第23話 生と風前の
「三度……」
辺り一面が血の海だった。その中の頭が潰された死体と内蔵がぶちまけられている死体の二つが発生源なのは明らかで、腹に穴が空いている方へ歩み寄った。
傍らで跪いて抱きかかえた友の
三度のやりきったようなその表情と対照的に、俺の顔には哀しみと憎しみの入り混じった泣き面が浮かんでいることだろう。
追いかけてきたゆらが横にかがんで辺りを再生した。
ぶちまけられた内容物が三度の中に戻り、生守の頭部が復活する。
だが、ゆらであっても死んだ者を再生させることはできない。もう三度は戻ってこない。
「ゆら、何があったのか、現場を」
羽場を支えながら歩いてきた弥生が促すと消えた血の海の中でゆらが輝技を放つ。
その場所で何があったのかがVR映像のように再生される。
その一部始終を見終え立ち上がり、俺は荒々しく光を放つ。
「俺が、黒を殺す」
俺がこの瞳に復讐の光を携えたその瞬間──。
『──澪、』
映像の三度が横たわったまま、俺の名を呼んだ。
「三度」
友の名を呼び返し、再び跪く。
『一緒に戦うって言ったけど……守れそうにないや。……ごめん』
「そんなの……」
『澪なら……アカリや百々香…………そして黒だってきっと倒せる。……そう信じてるから……命を懸けて情報を託したよ……。そう考えれば……僕はきみと一緒に……戦っているから……』
「ああ……。任せとけ。俺がアイツを……」
『でも、それが復讐であってはいけない』
「──!」
『きみは意味を求める道中のはず……生きる意味を……『復讐』にしてはダメだ。…………そこで探すことをやめては……いけない。……黒に……きみの生きる意味を決めさせるな』
「…………」
『意味を探し続けろ…………。きみ自身で…………見つけるんだ……。じゃないと、僕は安心して…………』
「分かった……分かったから…………逝かないでくれ三度……!」
『……じゃあね、澪。……僕の…………光………………』
僕の………………親友………………………………………………………………。
三度、俺は立ち上がる。
「ありがとう……三度……。いま、俺の生きる意味が見つかった。復讐じゃない……。俺が……俺の生きる意味は──」
その言葉を言い終えた時、俺の透き通った水色の光が、水面で反射する太陽の光のように白く金色に輝き出す。
一瞬、目の前に神々しい門と天使たちのイメージが浮かび、その扉が開いていく。
そのイメージから現実に戻った俺は目に新たな決意の光を宿し言う。
「さあ、知ろう。三度の遺した情報ってやつを。教えてください、羽場さん!」
「九条、再生しろ。俺が、いや、空染が獲たこの情報を。そのために俺は空染に生かされた」
◇ ◇ ◇ ◇
八重は恩師に問う。禍々しい黒い黒いその男に。
「どういうことですか、これは」
「見たままだよ」
LOS捜査官が二人死亡したという情報について問いかける八重に漆黒は飄々と答えた。
「彼らはボクの正体を知ってしまった。空染三度は自力でその真実に辿り着いた。キミですら知らないワタシの正体。だから殺した。そしてそれは必要なことだった」
「必要なこと?」
「空染三度の死によって仁科澪は神域に達した。そして次はアナタの番だ、八重日」
「──貴方はこれまでオレに色々と教え、導いてくれた。だからこそ、オレはここまで来れた。本当に感謝している……。だけど、最後の最後にオレのやり方から逸した。人を殺すことは決してしない、という過程に背いた。それもオレを育てるための最後の試練とでも言いたげに」
「やはり、オマエはオレの思考をしっかり理解してくれているみたいだね」
その挑発するような禍々しい瞳に八重は気丈に言う。
「ここで貴方に挑みかかるような愚かな真似はしない。オレはまだ死ぬわけにはいかない。そしてこの先、貴方がオレの大切なモノたちを手に掛けようとするなら、そこで貴方を殺す」
「ボクからはもうキミには関わらないよ。そして最後の教えだ。大切なモノは近くに置いておかないと壊されてしまうよ」
言うやいなや、目の前にいるはずの黒を形取る線が蜃気楼のようにブレる。
「さようなら、八重日。また会おう」
次の瞬きの後、その漆黒の姿はどこにもなくなっていた。
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