って海に行きましょう。」
「俺は、サンオイルを塗って焼くぜ。リーダー、俺のユニットの役割からすれば、構わないよな?」
「はい、女子をターゲットにしている由香先輩ですからトリプレット的には好ましいぐらいですが、一応確認しておいた方が良くはないですか。」
「誰に?」
「それを私に聞くんですか?」
「おーーー、リーダー、心配かけて悪いな。確認してくる。」
由佳がスマフォで電話をかけた後、戻ってきた。
「少しだけ焼く。ここでサンオイルを塗って、少ししたら日焼け止めを塗ることにする。」
「分かりました。日焼け止めを持って行きましょう。」
「リーダー、了解。」
6人は着替えた後、日焼け止めを塗り始めた。
「明日夏!何で日焼け止めを塗るのにブラジャーの紐の結び目を解くの!?」
「確実に塗るためと、読者サービス。」
「何よそれ。」
「ミサちゃん、あんまり動くと読者に見えちゃうよ。」
「もう。」
日焼け止め、サンオイルを塗った6人は、ビーチに向かった。
誠たちを乗せたGTーRは別荘が立ち並んでいる区域に入っていった。そして、木造2階建ての別荘の前で停車した。建物を見てコッコが尋ねる。
「アキちゃん、このデザインは?」
「うん、ネコ型ロボットが出てきそうでしょう。お父さんの趣味なの。」
「へー。いい趣味しているね。」
「中はどうなっているの?」
「やっぱり、あの家のような感じ。」
「そうなんだ。」
「普通の家の構造なら、実用的ですね。」
「湘南ちゃんらしい感想だな。」
GT―Rを別荘の駐車場に止める。
「とりあえず、荷物を下ろして別荘に運びましょう。その後で僕はラッキーさんを迎えに行ってきます。」
「うん、お願い。月一で掃除はお願いしているけど、こっちは掃除をしておくわ。」
「お願いします。あと、セローさんはあと10分ぐらいで到着するそうです。」
車から荷物を下ろして、別荘に運び入れる。
「じゃあ、行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
湘南は駅に向かった。数キロメートル先の駅に着くと、ラッキーさんが歩いて向かってきた。
「こんにちは。」
「湘南君、わざわざ有難う。タクシーに課金しても良かったんだけど。」
「駅の辺りにも来ておきたかったので構いません。でも、あまり何もないところですね。」
「小さなショッピングセンターとあとは商店ぐらいかな。有名なケーキ屋さんがあるんだけど混んでいたから、別の店でアイスクリームを買ってきた。溶けないうちに、別荘に急ごう。」
「わかりました。」
GT―Rを別荘の駐車場に止めて、別荘に入っていった。
「ラッキー、いらっしゃい。湘南、お帰り。」
「やっぱり、そっちの方がいいですね。」
「何より?」
「お帰りなさいませ、ご主人様、よりです。」
「まあ、あれは決まり文句だから。」
「そうですね。掃除は?」
「だいたい、終わった。」
「お疲れ様です。」
「じゃあ、アイスクリームを買ってきたから、みんなで食べよう。」
「本当に!ラッキーさん、有難う。」
「まずは、別荘のオーナーのアキさんから選んで。」
「じゃあ、ストロベリーで。」
「コッコさん。」
「ラムレーズンで。」
「まずは、ラッキーさんは先に取って、残りの男3人はじゃんけんだ。」
「いや、パスカル君、3人でじゃんけんして。僕は残り物でいい。福があるから。」
「わかりました。じゃあ、セロー、湘南、じゃんけんだ。」
「はーい。」「はい。」
アイスクリームを食べながら、6人で話し始める。
「海に行ったら、とりあえず何をしようか。」
「泳いだりとか、ビーチボールとか、あと海岸でオタ芸の練習をするつもりです。」
「私はいやよ。水着でオタ芸なんて。」
「大丈夫です、オタ芸は男性4人で練習するつもりです。」
「オイオイ、それすごいな。泳ぐどころじゃないぞ。スケッチしなくちゃ。」
「私もビデオ撮ろうかな。」
「コッコちゃんはともかく、なぜ、アキちゃんまで興味を持つ?」
「後で笑えそうだから。」
「プロデューサーを笑いものか。」
「アキちゃんも、Tシャツ着て参加しなよ。絵になるから。」
「いわゆるオタサーの姫というやつ?」
「そう。ビデオは私が撮っておく。」
「うーん、スケッチはいいけど、撮影は禁止で。」
「分かったよ。」
アイスクリームを食べ終わった後、誠が部屋割りを決める。
「部屋ですが、2階は女性専用にして、男性は1階にしましょう。2階は男性立ち入り禁止としたいと思います。」
「そうしてくれると嬉しい。」
「女性は男性の部屋への立ち入りは自由。」
「コッコさん、ノックだけはして下さいね。見たくないものが見えてしまうかもしれませんので。」
「私には見たくないものなんてないけど、アキちゃんが隣にいるときはノックするよ。」
「いないときでも、お願いします。」
「湘南ちゃんは細かいな。分かった、忘れなかったらするよ。」
「お願いします。」
「じゃあ、そろそろ行くか。」
「着替えと日焼け止めを塗るのは、こっちでやっていった方が良くないですか。」
「そうだな。そうしよう。」
「着替えはいいけど、男性陣は背中に日焼け止めを塗るのは、私が来てからにしてくれないか。」
「それは、スケッチのためですか。」
「そうだ。」
「まあ分かりました。とりあえず着替えましょう。」
アキとコッコが2階に上がっていった。男性陣が着替えた後、少し待っていると、3月のライブの物販で販売していた明日夏のイベントのTシャツを着たアキとコッコが降りてきた。
「えー、Tシャツ、湘南とセローとお揃いなの。」
「湘南ちゃんとセローちゃんは予想できただろう。」
「それもそうか。仕方がない。でも、何でパスカルとラッキーはミサちゃんのTシャツなの?」
「カッコいい。」
「カッコいい人がカッコいい服を着ればそうだろうけど。」
「アキちゃん、まだ分かっていない。カッコいい人は、思いっきりダサい服を着ても、カッコいいんだよ。だから、俺達にはこうするしかないんだよ。」
「なるほど。」
「いや、アキちゃん、そこは感心しない。」
「Tシャツの話はそこまでにして、男性陣、日焼け止めを塗っていいぞ。」
「コッコさんとアキさんは、もう塗りましたか?」
「うん、もう塗った。今日は無理だと思うけど、明日ならアキの背中に塗ることができるかもしれないぞ。」
「明日も無理です。」
「その時の男性陣の期待とためらいが混じった表情をスケッチしたいんだ。ついでにアキの表情もスケッチするけど。」
「私はついでですか。」
「売れるのはアキちゃんの方だけどね。」
「コッコの本業はBLだからか。まあ明日は明日として、誰か、浮き輪に空気を入れてくれる。付属のポンプも持ってきたから。」
「はい、この口で合っていますので、差し込んで・・・あとはポンプを踏めば大丈夫です。」
「空気を入れるのは俺がやろう。」
「じゃあ、パスカルさん、お願いします。」
「では、コッコさんのお待ちかね。日焼け止めを背中に塗りましょう。」
「湘南君、3人だけどどうする。」
「一人を二人で塗るのが早いと思います。」
「うん、それは面白い構図だね。男性3Pか。」
「違いますけど、時間がもったいないので、塗りましょう。まずは、ラッキーさん、寝て下さい。」
「分かった。うーーーー。」
「次は、セローさん。」
「分かったよー。・・・・・」
「次は僕ですね。うわっ、変な感じ。」
「パスカルさん、ポンプ、代わりますので日焼け止めをどうぞ。」
「俺はサンオイルね。少し焼こうかと思って。」
「はい、ではラッキーさん、セローさん、お願いします。」
「分かった。」「分かったよー。」
パスカルがうつ伏せに寝て、ラッキーとセローがサンオイルを塗ろうとする。
「ちょっと待って。アキ、塗られるのはいやでも、塗るのはできるだろう。その時のパスカルの表情が見たい。」
「うーーん、確かに、そっちの方ができないことはないけど。」
「いや。やっぱり、ラッキーさん、セロー、頼む。」
「アキ、塗っちゃえ。」
「はい。」
「あっ、あーーー。」
「はい、パスカル、サンオイル塗ったよ。」
「あっ、有難う。」
「いい表情だった。ちょっと、スケッチ完成させるから待ってって。」
「塗られる方は嫌だけど、塗る方なら、明日は4人ともできるわ。」
「なるほど。アキちゃんはそっちの方か。分かった、明日はそうしよう。男性陣は覚悟しておいてね。」
「ふっふっふっ。」
「・・・・・・」
「スケッチが完成した。アキちゃん、どう?」
「ははははははは、いい、すごくいい、パスカルらしい。」
コッコが男性陣にも見せる。
「明日は、他の3人もスケッチするから。」
「・・・・・・」
「何?みんな怖がらない。」
「・・・・・・気を取り直して、もうそろそろ海に出発しましょうか。」
「パスカルちゃん、カメラを持って行ってくれる。」
「コッコちゃん、水着の写真は禁止では?あーそうか、男4人のバージョンのオタ芸のビデオを撮るのか。」
「まあ、とりあえずはね。」
「しかし、明日夏ちゃんのファンは男が圧倒的に多いから男性水着の需要はないよ。チュートリアルなら、公園で撮った方がいいんじゃないか。」
「それもそうですね。コッコさん、何を撮るつもりですか、海の写真ですか?」
「アキちゃんの水着に決まってるだろう。」
「いや、コッコちゃん、それはさすがに強引すぎるんでは。」
「パスカルちゃん、この浮き輪を持ってきたということは、写真を撮って欲しいと言うことだよ。そのぐらい分かれ。」
「これは、溺れないようにするためです。」
「この大きさ、どうみても撮影用だろう。」
「・・・・・・・」
「パスカルちゃん、時間がもったいないから、とりあえずカメラを持って海に行こう。」
「はっ、はい、持っていきます。それならば銀レフも持っていった方がいいでしょうか。」
「うん、持って行って。」
「はい。それでは、男性陣は各自持っていく荷物を確認してください。」
「了解。」
「大丈夫。」
「大丈夫だよー。」
「男性陣、オーケーです。」
「じゃあアキちゃん、出発の号令を。」
「えっ、分かりました。海にレッツゴー!」
「おーーー。」
6人が海に向けて別荘を出発した。
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