第10話 TO失格

 6月初め、星野なおみ、南由佳、柴田亜美の3人からなるアイドルユニット『トリプレット』が夏アニメ『U―18』の主題歌『私のパスをスルーしないで』でデビューすることがヘルツレコードから発表された。ヘルツレコードのアイドルユニット『アイドルライン』がメンバーのトラブルで解散した直後の新人アイドルユニットということもあり、話題になっていた。また、MVのショートバージョンがそのレベルの高いパフォーマンスのおかげで、動画サイトで好評を得ていた。ちょうどそのころアキPGのメンバーが夏からの活動方針を決めるために、ビートエンジェルスに集まっていた。パスカルから現状報告があり、それについて話し合い始めた。

「パスカルさんの話をまとめますと、固定客が10人ぐらいいて、労力は別として、直接経費としては赤字にはなっていない。ただ、コンテスト形式のイベントでは入賞はない、ということですね。」

「そうだな。アキちゃん、ルックスも雰囲気も、可愛さは他の地下アイドルに負けていることはないから。とりあえず、一人でも赤字になることはなさそうとは思う。」

「パスカル、有難う。やっぱり一人だから歌を良くしないとかな。」

「そうかもしれない。今は一人でやっていくしかないから、歌で惹きつける必要があるとは思う。今までカバー曲ばっかりだったけど、アキちゃんに合ったオリジナル曲も必要なんじゃないかな。その組み合わせがいいと、もっとお客さんの記憶に残ると思う。」

「はい、パスカルさんの言う通り、プロ歌手でも歌手と曲の組み合わせに知名度があると思います。この曲にこの歌手。この歌手にこの曲という感じです。」

「じゃあ、アキちゃん、次はオリジナルの方向で考えるか。」

「うん。でも、みんな、これから忙しくなるんでしょう。」

「7月からリリースイベントが続くし。ミサちゃん、明日夏ちゃんや声優さんたち。ラッキーさんは大変よね。」

「アニソンのリリースが多い1月、4月、7月、10月は忙しいけれど、僕がアキPGでやっていることは、広報だから、イベントがあってもできるよ。というか、人と会う機会が増えるのでアキちゃんの広報は7月の方が効率的にできるよ。」

「ラッキー、有難う。湘南は、明日夏ちゃんのセカンドシングルを出すから、TOとして忙しいわよね。」

「申し訳ないですが、アキさんの言う通りです。イベントが終わった7月の終わりごろからは、全力で参加できると思います。」

「パスカルもそうだよね、ミサちゃんが4番目のシングルとアルバムをほぼ同時に出すみたいだから。」

「俺はアキちゃん優先で行く。アキちゃんの用事がないときに、ミサちゃんや明日夏ちゃんなんかのイベントに行く感じかな。」

「有難う。パスカルとコッコのおかげで、イベントにたくさん出演できて嬉しい。」

「でも、新曲は湘南がいないと辛いかな。」

「すみません。」

「ううん、いいよ。7月終わりから新CDを製作しよう。私も、ミサちゃんとか明日夏ちゃんのイベントは勉強のためにも行きたいから。」

「コッコさんは?」

「今までの参加した5回のイベントで、女子中学生から女子高校生まで3人の結構可愛い地下アイドルのモデルを獲得できたし。イベントに参加するなら手伝うよ。」

「コッコ、有難う。」

「中学生ですか。」

「湘南、そういう目で人を見ない。」

「ほら、妹子ちゃんが中学生だから。」

「なるほど、分かった。」

「とりあえず、7月中までは、今の曲でイベントに出演してようか。」

「うん、そうする。」

「じゃあ、7月に2回の出演を目指そう。」

「はい。」

「よーし、私は小学生アイドルのモデルの獲得を目指すぞ。」

「コッコさん、犯罪はしないで下さいね。」

「分かっているって。参考にするだけで、2次元絵だから大丈夫。」

「あとは、ステージ衣装を新しくするかでしょうか。」

「本当は自分で裁縫ができるといいんだろうね。今後のこともあるから、ちょっと自分でやってみる。」

「あと、アキさんがコンテスト形式のイベントで入賞するためにはどうするか考える必要があると思います。」

「やっぱり一人だから、グループに比べると迫力で見劣りしちゃって、お客さんの印象に残らないのかな。」

「例えば、大河内ミサさんが一人で出たら、どうなると思いますか。」

「まあ、ミサちゃんだったら、歌だけかルックスだけでも余裕で優勝しそうだな。」

「湘南のいう通り、私も頑張れば、一人でもなんとかなるかもしれないわよね。」

「はい、アキさんのパフォーマンスが良くなれば可能だと思います。」

「歌の練習ももっと頑張らないとか。」

「はい、その通りだと思います。」

「えーと、まとめると、7月中旬までは、今の歌でイベントへ参加する。7月後半からオリジナル曲の新CDの作成。アキちゃんは練習と衣装自作の検討、ラッキーさんはSNSや面会を通じた広報、コッコはイベント出演の手伝い、湘南は7月下旬までは明日夏ちゃん、俺はアキちゃんのイベントの出演と新CDの準備ということでいいか。」

「はい。」「そうだね。」「頑張ろう。」「はい。」

ラッキーが話を変える。

「そういえば、みんなは、来週ヘルツレコードからデビューする『トリプレット』ってアイドルユニットを知っている?」

「うん。パラダイス興行所属の3人組のアイドルユニットで、私が冬にオーディションで落ちたユニットだと思う。新人でいきなりメジャーだからすごいんでしょうね。」

「そうだね。落ちたのは、仕方がないといえば仕方がないと思う。動画を見る限り、3人それぞれのパフォーマンスレベルが高くて、プロって感じがする。あと、リーダーのなおみちゃんがすごく可愛い。」

「私がオーディションを受けたとき、リーダーを探していると言ってたから、なおみちゃんのポジションなんだよね。」

「そうなんだ。でも、リーダーはまだ中学2年生なんだよね。」

「ダンスは由佳ちゃん、歌は亜美ちゃんがすごいけど、リーダーは総合力という感じがする。ユニットの生歌のパフォーマンスが動画サイトに上がっていたけど、プロのアイドルの中でも『トリプレット』は個人個人の能力が別格な感じがした。」

「ラッキーの言う通りかもね。由香ちゃんのダンスはやっぱりすごいと思うし、亜美ちゃんは親近感のある可愛らしさなのに歌が上手。パラダイス興行って小さな事務所なのにね。リーダーのなおみちゃん、私がオーディションを受けたときの4人の中にはいなかった。また、別にオーディションをやってたのかな。」

「アキちゃんのプロデュースを始めてから、オーディションの告知はチェックしていたけど、パラダイス興行のホームページにはなかったな。スカウトかもしれない。」

「そうなんだ。パスカルも見たの、『トリプレット』の動画?」

「見た。やっぱり、プロはすごいなという感じがした。レベルは高いけど、一応新人アイドルだから、アキちゃんの参考のためにもイベントには参加するつもり。」

「私はここのバイトがあるから今回は無理だけど、来月は休みを取って行こうと思っている。なおみちゃんを見てみたいし、勉強のためにも。」

「僕は初めから全部のイベントに行くつもりだけど、ミサちゃんとぶつかると悩む。」

「半々で行ったら?」

「うん、前後のイベントの場所にもよるけど、そうなるとは思う。」

コッコが言う。

「私は、アキちゃんが行くときに行こうかな。」

「うん、そうしようよ。」

「でも、湘南ちゃんはどうするの?」

「湘南は明日夏ちゃん単推しだから。」

「いえ、ちょっと行くだけ行ってみようと思っています。」

「おー、湘南君もDDに目覚めるか。」

「そういうわけではないんですが、事務所が明日夏さんと同じで、アイドルユニットがどんなものか知りたいからだと思います。」

「『トリプレット』は普通のアイドルユニットとは違うと思うけど。」

「そうですけど、曲作りの参考になればと思って。」

「パスカルも湘南も私のために有難うね。まあ、パスカルは単に『トリプレット』を見に行きたいだけかもしれないけど。」

「うん、それは多少ある。純粋に可愛いし、レベルが高いし。」

「まあ、いいわよ。」

「ラッキーさん、『トリプレット』、人気はでそうですか。」

「動画や動画サイトの再生数を見る限りは、人気は出ると思う。それに、ちょうど人気のあったアイドルラインがメンバーのトラブルで解散したばかりなので、そのファンのグループが『トリプレット』に移動してきそう。40人近くいるタック君のグループも『トリプレット』に来ると言ってたし。他にもグループが来そうだけど、タック君がTOになるんじゃないかな。」

「ラッキーさんの分析、参考になります。」

コッコが尋ねる。

「湘南ちゃんは心配だよね。でも、明日夏ちゃんとイベントが被ったら、湘南ちゃんはどうするつもり?」

「それは、湘南は明日夏ちゃんTOなんだから、明日夏ちゃんだろう。」

「・・・・・」

「ごめん、変な質問して。」

「いえ。」

「とりあえず、来週土曜日の『トリプレット』の初めてのイベントはみんな行くの?」

「うん、僕は行くよ。場所は明日夏ちゃんの最初のイベントの時に、大河内さんがイベントをやってたところだよね。」

「俺も行くよ。大河内さんと一緒でショッピングセンターまでパレードをするみたいだね。あと、特典会がハイタッチ会って書いてあった。」

「僕も行く予定です。ところで、大河内さんは、特典会のようなイベントはしないんですか。」

「前に聞いた話しだと、ミサちゃんの最初からの希望でしないということだよ。その代わりイベントで歌う曲数は多いので、俺はそれで十分満足できる。」

「たぶん、歌手としての立場を貫きたいんじゃないかな。人気もあるし、ミサちゃんの歌は、それを言う資格があると思うよ。近頃は午後のイベントに始発で行っても100人ぐらい並んでいて、前で聴けないのが残念。やっぱり広島在住は不利だね。」

「潔癖症なのかな?私は握手ぐらいは全然平気だけど。減るもんじゃないし。握手で病気になったアイドルもいないし。」

「アイドルをやるならば、それぐらいじゃないと無理なんでしょうか。」

「そうなんじゃない。日本で最も人気があるアイドルユニットでもそうだから。幕張とか、さいたまスーパーアリーナで握手会とかしているし。どちらかと言うと、怖いのは暴力を振るう人かな。プロのアイドルはガードマンがいるけど、私たちにはいないから。」

「アキちゃんは、俺が守る。」

「うん、パスカルでも後ろに居てくれると、やっぱり安心できる。」

「あきちゃん、パスカルでも、は酷んじゃない。」

「パスカルが居てくれると。」

「おう、任せておけ。」

「そういえば、7月下旬のアニソン野外ライブも発表されたよね。ミサちゃん、明日夏ちゃん、『トリプレット』も出るみたいだけど。」

「えっ、知らない。」

「明日夏さん、その2週間後の、8月初旬のライブ参加も発表されましたよね。」

「それにもミサちゃんも出るんだったっけ。あと、ミサちゃんは、8月下旬にアニサマがあるんだよね。」

「大河内さん、忙しそうですね。」

「ミサちゃん、今が大事な時だから、頑張っていそうだね。」

「7月と8月のライブ、僕はミサちゃんと明日夏ちゃんのFCで、先行のFC限定チケットを2枚ずつ申し込んでいるから、当たったらチケットを進呈するよ。コッコちゃんにも。」

「私も、いいの?」

「女性のオタクを増やすための努力は必要。」

「俺はミサちゃんのファンクラブで申し込んでいる。当たったら、アキちゃんでもコッコちゃんでもあげるよ。」

「パスカル、有難う。」

「僕は明日夏さんのファンクラブから2枚、申し込んでいます。」

「湘南君の2枚目は、妹子ちゃんの分?」

「そういうわけではないので、当たったら、アキさんとコッコさんは無料で、後は定価で販売します。」

「それはそうだな。当たらなかった時、男性同士は定価でいいよね。」

「はい。」「了解です。」

「でも、妹子ちゃんが来なくなったのは残念だな。」

「えーと、はい。」

コッコが言う。

「それを湘南に言うと可哀想かもしれない。」

「まあ、そうだね。でも、もしまた来たくなったようなら、連れてきて。一番いい席順のチケットを用意するから。」

「ラッキー、そういえばライブではいつも前の方にいるみたいだけど、いいチケットを手に入れるためにはどうするの?」

「席順がランダムの場合は、たくさん買うしかない。一番いい席以外のチケットは売れるなら安くでも売るけど、売れなくて全くの無駄になることもある。」

「すごい。」

「ミサちゃんのワンマンは10枚は買うつもりだから、後ろの席で良ければ進呈するよ。」

「お願いします。」「私も。」

「ラッキーさん、ミサちゃんのワンマン決まったんでしたっけ?決まったのなら、ファンクラブからメールが来るはずだけど。」

「いや、来ていないはず。単に僕の予想。持ち歌がシングル4枚とアルバムのオリジナルで、15曲は超えるだろうから、ワンマンも可能だと思う。たぶんデビュー1周年の10月か11月ごろにあるんじゃないかな。8月には発表があると思うよ。」

「なるほど。ラッキーさんは俺とは経験が違いますからね。8月になったらFCからのメールに注意しておきます。」

「湘南君もどう?ワンマンなら行く価値はあるかもよ。」

「はい、大河内さんはサブスクリプションで聴いていますが、歌がすごく上手な歌手だと思いますので、勉強のために行ってみたいと思います。もし、チケットが余ったら定価で売って下さい。」

「湘南君ならただでもいいけど。分かった。チケットが余ったら定価で売るよ。」

「有難うございます。」

「ただ、事務所が判断を間違えてワンマンライブの箱を小さくしすぎると、ミサちゃんのファンクラブ会員にとってもプラチナチケットになる気もして、もしかすると購入枚数に制限がつくかもしれない。」

「そういうのは間違えるものなんですか。」

「大きな箱は、半年以上前から予約しないといけないから、人気が変化すると予測が難しいんじゃないかと思う。」

「なるほど。はい大丈夫です。そのときは諦めて、次回に行こうと思います。」

「そうだね。ダメなときは諦めて次に気持ちを切り替えるということも大切かな。」

「そう思います。」

「それじゃあ、次は『トリプレット』のイベントの後に近くの喫茶店で男3人で集まるか。」

「OK。」「はい。」


 6月中旬、『トリプレット』のCDデビューが間近に迫ってきた。それ以外にも、パラダイス興行では、悟が明日夏の2枚目のシングルに向けて忙しそうに準備をしていた。

「悟、このところ忙しそうね。」

「7月から明日夏の新曲のリリースイベントが始まるから。その会場を確保するのに忙しい最中だよ。」

「『トリプレット』の方は?」

「『トリプレット』は、ヘルツがやるから会場の調整や事務手続きがないので、仕事がかなり減るけど、給料などはこちらから支払うので、その関係でやることはあるかな。3人いるので、結構手間がかかる。大輝か治をバイトで2か月ぐらい雇おうかと思っているところ。」

「そうね。あいつら頼りないけど信用はできるものね。」

「『トリプレット』の方が、CDのリリースもイベントの開始が1週間早いから、最初の2回ぐらいは『トリプレット』のリリースイベントを見に行けるかな。」

「楽しみね。」

「動画サイトでのMVの視聴数もかなり伸びていて、MVとは別にステージ上で生で歌ったビデオをほぼフルで動画サイトに載せるみたい。」

「フルを載せて、CDの売り上げは大丈夫なの?」

「カップリング曲もあるし、その方が販売が増えるという判断か、今回はCDの売り上げよりユニットの知名度を上げることを優先しているのか。いずれにしろ、その辺りに関してはヘルツレコードの営業の判断だから、任せるしかないけど。」

「まあ、そうね。」


 いよいよ、6月の最後の土曜日、『トリプレット』の最初のリリースイベントの日となった。朝8時、誠と尚美は家を出た。

「お兄ちゃん、朝からつき合わせちゃって悪いね。」

「別に、始発で会場に行く予定だったんだけど、尚が送って欲しいならそうするよ。駅からは大丈夫?」

「タクシーチケットをもらっているから、駅からタクシーでヘルツレコードの本社に行く。そこからは、マイクロバス2台で行くみたい。」

「すごいね。」

「うん、撮影隊もいっしょに来るようだから。」

「そうなんだ。じゃあタクシーに乗るところまで見届けるよ。大丈夫だと思うけど、タクシーのナンバーを控えておく。だからヘルツレコードに着いたら連絡して。」

「分かった。」

「パレードを観たため、会場に入れなくなると困るから、パレードは観ないで初めから会場にいるね。会場では一番後ろで会場の様子を見てるから、安心して。」

「うん、でも会場には警備員もいるから、尚のことも見てね。練習、頑張ってきたから。」

「もちろん、ちゃんと見るよ。動画サイトを見たラッキーさんもパスカルさんも、尚とはわからなかったみたいだけど、すごいレベルの高いユニットって言っていた。尚は総合力が凄いって。今日は3人で見に行く予定。」

「アキは?」

「今日はバイトで来ないけど、来月には勉強のためにも来ると言っていた。」

「そう。アキはまだ活動しているの?」

「7月中旬までは、パスカルさんとコッコさんが手伝って地下アイドルのイベントに出るだけの予定。7月下旬から新曲の製作に入ると思う。僕がすることは、MIDIデータでアレンジの調整と歌の収録の手伝い、ポスター、チラシ、ホームページの作成になる予定。」

「結構、一杯仕事をするんだ。」

「収録以外は家で暇なときにできるし、考えながら作っていくのは結構面白いし。もちろん、尚たちの日本最高レベルのチームが作った作品とは比べられないけど。」

「ねえ、お兄ちゃん、尚たちの曲をアレンジしたものも作ってくれない。」

「うーん、コード進行から作れるとは思うけど、所詮MIDIだし、ヘルツレコードが依頼している人たちが作るのに比べて、レベルはかなり低くなるよ。」

「それでもいいよ。お願い。」

「分かった。やってみるよ。でも作るのに2週間ぐらいかかるかな。今日と明日のパフォーマンスを見て作ってみる。」

「ありがとう。作ってくれるなら、お兄ちゃんが満足いくのができるまで待っている。」

「うん、頑張るよ。」

 誠は、渋谷駅のタクシー乗り場で尚美を見送った。念のため、後ろからタクシーの写真を撮影しナンバーを控えた。それからイベント会場に向かった。会場に到着した誠は、並べてあった椅子の一番後ろに座り、ノートパソコンを操作していた。すぐにパスカルが来た。

「おう、湘南、お早う。」

「パスカルさん、お早うございます。」

「後ろの方に座るのか。前の方もまだ空いているぞ?」

「はい、僕はここでいいです。もう少し時間が来たら、後ろに立って、『トリプレット』のファンの方に席を譲ります。」

「遠慮するのは、明日夏ちゃんTOだからか。」

「まあ、それもあります。」

「そうか、俺は前で座ってライブを見るから、終わったら、また。」

「はい、また。」


 ヘルツ本社で最後の練習をした後、メークアップしてから、マイクロバスで出発した尚たちは、パレードの出発地点でもあるショッピングセンターに到着すると、控室で着替えを済まし、ステージでリハーサルを行った。そして、オープンカーの出発時間を待った。

「今日のリーダーと亜美は衣装とメークで、女の俺からみてもすごく可愛いぜ。」

「リーダーなんて、本物の妖精みたい。」

「由香さん、明日は3人そろってこの衣装にしますか。」

「いいのか?」

「はい、もとから衣装は3着ありますし。たしかに『私のパスをスルーしないで』では、由香さんは男の子のイメージですが、『ずうっと好き』は全員が女の子イメージです。それに、イベントに複数回来てもらうためには、変化があった方がいいですから。」

「じゃあ、明日はその衣装にしたい。」

「明日、豊さんが来るんですか?」

「まあ、そうだけどさ。」

「じゃあ、そうしましょう。」

「由香、ステージから、豊って叫んじゃだめだよ。」

「分かってるよ。そこまで馬鹿じゃない。」

「もうすぐ出発ですね。」

「オープンカーパレードの注意点としては、車から落ちないことは絶対として。」

「亜美、気を付けろよ。」

「由佳の方が運動神経はいいけれど、危ないことして、落ちる可能性は高いと思うよ。」

「ははは、そうかもな。」

「怪我をすると、今日のミニライブができなくなりますので、安全第一でお願いします。」

「了解。」「分かりました。」

「挨拶など、声を揃えて言うところでは、なるべく揃えるようにすることと、あとは笑顔を絶やさないことです。」

「おお。」「はい。」

「新人なので、多少の失敗は大丈夫だと思います。うちは、暗さを売るグループではないので、笑顔だけは絶やさないようにしましょう。」

「おう。」「はい。」

「では、円陣を組みましょう。」

「おう。」「はい。」

「『トリプレット』、オープンカーパレード、明るく!」

「明るく!」

「可愛く!」

「可愛く!」

「さわやかに!」

「さわやかに!」

「行くぞー!」

「おう!」

「有難うございます。ライブ前にはもう一度円陣を組みましょう。」

「了解。」「はい。」


 オープンカーから曲が流れ、パレードが始まった。オープンカーの上では、『トリプレット』の3人が手を振り、お辞儀をしながら、繰り返し、自分たちをアピールしていた。まず、3人が声を揃えて挨拶する。

「みなさん、こんにちは。」

「テレビアニメ『U―18』の主題歌『私のパスをスルーしないで』でデビューしました『トリプレット』の星野なおみです。」

「南由佳です。」

「柴田亜美です。」

「どうぞ、よろしくお願いします。」

「この後、この先のショッピングセンターの中庭でリリースイベントを開催します。リリースイベントでは、ミニライブと、その後にCD購入の特典会としてハイタッチ会を行います。テレビアニメ『U―18』が好きな方も、そうでない方も、是非、いらしてください。」

「皆様のお越しを、お待ちしています。」

「亜美のお願い。絶対、来てね。」

「今まで、歌とダンスを一生懸命練習してきました。ライブのパフォーマンスにはかなり自信があります。イベントのミニライブでは、そのパフォーマンスで私たちの真心のパスを送ります。」

「私たちのパスをスルーしないで。」

「そして、私たちの真心を受け取って下さい。」

「よろしくお願いします!」

尚美たちはパレードの後、ショッピングセンターの会場の控室に入っていった。


 ライブの時間が近くなったため、誠は席を立って会場の後ろの方で立っていた。少しして、ラッキーがやってきた。

「ラッキーさん、こんにちは。」

「湘南君、こんにちは。かなり混んでいるね。」

「はい、とりあえずミニライブは一杯になりそうですね。良かったです。」

「まあ、明日夏ちゃんと同じ事務所だもんね。僕もこのあたりで見ていますか。」

「はい。ハイタッチ会のCD購入は先着順のようですので、今のうちに行ってきた方が良いと思います。」

「了解。」

ラッキーがCDを購入に向かった。誠が会場を見回していると、入口から入ってきた女性2人組が目に入った。「明日夏さん?もう一人は大河内さんか。お忍びで尚たちを見に来てくれたのかな。嬉しいけど変装がバレバレで困ったな。」と思って、戻ってきたラッキーに助けを求める。

「ラッキーさん。」

「何?」

「あそこ、大河内さんと明日夏さん。お忍びみたいですけど。」

「うん、間違いないね。さすが明日夏ちゃんTOだね。」

「とりあえず、何かあった場合に備えて、後方3メートルぐらいに居ようと思いますが、ラッキーさんも手伝ってくれますか。」

「そうだね。それがいい。」

二人で後方左と右3メートルぐらいの位置について監視する。明日夏とミサは寄り添って小さくなっていた。少しして、ミサたちの隣にいた観客が声を上げる。

「大河内ミサちゃんだ。」

その声を聞いて一部の観客が集まり始める。ラッキーが吐き捨てたように言う。

「馬鹿か、お前。」

観客が騒ぎ出す。

「サイン下さい。」「マネージャーさんいいですよね。」「写真撮らせて下さい。」

誠はガードマンを呼ぼうと思ったが付近にいなかったため、誠が圧空式のアラームを鳴らして注目を集めた後、大声をあげる。

「はい!関係者さんのために、道を開けてあげて。関係者の入口は前右側にあります。混乱を招きますので、早くそちらへ行ってください。ファンの方は早く道を開けてください。」

ラッキーも声をあげる。

「道を開けてあげて下さい。お願いします。」

それを聞いて急いで来たタックが叫ぶ。

「おい、ここは『トリプレット』のイベントだ。他の演者に騒ぐな。通してやれ。」

タックのグループの数人が同じように言うと、道ができて、明日夏とミサはそこを通って、関係者用の入口の方に向かった。

 明日夏とミサが関係者用の入口に着くと、尚美が入口まで出てきていた。

入口で事情をガードマンに話そうとしているミサに呼びかける。

「美香先輩!」

「尚。ごめんなさい。こっそり見ようと思ったら見つかっちゃって、少し騒ぎになっちゃった。」

「わざわざ、有難うございます。」

尚美がガードマンに話しかける。

「この方は、大河内ミサと言いまして・・・」

「知っていますので大丈夫です。どうぞお通り下さい。」

「有難うございます。」

「どうぞこちらに。」

「有難う。」

中に入ろうとする明日夏に、ガードマンが話しかける。

「大河内さんのマネージャーさん?」

「はい、そうです!」

尚美がガードマンに説明する。

「先輩はもう。この方は神田明日夏というヘルツレコードの歌手です。」

「そうですか、どうぞどうぞ。」

「有難うございます。」

尚美が明日夏に尋ねる。

「何で先輩はマネージャーさんで、はいと言うんですか。」

「その方が早く通れるかなと思ったのと、外で、みんなが私のことをミサちゃんのマネージャさんって呼んでいたから、そう見えるんだろうと思って。」

「それは、知名度の差で仕方がないですね。」

「うん。だからマネージャーとして通ろうとしたんだよ。」

「でも先輩は歌手はできても、マネージャーは無理です。」

「尚ちゃん、鋭い。」

「とりあえず、中に入って休んでいてください。」

ミサが尚美に尋ねる。

「でも尚、なんで入口まで出てきていたの?」

「アラームの音がたぶんの兄のものだったので、何かあったのかなと思ってです。」

「へー、アラームの音で分るんだ。」

「ドイツ製の圧縮空気式のもので、普通の人は持っていませんから。」

「ということは、あのアラームを鳴らした人は、尚のお兄さんだったんだ。」

「うん、私たちが会場に入ったらすぐに気が付いて、後ろ3メートルぐらいのところで友達といっしょに警戒してくれていた。」

「明日夏、分かってたんだ。」

「まあ、何度か会ってるし。」

「確かに兄がしそうなことですね。明日夏さんが気が付いていたこと、兄が聞いたら喜ぶと思いますが、秘密にしておきます。」

「尚ちゃんのお兄さんだし、信用はしているので、もう何でも話して大丈夫だよ。顔が恋人にしたいタイプじゃないけど、変なことをしたり言ったりする人じゃないことは分かっているから。」

「相変わらず、酷い言い様ですが、兄に明日夏さんのことはあまり話すなと言われているんですよ。」

「そうなの。でも、お兄ちゃんに秘密を作るのは尚ちゃんが大変じゃない?まあ、兄弟の話なので、尚ちゃんに任せるしかないけど。」

「分かりました。兄と相談してみます。それより、由佳先輩と亜美先輩に会ってあげて下さい。喜ぶと思います。」

「分かった。じゃあ、ミサちゃん行こう。」

「うん。」


 客席ではラッキーとタックが話していた。

「ラッキーさん、混乱を早く見つけて頂いて有難うございます。おかげで騒ぎが大きくならないで済みました。」

「混乱が起きる前から、明日夏ちゃんTOの湘南君が、明日夏ちゃんとミサちゃんを見つけていて、後ろで警戒していたんだ。二人はお忍びで見に来たみたいだね。」

「そうですか。『トリプレット』のメンバーは、大河内さんや明日夏さんと仲がいいんですかね。」

「『トリプレット』と明日夏ちゃんは同じ事務所で、大河内さんと明日夏さんは、ヘルツレコードのライブで、ほっぺたをつねり合うぐらい仲が良さそうだったから。」

「ラッキーさんのいう通りでしたね。ファンとしては嬉しい限りです。」

「湘南さん、今回は有難うございました。騒ぎが大きくならずに済んで良かったです。あと、『トリプレット』もよろしくお願いします。」

「はい。パラダイス興行でメジャーの歌手は明日夏さんと『トリプレット』だけですので、参加できるときは参加しようと思います。あとは、バンドのデスデーモンズがインディーズからCDを出していて、明日夏さんのバックバントをすることがあります。その時のバンド名は、すっカーズです。『トリプレット』でもバックバンドをするかもしれません。」

「そうですか。」

「ところで、コールブックのようなものは作成する予定ですか。」

「今日、明日のパフォーマンスを見て作成します。」

「わかりました。かなりの数が必要そうで、うちみたいに配布というわけにもいかないでしょうから、ホームページに掲載されたら見てみようと思います。」

「お願いします。」


 ミサと明日夏が、楽屋に到着した。

「ミサさん、こんにちはです。明日夏さんも。」

「ミサさん、明日夏さん、今日は見に来て頂いて、有難うございます。」

「うん、いよいよ『トリプレット』がデビューして初めてのイベントよだね。頑張ってね。」

「はい。」「はい。」

「由香、亜美、本当は明日夏と客席から見ようと思ったんだけど、お客さんに見つかっちゃって。舞台袖から見るね。」

「有難うございます。」

「見つかったのは、ミサちゃんで、私はミサちゃんのマネージャーと思われたみたいだけど。」

「私の方がデビューが早いだけだよ。明日夏も、すぐに見つかるようになるって。」

「やっぱり、あまりなりたくないかな。」

「そうだよね。何か工夫しないといけないかな。」

「リーダーは眼鏡をかけて、地味な格好すると、塾へ向かう頭の良い中学生みたいな感じになって、普通の人では、星野なおみと分からなくなると思います。」

「そうそう。私が最初見たのはそっち側の尚ちゃんで、次に会った時には変身したのかと思っちゃった。」

「私は最初がアイドルの尚だった。でも、尚に聞くと変装のコツがわかるかも。」

「じゃあ、とりあえず眼鏡をかけてみようか。」

「わかった。今度、やってみよう。」

「ミサちゃんが眼鏡をかけると、尚ちゃんみたいに頭が良い美人に見えるかもしれない。」

「明日夏、それは本当の私は頭が良くないと言っているんだよね。まあ、その通りだけど。」

「違う、違う。尚ちゃんが別格なだけで。」

「あとはどんぐりの背比べみたいなものということね。まあ、そんな感じもする。」

亜美が由佳に向かって言う。

「うん、由佳ちゃんも別格かもしれないけどね。」

「亜美な。本当のことでも言っていいことと悪いことがあるんだぞ。」


 尚美が戻ってきた。

「あっ、尚ちゃんだ。」

「美香先輩、明日夏先輩。先輩方も来週からリリースイベントですよね。」

「うん、その通り。だから、尚たちのイベントに来れるのは今日だけで、明日夏と相談して来てみたんだ。」

「もしかすると、事務所の先輩がいた方が後輩は安心かなと思って。」

「有難うございます。それでは、由香先輩、亜美先輩、ステージであがらなくなるために、明日夏先輩の顔をじっくり拝見しておきましょう。」

「そんなに、見られると恥ずかしいな。何、ミサちゃんまで。」

「来週のために見ておこうかと思って。」

「まあ、いいけど。」

「美香先輩は、シングルとアルバムが同時ですから大変ですよね。」

「そうだけど、頑張らないと。」

「そういえば、ゴールデンウィークのあと、みんな忙しくてどこにも遊びに行けませんでしたが、このイベントの後に時間があるようでしたらどこに行くか相談しませんか。20分ぐらいは時間があると思います。」

「今日はオフだから私は大丈夫。」「私も。」

「じゃあ、社長のケーキでも食べながら、考えましょう。」

「わかった。」「そうしよう。」

「どうも有難うございます。では申し訳ありませんが、これからライブの準備をしないといけないので。」

「舞台袖で聴いているから。頑張ってきて。」「尚ちゃんガンバ!」

「はい、有難うございます。由香さん、亜美さん、発声練習とダンスの最終確認をしましょう。」

「おう。」「はい。」

準備を終え、ライブの開始直前になった。

「今日は、『トリプレット』の初ライブです。多少のミスは許されると思いますから、元気よく行きましょう。」

「いよいよだな。プロのダンサーへの第一歩。」

「うん。プロの歌手への第一歩。リーダーは総理大臣への第一歩!」

「はい、そうです。では円陣を組みます。」

「おう!」「はい。」

「『トリプレット』、初ライブ、元気よく行くぞ。」

「おー。」

「笑顔を絶やさないぞ。」

「おー。」

「明日夏先輩の顔を思い出して、上がらないぞ。」

「おおっ。」

「有難うございました。」

見に来ていた悟と久美が声をかける。

「みんないい笑顔だね。」

「社長、それは明日夏さんのおかげです。」

「ははははは、そうだね。」

「頑張ってきてね。」

「はい。橘さんに鍛えられた歌はこのユニットの最大の武器です。」

「うん、そうだね。」

「俺も、それなりに歌えるようになったしな。」

「私も嬉しい。合図が出たから、行ってらっしゃい。」

「はい。」「おう!」「はい。」


 『ペナルティーキック』のイントロが流れ、『トリプレット』の3人がステージ登場し、間隔を開けてステージに並ぶ。会場から声援が飛ぶ。

『なおみちゃん!」「由香ちゃん!」「亜美ちゃん!」

3人はダンスと共に歌い始め、無事に歌い終えた。

「みなさん、初めまして!星野なおみです。」

「南由佳です。」

「柴田亜美です。」

「三人合わせて、『トリプレット』です。どうぞ、よろしくお願いします。」

「この度、テレビアニメ『U―18』の主題歌『私のパスをスルーしないで』でデビューしました。いま歌いました曲は、『私のパスをスルーしないで』のカップリング曲『ペナルティーキック』です。付き合っている男性が他の女性に色目を使った罰として、キックを浴びせるという過激な曲ですが、いかがでしたでしょうか。」

会場から「良かった。」などの声が飛ぶ。

「メンバーの中で、一番こういう過激なことをしそうなのは由佳先輩でしょうか。」

「リーダーだよ。」

「私も、リーダーだと思います。」

「過激というか、もっとずっと怖いことをするぜ、うちのリーダー。」

「リーダーと付き合うことがあったら、浮気は生命の危険を感じながらして下さいね。」

「そんなですか、私。」

「はい。」

「由佳ちゃんが18歳、私が16歳なのに、13歳でリーダーをできるって普通じゃないから。」

「それ、別に不満があって言っているわけじゃないんだぜ。だって、レコード会社の本部長さん、いま舞台袖にいらっしゃるんですが、オーディションで本部長さんとあんなに堂々と話せるのはリーダーだけだぜ。」

「本当に、大物って感じ。」

「あっ、有難うございます。はい、私、星野なおみが、態度の大きさだけで『トリプレット』のリーダーをやっています。物語でない現実では暴力はいけないですので、実際にキックしたりすることはないとは思います。まあ、もし相手ができて浮気したら、社会的に抹殺することはあるかもしれませんが。」

「うん、リーダーそっちだな。」

「次の曲は『ペナルティー社会的抹殺』で決定しました。」

「あはははは。話を戻します。『トリプレット』は、トリプルセンター方式のユニットです。サッカーで言えば、スリートップで、3人の誰もが得意なシュートを打つことができます。私はチアセンター、明るいパフォーマンスで皆さんを元気にできれば嬉しいです。」

「俺、南由佳は、ダンスセンターだ。ぜひ、俺のダンスを見て、真似してくれると嬉しい。」

「由佳先輩だけが男の子のような格好をしていますが、歌の中で男の子役をするために、今日は一人だけ違う衣装で出ています。明日は、3人とも同じ衣装で登場する予定ですので、可愛い由佳先輩を見たい方は、是非、明日も『トリプレット』のイベントにいらして下さい。」

「私、柴田亜美は、ボーカルセンターです。一人で歌うときには、バラードのような曲が得意です。ユニットとして歌うときは、楽器のベースのようにユニットの歌を下から支えることができればと思います。」

「このような3人からなる『トリプレット』、是非、ご贔屓にして頂ければと思います。」

3人が頭を下げると、拍手が起きる。

「さて、次はタイトル曲の『私のパスをスルーしないで』を歌います。この曲を、先日、動画サイトにアップしましたが、皆さん見て頂けましたでしょうか。見たという人は手を上げて下さい!」

3人が手を挙げると、観客の大多数が手を挙げる。

「大勢の方に見て頂いているようで、本当にありがとうございます。この曲のライブでの見どころは、見事にパスをスルーする由香先輩のダンスパフォーマンスと、亜美先輩と私のハーモニーだと思います。ラブコメ要素豊富なアニメ『U―18』の雰囲気を伝えたいと思います。それでは、お聴きください。『トリプレット』で『私のパスをスルーしないで』。」

 曲が流れ、『私のパスをスルーしないで』を順調に歌い終わる。

「有難うございました。『私のパスをスルーしないで』でした。由香先輩は、亜美先輩と私のパスを見事にスルーしていましたが、いかがだったでしょうか。」

会場から「良かった。」との声がかかる。

「それでは、次が最後の曲になります。」

会場から「えーーー」という声が聞こえる。

「有難うございます。私たちはデビューしたばかりで、まだ持ち歌が3曲しかないのですが、今回はその3曲目でなく『恋のフォーチュンクッキー』を歌いたいと思います。とっても楽しい曲で、ダンスも踊りやすい曲ですので、踊れる方は一緒に踊ってください。それでは、由香先輩、亜美先輩、大丈夫ですね。」

配置について二人がうなずく。

「それでは、『トリプレット』で『恋のフォーチュンクッキー』。」

曲が流れ、『恋のフォーチュンクッキー』を無事に歌い終わる。

「有難うございました。『トリプレット』で『恋のフォーチュンクッキー』でした。デビューして、たくさんの方の前で歌うのは初めてだったのですが、なんとかミニライブのパートを終えることができたと思います。この後、特典会としてハイタッチ会を開催します。私たちを、近くから見てみたい、私たちを元気づけたいと思って下さる方は、是非、ご参加頂ければと思います。詳細は、会場のアナウンスを聞いてください。今日は、こんなにたくさんのお客さんが『トリプレット』のイベントのために集まってくれて、大変有難うございました。」

「有難うございました。」「有難うございました。」

「7月はリリースイベントが続きます。7月23日には野外ライブにも出演する予定です。『トリプレット』が気に入ったという方は、是非、そちらにも足をお運びください。また、SNSでは、『トリプレット』の今後予定の他、メンバーの素顔のような写真や文章を掲載していますので、フォローして下されば嬉しいです。それでは、『トリプレット』リーダー兼チアセンターの星野なおみ」

「ダンスセンターの南由佳」

「ボーカルセンターの柴田亜美」

「3人合わせて『トリプレット』。今後もよろしくお願いいたします。」

「またねー。」「まただよー。」

3人は手を振りながら舞台袖に下がって行った。

 舞台袖では、森永が出迎えた。

「星野君、南君、柴田君、お疲れ様。いや、最初のイベントにしては本当に良かったね。会場もすごく盛り上がっていたし。」

「有難うございます。オーディションに合格して以来、今日に向けて頑張ってきたので、その成果が出せたと思います。」

「そうだね。あの時は、星野君は練習を初めて2か月だったけど、今は歌もダンスもすごく良くなっていたよ。」

「有難うございます。実質のセンターが、由佳先輩2曲、亜美先輩が1曲ですが、次のタイトル曲は私がセンターですので、楽しみです。」

「そうだね。次は10月リリースが決まっていたね。8月にレコーディングか。」

「はい、今は歌唱を中心に取り組んでいますが、夏休みになりましたら、ダンスの方も仕上げていきたいと思っています。」

「そうだね。期待しているよ。私は、これから別の会場に行かなくてはいけないので、ここで失礼するよ。南君、柴田君も頑張ってね。」

「はい。」「はい、頑張ります。」

「それでは、失礼。」

「今日は、お越しいただき、大変有難うございました。」

悟と久美も祝福する。

「いやー、本当にすごいな。」

「デビュー、おめでとう。私も嬉しいわ。」

「有難うございます。」

「うん、3人を選んだ僕の目は節穴じゃないということだね。もちろん、久美の指導も良かったんだけどね。」

「でも、一番は3人の実力と頑張りよ。それを見てか明日夏も頑張るようになったし。」

「そうなのか。パラダイス興行はますます安泰だな。」

「お役に立てれば嬉しいです。あの、橘さん、以前、由佳先輩から聞いたのですが、高校生の時に、二股をかけていた相手を蹴って川に落としたという話し、ペナルティーキックのトークの時に使ってよろしいでしょうか。」

「えーーー、まあ、名前を出さなければ。」

「わかりました。歌の先生と言って話そうかと思います。」

「分かったわ。あんなことも尚たちの役に立てるなら、無駄ではなかったということね。」

「はい。」

明日夏とミサは由佳と亜美と話していたが、まず明日夏が尚美に話しかける。

「尚ちゃん、うん、『トリプレット』のライブ、見ていてすごく楽しかった。」

「明日夏先輩、有難うございます。」

「尚、由佳、亜美、初ライブ、成功おめでとう。みんな歌もダンスもすごく良かった。ワクワクしながら見ていた。」

「美香先輩、有難うございます。」

「本当に、私も仲間に入りたいって感じだった。」

「美香先輩は、本業は歌手の方が良いと思いますが、どこかのライブで4人編成にしてやってみるのは面白いと思います。」

「本当に。じゃあ、10月に初のワンマンライブをする予定なので、そのときゲストとして呼んでいい?」

「もちろんです。まだ10月の日程は決まっていませんので、先に決めてもらえば最優先で参加します。」

「10月23日の予定。」

「10月23日!?分かりました。必ず参加します。」

「明日夏もいい?」

「私じゃミサちゃんとつり合いが取れないから、会場から見ているよ。」

「バリエーションのために可愛い歌を歌おうと思うんだけど、一人だと心もとないので、明日夏がいっしょだと心強い。」

「ミサちゃんがいいならば、いいけど。社長、大丈夫ですか?」

「10月の週末は大丈夫。リハーサルだけ日程を合わせれば。」

「有難うございます。ということで、OKだよ。」

「有難う。明日夏と『トリプレット』がゲストだと心強い。」

「美香先輩、それでどこで開催する予定なんですか?」

「それが、武道館なの。」

「ファーストワンマンで。」

「無茶だと思うんだけど、社長が決めたの。宣伝のために8月中旬からテレビの音楽番組にも出演する予定。社長がテレビ局にねじ込んでいるみたい。」

「さすが、溝口エイジェンシーですね。」

「ミサちゃん、テレビスターになるんだ。すごい楽しみ。」

「私は、ロックシンガーになれればいいだけなんだけど、事務所的にはそうもいかないみたい。」

「美香先輩の歌には掛け値なしで魅力的がありますから、最初にファンをつかんでしまえば、一時的な人気がなくなっても、ライブで全国を回ってずうっとプロのロックシンガーを続けられます。ですので、やってみる価値はあるとは思います。」

「ねえ、尚、それ社長と同じことを言っている。」

「そうですか。でも本当のことだとは思います。」

「ふー、わかったわ。今は少しでもファンを増やすように頑張るよ。」

「はい、それがいいと思います。」

 ハイタッチ会の準備が整ったの連絡があった。参加券900枚は全てなくなったとの連絡を受け取った。尚美たちはステージに向かった。

「行ってきます。」「行ってくるぜ。」「行ってきます。」

 ステージの上には机が3脚置いてあり、それぞれの後ろに尚美たち演者が並ぶ。客は机の反対側を通るが。各演者の横と、正面の客より後ろの位置にスタッフが立つ。ハイタッチ会は、メンバー全員のものと個別のものがあるが、今回はメンバー全員のハイタッチ会で、机の前を順番に通って、尚美、由佳、亜美の順番に流れ作業のようにして全員の演者とハイタッチをする。時間は一人2~3秒ぐらいで、一言話すぐらいが精一杯である。ハイタッチ会の参加者は、順番に並んでいた。誠は参加券を持ってはいたが、列に並ばず参加者に怪しい人がいないか観察していた。

「こんにちは、『トリプレット』の星野なおみです。」

「南由佳だぜ。」

「柴田亜美です。」

「これからハイタッチ会を始めますが、こんなにたくさんのお方が参加してくれて、大変ありがとうございます。」

「有難うございます。」

「ぜひ、可愛い衣装、ボーイッシュな衣装などにも注目して下さい。」

 場内アナウンスでハイタッチ会が開催される。

「良かったよ。」「有難うございます。」

「ダンスすごいね。」「おう、サンキューな。」

「歌が上手だね。」「有難うございます。」

「なおみちゃん、可愛い。」「有難うございます。」

「由佳ちゃん、男子みたい。」「うるせーな。でも、サンキュー。」

「亜美ちゃん、可愛い。」「有難うございます。」

のような感じで続いていく。一人一枚の制限があったため、繰り返して来る客はいなかった。こうして、40~50分でハイタッチ会が終了した。尚美は、パスカルとラッキーに気づいてはいたが、特に同じように対応した。

「ハイタッチ会へのご参加、大変有難うございました。7月もイベントは続きます。是非、SNSやホームページを見るなどして、またご参加頂ければと思います。またお会いできることを楽しみにしています。それでは、今日は本当に」

「ありがとうございました。」

3人は頭を下げてから、舞台袖に下がった。それを確認して、誠は会場を後にした。


 控室に行くと、みんなが拍手で祝福した。

「とりあえず、尚ちゃん、由香ちゃん、亜美ちゃん、疲れただろうから席について。」

「有難うございます。」「有難うです。」「有難うございます。」

「ファーストイベント、成功おめでとう。」

悟がケーキを披露する。

「すごい。これ、私。」

「これは、俺だ。」

「これが、私ね。『トリプレット』って書いてある。」

「社長、奮発しましたね。」

「とりあえず、3人とケーキで写真を撮ろう。そうすれば、経費で落としたときに、税務署が文句を言っても、宣伝用と証明できる。」

「なるほど。分かりました。じゃあ、由香先輩、亜美先輩、宣伝用に写真を撮りましょう。」

「オーケー。これで、社長の懐が痛まなくてすむ。」

「そうだね。明日夏さん、私のカメラでも撮ってもらえますか。」

「もちろん。」

写真を何枚か撮ったあと、悟がケーキを切る準備をする。

「それじゃあ、ケーキを切るね。」

「はい。」

悟が切ったケーキを全員に配る。

「まだ、余りもあるので、足りない人はどうぞ。それでは、頂きます。」

「頂きます!」

「美香先輩、どうですか。」

「うん、尚が言っていた意味が分かる。甘味があって美味しい。」

「でも、これはまだ押さえてある方だと思います。海外のケーキは、甘すぎだろうと思うほど、もっと甘かったりします。」

「そうね。そういえば、アメリカで甘すぎるチーズケーキを食べたことがあったわ。でも、これはちょうどいいです。」

「有難うございます。」

「社長さんは、ケーキ屋さんをいくつぐらい知っているんですか。」

「学生のころ、休みの日は、ケーキ屋巡りをしていましたので、千ぐらいのケーキ屋は行ったことがあります。」

「すごいですね。うちのケーキ屋、グレートリバーホテルに入っている店のケーキは食べたことがありますか。」

「はい、もちろんです。スポンジケーキもきめ細かくてなめらかで、全体的に非常に上質な味ですが、甘みの件もそうですが、ガツンとしたしたものがない感じでしょうか。」

「参考になります。」

「こっちのケーキの方がロックをしていると思いませんか。」

「うん、すごい。ケーキでロックしていますね。うちのケーキはクラシックみたいなものですか。スポンジケーキの味の違いが、ベースとコントラバスでしょうかね。」

「その通りです。もちろん、どちらにも良いところがあって、好みの問題とは思います。」

「有難うございます。勉強になりました。」

悟が、みんなが自分とミサを見ていることに気が付く。

「尚ちゃん、由香ちゃん、亜美ちゃん、ごめんなさい。今日の主役は3人ですね。」

「ごっ、ごめんなさい。私がケーキの話を振ったから。」

「社長、美香先輩、構いません。聞いてい楽しかったでした。」

「ケーキも奥深いと知って驚いたぜ。」

「うん、大丈夫だよ。」

「本当に、3人のライブ良かったよ。ロックとは違った、気持ちが嬉しくなるような楽しさがあって。技術的にも向上していたし。明日夏も頑張らないと、後輩に抜かれちゃうよ。もちろん、私もだけど。」

「美香先輩、でも、明日夏先輩、最近は練習頑張っているんですよ。橘さんも感心していました。」

「そうなんだ。いいことだけど、やっぱり後輩に抜かれたくないから?」

「いえ、あの法則のおかげみたいです。」

ミサのテンションが下がりながら答える。

「あの法則って?ああ、あれね。」

「それでも明日夏先輩が練習するんですから、役には立っているんでしょうね。」

「ふふふふふ、そうね。」

「そう言えば、遊びに行くことに関して、決めておきましょう。」

「うん、そうしよう。」

「できれば、泊りで行きたいと思うんですが、日程だけでも決めませんか。」

「泊りで!うん。絶対に行きたい。」

「大丈夫だよ。」「ミサさんと泊りで旅行って、凄くない。」「凄い凄い。」

「あと、橘さん。大変申し訳ないのですが、全員20歳未満なので、一緒に行って頂けないでしょうか。もちろん、旅行代はこちらで何とかします。」

「私なんかが一緒に行って良いのか分からないけど、必要なら行くわよ。あと、安月給でもそのぐらいは大丈夫、自分で出す。それに、大河内さんと旅行に行ったと言ったら、昔の仲間からは羨ましがられるし。」

「橘さんは、歌が上手という話なので、是非、勉強のために歌を聞いてみたいです。」

「わかった。がっつり練習してから参加するね。」

「はい、有難うございます。」

「一番忙しい、大河内さんに合わせたいと思いますが、いつぐらいが時間を取れますか。」

「8月の第1週の平日かな。」

「それでは、8月1、2、3日を第1候補にしてはどうでしょうか。『トリプレット』は大丈夫です。」

「パラダイス側も大丈夫だけど、明日夏、個人的な用事は?」

「休めない用事はないです。」

「私もそれで大丈夫です。」

「では、8月1、2、3日は日程を開けるようにお願いします。場所は、SNSで相談しましょう。後で、SNSのグループを作ってアドレスを送りますから、加入をお願いします。」

「了解。」「分かったよ。」「オーケー。」「はい。」「メモしておきます。」

「尚、有難う。尚は今日の主役なのに、雑用をやらせちゃって、ごめんね。」

「気にしないで下さい。兄もそうですが、皆さんが楽しんでいるところを見るのが一番楽しいんだと思います。」

「いいお兄さんなんだ。」

「うん、本当にいいお兄ちゃんだと思うよ。」

「明日夏先輩、その先は言わなくていいです。」

「じゃあ、他に言うとすると・・・・・・うーん、ちょっと忘れっぽいことかな。」

「兄がですか?記憶力はいい方だと思いますけど。」

「約束を忘れたりするんだよね。」

「明日夏さんとのですか?死んでも守りそうなので、それはかなり考えにくいです。」

「私というより、あきさんという女の子との約束かな。」

「あれ、先輩、アキ・・さんのこと、知っているんですか?」

「えっ、というより、尚ちゃんが覚えているの?」

尚美が誠が作ったアキのホームページを見せる。

「アキさんは、明日夏さんのファンで、その縁で明日夏さんのファンの方がプロデュースしている地下アイドルの方です。プロデューサーは、明日夏さんを応援するときに、いつも兄といっしょにいる男性のパスカルさんがやっています。」

「はいはい、覚えている。明日夏の一番最初のイベントの一番最初のお客さんで、パラダイスドリームスのオーディションに来ていた子ね。この子のオーディションの面接の受け答えは尚のお兄さんが考えたんだったわよね。」

「そうなんだ。そう言えば、この子の受け答えは良かったね。」

「アキさんのこのホームページは兄が作っています。」

「『アキが歌う海浜公園』!?何、マー。何でもないです。すみません、アキさんの件は、お兄さんには内緒に。」

「はい、分かっています。明日夏さんがあまり話して欲しくないことは、絶対に話すことはありません。」

「尚ちゃん、有難うね。昔の話で、今はもう何の問題もないんだよ。」

「分かりました。」

尚美は、明日夏もパラダイス興行に所属する前に一人で活動していて、もしかするとアキのことを知っているのかもしれないとは思ったが、それほど気にすることはなかった。

「でもリーダー、このホームページの写真の雰囲気、いいですね。」

「パスカルさんという兄の友人が撮ったそうです。パスカルさんは、明日夏さんやミサさんのファンで、橘さんのファンでもあるそうです。」

「あっ、あれね。」「あれか。」

「でも、私も写真はいいと思いました。ついでですから、兄がアキさんのためにアレンジした『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』を聴いてみますか。明日夏先輩が気が進まないようでしたら止めますが。」

「大丈夫だよ。CDは結構買ってもらっているし。尚ちゃんのお兄ちゃんの実力のほどを知りたいから。」

尚美が小さなブルートゥーススピーカーにスマフォをつないで、カラオケ音源を流す。

「華やかな編曲だね。金管をたくさん使って、若くて華やかな子に向きだね。」

「そうね。アキさんが歌うなら合っているんじゃないかな。『トリプレット』が歌うとすると、こっちの方が合っていそう。」

「ロック的にはちょっとベースが弱いって感じだけど、尚みたいな可愛さをしている女の子には合いそう。」

「ベースは強くない代わりに、かなり速い。弾くのは思ったより大変そうだな。」

「社長さんはベースでしたね。うん、そう考えると、いい感じかも。」

「そうだね。さすがは尚ちゃんのお兄ちゃんって感じだよ。でも、お兄ちゃん、作曲とかはしないの?」

「作曲ができるようになりたいって、いま勉強しています。」

「できるようになったら、一曲作ってもらおうかな。」

「えっ、頼んでみてもいいですが・・・・・。」

「私の作詞の練習用に。」

「あっ、なるほど。明日夏さんの夢は、作詞家になって印税で楽に生活することでしたね。」

「その通り。でも、ただで作ってくれるよね。」

「はい、それは、たぶん。」

「その代わり、私が歌詞を付けて、歌って、録音して、個人的に尚のお兄ちゃんに進呈するよ。いろいろ、申し訳ないことを言ってしまったし。」

尚美は「明日夏先輩も、いろいろ言ってすまないと思っているのかな。」と思いながら、答えた。

「はい、兄もすごく喜ぶと思います。」

その後、夏にどこに行くか相談していると、引き上げる時間となった。

「私たちは、マイクロバスで帰りますが、ミサさんと明日夏さんはどうしますか。」

「明日夏はうちの車で送って行く。」

「へへへへへ。今日はリムジンで帰宅。日本のセレブ気分。」

「明日夏先輩、よかったですね。それでは駐車場までいっしょに行きましょう。その方が、安全と思います。」

「うん、有難う。」

「ダコール。」

 関係者が駐車場に移動し、それぞれの帰る方向へ向けて出発していった。


 誠はSNSで連絡を受け取って、ラッキーとパスカルがいる喫茶店に到着した。

「湘南君、遅かったね。」

「はい、特典会を最後まで見ていたため遅くなりました。」

「湘南君、明日夏ちゃん以外のイベントに行くことはあまりなかったんじゃないかな。今日の『トリプレット』のイベントどうだった?」

「尚が、歌もダンスもすごく上手になっていて驚きました。」

「尚?なおみちゃんか。タック君が聞いたら、明日夏TOのくせに、なおみちゃんを呼び捨てにするんじゃねえ、って怒りそうだな。」

「そう通りです。気を付けます。なおみさん、すごく上手になっていました。」

「湘南君は、昔のなおみちゃんを知っているの?」

「えーと、動画サイトか何かと思います。もう消されているかもしれないですが。」

「なるほど、なおみちゃんも動画サイトでアップしていたのをスカウトされたのかもね。」

「それより、明日夏さんとミサさんの騒ぎ、無事に済んでよかったです。」

「湘南君の対応、ナイスだったね。」

「ラッキーさん、後ろで騒ぎがあったのは気が付いていたけど、何があったの?」

「うん、ミサちゃんと明日夏ちゃんがお忍びで見に来ていて、それが見つかって騒ぎになっていた。湘南がかなり早くから明日夏ちゃんを見つけていて、僕も一緒に監視していたから、早く対応できて良かったよ。」

「最終的には、タックさんのグループのおかげですが。」

「でも、すぐに見つけたのは偉い。」

「明日夏さんがいましたので、すぐに分かりました。皆さんは大河内さんは分かっても、明日夏さんには気が付かなかったようですが。」

「明日夏ちゃん、ミサちゃんのマネージャーと思われていたようだったね。」

「知名度が違うので仕方がないと思います。」

「そうだったのか。今度、そういうことがあれば前にいても手伝うよ。SNSか何かで連絡して。」

「分かりました。今度はSNSで連絡します。」

「おう。」

「湘南君は、結局ハイタッチ会に参加しなかったのかい。」

「はい、CDは買いましたが、何となく参加しませんでした。」

「明日夏ちゃんが見ているかもしれないからか。」

「はい、それもありますが、なおみさんが中学2年生だからでしょうか。」

「中学2年と言っても、プロだから大丈夫とは思うけどね。我々より、よっぽどしっかりしていると思うよ。」

「はい、ラッキーさんが言う通りと思います。ただ、妹と同じ年齢なので。」

「中学2年同士か。でも、近くで見ると3人とも可愛かったね。」

「さすが、DDのパスカルさんですね。」

「なおみちゃん、超可愛いんだけど、頭もよくて相手にしてもらえなさそうな感じがあるかな。」

「まあ、3人とも相手にしてくれないとは思いますが。」

「湘南、それを言っちゃお終いよ。」

「その通りですね。」

「由佳ちゃんはダンスがすごいけど、個人的には亜美ちゃんかな。歌が上手なのがやっぱりいい。あと、ちょっとぽっちゃりなところも可愛い。」

「パスカルさんの言うことわかります。将来的には、歌手になることを目指しているということですし。」

「僕は、王道でなおみちゃんかな。可愛いというのもあるけど、なおみちゃんの話しはずうっと聞いていたくなる。湘南君は?」

「僕は・・・・特にいないです。それより、来週から明日夏さんのセカンドシングルのイベントが始まりますので、『トリプレット』のイベントに来るのは明日が最後になると思います。」

「湘南君はそれでいいとして、パスカル君は来週からどうするの?ミサちゃん、明日夏ちゃん、『トリプレット』とあるし。」

「来週は土日とも『トリプレット』が昼で、ミサちゃんと明日夏ちゃんが夕方だから、土曜日が『トリプレット』、ミサちゃん、日曜日が『トリプレット』、明日夏ちゃんの予定です。ラッキーさんは?」

「基本同じだよ。ミサちゃんと『トリプレット』の間に、声優さんのイベントに寄っていくかもしれないけど。」

「さすがラッキーさんですね。再来週が『トリプレット』と明日夏ちゃんが昼で、ミサちゃんが夕方だから、土曜日が明日夏ちゃん、ミサちゃん、日曜日が『トリプレット』、ミサちゃんの予定です。」

「じゃあ、僕もパスカル君に合わせるよ。」

「7月はイベントがいっぱいで、楽しいですね。」

「その通りだね。」

3人はアキのプロデュースのことを忘れて、今日の『トリプレット』や、一部公開され始めていた明日夏やミサの曲に関して話し、1時間ぐらいして別れた。

「僕はこれから別のイベントに行かなくてはいけないから、パスカル君、湘南君、じゃあ、また明日。」

「それじゃ、明日。」

「はい、また明日お願いします。」


 誠は『トリプレット』の曲のアレンジ案を考えながら渋谷で尚美を待った。優等生スタイルの尚美がやってきた。

「お疲れ様。」

「900人とハイタッチして、ちょっと疲れたかな。あと、明日夏先輩と美香先輩を守ってくれて有難う。」

「当然のことをしただけかな。でも、何であれが僕とわかったの。」

「えーと、アラームの音。圧空式でしょう。」

「その通り。すごいな。」

「えへん。あっ、これじゃあ明日夏先輩になっちゃう。」

「それより、アレンジを少し変えてみる件を考えていた。」

「明日夏先輩のことになると、急に話を変えて、お兄ちゃんは頑なだけど、明日夏先輩は、尚のお兄ちゃんなんだから何を話しても良いって。お兄ちゃんに秘密を作るのは、私が大変なんじゃないかって。お兄ちゃんのことを信用しているって。」

「明日夏さん、尚のこと考えてくれているんだ。すごい有難いと思う。でもなんか、人に気を使うなんて、明日夏さんらしくない気もするけど。」

「お兄ちゃんも、たまに明日夏先輩に酷いことを言うよね。」

「そう言うんじゃなくて、自由奔放というイメージなのかもしれない。でも、お兄ちゃんも、ということは、明日夏さんも僕のことをいろいろ言っているの?」

「えーと。」

「ごめん。言いたくないことは、言わなくて大丈夫だよ。分かった。明日夏さんのことでも、尚が話したいことがあったら何でも話して。ちゃんと聞くし秘密は守るから。逆に、僕からは明日夏さんのことをなるべく聞かないようにするから。」

「うん、それだと楽かな。そうだ、アキさん用の『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』をみんなに聴いてもらったんだ。」

「明日夏さんもいた?」

「明日夏先輩、社長、橘さん、由佳先輩、亜美先輩と美香先輩もいた。」

「えーー、大河内さんもいたの?」

「うん。でも何で美香先輩だけに反応するの?」

「いや、パラダイスの方々はしょうがないと思うけど、このアレンジ、大河内さんの方向性とは正反対だから、鼻で笑われそうで。僕はいいけど、尚が恥をかかなければいいんだけど。」

「鼻で笑っていないけど、ベースが弱くて、美香先輩の方向性とは逆とは言っていた。ただ、全体として華やかになっていて、速いベースはアイドルの曲としてはいいんじゃないかとも言っていたよ。」

「良かった。少し安心した。」

「社長も橘さんも、もし『トリプレット』がこの曲を歌うことがあったら、こっちの方が良いかもって言っていた。」

「プロの方にそう言ってもらえると、光栄です。」

「明日夏さんも、誉めてた。」

「それは有難いです。」

「それで、もし作曲をするなら、作詞の練習用に曲を作ってと言っていた。」

「本当に?」

「本当に。明日夏先輩、作詞家になって印税で生活することが夢みたいだから。」

「なるほど、その練習用の曲ね。分かった。曲が作れるようになったら、すぐに作る。」

「作曲料は払わないって言っていたよ。」

「ははははは。そうだろうね。明日夏さんらしくて安心した。」

「その代わり、明日夏さんが作詞して、歌って、録音したものをお兄ちゃんにあげるって。」

「それは恐縮するというか、何故だろう。歌詞と歌の評価が欲しいのかな。」

「どうだろう。元から録音まではするつもりで、作曲代が節約できるからかな?」

「なるほど。でもこの話しは、作曲の勉強をする動機づけになるよ。」

「作曲できるようになったら、尚たちにも、アレンジだけじゃなく、曲も作って。」

「もちろん、尚がいいならそれは構わないけど。そう言えば、尚たちの曲のアレンジを変える件だけど。由香さんが余裕がありそうなので、もう少しリズムを強調して、亜美さんが歌うパートは音を重ねながらも弱くして、尚の部分はもう少しコミカルにしたいと思ったんだけど、具体的にはどうするか、今考えているところ。」

「すごい!お兄ちゃん、コンセプトは良く分かるよ。」

「『トリプレット』のリーダーに言ってもらえると助かる。それじゃあ、具体的にアレンジを考えてみるよ。」

「うん、お願い。あと、明日もイベントに来てくれる?」

「もちろん。」

「来週も?」

「えーと。」

「明日夏さんのイベントにいってからでも間に合うよ。」

「わかった、行くよ。うん。」

「再来週は、被っているから無理は言わない。お兄ちゃん、明日夏さんのTOだし。」

「ごめん。でも、何か心配事があるようなら言って。そのときは尚の方に行くから。」

「分かった。有難う。」


 『トリプレット』の二日目のイベントも、由佳の衣装が違う以外は初日と同様に経過していた。

「由佳ちゃん、可愛い。」

「そうか。えへへへへ。」

「はい、似合っていますよ。今日は亜美先輩がセンターの『ずうっと好き』をメインに持っていきます。3人がこの衣装の方が合うと思います。」

「でも、その衣装で話し方はどうするの?俺で通すの?」

「どっちがいいんだ。」

「基本は、普段の話し方でいいんじゃないでしょうか。女の子らしい話し方はギャグで使えるとは思いますが。」

「俺が女の子らしく話すと、やっぱりギャグか。」

「そういうわけでもないのですが、ギャグに使えるかなと思って。」

「南由佳、18歳。ダンスが大好きな夢見る女の子です。」

「うん、由佳、ギャグに使えるよ。」

「そうかよ。分かったよ。ギャグで使ってみるよ。」

「1曲目後のトークで振りますので、お願いします。」

「おう。」

「ところで、由佳先輩、豊さんは来ているんですか。」

「もう来ているって連絡があった。」

「ハイタッチ会にも参加するようでしたら、悟られないように、お互い知らない振りをして下さいね。」

「大丈夫、言ってあるから。豊もプロのダンサー志望だし。逆に、リーダーの兄貴は来ているのか?まあ、兄貴ならバレても問題はないけど。」

「はい、来ていると思います。今週と来週は来ると言っていました。CDを買ってもハイタッチには参加しないで、周辺警戒をしているみたいです。」

「妹が心配なんだろうな。」

「また見てみたいなー、リーダーのお兄さん。でも、人が多いから見つけられないかな。」

「私もライブ中は見つけられませんでした。ハイタッチ会が終わって人が減った時に見つけることができましたが。」

「仕方がないね。」

「ステージで歌っているときや、MCをしているときにキョロキョロするわけにもいかないので、仕方がないです。」

「特にリーダーは話すことが多いから、そうですね。」

「そう言えば、イベントの後半の方では、由佳先輩や亜美先輩がトークの中心になってもらおうかと思っていますが、大丈夫ですか。」

「おれは、大丈夫じゃないな。」

「私も、リーダーほどは無理。」

「分かりました。今回は私がトークの中心を務めますが、次のCDからは考えてみて下さい。」

「俺も独り立ちすることを考えて、来年までにはできるようになろうと思う。」

「私も。」

「分かりました。この1年間で4枚のシングルと1枚のアルバムを出す予定みたいですので、アルバムを出すころにはお願いしますね。」

「アルバムはリーダーの方がいいだろう。4枚目のシングルぐらいで頑張るよ。」

「私も。それまで、リーダーのトークで勉強するね。」

「分かりました。」


 誠は、初日と同じように来て、イベント終了後、会場でラッキーやパスカルと今日初めて披露された『ずうっと好き』などの話をして、渋谷で尚美と待ち合わせた。

「お疲れ様。やっぱり、疲れていそうだね。」

「まあ、さすがにね。でもイベントが土日しかないので、まだ楽かな。平日の夜にもイベントをやっているユニットもいっぱいあるから。」

「平日は練習だけなら、少し休めるね。」

「うん。取材が2件ほどあるけど、まあ何とかなる。」

「勉強の方は?」

「うん、今のところは大丈夫。帰ったら期末試験が近づいてきているし勉強しないと。」

「分からないことがあれば聞いてね。」

「分かった。でも、行き帰りがお兄ちゃんといっしょだと安心。」

「できるだけ送り迎えはするよ。あと、尚の帰りが遅くなる時は絶対に。」

「有難う。」

「今の生活、楽しい?」

「楽しいだけと言い切れないところもあるけど、やめる気は全然しない。」

「それは良かった。」

「やっぱり、いろんな人、例えば美香先輩とかと知り合えるのは刺激になる。」

「じゃあ、頑張ってやって行くしかないね。」

「うん。」


 誠は次の土曜日までに『私のパスをスルーしないで』の新しいアレンジをほぼ完成させて、その感じを想像するために、イベントに来ることにした。

「おお、湘南君じゃないか。今日は明日夏ちゃんのイベントがあるから来ないと言ってたけど来たのか。」

「はい、余裕で明日夏さんのイベントに間に合いますので、来てみました。」

「湘南もDDに目覚めるのか。」

「DDにはならないとは思いますが。」

「明日も『トリプレット』のイベントに来るの?」

「一応、その予定です。」

「ラッキーさんは、声優さんのイベントに寄ってから、今日は大河内さんでしたね。」

「その通り。」

「俺はラッキーさんについて行って、声優さんのイベントにも参加することにした。同じ時間で済むので、それならいろいろ見ておいた方が参考になるから。」

「パスカルさんも本気ですね。僕も曲のアレンジを勉強するために、いろいろ試しておこうと思います。」

「さすが湘南!頼むぞ。」

 『トリプレット』の2週目のイベントは、さすがに1週目より客の数が減ってきたが、それでも、かなりの活況を呈していた。特典会の最後のころに兄を見つけた尚美が微笑む。

「お兄ちゃん、キョロキョロしすぎ、あれだと不審者に間違われるかも。」


 誠は、『トリプレット』のイベントが終わった後、明日夏の2枚目のシングルのリリースイベントに急いだ。店に到着するとイベントの開始まで2時間ぐらいあったが、背の高い男が一人待っていた。誠はCDを購入したあと、背の高い男に話しかけた。

「こんにちは。」

「こんにちはー。」

「いつもいらっしゃいますね。」

「うん、明日夏ちゃんを見ると、幸せな気持ちになれるんだよー。でも君もだよね。」

「はい。SNSの僕の名前は湘南と言います。よろしくお願いします」

「僕は、セローというんだよー。でも、湘南さんは、コールブックやホームページを作ったりしてすごいよねー。僕も作りたいけど、できないからなー。」

「今度の曲もコールブックを作る予定です。」

「完成したら、一冊くれると嬉しいよー。」

「はい、喜んで。意見をもらえれば変えていきたいと思いますので、提案とか意見をお願いします。」

「わかったよー。」

誠は来週、どちらのイベントに行くか悩んでいた。明日夏のイベントに行くつもりではあったけれど、尚美のことが心配で仕方がなかった。それで、できるだけ、どちらにでも行けるようにしておこうと思って、セローに話しかけていたのである。


 会場への入場が終わり、開始時間を少し過ぎたころ、明日夏がステージに出てきた。

「こんにちは、神田明日夏です。今日は私の2枚目のシングル、テレビアニメ『ジュニア』

の主題歌『ジュニア』のリリースイベントのためにお集まりくださり、大変ありがとうございます。」

明日夏が礼をすると、拍手が起きた。明日夏はセカンドシングルということで、冬より余裕があった。誠が明日夏を直接見るのはゴールデンウイークのアニメのイベント以来である。誠は、明日夏がだんだんとプロの歌手になってきていることが感じ取れて、安心していた。

「本当に2枚目のCDが出ましたよ。1枚だけで終わるんじゃないかと心配していたのですが、これも皆様の応援のおかげです。近頃、神田明日夏じゃないんじゃないかと思えるほど、一生懸命、歌の練習をしています。これも、春から、大河内ミサさんや『トリプレット』のみんなとお友達になれて、正直、このままじゃプロの歌手としてちょっとやばいなと思った結果です。私は、そういうことでもないと、なかなか努力しない方ですので、一生懸命頑張る方々と友達になれて良かったと思っています。えっ、今まで明日夏は一生懸命やって来ていなかったのかって。だって、一生懸命やってきていたと思う人いないですよね。だけど、今は違います。まずはバージョンアップした明日夏を感じて頂くため、デビューシングルから『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』を歌いたいと思います。それでは、神田明日夏で『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』」

明日夏が歌い始める。前方の客を中心にそろった応援ができていた。誠も「安定して可愛い声が出せるようになって、歌を聞いた感じがすごく良くなっている。」ことが確認出来て、嬉しくなった。

「どうも有難うございました。神田明日夏で『二人っきりなんて夢みたい。でも、夢じゃない。』でした。みんな、応援有難うね。さて、セカンドシングルの新曲の紹介です。テレビアニメ『ジュニア』のオープニングテーマ『ジュニア』です。ジュニアというあだ名の主人公が、天然な子、知性的な子、スポーツが得意な子、妹みたいな年下の幼馴染の子など、複数の可愛いい女性キャラに好かれるという話です。魅力的な女性キャラが多くて、男性ファンは推し決めるのが難しいですよね。推しが決まっているという人いますか?」

4分の1ぐらいの客が手を挙げる。

「すごいですね。原作からのファンということでしょうか。」

会場から「はい。」「そうです。」のような声がかかる。

「アニメオリジナルの展開もありますので、原作を知っている方も是非楽しみにしていてください。女子から見ると、ジュニアの友達にイケメンな男の子が多くて、私もまだ推しを決められていません。主題歌『ジュニア』は、超イケメンでカッコいいジュニアを、手が届きそうもないのに、好きで好きで仕方がない女の子の気持ちを歌ったものです。ただ、個人的には私が浮気者のジュニアを推すことはないと思います。やっぱり、付き合うことがあったら自分を一番にしてくれない人はいやです。そんなことで『ジュニア』が歌えるかって?それを歌うのがプロの歌手です。声優さんだって、男女にかかわらず、嫌いな声優さんがやっているキャラに対して、好きという気持ちをすごく上手に表現していますので負けてはいられません。それでは、神田明日夏で『ジュニア』を聞いてい下さい。」

明日夏が『ジュニア』を歌う。誠はどんな風に応援するのが良いか考えながら聴いていた。

「どうも有難うございました。神田明日夏で『ジュニア』でした。どうでしたでしょうか。私からするとありえない、浮気者のジュニアがすごく好きという女の子の気持ちが表現できていたでしょうか?」

「できてた。」「すごい。」「さすが、プロ。」「女は怖い。」のような掛け声がかかる。

「有難うございます。お客さんの前で歌うのは初めてだったので、少し緊張しましたが、何とか歌えていたようです。それでは、次で今日最後の曲になります。」

「えー」という声が巻き起こる。

「有難うございます。次に歌う『天使の笑顔』の天使も男の子です。そして、その男の子が自分に向けたたった一度の笑顔が忘れられない、でも、何もできない女の子の気持ちを歌ったものです。前の2曲よりはしっとりした感じの曲で、あまり得意な曲調ではないため、このところ、私の歌の師匠の橘さんに一番しごかれている曲です。それでは、お聴きください。神田明日夏で『天使の笑顔』。」

明日夏が『天使の笑顔』を歌う。

「どうも有難うございました。『天使の笑顔』をお聴きいただきました。リリースイベントは、まだ始まったばかりです。また、是非、足をお運び下さればと思います。また、この後、特典会を開催します。内容はサイン入りポスターお渡し会です。私を近くで見たいという方、一言ある方、是非、ご参加ください。今日はお集まりくださり、本当に有難うございました。」

礼をしながら明日夏は下がって言った。

 特典会が始まり、誠の順番になった。誠は尚美がお世話になっていることに対する名前を出さないお礼から始まった。

「妹がお世話になり、大変有難うございます。」

「こちらこそ、お世話になっています。」

「本当に、春先より可愛い声が安定して出せるようになっていました。」

「小学校に入る前から歌い続けていますが、いまの方が全然可愛いです。」

「きっとそうだと思います。これからも応援します。有難うございました。」

「有難うございました。」

 誠は帰る道すがら、「明日夏さんがあれだけ頑張っているんだから応援しなくちゃ。」、「尚のそばに付いていてあげたい。」、「明日夏さんは、プロの歌手として安定しそうだから、僕が応援する必要はないんじゃないか。」、「尚には、ヘルツレコードのスタッフも警備員も付くのだから、僕が心配する必要はないんじゃないか。」、色々な思いが交錯して、誠はどうしていいか分からなくなっていた。悩んでいても解が出そうもないため、新曲の応援方法の立案、ホームページの作成、コールブックのための諸手続き、尚美の曲のアレンジの仕上げをすることにした。


 『トリプレット』の第3週目、明日夏の第2週目のイベントが両方とも昼過ぎに行われる土曜日となった。誠は尚美を渋谷まで送って別れた。

「じゃあ、お兄ちゃん、明日夏さんのTO頑張ってきて。」

「ああ、尚も。」

「お兄ちゃん、あまり気にしなくても大丈夫だよ。お兄ちゃんが明日夏さんのTOじゃなかったら、私も星野なおみになれなかったんだし、明日夏先輩は大切な先輩だから。」

「ごめん。帰りは渋谷から家まで送っていくね。」

「嬉しい。じゃあ、夕方に。」

「うん、夕方に。」

 誠は尚美と別れた後、明日夏のイベントに向かった。店に到着するとイベントの開始まで、だいぶ時間があったが、セローが一人待っていた。誠はCDを購入したあと、セローに話しかけた。

「セローさん、こんにちは。」

「湘南さん、こんにちはー。」

「応援の案を作って見たのですが、見てもらえますか。」

「あー、いいよー。」

セローは歌を思い出しながら、応援案を書いた紙を見ていた。

「うん、なかなかいいんじゃないかなー。」

「有難うございます。著作権などの手続きが終わったら配布しようと思いますが、意見はありますか。」

「ここ、サビの途中は簡単にした方が、明日夏ちゃんの歌の邪魔にならなくていいかなー。サビが終わったときに、騒ぐ感じとかかなー。」

「なるほど、その方が可愛い歌が生きますね。分かりました、その方向で検討します。」

少しして、パスカルが、その後にラッキーがやってきた。

「よう、湘南、さすがにTOは早いな。」

「いま、セローさんと、コールブックの案について意見を聞いていたところでした。著作権の問題で、まだ個人的にしか配布はできないのですが、これをどうぞ。」

「さすがだな。」

「何か意見がありましたら、言って下さい。」

「まだ生では一回しか聴いたことがないから今のところ意見はないかな。今日、チェックするよ。」

「お願いします。」

「どう、明日夏ちゃんの新曲。」

「はい、可愛い声が安定していて、とってもいい感じに歌えていると思います。」

「おれもそう思った。今日も楽しみだよ。」

「パスカル君、湘南君、こんにちは。」

「ラッキーさん、こんにちは。」「こんにちは。」

「ラッキーさんは、午前中、どこか行っていたんですか。」

「秋葉原でパソコンを見ていたんだ。最近、調子が悪くて。」

「ラッキーさんはパソコンの推しとかあるんですか?CPUはインテルとAMDはどっちがいいとか。」

「まあ、基本DDだよ。」

「さすがです。」

「湘南君は?」

「ずっとインテルだったんですが、最近、AMDもいいかなとか思っています。」

「推し変か。」

「難しいところです。」

「明日夏ちゃんと『トリプレット』は、どうするの。今日はこっちに来ているけど。」

「・・・・・」

「湘南はTOまでやっているから、明日夏だろう。」

「そうなんですが。これが今回の応援案です。ラッキーさんもできたらチェックをお願いできますか。歌詞の著作権は手続き中です。」

「どれどれ、見てみるよ。」

少しして感想を述べる。

「うん、まあまあかな。」

 この日の誠は迷いを消したいかのように、口数が多かった。

「パスカルさん、曲もそうですが、8月にはアキさんの夏のホームページを作った方が良いように思います。」

「そうだね。でも、水着はだめだろうな。」

「はい、それは怖すぎですので、夏のお嬢様風ならば大丈夫じゃないでしょうか。」

「麦わら帽子をかぶってか。そうだね、その方向で考えておこう。」

「お願いします。」

「この前の撮影、手が足りなかったので手伝ってくれるか。コッコちゃんはスケッチをしているので、撮影の手伝いに使えない。」

「わかりました。夏休みに入れば時間ができますので、お手伝いします。」

「助かる。たぶん照明をお願いすると思う。撮影機材はこっちで手配する。」

「レンタルなんかもありますけどね。」

「そうか。まあ、ボーナスも入ったんで買うつもりだったけど、そんなに使うものではないので、レンタルも検討してみるよ。」

「今年は8月もやることが一杯ありそうです。」

「頑張って行こうぜ。」

「はい、そうですね。」


 時間が過ぎていく中、誠は『トリプレット』のことを忘れようとしていたが、それでも、尚美のことが頭から離れなかった。会場への入場が始まろうとした時、誠に、尚美がまだ小さい時のかすかな記憶が蘇ってきた。生まれたときの小っちゃい尚美、自分が押していたと思う乳母車の背、小さいときいつも自分についてきて誰かに尚美は自分の金魚のふんのようだと言われたこと、海浜公園で遊んだり歌を聞いていたこと、熱があって病院まで背負って行ったこと、キャンプ場で尚美が叫んでいたこと、学校の勉強を教えていたこと、小学校の運動会のリレーで活躍していたこと、英語をいっしょに勉強したこと、走る競争で勝てなかったことが、液晶フォトフレームの画像のように次々に思い浮かんできた。そして、頭に「まだ、ぎりぎり間に合う・・・」という考えがよぎった。

「セローさん、ごめんなさい。行くところがありまして。」

隣にいたラッキーが尋ねる。

「『トリプレット』のところに行くの?」

「はい。申し訳ありませんが、そうです。」

パスカルが非難する。

「お前、自分がやろうとしていることが分かっているのか。今まで、明日夏ちゃんのTOをずうっとやってきて。」

「そうなんですが。」

「お前、TO失格だよ。」

「分かってます。」

ラッキーがなだめる。

「まあ、パスカル君、人にはいろいろあるもんだよ。湘南君、今日は全然落ち着きがなかったし。」

「そうだけどさ。」

誠がセローにお願いする。

「セローさん、大変申し訳ありませんが、TOの役割をお願いできますか。」

「いいよー。明日夏ちゃんのためにできることなら、僕は何でもするよー。」

「有難うございます。コールブックやホームページの作成は続けますので、意見があったら言ってください。セローさんは明日夏さんのためにならないことはしない方ですので、セローさんの意見は最大限に尊重します。」

「分かったー。」

「このイベント参加券は差し上げますので、使ってください。」

「有難う。いってらっしゃい。」

「有難うございます。」

お礼と同時に誠はドタドタと走り出していた。


 『トリプレット』の3人は控室で最後の確認の練習をしていた。尚美が移動を間違えて、亜美とぶつかる。

「痛っ。」

「ごめんなさい、亜美先輩。私のミスです。」

「大丈夫です。」

「それより、リーダー、大丈夫か。そういえば顔色も良くないし、動きに疲れが出ている気がするんだ。」

「大丈夫です。もう一度やりましょう。」

「亜美、リーダーがミスしそうになったら、カバーするんだぞ。ここで3つ年上のところを見せないと、示しがつかない。」

「うん、分かった。」

「心配をかけてすみません。由香先輩の言う通り、疲れが出ていますが、なんとかします。」

「みんなでカバーしあおうぜ。」

「はい。」「わかった。」

本番前の確認が終わり、円陣を組んだ。

「それでは、今日の円陣の掛け声は由香さんにお願いできますか。」

「おー、これ、やってみたかったんだ。それでは行くぜ。」

「『トリプレット』、3週目、気合入れて行くぞ!」

「おー!」

「ダンスは俺がいつもより派手にやって注目を集めるから、後ろは少し手を抜いても大丈夫だぞ。」

「おー!」

「じゃあ、あとは元気にいくぜ!」

「おー!」

「どうも有難うございます。由香先輩らしい円陣の掛け声で良かったでした。明日は亜美先輩にお願いしますね。」

「えー、何て言おうかな。」

「明日までに考えておいて下さい。」

「分かりました。」

「今日は、MC中に、由香さんがダンスができるように振りますので、適宜ダンスをお願いします。」

「おう、ダンスなら何でも来やがれ。サンバ、社交ダンス、何でもできるぜ。」

「社交ダンスもできるんですか。今度私も覚えてみようかな。由香先輩は男役になりますが。」

「面白そうだな。次のCDのイベントではできるようにしようぜ。亜美もどうだ。」

「分かった。由香が仮面とか被ると面白いかもしれない。」

「そうだな。」

尚美は「自分がちゃんとしないと、兄が心配して脚を引っ張ることになるから、しっかりしなくちゃ。」と、自分に言い聞かせた。開演の準備が整い『ペナルティーキック』のイントロと共に、3人が舞台に出た。尚美の視界の隅に、50メートル位離れているイベント会場の入口から息を切らして急いで入ってくる人影が見えた。期待はしていなかったが、お兄ちゃんかもしれないと思って見ると、間違いなく誠だった。走ってきたのか、息を切らしながら、自分を見ていた。「お、」という言葉が口から漏れた。急いで、取り繕う。

「お元気ですか!『トリプレット』です。最初の曲は、『ペナルティーキック』。」

尚美に、何故か自然に力が沸いてきた。『ペナルティーキック』を完璧に演じきることができた。

「みなさん、改めまして、こんにちは!『トリプレット』です。」

「『トリプレット』、チアセンターの星野なおみです。」

「『トリプレット』、ダンスセンターの南由佳です。」

「『トリプレット』、ボーカルセンターの柴田亜美です。」

「どうぞ、よろしくお願いします。」

「この度、テレビアニメ『U―18』の主題歌『私のパスをスルーしないで』でデビューしました。今歌った曲は、『私のパスをスルーしないで』のカップリング曲『ペナルティキック』です。恋人の男性が他の女性に興味を持ったため、ペナルティーとしてキックするという、少しドメスティックな彼女という感じの曲ですが、パフォーマンスとしては、蹴られ役の由佳先輩のダンスが注目です。」

「リーダーと亜美から蹴られるので大変だぜ。」

「今日は、『トリプレット』のダンスセンターの由香先輩のダンスのすごさを分かって頂くために、ダンスパフォーマンスを披露しようと思います。」

「おう、やってやるぜ。」

「では、皆さん、一緒に手拍子をお願いします。」

由佳がダンスパフォーマンスを見せ、会場が手拍子に包まれる。パフォーマンスが終わると、拍手が巻き起こった。

「由香先輩、有難うございます。まだ、大丈夫ですか。」

「おう、鍛えているから大丈夫だぜ。」

「それでは、今と同じダンスをお願いできますか。」

「できるけど?」

「私が隣で同じダンスをすると、由香先輩のダンスの凄さがわかると思います。」

「いいけど、リーダーは大丈夫か?」

「はい、何とかやってみます。亜美先輩、司会をお願いできますか。」

「えっ、あっ、はい、分かりました。みなさん、私と一緒に手拍子をお願いします。」

由佳と尚美が同じダンスパフォーマンスをする。

「リーダー、由佳、有難うございました。」

「由佳先輩のダンスの切れの良さが分かった方は拍手をお願いします。」

拍手が巻き起こる。

「リーダーも半年前から始めたにしてはすごく上手だし、だよね、みんな。」

再度、拍手が起きる。

「それに、一度見ただけで、同じ振りができるというリーダーの頭が信じられない。俺が一人でダンスをするというのは予定通りだったんだけど、いっしょにダンスをするというのは、リーダーが今ここで決めたことなんだ。本当に。」

「由佳先輩のダンスをいつも見ていますので、次の振りが何となく予想できるからだと思います。私も同じ振りができると思ったので、やってみました。」

「リーダー、モビルスーツに乗ったら強そうですね。」

「私は、ニュータイプですか?」

「よし、今度はリーダーが予想できないようなダンスをしてやるぜ。」

「はい、お願いします。明日は、亜美先輩のすごさが分かるように、アカペラでワンコーラスを歌ってもらおうと思いますので、是非、皆様、明日も足をお運びください。」

「リーダー、聞いてませんけど。」

「今決めました。由佳先輩の一人のダンスの評判が良かったので。亜美先輩、明日までに準備してきてください。」

「亜美、アピールするチャンスだ。頑張れ。」

「分かりました。明日までには用意してきます。」

「お願いします。それでは、次はタイトル曲の『私のパスをスルーしないで』を歌います。この曲も由佳先輩の華麗な動きに注目です。それでは、お聴きください。『トリプレット』で『私のパスをスルーしないで』。」

 尚美が調子を取り戻し、イベントは無事終了した。

「リーダー、少し心配したけど、本番はバッチリでしたね。」

「リーダー、さすがです。」

「心配をかけて申し訳ありませんでした。はい、だいぶ元気になったと思います。」

「本番になると疲れが吹っ飛ぶ、芸能人根性はすごいけど、疲れはたまってきているはずだから、無理は禁物だよ、リーダー。」

「有難うございます。休めるときはなるべく休もうと思います。あと、亜美先輩、明日のアカペラ、私がコーラスに入りますので、曲が決まったら早めに連絡して下さい。」

「分かりました。でもリーダー、休むつもりないんですね。」

「期末試験もありますので、そうそう休んでもいられませんが、体調管理も仕事のうちですし、夜は良く眠れているので大丈夫です。」

「そうか、リーダーと亜美は期末試験があるのか、懐かしいな。」

「リーダー、いやなことを思い出させないで下さい。忘れていたのに。」

「亜美、さすがに忘れちゃだめだろう。自慢じゃないが、俺、赤点を取ったことは一度もないからな。」

「えー、そうなの。私もギリギリセーフはあるけど、まだ赤点を取ったことはないよ。」

「亜美が赤点取ったら、馬鹿にしてやろう。」

「由佳、酷い。私が赤点を取るのを楽しみにしているでしょう。」

「亜美先輩、英語、国語、社会ならば分かるかもしれませんので、分からないことがあったら聞いてください。」

「うん、休憩時間とかにお願いするかもしれない。」

「亜美、それでいいのか。高校生の名が汚れないか。」

「由佳、汚れなど成果で洗い流せるよ。」

「それでもさー、何というか。」

「それじゃあ、高校を卒業した由佳は私に教えられるの?」

「・・・・・」

「アイドルユニットという大変なことをしているわけですから、3人、協力できることは協力してやっていきましょう。」

「まあ、リーダーのいう通りだな。」

「そうよ。」

「それでは、引き上げましょうか。」

「おー、帰るか。」

「分かった。」


 尚美が渋谷で待っている誠のところに到着し、東横線のホームに向かった。

「お兄ちゃん、今日は来てくれて有難う。嬉しかった。でも、明日夏先輩の方は大丈夫だった?」

「まあ、TOは降ろされたけど、しょうがない。僕は尚の兄だから、尚を優先する。それだけ。」

「そうか、ごめん。」

「尚が謝ることはないよ。それに、新TOのセローさんは全てのイベントに来るぐらい明日夏さんを推しているけど、コールブックやホームページを作るのは得意じゃなさそうだから、そっちを担当する。まあ、副TOみたいなものかな。」

「そうなんだ。アキの方もそんな感じだよね。」

「うん、そうだね。パスカルさんの手伝いって感じだよね。でも、縁の下の力持ちの方が、自分に合っていると思うよ。」

「そうかもね。」

「そういえば、このまえ言っていた『私のパスをスルーしないで』のアレンジを作ってみたけど、聴いてみる。この前のコンセプトの他に、ファンのコールに合わせて応援しやすいようにしてみた。」

「早いね。もちろん。」

電車の中で、イヤホンを一つずつ使いながら、尚美は兄がアレンジした『私のパスをスルーしないで』を何回も何回も聴いた。そして、聴きながらアレンジのことに関して話し、気がついたときには、辻堂駅に到着していた。

「お兄ちゃん、降りないと。」

「もう着いたのか。」

誠と尚美は電車を降りて、家に向かった。

「お兄ちゃん有難う。ちょっと変えるかもしれないけど、何かの形でこのアレンジを生かせるようにする。」

「本当に。嬉しいけど、尚を支えている方たちは、本物のプロばかりだから、無理はしなくていいよ。」

「分かっている。まず、うちの社長の意見を聞いてみるけど、たぶん大丈夫だと思う。」

「有難う。」


 パラダイス興行に戻った久美が明日夏に言う。

「今日は、少年は来ていなかったわね。」

「少年って?」

「尚のお兄さん。」

「何で少年なんです?」

「何か、純真な少年という感じだから。」

「そうですか。背の高いお友達の話によると、会場前には来ていたけれど、途中で参加券だけ渡して、いなくなったそうです。」

「そうなんだ。ポスターの準備をしていて話しを聞いていなかったわ。悩んだ末、尚のところに行ったって感じかな。」

「まあ、実の妹ですからね。」

「恋人と実の妹か。実の妹でも自分が一番じゃないと浮気された気分?」

「そういう関係じゃないです。」

「でも、そう考えたほうが面白いわ。」

「私は面白くないです。」

「男を妹に取られたからと言って、怒らない怒らない。」

「そうじゃないですし、怒ってません。」

悟と治がバンから荷物を台車で運んで戻ってきた。

「あっ、社長、治さん、お疲れさまでした。荷物出すの手伝いますよ。」

「いや、いいよ。明日夏ちゃんは、休んでいて。主役なんだから。」

「いえ、手伝います。」

明日夏が箱から小物を出すのを久美はぼんやりと見ていた。明日夏も昔のことが頭に浮かんできていた。

 次の日も、誠は明日夏の会場に行き、セローと応援の方法について話したり、CDを買って参加券を渡した後、『トリプレット』の会場に向かっていった。

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