第5章 輪切り
第11話 支影殲滅戦
五月末、LOSによる大規模な作戦が行われることとなった。その内容は『支影の
支影は四月の久遠による制裁から五月頭に内部分裂が勃発。その抗争で裏社会への支配力が低下。それまで鳴りを潜めていた末端より上のちょっと厄介な輩たちが次々と表立った事件を起こすなど影響が大きく出始めた。これまで裏の支配を支影に任せていたこと自体を疑問視している声も少なくなく、支影を討つ作戦敢行が決められた。
「今回の支影の一件は明らかに異常です。それまで盤石だったからこそLOSも手が出せずにいたのに、ただの内部抗争くらいでこんなにぐらつくなんて。久遠の独裁は以前から続いていた。そんな久遠からの制裁程度で、まるで機を見計らったように内部抗争になるなんて」
三度が珍しく作戦に反論を述べるのを弥生が
「分かっているよ。支影が……いや、他の存在が私たちを誘き出しているかもしれないってことは。でも、先生や諜報部の調べでは本当に内部分裂が多発し、あの久遠永遠でさえ手を焼いているそうだ。やるなら今しかないのも事実だよ」
三度はまだ納得いかないという顔を浮かべている。
「三度が不安視するのは失敗した時のリスクでしょ? 失敗すれば表の秩序すら食われてしまうかもしれない。でもね、アコニトムが名乗りを上げてから犯罪数が明らかに増加している。爆発的と言っていい。それによって警察やLOSへの世論からの批判も増えている。今のままでも表の秩序は危ういんだ。それらを一蹴し、LOSの力を示す。そして裏も表もない秩序を取り戻す。これ以上、悪に好き勝手を許すわけにはいかないんだよ」
「……わかりました」
「支影本部に乗り込み久遠永遠を討つ。支影の支配は幹部数名を従える彼女一人の一強だ。彼女が倒れれば全てを屈せられる。
作戦の要は私。私が久遠永遠を討つ。澪とゆらには私の補佐を。私が倒れないように再生と戦闘の援護。澪の輝気は私の凍結と相性がいいからね。あかりと三度が組んで久遠に辿り着くまでの援護。私が久遠を討てるかどうかに全てがかかっている。それだけの作戦だ。だけどみんなの働きにもかかっている。頼むよ!」
◇ ◇ ◇ ◇
作戦の決行日。
組織と言っても、会社のようにビルを持ち、そこに人が集中している訳ではない。今回で言う支影本部とは久遠永遠の所有する屋敷。東京の郊外に構えられたその豪邸に久遠は住んでいる。しかも一人で。久遠はその輝気【解放】で噴火などの自然災害をも起こせる。そして人を殺すのを何ら躊躇しない最低の人間。あたり一面を火の海にし、巻き添えに巻き添えを重ねながら逃亡する恐れもあった。
だからこそ、これほどの大規模作戦となったのは近隣への被害を考えたためだ。久遠には事前にバレても構わないという構えで周囲を封鎖。周りの住民たちを避難させた。プライドの高い久遠に逃げるという選択肢はない。待ち構えられるに違いない。だがその人数も内部分裂が起きていることから高が知れている。だからこそ、人数不足のLOSでも今回の作戦を行うと決められた。周囲の封鎖・避難は警察の協力あってこそだが。その大規模さは作戦の成功時に力を誇示するという点でも符合した。
「それにしても、今回の作戦は急すぎるよな」
「たしかに。姉さんが言っていた理由があるにしろ性急すぎる気はするな」
三度は澪とあかりの会話に入らず聞くことに徹する。これから三度が対峙しなければならないのは支影だけではない。アコニトムがこの機を逃す訳がない。確実に動いてくるだろう。その未だ顔すら見せないボスが動いてくるとしたら、ここしかない。顔すら見せない、か。三度は自分の思考に少し笑えてくる。
「今回で最悪を考えるなら何だ? 師匠が返り討ちに遭うこと以外に」
「第三者の介入……例えばアコニトムとかが出しゃばってくる、とかな。場が混乱しやすい。他にも百々香と接触もしていたんだろう? それに漆黒も……」
「!──それはちょっと骨が折れそうだな」
「ちょっとで済めばいいがな」
作戦決行の時間だ。二人も会話を終わらせて、眼に鋭い光を走らせる。
──突入!
久遠邸の立派な門をぶち破って突入。案の定待ち伏せされていた。両サイドから飛び出てくる屈強な男たちをあかりと澪が氷と水で面制圧。そして門から屋敷の入口まで三度が風を渦巻かせ自分たちを乗せて一気に飛ぶ。屋敷の扉も蹴破り屋敷への侵入は成功。しかし──。
先頭で屋敷に踏み入ったあかりと三度が──消えた。一瞬で。
「【再生】!」とゆらが輝気を発動するも反応しない。
「輝気による転送のトラップか何かか!」
「二人ならきっと大丈夫だ。久遠を!」
先を急ごうとする弥生に屋敷の奥から声がかかる。
「ひさしぶりだね、如月弥生」
その声に目を向けた瞬間、隣りにいたはずの澪とゆらもいなくなる。
──くそ、まさかこんな簡単に分断されるなんて。予想していなかった訳じゃないけど……。
「……久遠永遠。私の部下たちをどこへやった」
「イイところへ飛ばしてあげただけだよ。この日本で最も暗い者の場所へ。まあ誰のところかは知らないけれど。近くにいるか遠くにいるかは運次第。こっちもそんなに多くの被害を出したくないんでね。最初っからタイマン張った方が都合がイイだろ、お互いさ!」
弥生が真青な光を放つ。対して久遠は不可視の光を放つ。
「さあ、決めようじゃない。日本最強を!」
「純色の力をナメるなよ、久遠!」
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