第6話


「───妹を一人にしたくないし、護ってあげたくてココに残ったのに、結局何も出来ないし、逆に私が一人になっちゃったってわけ。ごめんね、だからあんたの友達は、こんな私だけ」


 すらすらと妹の話が出来るようになったことと、ロボット相手にこんなことを馬鹿真面目に話したことに驚き、乾いた笑いが漏れた。


「あー、私も相当麻痺してるみたいだわ。あんたにこんなこと話したって、なーんにも分かってくれないのにね」


 ちらりと彼の顔を窺うと、じっとしたまま私を見つめ、その後壁の妹の写真に目を移した。


「写真撮りに行かなきゃね」

「え?」

「アオイちゃん、シオリの写真好きなんでしょ?もっとシオリの写真、見たいはずだよ」


 昔から写真を撮るのは好きだった。でも、葵が死んでから外に出るのも億劫で、唯一葵の月命日にお墓参りに行くだけ。カメラを覗くと、レンズの向こうに夕陽の中で笑う葵が浮かび上がってしまうから、耐えられなかった。


「シオリは一人じゃないよ。ボクも一緒」

「…あのさ」

「一緒にいるよ。ボクはシオリを置いてけぼりにしたりしない。そのためにここに来た。ボクは病気にならない。死んだりしない。見た目はシオリと同じだけど、中身は人間じゃないから」


〝一緒にいるよ〟


 そんな何でもない言葉を言われただけなのに、どうして胸が苦しいのだろう。「共感」なんて出来ないロボットのくせに、どうしてそんな表情をしているの?


「…よく出来たロボットだね、本当に」

「ん?」

「ううん、何でもない。ありがとうね」


「アオイ」

「なに?」

「今度一緒に、写真撮りに行こう」


 明るく笑った彼の笑顔が、壁に掛けられた写真の中の妹の笑顔と重なった。


「うん!」

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