第10話 孤立都市・オスペダーレ

 世界から孤立した都市、オスペダーレ。

 ここで手に入らぬものはないとされるほど、圧倒的な流通量を誇る世界最大都市。一国の都市ではあることは間違いないのだが、政治経済流通人民、どの観点から見ても他に類を見ないほどの特異性を有しており、そのため独自の自治権を有している。


 この都市は『黄金の眠る都』と呼ばれている。先述した通り、それぞれの分野で至高の技術と知識、人材を例えて黄金と評している訳だ。しかしそれらはオスペダーレを離れることはない。この都市だからこその有用性であって、都市を離れたならば有用性は薄れることとなる……そのことを理解しているからだ。外で使えない超技術。これが『黄金の”眠る”都』と揶揄されて蔑まれている所以だ。

  

 ならば何故、黄金の財宝たちはオスペダーレを離れないのか。

 それはただ一点『全ては他の克服者を滅するため』に尽きる。

 五行病にはその名の通り五つの症例があるわけだが、それぞれの克服者は他の克服者の存在を是としない。反目しあい、潰し合い、時に殺人にまで至るケースが多々ある。彼らは自分と同じ克服者と結託し、いくつかの集団を形成するのも自然なことだろう。各集団はうちうちに技術を高め、利用し、他の集団に対して争いを起こし、技術を盗み盗まれ、発展させる。興っては潰え、また潰えては興り。

 そうして百年、千年と続けているうちに、代表的な七つのギルドが確立した。

 

 その七つギルドがこぞって集まり、革新的技術と知識を持って発展させたのがこの都市、オスペダーレである。

 故に外部への流出はない。

 技術も、知識も武力も、人材も。

 全ては他の克服者を滅するため。それ以外の用途には決して使わない。それがこの都市が世界から孤立し歪たらめている最大の要因である。『五行病』はこの世界に生きる人類にとって、良くも悪くも多大なる影響をもたらしている、ということだ。

 

 そんな混沌極まるこの都市にも、一定の規律とそれを取り締まる組織がある。

 それが七大ギルドの一角『帝治安維持局』である。

 金剛症の局長、『みかど』と呼ばれる長を筆頭に、ここに集まったものは皆一癖も二癖もあるものばかりで、この都市の治安を”勝手”に守護している、端的に言えば自警団だ。勝手に、とは本来は自治を任されている行政、もしくは官憲機構が取り締まるべきところではあるはずのものを行っているためだ。しかしこの都市で起こる犯罪はそのほとんどが克服者絡み。克服者には克服者でしか対抗できないため、彼らの出番は留まる事を知らない。症例者にしては性格も穏やかで、実直。多少融通が利かないところはあるものの、住民からの受けもいい。自分たちから犯罪行為、破壊行為をしないため行政側としてもほうっておくのが得策といった方針なのだ。


 そんなギルドの本部局舎が襲われた。

 都市に激震を齎すビッグニュースであるのは明白だ。

 

 同時に。

 それは長年保ってきたギルド間の均衡が崩れる合図でもあった。

 黄金の眠る都市、オスペダーレ。

 果たして眠るは黄金か、悪意の意思か。それとももっと別のナニカか。

 今都市は……いや、世界は新たな転機を迎えようとしている。

 

 そんな事とは露知らず、若者とおっさんは誘拐犯を追い都市を奔っていた。夢多く無知無謀な若者と、おっさんと呼ばれる人生に匙を投げた中年。

 二人が世界変革の立役者となることをこの時、二人は愚か世界の誰もが考えもしなかった。 

 

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