第-1話 意味
LOSは警察からは独立した組織だが、その職務はほぼ共通であり、LOS適性者の少なさもあり、特殊技能(輝気使用)がある以外は他の新人警察官とともに警察学校で半年の教練を行うこととなっていた。
この年のLOS適性者は三人。俺、三度、そして八重。この三人だった。これは明らかに多いと言える人数だ。
「よろしくな、八重」「よろしく」「よろしく頼む」
それが俺たち三人の出会い。これから長い時間をともにし、数々の事件をLOSとして解決していく仲間になるんだ。
最初の輝気の授業を迎えると、講師として俺たちの前に立ったのは──
「姉さん……」
「あかり、ここでは私は教官だ。節度を持って接せ」
「失礼しました」
早々に叱責する身長が高く、長く伸ばした髪を後ろで束ねポニーテールにしているキリッとした印象の弥生と
「あ……」
「やっほー仁科くん。久しぶり」
教官の隣から手を降ってくるくりくりした黒い瞳をした柔らかい印象の九条の二人だった。
弥生が改まって話し出すので、気を引き締める。
「私は如月弥生。LOS第零班の班長でありキミたちの教官だ。キミたちは百々香の事件を経験してる。きっとすぐに強くなれる。だがそれにはキミたちの自助努力も必要だ。辛いとは思うがついてきてほしい! 以上だ。では訓練を始める」
場所は警察学校の敷地内に建てられた体育館。ただの体育館ではなく輝気による強化で頑丈になっている。一般の警察官の卵たちは別に輝気訓練を受けている。
「キミたちの輝気適性は見せてもらっている。早速だが、キミたちが今日までの一年でどれくらいその輝気を使えるようになっているかを見せてもらいたい。まずは空染」「──はい」
前に出た三度は青みがかった灰色の光を放つ。
「──【
呟くと三度の身体が宙に浮く。そして自由に飛び回り始めた。そのまま弥生たちに向かって腕を振る。すると、たちまち強風が吹き付けた。
「よし、次。仁科」
「はい!」
今度は俺が澄んだアクアブルーの光を放つ。
「──【
足の裏から水を放ち飛ぶ。掌からも水を出しつつバランスを保つ。
空中に留まりつつ、剣の形を模した水を生み出し振り下ろした一撃は強化された床に当たり水飛沫となって飛び散る。百々香の事件から俺と三度は鍛えまくった。あらゆる情報を調べ、輝気を上手く使うために訓練した。二人で戦いながら。その成果だった。
「次、あかり」
弥生は淡々と進めると八重が前に出た、そのとき──
八重が弥生に向かって飛びかかった。弥生はとびかかってくる八重に向かって氷結を放つがその飛びかかりはフェイク。足下から氷の槍を生み出し突く。弥生はそれに反応し、槍の氷を凍らせて止める。八重は気にせずそのまま氷の弾丸を生み出し放つ──これも凍りつき落ちる。
「なにやってんだお前!」
叫びながら八重の全身を水で包み込むと八重は水を飲み込み溺れるも、すかさず俺に向かって氷の弾丸を放ってくる。その氷弾を三度の風撃が吹き飛ばし、俺たちがなおも応戦しようとすると
「よし、終了!」
弥生が発した突然の終了の合図に八重は光を引っ込めた。それを聞いても状況が飲み込めない俺と三度に九条がアイボリーの光を放って輝気を発動する。
「【光戻し】」
技が発動した瞬間、水が消え去り、風が止んだ。
呆気にとられる俺たちをよそに弥生が八重に問う。
「で、私に向かって技を放った理由は?」
「前の二人を見て対人で使用したほうが良いと判断しました。この中で奇襲に対応できるのは如月教官だけだと考え攻撃しました」
「まあそういうことだとは思ったよ。でも、そっちの二人が手を出してきた上に制圧されたのは意外だったろ?」
八重はそれに答えずそっぽを向いた。対して弥生は俺と三度の方に向き直って言う。
「ま、そういうことだから! それにしても、私が攻撃されてすぐに動いたのは良かったよ。あれがキミたちがLOSに選ばれた
「もう、弥生さん。鬼教官で行くんじゃなかったんですか?」
「あはは。この光り輝く宝石の原石たちを前にして讃えるなと言う方がムリだよ!」
「まったくもう……」
呆れる九条に弥生は大きく笑うが、俺も三度もやっと状況を理解し始めたところだ。
「いや、すまないね。素晴らしいよキミたち。最初の段階でここまで輝気が使えているなんてことは歴代でも羽場さんくらいだろうね。しかもそれが三人も。キミたちがどれだけ強くなれるか楽しみだよ!」
自分が褒められていることを自覚すると少しむず痒くなった。
「さて、実力は見せてもらったし、次はLOSに入って何をしたいのか聞こうか。まあ適性が出たからここにいるんだろうけど、それ以外にあれば教えてほしい」
その質問に真っ先に答えたのは八重だった。
「強くなる。その必要がある。誰もの進む道を照らす光にならなければならない」
はっとして口を抑えた八重に三度が続く。
「こんな僕でも誰かを救える力があるのなら、その力を他人のために使いたい」
弥生は二人の言葉に頷いてから俺に促した。いや、促されたというより無意識に口にしていた。しかし、俺から出た言葉は──
「なにもない。生きる意味がないんだから、やりたいこともない」
その言葉に弥生と九条は絶句し、三度は悲しそうに俯いて、八重は眉をひそめた。
「何をした?」
弥生に問うのは八重。いまのはどう考えても初対面の人間の前でそうやすやすと口を開ける質問ではない。なのに口は簡単に動いてしまった。それに答えたのは九条だった。
「ごめんごめん。私の輝気だよ。【再生】──『再生』という言葉から連想できることはだいたいできるんだ。今回はみんなの本心を口から音声で再生してもらったの」
「そんなのもありなのか」
「さっきのが本心なら、お前はとんだクソ野郎だな」
「なんだと?」
突っかかってきた八重に思わず喧嘩腰になる。
「生きる意味がないから、やりたいこともない? ふざけるな。生きる意味は自分で見つけ出すものだ。探したのか、自分で。していないだろ。目を見れば分かる。最初から諦めた奴の目だ。そんな奴は誰かを救うことも、そのために強くなることもできやしない!」
「……」
八重が声を張り上げたのに黙ったまま言い返せなかった。
「そこまでだよ、あかり。いいこと言ってるけど、それも何かを成してからにしなさい」
「今のが俺の本心なのは間違いないです。でも、俺は……」
百々香と羽場の言葉を思い出す。
「俺は生きる意味を探したいと思ってる。心の底では諦めている。だけど、俺の水面には、上澄みかもしれないけれど、探したいという思いも確かにあるんだ。そして強くなることは俺にとっては結果じゃなく、意味を見つけるための手段の一つだ。だから俺も強くなる!」
その言葉を聞き八重は息を一つ大きく吐いた。
「……すまなかった。言い過ぎた」
「いや、いいよ……。それより、お前もずいぶん恥ずかしいこと言ってたじゃんか」
「──!」
「誰もの進む道を照らす光に──って、かっこいいじゃん!」
「……うるさい!」
「三度も、そんなふうに考えてたなんて知らなかったよ」
「澪と出会ったときから変わらないよ、この想いは」
「お前たちは元々知り合いなのか?」
「そうだよ。九歳くらいから」
そんな会話をする三人を微笑ましく思いつつ、弥生はパンと手を叩いた。
「はい。チームワークのために仲良くなるのは良いことだけど、今は講義の時間だよ。さあ、キミたちの本音も聴けたことだし、強くなるために輝気の訓練と行こう!」
「「「了解!」」」
かくして、俺たち三人の濃密な訓練の日々が始まった。
才能は弥生の見立て通り。少しばかりコツを教えるとすぐに飲み込み自分のモノへと昇華させる。そして同い年の競い合う仲間の存在は弥生の想像よりも早く、早く、遥かに早く三人を強くしていった。
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