第19話 未来への風

 そこにはギャラリーとしてゆらと瑛がいた。俺のあとをついてきた羽場もそこに加わる。

「さあ、始めようか。澪。どんな重傷を負ったってゆらと瑛がいれば大丈夫。殺す気でこい!」

「お前も、ためらうんじゃねえぞ! 三度!」

 もう、言葉はいらない。

 お互いに強い光を放つ。

 澄んだ水色の光。

 青みがかった灰色の光。

 その光を見たゆらが言う。

「三度の光の青みは澪の影響でそうなったのかもしれない。光は他人の光にあてられることがある。それも依存によるものが多いらしい。もしここで三度が澪を払拭するならそれは……」

「せんぱいは大丈夫。きっと自分の色で光ることができますよ」

 両者同時に咆える。

「「行くぞ!!」」

 俺も三度も右の手のひらに大玉を渦巻かせる。星域に至った二人のそれは元の光量の何倍もの光が込められた超高密度のエネルギー弾となり元来の意味での終輝と呼べるものになっていた。

「【花水輝ハナミズキ】!」

「【穿空弾ゼラニウム】!」

 激突、強烈な衝撃波を発生させて弾ける。それが始まりの合図だ。

「──貫け」

 撃ち合った俺たち、すぐに次の攻撃へと移ったのは三度だ。槍のように鋭い風で射抜く。

「【風槍ふうそう的射まとい】!」

「あたし!?」と瑛が素っ頓狂な声を上げているのを彼方に聞きながら、自分の姿を陽炎の向こう側にいるかのようにブレさせる。水による屈折で位置をずらした俺に槍は当たらない。

「【水陽炎みずかげろう】! 【間欠泉】!」

 槍を外した三度の足下から間欠泉のように水を噴き出させる。空気を固めて蓋をして封じるが、想定内!

 水の弾丸を放ち、それと同時に水を噴出したその勢いで三度めがけて跳びかかる。

 空気を固め壁を創り、水弾を俺ごと跳ね返しトランポリンにタックルしたみたいに吹き飛ばされる。追撃。風の斬撃が吹き飛ばされた俺を襲うがその体勢のまま水の斬撃で風撃を散らす。

 間合いを取り、睨み合い次撃のタイミングを見計らう。

 三度は俺の周りの空気の濃度を薄めて窒息を狙う戦法は取るつもりはないし、俺も大量の水で飲み込み窒息を狙う決着はつけるつもりはなかった。

 ここまで俺たちはお互いに全ての技を相殺もしくは回避している。つまり、決着は一撃。

 再び水弾を連射。三度は今度は初めから足下からの間欠泉を想定しそこに空壁を、そして水の弾は空気の弾丸で撃ち落とす。案の定、俺は間欠泉を放っている。しかし──。

 放たれた間欠泉は三度の背後から噴き上がる。その水を弾や斬撃にすると判断し咄嗟に空壁を背後に展開する三度。視線は目の前の俺に向けたまま、その瞬間、

 三度の視界から俺の姿が突然消える!

「──!?」

 俺の光を背後から感じ振り向く三度の眼前に空壁を破って突撃する俺。この右手に渦巻かせるのは花水輝。三度はその水の玉をぶん殴り、高エネルギーが弾け、俺も三度も吹き飛ばされる。

 殴った三度の腕は風を纏わせていたため無事。そして三度は思考を巡らせ今の攻撃を分析する。その時間を与えまいと俺が小ぶりの花水輝の蕾を三度に投げた。

 三度は今度は割らずに軌道を逸らして対処しようとする。その玉が三度の目の前に迫った時、それが俺になる。

「──!」

 正確には水の玉と入れ替わった俺はそのまま目の前の三度に襲いかかる。

 その俺に背後から風の斬撃が。それをかわすために三度に攻撃を入れられない。

 突っ込んでくると読んだ三度の罠か。だが、俺はその一手先への対応をしている。俺と場所が入れ替わった小さい花水輝の蕾が俺の後ろから時間差で飛んでくる。

 俺は攻撃を避けただけでまだ三度を射程内におさめている。飛んでくる花水輝への対応を示せば、俺本体にやられるぜ。三度はソレを出さざるをえない。出させた。

「終輝!」

 三度が叫ぶのに反応し叫び返す。

「終輝!」

「【蒼穹を穿つアトモスレイ】」「【水に帰すフロース】」

 強大な必殺の光がぶつかり合い、強い強い輝きを放つ。

 楽しい。きっと三度もそう思ってる。読空を使わずとも相手の一挙手一投足が読める。それは俺も同じ。長い月日を共にしてきた二人にのみ辿り着ける光の極地。相手の光を見て次の行動を予測して戦う二人の戦闘はもはや最強と謳われる羽場をもってすらその速度についていくので精一杯だった。まさに光速。そしてその中で戦う二人は笑っていた。それは元々なんのための戦いかという理由すら忘れ、ただ子どもみたいに、親友と遊んでいるように。人生で初めて俺は楽しいと感じてる。ありがとな、三度!

 だが、終わりは来る。

 機転を利かせた俺のなにもない空中から真横へ向けた間欠泉を三度はモロに浴びる。それは水滴一滴一滴が針のような痛みを三度に浴びせた。横へ吹き飛ばされるのを空気をクッションにしてこらえるが、それが仇になる。

 三度に一撃を入れ用済みとなった間欠泉の水と俺が入れ替わる。

 俺の攻撃はただ水を纏わせた拳によるパンチ。それが空気のクッションに包まれ瞬時に身動きを取れない三度の顔面に入り、空気クッションごと吹き飛ばす。

 クッションが緩衝材となり地面を転がった影響はゼロ。ただ、決められた一撃のダメージが大きい。揺れる視界を気にせず三度は立つ。言うことを聞かない身体を風で支え空気を手に渦巻かせながら。最大の光を放つ。その時──。

 三度の光の色が突如として輝きを変える。

 その光からこれまでのような青みが消える。そして、その色はくすぶるような灰色でもない。

 銀色の眩い光──。それは三度の覚悟の、三度の誇りの色。三度が俺という鎖から解き放たれる!

 三度が突っ込んでくる。友の最後の一撃を万全の構えで迎え撃つ。真正面から叩き潰す。

「【穿空弾ゼラニウム】!」

「【花水輝ハナミズキ】!」

 風の玉を撃ち破り、そのまま三度の腹に花水輝が咲き誇る──!


 倒れる三度を受け止める。

 ぐったりした三度をゆっくりと寝かせて、ゆらと瑛が治療しに駆け寄るのを待つ。

 三度は目をつむったまま語りかけてくる。

「最後……手を抜いただろ。いまこうやって口を動かせるのが証拠だ……」

「ああ……。だけど最後の花水輝以外はずっと本気だったし、最後はお前も全力じゃなかったろ?」

「どうかな……」

 そこで三度の目から涙が溢れた。

「悔しいなあ……悔しいよ……」

 三度は片腕で顔を拭いながら隠す。

「僕はきみの隣に立ちたかった。きみは自分が生きる意味はないと言ってきたけれど、きみという存在はずっと僕にとって大いに意味のある存在だった。きみは──僕を導いてくれる光だ。その光は確かに、僕にとって意味のあるものだったんだ。その光に並び立ちたかった」

「最初から言ってるだろ。お前はずっとからっぽな俺の隣りにいてくれた。俺を支えてくれた。だから俺は不安なく意味を探し始めることができたんだ。俺にとっても三度は光だった」

 その言葉に三度は上体を起こし笑みを浮かべた。

「いままでありがとう、澪」

「ここは『これからもよろしく』だろ。次の作戦は俺たちの連携も必要になってくる。久々に一緒に戦うんだ。で八重も久遠もぶっ飛ばすぞ! よろしく頼むぜ、親友!」

「ああ! 一緒に、戦おう……!」

 俺と三度は拳を突き合わせ笑いあった。


 三度は瑛に回復してもらうと立ち上がる。元々、最後以外はお互いに一切攻撃を受けていない。そんな二人に羽場が仰々しく声を上げた。

「お前らやるじゃねえか! 良い人材を見つけたぜ! お前ら、俺と一緒に楽園に来い!」

 突拍子もないその言葉に俺たちは思わず顔を見合わせた。

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