第14話 時の凍結
久遠は輝気【解放】で自分自身の潜在的な才能を解放し、裏社会を仕切れるほどの最強の力を手に入れた。
戦闘においては自身の火事場の馬鹿力を強制的に解放し絶大な身体能力を持つ。また、地面の遥か深くに眠るマグマを呼び起こし任意の位置で噴火させる自然をも味方につける力や自己回復力を解放することで無限再生能力も持つ化け物だ。そんな相手に私は立ち向かわなければならない。
久遠の汎用性の高い能力に対し、私は『凍らせる』という一点に秀でた輝気。どちらの能力が単純に強力かを比べれば、前者に軍配が上がるだろう。だが、それも使いようによってひっくり返る。そうでなければ、ここに立ってはいない。
一撃だけ放たれた噴火をかわすと、その技の使用を凍結する。それは対久遠用に編み出した新たな技。使用できなくさせるということを凍結と言うことができる。それは一度使用したことをできなくさせる輝技。あかりとの模擬戦で使えることはわかってた。あの時は技の発動自体を凍結していたが、今回は時間制限と発動条件をつけることでより強力にしている。それが溶けるまでは約三〇秒。
火事場の超パワーから放たれるパンチの風圧に自分の靴裏と地面を凍らせ飛ばないように耐えるがその隙に私へと敵が迫る。足を固定したのは愚策と言わんばかりに久遠の拳が襲う。
「終輝【
そちらから射程に入ってきてくれるなら好都合! 目の前の敵に必殺を放った瞬間、にたぁっと久遠が不気味な笑みを浮かべる。
久遠の光を凍らせていくも逆にそれはドンドン溢れてくる。光が生み出される速さと光を凍らせる速さ。凍結がそのスピードを上回れず弾き返される。想定内。そう──私がお前の攻撃を受けるまでは想定内だ! 久遠の腕が振り抜かれ私のみぞおちに触れた瞬間を狙いすます。
「【
辺りの時間を凍結する輝技。停止した時の中を自分だけは動くことができる。私は敵の拳をかわせる位置にすぐ移り久遠を凍結させ全力で右ストレートを繰り出す。時が動き出すまでの二秒の出来事。動き出せば、凍った久遠は粉々だ。
時が解凍する──。久遠の拳は空を切り、凍結が凍らせた敵の身体を、その凍った腹部を、私の拳が貫き穴をあける。
空いた穴はすぐさま修復されていく。治ることは問題ない。狙いはその修復能力。
「凍れ──」
凍結させたのは修復能力。これで久遠はもう回復できない。それを待っていた。今から三〇秒だけ、敵は無敵ではなくなる。その間に倒す!
久遠の足を凍らせ、その解放に気を取らせてから頭目掛けて氷結を放つ。久遠は対応しきれず頭部を氷漬けにされる。このまま──!
「はあっ!」
凍りついたその顔面を全力で殴り飛ばし粉々に砕く。頭を失った胴体が地面に膝をついた。それでも安心するには早い。追い打ちとして心臓部を凍らせ同じように砕き散らす。
頭と心臓を失った。三〇秒はまだ経たない。久遠は頭と心臓を回復できない。
──私の勝ちだ!
「最期はあっけないものだな、久遠」
「ええそうね──」
「!?!?!?!?」
勝った──はずだった。目の前の久遠は確かに死んでいる。それなのにどこからともなく、声が聞こえてきた。まるで頭に直接流れ込んでくるみたいに聞こえてきた。その動揺が勝敗を分ける。首と心臓のない胴体の腕が突如として動き出し、振り抜かれ私は反応しきれずにふっ飛ばされた。
「?????」
死んでいるはずのそれが動いたことを受け入れられない。理解できない。いったいどういう理屈だ。ゾンビか、お前は。そのダメージは身体的にも精神的にも大きく動けないまま回復技の凍結が溶ける三〇秒が経つ。久遠の頭と心臓が超回復し元に戻っていく。戻った口が何事もなかったように動く。
「残念だったね。如月。アタシはもう身体という枷に囚われていない」
「ぐふ……」
口から血が。油断したところに決められた一撃。解放された一撃は強力すぎて、あちこち骨やら中身やらが潰されているのがわかる。触れた瞬間に内蔵を解放されなくてよかった。
「アタシは自分を身体機能から解放した。脳や心臓の機能なんて関係ない。今のアタシは光であり、自分の光がアタシ自身なんだ。要するに殺されても死なない。唯一殺せるとすればアンタの
敵がそう長々と言葉を並べるうちに残る限りの光を生み出す。私は負けた。でも、
──私たちはまだ負けてない!
──【
時間を止められるのは一定範囲。せいぜい直径五メートルの球体の中だ。光の残量から三分は時を止められる。四人の誰かが帰ってくるまで時を止め時間を稼ぐ。たとえ自分が倒せずとも、あの四人ならばこの怪物を倒せる。そう判断した最後の抵抗。
三分もの時を止めれば反動は経験したことのないものになるだろう。ボロボロのこの身体ではそれにはきっと耐えられない。私の覚悟は友を喪ったあのときからできている。
ただこの化け物なら時の呪縛からも解放されかねない。それだけが気がかりだったがその動きは見られない。でもいつまでもつかもわからない。早く来てくれ、と願い目を閉じる。
その願いと裏腹に彼らは足を止めていた。
空中を翔ける僕と生み出した氷を足場に宙を走るあかりは「ちょっと傷がツライ」という言葉で屋敷までもう少しというところで人気が排除された住宅街の公園に降りた。
僕がベンチに腰を下ろす。
僕の傷は深く、自らの血を固めて塞いだとはいえとても戦える状態にあるとは言えなかった。
あかりはそれを見抜いて置いていこうとする。
「空染、そんなんじゃもう戦えないだろ。足手まといだ。ここに残って救護を呼べ」
「そうだね。戦えないのは自分でもよくわかってるよ」
そう言いながら引きつった笑顔を浮かべる。これから僕がすることは今やるべきことじゃない。最善と言うならすぐにでもあかりを弥生のところへ行かせるべきだ。でも、その判断が真逆の結果に繋がってしまう可能性を、いや、繋がるという確信があった。
「時間が惜しい。オレは行くぞ」
「待って。ここに降りたのはきみと二人で話すためなんだ」
「こんな時に話すことか?」
「そうだ。重要なことだ」
「なんだ」
僕はあかりの目を真っ直ぐ見て問う。
「あかり、きみがアコニトムのボスなんだろう?」
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