第7章 二月の八雲

第24話 行き先

 作戦は予定通りに決行されることとなった。二人を失い、一人は戦力外になったとしてもその決断は変わらなかった。弥生が抗議し、せめてもと延期を求めたが、上の決定は変わらない。非合理的だ。まるで何者かの悪意が加わっているかのように。


「あたしも連れてってください!」

 警察学校を抜け出してLOS本部に乗り込んできたてるが叫ぶように頭を下げて頼んでいる。彼女が三度の死を知ったのは偶然だった。朝、当直だった彼女が教官室でLOS捜査官の死を聞いてしまった。そして輝気で詳細を聞き出し、ここにやってきた。

「ダメだよ。キミはまだ私たちの仲間ではない。あと数ヶ月待っていなさい」

「それじゃダメなんです! わかってますよね、あたしがどうしてここに来たか!」

 弥生の言葉にそう言い返してから瑛は俺とゆらに助けを求めるような視線を向けた。そんな視線を向けてきても無駄だ。俺は冷ややかに返す。

「一緒に来ても三度の仇は取れない。その仇は今から向かうところにはいない」

「そんなの……。でもあたしは……せんぱいの代わりに……」

きみ・・は三度の代わりにはなれないよ」

 冷たく突き放す。けれど優しく笑みを浮かべている。そんな俺に弥生もゆらも驚きの表情を向けている。まるで、これまでとは全くの別人を見るかのように。

「三度はたった一人の俺の親友で、たった一人のお前の想い人だ。自分の大切な人間の代わりになんて誰だってなれないよ」

 俺の表情にはソレが昨夜のことにもかかわらず、もう憂いや哀しみの色はない。この笑みには親友と呼ぶ彼のような柔らかさがあるはずだ。それが三度が俺に遺してくれたもの。

「瑛は瑛として、第零班に来いよ」

「ッ──、……」

 それ以上、反論はしてこなかった。そのかわりに「【私が入るときにいないなんてことにならないでくださいね】」と輝気を放って俺たちを送り出してくれた。

 

 輝臨神社きりんじんじゃ、源光大戦の後にその戦争で喪われた人々の安らかな眠りを祈るため光王ホープによって建てられた鎮魂の神を祀る神社だ。

 仲間がついに三人になってしまった。弥生、ゆら、そして俺。残ったその三人で輝臨神社きりんじんじゃへと乗り込む。こんな少数で心許ない中、八重と久遠に対峙することを決めた上の判断はやはり妥当とは言えない。他の捜査官たちの救援は期待できない。せめてもの救いはゆらも共に突入することだが、戦闘においては単騎討伐になる。八重と久遠、勝ち負けはともかく、この二人を相手取るのは今の俺と弥生なら可能だ。不安があるとすれば弥生が八重と戦えるかということだ。そもそもはっきり言って意味のわからないその判断に強い不信感が襲っている。黒の介入によるその判断という最悪の状況である可能性もあった。だが、俺たちはいく。上の命令を拒むことはできないという理由もあるが、俺も弥生も『勝てる』と判断したからだ。

 たとえ間違っていると分かっていても、目をつむらなければならないことだらけだ、この世の中は。そんな世界の中で妥協して、見て見ぬ振りをして、受け入れて生きていくんだ、と目を伏せる。でも、そんな世界だからこそ俺は意味を見つけられた。

 輝臨神社、そこに祀られる鎮魂の神に祈ることは唯一つ。友の鎮魂。だが、それは今ではない。やらなければならないことがある。それはもうひとりの友との決着。

「もう少しだけ、見守っててくれ。三度」


◇ ◇ ◇ ◇


 輝臨神社本殿に下へ伸びる隠し通路を見つけ、ゆっくりと下りる俺たち。待ち伏せは見当たらない。ここには八重と久遠しかいない。それは突入前に再生で確認済みだ。

 内部は入り組んでいていくつもの分かれ道をただ光射す方へと走った。そして、その分かれ道の一つで、弥生が立ち止まる。片方から八重の、もう片方から久遠の光が俺たちの分断を誘っていた。

「あかりは私が。久遠は任せたよ」

「大丈夫ですか」

「大丈夫」

「了解」

 頷いた俺とゆらは弥生と別の方へと走り出した。その背中を見送りながら弥生は思う。

 ──たくましく頼もしくなったね……。私も強くならなきゃね。

 腹を決め、冷たい光の方へと走り出した。

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