第22話 伽藍堂

 緊急の呼び出しに俺は嫌な予感を拭いきれなかった。

「資料室から三度、先生、羽場さんの三人が突如として消えた」

「どういうことですか!」

 弥生の言葉に思わず声を荒げてしまい、先の言葉を待って口をつむぐ。

「分からない。監視カメラの映像もゆらの再生も瞬時に彼らが消え去るのを映していた。アコニトムの初めての襲撃。国会議事堂前で報道陣が瞬間移動させられたように」

「これはおそらくアコニトムによる奇襲じゃない……。こういうやり口は八重、アコニトムの望むものとはかけ離れています」

「おそらく黒による独断の襲撃……か」

「三度たちは何かを掴んだってのか……」

「それも分からない。資料室の機器は履歴とか何も残っていなかった。でも再生の音声でおかしいところがあったの。三人の会話の中で規制音みたいになっている部分があった」

「それが原因か? ……俺に任せてください。三人の居場所を探し出します」

 俺の提案に弥生が疑問符を投げる。

「どうやって?」

「できるかはわかりません。けどやってみる価値はある方法です」


 LOS本部ビルの屋上に立ち光を放った。そして水を生み、その水を空中へ霧散させた。

「空中へ霧のように放った水は俺のコントロール下にあります。そこから敵の位置を探る索敵用に開発中だったんですけどね……おい、三度!」

「待て澪!」

 急に声を上げて、屋上から飛び立った俺をゆらが再生で元の位置に再生し、落ち着きを取り戻させる。見つけた。だが、おかしい……。

「何があった。何を見た?」

「三度が倒れてる。それに生守さんもだ。羽場さんはこっちへ移動しているけど、足がない!」

 その言葉に二人が戦慄せんりつする。もう遅かったのか。

「黒がいるとしたら、羽場先輩を追っているに違いない。羽場先輩と合流し、援護する」

「三度は!」

 その指示に俺は夜闇を切り裂く大きな声で放った。

「この霧じゃ生死までは分からない! まだ生きてるかもしれない! 助けに行かなきゃ!」

「ダメだ! 澪、現実を見ろ! 今はゆらの再生で羽場先輩を生かし、私たちで守る。それが最優先だ!」

「見捨てろって言うんですか!」

「そうだ! 羽場さんは何かしらの情報を持っている。生きていればその情報は繋がる。私たちに! 今最悪なのは三人全員をうしない、情報が闇に消えることだ! それは三度や先生が獲た情報のはず。二人の戦果を無駄にするな!」

 言い放って返答を待たずに弥生がゆらを抱えて、屋上から飛び降りていく。

「クソッ!」

 俺は拳を血が出るほど強く握り締めてから、自分の頬をぶん殴る。そして霧の中うっすら見える弥生のあとを追った。


 合流した羽場は足がももから下が切り落とされなくなっているのを糸で止血されている。羽場自身も光欠乏や失血で意識がキレギレだ。そんな羽場を間を置かずにゆらが再生、羽場の足が元に戻る。

「羽場さん、いったい何が!?」

「黒だ……。先生と空染がやられた。どういう訳か奴は俺を追ってきていないが……」

 その胸ぐらを掴み上げる。顔を突き合わせ俺は最強に強い言葉を吐く。

「あんたは三度や生守さんを置いて逃げてきたっていうのか!」

「そうだ。逃げられるのは俺しかいなかった」

「ッ……何が最強だよ」

 ゆらが引き剥がすと俺は羽場をその場に落とし、歩き出す。その行く手を弥生が阻む。

「ダメだよ。行っても返り討ちにあうだけだ。それにここを襲われた時、私だけじゃどうにもできない」

「行かせてやれ、如月」

 俺に助け舟を出したのは羽場だった。

「奴が俺を殺す気なら俺はここに辿り着けていない。そして奴と戦闘になったら俺たちが束でかかろうと無駄だ。俺たちの攻撃は通じず、一方的に虐殺される……。されたんだ。空染がいなければな……」

 その言葉に俺は振り返らずに三度の元へ走り出した。もう止める声はない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る