第13話 血と酸素
横に河川敷のグラウンドが広がる橋の下。僕とあかりが飛ばされたのはそんな場所だった。
そしてそこには件の斬殺鬼が静かに眠っていた。
僕たちが無意識に放った光と殺気に気づき百々香出示は目を覚ます。
「おや、貴方たちは……どこかで見たような」
それに僕もあかりも激昂する。
「二年前! お前が捕まった日にオレはお前に殺されかけた!」
「ああ、如月弥生に守られたあの少年ですか。で、そちらは?」
「あの時僕は仁科澪の隣りにいた。おまえは見えていなかっただろうから知らなくて当然だよ」
「いえ、仁科澪に気を取られて興奮していましたが、おぼろげにですが覚えていますよ。ワタクシを前にして冷静にその場を打開する術を探し、そして何もできなかった少年だ」
その百々香の言葉は僕たちの怒りを頂点に達せさせた。
「今度は! 僕のことを!」「オレのことを!」
「「お前の脳裏に叩き込んでやる!」」
激しく発する光に百々香もその血赤色の光を禍々しく発する。
百々香との戦い方は澪から伝え聞いていた。距離があるうちにあかりは自身の周囲に氷を展開する。怒りを湧かせながらも冷静だった。
「僕は遠距離から援護するよ」「任せた」
あかりが百々香に突撃する。鬼の斬撃を氷の斬撃で迎え撃つ。氷の刃は斬撃と打ち消し合って砕け散るが、すぐに細氷を集め再生させる。その瞬きもできないような短い間、僕の遠距離からのかまいたちのような風の斬撃が百々香を襲い援護。
「僕を先に狙うつもりだ!」
読空で読んだ敵の思考を叫ぶ。
「──!」
一歩踏み出した百々香が思い描いた経路をあかりが塞ぐ。だが鬼は構わず標的を変更してあかりへと斬りかかる。その斬撃を横からの斬風が全て薙ぎ払った。がら空きとなった百々香の懐を氷刃が斬り裂き、そして展開した氷を百々香に集めて氷の牢を形成し拘束。一撃離脱、距離を取ったその途端──あかりよりもさらに離れた位置にいた僕を斬撃が襲った。な、拘束しているのに! いつ!?
「空染!」
「大丈夫だ、こっちに気を取られるな!」
大丈夫などではない。避けきれずモロに喰らった。背中を左の肩から右脇腹まで斬り裂かれたその傷から多量の血液が流れ出る。ハッキリ言って何が起こったか分からなかった。
鬼は氷を斬り去って脱出。水ほどの流動性のない氷では澪のようにはいかなかった。
僕からの援護が途絶えたあかりは次第に追い詰められていく。氷の剣で斬撃を斬り落としていくも、砕いては造形、砕いては造形の輝技では百々香のノータイムで連射される斬撃に手数が追いつかなくなった。受けきれない。
──ヤバい。そう思った瞬間、百々香の背後から風の斬撃が襲い斬り裂いた。自分がやられたことをやり返した形だ。引いて僕のところまで下がったあかりが聞いてくる。
「動けるのか! 傷は?」
「血を酸化させて塞いだ」
「お前も大概イカれてるよ」
僕が入れた百々香の傷は浅い。手負いの僕の援護があってもジリ貧だ。
なにか手を──と考えを巡らせるあかりと僕、そして斬りかかるタイミングを見計らう百々香に急に空から声がかかった。
「邪魔するぜ」
降ってきて目の前に着地したその男の顔には見覚えがある。いや、ハッキリ知っている。それは前日本最強……。
「あなたは──」
「楽園所属・
「羽場紡糸。あなたは楽園に行ったはずでは?」
「久しぶりだな百々香。ああ、行ってたけどちょっと野暮用で戻ってきたんだ。ぶらぶらあるってたら強い光を感じてよ。来てみたらお前が戦ってるじゃねえか。脱獄か? そんな情報は聞いてなかったが」
「ええ。三ヶ月ほど前に。今日はその二人に狙われましてね」
「ふーん。おい、おまえら」
「はい」
羽場の呼びかけにあかりが応答する。
「なんで二人でコイツと戦ろうなんて考えた。バカなのか?」
「今日のメインは百々香ではありません。支影・久遠永遠の討伐作戦が現在進行中。オレたちはその妨害で転移させられてコイツの目の前に」
「なるほど。そりゃコイツの相手なんてしてる場合じゃねえだろ。行きな」
その羽場の言葉に百々香が目を細める。
「二年前、ワタクシに手も足も出なかった貴方が単独で戦う、と?」
「あのときと一緒にすんじゃねえよ。二年間、お前は塀の中だった。二年間、俺は楽園で鍛えてきたんだ。今のお前に俺が遅れを取る訳がない」
「どうやら最強は楽園の甘い果実をすすって慢心を覚えてしまったようだ」
「言ってろ」
羽場が
「行け、お前ら。ここは俺一人で十分だ」
その言葉に従い僕とあかりは元いた場所、久遠邸目掛けて走り出した。
「さあ、始めようぜ。斬り裂き鬼!」
「二年前は斬り損ねましたからね。では!」
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