第3話


「シオリ」

「…なに」

「これはなに?」

「…それはテーブル。ご飯食べたり、なにかを書く時に使うの」

「そうなんだ!ボクもご飯食べる!」

「あんたのご飯は燃料でしょ。ご飯食べられないから」


 箱から出て、もう一時間になる。家の中を歩き回っては知らないものを見つけると「これはなに?」と質問責め。


 言葉がインプットされていることが良いのか悪いのか、ここまでうるさくされると、よく分からなくなってくる。




「シオリ」

「…今度はなに。」

「これはなに?」


 質問に答えることに疲れてコーヒーでも飲んで落ち着こうかと思った矢先、彼が見上げていたのは壁に飾られた一枚の写真だった。


 小さな少女が風の中で夕日を浴びて、綺麗に笑っている写真。



「……それは写真だよ」


「しゃしん」


「そう、写真」


「中にいるのは、だれ?」


「……私の妹」


「いもうと?」


「…大事な大事な、大好きな、家族。大切な人」


「大切なひと」


「そう。あんたと同じ名前のね」


「この子の名前、アオイ?」


「…うん」




「この子はいつ帰ってくる?シオリの大切な人、カゾク?なら、ボク友達になりたい」




 ふにゃりと笑った彼は、写真の中で笑うを見つめて〝ともだち〟と、呟いた。
















「……悪いけど、それは無理かな」




「もう、葵は、いないから」

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