第58話 全国高校自転車競技会 第3ステージ(知覧~阿久根)②

 千葉の神崎高校は、60km地点からペースを上げ、逃げ集団を追い始めた。

 松平を擁する福島が、アシスト3名を追撃に回してくれ、北海道、山梨、京都、島根も3名、熊本、鹿児島もそれぞれ2名ずつ出して、神崎高校の平良潤、平良柊も含め、18人で先頭交代をしつつ、逃げ集団を追った。


 先頭交代に加わる人数的には、逃げ集団より2名少ないが、追走集団の選手たちは性能が違った。

 休みなく逃げ続けた逃げ集団からは、力尽きた選手が次々と脱落していった。

 残り50kmで5分、残り40㎞で4分と、10kmで1分差を縮めるように、潤がペースをコントロールしながら、逃げ集団との差を縮めていく。


 だが、逃げ集団も脱落者を出しつつも、必死に抵抗する。

 スプリントポイントを1位通過し、本来なら役目を終えたはずの坂東も、今日ばかりはメイン集団に戻らずに、逃げ集団で先頭交代を続けている。

 

 地上波のTV中継は、残り45km付近から開始する見込みであったが、開始した時点で既に30㎞を切っていた。

 それほど今日の第3ステージは全体的にペースが速かったのだ。


 残り10km地点で、逃げ集団は四王天(京都)と坂東(佐賀)の2名だけになった。

 メイン集団との差は1分を切った。

 だが、メイン集団側の追跡メンバーも、柊や潤を含む18名全員が既に集団から脱落し、各校がゴール前に取っておくべきアシストを投入して逃げを追いかけていた。


 メイン集団は、残り5㎞で四王天を吸収し、逃げは坂東のみとなった。

 TV中継は、放送開始時から、逃げ切りか、メイン集団が追い付いてからの集団スプリントかが焦点になっていた。

 追撃のペースは速く、メイン集団もスプリンターを除くと、ほぼ各校の総合エースクラスしか残っていない。

 残り2㎞から神崎高校の郷田隆将が集団を牽引する。

 強靭な心肺と鉄の意志でメイン集団を牽引する。

 だが、坂東も全日本チャンピオンだ。ペースが落ちない。必死に逃げ続ける。


 郷田(千葉)、土方(北海道)、松平(福島)、草野(島根)、柴田(山梨)、小泉(熊本)、加治木(鹿児島)、青山(千葉)の順で、残り1kmに突入する。

 郷田らメイン集団は、残り500mで、ついに坂東を捕まえた。

 ゴール前の観客から、あぁ!とため息が漏れる。

 

 残り300mを切ったところで、郷田が牽引から外れる。

 一呼吸おいて、スプリンター達が一斉にスプリントを開始する。


 土方、松平、柴田が並び、草野がわずかに遅れる。


 小泉、加治木は、4大スプリンターのスピードに付いて行けない。


 小泉と加治木に前を塞がれたくない冬希は、先行したスプリンター達のドラフティングを利用することを諦め、思い切って大きく右に進路を取り、120m付近から全力のスプリントを開始する。

 この時、冬希は自分の真後ろにいた選手に、完全に気づいていなかった。


 完全な総力戦になった。

 4大スプリンター達もわずかに仕掛けが早かったかもしれない。

 だが冬希もわずかに早く、状況は互角。

 完全に地力の勝負となった。


 違ったのはコース取りだった。

 コースの左側では、密集した4人が体をぶつけながら、狭い範囲でスプリントをしている。

 冬希は、大きく右に出したことで、誰にぶつかる心配もなく、本当に全力でスプリントが出来た。


 冬希は残り30mで、4大スプリンター全員を置き去りにした。


 そしてその瞬間、冬希の背後から、一人の選手が飛び出した。


 福岡の立花道之だった。

 立花は、ゴールギリギリで脚色が鈍った冬希に並びかける。

 だが、自転車半分ぐらいの差を残して、冬希が1位でゴールラインを通過した。


 開幕から3勝目。

 第3ステージは、乱ペースになりながらも、冬希は今までにないほど完璧な形で、ステージ優勝を決める結果となった。

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