第5話 12時同、1時異。

 感動した。たった四文字に心が動かされたこの気持ちを表現できない。表現できないけど、感想を聞かれた俺はそう答えた。友だちに連れられて大きな舞台を見に行ったり、小さなとこで学生がやってるのも見た。1時間くらいの劇の間に何回違う人になるんだろう。彼の来ていたシャツは汗で色が変わってしまった。やってみたい。何かに打ち込んでいる人は輝いている。汗とライトが彼らを照らしていた。キラキラしてピカピカして、くるくる回ったりする彼ら。俺はいつしか舞台に立ちたいと思っていた。いつかあそこであの光を浴びてみたい。


 同じように見えても変わっている。だけど変えたつもりでも同じに見えることもある。俺は演技が得意じゃない。でも好き。好きなのに下手くそ。心を作って顔に出して体に染み込ませているが、そのつもりだが。いつも言われてしまう。さっきと同じだ。なにも変わってない。なんにも。


 専門学校でわちゃわちゃと仲間内で劇をすることになった。照明器具の話や操作方法を教えてもらって動かしてみた。俺は彼らを追いかけるのに夢中になって。いつしか彼らを照らしたいと思った。


 あの時同じだったからって今も同じとは限らない。同じタイトルでも話は違う。同じストーリーでも役者が違う。一時間話をしただけでも変わっていく。二時間弱の映画でも変わっていく。三時間のカラオケでも変わっていく。休憩前の四時間の仕事も、五時間の移動距離の間にも変わっていく。

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