第5話 ひたすら鍛錬の日々

冬希が柔道を始めたのは、親の勧めだった。

小学二年生の時、どこからかチラシを持ってきた母に、やってみないかと言われた。

柔道が何かもわからなかったので、断る理由も見つからず、済し崩しに始めた。


冬希は柔道を楽しいと思ったことは一度もなかった。

投げられれば痛いし、投げても喜びは無かった。


練習はひたすら辛く、同学年では一番弱く、自分より低い学年の連中にも抜かれ、馬鹿にされた。

それでも、小学6年までやり遂げることが出来た。

それは続けたいと思っていたわけでも、我慢強かったわけでもなく、そこまで強く辞めたいと思わなかっただけだった。


中学に入ると、柔道をやっていた連中はいなくなっていた。

同学年だった自分以外の連中は、近くの強豪中学から声がかかり、そちらに入学していた。

冬希にも一応という感じで声はかかったが、期待されていないことはわかっていたし、強豪校でやっていく自信も、柔道を続けたいという気持ちも、どうしても持てなかった。


部活に柔道部を選んだのは、他にやりたいこともなかったし、バスケやバレーボール、テニスなど他のことをやってもうまくやれる自信が持てなかったからだ。

5年間やってきた柔道ならまだましだろうと入ってみたが、上級生は粗野で威張り散らし、一緒に入った連中は次々と辞めていった。


経験者ということで1年から大会に出られたが、毎回初戦から強豪校に行った元同級生とあたり、常に一回戦負けだった。

【ちなみに粗野で傲慢な冬希の先輩も、冬希の元同級生と当たり、開始数秒で宙を舞っていた】


辛いだけの部活を続けていられたのは、冬希の友人たちもみんなそれぞれ部活をしており、自分だけ辞めるのを恥ずかしいと思っていたからに過ぎなかった。


3年生の7月で引退するまで、2年3か月。小学校の頃も含めると7年を超える年月。

ただ辛い日々だった。本当の喜びは小さく、苦しいことの連続だった。

スポーツをするということはそういうことなのだろうと思っていた。


冬希は、初めて自分の意志で自転車に乗ることを始めた。

動機はとても誰かに話せるようなものではなかったが、だれからも強制されずに始めたことであり、部活と違い、練習したい時だけ出来、やりたい時にだけやれるスポーツがある。


自分で練習の計画を立てる。

出来なければ再計画する。

出来れば少し練習メニューのキツさを上げる。


柴又公園まで行ければ、みさとの風ひろば、松伏休憩所と、少しずつ距離を伸ばした。

そして関宿まで問題なく行けるようになり、ついに自転車のイベントに参加することになった。

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